説明

突極電気機械

【課題】導電性のハウジングを備える突極電気機械において、エネルギーの損失を低く抑えること。
【解決手段】電動機Mが、ステータ5が、複数のスロット50と、スロット50を通って径方向に延びると共に周方向に着磁された永久磁石9と、永久磁石9の周りに巻かれた巻き線40とを備え、ハウジング10は、永久磁石9に近接する近接部分10aと、2つの永久磁石9の間に位置する中間部分10bとを備え、ハウジング10の近接部分10aにおける材料が中間部分10bにおける材料よりも少ない構成としたこと。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、突極電気機械に関する。この発明は、電動機や発電機に適用され得るものである。また本発明は、説明上、電動機に関して論ずるが、電動機に限定されるものではない。
【背景技術】
【0002】
突極電動機として、ステータを取り巻くハウジングが備えられて、そのハウジング内に突極電動機の電機子が収容される構成は公知のものとなっている。また、そのハウジングの材質として、例えば、ナイロンやアルミ等の非磁性体が用いられる構成も公知のものとなっている。ハウジングは、ステータを保護または補強するものである。
【0003】
突極電動機の一例としての3相突極電動機が下記の非特許文献1に開示されている。この一例としての3相突極電動機にハウジング10‘を組み合わせた場合を図1および図2に示す。
【0004】
図1および図2を参照すると、当該電動機は3相電動機であり、突極ロータ1は10個の突極3を備え、ステータ5は12のスロット(溝)を備える。ステータ5は電機子を備え、電機子内を、径方向に通過して延びる永久磁石9を備える。永久磁石9は、矢印11で示す様に、周方向に着磁されている。電機子の巻き線(図示なし)は、スロットの位置を占めている。図1に示す様に、隣り合う永久磁石は逆極性に着磁されている。また、電機子の巻き線は3相の関係になるように結線されている。
【0005】
かかる電動機においては、エネルギーの損失を低く抑えることが望まれる。
【非特許文献1】Emmanual HOANG、Abdel Hamid BEN AHMED、Jean LUCIDARME、「Switching flux permanent magnet polyphased synchronous machines」、 EPE '97 conference proceedings, pages 3.903-3.908, 1997
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明の解決しようとする課題は、導電性のハウジングを備える突極電気機械において、エネルギーの損失を低く抑えることである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記課題を解決するために本発明において講じた技術的手段は、請求項1に記載のように、突極電気機械が、突極受動ロータと、ステータと、該ステータを取り巻くと共に導電性材料からなるハウジングとを備え、前記ステータは、複数のスロットと、該スロットを通って径方向に延びると共に周方向に着磁された永久磁石と、該永久磁石の周りに巻かれた巻き線とを備え、前記ハウジングは、前記永久磁石に近接する近接部分と、一の前記永久磁石と他の前記永久磁石との間に位置する中間部分とを備え、前記ハウジングの前記近接部分における材料が前記中間部分における材料よりも少ない構成としたことである。
【0008】
好ましくは、請求項2に記載のように、前記ハウジングは、前記近接部分に開口部を備える構成とすると良い。
【0009】
好ましくは、請求項3に記載のように、前記ハウジングは、前記近接部分に、前記ロータの回転軸と並行に延びる穴を備える構成とすると良い。
【0010】
好ましくは、請求項4に記載のように、前記開口部は、前記径方向に開口する構成とすると良い。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、ハウジングの永久磁石に近接する近接部分の導電性材料が、2つの永久磁石の間に位置する中間部分の導電性材料よりも少ない構成となっている。
【0012】
本発明で問題とするエネルギーの損失は、導電性材料のハウジング内の渦電流によるものであり、渦電流は、永久磁石の径方向の外側に近接するハウジングの領域に誘起するものである。
【0013】
本発明では、近接部分の導電性材料が少ないため、渦電流が少ないものとなり、エネルギーの損失を低く抑えることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0014】
図3から図5に本発明の第1の実施の形態に基づく電動機M(突極電気機械)を示す。
【0015】
図3を参照すると、電動機Mは、10個の突極3を備える受動ロータ1と、12のスロット50(スロット)を備える円筒形のステータ5と、ステータ5を取り巻くハウジング10を備えている。受動ロータ1は紙面の鉛直方向を回転軸としてステータ5の内側を回転する。また、電動機Mは3相の構成となっている。
【0016】
ステータ5のスロット50には、永久磁石9(永久磁石)が備えられている。永久磁石9は、スロット50を通って、ステータ5の円筒形状を基準として、言い換えると受動ロータ1の回転円を基準として径方向に延びている。また、着磁は矢印11に示す様に周方向に成されている。永久磁石9の周りには、巻き線40(巻き線)が巻かれている。なお、基本的な構成は公知のものと同じであるため、上記の非特許文献1を参照されたい。
【0017】
本発明の特徴の典型的な実施の形態として、ハウジング10の外観の概略図を図5に示す。
【0018】
ハウジング10は、開口する溝20(開口部)が切られた円筒形のアルミ製の構造体である。溝20の形状は図に示されるものに限らない。
【0019】
図3および図4に電動機Mのハウジング10の組合せ状態を示す。図に示されるように、溝20が、永久磁石9の終端部9aに位置している。
【0020】
つまり、ハウジング10は、永久磁石9の終端部9aに近接する近接部分10aと一つの永久磁石9と隣り合う他の永久磁石9との間に位置する中間部分10bとを備え、近接部分10a(近接部分)に溝20が形成されることにより近接部分10aにおける材料が中間部分10b(中間部分)における材料よりも少ない構成となっている。
【0021】
溝20は、永久磁石9の回転軸方向の大きさよりも大きく形成されている(図4からはその差は明らかではないが)。
【0022】
また、ステータ5において、永久磁石9の径方向外側に磁束漏れが生じるが、溝20は、その磁束漏れ部分を覆う大きさに円周方向に広げられている。
【0023】
図7および図8に第2の実施の形態に基づく電動機Mを示す。
【0024】
図7および図8は、ハウジング10によって取り囲まれて、永久磁石9が径方向に延びるステータ5の各断面図である(図7は正面断面図、図8は回転軸方向断面図)。
【0025】
第2の実施の形態は、下記のハウジング10における特徴の構成を除き、基本的な構成は第1の実施の形態と同様である。図中、第1の実施の形態と共通する構成には、同じ符号を示す。
【0026】
本実施の形態においては、ハウジング10の各永久磁石9の終端部9aに近接する近接部分10aに穴8(穴)を備えている。それにより、近接部分10aにおける材料が中間部分10bにおける材料よるも少ない構成となっている。
【0027】
穴8は、受動ロータ1の回転軸と並行に延びる。穴8は、例えば、ハウジング10にドリル加工することで形成される。
【0028】
ここで第1および第2の実施の形態の電動機Mが作動した場合のエネルギー損失を図6に示す。図6を参照すると、図6の縦軸は、ワットを単位とする出力損失を、横軸はrpmを単位とする受動ロータ1の回転数を示す。曲線ALは、アルミニウムを材質として、永久磁石との近接部分における材質量が、異なる永久磁石の間に位置する中間部分と比較して低減されていないハウジングに収容された電動機の出力損失(対照機)を示す。曲線Nは、ナイロンを材質としたハウジングに収容された電動機の出力損失を示す。曲線AL+Hは、アルミニウムを材質として、図7に示されるような穴8が形成されたハウジング10に収容された電動機Mの出力損失を示す(第2の実施の形態)。曲線AL+Sは、アルミニウムを材質として、図4に示されるような溝20を備えるハウジング10に収容された電動機Mの出力損失を示す。
【0029】
また、図6に示される電動機は、何れも受動ロータ1が10個の突極3を備え、ステータ5が12のスロット50を備える構成となっている。
【0030】
図6から分かるように、ハウジングの材料として導電性のアルミニウムを用いた場合には、非導電性材料のナイロンを用いた場合よりも出力損失が大きい(曲線ALと曲線Nの比較)。これは、ハウジング内の渦電流によるものである。渦電流は、永久磁石の径方向外側に近接するハウジング部分に誘起する。
【0031】
渦電流は、受動ロータの回転数、すなわち電動機の作動周波数に依存して増加する。
【0032】
本発明の実施の形態の電動機Mにおいては、アルミニウムを材質としたハウジング10であっても、永久磁石9に近接する部分のハウジング10の材質が2つの永久磁石9の間に位置する部分の材質よりも少ないものとなっている。従って、渦電流の誘起が少なく、対照機よりも出力損失が抑えられている。
【0033】
ここで、ハウジング10における渦電流の誘起を説明するための磁場解析結果を示す。図11はステータ5の径方向外側の磁束の様子を示す概略図であり、図12には、ステータ5から径方向外側に離れた各位置での、受動ロータ1が回転した場合の磁束密度の変化が示されている。なお、これらの位置には、本発明の実施の形態においてハウジング10が位置する。
【0034】
図11と図12から分かるように、ステータ5の外周からの距離が小さい位置(例えば1mm)では、受動ロータ1の回転に応じて大きな磁束密度の変化が生じ、この変化がハウジング10の部分に大きな渦電流を誘起させる。本発明の実施の形態では、上記した様にハウジング10の、ステータ5つまり永久磁石9に近接する近接部分10aにおける材料を少なくして、渦電流の誘起を抑えている。
【0035】
一方、ステータ5の外周からの距離が大きい位置(例えば10mm)では、受動ロータ1の回転に応じた磁束密度の変化は少ないものとなっている。
【0036】
なお、ハウジングの材質としては、ナイロンを用いるよりも、例えばアルミニウムを用いた方が、強度が高く有利である。
【0037】
図9に、本発明の第3の実施の形態の電動機Mの正面断面図を示す。図9の電動機Mは、ステータ5、受動ロータ1、ハウジング10を備える。受動ロータ1は5個の突極3を備え、ステータ5は6個のスロット50を備える。また、永久磁石9の周りに巻かれ巻き線40は、3相の関係になるように結線されている(3相の構成となっている)。
【0038】
本実施の形態の電動機Mは、突極3が5個であり、スロット50が6個の構成であることから、機械的回転数に対する磁束の変化周波数が低く高速回転可能なタイプのものである。
【0039】
ハウジング10は、永久磁石9との近接部分10aに溝20を備える。変形例として第2の実施の形態の穴8を備える構成としても良い。
【0040】
上記に示した本発明の実施の形態では、ハウジング10は非磁性体のアルミニウムを材質としていた。しかし、ハウジング10は磁性体のスティール等を材質としてもよい。スティールは、アルミニウムよりコストが安く、強度が高いという利点がある。
【0041】
図10は、上記に説明した電動機Mと、ステータを3相で駆動するインバータIのブロック図である。
【0042】
上記に示した本発明の実施の形態では、3相で構成されるものとして説明したが、本発明は3相機械に限るものでは無く、いかなる相数にも適用できる。
【図面の簡単な説明】
【0043】
【図1】公知の3相突極電動機の正面断面図。
【図2】図1の3相突極電動機の軸方向断面図(図1のB−B断面図)。
【図3】本発明の第1の実施の形態に基づく電動機のステータ、ロータの正面断面図(図4のA−A断面図)。
【図4】図3の電動機の軸方向断面図(図3のB−B断面図)。
【図5】図3、図4の電動機のハウジングの概略図。
【図6】本発明の電動機が作動した場合の出力損失を示した図。
【図7】本発明の第2の実施の形態に基づく電動機の正面断面図(図8のA−A断面図)。
【図8】図7の電動機の軸方向の断面図(図7のA−A断面図)。
【図9】本発明の第3の実施の形態に基づく電動機の正面断面図。
【図10】本発明に基づく電動機を用いたインバータの組合せブロック図。
【図11】本発明の電動機の磁束の様子を示す概略図
【図12】本発明の電動機の磁束密度の変化を示す図
【符号の説明】
【0044】
M 電動機(突極電気機械)
1 受動ロータ(突極受動ロータ)
5 ステータ
8 穴
9 永久磁石
10 ハウジング
10a 近接部分
10b 中間部分
20 溝
40 巻き線
50 スロット

【特許請求の範囲】
【請求項1】
突極受動ロータと、
ステータと、
該ステータを取り巻くと共に導電性材料からなるハウジングと
を備える突極電気機械であって、
前記ステータは、複数のスロットと、該スロットを通って径方向に延びると共に周方向に着磁された永久磁石と、該永久磁石の周りに巻かれた巻き線とを備え、
前記ハウジングは、前記永久磁石に近接する近接部分と、一の前記永久磁石と他の前記永久磁石との間に位置する中間部分とを備え、
前記ハウジングの前記近接部分における材料が前記中間部分における材料よりも少ないことを特徴とする突極電気機械。
【請求項2】
前記ハウジングは、前記近接部分に開口部を備えることを特徴とする請求項1に記載の突極電気機械。
【請求項3】
前記ハウジングは、前記近接部分に、前記ロータの回転軸と並行に延びる穴を備えることを特徴とする請求項1に記載の突極電気機械。
【請求項4】
前記開口部は、前記径方向に開口することを特徴とする請求項2に記載の突極電気機械。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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