説明

突然変異ペニシリンGアシラーゼ

本発明は、配列番号1で示されるアミノ酸配列を有する大腸菌(Escherichia coli)ペニシリンGアシラーゼのアミノ酸番号付けにより、アミノ酸位置A3、A77、A90、A144、A192、B24、B109、B148、B313、B460およびB488からなる群から選択される1つもしくは複数のアミノ酸位置にアミノ酸置換を有していることを特徴とする、野生型ペニシリンGアシラーゼ由来の突然変異原核生物のペニシリンGアシラーゼに関する。

【発明の詳細な説明】
【発明の詳細な説明】
【0001】
[発明の分野]
本発明は、突然変異ペニシリンアシラーゼと、β−ラクタム核が突然変異ペニシリンアシラーゼの存在下で活性側鎖を介してアシル化されたβ−ラクタム抗生物質を調製するための方法とに関する。
【0002】
[発明の背景]
抗生物質のβ−ラクタムファミリーは、臨床用途における抗菌化合物の最も重要なクラスである。天然β−ラクタム抗生物質の狭い殺菌スペクトル、その低い酸安定性および耐性問題の増大は、半合成ペニシリン(SSP)および半合成セファロスポリン(SSC)などの半合成抗生物質(SSA)の開発の誘因となっている。一般に、半合成β−ラクタム抗生物質の化学合成は、高い下流処理費用および環境破壊的なプロセスの原因となる、反応中間体および有機溶媒を低温で使用する厳しい条件下で行われる。したがって、半合成β−ラクタム抗生物質のより持続可能な生産を得るため、従来の化学プロセスを酵素的変換によって代替する努力がなされている。
【0003】
天然β−ラクタムは、典型的には、β−ラクタム核(例えば、6−アミノ−ペニシラン酸(6−APA)、7−アミノ−デスアセトキシ−セファロスポラン酸(7−ADCA)など)と、アミド結合を介して核に結合されるいわゆる側鎖とから構成される。ペニシリンGアシラーゼ(EC3.5.1.11)は、ペニシリンG(PenG)、セファロスポリンG(CefG)および関連抗生物質の側鎖を除去し、対応する脱アシル化核6−APAおよび7−ADCAを、それぞれ遊離側鎖(PenGおよびCefGの場合にはフェニル酢酸(PAA))とともに生成するように広く使用される加水分解酵素である。これらの脱アシル化β−ラクタム中間体は、アンピシリン、アモキシシリン、オキサシリン、クロキサシリン、ジクロキサシリン、フルクロキサシリン、セファレキシン、セファドロキシル、セフラジン、セファクロール、セフプロジル、セファトキシムなどのSSAの構成要素である。PenGアシラーゼに関する最近のレビューとしては、Rajendhran J.およびGunasekaran P.、J Biosci.Bioeng.(2004年)、97、1−13頁、Arroyo M.ら、Appl Microbiol Biotechnol.(2003年)60、507−14頁、Sio C.F.およびQuax W.J. Curr Opin Biotechnol.(2004年)、15、349−55頁、Chandel A.K.ら、Enzyme and Microbial Technology(2008年)、42、199−207頁を参照のこと。
【0004】
脱アシル化β−ラクタム化合物以外では、PenGアシラーゼおよびアミノエステルヒドロラーゼも、β−ラクタム抗生物質の合成に使用可能であることが見出されている。このプロセスでは、PenGアシラーゼは、活性側鎖と脱アシル化β−ラクタム中間体(6−APA、7−ADCA、7−ACAなど)との縮合を触媒する。β−ラクタム抗生物質の酵素触媒合成は、平衡制御されるかまたは速度論的に制御された変換プロセスにおいて行われうる。平衡制御された変換の条件下で、達成可能な生成物蓄積のレベルは、反応の熱動的平衡によって支配され、それは半合成抗生物質の合成の場合、特に反応が水性媒体中で行われる場合には好ましくない。速度論的に制御された変換では、酵素は、アシル基の、活性側鎖、すなわちアシルドナーからβ−ラクタム核、すなわち求核的アクセプター(nucleophillic acceptor)への転移を触媒する。半合成ペニシリンの調製においては、活性側鎖は、芳香族カルボキシル酸のアミド誘導体またはメチルエステルであってもよい。この場合、生成物蓄積のレベルは、酵素の触媒特性によって支配され、また高い非平衡濃度のアシル転移生成物が、一時的に得られうる。SSAの合成に使用される側鎖の例として、活性フェニルグリシン、活性ヒドロキシフェニルグリシン、活性ジヒドロ−フェニルグリシンなどが挙げられる。
【0005】
PenGアシラーゼは、アミドおよびエステルの加水分解を、β−サブユニットのN末端セリンがアシル基にエステル化されているアシル酵素中間体を介して触媒する。加水分解の場合、水はアシル酵素を攻撃し、加水分解を完了まで駆動する。添加される外部求核試薬(例えば、6−APA、7−ADCA)のアミノ基が存在する場合、求核試薬と水の双方は、アシル酵素を攻撃し、望ましいアシル転移生成物(抗生物質)と望ましくない加水分解アシルドナーをそれぞれ生成しうる。
【0006】
PenGアシラーゼがアシルトランスフェラーゼとして作用する、すなわちSSAを合成する能力は、様々な半合成β−ラクタム抗生物質の酵素生産において既に産業規模で利用されている。しかし、SSAの生産においては、水による加水分解反応は、活性前駆体の側鎖がないことに起因し、転移反応の効率を低下させる。合成の速度(S)と加水分解の速度(H)との比は、PenGアシラーゼの合成性能を評価するための重要なパラメータである。S/H比は、酵素アシル化反応の間の規定条件での、加水分解生成物に対する合成生成物(SSA)のモル比に等しい。合成生成物は、活性側鎖およびβ−ラクタム核から形成されるβ−ラクタム抗生物質として本明細書で定義される。加水分解生成物は、活性側鎖の対応する酸として本明細書で定義される。経済的に魅力的なプロセスにおいては、S/H比が高いと同時に、好ましくは酵素活性も十分に高いことが望ましい。
【0007】
変換において認められるS/H比は、反応物、反応条件および変換の進行に依存する。Youshkoらは、S/H比の初期値が酵素の速度論的特性と求核的アクセプター(例えば6−APA)の濃度の双方に依存することを示した(Youshko M.I.およびSvedas V.K.、Biochemistry(Moscow)(2000年)、65、1367−1375頁およびYoushko M.I.ら、Biochimica et Biophysica Acta−Proteins and Proteomics(2002年)、1599、134−140頁)。一定の条件および求核試薬濃度で、初期S/H比は、異なるPenGアシラーゼおよび/または異なるPenGアシラーゼ突然変異体の性能を比較するのに使用可能である。さらに、異なるPenGアシラーゼの性能は、時間の関数として、変換の間での合成および加水分解を測定することによって比較可能である(それはS/H比の計算を変換の異なるステージで可能にする)。アシル化反応におけるPenGアシラーゼの合成活性(=合成の生成物が形成される速度=合成の速度=生成速度)は、規定条件下、単位時間当たりの、アシル化反応において形成されるβ−ラクタム抗生物質の量を示す。好ましくは、初期活性は測定される。初期酵素活性は、アシル化反応を行い、次いで反応時間に対する合成される生成物の量のグラフ、いわゆる進行曲線を作成することによって判定可能である。一般に、変換の開始時、生成物形成の速度は比較的一定であり、活性は、進行曲線の勾配から直接的に導くことが可能である。合成活性が変換の開始時に既に低下し始める場合、初期速度は、進行曲線の外挿およびt=0での勾配の計算によって得られるものとする。異なるPenGアシラーゼの活性を比較するため、合成活性は、同量のタンパク質に正規化されるものとする。加水分解の初期速度は、合成の初期速度の場合と同様の方法で、反応時間に対する加水分解される活性側鎖の量のグラフから判定可能である。
【0008】
PenGアシラーゼは、PenGアシラーゼ突然変異体を含む、いくつかの試験の対象であった。公表された変異体の詳細なリストが、RajendhranおよびGunasekara(2004年)(上記参照)において示されている。より最近では、さらなる試験が、Gabor E.M.およびJanssen D.B.、Protein Engineering、Design and Selection(2004年)、17、571−579頁;Jager S.A.W.ら、Journal of Biotechnology(2008年)、133、18−26頁;Wang J.ら、Applied Microbiology and Biotechnology(2007年)、74、1023−1030頁によって公表された。
【0009】
Gist−brocadesに交付された国際特許出願の国際公開第96/05318号パンフレットは、PenGアシラーゼの特異性が、1つもしくは複数のアミノ酸位置の基質結合部位を突然変異させることによっていかにして修飾可能であるかについて教示している。PenGアシラーゼのS/H比についてもこの方法で調整可能であることが示された。
【0010】
さらに、国際特許出願の国際公開第98/20120号パンフレット(Bristol−Meyers Squibbに交付)、国際公開第03/055998号パンフレット(Gist−brocadesに交付)および中国特許出願第101177688号明細書(Shanghai Institute for Biological Sciencesに交付)は、PenGアシラーゼ突然変異体を介した、β−ラクタム核および活性側鎖からのβ−ラクタム抗生物質の酵素調製のためのプロセスについて記載している。国際公開第98/20120号パンフレットは、α−サブユニットにおけるアミノ酸位置142および146、ならびに大腸菌(Escherichia coli)PenGアシラーゼのβ−サブユニットにおけるアミノ酸位置24、56もしくは177での突然変異について開示している。特に、位置β24に突然変異を有するPenGアシラーゼ変異体(Fβ24A)(そこではフェニルアラニンがアラニンによって置換されている)は、ペニシリンおよびセファロスポリンの合成において有意により高い収率をもたらすように見られる。しかし、国際公開第03/055998号パンフレットにおいては、エステル前駆体ではなく、アミド前駆体が前記突然変異体Fβ24Aと併用される場合のプロセスにおいて、S/H比は依然として高いが、酵素活性が非常に低いことから、この突然変異体の使用が経済的にあまり魅力的でないことが示された。それに対し、国際公開第03/055998号パンフレットでは、α−サブユニットにおける位置145のアルギニンがロイシン(Rα145L)、システイン(Rα145C)またはリジン(Rα145K)によって置換されているPenGアシラーゼ突然変異体がまた、改善されたS/H比を示すが、それに加え、特にアミド前駆体の場合、より高レベルの合成活性を保持していることが示された。それでもなお、これらすべての突然変異体の合成活性は、野生型PenGアシラーゼの合成活性より低かった。
【0011】
中国特許出願第101177688号明細書は、バチルス・メガテリウム(Bacillus megaterium)PenGアシラーゼの突然変異体についても、S/H比の改善には合成活性の低下を伴うことを開示した。
【0012】
TUHH−Technologie GmbHに交付された欧州特許第1418230号明細書は、α−サブユニットの翻訳後成熟が不完全であり、ペニシリンGおよび6−ニトロ−3−フェニルアセトアミド安息香酸(さらにNIPABとも称される)に対してより高い加水分解活性をもたらす、アルカリゲネス・フェアカーリス(Alcaligenes feacalis)PenGアシラーゼについて開示している。前記α−サブユニットの不完全なプロセシングは、αおよびβサブユニットの間のいわゆるリンカー領域内のアミノ酸置換によって引き起こされた。かかる突然変異が合成活性も高めうるか否かについては、記載されなかった。
【0013】
上で考察した先行技術は、PenGアシラーゼの様々な突然変異体のS/H比を増加させることは可能であっても、S/H比におけるかかる改善が、野生型PenGアシラーゼに対する合成活性の低下を伴うことを示す。したがって、これらの突然変異体の不利益は、かかる変換において、長い変換時間または非常に高い濃度の突然変異PenGアシラーゼが必要とされる点であり、そのため、かかる突然変異体の産業上の利用が、不可能ではないにしても経済的に魅力のないものとなる。
【0014】
産業プロセスにとって好適であるように、S/H比が増加している一方で、野生型酵素に対して合成活性を維持するかまたはより好ましくは増大させる、突然変異PenGアシラーゼを提供することが本発明の目的である。
【0015】
[発明の詳細な説明]
第1の態様では、本発明は、配列番号1で示されるアミノ酸配列を有する大腸菌(Escherichia coli)ペニシリンGアシラーゼのアミノ酸番号付けにより、アミノ酸位置A3、A77、A90、A144、A192、B24、B109、B148、B313、B460およびB488からなる群から選択される1つもしくは複数のアミノ酸位置にアミノ酸置換を有していることを特徴とする、野生型ペニシリンGアシラーゼ由来の突然変異原核生物のペニシリンGアシラーゼを提供し、それは次に示される。
【化1】



【0016】
遺伝子によってコードされる完全ポリペプチド鎖は、シグナルペプチド(26個のアミノ酸−一重下線部分)、α−サブユニット(209個のアミノ酸)、結合ペプチド(54個のアミノ酸−二重下線部分)およびβ−サブユニット(557個のアミノ酸)から構成される。シグナルペプチドと結合ペプチドの双方は、翻訳後成熟の間に除去され、それにより、α−およびβ−サブユニットで構成される酵素的に活性なペニシリンGアシラーゼが生成される。α−サブユニットにおけるアミノ酸はA1〜A209、β−サブユニットにおけるアミノ酸はB1〜B557で番号付けられる。
【0017】
野生型ペニシリンGアシラーゼは、天然ペニシリンGアシラーゼとして本明細書で定義される。野生型ペニシリンGアシラーゼは、任意の好適な野生型ペニシリンGアシラーゼであってもよく、好ましくは、配列番号1で示されるアミノ酸配列を有する大腸菌(Escherichia coli)ペニシリンGアシラーゼおよび配列番号1に対して少なくとも30%相同なペニシリンGアシラーゼからなる群から選択される。好ましくは、野生型ペニシリンGアシラーゼは、表1中にまとめられ、かつ大腸菌(Escherichia coli)ペニシリンGアシラーゼと30%以上の相同性を共有する19種のペニシリンGアシラーゼからなる群から選択される。
【0018】
【表1】



【0019】
配列番号1に対して40%〜100%相同なペニシリンGアシラーゼ(例えば、群I〜IIIに属するペニシリンGアシラーゼ)がより好ましく、配列番号1に対して50%〜100%相同なペニシリンGアシラーゼ(例えば、群I〜IIに属するペニシリンGアシラーゼ)がさらにより好ましく、また配列番号1に対して80%〜100%相同なペニシリンGアシラーゼ(例えば、群Iに属するペニシリンGアシラーゼ)がさらにより好ましい。配列番号1のアミノ酸配列を有する大腸菌(Escherichia coli)由来の野生型ペニシリンGアシラーゼが最も好ましい。
【0020】
好ましい突然変異原核生物のペニシリンGアシラーゼは、位置B24に少なくとも1つのアミノ酸置換と、A3、A77、A90、A144、A192、B109、B148、B313、B460およびB488からなる群から選択される1つもしくは複数の位置にアミノ酸置換を有している。位置B24での突然変異は、当該技術分野で既知である。国際公開第96/05318号パンフレットは、正に帯電したアミノ酸のリジンまたはアルギニンによる、アルカリゲネス・フェアカーリス(Alcaligenes feacalis)のペニシリンGアシラーゼにおけるB24での天然Pheの置換について開示している。特に、B:F24K突然変異体は、基質フェニルアセチル−ロイシンを切断し、それによってロイシンを遊離させ、アルカリゲネス・フェアカーリス(Alcaligenes feacalis)の突然変異ペニシリンGアシラーゼをコードする遺伝子で形質転換されたロイシン欠損大腸菌(E.coli)株の成長を可能にする改善された能力を示した。国際公開第98/20120号パンフレットは、大腸菌(Escherichia coli)のペニシリンGアシラーゼの位置B24でのあらゆる考えられる突然変異を示す。特に、AlaによるB24での天然Pheの置換により、セファドロキシルの合成の間、S/H比における実質的改善が得られた。
【0021】
今では驚くべきことに、B24での突然変異とA3、A77、A90、A144、A192、B148、B109、B313、B460およびB488からなる群から選択される位置での1つもしくは複数の突然変異との組み合わせの結果、位置B24単独に突然変異を有するペニシリンアシラーゼ突然変異体に対し、様々な半合成セファロスポリンおよび半合成ペニシリンの合成反応の間、増大した合成活性、場合によってさらに改善されたS/H比を有するペニシリンアシラーゼ突然変異体を生成しうることが見出されている。好ましいコンビナント(combinant)(コンビナントは、野生型酵素に対し、少なくとも2つの突然変異を含む突然変異酵素として本明細書で定義される)は、位置[B24+A144]または位置[B24+B109]または位置[B24+B460]または位置[B24+A144+B109]または位置[B24+B109+B460]または位置[B24+B144+B460]または位置[B24+B109+B144+B460]に突然変異を含む。他の好ましいコンビナントは、位置[B24+B460+A3+A192]または位置[B24+B460+A90]または位置[B24+B148+B460]または位置[B24+B148+B460+A3+A192]または位置[B24+B148+B460+A90]に突然変異を含む。
【0022】
別の好ましい突然変異原核生物のペニシリンGアシラーゼは、位置B460に少なくとも1つのアミノ酸置換、また場合によってA3、A77、A90、A144、A192、B24、B148、B109、B313およびB488からなる群から選択される位置に1つもしくは複数のアミノ酸置換を有している。位置B460と少なくとも位置B24との好ましいコンビナントが上掲されている。他の好ましいコンビナントは、位置[B460+A90]または位置[B460+B109]または位置[B460+A144]または位置[B460+A90+B109]または位置[B460+A90+A144]または位置[B460+B109+A144]または位置[B460+A90+B109+A144]に突然変異を含む。他の好ましいコンビナントは、位置[B460+A192]または位置[B460+A3]または位置[B460+A192+A3]に突然変異を含む。
【0023】
非常に好ましい突然変異原核生物のペニシリンGアシラーゼは、配列番号1で示されるアミノ酸配列を有し、かつ、位置[B24+A144]または位置[B24+B109]または位置[B24+B460]または位置[B24+A144+B109]または位置[B24+B109+B460]または位置[B24+B144+B460]または位置[B24+B109+B144+B460]にアミノ酸置換を有し、それは場合によってA3、A77、A90、A192、B148、B313およびB488からなる群から選択される位置での1つもしくは複数のアミノ酸置換と組み合わされる、大腸菌(Escherichia coli)由来のペニシリンGアシラーゼである。
【0024】
別の非常に好ましい突然変異原核生物のペニシリンGアシラーゼは、位置[B24+A144]または位置[B24+B109]または位置[B24+B460]または位置[B24+A144+B109]または位置[B24+B109+B460]または位置[B24+B144+B460]または位置[B24+B109+B144+B460]にアミノ酸置換を有し、それは場合によってA3、A77、A90、A192、B148、B313およびB488からなる群から選択される位置での1つもしくは複数のアミノ酸置換と組み合わされる、クルイベロミセス・クリオクレッセンス(Kluyveromyces cryocrescens)由来のペニシリンGアシラーゼである。
【0025】
野生型ペニシリンアシラーゼにおける位置A3は、異なる種類のアミノ酸を有しうる。大腸菌(Escherichia coli)野生型酵素は、セリンを有する。野生型ペニシリンアシラーゼにおける好ましい突然変異は、ロイシン、イソロイシン、アラニンまたはトレオニンによる天然アミノ酸の置換を含む。大腸菌(Escherichia coli)ペニシリンGアシラーゼにおける非常に好ましい突然変異は、A:S3AまたはA:S3Lを含む。
【0026】
野生型ペニシリンアシラーゼにおける位置A77は、異なる種類のアミノ酸、例えば正に帯電した残基(R、K)および負に帯電した残基(D、E)ならびに極性残基(S、N、Q)を有しうる。大腸菌(Escherichia coli)野生型酵素は、アラニンを有する。野生型ペニシリンアシラーゼにおける好ましい突然変異は、トレオニンによる天然アミノ酸の置換を含む。大腸菌(Escherichia coli)ペニシリンGアシラーゼにおける非常に好ましい突然変異は、A:A77Tを含む。
【0027】
【表2】



【0028】
野生型ペニシリンアシラーゼにおける位置A90は、異なる種類のアミノ酸であるが、主として正に帯電したもの(R、K)を有しうる。大腸菌(Escherichia coli)野生型酵素は、メチオニンを有する。リジンを有しない野生型ペニシリンアシラーゼにおける好ましい突然変異は、リジンによる天然アミノ酸の置換を含む。大腸菌(Escherichia coli)ペニシリンGアシラーゼにおける非常に好ましい突然変異は、A:M90Kを含む。
【0029】
野生型ペニシリンアシラーゼにおける位置A144は、主にアスパラギンを示す。野生型ペニシリンアシラーゼにおける好ましい突然変異は、トレオニンによる天然アミノ酸の置換を含む。さらに、芳香族アミノ酸のチロシンまたはフェニルアラニンまたはトリプトファンは、大腸菌(Escherichia coli)ペニシリンGアシラーゼにおけるA144に対応する位置での好ましいアミノ酸である。大腸菌(Escherichia coli)ペニシリンGアシラーゼにおける非常に好ましい突然変異は、A:N144Sを含む。
【0030】
野生型ペニシリンアシラーゼにおける位置A192は、異なる種類のアミノ酸を有しうる。大腸菌(Escherichia coli)野生型酵素は、バリンを有する。野生型ペニシリンアシラーゼにおける好ましい突然変異は、セリンまたはトレオニンなどのより極性が高いアミノ酸、好ましくはアスパラギン酸、グルタミン酸、リジンまたはアルギニンなどのさらに帯電したアミノ酸による天然アミノ酸の置換を含む。大腸菌(Escherichia coli)ペニシリンGアシラーゼにおける非常に好ましい突然変異は、A:V192Eを含む。
【0031】
位置B24は、野生型ペニシリンGアシラーゼの中で高度に保存される。大腸菌(E.coli)ペニシリンGアシラーゼおよび多数の他の野生型酵素においては、フェニルアラニンが見出される。その他の野生型酵素はまた、疎水性残基(M、V)または極性残基(Q)を有する。野生型ペニシリンアシラーゼにおける好ましい突然変異は、アラニンまたはロイシンによる天然アミノ酸の置換を含む。大腸菌(Escherichia coli)ペニシリンGアシラーゼにおける非常に好ましい突然変異は、B:F24AまたはB:F24Lを含む。
【0032】
位置B109は、主として、正に帯電したアミノ酸のリジンまたはアルギニンを示す。大腸菌(E.coli)ペニシリンGアシラーゼにおいては、リジンが見出される。リジンを有しない野生型ペニシリンアシラーゼにおける好ましい突然変異は、アルギニンによる天然アミノ酸の置換を含む。大腸菌(Escherichia coli)ペニシリンGアシラーゼにおける非常に好ましい突然変異は、B:K109Rを含む。
【0033】
野生型ペニシリンアシラーゼにおける位置B148は、異なる種類であるが、主として小さい疎水性残基(V、L、I、A)を有しうる。大腸菌(E.coli)ペニシリンGアシラーゼにおいては、バリンが見出される。ロイシンを有しない野生型ペニシリンアシラーゼにおける好ましい突然変異は、ロイシンによる天然アミノ酸の置換を含む。大腸菌(Escherichia coli)ペニシリンGアシラーゼにおける非常に好ましい突然変異は、B:V148Lを含む。
【0034】
野生型ペニシリンアシラーゼにおける位置B313は、異なる種類であるが、主として極性残基または負に帯電した残基(S、N、D、Q、H、T、E)を有しうる。大腸菌(E.coli)ペニシリンGアシラーゼにおいては、セリンが見出される。アスパラギンまたはアスパラギン酸を有しない野生型ペニシリンアシラーゼにおける好ましい突然変異は、アスパラギンまたはアスパラギン酸による天然アミノ酸の置換を含む。大腸菌(Escherichia coli)ペニシリンGアシラーゼにおける非常に好ましい突然変異は、B:S313Nを含む。
【0035】
位置B460は、20種の野生型ペニシリンGアシラーゼの中で保存されることは少ない。大部分の野生型酵素は、疎水性残基(F、L、A、V、I)を有する。大腸菌(E.coli)ペニシリンGアシラーゼにおいては、フェニルアラニンが見出される。天然ロイシンを有しない野生型ペニシリンアシラーゼにおける好ましい突然変異は、ロイシンによる天然アミノ酸の置換であるか、あるいはトレオニン、バリンまたはイソロイシンによる天然アミノ酸の置換を含む。大腸菌(Escherichia coli)ペニシリンGアシラーゼにおける非常に好ましい突然変異は、B:F460Lを含む。大腸菌(Escherichia coli)ペニシリンGアシラーゼのB:F460に対応する位置にロイシンを有するペニシリンアシラーゼにおいては、ロイシンは、特に大腸菌(Escherichia coli)ペニシリンGアシラーゼのB:F24に対応する位置での突然変異と組み合わされる場合、アラニン、トレオニン、バリンまたはイソロイシンによって置換されうる。
【0036】
位置B488は、野生型ペニシリンGアシラーゼの中で高度に保存される。大腸菌(E.coli)ペニシリンGアシラーゼにおいては、フェニルアラニンが見出される。ロイシンまたはメチオニンを有しない野生型ペニシリンアシラーゼにおける好ましい突然変異は、ロイシンまたはメチオニンによる天然アミノ酸の置換を含む。大腸菌(Escherichia coli)ペニシリンGアシラーゼにおける非常に好ましい突然変異は、B:F488Lを含む。
【0037】
第2の態様においては、本発明は、本発明の第1の態様の突然変異ペニシリンGアシラーゼをコードする核酸配列を提供する。
【0038】
第3の態様においては、本発明は、本発明の第2の態様の核酸配列を含む発現ベクターを提供する。
【0039】
第4の態様においては、本発明は、本発明の第3の態様の発現ベクターを含む宿主細胞を提供する。
【0040】
第5の態様においては、本発明は、本発明の第1の態様の突然変異ペニシリンGアシラーゼを生産するための方法を提供する。
【0041】
第6の態様においては、本発明は、本発明の第1の態様の突然変異原核生物のペニシリンGアシラーゼの使用によって特徴づけられる、活性側鎖とβ−ラクタム核との酵素共役を含む、半合成β−ラクタム抗生物質の生産のための方法を提供する。好ましい半合成β−ラクタム抗生物質は、半合成ペニシリンおよび半合成セファロスポリンからなる群から選択される。好ましい半合成ペニシリンの例として、アモキシシリンおよびアンピシリンがある。アモキシシリンは、活性HPG(例えば、アミドまたはエステル、好ましくはメチルエステルまたはエチルエステルとしての)と6−APAとの酵素共役によって生産可能である一方、アンピシリンは、活性PG(例えば、アミドまたはエステル、好ましくはメチルエステルまたはエチルエステルとしての)と6−APAとの酵素共役によって生産可能である。好ましい半合成セファロスポリンの例として、セファドロキシル、セファレキシンおよびセフラジンがある。セファドロキシルは、活性HPG(例えば、アミドまたはエステル、好ましくはメチルエステルまたはエチルエステルとしての)と7−ADCAとの酵素共役によって生産可能である一方、セファレキシンは、活性PG(例えば、アミドまたはエステル、好ましくはメチルエステルまたはエチルエステルとしての)と7−ADCAとの酵素共役によって生産可能であり、かつ、セフラジンは、活性DHPG(例えば、アミドまたはエステル、好ましくはメチルエステルまたはエチルエステルとしての)と7−ADCAとの酵素共役によって生産可能である。
【0042】
好ましい実施形態では、半合成β−ラクタム抗生物質の生産のための本発明の方法は、A3、A77、A90、A144、A192、B148、B109、B313、B460およびB488からなる群から選択される位置での1つもしくは複数の突然変異とともに、アミノ酸位置B24での突然変異を含む突然変異原核生物のペニシリンGアシラーゼを使用する工程を含む。好ましい突然変異原核生物のペニシリンGアシラーゼは、位置[B24+A144]または位置[B24+B109]または位置[B24+B460]または位置[B24+A144+B109]または位置[B24+B109+B460]または位置[B24+B144+B460]または位置[B24+B109+B144+B460]に突然変異を含む。他の好ましいコンビナントは、位置[B24+B460+A3+A192]または位置[B24+B460+A90]または位置[B24+B148+B460]または位置[B24+B148+B460+A3+A192]または位置[B24+B148+B460+A90]に突然変異を含む。別の好ましい実施形態では、半合成β−ラクタム抗生物質の生産のための本発明の方法は、アミノ酸位置B460に突然変異、また場合によってA3、A77、A90、A144、A192、B24、B148、B109、B313およびB488からなる群から選択される位置に1つもしくは複数のアミノ酸置換を含む突然変異原核生物のペニシリンGアシラーゼを使用する工程を含む。位置B460と少なくとも位置B24との好ましいコンビナントは、上掲されている。他の好ましいコンビナントは、位置[B460+A90]または位置[B460+B109]または位置[B460+A144]または位置[B460+A90+B109]または位置[B460+A90+A144]または位置[B460+B109+A144]または位置[B460+A90+B109+A144]に突然変異を含む。他の好ましいコンビナントは、位置[B460+A192]または位置[B460+A3]または位置[B460+A192+A3]に突然変異を含む。非常に好ましい実施形態は、配列番号1で示されるアミノ酸配列を有し、かつ、位置[B24+A144]または位置[B24+B109]または位置[B24+B460]または位置[B24+A144+B109]または位置[B24+B109+B460]または位置[B24+B144+B460]または位置[B24+B109+B144+B460]にアミノ酸置換を有し、それは場合によってA3、A77、A90、A192、B148、B313およびB488からなる群から選択される位置での1つもしくは複数のアミノ酸置換と組み合わされる、大腸菌(Escherichia coli)由来の突然変異原核生物のペニシリンGアシラーゼ、あるいは、位置[B24+A144]または位置[B24+B109]または位置[B24+B460]または位置[B24+A144+B109]または位置[B24+B109+B460]または位置[B24+B144+B460]または位置[B24+B109+B144+B460]にアミノ酸置換を有し、それは場合によってA3、A77、A90、A192、B148、B313およびB488からなる群から選択される位置での1つもしくは複数のアミノ酸置換と組み合わされる、クルイベロミセス・クリオクレッセンス(Kluyveromyces cryocrescens)由来の突然変異原核生物のペニシリンGアシラーゼを使用する工程を含む。
【0043】
本発明の突然変異原核生物のペニシリンGアシラーゼの使用による本発明の方法の利点は、合成活性の維持またはより好ましくは増大と、野生型酵素に対する突然変異原核生物のペニシリンGアシラーゼのより高いS/H比の結果として、半合成β−ラクタム抗生物質の生産のための生産プロセスが非常に効率的である点である。半合成β−ラクタム抗生物質は、高収率で生産される(例えば[生成物のモル数]/[付加されるβ−ラクタム核のモル数]一方、活性側鎖の加水分解は低い。別の利点は、プロセスが、[活性側鎖]/[β−ラクタム核]比(従来の先行技術において報告されたものより低い)で実施可能である点である。
【0044】
本発明はまた、HPGと6−APAとの共役を触媒する酵素の存在下での、アモキシシリンの生産のための方法であって、ここで、6−APAに対する活性HPG、好ましくはメチル−およびエチルエステルからなる群から選択されるエステルのモル比が、3.0以下、より好ましくは2.5以下、より好ましくは2.0以下、より好ましくは1.5以下、より好ましくは1.4以下、より好ましくは1.3以下、より好ましくは1.2以下、より好ましくは1.1以下、より好ましくは1.09以下、より好ましくは1.08以下、より好ましくは1.07以下、より好ましくは1.06以下、より好ましくは1.05以下、より好ましくは1.04以下、より好ましくは1.03以下、および最も好ましくは1.02以下であり、かつ、6−APAを基準とする、酵素共役反応後に測定されるアモキシシリンの収率(モル/モル)が、90%以上、好ましくは91%以上、好ましくは92%以上、好ましくは93%以上、好ましくは94%以上、好ましくは95%以上、好ましくは96%以上、好ましくは97%以上、好ましくは98%以上、およびより好ましくは99%以上である、方法を提供する。
【0045】
好ましくは、アモキシシリンの生産のための方法における酵素は、500mモル/LのHPGMおよび530mモル/Lの6−APAからアモキシシリンを生産する(すなわち変換)特性を有し、本明細書中に開示される試験Aに記載される条件下で行われる変換の最終段階で、5mモル/L未満の6−APAを生成する、アシラーゼ、好ましくはペニシリン−Gアシラーゼである。表2?中の天然野生型ペニシリンGアシラーゼの中に、この特性を有するものはない。好適な野生型ペニシリンGアシラーゼは、スクリーニングによって見出されうるか、またはより好ましくは、1つもしくは複数のアミノ酸の置換によって得られうる。
【0046】
本発明の方法の好ましい実施形態では、アモキシシリンは、本発明の突然変異原核生物のペニシリンGアシラーゼの使用によって生産してもよい。使用可能な非常に好ましい突然変異原核生物のペニシリンGアシラーゼは、配列番号1で示されるアミノ酸配列を有する大腸菌(Escherichia coli)由来のペニシリンGアシラーゼ、あるいは、位置[B24+B109]または[B24+B460]または[B109+B460]または[B24+B109+B460[または[B24+B148+B460]にアミノ酸置換を有し、それは場合によってA3、A77、A90、A144、A192、B148、B313およびB488からなる群から選択される位置での1つもしくは複数のアミノ酸置換と組み合わされる、クルイベロミセス・クリオクレッセンス(Kluyveromyces cryocrescens)由来のペニシリンGアシラーゼである。配列番号1で示されるアミノ酸配列を有し、かつ位置[B24+B109]または[B24+B460]または[B109+B460]または[B24+B109+B460]にアミノ酸置換を有する、大腸菌(Escherichia coli)由来のペニシリンGアシラーゼが最も好ましい。
【0047】
[材料および方法]
[アシラーゼ突然変異体の調製]
野生型および突然変異ペニシリンGアシラーゼの生成、単離および精製は、国際公開第96/05318号パンフレットおよび国際公開第03/055998号パンフレットに記載のように行ってもよい。あるいは、突然変異ペニシリンGアシラーゼをコードする遺伝子は、遺伝子合成によって得てもよい。
【0048】
突然変異ペニシリンGアシラーゼの生成は、突然変異ペニシリンGアシラーゼをコードする遺伝子を適切な発現ベクターにクローン化し、大腸菌(E.coli)などの好適な宿主を、前記ベクターを用いて形質転換し、形質転換宿主を突然変異ペニシリンGアシラーゼの生成にとって好適な条件下で培養することによって行ってもよい。突然変異体の回収および精製については、国際公開第9605318号パンフレットに記載のように行われた。さらに、Superdex 200ゲル濾過カラムを装備したAkta Purifier 10システムおよびTSKgel 3000SWxlカラムを装備したHPLCシステムを使用し、アシラーゼが精製された。両システムは、0.1Mリン酸塩緩衝液(pH7.0)中、1ml/分の流速で稼動していた。
【0049】
[アシラーゼ濃度の測定]
アシラーゼ濃度が、Svedasら、1977年、Bioorg.Khimya[Russ.]3、546−553頁およびAlkemaら、1999年、Anal.Biochem 275、47−53頁によって記載されるように、フェニルメチルスルホニルフッ化物(PMSF)を用いて活性部位滴定を行うことによって測定された。活性部位滴定時の初期活性および残留活性が、基質としてNIPABを用いて測定された。次いで、NIPABの加水分解が、5−アミノ−2−ニトロ安息香酸の放出による、405nmでの吸光度の増大を測定することにより、0.1M MOPS緩衝液(pH=7.4)中、37℃で行われる。あるいは、活性部位滴定後の残留活性は、セファレキシンの合成を用いて測定してもよい(下記参照)。
【0050】
[アシラーゼの固定化]
国際公開第97/04086号パンフレットおよび欧州特許第0222462号明細書において開示される方法に従い、様々なアシラーゼが固定化された。
【0051】
[セファロスポリンの検出]
Fujii法に従い、セファレキシンおよびセフラジンなどのセファロスポリンの検出が行われた(Fujiiら、1976年、Process Biochemistry、21−24頁)。本方法は、高スループットフォーマットスクリーニングに容易に変換可能である。
【0052】
[セファレキシンの検出]
D−フェニルグリシンメチルエステル(PGM)および7−ADCAからのセファレキシンの形成を測定するための標準アッセイが、次の方法で行われた。すなわち、10μlのペニシリンGアシラーゼ溶液が、50g/lのPGMおよび50g/lの7−ADCAからなる130μlの基質混合物に添加された(この溶液の調製については下記参照)。その後、反応画分が密封され、蒸発が阻止された。室温で2時間のインキュベーション時間後、140μlの1M NaOHが添加されて反応が停止され、カラム展開が開始された。十分に混合することにより、沈殿が阻止される。密封された画分中、室温で2時間のインキュベーション後、490nmでの吸光度が測定された。ブランク実験においては、水が酵素の代わりに添加された。初期代謝回転速度の測定の場合、酵素濃度は最終変換が1〜10%の間であるように行われた。変換の制御を目的として酵素濃度を変化させるのではなく、その代わり反応時間を調整することで、所望される変換が得られうる。形成されるセファレキシンの絶対量は、(既知の量のセファレキシンを含有する試料の場合に測定された)セファレキシン濃度に対して、490nmでODをプロットする場合に得られる較正ラインから判定可能である。
【0053】
PGM/7−ADCA基質混合物を調製するため、50gのPGM.MSA(PGM.MSAはPGMのメタンスルホン酸(MSA)塩)および50gの7−ADCAが、900mlの0.1M MOPS緩衝液(pH=6.9)に添加された。連続攪拌下で、pHを4M NaOH溶液を使用して6.9に再調整する。容量を緩衝液を使用して1リットルに調整し、再びpHを調整する。各実験においては、PGMが水で自発的に分解してから、新しい溶液が作製されるものとする。MOPS緩衝液の調製においては、20.9gのMOPS(Sigma M−1254)を、約900mlのミリQ水に溶解する。pHを4M NaOH溶液を使用して6.9に調整し、容量をミリQ水で1Lに調整する。
【0054】
[セフラジンの検出]
D−2,5−ジヒドロフェニルグリシンメチルエステル(DHPGM)および7−ADCAからのセフラジンの形成を測定するための標準アッセイが、セファレキシンについての上記のように、次の方法で行われた。D−2,5−ジヒドロフェニルグリシンメチルエステルのメタンスルホン酸塩(DHPGM.MSA)のみが、PGM.MSAの代わりに使用された。
【0055】
[S/H比の測定]
β−ラクタム抗生物質の合成におけるPenGアシラーゼのS/H比を測定するため、変換は時間の関数として測定された。試料が異なる時点で採取され、変換混合物の組成が測定された。反応は、pHを2.7に低下させることによって停止された。試料は、形成されるアシル化抗生物質、抗生物質核、加水分解側鎖前駆体および側鎖前駆体の濃度を測定するため、UPLC(超高性能液体クロマトグラフィー)によって分析された。
【0056】
合成活性は、好ましくは0〜10%の間の変換で、反応時間に対する生成物の量をプロットすることによって得られる曲線の勾配から判定された(その領域では、反応の生成物の形成は通常、時間に対してほぼ線形である)。合成活性が反応の間に急速に低下する場合、初期速度は、進行曲線の外挿およびt=0での勾配の計算によって得られうる。
【0057】
加水分解活性は、好ましくは0〜10%の間の加水分解で、反応時間に対する加水分解側鎖前駆体の量をプロットすることによって得られる曲線の勾配から判定された(その領域では、加水分解側鎖前駆体の形成は通常、時間に対してほぼ線形である)。S/H比は、合成活性の勾配を加水分解活性の勾配で除することによって計算された。
【0058】
S/H比の測定は、セファレキシンについては10g/lのPGM.MSAおよび10g/lの7−ADCAを含有する反応混合物中で、またセフラジンについては10g/lのDHPGM.MSAおよび10g/lの7−ADCAを含有する反応混合物中で行われた。ペニシリンGアシラーゼは、4時間後、70〜90%の変換が得られるように添加された。20μlの試料が、様々な時点で採取され、直ちに800μlの50mMリン酸(pH=2.7)で希釈され、反応が停止された。
【0059】
次のプロトコルに従って実施されたUPLCクロマトグラフィーの間、DHPGM、DHPG、PMSF、PGMおよびPGの量は210nmで、また7−ADCA、セファレキシンおよびセフラジンの量は260nmで検出された。
ACQUITY−Pump :バイナリ溶媒マネージャー
ACQUITY−Autosampler:試料マネージャーおよび試料オルガナイザー
ACQUITY−UV検出器 :PDA検出器(80ヘルツ)
UPLC BEHフェニル、1.7μm、2.1×50mm(カタログ番号186002884)
流量 :0.9ml/分
注入容量 :2μl(部分ループ)
移動相A :50mMリン酸塩緩衝液(pH6.0)
移動相B :100%アセトニトリル
カラム温度 :60℃
トレー温度 :10℃
波長 :210および260nm
稼動時間 :1分
【0060】
【表3】



【0061】
[試験A−6−APAおよびHPGメチルエステルからのアモキシシリンの生産]
140μmの孔を有する篩底(sieve bottom)および撹拌装置を装備した2Lのステンレス鋼製反応器は、HPGMと6−APAとの共役を触媒するのに使用される固定化酸素で満たされた。容量は、水の添加により、1000mlに調節された。内容物は10℃に冷却され、反応器内容物は、蠕動ポンプにより、篩底上で循環された。
【0062】
162.2gの6−アミノペニシラン酸が添加された後、144gのHPGMが添加された。容量は、水の添加により、1500mlに調節された。混合物は、篩上で撹拌され、循環された。温度は10℃に維持された。pHは監視された。pHは、最初は約6.3であり、しばらく経過後、約7に増加し、その後減少した。pHが6.3未満の時点で、反応はほぼ完了する。その時点で(HPGMの添加から約2時間後)、試料は、再循環ラインから採取され、濾過され、残留6−APAの含量についてHPLCによって分析された。
【0063】
[略号のリスト]
6−APA :6−アミノペニシラン酸
7−ADCA :7−アミノデスアセトキシセファロスポラン酸
AMPI :アンピシリン
CEX :セファレキシン
DHPG :D−2,5−ジヒドロフェニルグリシン
DHPGM.MSA :D−2,5−ジヒドロフェニルグリシンメチルエステルメタンスルホン酸塩
EDTA :エチレンジアミン四酢酸
HPGM :D−p−ヒドロキシフェニルグリシンメチルエステル
PG :D−フェニルグリシン
PGA :D−フェニルグリシンアミド
PGM :D−フェニルグリシンメチルエステル
PGM.HCL :D−フェニルグリシンメチルエステルHCI塩
PGM.MSA :D−フェニルグリシンメチルエステルメタンスルホン酸塩
【0064】
【表4】



【0065】
[相同性および同一性]
用語「相同性」または「パーセント同一性」は、本明細書中で交換可能に使用される。本発明の目的として、2つのアミノ酸配列または2つの核酸配列のパーセント相同性を判定するため、配列が最適な比較目的で整列されることが本明細書で規定される。2つの配列の間のアラインメントを最適化するため、比較される2つの配列のいずれかに、ギャップを導入してもよい。かかるアラインメントは、比較される配列の完全長にわたって行ってもよい。あるいは、アラインメントは、より短い長さ、例えば約20、約50、約100もしくはそれ以上の核酸/塩基またはアミノ酸にわたって行ってもよい。同一性は、報告される整列領域にわたる2つの配列間の同一マッチ(identical match)の百分率である。
【0066】
配列の比較および2つの配列間のパーセント同一性の判定は、数学的アルゴリズムを用いて行ってもよい。当業者は、2つの配列を整列し、2つの配列間の相同性を判定するのに、数種の異なるコンピュータプログラムが利用可能であることを理解するであろう(Kruskal J.B.(1983年) 「An overview of sequence comparison」、D.Sankoff and J.B.Kruskal(編)、「Time warps,string edits and macromolecules:the theory and practice of sequence comparison」、1−44頁、Addison Wesley)。2つのアミノ酸配列間のパーセント同一性は、2つの配列のアラインメントを目的としたNeedlemanおよびWunschアルゴリズムを用いて判定してもよい(Needleman S.B.およびWunsch C.D.(1970年) J.MoI.Biol.48、443−453頁)。同アルゴリズムは、アミノ酸配列およびヌクレオチド配列の双方を整列することが可能である。Needleman−Wunschアルゴリズムは、コンピュータプログラムNEEDLE中に実装されている。本発明の目的のため、EMBOSSパッケージからのNEEDLEプログラムが使用された(バージョン2.8.0以上、EMBOSS:The European Molecular Biology Open Software Suite(2000年) Rice P.Longden J.およびBleasby A. 「Trends in Genetics」 16、(6)、276−277頁、http://emboss.bioinformatics.nl/)。タンパク質配列については、EBLOSUM62が置換マトリックス用に使用される。ヌクレオチド配列については、EDNAFULLが使用される。その他について、規定することは可能である。使用されるオプションパラメータは、10のギャップオープンペナルティおよび0.5のギャップ伸長ペナルティである。当業者は、すべてのこれら異なるパラメータがやや異なる結果をもたらすが、2つの配列の全パーセント同一性が、異なるアルゴリズムを使用する場合での変化が有意でないことを理解するであろう。
【0067】
[グローバルな相同性の定義]
相同性または同一性は、任意のギャップを含む全整列領域にわたる2つの配列間の同一マッチの百分率である。2つの整列配列間の相同性または同一性は、次のように計算される。すなわち、アラインメントにおける対応位置の数は、両配列内の同一のアミノ酸を、ギャップを含むアラインメントの全長によって除したものを示す。本明細書で定義される同一性は、NEEDLEから得てもよく、プログラムの出力において「IDENTITY」と称される。
【0068】
[最長の同一性(longest identity)の定義]
2つの整列配列間の相同性または同一性は、次のように計算される。すなわち、アラインメントにおける対応位置の数は、両配列における同一のアミノ酸を、アラインメントにおけるギャップの全数を差し引いた後、アラインメントの全長によって除したものを示す。本明細書で定義される同一性は、NOBRIEFオプションの使用によってNEEDLEから得てもよく、プログラムの出力において「最長の同一性」と称される。
【0069】
[実施例]
[実施例1]
[改善されたセファレキシン合成活性を有するペニシリンGアシラーゼ突然変異体の選択]
PenGアシラーゼ突然変異体の活性を改善されたS/H比によって改善する、アミノ酸の位置および突然変異を見出すため、既に次の2つの突然変異体、すなわちB:F24AおよびB:V148L(以降、対照と称される)をタンパク質レベルで有する大腸菌(Escherichia coli)のペニシリンGアシラーゼをコードする遺伝子の変異性突然変異誘発により、突然変異体ライブラリーを生成した。このようにして得られた突然変異体ライブラリーに対して、対照に対して改善されたセファレキシンの生産性を示す突然変異体についての高スループットスクリーニングを実施した。fujii法によって形成されるセファレキシンの検出のアッセイおよび方法については、材料および方法の項において記載されている。高スループットにおいては、生産性という用語は、特定の期間内に一定量の無細胞抽出物(CVE)によって合成されるセファレキシンの量を示す。全部で約7000のクローンを試験した。
【0070】
次いで、目的の突然変異体および対照のペニシリンアシラーゼを発現する組換え大腸菌(Escherichia coli)細胞を、上記のように成長させた。同様のOD600nm値を有する振とうフラスコを取り、培養物を遠心分離し、−20℃に凍結させた。無細胞抽出物を調製するため、ペレットを、0.1mg/mlのDNaseおよび2mg/mlのリゾチームを含有する抽出緩衝液0.05M MOPS(pH=6.9)に再懸濁し、インキュベートした。30分後、抽出物を遠心分離し、アシラーゼ活性を有する上清を、セファレキシン合成試験に使用した。2時間後、変換を停止させ、形成されたセファレキシンの量を、材料および方法に記載のように測定し、490nmでのODとして表した。
【0071】
対照に対して改善されたセファレキシンの生成についてのスクリーニングによって変異体ライブラリーから選択した突然変異体を、表3:S/Hにまとめる。突然変異体1〜4は、より高い活性を有する。
【0072】
【表5】



【0073】
[実施例2]
[アンピシリンの合成において改善されたアンピシリン/6−APAを有するペニシリンGアシラーゼ突然変異体の選択]
上記の突然変異体ライブラリーからの約6000のクローンを、アンピシリンの合成について試験した。大腸菌(Escherichia coli)クローンを成長させた後、無細胞抽出物を上記のように調製した。次いで、20μLの無細胞抽出物を、12mM PGM、4mM 6−APAおよび10mMアンピシリンを含有する80μLの0.05M MOPS緩衝液(pH=6.9)に移す。PGMを、遊離塩基として調製する。すべての溶液を、毎日新しく調製する。反応は、室温で行い、PMSFで停止させる。次いで、試料をUPLCクロマトグラフィーによって分析する。

カラム:Waters Acquity UPLC BEHフェニル、50×2.1mm、粒子サイズ1.7μm
溶媒A:50mM酢酸アンモニウム、pH=5.8
溶媒B:60%アセトニトリル+40%ミリQ水
弱洗浄(Weak wash):5%アセトニトリル+95%ミリQ水
強洗浄(Strong wash):95%アセトニトリル+5%ミリQ水
【0074】
【表6】



【0075】
溶出化合物の同定および定量を、Waters Micromass ZQ 2000LC Mass Spectrometerを使用する質量分析およびWaters ACQUITY UPLC Photodiode Array(PDA)検出器を使用する190〜400nmの範囲内でのUV測定によって行った。適切な標準を用いて較正を行った。
【0076】
クローンを、アンピシリン/6APA比によってランク付けした。対照より高い比を示すクローンを、数回再試験した。最終的に、アンピシリン/6−APA比において、対照に対して一貫した改善を示す2つのクローンを配列決定した。2つの突然変異体における典型的結果を表4に示す。クローンの配列を表3に示す。
【0077】
【表7】



【0078】
突然変異体5〜6および8〜12を、突然変異を組み合わせることによって得て、変異性ライブラリーのスクリーニングにおいて同定した。これらの突然変異体を試験した結果については、以下の実施例において記述されることになる。
【0079】
[実施例3]
[改善されたセファレキシンの生産性について選択されるペニシリンGアシラーゼ突然変異体のセファレキシン・エン・セフラジンの合成活性]
実施例1の選択された突然変異体である突然変異体1〜突然変異体4の活性(表3)は、同様の生成宿主の成長時に、ほぼ同様のペニシリンGアシラーゼの発現が得られる(同様のOD490nm〜細胞密度)という仮説に基づく。突然変異体の発現レベルにおける任意の差異について訂正するため、無細胞抽出物中のペニシリンアシラーゼの濃度を、材料および方法において記載されるPMSF滴定を用いて測定した。PMSF滴定に基づき、活性ペニシリンGアシラーゼ含量はさらに精製することなく測定可能であることから、(単位/mgのアシラーゼでの)比活性は、より正確に測定できる。セファレキシンおよびセフラジンの合成における初期合成活性を測定するため、変換後、材料および方法に記載のようにUPLCを行った。結果を表5に示す。
【0080】
【表8】



【0081】
[実施例4]
[改善されたセファレキシンの生産性について選択されるペニシリンGアシラーゼ突然変異体のS/H比]
選択される突然変異体1〜4のS/H比は、材料および方法に記載のように測定した。セファレキシンの合成の間、進行曲線を記録した。セファレキシンの合成およびPGMの加水分解におけるS/H比を、これらの進行曲線から判定した。同じ突然変異体について、セフラジンの合成の間、進行曲線を記録した。セフラジンの合成およびジヒドロフェニルグリシンメチルエステルの加水分解におけるS/H比を判定した。結果を表6に示す。
【0082】
【表9】



【0083】
[実施例5]
[位置B460の修飾はペニシリンGアシラーゼの合成の生産性を高めるのに重要である]
突然変異体5および12は、突然変異体1に基づいて設計した。突然変異体5は、位置B460でのフェニルアラニンがロイシンによってさらに置換された対照である。突然変異体5と同様、突然変異体12では、位置B460でのフェニルアラニンがロイシンによってさらに置換されているが、ここでは位置B24でのアラニンが、多数の野生型ペニシリンGアシラーゼにおけるこの位置で認められるように、フェニルアラニンにさらに置換された。上記のように、突然変異体5および12をコードする遺伝子を、遺伝子合成によって得て、大腸菌(Escherichia coli)に形質転換し、またそこで発現させた。発酵後、大腸菌(Escherichia coli)細胞を、細胞からペニシリン−Gアシラーゼを放出するため、超音波処理によって処理した。遠心分離によって細胞残渣を除去後、上清中の活性タンパク質の濃度を、PMSF滴定によって測定した。
【0084】
突然変異体5および12をセファレキシンの合成に適用する一方、野生型アシラーゼ(配列番号1)、対照アシラーゼおよび突然変異体1を対照として含めた。結果を下記に示す。
【0085】
【表10】



【0086】
突然変異体1、5および12は、位置B460のフェニルアラニンがロイシンによって置換されているという共通点を有する。全部で3つの突然変異体においては、この修飾は、S/H比の大幅な低下を伴うことなく、合成活性を増大させる。ほとんどの場合、S/H比はさらに改善される。
【0087】
[実施例6]
[セファレキシンおよびセフラジンの合成における様々なコンビナントの性能]
突然変異体1および7は、突然変異アシラーゼをPGM、6−APAおよびアンピシリンの混合物に暴露する場合での、改善されたアンピシリン/6−APA比についてのスクリーニングから選択した。突然変異体1はまた、セファレキシンの合成における改善された生産性についてのスクリーニングから選択した。突然変異体1および突然変異体7において認められる突然変異は、異なる方法で組み合わせてもよい。突然変異体6および8〜11は、かかる組み合わせの例である。上記のように、突然変異体は、大腸菌(Escherichia coli)における遺伝子合成、形質転換および発現によって得てもよい。これらの突然変異体の一部の試験結果を表8に示す。
【0088】
【表11】



【0089】
突然変異体1および突然変異体7の突然変異の組み合わせから得られるコンビナントは、特定の態様では、かかるハイブリッドがそれらの親の性能を超えうることを示す。
【0090】
[実施例7]
[6−APAおよびHPGメチルエステルからのアモキシシリンの生成]
140μmの孔を有する篩底および撹拌装置を装備した2Lのステンレス鋼製反応器を、表中に示される固定化酸素で満たした。容量を、水の添加により、1000mlに調節した。内容物を10℃に冷却し、反応器内容物を、蠕動ポンプにより、篩底上で循環させた。
【0091】
162.2gの6−アミノペニシラン酸を添加後、HPGMを添加した(表を参照)。容量を、水の添加により、1500mlに調節した。混合物を、篩底上で撹拌し、循環させた。温度を10℃に維持した。pHを監視した。pHは、最初は約6.3であり、しばらく経過後、約7に増加させ、その後減少させた。pHが6.3未満の時点で、反応はほぼ完了する。その時点で(HPGMの添加から約2時間後)、試料を、再循環ラインから採取し、濾過し、HPLCによって分析した。様々な実験の結果を表9に示す。
【0092】
突然変異体1およびHPGMの1.06等価物(表中の変換10)との反応混合物に、さらなるプロセシングを施す。反応混合物を、固定化(immob)酵素が篩をほぼ遮断する時まで、篩の下部から採取する。次いで、水をステンレス鋼製反応器内の混合物に添加すると同時に、混合物を、回収される全懸濁液が3000mlの容量を有する時まで、篩の下部から採取する。
【0093】
変換10を、反応器内の既存の同じ酵素を使用しながら、同量の6−APAおよびHPGMを添加することにより、さらに3回繰り返した。これら4つの連続的変換10の懸濁液を、結合させ、再結晶化を施す。懸濁液を25℃に加熱し、混合物を一連の5つの撹拌容器(各々30ml)に導入する。混合物を、重力排出(gravity overflow)により、1つの撹拌容器から次の容器に移す。懸濁液の流量は、3000ml/hである。同時に、35%HClを、第1の容器に、懸濁液中の沈殿物が一連の5つの撹拌容器内で十分に溶解する程度の速度で添加する。酸性溶液を、ラインで10μmのフィルタ上に濾過し、晶析装置に導入する。この晶析装置では、pHは25%NaOHの添加によってpH=3.7に維持し、温度は20℃に維持する。容量は、第2の晶析装置への重力排出により、2250mlに維持する。この晶析装置では、pHは、20℃で25%NaOHの添加によってpH=5.0に維持する。第2の晶析装置内の容量は、撹拌容器への重力排出により、750mlに維持する。この容器の内容物を3℃に冷却する。この容器内の滞留時間は、4時間である。結晶懸濁液を、濾過し、水(1.5l/kg生成物)で洗浄し、一定重量になるまで、35℃、換気式ストーブ(ventilation stove)で乾燥させる。アモキシシリン三水和物の収率(添加される6−APAに対して計算)は、91%(モル/モル)であった。
【0094】
【表12】



【0095】
[実施例8]
[D−フェニルグリシン−メチルエステル(PGM)溶液の合成]
D−フェニルグリシン−メチルエステル(PGM)溶液の合成を、本質的に国際公開第2008/110527号パンフレット中に記載のように行った。
【0096】
90gのPGを170mlのメタノール中に懸濁し、73.2gの濃硫酸を添加した。混合物を、約73℃、還流下で2時間保持し、減圧下で濃縮した(p=20mmHg、T=75〜80℃)。170mlのメタノールを添加し、混合物を、再び還流下で2時間保持し、減圧下で濃縮した。再び、170mlのメタノールを添加し、混合物を、還流下で2時間保持し、減圧下で濃縮した。最後に、125mlのメタノールを添加した。溶液を、20mlのメタノールで予備帯電した第2の反応器に、20℃で1時間以内に投入した。pHを、アンモニアで3.5に保持した。固体が形成され、それを濾過によって除去した。得られた母液を、25mlの水で希釈し、減圧下で濃縮した(p=20mmHg、T=40〜45℃)。最後に、207.5gのPGM溶液を得た。
【0097】
[実施例9]
[セファレキシンの酵素合成]
175μmの篩底を有する反応器を、指定量の異なる固定化アシラーゼで満たし、それにより、固定化(immob)粒子のタンパク質負荷は、試験したすべてのアシラーゼと同様であった。次いで、21.4gの7−ADCAおよび95gの水を25℃で添加し、pHを25%アンモニアで7.0に調整した。実施例8において得られた38gのPGM溶液を、反応器に、120分以内に一定速度で投入した。pHをアンモニアで7.0に維持した。温度を25℃に保持した。30分後、0.25gの固体セファレキシン(シード)を添加した。セファレキシンの結晶化が、45分後に開始された。120〜150分の間に、pHを25%硫酸で7.0に保持した。次いで、pHを25%硫酸で5.7に低下させた。
【0098】
反応器から、上方攪拌により、底部篩を通して放出させた。得られたセファレキシン懸濁液を、ガラスフィルターを通して濾過した。得られた母液を、再び反応器に移した。この順序での工程を5回繰り返した。次いで、酵素を10mlの水で2回洗浄した。このようにして、セファレキシンの98%以上を固体生体触媒から分離した。
【0099】
セファレキシンの湿潤ケーキ(wet cake)、母液および洗浄水を結合させ、温度を2℃に維持した。結合された湿潤ケーキおよび母液のpHを濃硫酸で1.5に低下させ、得られた溶液を0.45μmのフィルタを通して濾過した。
【0100】
結晶化反応器を、20gの水および1.0gのセファレキシン(シード)で満たした。上記の酸性セファレキシン溶液を、結晶化反応器に、30℃で80分以内に投入した。pHをアンモニアで5.0に保持した。次いで、懸濁液を、20℃でさらに30分間撹拌した。懸濁液を、ガラスフィルターを通して濾過し、湿潤ケーキを、15mlの水で2回および15mlのアセトンで2回洗浄した。
【0101】
【表13】



【0102】
[実施例10]
[7−ADCAおよびHPGメチルエステルからのセファドロキシルの生産]
175μmの篩底を有する反応器を、指定量の異なる固定化アシラーゼで満たした。次いで、17.7gの7−ADCA、15.6gのHPGM、0.02gのEDTAおよび123gの水を10℃で添加し、pHを25%アンモニアで7.2に調整した。酵素反応を10℃で行い、pHをギ酸で7.2に保持した。
【0103】
【表14】



【0104】
[実施例11]
[セフラジンの酵素合成]
175μmの篩底を有する反応器を、指定量の異なる固定化アシラーゼで満たした。次いで、14.82gの7−ADCAおよび50gの水を20℃で添加し、pHを25%アンモニアで6.9に調整した。
【0105】
18.5gのDHPGM.MSAを20mlの水に溶解し、溶液を反応器に150分以内に一定速度で投入した。pHをアンモニアで7.0に維持した。温度を20℃に保持した。30分後、0.25gの固体セフラジン(シード)を添加した。460分後、pHを25%硫酸で5.7に低下させた。DHPGの測定の不正確さが原因で、S/Hを十分な精度で測定することができなかった。
【0106】
【表15】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
配列番号1で示されるアミノ酸配列を有する大腸菌(Escherichia coli)ペニシリンGアシラーゼのアミノ酸番号付けにより、アミノ酸位置A3、A77、A90、A144、A192、B24、B109、B148、B313、B460およびB488からなる群から選択される1つもしくは複数のアミノ酸位置にアミノ酸置換を有していることを特徴とする、野生型ペニシリンGアシラーゼ由来の突然変異原核生物のペニシリンGアシラーゼ。
【請求項2】
前記突然変異体が、位置B24に少なくとも1つのアミノ酸置換、ならびにA3、A77、A90、A192、B148、B313、B460およびB488からなる群から選択される位置に1つもしくは複数のアミノ酸置換を有していることを特徴とする、請求項1に記載の突然変異原核生物のペニシリンGアシラーゼ。
【請求項3】
前記突然変異体が、位置B460に少なくとも1つのアミノ酸置換、ならびにA3、A77、A90、A192、B24、B148、B313およびB488からなる群から選択される位置に1つもしくは複数のアミノ酸置換を有していることを特徴とする、請求項1に記載の突然変異原核生物のペニシリンGアシラーゼ。
【請求項4】
前記突然変異体が、位置B24に少なくとも1つのアミノ酸置換、位置B460に少なくとも1つのアミノ酸置換、ならびに場合によってA3、A77、A90、A192、B148、B313およびB488からなる群から選択される位置にアミノ酸置換を有していることを特徴とする、請求項2および3に記載の突然変異原核生物のペニシリンGアシラーゼ。
【請求項5】
前記突然変異体が、位置B24に少なくとも1つのアミノ酸置換、ならびに位置B460に少なくとも1つのアミノ酸置換を有し、かつ、位置B148に少なくとも1つのアミノ酸置換、ならびに場合によってA3、A77、A90、A192、B313およびB488からなる群から選択される位置にアミノ酸置換を有していることを特徴とする、請求項4に記載の突然変異原核生物のペニシリンGアシラーゼ。
【請求項6】
前記野生型ペニシリンGアシラーゼは、配列番号1で示されるアミノ酸配列を有する大腸菌(Escherichia coli)ペニシリンGアシラーゼおよび配列番号1に対して少なくとも30%相同なペニシリンGアシラーゼからなる群から選択される、請求項1〜5のいずれか一項に記載の突然変異原核生物のペニシリンGアシラーゼ。
【請求項7】
請求項1〜6のいずれか一項に記載の、突然変異ペニシリンGアシラーゼをコードする核酸配列。
【請求項8】
請求項7に記載の核酸配列を含む発現ベクター。
【請求項9】
請求項8に記載の発現ベクターを含む宿主細胞。
【請求項10】
請求項1〜6のいずれか一項に記載の、突然変異ペニシリンGアシラーゼを生成するための方法。
【請求項11】
請求項1〜6のいずれか一項に記載の突然変異原核生物のペニシリンGアシラーゼの使用によって特徴づけられる、活性側鎖とβ−ラクタム核との酵素共役を含む、半合成β−ラクタム抗生物質を生成するための方法。
【請求項12】
請求項1〜6のいずれか一項に記載の突然変異原核生物のペニシリンGアシラーゼの使用によって特徴づけられる、活性側鎖とβ−ラクタム核との酵素共役を含む、半合成β−ラクタム抗生物質を生成するための方法。
【請求項13】
前記半合成β−ラクタム抗生物質は、半合成ペニシリンおよび半合成セファロスポリンからなる群から選択される、請求項12に記載の方法。
【請求項14】
前記半合成ペニシリンは、アモキシシリンまたはアンピシリンである、請求項13に記載の方法。
【請求項15】
前記半合成セファロスポリンは、セファレキシン、セファドロキシルまたはセフラジンである、請求項13に記載の方法。
【請求項16】
活性型のHPGと6−APAとの共役を触媒する酵素の存在下でアモキシシリンを生成するための方法であって、6−APAに対する、前記活性HPG、好ましくはメチル−およびエチルエステルからなる群から選択されるエステルのモル比が、3.0以下、好ましくは2.5以下、より好ましくは2.0以下、およびより好ましくは1.5以下であり、かつ、前記酵素共役反応後に測定される、6−APAを基準とするアモキシシリンの収率(モル/モル)が、90%以上、好ましくは91%以上、好ましくは92%以上、好ましくは93%以上、好ましくは94%以上、およびより好ましくは95以上である、方法。
【請求項17】
前記酵素は、500mモル/LのHPGMおよび530mモル/Lの6−APAからアモキシシリンを生成する(すなわち、変換)特性を有し、かつ、試験Aに記載の条件下で行われる前記変換の終了時、5mモル/L未満の6−APAを生成する、アシラーゼである、請求項17に記載の方法。
【請求項18】
前記アシラーゼは、請求項1〜6のいずれか一項において規定されたものである、請求項18に記載の方法。

【公表番号】特表2012−513196(P2012−513196A)
【公表日】平成24年6月14日(2012.6.14)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−541511(P2011−541511)
【出願日】平成21年12月22日(2009.12.22)
【国際出願番号】PCT/EP2009/067752
【国際公開番号】WO2010/072765
【国際公開日】平成22年7月1日(2010.7.1)
【出願人】(503220392)ディーエスエム アイピー アセッツ ビー.ブイ. (873)
【Fターム(参考)】