説明

突起付き鋼管の製造方法および突起付き鋼管製造装置

【課題】鋼管の歪みや鋼管表面の凹凸に当て板を追随させることにより当て板と鋼管との間の隙間を小さく一定に保つことができ且つ当て板と鋼管との間で生じる摩擦抵抗を低く抑えることができるとともに、少ない種類の当て板で鋼管径の違いに幅広く対応できる突起付き鋼管の製造方法および突起付き鋼管製造装置を提供する。
【解決手段】本発明の突起付き鋼管を製造する方法は、一対の当て板2,2を鋼管1の内面上に間隔をおいて設置する工程と、当て板2,2を押し付け手段30,32により鋼管1の内面に対して押圧接触させる工程と、鋼管1に対する当て板2,2の接触圧を押し付け手段30,32により所定の範囲内に制御しつつ、当て板2,2と鋼管1の内面とを相対的に移動させながら、当て板2,2間の空間内の所定の位置で溶接により突起Pを形成する工程とを含んでいる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、肉盛溶接を用いる突起付き鋼管の製造方法および突起付き鋼管製造装置に関する。
【背景技術】
【0002】
土木あるいは建築分野において、鋼管にコンクリートを充填したり、鋼管をコンクリートの内部に埋め込む合成構造が建築用柱や基礎杭などに用いられている。これらの鋼管とコンクリートとの合成構造においては、鋼管とコンクリートとの付着力を高めるために、鋼管の表面に突起を設けることが行われている。
【0003】
鋼管の表面に突起を形成する方法の一つとして、肉盛溶接が従来から用いられている。例えば、特許文献1には、鋼管の内面または外面に一対の当て板を間隔をおいて配置し、これらの当て板を鋼管の内面または外面に対して相対移動させつつこれらの当て板間に肉盛溶接することにより突起を形成する技術が開示されている。
【0004】
具体的には、図6に示すように、鋼管1の内面に突起Pを周方向に形成する場合、まず、鋼管1を横向きに置き、この鋼管1の内面上に一対の当て板20,20を配置する。そして、溶接トーチ5の溶接ワイヤ6を一対の当て板20,20の間に挿入し、鋼管1を周方向(図面の描かれている面に対して垂直な方向)に回転させながら、鋼管1の内面と当て板20,20とにより形成された空間内でアークを発生させ、下向きの肉盛溶接を行なう。なお、溶接には、炭酸ガスアーク溶接、MAG溶接あるいはMIG溶接等のガスメタルアーク溶接などを適宜用いることができる。
【0005】
【特許文献1】特開2005−193245号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
ところで、一対の当て板20,20と鋼管2とを相対的に移動させて肉盛溶接により突起Pを製造する場合、突起Pの形状や鋼管1に対する溶接金属の溶け込み範囲等において所望の品質を確保するためには、当て板20と鋼管1との接触面間の隙間をできるだけ小さくして、溶接金属の漏れや鋼管1と当て板20との溶着を防止する必要がある一方で、当て板20の底面と鋼管1の表面との間で生じる摩擦抵抗を低く抑え、当て板20と鋼管1とを安定的に相対移動させる必要がある。
【0007】
これに関連して、前述した特許文献1では、鋼管1の表面(内面または外面)と当て板20の底面(接触面)との密着性を確保するために、図7に示すように、当て板20の底面の形状を、鋼管1の内面に沿った円弧状に設定している。また、このように鋼管1の内面または外面と接触する当て板20の接触面を円弧状に形成することにより、当て板20と鋼管1の表面との間で生じる摩擦抵抗を低く抑えるようにしている。
【0008】
しかしながら、このように、密着性や摩擦抵抗軽減を目的として、当て板20の底面の形状を鋼管2の内面や外面に沿った円弧状に設定すると、鋼管1の内径や外径に合わせて当て板20を個別に用意しなければならなくなる。例えば、直径が800mm〜2500mmの範囲の鋼管1の内面に肉盛溶接突起Pを形成する場合には、鋼管径に応じて、鋼管1の内面に沿った円弧状の底面を持つ当て板20を少なくとも3種類用意する必要がある。特に小さい径の鋼管に肉盛溶接により突起を形成する場合には、鋼管径に応じた異なる円弧状の底面を有する当て板を更に多数用意する必要がある。このように、鋼管1の内径や外径に合わせて当て板20を個別に用意すると、当て板20の製造コストが増大するだけでなく、当て板20の取替え作業等、突起付き鋼管の製造に伴う工数も増えることとなり、経済的ではない。
【0009】
また、当て板20の底面の形状を鋼管2の内面や外面に沿った円弧状に設定したとしても、鋼管1の真円度が不十分である場合(例えば、鋼管1に歪みが存在する場合)や、製管時のスパイラルビードの凸部など、図8に示すように鋼管1の表面に凹凸1aがある場合には、そのような鋼管1の歪みや凹凸に当て板20が追随できず、鋼管1と当て板20との相対的な移動が困難となったり、当て板20と鋼管1との間の隙間が大きくなって(一定にならず)、溶接金属の漏れや、鋼管1と当て板20との溶着が発生する虞がある。特に、直径に対して厚さが薄い鋼管の場合には、突起製作時に真円度を確保することが難しく、前記問題は避けられない。また、当て板20と鋼管1との間の隙間に溶接スパッタが入り込む場合もあり、その場合には、当て板20と鋼管1との相対移動が困難になるだけでなく、突起Pの製造が不可能になる虞がある。
【0010】
本発明は、前記事情に鑑みて為されたもので、鋼管の内面または外面に一対の当て板を用いて肉盛溶接により突起を形成して突起付き鋼管を製造する改良された製造方法および製造装置を提供することを目的としており、具体的には、鋼管の歪みや鋼管表面の凹凸に当て板を追随させることにより当て板と鋼管との間の隙間を小さく一定に保つことができ且つ当て板と鋼管との間で生じる摩擦抵抗を低く抑えることができるとともに、少ない種類の当て板で鋼管径の違いに幅広く対応できる突起付き鋼管の製造方法および突起付き鋼管製造装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
前記目的を達成するために、請求項1に記載の突起付き鋼管の製造方法は、鋼管の内面または外面に肉盛溶接により突起を形成して突起付き鋼管を製造する方法であって、一対の当て板を鋼管の内面上または外面上に間隔をおいて設置する工程と、前記当て板を押し付け手段により鋼管の内面または外面に対して押圧接触させる工程と、鋼管に対する前記当て板の接触圧を前記押し付け手段により所定の範囲内に制御しつつ、前記当て板と鋼管の内面または外面とを相対的に移動させながら、前記当て板間の空間内の所定の位置で溶接により突起を形成する工程とを含むことを特徴とする。
【0012】
また、請求項2に記載の突起付き鋼管の製造方法は、請求項1に記載の発明において、鋼管と接触する前記当て板の接触面は、鋼管の外面または内面の形状に沿うように形成されていることを特徴とする。
【0013】
また、請求項3に記載の突起付き鋼管の製造方法は、請求項2に記載の発明において、前記当て板の前記接触面は、所定の曲率半径を有する円弧状を成していることを特徴とする。
【0014】
また、請求項4に記載の突起付き鋼管の製造方法は、請求項1ないし請求項3のいずれかに記載の発明において、前記押し付け手段がエアシリンダ、油圧シリンダまたはスプリングによって構成されていることを特徴とする。
【0015】
また、請求項5に記載の突起付き鋼管の製造方法は、請求項3に記載の発明において、鋼管の内面または外面の曲率半径に応じて鋼管に対する前記当て板の設置角度を変化させることを特徴とする。
【0016】
また、請求項6に記載の突起付き鋼管の製造方法は、請求項5に記載の発明において、鋼管の内面に突起を形成する場合には鋼管の内面の曲率半径の増大に伴って、また鋼管の外面に突起を形成する場合には鋼管の外面の曲率半径の減少に伴って、鋼管に対する前記当て板の設置角度を大きくすることにより、前記当て板と鋼管との接触位置を溶接位置から鋼管の周方向へと徐々にずらしていくことを特徴とする。
【0017】
また、請求項7に記載の突起付き鋼管の製造方法は、鋼管の外面または内面の形状に沿う円弧状の接触面を有する一対の当て板を用いて、鋼管の内面または外面に肉盛溶接により突起を形成して突起付き鋼管を製造する方法であって、一対の前記当て板を鋼管の内面上または外面上に間隔をおいて設置して、前記接触面を鋼管の内面または外面に接触させる工程と、前記当て板と鋼管の内面または外面とを相対的に移動させながら、前記当て板間の空間内の所定の位置で溶接により突起を形成する工程とを含み、鋼管の内面または外面の曲率半径に応じて鋼管に対する前記当て板の設置角度を変化させることを特徴とする。
【0018】
また、請求項8に記載の突起付き鋼管の製造方法は、請求項7に記載の発明において、鋼管の内面に突起を形成する場合には鋼管の内面の曲率半径の増大に伴って、また鋼管の外面に突起を形成する場合には鋼管の外面の曲率半径の減少に伴って、鋼管に対する前記当て板の設置角度を大きくすることにより、前記当て板と鋼管との接触位置を溶接位置から鋼管の周方向へと徐々にずらしていくことを特徴とする。
【0019】
また、請求項9に記載の突起付き鋼管製造装置は、鋼管の内面または外面に肉盛溶接により突起を形成して突起付き鋼管を製造するための突起付き鋼管製造装置であって、鋼管の内面上または外面上に間隔をおいて設置される一対の当て板と、前記当て板を鋼管の内面または外面に対して押圧接触させる押し付け手段と、前記当て板間の空間内の所定の位置で溶接により鋼管の内面上または外面上に突起を形成する溶接手段と、前記押し付け手段による前記当て板の鋼管に対する接触圧を所定の範囲内に制御する制御手段と、を備え、前記押し付け手段による前記当て板の鋼管に対する接触圧を前記制御手段により所定の範囲内に保ちつつ、前記当て板と鋼管の内面または外面とを相対的に移動させながら、前記溶接手段により鋼管に突起を形成することを特徴とする。
【0020】
また、請求項10に記載の突起付き鋼管製造装置は、請求項9に記載の発明において、鋼管と接触する前記当て板の接触面は、鋼管の外面または内面の形状に沿うように形成されていることを特徴とする。
【0021】
また、請求項11に記載の突起付き鋼管製造装置は、請求項10に記載の発明において、前記当て板の前記接触面は、所定の曲率半径を有する円弧状を成していることを特徴とする。
【0022】
また、請求項12に記載の突起付き鋼管製造装置は、請求項9ないし請求項11のいずれかに記載の発明において、前記押し付け手段がエアシリンダ、油圧シリンダまたはスプリングによって構成されていることを特徴とする。
【0023】
また、請求項13に記載の突起付き鋼管製造装置は、請求項11に記載の発明において、鋼管の内面または外面の曲率半径に応じて鋼管に対する前記当て板の設置角度を変化させる設置角度可変手段を更に備えていることを特徴とする。
【0024】
また、請求項14に記載の突起付き鋼管製造装置は、請求項13に記載の発明において、前記設置角度可変手段は、鋼管の内面に突起を形成する場合には鋼管の内面の曲率半径の増大に伴って、また鋼管の外面に突起を形成する場合には鋼管の外面の曲率半径の減少に伴って、鋼管に対する前記当て板の設置角度を大きくすることにより、前記当て板と鋼管との接触位置を溶接位置から鋼管の周方向へと徐々にずらしていくことを特徴とする。
【0025】
請求項1および請求項9に記載された発明においては、鋼管に対する前記当て板の接触圧を前記押し付け手段により所定の範囲内に制御しつつ突起の溶接を行なうため、鋼管の歪みやスパイラルビードの凸部等の鋼管表面の凹凸または溶接スパッタに当て板を追随させることができるとともに、その追随態で当て板と鋼管との相対移動を行なうことができる。したがって、当て板と鋼管表面との間の隙間を小さく一定に保つことが可能になり、溶接金属の漏れや鋼管と当て板との溶着を防止できる一方、当て板の接触面と鋼管の表面との間で生じる摩擦抵抗を低く抑えることもできる。
【0026】
請求項2および請求項10に記載された発明においては、鋼管と当て板との密着性を確実に確保できる。
【0027】
請求項3および請求項11に記載された発明においては、鋼管と当て板との密着性を簡単且つ効果的に得ることができる。
【0028】
請求項4および請求項12に記載された発明においては、当て板を鋼管に対して効果的に押圧接触させることができるとともに、所定範囲内での接触圧の制御が容易となる。
【0029】
請求項5および請求項13に記載された発明においては、鋼管の内面または外面の曲率半径に応じて鋼管に対する前記当て板の設置角度を変化させるため、鋼管の内面または外面の曲率半径が変わっても鋼管に対する当て板の接触状態を確保することができ、少ない種類の(接触面形状が異なる)当て板で鋼管径の違いに幅広く対応できるようになる。すなわち、当て板の接触面の形状を鋼管の内面や外面に沿った円弧状に設定しても、鋼管の内径や外径に合わせて当て板を個別に用意する必要がなくなる。
【0030】
請求項6および請求項14に記載された発明においては、鋼管の内面または外面の曲率半径が変化しても、当て板を交換することなく、鋼管に対して当て板を確実に接触させることができるとともに、溶接金属の漏れや鋼管と当て板との溶着を引き起こすことなく鋼管に突起を形成することができる。
【0031】
請求項7に記載された発明においては、鋼管の内面または外面の曲率半径に応じて鋼管に対する前記当て板の設置角度を変化させるため、鋼管の内面または外面の曲率半径が変わっても鋼管に対する当て板の接触状態を確保することができ、少ない種類の(接触面形状が異なる)当て板で鋼管径の違いに幅広く対応できるようになる。すなわち、当て板の接触面の形状を鋼管の内面や外面に沿った円弧状に設定しても、鋼管の内径や外径に合わせて当て板を個別に用意する必要がなくなる。
【0032】
請求項8に記載された発明においては、鋼管の内面または外面の曲率半径が変化しても、当て板を交換することなく、鋼管に対して当て板を確実に接触させることができるとともに、溶接金属の漏れや鋼管と当て板との溶着を引き起こすことなく鋼管に突起を形成することができる。
【発明の効果】
【0033】
本発明においては、まず、鋼管に対する当て板の接触圧を押し付け手段により所定の範囲内に制御しつつ突起の溶接を行なうようにしている。そのため、鋼管の歪みやスパイラルビードの凸部等の鋼管表面の凹凸または溶接スパッタに当て板を追随させることができるとともに、その追随態で当て板と鋼管との相対移動を行なうことができる。したがって、当て板と鋼管表面との間の隙間を小さく一定に保つことが可能になり、溶接金属の漏れや鋼管と当て板との溶着を防止できる一方、当て板の接触面と鋼管の表面との間で生じる摩擦抵抗を低く抑えることもできる。また、本発明においては、鋼管の内面または外面の曲率半径に応じて鋼管に対する前記当て板の設置角度を変化させるようにしている。そのため、鋼管の内面または外面の曲率半径が変わっても鋼管に対する当て板の接触状態を確保することができ、少ない種類の(接触面形状が異なる)当て板で鋼管径の違いに幅広く対応できるようになる。すなわち、当て板の接触面の形状を鋼管の内面や外面に沿った円弧状に設定しても、鋼管の内径や外径に合わせて当て板を個別に用意する必要がなくなる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0034】
以下、図面を参照しながら、本発明の実施形態について説明する。
図1および図2は、本発明の第1の実施形態に係る突起付き鋼管の製造方法を示す図であって、図1は側断面図、図2は要部の拡大正面図である。これらの図に示すように、鋼管1の内面に突起Pを周方向に形成するには、まず、鋼管1を横向きに置き、この鋼管1の内面のうちの下側の位置に、一対の当て板2,2を配置する。この場合、一対の当て板2,2は、鋼管1の内面に間隔をおいて(溶接空間を隔てて)平行に配置される。
【0035】
なお、鋼管1の内面と接触する当て板2の底面(接触面)は鋼管1の内面に沿った円弧状に形成されている。また、当て板2としては、通常、水冷銅板(水冷式銅板)が用いられるが、セラミック製のものなども用いることができる。
【0036】
一対の当て板2,2を鋼管1の内面に間隔をおいて平行に配置したら、続いて、図1に示すように、鋼管1の外側に位置する溶接装置3のブーム4を鋼管1内に挿入し、ブーム4の先端部に設けられた溶接手段としての溶接トーチ5の溶接ワイヤ6を、一対の当て板2,2の間に挿入する。そして、鋼管1を周方向に回転させながら、鋼管1の内面と当て板2,2とにより形成された空間(溶接空間)内でアークを発生させ下向きの肉盛溶接を行なう。なお、当て板2,2はブーム4等に支持される。また、溶接には、炭酸ガスアーク溶接、MAG溶接あるいはMIG溶接等のガスメタルアーク溶接などを適宜用いることができる。
【0037】
肉盛溶接する空間を形成する当て板2の側面は、断面形状の側部に直線部を有する突起Pを形成するために、平面に仕上げることが必要である。鋼管1の内面に形成する突起Pの側面と鋼管1の内面との成す角度(立ち上がり角度)が所定の鋭角を形成するようにするために、当て板2の側面に所定の角度をつけることもできる。この当て板2の側面の角度が90°を超えると、溶接終了後に当て板2を取り外すことが困難となるので、例えば、60〜90°程度に設定される。
【0038】
当て板2の高さは、形成する突起Pの高さ以上の高さが必要であるが、あまり高いと当て板2の費用が余分に掛かり、また溶接アークが見えにくくなり、作業性が悪くなるので、適当な高さにするのが好ましい。また、当て板2,2の間隔は、狭すぎると溶接アークによる損傷を生じるので、5mm程度以上とする必要があるが、広すぎると余分な溶接材料が必要となり、経済性が低くなるので、あまり広すぎることは好ましくない。鋼管1の内面に形成される突起Pの幅は、これらの当て板2,2の間隔とほぼ等しいものとなる。
【0039】
鋼管1の内面に連続した突起を得るためには、前述したように、鋼管1を回転させるなどして、鋼管1の内面と溶接トーチ5および一対の当て板2,2とを相対的に移動させる必要があるが、このとき、当て板2,2の長さが短いと、溶融金属が横(当て板2の長手方向)の開口部から流出する。一方、当て板2,2が長すぎると、溶融金属が凝固して形成された突起Pの側面と当て板2との摩擦力が大きくなり、安定した移動が困難になるとともに、鋼管1内面と当て板2との密着性を保つことが困難になるので、適当な長さにする必要がある。当て板2の長さ(長手方向寸法)は、通常25mm程度以上、120mm程度以下が必要であり、作業性を考慮すると100mm程度以下が好ましく、80mm程度以下がさらに好ましい。
【0040】
また、本実施形態では、当て板2の形状・寸法に頼ることなく鋼管1内面と当て板2との密着性を確保するため、当て板2を鋼管1の内面に対して押圧接触させるための押し付け手段が設けられている。具体的に、この押し付け手段は、図2に示すように、当て板2に固定されるL型アーム30と、L型アーム30を上下に移動させることにより当て板2を鋼管1の内面に対して押圧するエアシリンダ32とから成る。この場合、L型アーム30は、当て板2の上面に当接して固定される第1のアーム部30Aと、第1のアーム部30Aから略垂直に立ち上がるように延びてエアシリンダ32の伸縮ピストンに接続される第2のアーム部30Bとから成る。また、本実施形態では、前記押し付け手段30,32による当て板2の鋼管1に対する接触圧を所定の範囲内に制御する制御手段として制御部40も設けられている。この制御部40は、具体的には、エアシリンダ32に対して空気を送り出すためのポンプ、ポンプからエアシリンダ32への空気の供給量を制御する流量制御弁、当て板2の鋼管1に対する接触圧を検出するセンサ、センサからの検出信号に応じて流量制御弁を制御する制御回路などから構成されている。
【0041】
次に、押し付け手段30,32を有する上記構成の突起付き鋼管製造装置を用いて鋼管1の内面に肉盛溶接により突起Pを形成する方法について簡単に説明する。
【0042】
まず、図1および図2に示すように、当て板2,2間の空間内の所定の位置に溶接トーチ5を配置する。そして、その状態で、当て板2,2と鋼管1の内面とを相対的に移動させながら(本実施形態では図2に矢印で示される方向に鋼管1を回転させる)、当て板2,2間の空間内で溶接を行なう。これにより、突起Pが鋼管1の内周にわたって形成される。この場合、押し付け手段30,32による当て板2の鋼管1に対する接触圧を制御部40により所定の範囲内に保ちつつ、当て板2と鋼管1の内面とを相対的に移動させながら、溶接トーチ5により鋼管1に突起Pを形成する。具体的には、制御部40は、エアシリンダ32の圧力を0.03〜0.40MPaの適切な範囲内に保持(制御)する。圧力が小さすぎる場合には、当て板2と鋼管1の表面との間に必要以上の隙間が発生してしまい、溶接金属漏れや、当て板2と鋼管1との溶着が発生する。また、圧力が大き過ぎる場合には、当て板2と鋼管1の表面との間で生じる摩擦抵抗が大きくなり、当て板2が鋼管1の回転方向へ移動してしまう虞がある。本実施形態においては、このような不具合が発生しないように、制御部40がエアシリンダ32の圧力を前述した適正な範囲内に制御する。
【0043】
以上説明したように、本実施形態においては、鋼管1に対する当て板2の接触圧を押し付け手段30,32により所定の範囲内に制御しつつ突起Pの溶接を行なうため、鋼管1の歪みやスパイラルビードの凸部等の鋼管1の表面の凹凸または溶接スパッタに当て板2を追随させることができるとともに、その追随態で当て板2と鋼管1との相対移動を行なうことができる。したがって、当て板2と鋼管1の表面との間の隙間を小さく一定に保つことが可能になり、溶接金属の漏れや鋼管1と当て板2との溶着を防止できる一方、当て板2の接触面と鋼管1の表面との間で生じる摩擦抵抗を低く抑えることもできる。
【0044】
なお、図1および図2の実施の形態では、本発明を鋼管1の内側(内面)に突起Pを形成する場合について説明したが、本発明は、図3に示すように、鋼管1の外側(外面)に突起Pを形成する場合にも適用することができ、その場合には、当て板2の接触面(底面)の形状は、鋼管1の外面に沿った円弧状に形成される。なお、図3の場合にも、図1および図2の実施の形態と同様に、鋼管1を回転させると、突起Pは溶接位置(アーク位置)から鋼管1の回転方向前方に形成されていく。
【0045】
また、本実施形態では、鋼管1と接触する当て板2の接触面が鋼管1の内面の形状に沿う所定の曲率半径を有する円弧状を成しているため、鋼管1と当て板2との密着性を簡単且つ効果的に得ることができる。
【0046】
図4は本発明の第2の実施形態を示している。この実施形態では、鋼管1の内面の曲率半径に応じて鋼管1に対する当て板2の設置角度θを変化させるようにしている。なお、それ以外の構成は第1の実施形態と同一である。
【0047】
設置角度θは、0°〜最大3°程度であり、第1のアーム部30Aと当て板2との間に設置角度可変手段としての例えば楔型の介挿部材50を挿入することにより保持することができる。基本的には、鋼管1の内面の曲率半径の増大に伴って鋼管1に対する当て板2の設置角度θを大きくすることにより、当て板2と鋼管1との接触位置Bを溶接位置Aから鋼管1の周方向へと徐々に離れるようにずらしていく。図4中、Xは、溶接トーチ5による溶接位置(アーク位置)Aと接触位置Bとの間の距離(例えば0〜30mm程度)を示しており、Yは、当て板2と鋼管1と間の接触面の長さ(例えば20〜30mm程度)を示している。
【0048】
本実施形態のように鋼管1の内面の曲率半径に応じて鋼管1に対する当て板2の設置角度θを変化させるようにすると、肉盛溶接突起が形成される鋼管1の外径範囲が800mm〜2500mmにおいては、接触面形状が同じ1種類の当て板2を共通に使用することができる。この場合、当て板2の形状は、幅が40mm程度(片側)、長さが100mm程度、接触面(底面)の曲率半径が400mm程度である。直径が800mm程度の鋼管1の場合には、図2に示すように当て板2を水平に設置してL型アーム30に対して隙間無く取り付けるが、鋼管1の径が800mmを超える場合には、鋼管1の径の増大に伴って当て板2を徐々に傾斜させるようにする。そのようにすれば、当て板2と鋼管1との接触面(設置面)を溶接トーチ5の位置に対して後方(鋼管1の回転方向前方)へ移動させることができ、一種類の当て板2で幅広い鋼管外径800mm〜2500mmに対応させることができる(当て板2と鋼管1との接触状態を確保できる)。このように、当て板2の接触面(底面)の形状(曲率半径)は、内面の曲率半径の小さい鋼管1に合わせて製作し、鋼管1の内面の曲率半径が大きくなるに従い当て板2の設置角度θを大きくする。
【0049】
以上説明したように、本実施形態においては、鋼管1の内面の曲率半径に応じて鋼管1に対する当て板2の設置角度を変化させるため、鋼管2の内面の曲率半径が変わっても鋼管1に対する当て板2の接触状態を確保することができ、少ない種類の(接触面形状が異なる)当て板2で鋼管径の違いに幅広く対応できるようになる。すなわち、当て板2の接触面の形状を鋼管1の内面に沿った円弧状に設定しても、鋼管1の内径に合わせて当て板2を個別に用意する必要がなくなる。
【0050】
また、本実施形態では、鋼管1の内面の曲率半径の増大に伴って鋼管1に対する当て板2の設置角度を大きくすることにより、当て板2と鋼管1との接触位置を溶接位置から鋼管1の周方向へと徐々にずらしていくようにしているため、鋼管1の内面の曲率半径が大きくなっても、当て板2を交換することなく、鋼管1に対して当て板2を確実に接触させることができるとともに、溶接金属の漏れや鋼管1と当て板2との溶着を引き起こすことなく鋼管1に突起Pを形成することができる。
【0051】
なお、図4の実施の形態では、本発明を鋼管1の内側(内面)に突起Pを形成する場合について説明したが、本発明は、図5に示すように、鋼管1の外側(外面)に突起Pを形成する場合にも適用することができ、その場合には、当て板2の接触面(底面)の形状は、鋼管1の外面に沿った円弧状に形成される。図4の実施の形態では、鋼管1の内面の曲率半径の増大に伴って鋼管1に対する当て板2の設置角度θを大きくすることにより、当て板2と鋼管1との接触位置を溶接位置から鋼管1の周方向へと徐々に離れるようにずらしていくようにしたが、図5の場合には、鋼管1の外面の曲率半径の減少に伴って鋼管1に対する当て板2の設置角度θを大きくすることにより、当て板2と鋼管1との接触位置を溶接位置から鋼管1の周方向へと徐々に離れるようにずらしていくようにする。この場合、当て板2の接触面(底面)の形状(曲率半径)は、外面の曲率半径の大きい鋼管1に合わせて製作し、鋼管1の外面の曲率半径が小さくなるに従い当て板2の設置角度θを大きくする。
【0052】
なお、本発明は、前述した実施形態に限定されず、その要旨を逸脱しない範囲で種々変形して実施できることは言うまでもない。例えば、前述した実施形態では、当て板2,2および溶接トーチ5を鋼管1の内面に対して相対移動させるために、鋼管1を回転させたが、これに代えて、鋼管1を回転させないで、当て板2,2および溶接トーチ5を移動させるようにしてもよい。また、鋼管1の内面に螺旋条の突起を形成したい場合には、鋼管1を回転させながら、鋼管1を鋼管1の軸線方向に移動させても良いし、あるいは鋼管1を回転させながら、当て板2,2および溶接トーチ5を鋼管1の軸線方向に移動させても良い。また、一度に複数の突起を形成したい場合は、複数の溶接トーチ5および各溶接トーチ5の両側に配置された当て板2,2を用いれば良い。また、突起Pは連続的にも断続的にも形成することができる。
【図面の簡単な説明】
【0053】
【図1】本発明の第1の実施形態に係る突起付き鋼管の製造方法を示す側断面図である。
【図2】図1の要部の拡大正面図である。
【図3】鋼管の外面に突起を形成する場合を示す要部の拡大正面図である。
【図4】本発明の第2の実施形態に係る要部の拡大正面図である。
【図5】鋼管の外面に突起を形成する場合を示す要部の拡大正面図である。
【図6】従来の当て板を用いて突起を鋼管に形成する方法を示す図である。
【図7】従来の当て板を用いて突起を鋼管に形成する方法を示す図である。
【図8】従来の当て板を用いて突起を鋼管に形成する方法を示す図である。
【符号の説明】
【0054】
1 鋼管
2 当て板
5 溶接トーチ(溶接手段)
30 L型アーム(押し付け手段)
32 エアシリンダ(押し付け手段)
40 制御部(制御手段)
P 突起

【特許請求の範囲】
【請求項1】
鋼管の内面または外面に肉盛溶接により突起を形成して突起付き鋼管を製造する方法であって、
一対の当て板を鋼管の内面上または外面上に間隔をおいて設置する工程と、
前記当て板を押し付け手段により鋼管の内面または外面に対して押圧接触させる工程と、
鋼管に対する前記当て板の接触圧を前記押し付け手段により所定の範囲内に制御しつつ、前記当て板と鋼管の内面または外面とを相対的に移動させながら、前記当て板間の空間内の所定の位置で溶接により突起を形成する工程と、
を含むことを特徴とする突起付き鋼管の製造方法。
【請求項2】
鋼管と接触する前記当て板の接触面は、鋼管の外面または内面の形状に沿うように形成されていることを特徴とする請求項1に記載の突起付き鋼管の製造方法。
【請求項3】
前記当て板の前記接触面は、所定の曲率半径を有する円弧状を成していることを特徴とする請求項2に記載の突起付き鋼管の製造方法。
【請求項4】
前記押し付け手段がエアシリンダ、油圧シリンダまたはスプリングによって構成されていることを特徴とする請求項1ないし請求項3のいずれかに記載の突起付き鋼管の製造方法。
【請求項5】
鋼管の内面または外面の曲率半径に応じて鋼管に対する前記当て板の設置角度を変化させることを特徴とする請求項3に記載の突起付き鋼管の製造方法。
【請求項6】
鋼管の内面に突起を形成する場合には鋼管の内面の曲率半径の増大に伴って、また鋼管の外面に突起を形成する場合には鋼管の外面の曲率半径の減少に伴って、鋼管に対する前記当て板の設置角度を大きくすることにより、前記当て板と鋼管との接触位置を溶接位置から鋼管の周方向へと徐々にずらしていくことを特徴とする請求項5に記載の突起付き鋼管の製造方法。
【請求項7】
鋼管の外面または内面の形状に沿う円弧状の接触面を有する一対の当て板を用いて、鋼管の内面または外面に肉盛溶接により突起を形成して突起付き鋼管を製造する方法であって、
一対の前記当て板を鋼管の内面上または外面上に間隔をおいて設置して、前記接触面を鋼管の内面または外面に接触させる工程と、
前記当て板と鋼管の内面または外面とを相対的に移動させながら、前記当て板間の空間内の所定の位置で溶接により突起を形成する工程と、
を含み、
鋼管の内面または外面の曲率半径に応じて鋼管に対する前記当て板の設置角度を変化させることを特徴とする突起付き鋼管の製造方法。
【請求項8】
鋼管の内面に突起を形成する場合には鋼管の内面の曲率半径の増大に伴って、また鋼管の外面に突起を形成する場合には鋼管の外面の曲率半径の減少に伴って、鋼管に対する前記当て板の設置角度を大きくすることにより、前記当て板と鋼管との接触位置を溶接位置から鋼管の周方向へと徐々にずらしていくことを特徴とする請求項7に記載の突起付き鋼管の製造方法。
【請求項9】
鋼管の内面または外面に肉盛溶接により突起を形成して突起付き鋼管を製造するための突起付き鋼管製造装置であって、
鋼管の内面上または外面上に間隔をおいて設置される一対の当て板と、
前記当て板を鋼管の内面または外面に対して押圧接触させる押し付け手段と、
前記当て板間の空間内の所定の位置で溶接により鋼管の内面上または外面上に突起を形成する溶接手段と、
前記押し付け手段による前記当て板の鋼管に対する接触圧を所定の範囲内に制御する制御手段と、
を備え、
前記押し付け手段による前記当て板の鋼管に対する接触圧を前記制御手段により所定の範囲内に保ちつつ、前記当て板と鋼管の内面または外面とを相対的に移動させながら、前記溶接手段により鋼管に突起を形成することを特徴とする突起付き鋼管製造装置。
【請求項10】
鋼管と接触する前記当て板の接触面は、鋼管の外面または内面の形状に沿うように形成されていることを特徴とする請求項9に記載の突起付き鋼管製造装置。
【請求項11】
前記当て板の前記接触面は、所定の曲率半径を有する円弧状を成していることを特徴とする請求項10に記載の突起付き鋼管製造装置。
【請求項12】
前記押し付け手段がエアシリンダ、油圧シリンダまたはスプリングによって構成されていることを特徴とする請求項9ないし請求項11のいずれかに記載の突起付き鋼管製造装置。
【請求項13】
鋼管の内面または外面の曲率半径に応じて鋼管に対する前記当て板の設置角度を変化させる設置角度可変手段を更に備えていることを特徴とする請求項11に記載の突起付き鋼管製造装置。
【請求項14】
前記設置角度可変手段は、鋼管の内面に突起を形成する場合には鋼管の内面の曲率半径の増大に伴って、また鋼管の外面に突起を形成する場合には鋼管の外面の曲率半径の減少に伴って、鋼管に対する前記当て板の設置角度を大きくすることにより、前記当て板と鋼管との接触位置を溶接位置から鋼管の周方向へと徐々にずらしていくことを特徴とする請求項13に記載の突起付き鋼管製造装置。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate

【図7】
image rotate

【図8】
image rotate


【公開番号】特開2007−253227(P2007−253227A)
【公開日】平成19年10月4日(2007.10.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−84325(P2006−84325)
【出願日】平成18年3月25日(2006.3.25)
【特許番号】特許第3944520号(P3944520)
【特許公報発行日】平成19年7月11日(2007.7.11)
【出願人】(000002118)住友金属工業株式会社 (2,544)
【出願人】(000182982)住金大径鋼管株式会社 (12)