説明

窒化アルミニウム接合体

【課題】更に低い接合温度でも良好な接合状態を得ることができ、かつ、製造工程において加圧の必要がない窒化アルミニウム接合体、及びその製造方法を提供する。
【解決手段】窒化アルミニウムを含む棒状の取付体23と、窒化アルミニウムを含み、前記取付体23の先端部23aが支持穴25に螺合された被取付体27と、これらの取付体23と被取付体27との当接部のうち、少なくとも、前記螺合によって取付体23が圧接力を受ける圧接部に形成され、前記取付体23及び被取付体27を接合する接合層11とを備えた窒化アルミニウム接合体である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、窒化アルミニウム接合体及びその製造方法に関する。更に詳しくは、半導体製造装置の構成部品である複数の窒化アルミニウム部材同士を接合した接合体、及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、窒化アルミニウム部材同士を接合する場合、例えば、固相接合を用いることがある。固相接合は、窒化アルミニウム部材間に接合材を介在させずに固相の状態で接合を行う方法である(例えば、特許文献1参照)。
【0003】
また、窒化アルミニウム質セラミックスからなる複数の基材間に、窒化アルミニウム質セラミックスと融材とを含有する接合剤を設けたのち、所定温度に加熱しながら荷重を加えて接合体を製造する方法が知られている(例えば、特許文献2参照)。
【0004】
これらの接合技術を用いて、発熱体を有する加熱装置や電極を有する静電チャック等を構成部品とする半導体製造装置が製造されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開平8−13280号公報
【特許文献2】特許第3604888号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、前記従来の固相接合においては、良好な接合状態を得るには、接合温度を1850℃以上という高温に設定する必要があったため、窒化アルミニウム部材が接合により変形するおそれがあった。
【0007】
また、加熱装置や静電チャックの製造過程において固相接合を行う場合は、高い接合温度によって、発熱体や電極が変質したり、体積抵抗率が変化したりするおそれがあった。その結果、加熱装置の均熱性低下や静電チャックの吸着力の低下を招くおそれがあった。また、接合面の平面度を非常に良好にする必要があるため、コストアップの要因となるだけでなく、接合部の形状も限られていた。
【0008】
さらに、前記特許文献2に開示された接合方法では、明細書中[0061]に示すように、基材と接合剤を加熱すると共に、接合面に直交する方向に加圧する必要があった。
【0009】
そこで、本発明は、更に低い接合温度でも良好な接合状態を得ることができ、かつ、製造工程において加圧の必要がない窒化アルミニウム接合体、及びその製造方法を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0010】
前記目的を達成するために、本発明に係る窒化アルミニウム接合体は、窒化アルミニウムを含む棒状の取付体と、窒化アルミニウムを含み、前記取付体の先端部が支持穴に螺合された被取付体と、これらの取付体と被取付体との当接部のうち、少なくとも、前記螺合によって取付体が圧接力を受ける圧接部に形成され、前記取付体及び被取付体を接合する接合層とを備え、該接合層は、窒素、酸素、アルミニウム、カルシウムを含み、希土類元素の含有量が15重量%未満であることを特徴とする。
【0011】
前記接合層は、窒素を15〜30重量%、酸素を10〜35重量%、アルミニウムを20〜55重量%、カルシウムを5〜20重量%含むことが好ましい。
【0012】
前記取付体を、内方に貫通孔を有する円筒状に形成する一方、前記被取付体に、支持穴の底面に連通する挿通孔を形成することにより、取付体の貫通孔を前記被取付体の挿通孔に連通させることが好ましい。
【0013】
前記取付体及び被取付体は、300℃〜800℃の高温状態で使用することが出来る。
【0014】
前記被取付体は、半導体製造装置の加熱装置を構成する部材であり、取付体は、管状部材であることが好ましい。
【0015】
本発明に係る窒化アルミニウム接合体の製造方法は、窒化アルミニウムを含む棒状の取付体、及び窒化アルミニウムを含む被取付体の少なくともいずれかに接合材を塗布するステップと、前記取付体を被取付体の支持穴に螺合させて、前記取付体を前記接合材を介して被取付体に圧接させるステップと、前記取付体、接合材及び被取付体を1500℃以下の接合温度で加熱することにより、取付体を接合層を介して被取付体に接合させるステップとを有し、前記接合材は、酸化カルシウムアルミニウム、又は、酸化カルシウム及び酸化アルミニウムを含み、希土類元素が5重量%未満である融材と、窒化アルミニウム粉末とを含むことにより、取付体と被取付体との当接部のうち、少なくとも、前記螺合によって取付体が被取付体から圧接力を受ける圧接部を接合層を介して互いに接合させる方法である。
【0016】
前記製造方法において、昇温速度0.5〜10.0℃/分により前記接合温度まで昇温することが好ましい。
【0017】
前記取付体と被取付体との当接部のうち、少なくとも、前記螺合によって圧接力を受ける圧接部の平均表面粗さが0.4〜1.6μmであることが好ましい。
【発明の効果】
【0018】
本発明に係る窒化アルミニウム接合体及び製造方法によれば、複数の取付体を同時に被取付体に接合させることができる。従来、窒化アルミニウムを含む取付体と被取付体とを接合する手段は、主に固相接合や液相接合であった。また、前記特許文献2について説明したように、従来のセラミックス同士の接合では加圧工程が必要であったため、複数の取付体を同時に被取付体に接合させることは困難であった。しかし、本発明によれば、複数の取付体を同時に被取付体に接合させることができる。
【0019】
また、取付体が細い棒状のもの、例えば、細長い円柱状や円筒状の場合は、従来は取付体を被取付体に荷重を加えて押しつけることが困難であった。しかし、本発明によれば、取付体と被取付体との当接部のうち、少なくとも、螺合によって取付体が圧接力を受ける圧接部に接合層を形成する。即ち、本発明では、螺合による圧接力を利用して接合するため、取付体に荷重を加えて押しつけることは必要なくなり、取付体が細い棒状のものやであっても、効率的に窒化アルミニウム接合体を製造することができる。
【0020】
また、前記接合材は、窒化アルミニウムを含むため、窒化アルミニウムに対して接着力が高く、取付体を確実に被取付体に接合することができる。
【0021】
さらに、前記取付体と被取付体との当接部のうち、少なくとも、前記螺合によって取付体が圧接力を受ける部位に接合層を設けている。このため、接合層を設ける部位、即ち圧接部における面粗度が大きい場合でも、この接合面に形成された微少な凹凸内に接合層が入り込んで、取付体と被取付体とを確実に結合することができる。また、前記接合層は、取付体を被取付体に螺合させることにより、取付体と被取付体とで前記接合層を挟み込んで圧接力を加えるため、取付体と被取付体との間の気密性が向上する。
【0022】
さらに、取付体に形成された貫通孔と被取付体の挿通孔とは連通していることが好ましい。この場合には、取付体から被取付体に、ヘリウムガス等の流体を送給することができる。また、前記接合材によって、支持穴と取付体の先端部とを確実にシールすることができる。
【0023】
そして、本発明に係る窒化アルミニウム接合体の製造方法によれば、接合温度を1500℃以下という低温に設定するため、半導体製造装置の加熱装置における発熱体が変質せず、体積抵抗率も接合時にほとんど変化しないため、加熱装置として優れた性能を発揮する。また、接合時に取付体を被取付体に対して加圧する必要がないため、取付体を被取付体に組み付ける作業を簡素化することができる。また、窒化アルミニウム接合体を製造する設備に加圧装置を設ける必要がなくなるため、一般的な電気炉や常圧焼成炉でも窒化アルミニウム接合体を製造することが可能となる。
【0024】
なお、前記圧接部の平均表面粗さを0.4〜1.6μmとすることにより、接合材が溶融又は軟化して、前記圧接部の表面に形成された凹凸を埋めるため、取付体と被取付体との接合強度を向上させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0025】
【図1】本発明の実施形態による窒化アルミニウム接合体を示す断面図である。
【図2】本発明の他の実施形態による窒化アルミニウム接合体を示す断面図である。
【図3】本発明の実施形態による半導体製造装置の加熱装置を示す断面図である。
【図4】本発明の更に他の実施形態による窒化アルミニウム接合体を示す断面図である。
【図5】本発明の更に他の実施形態による窒化アルミニウム接合体を示す断面図である。
【図6】本発明の更に他の実施形態による窒化アルミニウム接合体を示す断面図である。
【図7】本発明の更に他の実施形態による窒化アルミニウム接合体を示す断面図である。
【図8】本発明の更に他の実施形態による窒化アルミニウム接合体を示す断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0026】
以下、本発明の実施形態による窒化アルミニウム接合体及びその製造方法について説明する。
【0027】
[接合材]
本発明の実施形態による接合材は、融材と窒化アルミニウム(AlN)粉末とを含んでおり、窒化アルミニウムを含む取付体及び被取付体同士の接合に好適に用いることができる。
【0028】
接合材は、融材を10〜90重量%、窒化アルミニウム粉末を10〜90重量%含むことが好ましい。このような融材と窒化アルミニウム粉末の配合によれば、窒化アルミニウムを含む取付体及び被取付体と接合材との熱膨張差を小さくでき、接合部分に適量の融材を残すことができる。そのため、接合部分の強度や気密性を向上することができる。接合材は、融材を80〜40重量%、窒化アルミニウム粉末を20〜60重量%含むことがより好ましい。なお、窒化アルミニウム粉末にY,Yb,Sm,Ceのような希土類元素が含まれていても良い。
【0029】
[融材]
融材は、酸化カルシウムアルミニウム(CaxAlyz)、又は、酸化カルシウム(CaO)及び酸化アルミニウム(Al23)を含む。即ち、融材は、少なくとも酸化カルシウムアルミニウムを含んでいるか、あるいは、酸化カルシウムと酸化アルミニウムの両方を含んでいる。そのため、融材は、酸化カルシウムアルミニウムだけを含む、酸化カルシウムアルミニウムと酸化カルシウムを含む、酸化カルシウムアルミニウムと酸化アルミニウムを含む、酸化カルシウムアルミニウムと酸化カルシウムと酸化アルミニウムを含む、酸化カルシウムと酸化アルミニウムを含むことが好ましい。
【0030】
また、融材は、酸化カルシウムアルミニウム(CaxAlyz)として、Ca12Al1433(x=12、y=14、z=33)、又は、Ca3Al26(x=3、y=2、z=6)の少なくとも1つを含むことができる。即ち、融材は、酸化カルシウムアルミニウムとして、Ca12Al1433だけを含んでもよく、Ca3Al26だけを含んでもよく、Ca12Al1433とCa3Al26の両方を含んでもよく、Ca12Al1433やCa3Al26に加えて、Ca12Al1433やCa3Al26以外の相の酸化カルシウムアルミニウムを含んでもよい。なお、融材中における希土類元素(Y、Yb、CeやSm)の含有率は、融材全体量に対して5重量%未満である。なお、希土類元素が全く含まれていなくても良い。また、前記接合材は、接合工程における加圧力が加わる高温状態で気密性を有する。
【0031】
[窒化アルミニウム接合体]
本実施形態に係る窒化アルミニウム接合体1は、図1に示すように、細長い円柱状(棒状)に形成された窒化アルミニウムを主成分とする取付体3と、支持穴5に取付体3の先端部3aを螺合及び接合した窒化アルミニウムを主成分とする被取付体7と、被取付体7の支持穴5の底面9全体に配設された接合層11とを備える。この接合層11は、窒素(N)、酸素(O)、アルミニウム(Al)、カルシウム(Ca)を含み、希土類元素の含有量が15重量%未満である。なお、接合層11に含まれる希土類元素は、もともと接合材に含まれているか、また、接合される対象物である取付体3や被取付体7中の窒化アルミニウムに含まれている希土類元素が接合層11に入り込む。また、希土類元素が全く含まれていなくても良い。
【0032】
このような窒化アルミニウム接合体1は、1500℃以下の低い接合温度によって得ることができるため、接合時における取付体3及び被取付体7の熱変形を抑制することができ、接合状態も良好である。また、接合層11を介して、取付体3の先端面3bと被取付体7の支持穴5の底面9とが接合されている。この取付体3を被取付体7の支持穴5に螺合させた状態では、取付体3の先端面3bが底面9の接合層11から、螺合による圧接力を受けている。また、取付体3の先端面3bと支持穴5の底面9とによって前記接合層11が挟持され、該接合層11が圧接力を受けている。このように、図1の窒化アルミニウム接合体1においては、先端面3b及び支持穴5の底面9が圧接部となっている。従って、従来のように荷重を加えることなく、螺合による圧接力を利用して接合することができるため、接合作業を簡素化できる。取付体3および被取付体7の材質は窒化アルミニウムを主成分とし、Y、Yb、CeやSmのような希土類元素を含んでいても良い。
【0033】
さらに、接合層11は、窒素を15〜30重量%、酸素を10〜35重量%、アルミニウムを20〜55重量%、カルシウムを5〜20重量%含むことが好ましい。このような接合層11の組成により、接合部分の強度や気密性を向上できる。接合層11は、例えば、化合物N−O−Al−Caや、化合物N−O−Al−Ca−X(Xは希土類元素)、酸化カルシウム、酸化アルミニウム、酸化カルシウムアルミニウム等を含むことが好ましい。
【0034】
本実施形態に係る他の窒化アルミニウム接合体21は、図2に示すように、細長い円筒状(棒状)に形成された取付体23と、支持穴25に取付体23の先端部23aを螺合及び接合した被取付体27と、被取付体27の支持穴25の底面29に配設された接合層11とを備える。この接合層11は、前記図1で説明したものと同一の組成を有する。このような窒化アルミニウム接合体21は、1500℃以下の低い接合温度によって得ることができるため、接合時における取付体23及び被取付体27の熱変形を抑制することができ、接合状態も良好である。この場合においても、従来のように荷重を加えることなく、取付体23及び被取付体27で接合層11を挟み込んで圧接しているため、窒化アルミニウム接合体21の製造過程における接合工程を簡素化することができる。
【0035】
また、取付体23は、内部に貫通孔31を有する略円筒状に形成されている。被取付体27には支持穴25が形成され、該支持穴25には、底面29に連通する挿通孔33が形成されている。従って、挿通孔33と貫通孔31とは、互いに連通しているため、取付体23の先端からHeガス等の流体が導入されると、この流体は、貫通孔31から挿通孔33に送給されるように構成されている。
【0036】
図3は、本発明の実施形態による半導体製造装置の加熱装置を示す断面図である。この加熱装置41は、被取付体である円盤状部材(プレート)42と、取付体である管状部材(シャフト)43と、これらの円盤状部材42及び管状部材43を接合する接合層11とを備えており、円盤状部材42及び管状部材43は、ともに窒化アルミニウムを含んでいる。
【0037】
円盤状部材42の内部には、発熱体45が埋設されている。該発熱体45としては、モリブデン(Mo)、タングステン(W)等の抵抗発熱体を用いることができる。また、発熱体45は、線状、コイル状、メッシュ状、シート状、バルク状等のものを用いることができる。
【0038】
円盤状部材42の上面は、半導体基板(ウェハ)が載置される載置面42aであり、該載置面42aの反対側の背面42bには、管状部材43が接合されている。具体的には、背面42bには、円環状の凹部(支持穴)46が形成されており、該凹部46の内面に接合層11が形成されている。そして、管状部材43の先端43aが凹部46に嵌合されており、この先端43aは前記接合層11を介して凹部46に嵌合及び接合されている。この場合においても、従来のように荷重を加えることなく、螺合による圧接力を利用して接合することができるため、接合体の製造過程における接合工程を簡素化することができる。なお、前記接合層11は、前記図1及び図2で説明したものと同一の組成を有する。
【0039】
また、管状部材43の内周側には、給電部材47が収納され、給電部材47の端部47aは、発熱体45の端子にろう付け等により電気的に接続されている。これにより、給電部材47は、発熱体45に電力を供給することができる。
【0040】
また、本実施形態に係る他の窒化アルミニウム接合体について、図4〜図8を用いて説明する。
【0041】
これらの窒化アルミニウム接合体51,61,71,81,91は、貫通した支持穴56を有する被取付体53,62,83に対して、取付体であるネジ52,82を螺合すると共に、ネジ52,82と被取付体53,62,83との当接部に接合層57を形成している。以下、具体的に説明する。
【0042】
図4に示す窒化アルミニウム接合体51は、取付体であるネジ52と、支持穴56を有する被取付体53と、ネジ52及び被取付体53の当接部に形成された接合層11とを備えている。
【0043】
ネジ52は、頭部54と該頭部54の下部に設けられたネジ部55とから一体形成されており、該ネジ部55が被取付体53のネジ穴56に螺合されている。また、ネジ52の螺合によって、ネジ52の頭部54の外周部下面58は、被取付体53の上面59から上方に向かう圧接力を受けている。このように、外周部下面58及び上面59が圧接部となっている。
【0044】
そして、接合層11は、ネジ52の外周部下面58と被取付体53の上面59との間、及び、ネジ52のネジ部55の外周面と被取付体53のネジ穴56の内周面との間に形成されている。この接合層11も、前記図1〜図3で説明したものと同一の組成を有する。
【0045】
次いで、図5に示す窒化アルミニウム接合体61においては、被取付体62の上面に座繰り穴64を形成し、該座繰り穴64内にネジ52の頭部54を配置している。
【0046】
この場合においても、ネジ52の螺合によって、ネジ52の頭部54の外周部下面58は、被取付体62の座繰り穴64の上面59から上方に向かう圧接力を受けている。このように、外周部下面58及び上面59が圧接部となっている。接合層11は、取付体であるネジ52の頭部54の外周部下面58と被取付体62の座繰り穴64の上面59との間、及び、ネジ52のネジ部55の外周面と被取付体62のネジ穴56の内周面との間に形成されている。この接合層11も、前記図1〜図4で説明したものと同一の組成を有する。また、ネジ52と被取付体62とによって前記接合層11が挟持されて圧接力を受けているため、窒化アルミニウム接合体61の製造過程における接合工程を簡素化することができる。
【0047】
図6に示す窒化アルミニウム接合体71は、ネジ52と被取付体53と接合層57とを備えている。この場合は、図4と比較して、ネジ部55には接合層を形成させず、ネジ52の頭部54の外周部下面58と被取付体53の上面59との間に接合層11を形成させている。このように、外周部下面58及び上面59が圧接部となっている。この接合層11も、前記図1〜図5で説明したものと同一の組成を有する。
【0048】
また、図7と図8に示す窒化アルミニウム接合体81,91は、ネジ82に軸方向に沿って貫通する貫通孔86を設けている。
【0049】
つまり、図7に示す窒化アルミニウム接合体81は、図4の窒化アルミニウム接合体51とほぼ同じ構成であるが、取付体であるネジ82の径方向中心部には軸方向に沿って貫通孔86が形成されている点が異なっている。また、図8に示す窒化アルミニウム接合体91は、図6の窒化アルミニウム接合体71とほぼ同じ構成であるが、取付体であるネジ82の径方向中心部には軸方向に沿って貫通孔86が形成されている点が異なっている。これらの窒化アルミニウム接合体81,91においても、ネジ82の螺合によって、ネジ82の頭部84の外周部下面58は、被取付体83の上面59から上方に向かう圧接力を受けている。また、窒化アルミニウム接合体81,91においては、ネジ82と被取付体83とによって接合層11が圧接力を受けている。従って、従来のように荷重を加えることなく、螺合による圧接力を利用して接合することができるため、接合体の製造過程における接合工程を簡素化することができる。なお、図7,8における接合層11も、前記図1〜図6で説明したものと同一の組成を有する。
【0050】
これらの窒化アルミニウム接合体51,61,71,81,91によれば、ネジ穴56が被取付体53,62,83の厚さ方向に貫通しているため、被取付体53,62,83の厚さを、図1,2に示す被取付体7,27よりも薄くすることができる。
【0051】
[窒化アルミニウム接合体の製造方法]
本発明の実施形態による窒化アルミニウム接合体の製造方法について、図2を参照して説明する。
【0052】
(接合材の塗布工程)
被取付体27の支持穴25の側面には、めねじが切ってある。まず、支持穴25の底面29から底面29近傍の側面にかけて接合材を塗布する。また、支持穴25の底面29の平均表面粗さは、0.4〜1.6μmである。
【0053】
この接合材は、酸化カルシウムアルミニウム、又は、酸化カルシウム及び酸化アルミニウムを含み、希土類元素が5重量%未満である融材と、窒化アルミニウム粉末とを含んでいる。また、接合材は、塗布しやすいようにIPA(イソプロピルアルコール)、エタノール等と混合して用いることができる。また、接合材をシート状に成形し、支持穴25の底面29に配置し、取付体23と被取付体27との間に挟んでもよい。接合材の量は均一となるようにし、5〜35mg/cm2とすることが好ましい。より好ましい接合材の量は、10〜30mg/cm2である。なお、希土類元素の含有量が5重量%以上の融材を用いると、加熱工程で1500℃以上の温度に加熱する必要が生じる可能性があり、接合体に変形が生じるなどの不具合が発生するおそれがある。
【0054】
(取付体の螺合工程)
次いで、取付体23の先端部23aを被取付体27の支持穴25に螺合させる。この先端部23aの外周には、おねじが切ってあり、被取付体27の支持穴25のめねじに螺合可能に形成されている。取付体23を螺合させていき、先端部23aの先端面23bが支持穴25内の接合材に当接させる。このように、本実施形態においては、取付体23を被取付体27に対して加圧する必要がない。また、取付体23の先端部23aの平均表面粗さは、0.4〜1.6μmである。
【0055】
なお、螺合の際、取付体23には0.01〜0.5Nmのトルクをかけるのが好ましい。トルクが0.01Nm未満の場合は、圧接力が不足して接合強度が下がるおそれがある。一方、トルクが0.5Nmよりも大きくなる場合は、螺合によるトルクが取付体23もしくは被取付体27の材料強度を超え、変形が生じるおそれがある。
【0056】
(加熱工程)
この状態で、取付体23及び被取付体27を窒素ガスやアルゴンガス等の不活性ガス雰囲気中又は減圧雰囲気中に配置し、1500℃以下の接合温度で加熱する。これによれば、低い接合温度で良好な接合状態を得ることができ、窒化アルミニウムを含む取付体及び被取付体の熱変形を小さくすることができる。接合温度は、1400〜1500℃であることがより好ましい。取付体23や被取付体27の大きさや形状にもよるが、1500℃以下で5分〜3時間保持することが好ましい。
【0057】
また、接合温度までは、昇温速度0.5〜10.0℃/分で昇温することが好ましい。昇温速度が0.5℃/分未満であると、融材が結晶化して融点が上がり、接合性が悪くなるおそれがある。10.0℃/分を越えると、熱応力に起因する破損や、歩留まりの低下を起こすおそれがある。
【0058】
以上説明したように、本実施形態の窒化アルミニウム接合体の製造方法によれば、1500℃以下の低い接合温度で、良好な接合状態を得ることができる。そのため、得られる窒化アルミニウム接合体は、接合状態が良好で、かつ、窒化アルミニウム焼結体の変形が小さい。しかも、接合温度が低いため、接合に必要なエネルギーを低減でき、接合後の再度の加工も不要とできることから、製造コストを大幅に低減できる。
【実施例】
【0059】
以下に、本発明を実施例を通して更に具体的に説明する。
【0060】
[実施例1]
実施例1を説明する。まず、本発明例1による窒化アルミニウム接合体について詳述する。
【0061】
(窒化アルミニウム焼結体の作製工程)
最初に、窒化アルミニウム粉末95重量%に、焼結助剤として酸化イットリウム5重量%を加え、ボールミルを用いて混合した。得られた混合粉末に、バインダを添加し、噴霧造粒法により造粒した。得られた造粒粉を金型成形及びCIPにより板状成形体と管状成形体とを成形した。得られた板状成形体(被取付体)を窒素ガス中でホットプレス法により、管状成形体(取付体)を窒素ガス中で常圧焼成により1860℃で6時間焼成した。このホットプレス焼成によって、前記板状成形体は板状焼成体となり、管状成形体は管状焼成体となった。
【0062】
次いで、前記板状焼成体には、めねじを有する支持穴を形成し、管状焼成体の先端部には、おねじを形成した。この支持穴は、管状焼成体の先端部を螺合させることができるように形成した。
【0063】
(接合工程)
酸化カルシウム(CaO)50重量%と酸化アルミニウム(Al23)50重量%からなる融材と、イットリウム(Y)を5重量%含む窒化アルミニウム粉末とを、PVAおよびエタノールに混合させてペーストにした接合材を作成した。前記板状焼成体の支持穴の底面に、接合材の量が14mg/cm2となるように接合材を均一に塗布した。
【0064】
次いで、管状焼成体の先端部を、該先端部の先端面が接合材に当接するまで、板状焼成体の支持穴に螺合させた。この状態で、管状焼成体及び板状焼成体を窒素ガス中に配置し、接合温度1450℃で2時間保持した。昇温速度は3.3℃/分とし、窒素ガス(圧力:1.5atm)は1200℃から導入した。以上の工程を表1中では「低温接合」と示す。なお、管状焼成体を螺合させたときに、0.1Nmのトルクで締め付け、管状焼成体の先端がねじ込みによる推力で板状焼成体の支持穴の底面に押し付けられるようにした。
【0065】
このように、管状焼成体を接合層を介して板状焼成体に接合させることにより、図2に示す窒化アルミニウム接合体を作製した。
【0066】
(評価方法)
前述した本発明例1による窒化アルミニウム接合体の接合部分について、強度及び気密性を評価した。強度は、JIS R1601に従い、室温で4点曲げ強度を測定した。強度は、耐久性試験前(以下「初期状態」という)、耐久性試験後にそれぞれ測定した。耐久性試験は、大気中において、窒化アルミニウム接合体を昇温速度を10℃/分として800℃まで加熱し、室温まで冷却する処理を100回繰り返して行った。
【0067】
気密性は、ヘリウムガスを窒化アルミニウム接合体の外部から導入し、接合部分から管状焼成体の管内に流入したヘリウムガスのリーク量を、ヘリウムリークディテクターを用いて測定した。
【0068】
これらの結果を下記表1に示す。
【0069】
【表1】

【0070】
表1から、本発明例1に係る窒化アルミニウム接合体は、熱サイクル試験の後において、強度の低下はほとんどみられず、ヘリウムガスのリーク量も変化がないことが確認された。
【0071】
(比較例)
また、比較例1においては、前記本発明例1と同様にして、板状焼成体と管状焼成体を作成し、管状焼成体を接合層を介して板状焼成体に接合させた。ただし、管状焼成体の先端部には、おねじを形成せず、板状焼成体の支持穴にもめねじを形成しなかった。
【0072】
さらに、比較例2,3では、管状焼成体の先端部におねじを形成し、板状焼成体の支持穴にめねじを形成したが、比較例2では、接合方法を固相接合を用い、比較例3では、液相接合の一種である固液接合を用いて接合した。
【0073】
なお、比較例2の固相接合では、具体的には、2.61×10-4mol/ccの硝酸イットリウム溶液水和物:Y(NO32・6H2O水溶液を接合面に塗布し、窒素中で1850℃まで昇温して2時間加熱することによって接合した。
【0074】
また、比較例3における固液接合では、具体的には、重量%で37wt%のCaOと、19wt%のY23と、44wt%のAl23とを混合させた混合粉末(共晶点1375℃)を接合材とし、該接合材をエタノールに混ぜて接合面に塗布し、窒素中で1600℃まで昇温して2時間加熱することにより接合を行った。
【0075】
以上の比較例1〜3の窒化アルミニウム接合体を用い、本発明例1と同様の強度及び気密性評価を行った。その結果を前記表1に示す。
【0076】
この表1から判るように、比較例1〜3では、熱サイクル試験の後において強度の低下がみられ、ヘリウムガスのリーク量も増えることが確認された。
【0077】
このように、本発明例1は、比較例1〜3に比べて、熱サイクル試験後における強度やガスリークの点で有利となることが判明した。
【0078】
[実施例2]
次に、実施例2を説明する。この実施例2は、実施例1に対して、接合材中における融材の組成のみを変えており、他の条件(例えば、窒化アルミニウム接合体の製造方法等)は全て実施例1と同一とした。
【0079】
融材の組成は、酸化カルシウムと酸化アルミニウム粉末とを下記表2に示す組成比とした。
【0080】
【表2】

【0081】
前記融材と、イットリウム(Y)を5重量%含む窒化アルミニウム粉末とを、PVAおよびエタノールに混合させてペーストにした接合材を作成した。融材と窒化アルミニウム粉末との混合比は、重量比で60:40とした。なお、接合材の塗布量は、いずれも14mg/cm2とした。
【0082】
表2から、本発明例2〜4による窒化アルミニウム接合体の方が、比較例4,5よりも接合強度が高くなることが判明した。なお、本発明例2〜4における接合層の組成は、窒素が15〜30重量%、酸素が10〜35重量%、アルミニウムが20〜55重量%、カルシウムが5〜20重量%の範囲に設定している。また、比較例4,5における接合層の組成は、これらの範囲から外れている。
【0083】
[実施例3]
次に、実施例3について説明する。この実施例3は、実施例1に対して、図2に示す先端面23b及び底面29の表面粗さのみを変えており、他の条件(例えば、窒化アルミニウム接合体の製造方法等)は全て実施例1と同一とした。
【0084】
【表3】

【0085】
表3に示すように、本発明例5〜7は、先端面23b及び底面29の平均表面粗さが0.4〜1.6μmの範囲であり、比較例6,7には平均表面粗さが0.4〜1.6μmの範囲を外れるものがあった。
【0086】
表3から、本発明例5〜7による窒化アルミニウム接合体の接合強度は、比較例6,7よりも高くなることが判明した。
【符号の説明】
【0087】
1,21…窒化アルミニウム接合体
3,23,52,82…取付体
3a,23a…先端部
5,25,56…支持穴
7,27,53,62,83,…被取付体
11…接合層
31,86…貫通孔
33…挿通孔
41…加熱装置
42…円盤状部材(被取付体)
43…管状部材(取付体)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
窒化アルミニウムを含む棒状の取付体と、窒化アルミニウムを含み、前記取付体の先端部が支持穴に螺合された被取付体と、これらの取付体と被取付体との当接部のうち、少なくとも、前記螺合によって取付体が圧接力を受ける圧接部に形成され、前記取付体及び被取付体を接合する接合層とを備え、
該接合層は、窒素、酸素、アルミニウム、カルシウムを含み、希土類元素の含有量が15重量%未満であることを特徴とする窒化アルミニウム接合体。
【請求項2】
前記接合層は、窒素を15〜30重量%、酸素を10〜35重量%、アルミニウムを20〜55重量%、カルシウムを5〜20重量%含むことを特徴とする請求項1に記載の窒化アルミニウム接合体。
【請求項3】
前記取付体を、貫通孔を有する円筒状に形成する一方、前記被取付体に、支持穴に連通する挿通孔を形成することにより、前記取付体の貫通孔を前記被取付体の挿通孔に連通させたことを特徴とする請求項1又は2に記載の窒化アルミニウム接合体。
【請求項4】
窒化アルミニウムを含む棒状の取付体、及び窒化アルミニウムを含む被取付体の少なくともいずれかに接合材を塗布するステップと、
前記取付体を被取付体の支持穴に螺合させて、前記取付体を前記接合材を介して被取付体に圧接させるステップと、
前記取付体、接合材及び被取付体を1500℃以下の接合温度で加熱することにより、取付体を接合層を介して被取付体に接合させるステップとを有し、
前記接合材は、酸化カルシウムアルミニウム、又は、酸化カルシウム及び酸化アルミニウムを含み、希土類元素が5重量%未満である融材と、窒化アルミニウム粉末とを含むことにより、
取付体と被取付体との当接部のうち、少なくとも、前記螺合によって取付体が被取付体から圧接力を受ける圧接部を接合層を介して互いに接合させる窒化アルミニウム接合体の製造方法。
【請求項5】
前記取付体と被取付体との当接部のうち、少なくとも、前記螺合によって圧接力を受ける圧接部の平均表面粗さが0.4〜1.6μmであることを特徴とする請求項4に記載の窒化アルミニウム接合体の製造方法。
【請求項6】
昇温速度を0.5〜10.0℃/分として前記接合温度まで昇温することを特徴とする請求項4又は5に記載の窒化アルミニウム接合体の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2012−31058(P2012−31058A)
【公開日】平成24年2月16日(2012.2.16)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−176513(P2011−176513)
【出願日】平成23年8月12日(2011.8.12)
【分割の表示】特願2006−344214(P2006−344214)の分割
【原出願日】平成18年12月21日(2006.12.21)
【出願人】(000004064)日本碍子株式会社 (2,325)
【Fターム(参考)】