説明

窒化物の溶解方法、窒化物の元素分離方法、合金生成方法、及び窒化物の元素回収方法

【課題】窒化物をその融点よりも低い温度で溶解して、窒化物を構成する元素を分離したり、分離した元素を含む他の合金を生成したり、分離した元素を回収して再利用できるようにする。
【解決手段】窒化物の溶解方法は、窒素とその他の元素から構成される固体の窒化物、例えばAlN結晶を用意する。その後、窒化物の元素よりも電気陰性度の小さい金属の単体又は金属の混合物の融液を用意する。例えば(Na−Li)の混合融液を用意する。その後、融液の中に、窒化物を入れて加熱することによって、窒化物を溶解する。例えばAlN結晶を(Na−Li)の混合融液に入れて溶解する。これにより、AlN結晶の融点は2000℃以上であるが、870℃で溶解した。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、窒素とその他の元素から構成される固体の窒化物を溶解する窒化物の溶解方法、窒化物から元素を分離する窒化物の元素分離方法、窒化物から他の合金を生成する合金生成方法、及び窒化物から元素を回収する窒化物の元素回収方法に関する。
【背景技術】
【0002】
一般に、窒素とその他の元素から構成される固体の窒化物、例えばAlN(窒化アルミニウム)やGaN(窒化ガリウム)の融点は、2000℃以上と高温である。そのため、AlNやGaN等からその構成元素であるAl(アルミニウム)やGa(ガリウム)を分離する場合、熱処理にコストがかかる等の問題がある。
【0003】
従来、窒化物から金属元素を回収する方法として、特許文献1〜4が提案されている。
【0004】
特許文献1は、金属ウランだけでなくウランの酸化物や窒化物の使用済み酸化物燃料を塩素ガスで塩素化し、得られた塩化物を溶融塩に溶解し、液体カドミウムと接触させて不純物元素を抽出した後、この溶融塩から金属ウランを電解回収する。回収した金属ウランは液体カドミウムに溶解し、ウラン−カドミウム合金とすると同時に、取り込まれている塩を層分離する方法が開示され、金属ウラン回収後の溶融塩は、液体カドミウム陰極を用いて電解し、ウラン−プルトニウム−カドミウム合金として回収することが記載されている。
【0005】
特許文献2は、小片にした使用済窒化物燃料を陽極電解してウランおよびプルトニウムを含む超ウラン元素の窒化物を溶融塩中に溶解する工程と、陰極電位を制御して溶融塩中のウランのみを固体陰極に析出させるとともにプルトニウムを含む超ウラン元素を濃縮する工程と、液体カドミウム陰極を電解槽中に設置し、電位を制御してプルトニウムを含む超ウラン元素をウランとともに液体カドミウム陰極に析出させる工程とを含む方法が開示されている。
【0006】
特許文献3は、使用済み窒化物核燃料を溶融塩中に溶解し、次いで溶融塩中に窒化リチウムを添加することで再窒化することにより、ウラン、プルトニウム等のアクチノイド元素を核分裂生成物から分離、回収する方法が開示されている。
【0007】
特許文献4は、窒化物からその構成元素を分離、回収する方法ではないが、炭化ケイ素基板上第III族元素窒化物のヘテロエピタキシャル構造物から表面調整された炭化ケイ素基板を回収するための方法が開示されている。
【0008】
【特許文献1】特開2000−284090号公報
【特許文献2】特開平11−064576号公報
【特許文献3】特開平10−010285号公報
【特許文献4】特表2001−525121号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
しかしながら、特許文献1〜4はいずれも、窒化物をその融点よりも低い温度で溶解して、窒化物を構成する元素を分離したり、分離した元素を含む他の合金を生成したり、分離した元素を回収して再利用するという考えはない。
【0010】
本発明はこのような課題を考慮してなされたものであり、窒化物をその融点よりも低い温度で溶解することができる窒化物の溶解方法を提供することにある。
【0011】
また、本発明の他の目的は、窒化物をその融点よりも低い温度で溶解し、窒化物を構成する元素を分離することができる窒化物の元素分離方法を提供することにある。
【0012】
また、本発明の他の目的は、窒化物をその融点よりも低い温度で溶解し、さらに、窒化物を構成する元素を分離して、該元素と他の金属との合金を生成することができる合金生成方法を提供することにある。
【0013】
また、本発明の他の目的は、窒化物をその融点よりも低い温度で溶解し、窒化物を構成する元素を分離して、窒化物の構成元素を回収することができる窒化物の元素回収方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0014】
第1の本発明に係る窒化物の溶解方法は、窒素とその他の元素から構成される固体の窒化物を溶解する窒化物の溶解方法であって、前記窒化物の前記元素よりも電気陰性度の小さい金属の単体又は前記金属の混合物を用いて、前記窒化物を溶解することを特徴とする。
【0015】
第2の本発明に係る窒化物の元素分離方法は、窒素とその他の元素から構成される窒化物から前記元素を分離する方法であって、前記窒化物の前記元素よりも電気陰性度の小さい金属の単体又は前記金属の混合物を用いて、前記窒化物を溶解し、前記元素を窒素から分離することを特徴とする。
【0016】
第3の本発明に係る合金生成方法は、窒素とその他の元素から構成される窒化物から他の合金を生成する合金生成方法であって、前記窒化物の前記元素よりも電気陰性度の小さい金属の単体又は前記金属の混合物を用いて、前記窒化物を溶解して前記元素と前記金属を含む溶解液とする工程と、前記溶解液を冷却して前記元素と前記金属を含む合金とする冷却工程とを有することを特徴とする。
【0017】
第4の本発明に係る窒化物の元素回収方法は、窒素とその他の元素から構成される窒化物から前記元素を回収する方法であって、前記窒化物の前記元素よりも電気陰性度の小さく、且つ、前記元素と融点の異なる金属の単体又は前記金属の混合物を用いて、前記窒化物を溶解して前記元素と前記金属を含む溶解液とする工程と、前記溶解液を冷却して、前記元素を固体状態及び前記金属を液体状態とし、又は前記元素を液体状態及び前記金属を固体状態とする工程とを有し、前記固体状態の元素又は前記液体状態の元素を回収することを特徴とする。前記元素を固体状態又は液体状態とするかは、前記元素と前記金属との組み合わせにより選択することができる。
【0018】
第5の本発明に係る窒化物の元素回収方法は、窒素とその他の元素から構成される窒化物から前記元素を回収する方法であって、前記窒化物の前記元素よりも電気陰性度の小さく、且つ、前記元素と融点の異なる金属の単体又は前記金属の混合物を用いて、前記窒化物を溶解して前記元素と前記金属を含む溶解液とする工程と、前記溶解液を冷却して前記元素と前記金属からなる合金を含む固化物とする工程と、前記固化物を加熱して、前記元素を固体状態及び前記金属を液体状態とし、又は前記元素を液体状態及び前記金属を固体状態とする工程とを有し、前記固体状態の元素又は前記液体状態の元素を回収することを特徴とする。
【0019】
ここで、電気陰性度とは、イオン化エネルギーの絶対値と電子親和力の絶対値の平均を基にした性質であって、電子を引きつける度合いを示す。従って、例えば元素Aよりも電気陰性度が大きい元素は、元素Aよりも陰イオンになり易いことを示し、元素Aよりも電気陰性度が小さい元素は、元素Aよりも陽イオンになり易いことを示す。
【0020】
そして、上述の第1〜第5の本発明において、窒化物を溶解する工程は、前記元素よりも電気陰性度の小さい金属の単体の融液(熱によって固体から液体に変化した状態)又は前記元素よりも電気陰性度の小さい複数の金属の混合融液に前記窒化物を入れて、前記窒化物を溶解することを特徴とする。
【0021】
また、上述の第1〜第5の本発明において、前記窒化物を溶解する工程は、前記窒化物の融点の1/2以下の温度で前記窒化物を溶解することを特徴とする。
【0022】
前記窒化物がAlN(窒化アルミニウム)で、前記元素がAl(アルミニウム)の場合、前記元素よりも電気陰性度の小さい金属としては、アルカリ金属、Be(ベリリウム)を除くアルカリ土類金属、第3族元素、Ti(チタン)を除く第4族元素の単体や、これらの混合物を使用することができる。
【0023】
前記窒化物がGaN(窒化ガリウム)で、前記元素がGa(ガリウム)の場合、前記元素よりも電気陰性度の小さい金属としては、アルカリ金属、アルカリ土類金属、第3族元素、第4族元素、V(バナジウム)やNb(ニオブ)を除く第5族元素、Mn(マンガン)の単体や、これらの混合物を使用することができる。
【発明の効果】
【0024】
以上説明したように、本発明に係る窒化物の元素溶解方法によれば、窒化物をその融点よりも低い温度で溶解することができる。
【0025】
また、本発明に係る窒化物の元素分離方法によれば、窒化物をその融点よりも低い温度で溶解し、窒化物を構成する元素を分離することができる。
【0026】
また、本発明に係る合金生成方法によれば、窒化物をその融点よりも低い温度で溶解し、さらに、窒化物を構成する元素と窒素を分離して、該元素と他の金属との合金を生成することができる。
【0027】
また、本発明に係る窒化物の元素回収方法によれば、窒化物をその融点よりも低い温度で溶解し、窒化物を構成する元素を分離して、窒化物の構成元素を回収することができる。
【0028】
このように、窒化物をその融点よりも低い温度で溶解することができることから、窒化物からその構成元素を分離して再利用するためのコストを大幅に低減することが可能となり、窒化物の構成元素の再利用を普及させることができる。これは、窒化物の廃棄処分から再利用への転換につながり、環境にやさしい技術として注目される。
【発明を実施するための最良の形態】
【0029】
以下、本発明に係る窒化物の溶解方法、窒化物の元素分離方法、合金生成方法及び窒化物の元素回収方法をAlN及びGaNに適用した実施の形態例を図1〜図5を参照しながら説明する。
【0030】
先ず、本発明に至る経緯について簡単に説明する。AlN結晶やGaN結晶の融点は2000℃以上と高く、これらの結晶からAlやGaを分離しようとする場合、熱処理にコストがかかるという問題がある。
【0031】
そこで、密度汎関数理論に基づくコンピュータシミュレーションの結果、AlやGaよりも電気陰性度の小さい金属の融液中にAlN結晶やGaN結晶を入れて加熱することで、AlN結晶やGaN結晶の融点よりも低い温度で溶解できる可能性を見い出した。
【0032】
具体的には、以下の手順にてコンピュータシミュレーションを行った。
【0033】
(1)AlN結晶から、4つのAl原子と1つのN原子による1つの四面体を切り出す。
【0034】
(2)四面体の周囲に融液として検討する元素を配置させた初期構造を作る。
【0035】
(3)コーンシャム方程式を解いて、安定な電子状態を計算する。
【0036】
(4)エネルギーが下がる方向に原子を動かす。
【0037】
(5)(3)→(4)の処理を、エネルギー的に安定な構造が得られるまで繰り返す。
【0038】
(6)得られた安定構造において、初期の四面体が維持されているか、壊れているかを調べる。
【0039】
このコンピュータシミュレーションでの仮定は、(6)において、四面体が維持されていれば、AlN結晶が溶けにくい、四面体が壊れれば、AlN結晶が溶け易いというものである。
【0040】
四面体(AlN結晶)の周囲に融液として検討する元素(検討元素)として、Sn(錫)、Ga(ガリウム)、Zn(亜鉛)、Al(アルミニウム)、Mg(マグネシウム)、Ca(カルシウム)、Sr(ストロンチウム)、Ba(バリウム)を候補に挙げて、シミュレーションした。その結果を、表1に示す。
【0041】
【表1】

【0042】
本結果から、Alよりも電気陰性度の小さい元素の融液中ではAlN結晶は溶け易いと予想された。次に、融液が2種類以上の元素で構成される場合についてもシミュレーションした。その結果、Alよりも電気陰性度の小さい元素を組み合わせた融液の場合においてAlN結晶は溶け易いと予想された。
【0043】
同様に、四面体(GaN結晶)の周囲に融液として検討する元素(検討元素)として、Ga(ガリウム)、Na(ナトリウム)を候補に挙げて、シミュレーションした。その結果を、表2に示す。
【0044】
【表2】

【0045】
この知見に基づいて、実験を行った結果、Alより電気陰性度が大きいSn(錫)の融液中にAlN結晶を入れて加熱すると、AlN結晶は1000℃でも溶解しないが、Alより電気陰性度が小さい(Na−Li)の混合物の融液中では870℃でも溶けることが実験で確認された。
【0046】
そして、本実施の形態に係る窒化物の溶解方法は、図1に示すように、ステップS1において、窒素とその他の元素から構成される固体の窒化物、例えばAlN結晶やGaN結晶を用意する。
【0047】
その後、ステップS2において、窒化物の元素よりも電気陰性度の小さい金属の単体又は金属の混合物の融液を用意する。以下の説明では、窒化物を溶解するために用いられる融液に含まれる金属を融液金属と定義し、液体状態、固体状態を含む。
【0048】
窒化物がAlN結晶であれば、AlN結晶の構成元素であるAlの電気陰性度が1.5であることから、電気陰性度が1.5よりも低い金属の単体又は金属の混合物の融液を用意する。コストや入手の簡易さを考慮すると、この金属としては、アルカリ金属(Li、Na、K、Rb、Cs)、アルカリ土類金属(Mg、Ca、Sr、Ba)、第3族元素(Sc、Y、ランタノイド(La、Ce、Pr、Nd、Sm、Eu、Gd、Tb、Dy、Ho、Er、Tm、Yb、Lu))、第4族元素(Zr、Hf)の単体や、これらの混合物を使用することができる。
【0049】
窒化物がGaN結晶であれば、GaN結晶の構成元素であるGaの電気陰性度が1.6であることから、電気陰性度が1.6よりも低い金属の単体又は金属の混合物の融液を用意する。コストや入手の簡易さを考慮すると、この金属としては、アルカリ金属(Li、Na、K、Rb、Cs)、アルカリ土類金属(Be、Mg、Ca、Sr、Ba)、第3族元素(Sc、Y、ランタノイド)、第4族元素(Ti、Zr、Hf)、Ta(タンタル)、Mn(マンガン)の単体や、これらの混合物を使用することができる。
【0050】
本実施の形態では、(Na−Li)の混合融液を使用した。
【0051】
その後、ステップS3において、ステップS2で用意した融液の中に、ステップS1で用意した窒化物を入れて加熱することによって、窒化物を溶解した。本実施の形態では、AlN結晶を(Na−Li)の混合融液に入れて溶解した。同様に、GaN結晶を(Na−Li)の混合融液に入れて溶解した。
【0052】
溶解した温度を確認した結果、AlN結晶の融点は2000℃以上であるが、870℃で溶解した。同様に、GaN結晶の融点も2000℃以上であるが、850℃で溶解した。
【0053】
本実施の形態に係る窒化物の元素溶解方法によれば、AlN結晶やGaN結晶をその融点よりも低い温度で溶解することができる。特に、本実施の形態では、(Na−Li)の混合融液を使用するようにしたので、AlN結晶やGaN結晶の融点(2000℃以上)の1/2以下の温度でAlN結晶やGaN結晶を溶解することができた。このように、AlN結晶やGaN結晶をその融点よりも低い温度で溶解することができることから、AlN結晶やGaN結晶からその構成元素AlやGaを分離して再利用するためのコストを大幅に低減することが可能となる。
【0054】
次に、本実施の形態に係る窒化物の元素分離方法について図2を参照しながら説明する。
【0055】
先ず、図2のステップS101において、窒素とその他の元素から構成される固体の窒化物、例えばAlN結晶やGaN結晶を用意する。
【0056】
その後、ステップS102において、窒化物の元素よりも電気陰性度の小さい金属の単体又は金属の混合物の融液を用意する。例えば(Na−Li)の混合融液を用意する。
【0057】
その後、ステップS103において、融液の中に窒化物を入れて加熱することにより、窒化物を溶解する。例えば(Na−Li)の混合融液にAlN結晶を入れて、温度900℃で溶かすことによって、N(窒素)を蒸発させることで、Al(アルミニウム)とN(窒素)を分離させる。同様に、例えば(Na−Li)の混合融液にGaN結晶を入れて、温度900℃で溶かすことによって、N(窒素)を蒸発させることで、Ga(ガリウム)とN(窒素)を分離させる。
【0058】
このように、本実施の形態に係る窒化物の元素分離方法によれば、窒化物をその融点よりも低い温度で溶解し、窒化物を構成する元素を分離することができる。
【0059】
次に、本実施の形態に係る合金生成方法について図3を参照しながら説明する。
【0060】
先ず、図3のステップS201において、窒素とその他の元素から構成される固体の窒化物、例えばAlN結晶やGaN結晶を用意する。
【0061】
その後、ステップS202において、窒化物の元素よりも電気陰性度の小さい金属の単体又は金属の混合物の融液を用意する。例えば(Na−Li)の混合融液を用意する。
【0062】
その後、ステップS203において、融液の中に窒化物を入れて加熱することにより、窒化物を溶解する。例えば(Na−Li)の混合融液にAlN結晶を入れて、温度900℃で溶かすことによってN(窒素)を蒸発させ、Al(アルミニウム)、Na(ナトリウム)及びLi(リチウム)を含む溶解液とする。同様に、例えば(Na−Li)の混合融液にGaN結晶を入れて、温度900℃で溶かすことによってN(窒素)を蒸発させ、Ga(ガリウム)、Na(ナトリウム)及びLi(リチウム)を含む溶解液とする。
【0063】
その後、ステップS204において、上述した溶解液を冷却することによって、窒化物の元素と融液の金属を含む合金を生成する。例えばAl(アルミニウム)、Na(ナトリウム)及びLi(リチウム)を含む溶解液を室温まで冷却することによって、Al−Li−Na合金が生成される。同様に、Ga(ガリウム)、Na(ナトリウム)及びLi(リチウム)を含む溶解液を室温まで冷却することによって、Ga−Li−Na合金が生成される。
【0064】
このように、本実施の形態に係る合金生成方法によれば、窒化物をその融点よりも低い温度で溶解し、さらに、窒化物を構成する元素を分離することによって、該元素と他の金属との合金を生成することができる。
【0065】
次に、本実施の形態に係る窒化物の元素回収方法の2つの方法(第1回収方法及び第2回収方法)について説明する。
【0066】
最初に、第1回収方法について図4を参照しながら説明する。
【0067】
先ず、図4のステップS301において、窒素とその他の元素から構成される固体の窒化物、例えばAlN結晶やGaN結晶を用意する。
【0068】
その後、ステップS302において、窒化物の元素よりも電気陰性度の小さい金属の単体又は金属の混合物の融液を用意する。例えば(Na−Li)の混合融液を用意する。
【0069】
その後、ステップS303において、融液の中に窒化物を入れて加熱することにより、窒化物を溶解する。例えば(Na−Li)の混合融液にAlN結晶を入れて、温度900℃で溶かすことによってN(窒素)を蒸発させ、Al(アルミニウム)、Na(ナトリウム)及びLi(リチウム)を含む溶解液とする。同様に、例えば(Na−Li)の混合融液にGaN結晶を入れて、温度900℃で溶かすことによってN(窒素)を蒸発させ、Ga(ガリウム)、Na(ナトリウム)及びLi(リチウム)を含む溶解液とする。
【0070】
その後、ステップS304において、上述した溶解液を所定温度まで冷却して、窒化物の元素を固体状態及び融液の金属を液体状態とし、又は窒化物の元素を液体状態及び融液の金属を固体状態とする。例えばAl(アルミニウム)、Na(ナトリウム)及びLi(リチウム)を含む溶解液を冷却する場合、Al、Na及びLiの融点は、それぞれ660℃、98℃、180℃であることから、所定温度を180℃〜660℃(180℃よりも高く、且つ、660℃未満)の間に設定することで、Alは固体状態、溶融金属(Na及びLi)は液体状態となる。もちろん、後述するように、溶融金属の種類により、Alが液体状態で、溶融金属が固体状態の場合もあり得る。
【0071】
従って、その後のステップS305において、固体状態の元素(例えばAl)を液体状態の溶融金属(例えばNa及びLi)から容易に取り出すことができ、あるいは液体状態の元素を固体状態の溶融金属から容易に取り出すことができる。すなわち、窒化物の構成元素(例えばAl)を容易に回収することができ、再利用することができる。
【0072】
表3に、溶融金属(単体の場合)にAlN結晶を入れて溶解することによって出来た溶解液を設定温度まで冷却したときのAlの状態と溶融金属の状態を示す。参考に、溶融金属の電気陰性度(ポーリング)と融点も示す。
【0073】
【表3】

【0074】
一方、例えばGa(ガリウム)、Na(ナトリウム)及びLi(リチウム)を含む溶解液を冷却する場合、Ga、Na及びLiの融点は、それぞれ30℃、98℃、180℃であることから、所定温度を30℃〜98℃(30℃よりも高く、且つ、98℃未満)の間に設定することで、Gaは液体状態、溶融金属(Na及びLi)は固体状態となる、もちろん、後述するように、溶融金属の種類により、Gaが固体状態で、溶融金属が液体状態の場合もあり得る。従って、固体状態Gaを液体状態の溶融金属から容易に取り出すことができ、あるいは液体状態のGaを固体状態の溶融金属から容易に取り出すことができる。すなわち、GaN結晶の構成元素であるGaを容易に回収することができ、再利用することができる。
【0075】
表4に、溶融金属(単体の場合)にGaN結晶を入れて溶解することによって出来た溶解液を設定温度まで冷却したときのGaの状態と溶融金属の状態を示す。
【0076】
【表4】

【0077】
次に、第2回収方法について図5を参照しながら説明する。
【0078】
先ず、図5のステップS401〜ステップS403は、上述した第1回収方法のステップS301〜ステップS303と同じであるため、その重複説明を省略する。
【0079】
そして、次のステップS404において、上述した溶解液を冷却することによって、窒化物の元素と融液の金属からなる合金を含む固化物を生成する。例えばAl(アルミニウム)、Na(ナトリウム)及びLi(リチウム)を含む溶解液を室温まで冷却することによって、Al−Li−Na合金が生成される。同様に、Ga(ガリウム)、Na(ナトリウム)及びLi(リチウム)を含む溶解液を室温まで冷却することによって、Ga−Li−Na合金が生成される。
【0080】
その後、ステップS405において、その固化物を所定温度まで加熱して窒化物の元素を固体状態及び融液の金属を液体状態とし、又は窒化物の元素を液体状態及び融液の金属を固体状態とする。これは、上述した第1回収方法のステップS304とほぼ同じであるため、その重複説明を省略する。
【0081】
従って、その後のステップS406において、固体状態の元素(例えばAl)を液体状態の溶融金属(例えばNa及びLi)から容易に取り出すことができ、あるいは液体状態の元素を固体状態の溶融金属から容易に取り出すことができる。すなわち、窒化物の構成元素(例えばAl)を容易に回収することができ、再利用することができる。
【0082】
このように、本実施の形態に係る窒化物の元素回収方法は、窒化物をその融点よりも低い温度で溶解することができることから、窒化物からその構成元素を分離して再利用するためのコストを大幅に低減することが可能となり、窒化物の構成元素の再利用を普及させることができる。これは、窒化物の廃棄処分から再利用への転換につながり、環境にやさしい技術として注目される。
【0083】
上述の例では、AlN結晶、GaN結晶を主体に説明したが、その他の窒化物、例えばBN(窒化ホウ素)、Si34(窒化ケイ素)、InN(窒化インジウム)等にも適用させることができる。
【0084】
なお、本発明に係る窒化物の溶解方法、窒化物の元素分離方法、合金生成方法及び窒化物の元素回収方法は、上述の実施の形態に限らず、本発明の要旨を逸脱することなく、種々の構成を採り得ることはもちろんである。
【図面の簡単な説明】
【0085】
【図1】本実施の形態に係る窒化物の溶解方法を示す工程ブロック図である。
【図2】本実施の形態に係る窒化物の元素分離方法を示す工程ブロック図である。
【図3】本実施の形態に係る合金生成方法を示す工程ブロック図である。
【図4】本実施の形態に係る窒化物の元素回収方法(第1回収方法)を示す工程ブロック図である。
【図5】本実施の形態に係る窒化物の元素回収方法(第2回収方法)を示す工程ブロック図である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
窒素とその他の元素から構成される固体の窒化物を溶解する窒化物の溶解方法であって、
前記窒化物の前記元素よりも電気陰性度の小さい金属の単体又は前記金属の混合物を用いて、前記窒化物を溶解することを特徴とする窒化物の溶解方法。
【請求項2】
窒素とその他の元素から構成される窒化物から前記元素を分離する方法であって、
前記窒化物の前記元素よりも電気陰性度の小さい金属の単体又は前記金属の混合物を用いて、前記窒化物を溶解し、前記元素を窒素から分離することを特徴とする窒化物の元素分離方法。
【請求項3】
窒素とその他の元素から構成される窒化物から他の合金を生成する合金生成方法であって、
前記窒化物の前記元素よりも電気陰性度の小さい金属の単体又は前記金属の混合物を用いて、前記窒化物を溶解して前記元素と前記金属を含む溶解液とする工程と、
前記溶解液を冷却して前記元素と前記金属を含む合金とする工程とを有することを特徴とする合金生成方法。
【請求項4】
窒素とその他の元素から構成される窒化物から前記元素を回収する方法であって、
前記窒化物の前記元素よりも電気陰性度の小さく、且つ、前記元素と融点の異なる金属の単体又は前記金属の混合物を用いて、前記窒化物を溶解して前記元素と前記金属を含む溶解液とする工程と、
前記溶解液を冷却して、前記元素を固体状態及び前記金属を液体状態とし、又は前記元素を液体状態及び前記金属を固体状態とする工程とを有し、
前記固体状態の元素又は前記液体状態の元素を回収することを特徴とする窒化物の元素回収方法。
【請求項5】
窒素とその他の元素から構成される窒化物から前記元素を回収する方法であって、
前記窒化物の前記元素よりも電気陰性度の小さく、且つ、前記元素と融点の異なる金属の単体又は前記金属の混合物を用いて、前記窒化物を溶解して前記元素と前記金属を含む溶解液とする工程と、
前記溶解液を冷却して前記元素と前記金属からなる合金を含む固化物とする工程と、
前記固化物を加熱して、前記元素を固体状態及び前記金属を液体状態とし、又は前記元素を液体状態及び前記金属を固体状態とする工程とを有し、
前記固体状態の元素又は前記液体状態の元素を回収することを特徴とする窒化物の元素回収方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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