説明

窒素溶解冷水を用いるすり身製造方法

【課題】冷凍すり身製造の水洗い工程、水晒し工程に用いる水を改良すること及び凍結工程を改良することにより、魚のすり身に鮮度低下抑制という付加価値を与え消費効果を増大させる。
【解決手段】魚のすり身製造工程のうちの水晒し工程に用いる水を温度摂氏5〜15度の窒素冷水とすることを最も主要な特徴とする。窒素を溶かし込んで酸素を追い出した冷水(摂氏0度から5度の間)を、水洗い工程及び水晒し工程に用いる。さらに、冷凍工程において、コンタクトフリーザー室内を真空状態にして水分を除去し、次に窒素ガスをフリーザー室内に注入し室内を窒素ガスで充満させ、すり身製品が窒素ガスでコーティングされたところを凍結する。凍結の際の温度を氷点下40度とし、冷凍保管温度を氷点下35度とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、魚の冷凍すり身の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
これまでの冷凍すり身製造は、第一工程:原料処理。第二工程:水洗い。第三工程:採肉。第四工程:水晒し。第五工程:裏ごし。第六工程:脱水。第七工程:計量。第八工程:冷凍(摂氏マイナス30度)。第九工程:冷凍保管(摂氏マイナス25度)。というものが一般的であった。
このうちの第四工程:水晒しは、一般的には、冷水(摂氏12度〜15度の水道水又は地下水であって、溶存酸素量は1リットルあたり8ミリグラムから14ミリグラム)で行っている。
水晒し工程に用いる水は、特許文献1においては、水、冷水、水道水である。特許文献2においては、食塩水、pHを6−6.5に調整した水、塩化マグネシウムや塩化カルシウムと食塩との併用、キトサン水溶液などが提案されている。
一方、特許文献3には、窒素ガス封入氷、窒素ガス封入氷製造装置、窒素ガス封入氷製造方法、鮮魚保存装置及び鮮魚保存方法が開示されている。水槽内の水に窒素ガスを多く溶かし込むべく、大気中の窒素ガスを脱気装置により抽出して水槽内の水に強制的に溶解させ、窒素ガスの溶け込んだ水を製氷機で凍らせ、窒素ガスを封入した氷を前記水槽内にその水面を覆うほどに浮かべた状態にて、さらに当該水槽内の水に窒素ガスを溶解させるというサイクルを何度か繰り返してなるものである。一般に温度が低いほど気体がより多く水に溶け込むという性質があること、窒素ガスを強制的に水槽内の水に溶かすことで水の中の酸素が追い出されること、水槽内の水の表面を氷で覆うことで水槽内の水が直接大気に接しないため大気内の酸素が水槽内の水に溶け込まないこと、水槽内の水の表面に浮かんでいる氷は窒素ガスを封入した氷なのでその氷が溶けることによって水槽内の水の窒素ガス濃度は高まることが期待できることにより窒素ガスを多く含有した冷水を製造することができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2003−284531号公報
【特許文献2】特開平10 −042833号公報
【特許文献3】特許第4079968号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
水洗い工程及び水晒し工程は、魚肉中に含まれる冷凍変性促進成分の除去や、色調の向上のために、冷凍すり身製造では重要な工程であり、それらの工程においていかなる水を用いるかは、重要な問題である。また、すり身は加工食品としてみた場合中間生成物であって、これを原料としてかまぼこやおでんの具などの製品を製造するものだから、その鮮度を維持することが重要であり、凍結工程もまた重要である。
解決しようとする課題は、冷凍すり身製造の水洗い工程、水晒し工程に用いる水を改良すること及び凍結工程を改良することにより、魚のすり身に鮮度低下抑制という付加価値を与え消費効果を増大させることである。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明は、魚のすり身製造工程のうちの水晒し工程に用いる水を温度摂氏5〜15度の窒素冷水とすることを最も主要な特徴とする。窒素を溶かし込んで酸素を追い出した窒素溶解冷水(摂氏0度から5度の間)を、水洗い工程及び水晒し工程に用いる。
さらに、冷凍工程において、コンタクトフリーザー室内を真空ポンプにより真空状態にして水分を除去し、次に窒素ガスをフリーザー室内に注入し室内を窒素ガスで充満させ、すり身製品が窒素ガスでコーティングされたところを凍結する。凍結の際の温度を氷点下40度とし、冷凍保管温度を氷点下35度とする。
【発明の効果】
【0006】
本発明のすり身製造方法は、すり身の鮮度低下抑制の効果がある。
すり身に付加価値を与え消費効果を増大させる。
【図面の簡単な説明】
【0007】
【図1】図1は、本発明に係るすり身製造工程の手順を示す流れ図である。
【発明を実施するための形態】
【0008】
本発明に係るすり身製造方法は、原料処理工程、水洗い工程、採肉工程、水晒し工程、裏ごし・脱水・計量工程、冷凍工程、冷凍保管工程を有するすり身製造方法において、水洗い工程及び水晒し工程に用いる水が窒素を多く溶かし込んだ窒素溶解冷水であるものである。水に窒素を多く溶解させて窒素溶解冷水をつくる方法として、特許文献3に開示された方法を用いることができる。
不純物を取り除くなどの処理を施した処理水を摂氏8度以下(雑菌の増殖しない温度)まで冷却する。次に大気中から抽出した窒素ガスを冷却循環を行うことで短時間に水中に溶解させ酸素溶存量1リットルあたり0.1ミリグラムの冷水を製造する。ここで、大気中から窒素ガスを抽出する装置については、特許文献3の実施形態で言及している脱気装置を用いることができる。「冷却循環」の意味は、特許文献3に開示されているように、タンク中の冷水に窒素ガスを曝気して、冷水中の酸素を追い出す。その水の一部を取り出して製氷装置により氷(シャーベット状態でもよい)をつくり、タンクに戻す。氷がタンク内の水面を覆うようになると、大気中の酸素がタンク内の水に溶け込むのを水面に浮いた氷が妨害する。この状態で、窒素ガスの曝気、製氷、氷をタンクに戻す、という一連の流れを繰り返すことで、タンク内の冷水の酸素溶存濃度は低くなっていく。酸素溶存濃度計をタンクに取り付けておき、酸素溶存量が1リットルあたり0.1ミリグラムにまで下がったところで、すり身製造ラインの水洗い工程、水晒し工程に用いる。
【0009】
窒素ガスを多く含んだ冷水を水洗い工程及び水晒し工程に使用することで、すり身から酸素を追い出し、窒素ガスと置き換える効果が期待できる。それによりすり身の酸化を予防することが期待される。また、従来水洗い及び水晒しに大量の水を用い、繰り返し行っていたところを、使用する水の量を減らし、繰り返しの回数を減らす効果が期待される。
【0010】
さらに本発明にあっては、すり身製品の凍結工程においても、窒素雰囲気における凍結を行うことで製品の品質を高める。
コンタクトフリーザーは、すり身製品を大量に同様の厚さで冷凍するために用いる冷凍設備であって、通常横幅が2メートル、高さが1.5メートル程度の大きさの箱状のものである。横に扉がついていて、中にはフラットタンクと呼ばれる水平の棚状の金属板が複数設けられていて、その間隔は調整可能となっている。すり身製品の凍結の際には、フラットタンクの間隔を拡げた状態で計量したすり身製品を置く。一面に敷き詰めてから所定の間隔で上のフラットタンクを油圧ポンプにより下げてすり身製品に接するようにする。この作業をすべてのフラットタンクについて終えてから、扉をしめて、所定の機械的な圧力をフラットタンク全体にかけつつ、温度をさげて凍結するものである。
本発明では、このコンタクトフリーザーにすり身製品を敷き詰めて、フラットタンクに機械的な圧力をかけた状態で、このコンタクトフリーザー室内を真空ポンプを用いて真空にする(減圧する)。このときコンタクトフリーザー室内の余分な水分は除去され、また酸素濃度が低くなる。次に窒素ガスをコンタクトフリーザー室内に注入し室内に充満させる。すり身製品が窒素ガスでコーティングされたところを凍結する。これにより製品の劣化が防止される。
真空ポンプによる減圧をどこまで行うかは、余分な水分の除去に必要な程度であって、凍結に必要な水分を奪わない程度である。真空ポンプを稼働し続けることは凍結に必要な水分まで奪うこととなるので望ましくない。また、コンタクトフリーザー室内の気圧を低くしたまま凍結を行うことは各種装置に余計な負荷をかけて、その劣化、消耗を招く可能性があるので好ましくない。そこで窒素ガスを注入する。注入に用いる窒素ガスは前述の脱気装置によって大気から取り込んだものをもちいることができる。窒素ガスの注入により、コンタクトフリーザー室内の酸素濃度は相対的により低くなる。これによりすり身製品を劣化させる可能性のある酸素の濃度を低くした状態での凍結が実現される。
なお、
【0011】
本発明にあっては、望ましくは冷凍工程における温度を従来よりも10度程度低く設定し、摂氏マイナス40度の温度を用いる。
【0012】

さらに好ましくは、冷凍保管工程における温度を従来よりも10度低く設定し、摂氏マイナス35度とする。
【産業上の利用可能性】
【0013】
おでんの具や、かまぼこなどの魚肉練り製品の原料として用いることができる。
【符号の説明】
【0014】
10 原料処理工程
20 水洗い工程
30 採肉工程
40 水晒し工程
50 裏ごし工程
60 脱水工程
70 計量工程
80 冷凍工程
90 冷凍保管工程

【特許請求の範囲】
【請求項1】
原料処理工程と、水洗い工程と、採肉工程と、水晒し工程と、裏ごし・脱水・計量工程と、凍結工程と、冷凍保管工程とを有する魚のすり身製造方法であって、
前記水洗い工程及び水晒し工程に用いる水が、冷水に窒素を多く溶かし込ませた窒素溶解冷水であることを特徴とするすり身製造方法。
【請求項2】
請求項1に記載したすり身製造方法であって、
前記窒素溶解冷水は、
不純物を取り除く処理を施した処理水を摂氏8度以下まで冷却してタンク内に入れ、
大気中から抽出した窒素ガスを該タンク内の水に曝気して、
該タンク内の水の一部を製氷装置により凍らせて氷をつくり、前記タンクに戻し、
該タンク内の水面が該氷によって覆われた状態で、タンク内への窒素ガスの曝気・タンク内の水の一部を取り出して製氷・製氷した氷のタンクへの投入を繰り返し、
酸素溶存量が1リットルあたり0.1ミリグラムにまでさがったものであることを特徴とするすり身製造方法。
【請求項3】
請求項1又は2のいずれか一に記載したすり身製造方法であって、
前記凍結工程は、
コンタクトフリーザー室内のフラットタンクにすり身製品を敷き詰めて、
油圧ポンプによりフラットタンクに圧力をかけて、
コンタクトフリーザー室内を真空ポンプを用いて減圧し、
窒素ガスをコンタクトフリーザー室内に注入し室内に充満させ、
すり身製品が窒素ガスでコーティングされたところで氷点下40度の温度で凍結する
ことを特徴とするすり身製造方法。
【請求項4】
請求項3に記載したすり身製造方法であって、
前記真空ポンプによる減圧は、
余分な水分の除去に必要な程度であって、かつ、凍結に必要な水分を奪わない程度である
ことを特徴とするすり身製造方法。
【請求項5】
請求項1、2、3又は4のいずれか一に記載したすり身製造方法であって、
前記冷凍保管工程は、氷点下35度の温度で行うことを特徴とするすり身製造方法。

【図1】
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【公開番号】特開2012−29604(P2012−29604A)
【公開日】平成24年2月16日(2012.2.16)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−170822(P2010−170822)
【出願日】平成22年7月29日(2010.7.29)
【出願人】(507212816)株式会社マルサ笹谷商店 (2)
【出願人】(505447629)株式会社昭和冷凍プラント (5)
【Fターム(参考)】