説明

立体映像投映用スクリーン

【課題】 巻取り、折り畳み可能なシルバースクリーンを実現する。
【解決手段】 繊維性の基布10に樹脂層を層着した投映用スクリーンにおいて、樹脂層を構成する樹脂11に銀色の金属粉を混ぜ合わせ、これを巻芯1に巻取り可能な巻取り型スクリーンや、内側皮膜31と外側皮膜間32の空気を陰圧又は陽圧に保つことによりドーム形状に保形する二重空気膜構造からなるエアードームスクリーンとする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明はプロジェクターから立体映像を投映する際に使用する立体映像投映用スクリーンに関し、より詳細にはビニールなどの可撓性素材からなるスクリーンにおけるシルバースクリーン加工に関する。
【背景技術】
【0002】
プロジェクターからスクリーンに立体映像を投映することが広く行なわれている。これは人間の両眼視差による立体知覚を利用して立体映像表示を行うものであるが、プロジェクター投映により立体映像を表示する手段としては下記のものがある。
(1) アクティブ(能動)型
(A) 時分割方式(液晶シャッター方式)
(2) パッシブ(受動)型
(A) 直線偏光方式
(B) 円偏光方式
(C) アナグリフ方式(カラー化は難しい)
(D) 波長分割方式(干渉フィルターを用い、光の三原色をそれぞれ2分し、6つの光の領域に分割した方式)
【0003】
前記のように立体映像を表示する手段としてはさまざまな方式があり、観客が掛ける立体視用のめがねは、それぞれの方式に従って用意されている。この場合、多くの観客を動員した映像展示ではこのめがねに掛けるコストが少しでも安価であることが望ましい。この点、映像を左眼と右眼とで別の液晶などのシャッタを介して見ることで映像が立体視されるアクティブ型はめがねの製造コストが非常に高く、大人数の映像展示には向いていない。
【0004】
一方、パッシブ型で偏光を利用した直線偏光、円偏光の方式は、めがねを紙とプラスチック偏光板で作ることができるのでコストが安く、使い捨てなど、展示運営の手間を省くには理想的といえる。図1は偏光を用いて立体視を行う投映システムを図示したものであり、図中符号P1は右目用のプロジェクター、F2は右目用の偏光フィルター、P2は左目用のプロジェクター、F2は左目用の偏光フィルターを指す。
【0005】
この場合、プロジェクターから出た偏光性を持った光はスクリーンSに反射し、偏光面を維持したまま偏光めがねGを通過して正しく観客の目に帰らなければならない。仮に、プロジェクターから出た光がスクリーン面で拡散すると偏光面が回転して反射されてしまうので立体視が不可能になる。そのため、スクリーンSはプロジェクターから出た光が入射した角度と同じ角度をもって反射する鏡面反射効果を持ったものが要求される。そのようなものとして、金属的な光沢を有する、いわゆるシルバースクリーンが用いられている。
【0006】
前記のシルバースクリーンは、アルミニウム粉など銀色の金属粉を混ぜた塗料をスクリーンの基体に塗布することにより製造され、使用されていた(例えば、特許文献2)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2004- 250909
【特許文献2】特開2007- 178582号公報
【特許文献3】実願昭58年126807号の願書に添付した明細書及び図面の内容を撮影したマイクロフイルム
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
ところで、立体映像施設を仮設可能に構成したり、簡易な工法で施行する場合、立体映像が投映されるスクリーンは搬送や折り畳みの容易性のために剛体でなく、ビニールのような可撓性素材により構成されることが一般的である。
【0009】
また、ドームスクリーン施設においては、簡易な工法で施行するために、ドーム状に構成した皮膜内に送風することによりドーム形状に保形するエアードームスクリーン(例えば、特許文献1)や、内側皮膜と外側皮膜間の空気を陰圧又は陽圧に保つことによりドーム形状に保形する二重空気膜構造からなるエアードームスクリーンが用いられており、このスクリーンもビニールのような可撓性素材により構成される(例えば、特許文献3)。
【0010】
以上の場合において、シルバースクリーンはビニールのような可撓性素材により構成される基体に金属粉を混ぜた塗料を塗布することにより得られるが、塗料に強度がなく剥がれやすい問題があった。一般的には塗膜の強度を上げるために焼き付け塗装が行なわれるが、以上の場合においてはスクリーンの基体は剛体でなく、ビニールのような樹脂素材なのでこの手段は採用できなかった。
【0011】
この場合、立体映像を専用に上映している常設館のようにスクリーンが平面や張設状態で固定されている場合は塗膜への影響は少ない。しかしながら、ビニールのような可撓性素材によりスクリーンの基体を構成する理由は、例えば図2に示すようにスクリーンSを巻芯1に巻取り可能な巻取り型スクリーンとして使用したり、仮設の映像施設において仮設の都度折り畳み、張設を繰り返さなければならないからである。
【0012】
よって、巻取り型スクリーンの場合は巻取りにより塗膜が撓み、皺がよったり剥がれたりするので塗装によるシルバースクリーンは使用できない問題があった。同様に仮設の映像施設においても巻き取ったり、折り畳んだすると塗膜が撓み、皺がよったり剥がれたりするので再使用ができなくなる問題があった。
【0013】
そのため、イベントなどの仮設的な映像展示において立体映像を投映しようとする場合、シルバースクリーンを予め巻き取ったり、折り畳んで搬入することができず、また、再使用もできないので多大のコストを要することとなる問題を生じた。
【0014】
一方、仮設の施設でなくともエアードームスクリーン施設においては、施行にあたりスクリーンを折り畳んだ状態で現場に搬入するとやはり塗膜が撓み、皺がよったり剥がれたりするので、シルバースクリーンのための塗装はスクリーンの取り付け後に現場で行なわなければならなかった。そのため効率が悪いだけでなく、工場で予め塗装する場合に比べ塗装の精度が取りにくく、立体視効果に影響を与えるおそれもあった。また、一旦取り付けてしまうと再使用できない問題もあった。さらに、エアードームスクリーンは内側皮膜と外側皮膜間の空気を陰圧又は陽圧に保つことによりドーム形状に保形するので、内側皮膜の内面にシルバースクリーンのための塗装を施した場合、メンテナンスなどのために空気膜を外気と同じ気圧にすると内側皮膜が変形して塗膜が撓み、皺がよったり剥がれたりするおそれがあった。簡易な工法で施行できるエアードームスクリーンは、全天周映画やプラネタリウムを手頃なコストで実現できるので有用であるが、これを立体映像化できないことは大きな問題であった。
【課題を解決するための手段】
【0015】
本願発明は、以上の問題点を解決した立体映像投映用スクリーンを提供することを目的として創作されたものである。すなわち、請求項1記載の立体映像投映用スクリーンは繊維性の基布に樹脂層を層着した投映用スクリーンにおいて、樹脂層を構成する樹脂に銀色の金属粉を混ぜ合わせたことを特徴とする。
【0016】
また、請求項2に記載の立体映像投映用スクリーンは、前記請求項1記載のスクリーンにおいて繊維性の基布に樹脂層を層着したスクリーン基体の表面に銀色の金属粉を混ぜ合わせた樹脂層を層着したことを特徴とする。
【0017】
また、請求項3に記載の立体映像投映用スクリーンは、前記請求項1記載のスクリーンを、巻芯に巻取り可能な巻取り型スクリーンとしたことを特徴とする。
【0018】
また、請求項4に記載の立体映像投映用スクリーンは、前記請求項1記載のスクリーンを、ドーム状に構成した空気膜内に送風することによりドーム形状に保形するエアードームスクリーンとしたことを特徴とする。
【0019】
また、請求項5に記載の立体映像投映用スクリーンは、前記請求項1記載のスクリーンを、内側皮膜と外側皮膜間の空気を陰圧又は陽圧に保つことによりドーム形状に保形する、二重空気膜構造からなるエアードームスクリーンとしたことを特徴とする。
【発明の効果】
【0020】
以上の構成よりなるこの発明の立体映像投映用スクリーンによれば、銀色の塗装を施すのではなく、スクリーンの基布に層着する樹脂層を構成する樹脂自体に銀色の金属粉を混ぜ合わせることによりシルバースクリーンを得るので、内部に銀色の金属粉を混ぜ合わせた銀色部分(樹脂層)と基布は一体化する。よって、スクリーンが折れ曲がったり、撓んだりしても銀色部分に皺がよったり剥がれたりすることがない。また、塗装による塗膜と異なり銀色部分はスクリーンを構成する層の一部として相応の厚みを持っているので、万が一外力により傷がついてもシルバースクリーンの反射特性に変化を及ぼすことはない。
【0021】
一方、銀色部分は塗装のように後から施すのでなく、スクリーンの一部として工場で施されるので、塗装のような現場作業が不要となり、施行の効率がよくなるだけでなく、現場で施行する場合に比べ厚みなどの精度が正確となり、より確実な立体視効果を得ることができる。
【0022】
また、請求項2に記載の立体映像投映用スクリーンは、繊維性の基布に樹脂層を層着したスクリーン基体の表面に銀色の金属粉を混ぜ合わせた樹脂層を層着することにより得られるので、スクリーン基体として既成の幕生地を利用して容易にシルバースクリーンを得ることができる。また、エアードームスクリーンの場合は、空気膜構造に使用される幕生地は構造計算により型番が決められている場合があるので、既成の幕生地を利用できるこの発明は非常に有用である。
【図面の簡単な説明】
【0023】
【図1】立体映像投映用スクリーン一般の使用法を示す概念図。
【図2】この発明の立体映像投映用スクリーンの使用法を示す概念図。
【図3】この発明の立体映像投映用スクリーンの第1実施例の断面図。
【図4】この発明の立体映像投映用スクリーンの第2実施例の断面図。
【図5】この発明の立体映像投映用スクリーンの第2実施例の製法を示す概念図。
【図6】この発明の立体映像投映用スクリーンの異なる使用法を示す概念図。
【図7】この発明の立体映像投映用スクリーンの異なる使用法を示す概念図。
【発明を実施するための形態】
【0024】
以下、本願発明の具体的実施例を添付図面に基づいて説明する。図3はこの発明の立体映像投映用スクリーンの第1実施例の断面図である。図中符号1はスクリーンの芯材となる基布である。この基布1は繊維性の素材からなるものであり、繊維糸としてはガラス繊維やポリエステル繊維が使用される。図中符号11は上記の基布1に層着される樹脂層である。樹脂層11は塩化ビニール樹脂やポリウレタン樹脂が使用され、溶融状態においてアルミニウム粉などの銀色の金属粉を混ぜ合わせられる。
【0025】
図4はこの発明の立体映像投映用スクリーンの第2実施例の断面図である。図中符号13は既成の幕生地からなるスクリーン基体であり、ガラス繊維やポリエステル繊維などの繊維性の基布10に樹脂層12を層着した構成よりなる。図中符号14は上記のスクリーン基体13に層着される樹脂層である。樹脂層14は塩化ビニール樹脂やポリウレタン樹脂が使用され、溶融状態においてアルミニウム粉などの銀色の金属粉を混ぜ合わせられる。
【0026】
図5は前記の第2実施例の立体映像投映用スクリーンの製造工程を示す図である。ビニール幕などのスクリーン基体16は搬送ローラ16により転写ローラ15と接触しながら移送され、樹脂層14を形成するための溶融状態の樹脂14Aは転写ローラを介してスクリーン基体16に層着される。図中符号17は転写ローラ15に付着された溶融状態の樹脂14Aの厚みをならすためのブレードである。
【0027】
以上の構成よりなるこの発明の立体映像投映用スクリーンは、映写試験の結果、図1に示された偏光の方向性をそのまま再現して観客のめがねに入ることが確認され、パッシブ型で偏光を利用した立体映像用スクリーンとして使用可能であることが確認された。
【0028】
図2は以上の構成よりなる立体映像投映用スクリーンSの使用法を示す図である。ここではスクリーンSは、巻芯1に巻取り可能な巻取り型スクリーンとして構成される。図中符号P1は立体映像投映用スクリーンSに立体映像を投映するための右目用のプロジェクター、F2は右目用の偏光フィルター、P2は左目用のプロジェクター、F2は左目用の偏光フィルターである。
【0029】
図6は以上の構成よりなる立体映像投映用スクリーンSの異なる使用法を示す図である。ここでは、スクリーンSはドーム状に構成した空気膜に送風することによりドーム形状に保形するエアードームスクリーンとして構成される。図中符号33は上記空気膜中に空気を送風するための送風機である。この実施例のエアードームスクリーンにおいては全天映像を投映するための魚眼レンズもしくは超広角レンズを装備したプロジェクターと観客の正面に四角い画面を作り出すための通常の画角を持つ立体映像投映用プロジェクターを併用している。図中符号P9は全天映像用のプロジェクターである。また、図中符号P20は通常の画角を持つ右目用の立体映像投映用プロジェクター、F20は右目用の偏光フィルター、P21は左目用の立体映像投映用プロジェクター、F21は左目用の偏光フィルターである。
【0030】
図7は以上の構成よりなる立体映像投映用スクリーンSの異なる使用法を示す図である。ここでは、スクリーンSは内側皮膜31と外側皮膜間32の空気を陰圧又は陽圧に保つことによりドーム形状に保形する二重空気膜構造からなるエアードームスクリーンとして構成される。図中符号33は上記空気膜中の空気を吸引または送風するための送風機である。この実施例のエアードームスクリーンにおいては全天映像を投映するための魚眼レンズもしくは超広角レンズを装備した立体映像投映用プロジェクターと観客の正面に四角い画面を作り出すための通常の画角を持つ立体映像投映用プロジェクターを併用している。図中符号P10は全天映像用の右目用の立体映像投映用プロジェクター、F10は右目用の偏光フィルター、P11は左目用の立体映像投映用プロジェクター、F11は左目用の偏光フィルターである。また、図中符号P20は通常の画角を持つ右目用の立体映像投映用プロジェクター、F20は右目用の偏光フィルター、P21は左目用の立体映像投映用プロジェクター、F21は左目用の偏光フィルターである。
【符号の説明】
【0031】
S スクリーン
10 基布
11 樹脂層
12 スクリーン基体
14 樹脂層

【特許請求の範囲】
【請求項1】
繊維性の基布に樹脂層を層着した投映用スクリーンにおいて、樹脂層を構成する樹脂に銀色の金属粉を混ぜ合わせたことを特徴とする立体映像投映用スクリーン。
【請求項2】
繊維性の基布に樹脂層を層着したスクリーン基体の表面に銀色の金属粉を混ぜ合わせた樹脂層を層着した立体映像投映用スクリーン。
【請求項3】
スクリーンは、巻芯に巻取り可能な巻取り型スクリーンである請求項1又は2記載の立体映像投映用スクリーン。
【請求項4】
スクリーンは、ドーム状に構成した空気膜内に送風することによりドーム形状に保形するエアードームスクリーンである請求項1又は2記載の立体映像投映用スクリーン。
【請求項5】
スクリーンは、内側皮膜と外側皮膜間の空気を陰圧又は陽圧に保つことによりドーム形状に保形する、二重空気膜構造からなるエアードームスクリーンである請求項1又は2記載の立体映像投映用スクリーン。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2012−159684(P2012−159684A)
【公開日】平成24年8月23日(2012.8.23)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−19259(P2011−19259)
【出願日】平成23年1月31日(2011.1.31)
【出願人】(511027747)株式会社MOONBOY−45 (1)
【Fターム(参考)】