説明

立体構造経編地及び該立体構造経編地を用いてなる繊維製品

【課題】クッション性や厚み保持性、形態安定性を保持したまま、通気性を向上させて蒸れ感を抑制すると共に、風合いを向上させた立体構造経編地を用いてブラジャーのカップ部やその他繊維製品を形成する。
【解決手段】立体構造編地のコース方向断面において、二つの地組織面に対して斜交した連結糸が前記二つの地組織を連結している構造を含む立体構造経編地であって、前記二つの地組織のうち、一方の第1地組織は前記連結糸と連結されていないループを所要の間隔で備えている一方、他方の第2地組織は、すべてのループが1本の連結糸と連結編成されている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、立体構造経編地及び該立体構造経編地を用いてなる繊維製品に関し、詳しくは、立体構造経編地の優れたクッション性や厚み保持性、形態安定性を保持したまま、通気性や風合いを向上させた立体構造経編地及び該立体構造経編地を用いてなる繊維製品に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、ブラジャー用カップ材などの素材として、ウレタンフォームや不織布素材などが用いられている。
前記ウレタンフォームは、洗濯耐久性や圧縮回復耐久性に優れるものの、通気性が悪いため着用時の発汗による蒸れが発生しやすいという問題がある。さらに、耐光性が悪いため紫外線によって黄変劣化しやすい等の問題もある。
一方、不織布素材は通気性には優れるが、圧縮回復耐久性に劣り、型崩れが発生しやすいという問題がある。
【0003】
近年、二つの地組織と該二つの地組織を連結する連結糸からなる立体構造経編地がその優れた反発性、クッション性などから多岐の分野にわたって利用されるようになっており、衣料分野においては一般衣料やスポーツ衣料、インナー衣料等に、更に資材分野においてはインテリア表皮材などに広く利用されている。特に、形態安定性や洗濯耐久性に優れた前記立体構造経編地は、ブラジャー用カップ材等の素材として注目されている。
【0004】
従来、立体構造編地1は、図9に示すコース方向に沿った概略断面図のように、1本の連結糸4が第1の地組織2と第2の地組織3のすべてのループに連結編成されている。即ち、編針数と同数の編糸で地組織が編成され、これに対応する連結糸が第1の地組織2と第2の地組織3のすべてのループに連結編成されており、連結糸4の地組織2、3に対する角度を変化させたり(図10)、連結糸4の繊度を変化させたりすることによって、立体構造経編地1の厚み保持性やクッション性を向上させている。
【0005】
一方、前記立体構造経編地は風合いが比較的硬めであり、クッション性を高めるために連結糸にモノフィラメント糸を用いる場合がある。しかしながら、この場合、編地に圧力が加わると、モノフィラメント糸が地組織の隙間や縫製部から飛び出し、肌着の素材として用いると、肌を刺激して不快感を与える場合がある。また、前記立体構造経編地では、肌と接触している部分で空気の循環が十分に行われず、蒸れの解消が不十分な場合がある。
【0006】
そこで、特開2000−160459号公報(特許文献1)では、前記のような肌への刺激をなくすために、連結糸としてマルチフィラメント糸を用いた立体構造経編地が提案されている。
しかし、前記マルチフィラメント糸では糸が柔らかく、立体構造経編地のクッション性や厚み保持性が低下しやすいことから、クッション性や厚み保持性を維持するために、連結糸の繊度を大きくしたり、連結糸の本数を多くしたりして、連結糸の硬さを高める方法がとられている。しかし、該方法では、立体構造経編地の目付けが重くなり、かつ、地組織間に多くの連結糸を連結することによって連結糸間の空隙が少なくなって通気性が悪化し、さらに、布帛が硬くなりやすい問題がある。
【0007】
また、特開平11−200106号公報(特許文献2)では、立体構造経編地の表裏2枚の編地のうち、少なくとも肌側の糸としてセルロース系長繊維を用いて、蒸れ感を抑えたブラジャーカップ材が提案されている。
しかし、前記構成としても、着用時に発汗量が多い場合には十分な蒸れ感を抑えることができず、また、洗濯回数を増やすと風合いが変化するという問題もある。
【0008】
【特許文献1】特開2000−160459号公報
【特許文献2】特開平11−200106号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明は前記問題に鑑みてなされたものであり、立体構造経編地の優れたクッション性や厚み保持性、形態安定性を保持したまま、通気性を向上させて蒸れ感を抑制すると共に、風合いを向上させた立体構造経編地を提供することを課題としている。
また、前記立体構造経編地を用いてなる繊維製品を提供し、ブラジャーのカップ部など肌に接触する部分に用いたときの着用感を高めることを課題としている。
【課題を解決するための手段】
【0010】
前記課題を解決するため、本発明は、第1の発明として、立体構造編地のコース方向断面において、二つの地組織面に対して斜交した連結糸が前記二つの地組織を連結している構造を含む立体構造経編地であって、
前記二つの地組織のうち、一方の第1地組織は前記連結糸と連結されていないループを所要の間隔で備えている一方、
他方の第2地組織は、すべてのループが1本の連結糸と連結編成されていることを特徴とする立体構造経編地を提供している。
【0011】
前記のように、第2地組織では全てのループに1本の連結糸を連結しているため、連結糸の本数や連結数は従来と同様であるが、第1地組織では連結糸と連結していないループを設けているため、第1地組織の連結糸と連結するループには2本以上の連結糸が連結される。即ち、第2地組織から第1地組織に向かって連結糸がコース方向に異なる角度で斜め方向に編成される。例えば、第1地組織に連結糸で連結されたループと連結糸と連結されないループとを交互に設ける構成とする場合、第2地組織で2個のループと編成連結した2本の連結糸を第1地組織で1個のループと連結編成することとなり、連結糸は第1、第2地組織間に略三角状で連結編成される。この略三角形状に連結編成した連結糸がコース方向において第1、第2地組織間に並列に設けられ、第1地組織の連結糸と連結していないループ位置では逆三角形状の空隙が生じる。
【0012】
このように、本発明では、第1地組織には連結糸と連結していないループを設けているため、第1地組織側の通気性を第2地組織側より向上させることができ、かつ、第1、第2地組織のすべてのループを連結糸で連結編成した従来の構造に比べて、連結糸間の空隙が大きくなり、連結糸間の通気性を向上させることができる。よって、立体構造経編地全体の通気性を向上させることができ、発汗による水分をすばやく乾燥させ、蒸れ感やベトツキ感を減少させることができる。
【0013】
また、連結糸の形状を前記した略三角形状、更には該略三角形状に連結編成した連結糸を第1地組織の隣接するループに形成した場合には略台形状となり、第1、第2地組織のコース方向のずれを発生させにくくでき、優れた形態安定性や厚み保持性、クッション性を保持させることができる。よって、ブラジャー等のカップ部の素材、スポーツ衣料資材のほか、シューズ素材や椅子張り素材等として、より通気性とクッション性とを兼ね備えた素材となる。
【0014】
さらに、第1地組織では、連結糸が連結編成されないループが連結糸で連結編成されるループに比べて小さくなり、第1地組織に大小のループが生じ、連結糸で連結されない第1地組織の通気性を第2地組織側より高めることができる。
さらに、連結糸の連結編成されたループの少ない前記第1地組織は、他方の第2地組織に比べて風合いが柔らかくなる。
よって、本発明の立体構造経編地を用いた繊維製品において、第1地組織を肌側として用いると、蒸れを防ぎ着用感を高めることができると共に、着用感をより向上させることもできる。
【0015】
前記連結糸で連結される第1、第2地組織のウエル方向は全針で編成して前記ループを設け、コース方向は前記連結糸と第2地組織のループとの編成比率を100%とすると、該連結糸と第1地組織のループとの編成比率は30〜75%としていることが好ましい。該第1地組織における前記連結糸の振り巾を1〜6針とし、該第1地組織ではコース方向に1〜6ループをあけて連結糸で連結していることが好ましい。
【0016】
即ち、第1地組織における連結糸の連結密度を30〜75%としていることが好ましい。前記連結糸の連結密度が30〜75%であることが好ましいのは、連結密度が30%未満であると形態安定性やクッション性が十分得られない場合がある一方、連結密度が75%を越えると連結糸の密度が高くなり、十分な連結糸間空隙が形成されず、通気性が損なわれるおそれがあることによる。
【0017】
かつ、第1地組織における前記連結糸の振り巾を1〜6針とし、該第1地組織ではコース方向に1〜6ループをあけて連結糸で連結していることが好ましい。
前記振り巾とは、経編機の筬が経編針列に沿って一方向に移動する際の、移動対象編針の数もしくは移動対象ウエル数のことをいい、振り巾が1針とは、例えば図2に示すように、第1地組織から第2地組織に真っ直ぐに(斜め方向ではなく)連結編成させることをいう。
前記連結糸の振り巾を1〜6針とするのが好ましいのは、振り巾が6針より大きくなると編成しにくくなると共に、布帛の目付けが大きくなりやすいためである。
【0018】
前記した振り巾として、第1地組織において、連結糸が連結編成されるループとループの間隔を1〜6ループとしていることが好ましい。該ループ間隔は広くすることで通気性を高めることができるが、間隔が6ループより大きくなると編成しにくくなったり、形態安定性やクッション性が十分に得にくくなる。
【0019】
本発明で用いる立体構造経編地を構成する繊維としては、例えば、ポリエチレンテレフタレート等のポリエステル系繊維、ナイロン等のポリアミド系繊維、セルロース系再生繊維、ポリアクリロニトリル系繊維、木綿、絹、ウール等の天然繊維、およびこれらの混繊繊維等が挙げられるが、加熱圧縮成型性、圧縮反発性、耐洗濯性、柔軟性等の点からポリエステル系繊維を主体とする構成にすることが好ましい。
【0020】
また、前記立体構造経編地をインナー素材のカップ部を形成する素材として用いる場合、連結糸としては、単糸繊度が3〜6dtexの糸で構成された繊度が33〜110dtexのマルチフィラメント糸を用いることが好ましい。
単糸繊度が3〜6dtexであることが好ましいのは、単糸繊度が3dtex未満であると繊維の強度および弾性力が弱いため形態安定性が低下してコシのない編地になりやすい一方、単糸繊度が6dtexより大きくなると連結糸が硬くなるため、立体構造経編地の表面に連結糸が飛び出して着用感が悪くなったり、布帛が硬化して風合いが悪くなったりするおそれがあることによる。
また、マルチフィラメント糸の繊度を33〜110dtexとするのが好ましいのは、繊度が33dtex未満であると繊維の弾性力が弱いため形態安定性が低下しやすくなる一方、繊度が110dtexより大きくなると布帛が硬化して風合いが悪くなるおそれがあることによる。
【0021】
前記のようなマルチフィラメント糸を用いると、成型時の高圧下においても、連結糸が異なる角度で表裏の地組織を連結しているので圧力が分散され、連結糸が折れることが少ないので圧縮反発性に優れたものとなる。また、マルチフィラメント糸は同繊度のモノフィラメント糸に比べて加熱されても糸が硬化しにくいため、布帛の柔軟性が損なわれにくく、十分な厚み保持性や形態安定性、圧縮反発性を確保することができる。
一方、連結糸としてモノフィラメント糸を用いると、成形時の高温高圧によって布帛が硬化して柔軟性が損なわれ、布帛の形態安定性や圧縮反発性が悪化したり、連結糸が地組織面に飛び出して着用感が悪化したりするおそれがある。
【0022】
また、本発明で用いる立体構造経編地は、相対する2列の針床を有するダブルラッセル編機、Vベッドを有する経編機などを用いて編成することができるが、寸法安定性のよい立体構造経編地を得るためには、前記ダブルラッセル編機を用いることが好ましい。また、編機のゲージを9〜28ゲージとすることが好ましい。
また、第1、第2地組織を、表面に開口部のない平坦な組織とすることにより、インナー素材やスポーツ素材に用いた場合、開口部から連結糸が飛び出すことを防止して、良好な着用感を得ることができると共に、透けを防止することができる。また、椅子等の表皮材に用いた場合は、良好な着座感と風合を得ることが出来る。また、肌側の地組織上に凹凸やメッシュ構造の組織部を組み合わせて編成することにより、蒸れ感やベトツキ感をさらに低減することができる。
【0023】
さらに、本発明で用いる前記立体構造経編地は、KES−F8通気性試験機による通気度測定値が0.02KPa・s/m以下であることが好ましい。
立体構造経編地の通気度測定値が0.02KPa・s/m以下であることが好ましいのは、通気度測定値が0.02KPa・s/mを超えると、該立体構造経編地を胸衣用として用いた場合に、蒸れ感を生じるおそれがあることによる。
【0024】
また、前記立体構造経編地においては、ウエル方向かコース方向のいずれか一方の布帛硬度が80〜120mmであることが好ましい。布帛硬度が80〜120mmであることが好ましいのは、布帛硬度が120mmを超えると布帛の風合いが硬くなるおそれがある一方、布帛硬度が80mm未満であると柔軟性が大きすぎ、形態安定性に欠けるおそれがあるからである。特に、ブラジャーのカップ素材として用いた場合、乳房形状等の補正が適切に行えなくなる場合がある。
なお、本発明における布帛硬度とは、JIS L 1018 カンチレバー法にて測定したものである。
【0025】
また、前記立体構造経編地は、布帛の厚みが2〜12mmであることが好ましく、特に2.5〜8mmであることが好ましい。
布帛の厚みを2〜12mmとするのが好ましいのは、厚みが2mm未満であると形態安定性や圧縮反発性が損なわれるおそれがある一方、厚みが12mmを越えると布帛が重くなったり、風合いが悪くなったりするおそれがあることによる。
【0026】
前記立体構造経編地の質量(目付け)としては、250〜370g/mであることが好ましく、特に280〜350g/mであることが好ましい。
立体構造経編地の質量を250〜370g/mとすることが好ましいのは、質量が250g/m未満であると反発力や形態安定性が損なわれるおそれがある一方、質量が370g/mを越えると柔軟性が損なわれるおそれがあることによる。
【0027】
さらに、本発明は第2の発明として、前記立体構造経編地を用いてなることを特徴とする繊維製品を提供している。
前述したように、前記立体構造経編地を用いてなる繊維製品は、優れた形態安定性や厚み保持性、クッション性を保持させることができるうえ、通気性に優れるので、ブラジャー等のカップ部の素材、スポーツ衣料資材のほか、シューズ素材や椅子張り素材等の繊維製品に好適に用いられる。特に、ブラジャー等のカップ部を有する衣類としていることが好ましい。
また、前述した理由により、前記立体構造経編地の第1地組織を肌側に位置させていることが好ましい。
【0028】
なかでも、前記繊維製品は、前記立体構造経編地をカップ部に用いたカップ部を有する衣類として好適に用いることができる。
前記カップ部は加熱プレスして膨出部を形成することが好ましい。
このように、立体構造経編地を加熱プレスしてカップ部の膨出部を形成した後においても、カップ部は優れたクッション性や厚み保持性、形態安定性を保持すると共に、通気性や風合いも良好な状態を保つことができる。したがって、前記カップ部を有する衣類を着用したとき、乳房形状の適度な補正力を保持しつつ、発汗などによる蒸れ感やベトツキ感、肌への不快な刺激などのない優れた着用感を得ることができる。
【0029】
前記立体構造経編地を加熱プレスしてカップ部の膨出部を形成する際の成型条件としては、例えば、成型温度は200〜240℃、成形時間は30〜60秒とすることが好ましい。特に、成形温度230℃、成形時間45秒とすることが好ましい。
また、成型後のカップ部の厚みとしては、成型前の立体構造経編地の厚みの半分程度となることが好ましい。
成型後のカップ部の通気度としては、KES−F8通気性試験機による通気度測定値が0.025KPa・s/m以下であることが好ましい。
【0030】
また、前記立体構造経編地を、ブラジャーのカップ素材として用いた場合、布帛の厚みが2〜6mmであることが好ましく、特に2〜4mmであることが好ましい。
布帛の厚みを2〜6mmとするのが好ましいのは、厚みが2mm未満であると形態安定性や圧縮反発性が損なわれたり、透けやすくなったりするおそれがある一方、厚みが6mmを越えると布帛が重くなったり、風合いが悪くなったりするおそれがあることによる。
布帛の厚みは、実施例に記載の方法で測定している。
【0031】
さらに、前記立体構造経編地は、カップ部のみならず、カップ部とカップ部に接する脇部の一部に渡って用いることもできる。
さらに、前記のように立体構造経編地を加熱プレスせず、立体構造経編地を縫製処理することによってカップ部を形成してもよい。
【0032】
前記カップ部を有する衣類としては、ブラジャーの他、例えば、ブラ付きシャツなどのアウターウェア、キャミソールやブラスリップ、ボディスーツなどのインナーウェア、レオタードや水着等に好適に用いることができる。
【発明の効果】
【0033】
前述したように、第1の発明によれば、第1地組織と第2地組織とを連結糸で連結した立体構造経編地のコース方向断面において、第1地組織が、前記連結糸で連結されないループを所定の間隔で有するため、連結糸で連結されない第1地組織の通気性が第2地組織より向上する。また、第1地組織が前記連結糸で連結されないループを所定の間隔で有するのに対して、他方の第2地組織はすべて1本の連結糸で連結されているため、連結糸間の空隙が大きくなって連結糸間の通気性も向上する。したがって、前記第1地組織側で通気性が高まると同時に連結糸間でも通気性が向上し、立体構造経編地全体の通気性を向上させることができ、発汗による水分をすばやく乾燥させ、蒸れ感やベトツキ感を減少させることができる。
【0034】
また、前記したように、連結糸の連結数は従来と変化させることなく、第1地組織から第2地組織に向かって連結糸が異なる角度で斜め方向に張り出す構造のものを含むため、第1、第2地組織のコース方向のずれが生じにくくなり、優れた形態安定性や厚み保持性、クッション性を保持させることができる。
【0035】
さらに、前記のように、連結糸の連結編成数の少ない第1地組織は、第2地組織に比べて風合いが柔らかくなるため、この面を肌に接触する側の面とすることにより、着用感を向上させることもできる。
また、前記したように、連結糸が連結されていない地組織部分は通気性がよいため、前記連結糸で連結されないループを有する第1地組織を肌に接触する側の面とすることにより、発汗による水分をすばやく乾燥させ、蒸れ感やベトツキ感を減少させることができる。
【0036】
また、前記立体構造経編地を用いてなる繊維製品は、優れたクッション性や厚み保持性、形態安定性を保持すると共に、通気性や風合いも良好な状態を保つことができるため、形態を保持しつつ、蒸れ感やベトツキ感、肌への不快な刺激などがなく、着用感や使用感に優れる。
【0037】
特に、前記立体構造経編地を少なくともカップ部に用いたカップ部を有する衣類は、該立体構造経編地を加熱プレスしてカップ部の膨出部を形成した後においても、該カップ部は優れたクッション性や厚み保持性、形態安定性を保持すると共に、通気性や風合いも良好な状態を保つことができるため、乳房形状の適度な補正力を保持しつつ、蒸れ感やベトツキ感、肌への不快な刺激などがなく、極めて着用感に優れる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0038】
以下、本発明の実施形態を図面を参照して説明する。
図1乃至図4は本発明の第1実施形態を示し、図1および図2に示す立体構造経編地10でブラジャーのカップ部を形成している。
【0039】
第1実施形態の立体構造経編地10は、ダブルラッセル機により編成され、図1及び図2に示すように、第1地組織11と第2地組織12の二つの地組織、及び該第1、第2地組織11、12を連結する連結糸13とからなる。
【0040】
ダブルラッセル機は、図3に示すような構造を有し、筬L−1及び筬L−2に各々導入された地糸A1、A2により第2地組織12を編成し、筬L−5及び筬L−6に各々導入された地糸A5、A6により第1地組織11を編成し、筬L−3、L−4に導入された連結糸13により、第1地組織11と第2地組織12を連結編成している。
【0041】
具体的には、ダブルラッセル機「RD6DPLM−77E−22G」(マイヤー社製)を使用して、筬L−1、L−2に56dtex/24fのポリエステルフィラメント糸を使用して第2地組織12を編成し、筬L−5に56dtex/24fのポリエステルフィラメント糸、筬L−6に84dtex/36fのポリエステルフィラメント糸を使用して第1地組織11を編成し、連結糸13として110dtex/12fのポリエステルフィラメント糸を筬L−3、L−4に使用し、第1地組織11と第2地組織12を連結して立体構造経編地10を作製している。
【0042】
図1および図2に示すように、立体構造経編地10のコース方向(図中の矢印A方向)断面において、第1地組織11は1ループおきに連結糸13が連結編成され、連結編成されているループ11a−1と連結されないループ11a−2が1つずつ交互に存在する一方、第2地組織12はすべてのループ12aが連結糸13で連結編成され、第1地組織11の連結編成されている1つのループ11a−1に対して、2本の連結糸13が異なる角度で連結編成する構造としている。
第1実施形態においては、第1地組織11における連結糸13の連結密度を50%とし、連結糸13の振り巾を1針及び2針としている。
【0043】
得られた立体構造経編地は、布帛の厚みが2〜6mm、KES−F8通気性試験機による通気度測定値が0.02KPa・s/m以下、質量(目付け)が250〜370g/mである。
【0044】
前記のように、第1実施形態の立体構造経編地10は、第1、第2地組織11、12を連結糸13で連結した立体構造経編地10のコース方向(矢印A方向)断面において、第1地組織11が、連結糸13で連結されない部分11a−2を1ループ間隔で有するため、連結糸13で連結されない部分11a−2の通気性が向上する。また、第1地組織11が連結糸13で連結されない部分11a−2を1ループ間隔で有するのに対して、第2地組織12のループ12aはすべて1本の連結糸で連結されているため、第1、第2地組織11、12それぞれに対する連結糸13の連結数が異なり、よって、連結糸13間の空隙14が大きくなって連結糸間の通気性も向上する。
したがって、連結糸で連結されない部分11a−2や連結糸13間の通気性向上によって、立体構造経編地10全体の通気性を向上させることができる。
【0045】
また、前記のように、連結糸13の連結数は従来と変化させることなく、第1地組織11から第2地組織12に向かって連結糸が異なる角度で張り出す構造としているため、第1、第2地組織11、12のコース方向のずれが生じにくくなり、優れた形態安定性や厚み保持性、クッション性を保持させることができる。
【0046】
さらに、前記のように、連結糸13の連結編成数の少ない第1地組織11の面を肌に接触する面とすることにより、着用感を向上させることもできる。
また、前記のように、連結糸13が連結されていない地組織部分11a−2は通気性がよいため、連結糸13で連結されない部分11a−2を有する第1地組織11の面を肌に接触する側の面とすることにより、発汗による水分をすばやく乾燥させ、蒸れ感やベトツキ感を減少させることができる。
【0047】
続いて、立体構造経編地10から図4に示すようなブラジャー20のカップ部21を作製している。
カップ部21は、立体構造経編地10を裁断し、成型温度230℃、成形時間45秒で加熱プレスを行って膨出部を形成することにより作製している。
なお、立体構造経編地10の、連結されないループを所定間隔で有する第1地組織11面を肌に接触する側の面とし、すべてのループが連結される第2地組織12面を外面側の面としている。
得られたカップ部21は、布帛の厚みが2〜4mm、KES−F8通気性試験機による通気度測定値が0.025KPa・s/m以下である。
【0048】
さらに、前記のように、立体構造経編地10を加熱プレスしてカップ部21の膨出部を形成した後においても、カップ部21は優れたクッション性や厚み保持性、形態安定性を保持すると共に、通気性や風合いも良好な状態を保つことができるため、乳房形状の適度な補正力を保持しつつ、蒸れ感やベトツキ感、肌への不快な刺激などのない着用感に優れたカップ部21を有するブラジャー20を得ることができる。
【0049】
次に、第2実施形態を示す。
第2実施形態は、立体構造経編地の作製方法のみが第1実施形態と異なり、以下の方法で図5および図6に示す立体構造経編地40を作製している。
【0050】
第2実施形態では、ダブルラッセル機RD6DPLM−77E−28G(マイヤー社製)を使用して、筬L−1、L−2に56dtex/24fのポリエステルフィラメント糸を使用して第2地組織42を編成し、筬L−5に56dtex/24fのポリエステルフィラメント糸、筬L−6に84dtex/36fのポリエステルフィラメント糸を使用して第1地組織41を編成し、連結糸43として、筬L−3に33dtex/6fのポリエステルフィラメント糸、筬L−4に110dtex/12fのポリエステルフィラメント糸を使用し、第1地組織41と第2地組織42を連結して立体構造経編地40を作製している。
【0051】
図5および図6に示すように、立体構造経編地40のコース方向(図中の矢印A方向)断面において、第1地組織41は2ループおきに連結糸43が連結編成され、連結編成されているループ41a−1と連結されないループ41a−2が2つおきに存在する一方、第2地組織42はすべてのループ42aが連結糸43で連結編成され、第1地組織41の連結されている1つのループ41a−1に対して、3本の連結糸43が異なる角度で連結編成する構造としている。
【0052】
前述した以外は第1実施形態と同様にして、ブラジャー20のカップ部21を作製している。
他の構成及び効果は実施例1と同様のため、説明を省略する。
【0053】
図7及び図8は本発明の他の形態のブラジャーのカップ部に用いる立体構造経編地30を示す。
図7及び図8の立体構造経編地30は、第1、第2地組織31、32を連結糸33で連結した立体構造経編地10のコース方向(矢印A方向)断面において、第1地組織31が連結糸33で連結される部分31a−1を2ループ連続で有し、該連続の2ループの間に連結糸33で連結されない部分31a−2を2ループ間隔で有する点で第1実施形態と異なる。
他の構成及び効果は第1実施形態と同様のため、説明を省略する。
【0054】
次に本発明の実施例及び比較例を示すが、本発明は実施例に限定されない。
【0055】
(実施例1)
前記第1実施形態と同様の方法で作製した立体構造経編地を実施例1とした。
【0056】
(比較例1)
図10に示したものと同様の方法で作製した従来の立体構造経編地を比較例1とした。
【0057】
表1に、実施例1、比較例1の立体構造経編地の仕様(糸使い、編密度、編機ゲージ数、第1地組織の編成比率、連結糸振り巾)を示す。
なお、第2地組織の編成比率は実施例1及び比較例1のいずれも100%である。
【0058】
【表1】

【0059】
実施例1、比較例1の立体構造経編地について、下記方法で評価を行ない、その結果を表1中に記した。
【0060】
(目付)
JIS L 1018に準拠して標準状態における単位面積当たりの質量を測定した。
(厚み)
JIS L 1018の厚さの測定法に準拠して測定した。
(通気度)
KES−F8通気性試験機により通気度測定値を求めた。
(布帛硬度)
JIS L 1018 カンチレバー法にて測定した。
(厚み保持率)
立体構造経編地を7cm×7cmに切断し、厚みの変化がわかり易いように4枚重ねて、その上に直径7.5cmの円柱型の4kgの重りを載せた。この状態で厚みの変化が出易いように100℃の温度下で2時間放置した。
2時間後、重りを取り除いた直後の厚みを試験後の厚みL2とし、重りを載せる前の厚みをL1として、下記式より厚み保持率(%)を得た。
厚み保持率(%)=(L2/L1)×100
【0061】
実施例1の立体構造経編地は、形態安定性及び厚み保持性に優れ、かつ、良好なクッション性を保持していた。そのうえ、通気性にも優れていた。そのため、各種繊維製品に用いられると、発汗による水分をすばやく乾燥させ、蒸れ感やベトツキ感を減少させることができる。
これに対し、比較例1の立体構造経編地は、形態安定性、厚み保持性及びクッション性には優れるものの、実施例1よりも通気性が劣り、風合いも硬めであった。そのため、肌と接触している部分での空気の循環が十分に行われず、蒸れの解消が不十分でベトツキ感を感じることがある。
【0062】
なお、前記実施形態においては、立体構造経編地をカップ部21に用いた例について説明したが、カップ部21のみならず、カップ部21とカップ部21に接する脇部22の一部に渡って用いることもできる。また、前記立体構造経編地は、ブラジャーなどのカップ部を有する衣類の他、スポーツ衣料資材、シューズ素材や椅子張り素材などの繊維製品にも好適に用いられる。
【図面の簡単な説明】
【0063】
【図1】第1実施形態のブラジャーのカップ部に用いる立体構造経編地の概略斜視図である。
【図2】第1実施形態の立体構造経編地のコース方向に沿う概略断面図である。
【図3】ダブルラッセル機の編成主要部分を示す概略図である。
【図4】第1実施形態のカップ部を有するブラジャーの概略斜視図である。
【図5】第2実施形態のブラジャーのカップ部に用いる立体構造経編地の概略斜視図である。
【図6】第2実施形態の立体構造経編地のコース方向に沿う概略断面図である。
【図7】他の形態のブラジャーのカップ部に用いる立体構造経編地の概略斜視図である。
【図8】図7の立体構造経編地のコース方向に沿う概略断面図である。
【図9】従来例を示す図である。
【図10】従来例を示す図である。
【符号の説明】
【0064】
10、30、40 立体構造経編地
11、31、41 第1地組織
11a、31a、41a ループ
11a−1、31a−1、41a−1 連結されるループ
11a−2、31a−2、41a−2 連結されないループ
12、32、42 第2地組織
12a、32a、42a ループ
13、33、43 連結糸
14 連結糸間の空隙
20 ブラジャー
21 カップ部
22 脇部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
立体構造編地のコース方向断面において、二つの地組織面に対して斜交した連結糸が前記二つの地組織を連結している構造を含む立体構造経編地であって、
前記二つの地組織のうち、一方の第1地組織は前記連結糸と連結されていないループを所要の間隔で備えている一方、
他方の第2地組織は、すべてのループが1本の連結糸と連結編成されていることを特徴とする立体構造経編地。
【請求項2】
コース方向における前記連結糸と第2地組織のループとの編成比率を100%とすると、該連結糸と第1地組織のループとの編成比率は30〜75%とされ、かつ、該第1地組織における前記連結糸の振り巾は1〜6針とされ、該第1地組織ではコース方向に1〜6ループをあけて連結糸で連結編成されている請求項1に記載の立体構造経編地。
【請求項3】
請求項1または請求項2に記載の立体構造経編地を用いてなることを特徴とする繊維製品。
【請求項4】
前記立体構造経編地の第1地組織を肌側に位置させている請求項3に記載の繊維製品。
【請求項5】
前記立体構造経編地をカップ部、またはカップ部と該カップ部に接する脇側の少なくとも一部に用いたカップ部を有する衣類としている請求項3または請求項4に記載の繊維製品。
【請求項6】
前記カップ部では、前記立体構造経編地を加熱プレスにより膨出部を形成している請求項5に記載の繊維製品。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【公開番号】特開2009−108465(P2009−108465A)
【公開日】平成21年5月21日(2009.5.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−263053(P2008−263053)
【出願日】平成20年10月9日(2008.10.9)
【出願人】(306033379)株式会社ワコール (116)
【出願人】(000107907)セーレン株式会社 (462)
【Fターム(参考)】