説明

立体編地および該立体編地を用いた積層体

【課題】地糸が起毛された立体編地であって、皺や歪などがなく、かつ不織布、発泡ウレタンなどの他の基材と接着積層して、風合いや触感、外観、接着強度に優れた積層体を得ることが可能な立体編地、および該立体編地を用いた積層体を提供する。
【解決手段】表裏一対の地組織とそれらを連結する連結糸から成る立体編地であって、表裏地組織の少なくとも一方の地組織が開口部を有する編組織と別の編組織とが全体として開口部を有さないように組み合わされて一体化した編組織から成り、かつ、表裏地組織の少なくとも一方の地組織を構成する地糸が起毛されて成ることを特徴とする立体編地。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、主に車両用内装材、インテリア資材、建築資材、衣料、シューズなどに適した立体編地、および該立体編地を用いた積層体に関する。
【背景技術】
【0002】
表裏一対の地組織とそれらを連結する連結糸から成る立体編地は、その適度な厚みとクッション性を活かして、車両用内装材、インテリア資材、建築資材、衣料、シューズなど様々な分野で使用されている。立体編地は表裏地組織が規則正しい編目で形成されているものが多いが、用途によっては柔らかな触感やベロア調の意匠を求められるため、立体編地の表面または裏面を起毛することで、立体編地の風合いや触感、意匠性を向上させることが行われている。
【0003】
例えば、特許文献1には、地糸に挿通されて地組織を構成する振り糸(広義の意味において、地糸の1つである)をオーバーランナーさせてループを形成し、これを起毛することにより、肌触り良好な立体編地を得ることが記載されている。特許文献2には、立体編地の編成に際し、地組織を構成する地糸の給糸比率をオーバーフィードに設定して編成することにより、地糸のニードルループを外方に膨出させ、この膨出側の面を起毛することにより、連結糸を掻き起こすことなく地糸の膨出部分を確実に起毛することができる旨記載されている。特許文献3には、起毛される表地組織の編組織、および連結糸の編組織を限定することにより、表面側の起毛される糸を均一に確保することができ、もって起毛を均一化せしめ、車両などのシート材として優れた外観と触感を有する立体編地を得ることが記載されている。
【0004】
しかしながら、上述の立体編地の場合、地組織を構成する地糸を起毛することにより、起毛面側地組織のコース方向およびウエル方向に大きな張力がかかり、この張力が連結糸を伝い、他方の地組織にも作用する。この結果、立体編地を構成する表裏地組織の両面に、皺や歪などが生じるという問題があった。
【0005】
このような問題を解決するため、特許文献4には、立体編地の非起毛面側地組織に開口部を設け(メッシュ組織あるいはネット組織という場合もある)、起毛時に発生する張力を逃がすことにより、立体編地の皺や歪を解消する手法が記載されている。また、特許文献5には、特許文献4に記載の手法が、地糸を起毛する場合に発生する張力の吸収のみならず、連結糸を起毛する場合に発生する張力の吸収にも、有効な手法であることが記載されている。
【0006】
しかしながら、非起毛面側地組織に開口部を設けた立体編地は、非起毛面側地組織を裏地組織として、例えば、車両用内装材のように、該裏地組織の側に接着剤層を介して不織布、発泡ウレタンなどの他材よりなる基材を貼り合わせて積層状態で用いる場合には、いくつかの問題があった。第1に、接着剤が裏地組織の開口部から連結部や起毛面側地組織つまり表地組織に滲み出し、得られる積層体の風合いや触感が硬くなるという問題があった。第2に、裏地組織の非開口部に塗布された接着剤のみが接着に寄与するため、均一かつ十分な接着強度が得られないという問題や、不均一に塗布された接着剤により立体編地に新たな皺や歪などが生じ、積層体の外観が損なわれるという問題があった。第3に、開口部を有する地組織には、地糸の張力により凹凸が形成されるが、この凹凸が接着強度を低下させるという問題があった。
【特許文献1】特開平7−331567号公報
【特許文献2】国際公開第95/12019号パンフレット
【特許文献3】登録実用新案第3113666号公報
【特許文献4】特開平10−325056号公報
【特許文献5】特開2002−105812号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、このような現状に鑑みてなされたものであり、その目的とするところは、地糸が起毛された立体編地であって、皺や歪などの発生がなく、優れた外観を呈し、かつ不織布、発泡ウレタンなどの他材よりなる基材と接着して積層した場合にも、風合いや触感、外観、接着強度に優れた積層体を得ることが可能な立体編地を提供することであり、さらに該立体編地を用いた積層体を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者は、立体編地の編組織およびその編成方法に着目して鋭意研究を重ねた結果、立体編地を構成する表裏一対の地組織の少なくとも一方の地組織に、開口部を有する編組織と別の編組織とが全体として開口部を有さないように組み合わせた編組織を採用することにより、立体編地の少なくとも一方の地組織を構成する地糸を起毛した場合の上記問題点、さらには基材と接着積層した場合の問題点を解決し得ることを見出し、本発明を完成するに到ったものである。
【0009】
すなわち、本発明の第1は、表裏一対の地組織とそれらを連結する連結糸から成る立体編地であって、表裏地組織の少なくとも一方の地組織が、開口部を有する編組織と別の編組織とが全体として開口部を有さないように組み合わされた編組織から成り、かつ、表裏地組織の少なくとも一方の地組織を構成する地糸が起毛されて成ることを特徴とする立体編地である。
【0010】
本発明の第2は、表裏地組織の少なくとも裏地組織が、開口部を有する編組織と別の編組織とが全体として開口部を有さないように組み合わされた編組織から成ることを特徴とする、上記立体編地である。
【0011】
本発明の第3は、表地組織が開口部を有さない編組織から成り、該表地組織を構成する地糸が起毛されて成ることを特徴とする、上記立体編地である。
【0012】
本発明の第4は、表裏地組織をそれぞれ構成する両方の地糸が起毛されて成ることを特徴とする、上記立体編地である。
【0013】
本発明の第5は、上記立体編地を用いた積層体であって、該立体編地の開口部を有さない裏地組織を他材よりなる基材に接着剤層を介して貼り合わせて成ることを特徴とする、積層体である。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、地糸を起毛した場合に起こり得る皺や歪などの発生を有効に防止し、優れた外観の立体編地を得ることができる。また、接着剤層を介して、前記立体編地と他材よりなる基材とを貼り合せることにより、風合いや触感、外観、接着強度に優れた積層体を得ることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0015】
以下、本発明を実施するための最良の形態について詳細に説明する。
【0016】
本発明において立体編地とは、表裏一対の地組織と、それらを連結する連結糸から成る、三次元構造の編地をいい、具体的には例えばダブルラッセルやダブルニットなどの編地を挙げることができる。かかる編地は、相対する2列の針床を有する編機で編成することができ、具体的には例えばダブルラッセル編機、ダブル丸編機、Vベッドを有する横編機等による編地を挙げることができる。なかでも、ダブルラッセル編機を用いて編成されるダブルラッセル編地は、糸がほつれにくいという点で好ましい。
【0017】
本発明の立体編地は、該編地を構成する表裏地組織の少なくとも一方の地組織が、開口部を有する編組織と別の編組織とが全体として開口部を有さないように同時編成により組み合わされた編組織から成り、かつ、表裏地組織の少なくとも一方の地組織を構成する地糸が起毛されて成ることを特徴とするものである。以下、主にダブルラッセル編地の編成による場合を例にして説明する。
【0018】
本発明において、「開口部を有する編組織と別の編組織とが組み合わされた編組織」は、例えば、ダブルラッセル編地の編成において、図1に示すように、開口部を有する第1の編組織、例えば2枚筬に適宜糸抜きされて導糸された地糸により編成されるダブルアトラス組織〔図1の(a)〕と、別の第2の編組織、例えばデンビー組織〔図1の(b)〕とが、同時編成により組み合わされて編成上で一体化している状態の編組織(図示省略)から成る。言い換えると、前記第1と第2の二つの編組織が少なくとも一部で同時にループ形成するように編成されることで組織的に重なって一体化し1層の編組織を形成している状態をいう。そして、本発明においては、前記のように前記第1と第2の二つの編組織が組み合わされて一体化している状態の編組織から成る地組織は、全体として開口部を有さないことが求められる。そのため、前記第1と第2の二つの編組織は全体として開口部を有さない編組織を構成するように組み合わせられる。
【0019】
このような立体編地は、例えば、図2に示すような6枚筬L1〜L6を有するダブルラッセル編機を用いて編成することができる。図2において、N1,N2はそれぞれ編機幅方向に並列する前後2列のニードル、T1,T2は前後の針釜(トリックプレート)を示し、Y1〜Y6は各筬L1〜L6のガイド部G1〜G6に通糸される編糸を示している。B1〜B6は各編糸のビームを示す。
【0020】
そして、図2のダブルラッセル編機による編成において、例えば、筬L1、L2に導糸した編糸Y1,Y2を地糸としてニードルN1により一方の地組織Bを編成し、筬L4、L5、L6に導糸した編糸Y4,Y5,Y6を地糸としてニードルN2により他方の地組織Aを編成し、筬L3に導糸した編糸Y3を連結糸として前記ニードルN1、N2により前記両地組織B,Aに順次交互に編み込み、該連結糸Cにより前記両地組織B,Aを連結する。図2の符号Dは編成された立体編地を示す。
【0021】
ここで、前記両地組織B,Aの一方、例えば筬L4、L5、L6に導糸された地糸により編成される地組織Aは、例えば、筬L4、L5に適宜糸抜きされて導糸された地糸により編成される開口部を有する編組織〔例えば、図1の(a)〕と、筬L6に導糸された地糸により編成される別の編組織〔例えば、図1の(b)〕とが、同時編成により一体化した編組織から成る。この編組織は、全体として開口部を有さない地組織を構成する。
【0022】
また、筬L1、L2に導糸された地糸により編成される他方の地組織Bについては、特に限定されるものでなく、前記同様に「開口部を有する編組織と別の編組織とが全体として開口部を有さないように組み合わされた編組織」から成るものであっても、そのような編組織の編成に拠らずに編成された編組織から成るものであっても構わない。また、後者にあっては開口部を有する編組織から成るものであっても、開口部を有さない編組織から成るものであってもよく、用途に応じて適宜選択可能であるが、後述する理由により、開口部を有さない比較的平坦な表面の編組織から成る地組織であることが要求される場合がある。
【0023】
本発明の立体編地は、表地組織のみが「開口部を有する編組織と別の編組織とが全体として開口部を有さないように組み合わされた編組織」から成る立体編地であっても、裏地組織のみが「開口部を有する編組織と別の編組織とが全体として開口部を有さないように組み合わされた編組織」から成る立体編地であっても、両方の地組織が「開口部を有する編組織と別の編組織とが全体として開口部を有さないように組み合わされた編組織」から成る立体編地であっても構わない。なかでも、後述する理由により、裏地組織が「開口部を有する編組織と別の編組織とが全体として開口部を有さないように組み合わされた編組織」から成る立体編地であることが好ましい。
【0024】
ここで表地組織とは、外界と接して用いられる側(外表面の側)の地組織をさし、裏地組織とは他方の地組織、例えば、接着剤層を介して他材よりなる基材と貼り合わせる場合にあっては、該基材と貼り合わせる側の地組織をさすものとする。なお、選択する編組織によって筬数を適宜増減させることは周知である。
【0025】
本発明の立体編地は、上記構成のように編成される立体編地の表裏地組織の少なくとも一方の地組織を構成する地糸が起毛されて成るものである。すなわち、表地組織を構成する地糸のみが起毛されて成るものであっても、裏地組織を構成する地糸のみが起毛されて成るものであっても、これら両方の地糸が起毛されて成るものであっても構わない。さらに換言すれば、前記の「開口部を有する編組織と別の編組織とが全体として開口部を有さないように組み合わされた編組織」から成る地組織を構成する地糸が起毛されて成るものであっても、そのような編成に拠らずに編成された編組織から成る地組織を構成する地糸が起毛されて成るものであっても構わない。前記の起毛面は立体編地の用途や使用形態に応じて適宜設定できる。
【0026】
表地組織を構成する地糸を起毛することにより、立体編地の表面の風合いや触感、意匠性を向上させることができる。この場合、起毛性に優れるという理由により、表地組織は、開口部を有さない地組織、すなわち「開口部を有する編組織と別の編組織とが全体として開口部を有さないように組み合わされた編組織」から成る地組織であるか、または、そのような編成に拠らずに編成され且つ開口部を有さない比較的平坦な表面の編組織から成る地組織であることが好ましく、意匠性等の点からは後者がより好ましい。
【0027】
また、裏地組織を構成する地糸を起毛することにより、立体編地を単独で衣料等に使用する場合の保温性や触感をよくするほか、裏地組織を他材よりなる基材に接着剤層を介して貼り合わせて積層体を形成する場合には、前記の起毛により接着剤の滲み出しを有効に防止することができるため、風合いや触感を損なうことなく塗布量を多くすることができ、ひいては接着強度を向上させることができることになる。
【0028】
なお、裏地組織に基材を接着し積層する場合には、裏地組織としては、接着剤の滲み出し防止や接着強度等の点から、開口部を有さない地組織であること、すなわち「開口部を有する編組織と別の編組織とが全体として開口部を有さないように組み合わされた編組織」から成る地組織であるか、または、そのような編成に拠らずに編成され開口部を有さない編組織から成る地組織であることが要求され、後述する理由により前者がより好ましい。
【0029】
立体編地を構成する表裏地組織の少なくとも一方の地組織を、「開口部を有する編組織と別の編組織とが全体として開口部を有さないように組み合わされた編組織」から成る地組織とし、その一部、すなわち該地組織を構成する二つの編組織のうちの一つの編組織を開口部を有する編組織とすることにより、コース方向および/またはウエル方向の地糸の連結が部分的に外れた状態になる。これにより、「開口部を有する編組織と別の編組織とが開口部を有さないように組み合わされた編組織」から成る地組織自体がタテ方向およびヨコ方向に伸縮しやすくなり、この地組織を構成する地糸が起毛される場合はもちろん、他方の地組織が起毛される場合にも、地組織に加わる張力を吸収し、皺や歪などの発生を有効に防止することができる。
【0030】
さらに、前記地組織は全体として開口部を有さない地組織となるため、この地組織、すなわち「開口部を有する編組織と別の編組織とが全体として開口部を有さないように組み合わされた編組織」から成る地組織を裏地組織とするのが特に好ましい。すなわち、該裏地組織に接着剤層を介して基材を貼り合わせて積層体を形成する場合に、開口部を有さないことで、接着剤の滲み出しや塗布斑、これに伴う皺や歪などの発生を防止でき、上記の起毛時の張力吸収の効果もあって、風合いや触感、外観、接着強度に優れた積層体を得ることができる。しかも、前記地組織は、開口部を有する編組織において形成され得る地糸の張力に起因する凹凸や歪を、これと組み合わされた前記別の編組織により抑制でき、これに伴う接着強度の低下を防止することができる。そればかりか、開口部を有する編組織の開口部と別の編組織との編成組織上の重なり部分、つまり前記開口部に相当する部分が適度に窪み、無地調のなかに微凹凸が形成されるため、この微凹凸によるアンカー効果により接着強度を向上させることができる。これらが、「開口部を有する編組織と別の編組織とが全体として開口部を有さないように組み合わされた編組織」から成る地組織を裏地組織とするのが好ましい理由である。さらに、前記地組織は、風合いや触感、接着強度の向上を目的に裏地組織を構成する地糸を起毛する場合にも、表面が比較的平坦な無地調であるため起毛性に優れ、裏地組織を起毛したことによる上記した効果を有効に発揮させることができることにもなる。
【0031】
一方、「開口部を有する編組織と別の編組織とが全体として開口部を有さないように組み合わされた編組織」から成る地組織を表地組織とする場合にも、その優れた起毛性のため、起毛状態が均一で、優れた外観の立体編地を得ることができる。
【0032】
以上、立体編地を構成する表裏地組織の組み合わせを整理すると、表1のようになる。表中、地組織Aとは、「開口部を有する編組織と別の編組織とが全体として開口部を有さないように組み合わされた編組織」から成る地組織をさし、地組織Bとは、そのような編成に拠らずに編成された編組織から成る地組織をさすものとする。
【表1】

【0033】
本発明は、地糸が起毛された立体編地において、立体編地を構成する表裏地組織の少なくとも一方の地組織に、「開口部を有する編組織と別の編組織とが全体として開口部を有さないように組み合わされた編組織」を採用することを最大の特徴とするものであり、編組織や糸の種類など他の要素は特に限定されず、立体編地として通常用いられているものを適宜選択すればよい。
【0034】
前記の「開口部を有する編組織と別の編組織とが全体として開口部を有さないように組み合わされた編組織」のうち、開口部を有する編組織は、特に限定されるものでなく、デンビー組織および/またはコード組織と地糸の糸抜きを適宜組み合わせた編組織や、2枚筬に適宜糸抜きされて導糸された地糸により編成されるダブルアトラス組織(以下単に「ダブルアトラス組織」という場合がある)など、開口部を有する編組織とすることが可能な従来公知の編組織を適宜選択することが可能である。なかでも、図1の(a)に例示するダブルアトラス組織が好ましい。ダブルアトラス組織は、2枚の筬がそれぞれ反対方向に運動して2つのアトラス組織を編成することにより、交差縞を形成するものである。このとき、地糸は基本的に一方向にのみ移動して編成されるため、地糸の張力の発生が小さく、よって開口部と非開口部の高低差の小さい比較的平坦な編組織となる。これに、別の編組織を重ねるように、全体として開口部を有さないように同時編成により組み合わせて編成上で一体化した編組織を構成することにより、より平坦な無地調の表面となって、起毛性に優れたものとなる。
【0035】
さらに、ダブルアトラス組織は、適宜糸抜きされたアトラス組織を2枚筬で編成することにより、図3の組織図(a)、及びこれに対応する模式図(b)に示すように、開口部6と、2枚の筬に導糸された地糸により編成される非開口部7と、1枚の筬に導糸された地糸により編成される非開口部8とを有している。1枚の筬に導糸された地糸により編成される非開口部8は、図3に示すように、正バイアス方向と逆バイアス方向に編成され斜め格子状をしている。前記1枚の筬に導糸された地糸により編成される非開口部8は、2枚の筬に導糸された地糸により編成される非開口部7に比べて伸縮しやすい組織であるため、起毛時に加わる張力は開口部6によって吸収されるのみならず、1枚の筬に導糸された地糸により編成される非開口部8によりバイアス方向にも吸収されることになり、その結果、張力がタテ方向、ヨコ方向、バイアス方向に偏りなく軽減されて、皺や歪などのない立体編地を得ることができる。
【0036】
前記の開口部を有する編組織と組み合わされる別の編組織も、特に限定されるものでなく、典型的には、デンビー組織、コード組織またはこれらを適宜組み合わせた組織など、開口部を有さない編組織として従来公知の編組織を適宜選択することが可能である。なかでも、地糸のアンダーラップが1〜4針間である編組織が好ましく、地糸のアンダーラップが1針間である編組織、すなわち図1の(b)に例示するデンビー組織がより好ましい。地糸のアンダーラップが4針間を越えると、地糸のヨコ方向の重なりが多くなるため、編地が硬く、開口部を有する編組織に起因するタテ方向およびヨコ方向への伸びやすさが相殺され、起毛により皺や歪などが生じる虞がある。
【0037】
別の編組織として、さらに、開口部を有する編組織を選択することも可能である。この場合、前述の開口部を有する編組織の開口部の位置と、前記別の編組織の開口部の位置とが重ならないように組み合わせた編組織にして編成し、全体としては開口部を有さないように構成することが重要である。
【0038】
さらに、前記の「開口部を有する編組織と別の編組織とが全体として開口部を有さないように組み合わされた編組織」から成る地組織以外の地組織についても、特に限定されるものでなく、開口部を有する編組織としては、デンビー組織および/またはコード組織と地糸の糸抜きを適宜組み合わせた編組織や、2枚筬に適宜糸抜きされて導糸された地糸により編成されるダブルアトラス組織などを挙げることができ、開口部を有さない編組織としてはデンビー組織、コード組織、アトラス組織またはこれらを適宜組み合わせた組織などを挙げることができる。
【0039】
前述のように、「開口部を有する編組織と別の編組織とが全体として開口部を有さないように組み合わされた編組織」から成る地組織以外の地組織を構成する地糸を起毛する場合には、開口部を有さない編組織とすることが好ましく、より起毛に適した編組織を適宜選択する。例えば、前述のダブルラッセル編地の例において、筬L1と筬L2に導糸された地糸により編成される地組織のうち、筬L1に導糸された地糸により編成される編組織は、地糸のアンダーラップが2針間以上である編組織が好ましく、地糸のアンダーラップが2〜8針間である編組織がより好ましい。一方、筬L2に導糸された地糸により編成される編組織は、地糸のアンダーラップが1〜3針間である編組織が好ましい。地糸のアンダーラップが上記範囲の下限未満であると、シンカーループが短く、ニードルループの膨出が少なくなって、起毛が困難になる虞がある。地糸のアンダーラップが上限を越えると、編成が困難になる虞がある。
【0040】
立体編地を編成する際の編機のゲージは特に限定されるものでなく、用途に応じて適宜選択することが可能であるが、18〜30ゲージであることが好ましく、22〜28ゲージであることがより好ましい。18ゲージ未満であると、立体編地の保型性や物性を満足できない虞がある。30ゲージを越えると、編成が困難になったり、立体編地の風合いや触感が損なわれたりする虞がある。
【0041】
本発明において用いられる繊維の素材は特に限定されるものでなく、天然繊維、再生繊維、半合成繊維、合成繊維など、従来公知の繊維を用途に応じて適宜選択することが可能であるが、物性に優れるという理由により合成繊維が好ましく、ポリエステルがより好ましい。
【0042】
本発明において用いられる糸条の形態は特に限定されるものでなく、紡績糸、マルチフィラメント糸、モノフィラメント糸、加工糸など従来公知の形態の糸条を用途に応じて適宜選択することが可能である。なかでも、地糸としては、起毛性に優れるという理由によりマルチフィラメント糸が好ましく、嵩高加工されたマルチフィラメント糸がより好ましい。一方、連結糸としては、保型性に優れるという理由によりモノフィラメント糸が好ましい。
【0043】
本発明において用いられる糸条の繊度は特に限定されるものでないが、33〜440dtexであることが好ましい。糸条の繊度が33dtex未満であると、立体編地の物性を満足できない虞がある。糸条の繊度が440dtexを越えると、編成が困難になったり、立体編地の風合いや触感が損なわれたりする虞がある。
【0044】
また、単糸繊度も特に限定されるものでないが、0.5〜3dtexであることが好ましい。単糸繊度が0.5dtex未満であると、立体編地の物性を満足できない虞がある。単糸繊度が3dtexを越えると、立体編地の風合いや触感、起毛性が損なわれる虞がある。
【0045】
本発明において、立体編地を構成する表裏地組織の少なくとも一方の地組織を構成する地糸を起毛する方法としては、例えば、針布による針布起毛加工やサンドペーパーによるエメリー起毛加工などを挙げることができる。針布起毛加工の場合は、針布の密度、長さ、角度、尖端形状や、起毛時の針布の回転数、立体編地との接圧、接触回数などの諸条件を選択することにより、地糸の起毛状態を適宜設定できる。また、エメリー起毛加工においても、サンドペーパーのペーパーメッシュや、起毛時のサンドペーパーと立体編地の接触回数などの諸条件を選択することにより、地糸の起毛状態を適宜設定できる。また、必要に応じて、起毛後に毛足を整えるための揃毛加工を施してもよい。
【0046】
かくして、本発明の立体編地を得ることができる。本発明の立体編地は、それ単独で衣料などの用途に、また、他材よりなる基材と貼り合わせて、車両用内装材、インテリア資材、建築資材、シューズなどの用途に適用することができる。本発明の立体編地と貼り合わせられる基材は、特に限定されるものでなく、例えば、不織布、発泡ウレタン、フィルム、ガラスマット、レジンフェルト、ダンボール、ダンボールプラスチックなどを挙げることができる。これら基材は、単独または2種以上を組み合わせて用いることができる。
【0047】
本発明の立体編地と他材よりなる基材とを接着剤層を介して貼り合わせる方法は、特に限定されるものでなく、従来公知の方法を適宜選択することが可能である。例えば、ホットメルト樹脂のフィルムや粉末を用いてホットメルト樹脂の融点以上の温度で圧着する方法や、溶剤系や水系の接着剤を用いて圧着する方法などを挙げることができる。粉末状あるいは液状の接着剤を用いるに際し、接着剤は、立体編地側に塗布してもよいし、基材側に塗布してもよい。
【0048】
かくして、本発明の積層体、特に風合いや触感、外観、接着強度に優れた積層体を得ることができる。
【0049】
なお、上記の立体編地の説明においては、ダブルラッセル編地の編成による場合を例にして説明したが、ダブル丸編機、Vベッドを有する横編機等による編地においても、表裏地組織の組織構成については上記と同様にして実施することができる。
【実施例】
【0050】
以下、実施例により本発明をさらに詳しく説明するが、本発明は以下の実施例に限定されるものではない。なお、実施例中における各評価試験は以下の方法に従った。
【0051】
(1)皺
立体編地または積層体を目視評価し、以下の基準に従って判定した。
○:皺がほとんど無い
△:皺が若干目立つ
×:皺がかなり目立つ
(2)歪
立体編地または積層体を目視評価し、以下の基準に従って判定した。
○:歪がほとんど無い
△:歪が若干目立つ
×:歪がかなり目立つ
(3)剥離強度
積層体から幅25.4mm、長さ150mmの大きさの試験片を、タテ、ヨコそれぞれ3枚ずつ採取した。次に、試験片の短片から80mmの長さまで、立体編地を手で剥がした。剥がした立体編地と基材を引張試験機(オートグラフAG−1、株式会社島津製作所製)に取付け、引張速度200mm/minで剥がした。このときの平均荷重N/25.4mmを、得られたチャートの極大値の平均から求めた。タテ、ヨコそれぞれ3枚の中の最小値を剥離強度とし、以下の基準に従って判定した。
◎:3.0N/25.4mm以上、または基材が破壊
○:2.5N/25.4mm以上、3.0N/25.4mm未満
△:2.0N/25.4mm以上、2.5N/25.4mm未満
×:2.0N/25.4mm未満
(4)風合い
積層体の風合いを触感評価し、以下の基準に従って判定した。
○:柔らかな触感
△:硬い触感の部分がある
×:全体的に触感が硬い
【0052】
[実施例1]
ダブルラッセル編機(RD6DPLM−77E−22G、カールマイヤー社製)を使用して、図4および表2に示すように、筬L1、L2に導糸した地糸により表地組織を編成し、筬L4、L5、L6に導糸した地糸により裏地組織を編成し、筬L3に導糸した連結糸により表裏地組織を連結して立体編地を編成した。このとき、表地組織は、筬L1に導糸された地糸により編成され、地糸のアンダーラップが3針間であるコード組織と、筬L2に導糸された地糸により編成されるデンビー組織が組み合わされた、開口部を有さない地組織である。また、裏地組織は、筬L4、L5に5in1out(すなわち、5本糸入れ、1本糸抜きの配列)で導糸された地糸により編成されるダブルアトラス組織と、筬L6に導糸された地糸により編成されるデンビー組織が組み合わされた編組織から成る、開口部を有さない地組織である。
上記立体編地を190℃で1分間プレセットした後、液流染色機にて130℃で30分間染色した。次にこの立体編地を150℃で乾燥し、針布起毛機にて表地組織を構成する地糸を起毛後、190℃で1分間仕上げセットを行い、本発明の立体編地を得た。
次に、アクリルエマルジョン系接着剤(アイカアイボンRA−233、アイカ工業株式会社製)をウレタンフォームの片面にグラビアロールを用いて固形分換算で50g/m塗布し、直ちにウレタンフォームの接着剤塗布面に上記立体編地の裏面地組織を重ねあわせ、100℃で2分間乾燥して、本発明の積層体を得た。
評価結果を表2に示す。表中、地組織Aとは、「開口部を有する地組織と別の地組織とが全体として開口部を有さないように組み合わされた編組織」から成る地組織をさし、地組織Bとは、そのような編成に拠らずに編成されて成る地組織をさすものとする。
【0053】
[実施例2]
表地組織および裏地組織をそれぞれ構成する両方の地糸を起毛した以外は、実施例1と同様にして、本発明の立体編地および積層体を得た。評価結果を表2に示す。
【0054】
[実施例3]
図5および表2に示す編組織を採用した以外は、実施例1と同様にして、本発明の立体編地および積層体を得た。評価結果を表2に示す。
【0055】
[実施例4]
図6および表2に示す編組織を採用して、筬L1、L2、L3に導糸した地糸により表地組織を編成し、筬L5、L6に導糸した地糸により裏地組織を編成し、筬L4に導糸した連結糸により表裏地組織を連結して立体編地を編成し、裏地組織を構成する地糸を起毛した以外は、実施例1と同様にして、本発明の立体編地及び積層体を得た。評価結果を表2に示す。
【0056】
[実施例5]
図7および表2に示す編組織を採用して、筬L1、L2、L3に導糸した地糸により表地組織を編成し、筬L5、L6、L7に導糸した地糸により裏地組織を編成し、筬L4に導糸した連結糸により表裏地組織を連結して立体編地を編成し、表地組織および裏地組織をそれぞれ構成する両方の地糸を起毛した以外は、実施例1と同様にして、本発明の立体編地および積層体を得た。評価結果を表2に示す。
【0057】
[比較例1]
図8および表2に示す編組織を採用した以外は、実施例1と同様にして、立体編地および積層体を得た。評価結果を表2に示す。
【0058】
[比較例2]
図9および表2に示す編組織を採用した以外は、実施例1と同様にして、立体編地および積層体を得た。評価結果を表2に示す。
【表2】

【0059】
表2から明らかなように、表裏地組織の少なくとも一方の地組織に、地組織Aを採用した実施例1〜5は、いずれも、立体編地としては皺や歪の発生を防止できて優れた外観を呈するばかりか、各立体編地の開口部を有さない裏地組織を基材に接着した積層体においても、皺や歪の発生状況、剥離強度や風合いについては、表裏地組織のいずれにも地組織Aを採用していない比較例1及び2よりも良好なものとなった。
【産業上の利用可能性】
【0060】
本発明の立体編地及び該立体編地を用いた積層体は、車両用内装材、インテリア資材、建築資材、衣料、シューズなどに好適に利用できる。
【図面の簡単な説明】
【0061】
【図1】本発明の立体編地の「開口部を有する編組織と別の編組織が全体として開口部を有さないように組み合わされた編組織」から成る地組織の一例を、開口部を有する編組織(a)と別の編組織(b)とに分解して示す組織図である。
【図2】ダブルラッセル編機の要部の概略構成図である。
【図3】開口部を有するダブルアトラス組織の組織図(a)と模式図(b)による説明図である。
【図4】実施例1および実施例2の立体編地の組織図である。
【図5】実施例3の立体編地の組織図である。
【図6】実施例4の立体編地の組織図である。
【図7】実施例5の立体編地の組織図である。
【図8】比較例1の立体編地の組織図である。
【図9】比較例2の立体編地の組織図である。
【符号の説明】
【0062】
Y1〜Y6 … 編糸
B1〜B6 … ビーム
L1〜L6 … 筬
G1〜G6 … ガイド
N1,N2 … ニードル
T1,T2 … 針釜
A,B … 表裏の地組織
C … 連結糸
D … 立体編地
6 … 開口部
7 … 2本の地糸からなる非開口部
8 … 1本の地糸からなる非開口部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
表裏一対の地組織とそれらを連結する連結糸から成る立体編地であって、表裏地組織の少なくとも一方の地組織が、開口部を有する編組織と別の編組織とが全体として開口部を有さないように組み合わされた編組織から成り、かつ、表裏地組織の少なくとも一方の地組織を構成する地糸が起毛されて成ることを特徴とする立体編地。
【請求項2】
表裏地組織の少なくとも裏地組織が、開口部を有する編組織と別の編組織とが全体として開口部を有さないように組み合わされた編組織から成ることを特徴とする請求項1に記載の立体編地。
【請求項3】
表地組織が開口部を有さない編組織から成り、該表地組織を構成する地糸が起毛されて成ることを特徴とする請求項1又は2に記載の立体編地。
【請求項4】
表裏地組織をそれぞれ構成する両方の地糸が起毛されて成ることを特徴とする請求項1〜3のいずれか1項に記載の立体編地。
【請求項5】
請求項1〜4いずれか1項に記載の立体編地を用いた積層体であって、該立体編地の開口部を有さない裏地組織を他材よりなる基材に接着剤層を介して貼り合わせて成ることを特徴とする積層体。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2008−75190(P2008−75190A)
【公開日】平成20年4月3日(2008.4.3)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−253280(P2006−253280)
【出願日】平成18年9月19日(2006.9.19)
【出願人】(000107907)セーレン株式会社 (462)
【Fターム(参考)】