説明

立体表示装置

【課題】従来よりも光学系を小型化することができる立体表示装置を提供することを課題とする。
【解決手段】立体表示装置10は、干渉縞を干渉縞表示面1に表示させて再生照明光を照射することにより、干渉縞表示面1から物体光を再生するものであり、干渉縞表示面1の物体光射出側に、屈折率分布レンズ2を二次元状に複数並べたレンズアレイ3が配置され、屈折率分布レンズ2が、長さがmp(mは正の整数、pは屈折率分布レンズによって決まる1光学長の長さ)であり、一方または他方の端面からp/4+kp(kは0≦k<mの範囲内の整数)の位置において、光軸に対して垂直な面を直径で二等分した片側が遮光されている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はホログラフィを利用した立体表示技術に係わり、特にホログラムを表示する立体表示装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
ホログラムを用いて動画像表示を行う場合、表示デバイスとして液晶素子の使用が有望であるが、液晶素子を干渉縞表示面に用いると、液晶素子の画素ピッチが粗いことから物体光と再生光のなす角が小さくなる。このように物体光と再生光のなす角が小さい場合のホログラムには、真の像の観視に妨げとなる妨害光(共役光、直接透過光)を除去するために、物体光の広がりの半分を使用するハーフゾーンプレート法を用いるのが有効である。
【0003】
以下、ハーフゾーンプレート法を適用した立体表示装置について説明する。通常、計算機合成ホログラムと呼ばれる、干渉縞を計算機で生成するホログラムでは、物体を標本化し、図10(a)に示すように、標本化された各点から発生される光(物体光)の干渉縞作成面4における光分布を計算し、物体上の全ての点からの物体光に対する光分布を加算して干渉縞を計算する。
【0004】
計算機合成ホログラムにハーフゾーンプレート法を適用した場合には、図10(b)に示すように、物体上の点から干渉縞作成面4に対して垂直に下ろした垂線を含んだ平面で物体光の広がりを2分割し、その片側の干渉縞作成面4における光分布のみを計算し、物体上の全ての点に対する光分布を加算して干渉縞を計算する。図10(b)に示す例においては、水平面を境界に干渉縞作成面4を上下に2分割し、それら分割された面の下側を計算するようにしている。
【0005】
図10(b)のような条件で作成された干渉縞を、図11(a)に示すような光学系8を用いる構成によって干渉縞表示面1に表示してホログラム像を再生すると、同図に示すように、共役光の広がり(斜線部)と、所望とする真の像の結像に関する光(物体光)の広がり(ドット部)とが、凸レンズ5の後側焦平面(図11(a)では凸レンズ5の右側の焦平面)において光軸を境界として上下に分離される。これを利用して、図11(a)に示すように、共役光の広がる範囲を遮光する遮光板6を後側焦平面に設置することで、共役光を遮断することができる。
【0006】
また、ホログラム像の再生時には、図11(a)に示すように、共役光以外にも、再生光がそのまま干渉縞表示面1を通過する、直接透過光(破線で示した部分)と呼ばれる妨害光も発生する。再生光には通常は平行光が使われるため、直接透過光は、図11(a)に示すように、凸レンズ5の後側焦平面において、物体光の広がる範囲と共役光の広がる範囲との境界で1点に結像する。従って、遮光板6を用いることで、図11(a)に示すように、この直接透過光も遮光することができる。以上の処理は、干渉縞表示面1から発生する光を空間周波数領域で半分に制限していることに相当する。これらの詳細は、例えば非特許文献1,2に記載されている。
【0007】
ここで、従来の技術は、図11(a)に示すように、凸レンズ5の前側焦平面に干渉縞表示面1、後側焦平面に遮光板6を配置する光学系8が用いられている。一方、図11(a)に示す構成では、原理上再生像に幾何学的な歪みが生じるため、別の構成として、図11(b)に示すように、凸レンズ5と同じ焦点距離fの凸レンズ7を遮光板6の右側の、焦点距離fだけ離れた場所に配置する光学系9とすることで幾何学歪を回避する例もある。
【0008】
例えば、非特許文献3では、干渉縞表示面1に対角0.7インチの液晶パネルを用いた図11(b)の光学系9において、焦点距離が150mmの凸レンズ5を用いた例が紹介されている。この例では、干渉縞表示面1の前面に450mm(=3×150mm)の大きさの光学系9を配置していることになる。
【0009】
また、非特許文献4では、さらに大きな対角1.7インチの液晶パネルを用いるとともに、焦点距離が300mmの凸レンズ5を用いた例が紹介されている。この例では、干渉縞表示面1の前面に900mm(3×300mm)の大きさの光学系9を配置していることになる。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0010】
【非特許文献1】O.Bryngdahl,A.Lohmann,“Single-Sideband Holography”, J.Opt.Soc.Am.Vol.58,620,1968
【非特許文献2】T.Mishina,F.Okano,I.Yuyama,“Time-alternating method based on single-sideband holography with half-zone-plate processing for the enlargement of viewing zones”,Applied Optics,Vol.38,No.17,PP.3703-3713,June 1999
【非特許文献3】Y.Takaki,Y.Tanemoto,“Band-limited zone plates for single-sideband holography”,Applied Optics,Vol.48,Issue 34,PP.H64-H70,2009
【非特許文献4】三科、妹尾、山本、大井、栗田、“超高精細液晶パネルを用いた電子ホログラフィによる立体カラー映像再生”、ホログラフィック・ディスプレイ研究会、Vol.30,No.2,PP.12-17,May 2010
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
図11(b)に示すような従来の光学系9においては、干渉縞表示面1に加えて、さらにその前面に凸レンズ5の焦点距離の2倍もしくは3倍の大きさの光学系を配置する必要があった。また、前記した図11(a),(b)に示すような従来の光学系8,9で使用される凸レンズ5には、干渉縞表示面1から再生される光を通過させるために、干渉縞表示面1より大きな口径が必要となる。また、凸レンズにおける口径と焦点距離の組み合わせとして、口径以上の焦点距離をもつレンズ(F値が1以上)が一般的である。そのため、凸レンズ5には干渉縞表示面1の対角サイズより大きな焦点距離のレンズが必要であった。
【0012】
従って、図11(a),(b)に示すような従来の光学系8,9を用いた立体表示装置は、光学系のサイズが非常に大きくなり、小型化が困難であるという問題があった。
【0013】
本発明はかかる点に鑑みてなされたものであって、従来よりも光学系を小型化することができる立体表示装置を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0014】
前記課題を解決するために請求項1に係る立体表示装置は、干渉縞を干渉縞表示面に表示させて再生照明光を照射することにより、前記干渉縞表示面から物体光を再生する立体表示装置であって、前記干渉縞表示面の物体光射出側に、屈折率分布レンズを二次元状に複数並べたレンズアレイが配置され、前記屈折率分布レンズが、長さがmp(mは正の整数、pは屈折率分布レンズによって決まる1光学長の長さ)であり、一方または他方の端面からp/4+kp(kは0≦k<mの範囲内の整数)の位置において、光軸に対して垂直な面を直径で二等分した片側が遮光された構成とした。
【0015】
これにより、立体表示装置は、干渉縞表示面の物体光射出側に、長さをmpとし、一方の端面(例えば入射面)または他方の端面(例えば出射面)からp/4+kpの位置の所定領域を遮光した屈折率分布レンズによって構成したレンズアレイを配置することで、干渉縞表示面から屈折率分布レンズに入射した物体光だけを屈折率分布レンズの出射面から出射させることができる。従って、ホログラムを用いて動画像表示を行う場合において、従来のように干渉縞表示面の物体光射出側に凸レンズを配置し、当該凸レンズの後側焦平面に遮光板を配置する必要がなくなる。
【0016】
また、請求項2に係る立体表示装置は、請求項1に係る立体表示装置において、前記レンズアレイが、複数の前記屈折率分布レンズが正方格子状に並べられて構成されることとした。なお、正方格子状とは、複数の屈折率分布レンズによってレンズアレイを構成した場合に、干渉縞表示面の縦方向および横方向に屈折率分布レンズの光軸が揃っており、当該屈折率分布レンズの光軸を仮想線で結んだ場合に正方格子となることを意味している。
【0017】
また、請求項3に係る立体表示装置は、請求項1に係る立体表示装置において、前記レンズアレイが、複数の前記屈折率分布レンズが三角格子状に並べられて構成されることとした。なお、三角格子状とは、複数の屈折率分布レンズによってレンズアレイを構成した場合に、干渉縞表示面の縦方向に屈折率分布レンズの光軸が一つおきに揃うとともに、干渉縞表示面の横方向に屈折率分布レンズの光軸が揃っており、当該屈折率分布レンズの光軸を仮想線で結んだ場合に三角格子となることを意味している。
【発明の効果】
【0018】
請求項1に係る発明によれば、干渉縞表示面に対して所定距離離して配置する必要がある凸レンズや遮光板が不要となるため、従来の光学系と等価な光学系を、より小型の構成によって実現することができる。
【0019】
請求項2に係る発明によれば、屈折率分布レンズを正方格子状に隙間なく並べることで、干渉縞表示面から再生される光を効率よく利用することができる。
【0020】
請求項3に係る発明によれば、屈折率分布レンズを三角格子状に並べることで、例えば四角格子状と比較して屈折率分布レンズをより密に並べることができるため、干渉縞表示面から再生される光をより効率よく利用することができる。
【図面の簡単な説明】
【0021】
【図1】本発明に係る立体表示装置で用いられる屈折率分布レンズを説明するための概略図であって、(a)は、屈折率分布レンズにおける屈折率と光軸からの距離との関係を示す図、(b)は、屈折率分布レンズに入射した光の光路を示す図、である。
【図2】本発明に係る立体表示装置で用いられる屈折率分布レンズの遮光領域を説明するための概略図である。
【図3】本発明の第1実施形態に係る立体表示装置の全体構成を示す概略図である。
【図4】本発明の第1実施形態に係る立体表示装置で用いられる光学系の構成を示す概略図であって、(a)は、レンズアレイを示す図、(b)は、レンズアレイを構成する屈折率分布レンズを示す図、である。
【図5】本発明の第1実施形態に係る立体表示装置で用いられる屈折率分布レンズの所定領域を遮光した場合における光路を示す概略図である。
【図6】本発明の第1実施形態に係る立体表示装置で用いられる屈折率分布レンズの作製例を示す概略図である。
【図7】本発明の第2実施形態に係る立体表示装置で用いられる屈折率分布レンズを示す概略図である。
【図8】本発明の第2実施形態に係る立体表示装置で用いられる屈折率分布レンズの所定領域を遮光した場合における光路を示す概略図である。
【図9】本発明の別の実施形態に係る立体表示装置で用いられるレンズアレイを示す概略図である。
【図10】従来技術に係るハーフゾーンプレート処理を説明するための概略図である。
【図11】従来技術に係るハーフゾーンプレート処理によって、共役像の結像に関する光線を除去する様子を示す概略図である。
【発明を実施するための形態】
【0022】
本発明の実施形態に係る立体表示装置について、図面を参照しながら説明する。なお、以下の説明において、同一の構成については同一の名称及び符号を付し、詳細説明を省略する。また、以下の説明で参照する図面では、説明の便宜上部材のサイズ等を誇張して示している場合がある。
【0023】
まず本発明の説明の前に、本発明の基本となる屈折率分布レンズについて説明する。屈折率分布レンズは、円柱状のガラスからなり、図1(a)に示すように、中心(光軸)と周辺とで屈折率が異なる特性を持つレンズである。この屈折率nと光軸からの距離rとの関係は、次の式(1)によって表される。
【0024】
n=n(1−Ar/2)・・・式(1)
【0025】
ここで、nは光軸上の屈折率、Aの平方根であるA1/2は屈折率分布定数である。式(1)におけるAの値は、材質やガラス内の屈折率の変化の状況によって決まる。
【0026】
図1(a)に示されるような特性を持つ円柱状の屈折率分布レンズに入射した光は、図1(b)に示すように、円柱内を正弦波的な光路を取りながら伝搬する。伝搬する光路の一周期の長さを1光学長と呼び、ここではpと表す。この1光学長pは、次の式(2)によって与えられる。
【0027】
p=2π/A1/2・・・式(2)
【0028】
屈折率分布レンズは、長さによってレンズ出射面から出射される光が変化する。例えば、長さがp(1光学長)の屈折率分布レンズに光が入射した場合は、正弦波的にレンズ内を1周期伝搬し、出射面から入射光と同じ光が出射される。また、長さがp/4の場合は、入射する光の入射面における光分布の空間周波数分布が出射面で得られる。これは、屈折率分布レンズの入射面と出射面が、それぞれ通常の光学レンズにおける前側焦平面、後側焦平面に相当することを示している。従って、図2に示すように、例えば長さがp/4の屈折率分布レンズ2aの出射面において、直径で2分割した片側(図2では上側)を遮光することで、図11(a)に示すような、干渉縞表示面1の出射側の前面に配置する凸レンズ5と遮光板6とから構成される従来の光学系8と等価な光学系となる。
【0029】
[第1実施形態]
以上を前提として、本発明の第1実施形態に係る立体表示装置10について、図3〜図6を参照しながら説明する。立体表示装置10は、図3に示すように、図示しない干渉縞作成装置によって作成された干渉縞を干渉縞表示面1に表示させて再生照明光を照射することで、干渉縞表示面1から物体光を再生させるものである。なお、図示しない干渉縞作成装置は、前記した図10(b)に示すように、ハーフゾーンプレート法によって干渉縞を作成する。立体表示装置10は、図3に示すように、干渉縞表示面1と、この干渉縞表示面1の物体光出射側に配置された、複数の屈折率分布レンズ2からなるレンズアレイ3と、から構成される。
【0030】
屈折率分布レンズ2は、図3および図4(a)に示すように、その光軸が干渉縞表示面1に対してそれぞれ垂直になるように二次元状に多数並べられることで、レンズアレイ3を構成している。屈折率分布レンズ2は、口径が通常数mm(例えば1mm〜1.5mm)程度であるため、図4(a)に示すように二次元状に多数並べ、干渉縞表示面1以上の面積を有するレンズアレイ3を構成することで、干渉縞表示面1から再生される光の全てを、当該レンズアレイ3を構成する屈折率分布レンズ2に入射させることができる。
【0031】
屈折率分布レンズ2は、ここでは図4(a)に示すように、正方格子状に隙間なく並べられている。ここで、正方格子状とは、図4(a)に示すように複数の屈折率分布レンズ2によってレンズアレイ3を構成した場合に、干渉縞表示面1の縦方向および横方向に屈折率分布レンズ2の光軸が揃っており、当該屈折率分布レンズ2の光軸を仮想線(図示せず)で結んだ場合に正方格子となることを意味している。立体表示装置10は、このように屈折率分布レンズ2を正方格子状に隙間なく並べることで、干渉縞表示面1から再生される光を効率よく利用することができる。また、屈折率分布レンズ2は、ここでは図4(a)に示すように、縦8個×横8個の計64個並べられている。但し、屈折率分布レンズ2の個数は、当該屈折率分布レンズ2の口径や、当該屈折率分布レンズ2と干渉縞表示面1との距離、あるいは干渉縞表示面1の形状や面積に応じて適宜調整されるため、図4(a)に示す個数に限定されない。
【0032】
複数の屈折率分布レンズ2によって構成されるレンズアレイ3は、ここでは図4(a)に示すように、それぞれが干渉縞表示面1に対して密着して配置されている。このようにレンズアレイ3を干渉縞表示面1に密着させた場合、当該レンズアレイ3の面積が干渉縞表示面1の面積と一致するように、屈折率分布レンズ2の個数と配置を調整する。これにより、立体表示装置10は、干渉縞表示面1から再生される光の全てを、当該レンズアレイ3を構成する屈折率分布レンズ2に入射させることができる。
【0033】
なお、レンズアレイ3は、干渉縞表示面1に対して離して配置してもよい。この場合、レンズアレイ3の面積が干渉縞表示面1から再生される光の全てが入射する大きさ(面積)となるように、屈折率分布レンズ2の個数と配置を調整する。具体的には、図示しない干渉縞作成装置によって作成された光の広がりの角度と、干渉縞表示面1からレンズアレイ3までの距離とに基づいて、必要となるレンズアレイ3の面積を算出し、当該面積となるように屈折率分布レンズ2の個数と配置を調整する。これにより、立体表示装置10は、レンズアレイ3を干渉縞表示面1に密着させた場合と同様に、干渉縞表示面1から再生される光の全てを、当該レンズアレイ3を構成する屈折率分布レンズ2に入射させることができる。
【0034】
レンズアレイ3を構成する各屈折率分布レンズ2は、図4(a),(b)に示すように、長さがmp(mは正の整数、pは屈折率分布レンズ2によって決まる1光学長の長さ)になるように構成される。なお、図4(a),(b)では、m=1の場合の例を示している。また、レンズアレイ3を構成する各屈折率分布レンズ2は、図4(b)に示すように、干渉縞表示面1側に配置される入射面からp/4+kp(kは0≦k<mの範囲内の整数)の位置において、光軸に対して垂直な面を直径で二等分した片側(ここでは上側)が遮光されている。屈折率分布レンズ2において遮光する位置は、ハーフゾーンプレート法によって干渉縞を作成する際に用いる物体光の範囲に対応している。
【0035】
すなわち、前記した図10(b)に示す例では、干渉縞表示面1に表示する干渉縞は、水平面から下側に広がる物体光から作成されている。そのため、このように作成された干渉縞を干渉縞表示面1に表示してホログラム像を再生すると、図5に示すように、屈折率分布レンズ2の入射面からp/4+kpの位置において、妨害光(共役光、直接透過光)が屈折率分布レンズ2の上半分を進行することになる。従って、図4(b)に示すように、屈折率分布レンズ2の上半分を遮光することで、図5に示すように、干渉縞表示面1から発生する、水平面から上方に進行する共役光と、直接透過光とが遮光され、所望の物体光だけが屈折率分布レンズ2内を伝搬する。その結果、干渉縞表示面1から屈折率分布レンズ2に入射した物体光だけが屈折率分布レンズ2の出射面から出射されることになる。
【0036】
なお、上記とは逆に、干渉縞表示面1に表示する干渉縞が、水平面から上側に広がる物体光から作成されている場合は、屈折率分布レンズ2の下半分を遮光することで、干渉縞表示面1から発生する、水平面から下方に進行する共役光と、直接透過光とが遮光され、所望の物体光だけが屈折率分布レンズ2内を伝搬することになる。
【0037】
屈折率分布レンズ2の片側を遮光する方法は、入射面からの光を遮光することができれば特に限定されないが、例えば、後記するように2つの屈折率分布レンズ2a,2bを連結して屈折率分布レンズ2を構成する場合(図6参照)は、屈折率分布レンズ2aの片側半分に遮光可能な塗料を塗布する方法が挙げられる。また、2つの屈折率分布レンズ2a,2bを用いない場合は、長さmpの屈折率分布レンズ2を用意し、遮光しようとする領域(入射面からp/4+kpの位置の上半分)に溝(切れ込み)を形成して塗料を流し込む方法が挙げられる。なお、図4(b)では、m=1(すなわちk=0)の場合の例を示している。
【0038】
図4(b)に示す屈折率分布レンズ2は、例えば図6に示すように、長さがp/4+kp(kは0≦k<mの範囲内の整数)で、かつ、出射面を直径で二等分した片側(ここでは上半分)が遮光された屈折率分布レンズ2aと、長さが3p/4+(m−1−k)p(kは0≦k<mの範囲内の整数)の屈折率分布レンズ2bとを用意し、これらを熱融着や紫外線硬化型接着剤等によって連結することで作製することができる。なお、前記した屈折率分布レンズ2bの長さ「3p/4+(m−1−k)p」とは、屈折率分布レンズ2の全長mpから、屈折率分布レンズ2aの長さ「p/4+kp」を除いたものを意味している(すなわち、mp−(p/4+kp)=mp−(p/4+kp+4p/4−4p/4)=mp−kp−p+3p/4=3p/4+(m−1−k)p)。また、図6では、m=1(すなわちk=0)の場合の例を示している。
【0039】
以上のような構成を備える第1実施形態に係る立体表示装置10は、干渉縞表示面1の物体光射出側に、長さをmpとし、一方の端面(例えば入射面)または他方の端面(例えば出射面)からp/4+kpの位置の所定領域を遮光した屈折率分布レンズ2によって構成したレンズアレイ3を配置することで、干渉縞表示面1から屈折率分布レンズ2に入射した物体光だけを屈折率分布レンズ2の出射面から出射させることができる。従って、ホログラムを用いて動画像表示を行う場合において、従来のように干渉縞表示面1の物体光射出側に凸レンズ5を配置し、当該凸レンズの後側焦平面に遮光板6を配置する必要がなくなる。また、立体表示装置10によれば、屈折率分布レンズ2の1光学長が通常数cm程度であるため、従来と比較して光学系を非常に小型化することができる。
【0040】
なお、立体表示装置10を前記したような構成とした場合、図3に示すように、当該立体表示装置10を観察側(図3右側)から見ると、物体上の点は、屈折率分布レンズ2の長さmpだけ右側にシフトし、真の像の位置で観察することができる。また、物体上の点のシフト量は、図3に示すように、屈折率分布レンズ2の長さmpと同一の値となる。
【0041】
[第1実施形態の動作]
以下、立体表示装置10の動作について、簡単に説明する。まず、図示しない干渉縞作成装置によって作成された干渉縞(例えば水平面から下側に広がる物体光から作成された干渉縞)を干渉縞表示面1に表示してホログラム像を再生すると、入射面からp/4+kpの位置において、妨害光(共役光、直接透過光)が屈折率分布レンズ2の上半分を進行する。そして、屈折率分布レンズ2の上半分を進行する妨害光(共役光、直接透過光)は、当該位置において遮光され、物体光だけが屈折率分布レンズ2内を伝搬する。これにより、干渉縞表示面1から屈折率分布レンズ2に入射した物体光だけが屈折率分布レンズ2の出射面から出射される。このように、立体表示装置10は、干渉縞表示面1に対して所定距離離して配置する必要がある凸レンズ5や遮光板6が不要となるため(図11(a),(b)参照)、従来の光学系8と等価な光学系を、より小型の構成によって実現することができる。
【0042】
[第2実施形態]
以下、本発明の第2実施形態に係る立体表示装置について、図7および図8を参照しながら簡単に説明する。第2実施形態に係る立体表示装置は、屈折率分布レンズ2で構成されるレンズアレイ3の代わりに、屈折率分布レンズ2Aで構成されるレンズアレイ3Aを用いる以外は、第1実施形態に係る立体表示装置10と同様の構成を備えている。従って、以下の説明では、立体表示装置10との相違点を中心に説明を行い、当該立体表示装置10と重複する構成については詳細説明を省略する。また、第2実施形態に係る立体表示装置の動作も前記した立体表示装置10と同様であるため、詳細説明を省略する。
【0043】
第2実施形態に係る立体表示装置は、図7に示すように、屈折率分布レンズ2Aの遮光位置を出射面からp/4+kp(kは0≦k<mの範囲内の整数)の位置とすることを特徴としている。言い換えれば、第2実施形態に係る立体表示装置は、図7に示すように、屈折率分布レンズ2Aの遮光位置を入射面から3p/4+kp(kは0≦k<mの範囲内の整数)の位置としている。ただし、共役光および直接透過光は、図8に示すように、屈折率分布レンズ2Aの出射面からp/4+kpの位置(入射面から3p/4+kpの位置)において、屈折率分布レンズ2Aの下半分を進行することになる。従って、屈折率分布レンズ2Aは、図7および図8に示すように、遮光する部分が前記した屈折率分布レンズ2とは逆の下半分となる。なお、図7および図8では、m=1(すなわちk=0)の場合の例を示している。
【0044】
なお、上記とは逆に、干渉縞表示面1に表示する干渉縞が、水平面から上側に広がる物体光から作成されている場合は、屈折率分布レンズ2Aの上半分を遮光することで、干渉縞表示面1から発生する、水平面から下方に進行する共役光と、直接透過光とが遮光され、所望の物体光だけが屈折率分布レンズ2A内を伝搬することになる。
【0045】
このように、第2実施形態に係る立体表示装置は、第1実施形態に係る立体表示装置10と異なる位置を遮光した場合であっても、当該立体表示装置10と同等の効果を得ることができる。
【0046】
以上、本発明に係る立体表示装置について、発明を実施するための形態により具体的に説明したが、本発明の趣旨はこれらの記載に限定されるものではなく、特許請求の範囲の記載に基づいて広く解釈されなければならない。また、これらの記載に基づいて種々変更、改変等したものも本発明の趣旨に含まれることはいうまでもない。
【0047】
例えば、第1および第2実施形態に係る立体表示装置では、図10(b)に示すように、ハーフゾーンプレート法を水平面から下側に広がる物体光に適用した場合を例にしてきたが、物体光の広がりの方向はこれに限るものではない。すなわち、ハーフゾーンプレート法は、前記したように、物体上の点から干渉縞作成面4に対して垂直に下ろした垂線を含んだ平面で物体光の広がりを2分割し、その片側における干渉縞作成面4の光分布のみで干渉縞を計算する手法である。その際に物体光の広がりを2分割する平面は水平面に限るものではなく、任意の平面が適用できる。この場合、干渉縞の計算に用いる光の広がりに対応して、屈折率分布レンズ2,2A内に遮光領域を形成すればよい。
【0048】
また、本発明に係る立体表示装置は、干渉縞表示面1から再生される光の空間周波数成分の半分を遮断する処理を複数の屈折率分布レンズ2,2Aで分割して行うものである。従って、立体表示装置は、図4(a)に示す例では、屈折率分布レンズ2(2A)が正方格子状に並べられているが、例えば図9に示すように、屈折率分布レンズ2(2A)を三角格子状(デルタ配列状、俵積み配列状)に隙間なく並べる等、任意の並べ方を適用することができる。
【0049】
ここで、三角格子状とは、図9に示すように複数の屈折率分布レンズ2(2A)によってレンズアレイ3(3A)を構成した場合に、干渉縞表示面1の縦方向に屈折率分布レンズ2(2A)の光軸が一つおきに揃うとともに、干渉縞表示面1の横方向に屈折率分布レンズ2(2A)の光軸が揃っており、隣接する複数の屈折率分布レンズ2(2A)の光軸を仮想線(図示せず)で結んだ場合に三角格子となることを意味している。このように、本発明に係る立体表装置は、屈折率分布レンズ2(2A)を三角格子状に並べることで、例えば四角格子状と比較して屈折率分布レンズ2(2A)を隙間なく密に並べることができるため、干渉縞表示面1から再生される光の利用効率を向上させることができる。
【符号の説明】
【0050】
1 干渉縞表示面
2,2A,2a,2b 屈折率分布レンズ
3,3A レンズアレイ
4 干渉縞作成面
5,7 凸レンズ
6 遮光板
8,9 光学系
10 立体表示装置

【特許請求の範囲】
【請求項1】
干渉縞を干渉縞表示面に表示させて再生照明光を照射することにより、前記干渉縞表示面から物体光を再生する立体表示装置であって、
前記干渉縞表示面の物体光射出側に、屈折率分布レンズを二次元状に複数並べたレンズアレイが配置され、
前記屈折率分布レンズは、長さがmp(mは正の整数、pは屈折率分布レンズによって決まる1光学長の長さ)であり、一方または他方の端面からp/4+kp(kは0≦k<mの範囲内の整数)の位置において、光軸に対して垂直な面を直径で二等分した片側が遮光されたことを特徴とする立体表示装置。
【請求項2】
前記レンズアレイは、複数の前記屈折率分布レンズが正方格子状に並べられて構成されたことを特徴とする請求項1に記載の立体表示装置。
【請求項3】
前記レンズアレイは、複数の前記屈折率分布レンズが三角格子状に並べられて構成されたことを特徴とする請求項1に記載の立体表示装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【公開番号】特開2013−3557(P2013−3557A)
【公開日】平成25年1月7日(2013.1.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−138058(P2011−138058)
【出願日】平成23年6月22日(2011.6.22)
【出願人】(000004352)日本放送協会 (2,206)
【Fターム(参考)】