説明

立坑及び立坑の構築方法

【課題】 施工費を削減できるとともに、工期を短縮できる立及び立坑の構築方法を提供する。
【解決手段】 立坑6の構築場所の地盤1を掘削して溝孔2を形成し、溝孔2内に予め製作しておいた鉄筋籠11を挿入し、溝2孔内にコンクリート14を打設することにより、底版17の周面に対向する部分に内方に突出する少なくとも一つの突起15が設けられた壁体8を構築する工程と、壁体8によって囲まれた地盤1の部分を掘削する工程と、掘削した部分の底面上に、周面に外方に突出する少なくとも一つの突起20が設けられた底版17を上方から降下させて、底版17をその周面の突起20が壁体8の突起15と干渉しないように設置し、底版17を周方向に回転させて、底版17の突起20が下方から壁体8の突起15に係合する位置に位置決めする工程とを備える。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、立坑及び立坑の構築方法に関し、特に、大深度や高水圧等の立坑に有効な立坑及び立坑の構築方法に関する。
【背景技術】
【0002】
一般に、大深度や高水圧等の立坑においては、盤ぶくれ現象(掘削底面付近の難透水層の地盤が被圧水によって浮き上る現象)を抑制するために、立坑の周囲を囲む壁体の内側の土砂の重量と、この土砂と壁体の内壁面との間のせん断抵抗力を利用し、被圧水による圧力に抵抗している。また、立坑全体の浮き上りを抑制するために、壁体の外壁面とその外側の地盤との間のせん断力を抵抗力として利用し、被圧水による圧力に抵抗している。
【0003】
また、上記の抵抗力のみでは被圧水による圧力に抵抗しきれない場合には、壁体の内側の土砂の上部にコンクリートを所定の厚さで打設し、上記の抵抗力に、コンクリートの重量と、コンクリートと壁体の内壁面との間のせん断抵抗力とを加え、これらの抵抗力によって被圧水による圧力に抵抗している。
【0004】
さらに、壁体の内側の土砂の上部に鋼材を井形に組んで構成した鋼殻桁を設置し、この鋼殻桁が内部に埋設されるように土砂の上部にコンクリートを所定の厚さで打設することにより、土砂の重量に鋼殻桁及びコンクリートの重量を加え、これらの土砂、鋼殻桁、及びコンクリートの重量と、コンクリートと壁体の内壁面との間のせん断抵抗力と、鋼殻桁の曲げ耐力とを抵抗力として利用し、これらの抵抗力によって被圧水による圧力に抵抗することも行われている。
【0005】
ところで、上記のような方法によって被圧水による圧力に抵抗する所定の抵抗力を得るためには、必要とする立坑の深さに対して壁体の施工深さを非常に深くとらなければならない。また、所定の抵抗力を得るために、打設するコンクリートの厚さを相当厚くしなければならず、また、鋼殻桁の厚さも厚くしなければならないため、壁体の内側の地盤の掘削量を多くとらなければならない。このため、立坑の施工に時間と手間と費用がかかり、施工費用が高くつき、工期が長くなる。
【0006】
一方、特許文献1には、立坑の構築方法の他の例が記載されている。この立坑の構築方法は、鉄筋籠の底部側面に鋼製枠を組み付け、この鋼製枠の開口を塞ぐように生分解性シートからなる非透水性の袋体を設け、この鉄筋籠を溝孔内に建て込み、注入管を介して袋体の内部に生分解性ゲルを充填し、この状態で溝孔内にコンクリートを打設し、コンクリートによるアルカリ存在下で生分解性シート及び生分解性ゲルを溶解させ、溝孔内に鋼製枠に対応する部分が凹んだ壁体を構築する。
【0007】
そして、壁体の内側の部分の地盤を掘削して、壁体の鉄筋籠の鋼製枠に対応する部分に形成された凹部を露出させ、この状態で壁体の内側にコンクリートを打設することにより、周面に壁体の凹部と係合した凸部が一体に設けられた底版を構築することができ、凹部及び凸部を介して壁体と底版とを一体化することができるというものである。
【0008】
このような構成の立坑にあっては、壁体の凹部と底版の凸部とを係合させているため、底版と壁体との間のせん断抵抗力を、凹部及び凸部が設けられていない壁体及び底版よりも高めることができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】特開2003−328377号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
しかし、壁体の下端部の肉厚が凹部の存在によって薄くなるため、その部分の曲げ強度が不足する。
【0011】
本発明は、上記のような従来の問題に鑑みなされたものであって、施工費を削減できるとともに、工期を短縮することができ、さらに、壁体の強度を損うことなく、被圧水による圧力に抵抗するのに十分な抵抗力が得られる立坑及び立坑の構築方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
上記のような課題を解決するために、本発明は、以下のような手段を採用している。
すなわち、本発明は、周囲が壁体によって囲まれ、底部に底版が設置された立坑であって、前記壁体の、前記底版の上面よりも深い位置の内壁面に突起を設けたことを特徴とする。
【0013】
本発明の立坑によれば、壁体の内壁面の突起により、壁体の支圧抵抗を高めることができることになる。また、壁体の内壁面の突起によって壁体の強度が低下するようなことはない。
【0014】
また、本発明において、前記壁体の内壁面の、前記底版の周面に対向する部分に前記突起を設け、前記底版の周面に、前記壁体の突起に対して下方から係合する突起を設けたこととしてもよい。
【0015】
本発明の立坑によれば、壁体の内壁面の突起に下方から底版の周面の突起が係合されることになるので、壁体の内壁面及び底版の周面に突起がないものに比べて、底版の周面と壁体の内壁面との間のせん断抵抗力を高めることができる。
従って、必要とする立坑の深さに対して、壁体の施工深さを深くすることなく、また、底版の厚さを厚くすることなく、被圧水による圧力に抵抗するのに十分な抵抗力を得ることができ、この抵抗力によって盤ぶくれ現象を抑制することができる。
また、壁体の内壁面の突起によって壁体の強度が低下するようなことはないので、底版の周面と壁体の内壁面との間で所定のせん断抵抗力を確実に得ることができる。
【0016】
さらに、本発明において、前記壁体の内壁面の突起に対応する外壁面の部分に、外方に突出する突起を設けたこととしてもよい。
【0017】
本発明の立坑によれば、壁体の外壁面の突起により、壁体の外壁面と外壁面に接触する地盤との間のせん断抵抗力を高めることができ、このせん断抵抗力を被圧水による圧力に抵抗する抵抗力として利用することができる。
【0018】
さらに、本発明において、前記底版は、鋼材を井桁に組んで構成した鋼殻桁と、内部に前記鋼殻桁が埋設されるように打設されたコンクリートとからなり、前記鋼殻桁の周面から突出する前記鋼材の部分で前記突起が構成されていることとしてもよい。
【0019】
本発明の立坑によれば、底版の鋼殻桁の重量、コンクリートの重量、鋼殻桁の曲げ耐力、及び底版と壁体の内壁面との間のせん断力により、被圧水による圧力に抵抗することができる。この場合、底版は、突起の内部にも鋼殻桁の鋼材の一部が配置されているので、突起の強度を高めることができ、底版と壁体の内壁面との間のせん断抵抗力を高めることができる。
【0020】
さらに、本発明は、周囲が壁体によって囲まれ、底部に底版が設置された立坑の構築方法であって、立坑の構築場所の地盤を掘削して溝孔を形成し、該溝孔内に予め製作しておいた鉄筋籠を挿入し、前記溝孔内にコンクリートを打設することにより、前記底版の周面に対向する部分に内方に突出する少なくとも一つの突起が設けられた壁体を構築する工程と、前記壁体によって囲まれた前記地盤の部分を掘削する工程と、前記掘削した部分の底面上に、周面に外方に突出する少なくとも一つの突起が設けられた前記底版を上方から降下させて、該底版をその周面の突起が前記壁体の突起と干渉しないように設置し、該底版を移動させて、該底版の突起が下方から前記壁体の突起に係合する位置に位置決めする工程と、を備えてなることを特徴とする。
【0021】
さらに、本発明において、前記底版は、鋼材を井桁に組んで構成した鋼殻桁と、内部に前記鋼殻桁が埋設されるように打設されたコンクリートとからなり、前記鋼殻桁の周面から突出する前記鋼材の部分で前記突起が構成されていることとしてもよい。
【0022】
さらに、本発明において、前記壁体の突起に対応する前記鉄筋籠の部分には、せん断補強部材が回転位置決め手段を介して回転可能に設けられ、該せん断補強部材を上下方向に向けた状態で前記鉄筋籠を前記溝孔内に挿入し、挿入後に前記せん断補強部材を回転させて略水平方向に突出させることとしてもよい。
【0023】
本発明の立坑の構築方法によれば、溝孔内に鉄筋籠を挿入する場合に、せん断補強部材が邪魔になるようなことはない。また、せん断補強部材を壁体の突起の内部に配置できるので、壁体の突起の強度を高めることができ、壁体の突起と底版の突起とを係合した状態に保ち続けることができる。
【0024】
さらに、本発明において、前記立坑を構築する場所の地盤上に、前記立坑を囲むようにレールを敷設し、該レール上に走行可能に揚重機を配置し、該揚重機によって前記底版を揚重することとしてもよい。
【0025】
本発明の立坑の構築方法によれば、揚重機を使用することにより、底版の突起と壁体の突起とを係合させる底版の位置決め作業等の作業を効率良く行うことができる。
【発明の効果】
【0026】
以上、説明したように、本発明の立坑及び立坑の構築方法によれば、壁体の内壁面の突起よって支圧抵抗を高めることができる。また、壁体の内壁面の突起によって壁体の強度が低下するようなことはない。さらに、従来の壁体の内壁面及び底版の周面に突起が設けられていない立坑に比べて、壁体の施工深さを浅く、底版の厚さを薄く、壁体の内側の地盤の掘削量を少なくすることができるので、施工に要する時間と手間と費用を削減することができ、施工費用を削減でき、工期を短縮することができる。
【図面の簡単な説明】
【0027】
【図1】本発明による立坑の一実施の形態の全体を示した概略図である。
【図2】図1の壁体の突起と底版の突起との関係を示した概略断面図である。
【図3】図1の壁体の鉄筋籠のせん断補強部材付近の概略図である。
【図4】本発明による立坑の構築方法を示した説明図であって、溝孔を形成した状態を示した説明図である。
【図5】溝孔内に鉄筋籠を挿入した状態を示した説明図である。
【図6】溝孔内へコンクリートを打設し、溝孔に合致した壁体を構築した状態を示した説明図である。
【図7】壁体の内側の地盤を所定の深さで掘削した状態を示した説明図である。
【図8】掘削底面上に鋼殻桁を設置した状態を示した説明図である。
【図9】掘削底面上にコンクリートを打設し、コンクリートの内部に鋼殻桁を埋設した状態を示した説明図である。
【図10】本発明による立坑の他の実施の形態を示した概略図であって、底版を掘削底面上に設置した状態の概略図である。
【図11】壁体の突起に底版の突起を係合させた状態を示した概略図である。
【発明を実施するための形態】
【0028】
以下、図面を参照しながら本発明の実施の形態について説明する。
図1〜図3には、本発明による立坑及び立坑の構築方法の一実施の形態が示されている。図1は立坑の全体を示す概略図、図2は底版の鋼殻桁と壁体との関係を示した説明図、図3は鉄筋籠のせん断補強部材付近の状態を示した説明図である。
【0029】
すなわち、本実施の形態の立坑は、大深度や高水圧等の立坑に有効なものであって、図1に示すように、立坑6を囲むように構築された円環状の壁体8と、壁体8の内側の掘削底面5上に設置された円板状の底版17とを備え、底版17の上面17aによって立坑6の底面7が構成されている。
【0030】
また、本実施の形態の立坑6は、底版17の重量と、底版17の周面17bと壁体8の内壁面9との間のせん断抵抗力と、壁体8の外壁面10とそれに接触する地盤1との間のせん断抵抗力とを抵抗力として利用し、これらの抵抗力によって掘削底面5下方の被圧水による圧力に抵抗し、立坑6の浮き上り現象を抑制している。
【0031】
壁体8は、鉄筋コンクリート製(又は鉄骨鉄筋コンクリート製)であって、図4〜図6に示すように、立坑6となる部分を囲むように掘削した円環状の溝孔2内に予め製作しておいた鉄筋籠11を挿入し、この溝孔2内にコンクリート14を打設することによって溝孔2の形状に合致した円環状に形成される。
【0032】
壁体8の下端部の内壁面9の底版17の周面17bに対向する部分には、図1及び図2に示すように、内方(立坑6の中心方向)に突出する少なくとも一つ(本実施の形態では複数)の突起15が周方向に所定の間隔ごとに一体に設けられ、この内壁面9の突起15に後述する底版17の周面17bの突起20を下方向から係合させることにより、壁体8の内壁面9と底版17の周面17bとの間のせん断抵抗力が高められる。
【0033】
内壁面9の突起15は、例えば、内面が内壁面9に平行な平面に形成され、左側面及び右側面が内壁面9に直交する平面に形成され、上端面が内壁面9の上方に所定の角度で傾斜する傾斜面に形成され、下端面が内壁面に直交する平面の略台形状に形成される。
【0034】
内壁面9の突起15に対応する鉄筋籠11の部分には、図3に示すように、鋼材等からなる棒状又は板状のせん断補強部材12が回転位置決め手段13を介して上下方向に回転可能に取り付けられ、このせん断補強部材12を上下方向に向けた状態で鉄筋籠11を溝孔2内に挿入し、挿入後にせん断補強部材12を回転させて水平方向に向けることにより、せん断補強部材12を突起15に対応する部分に水平に配置することができ、突起15の強度を高めることができる。回転位置決め手段13としては、せん断補強部材12を回転可能、かつ所定の角度に位置決め可能な機能を有するものであれば特に制限はなく、各種のヒンジ等を用いることができる。
【0035】
なお、内壁面9の突起15は、上記の形状に限らず、後述する底版17の周面17bの突起20と上下方向から互いに係合可能な形状であればよい。
【0036】
壁体8の内壁面9の各突起15に対応する外壁面10の部分には、図1〜図3に示すように、外方に突出する突起16がそれぞれ一体に設けられ、この外壁面10の突起16により外壁面10と外壁面10に接触する地盤1との間のせん断抵抗力が高められるようになっている。
【0037】
外壁面10の突起16の形状は特に制限されるものではなく、内壁面9の突起15と同様の台形状に形成してもよいし、他の形状に形成してもよい。要は、外壁面10と地盤1との間のせん断抵抗力を高めることが可能な形状であればよい。なお、外壁面10の突起16は、必ずしも設ける必要はなく、必要に応じて設ければよい。
【0038】
底版17としては、例えば、図1及び図2に示すように、複数の鋼材19を井桁に組んで構成した円板状の鋼殻桁18からなるもの、上記鋼殻桁18をコンクリート21の内部に埋設して構成した円板状のもの、プレキャストコンクリートからなるもの等を用いることができる。本実施の形態においては、上記鋼殻桁18をコンクリート21の内部に埋設した円板状のものを底版17として用いている。
【0039】
底版17の周面17bには、図1〜図3に示すように、外方(壁体8の内壁面9方向)に突出する少なくとも一つ(本実施形態では複数)の突起20が周方向に壁体8の内壁面9の突起15と同一間隔で一体に設けられ、この底版17の突起20を上記した壁体8の内壁面9の突起15に下方向から係合させるようなっている。
【0040】
底版17の突起20は、壁体8の内壁面9の突起15に下方向から係合可能な形状であれば特に制限はなく、本実施の形態においては、鋼殻桁18を構成する鋼材19の一部を鋼殻桁18の周面から外方に突出させ、その突出させた部分で矩形状の突起20を形成し、この突起20を壁体8の内壁面9の突起15に下方向から係合させている。そして、鋼殻桁18の突起20と壁体8の突起15とを係合させた状態で、掘削底面5上にコンクリート21を打設することにより、コンクリート21の内部に鋼殻桁18を埋設させた円板状の底版17を構築している。
【0041】
そして、底版17の重量と、底版17の周面17bと壁体8の内壁面9との間のせん断抵抗力と、底版17の鋼殻桁18の曲げ耐力と、壁体8の外壁面10と地盤1との間のせん断抵抗力を抵抗力として利用し、この抵抗力によって被圧水による圧力に抵抗している。
【0042】
次に、本発明による立坑6の構築方法の一実施の形態について説明する。
まず、図4に示すように、立坑6を構築する場所の地盤1に、ベントナイト泥水等の安定液を供給しながら、立坑6となる部分を囲むように、掘削機によって所定の深さの環状の溝孔2を形成し、更に、この溝孔2の最深部の内面側及び外面側を掘削して、その部分に内方又は外方に膨らむ凸部3、4を周方向に所定の間隔ごとに形成する。
【0043】
次に、図5に示すように、予め製作しておいた鉄筋籠11を上記の溝孔2内に挿入する。この際、溝孔2の最深部の内面側の凸部3に対応する鉄筋籠11の部分に回転位置決め手段13を介して取り付けられているせん断補強部材12を上下方向に向けておくことにより、せん断補強部材12が邪魔になることなく鉄筋籠11を溝孔2内に挿入することができる(図3参照)。
【0044】
そして、溝孔2内に鉄筋籠11を挿入した後に、回転位置決め手段13に接続しておいたロープ等の操作部材(図示せず)を地上から操作し、せん断補強部材12を回転させて略水平方向に向け、せん断補強部材12を溝孔2の内面側の凸部3に対応する部分に略水平に配置する。
【0045】
次に、図6に示すように、溝孔2内にコンクリート14を打設して固化させることにより、溝孔2の形状に合致した円環状の壁体8を構築する。この場合、溝孔2の各凸部3、4に対応する部分に、壁体8の内壁面9から内方及び外方に突出する突起15、16がそれぞれ形成され、内壁面9側の各突起15の内部には、せん断補強部材12が略水平方向を向いた状態で配置されることになる。
なお、外壁面側の各突起16の内部にもせん断補強部材12が配置されるようにしてもよい。
【0046】
次に、図7に示すように、壁体8の内側の地盤1をベントナイト泥水等の安定液を供給しながら所定の深さまで掘削する。そして、図8に示すように、予め製作しておいた鋼殻桁18を地上から降下させて掘削面5上に設置する。この場合、立坑6となる部分の周囲の地盤1上に予めレール22を敷設しておき、このレール22上にクレーン等の揚重機23を走行可能に複数設置しておき、これらの揚重機23によって鋼殻桁18を吊り下げることにより、鋼殻桁18を壁体8の周方向に回転可能に支持する。
【0047】
そして、揚重機23によって鋼殻桁18を壁体8の周方向へ回転させて、鋼殻桁18を、その周面の突起20が壁体8の内壁面9の突起15と干渉しない位置に位置決めし、この状態で揚重機23によって鋼殻桁18を下降させて掘削底面5上に設置する。
【0048】
そして、揚重機23によって鋼殻桁18を掘削底面5上から少し浮き上らせ、この状態で揚重機23を壁体8の周方向に回転させることで、鋼殻桁18を壁体8の方向に回転させて、鋼殻桁18の各突起20を壁体8の内壁面9の各突起15に下方向から係合する位置に位置決めし、その位置において揚重機23によって鋼殻桁18を下降させて掘削面5上に設置する。
【0049】
そして、図9に示すように、掘削面5上に所定の厚さでコンクリート21を打設し、コンクリート21の内部に鋼殻桁18が埋設された所定の厚さの円板状の底版17を構築し、ベントナイト泥水等の安定液を排水することにより、壁体8の内側の部分に底版17の上面17aを底面7とする立坑6を構築することができる。
なお、鋼殻桁18を掘削底面5から浮き上らせ、内壁面9の各突起15と鋼殻桁18の各突起20とを接触させ、この状態で掘削面5上に所定の厚さでコンクリート21を打設し、鋼殻桁18が掘削底面5から浮き上った状態に固定するようにしてもよい。
【0050】
上記のように構成した本実施の形態による立坑6及び立坑6の構築方法にあっては、底版17の鋼殻桁18及びコンクリート21の重量と、底版17の周面17bと壁体8の内壁面9との間のせん断抵抗力と、鋼殻桁18の曲げ耐力と、壁体8の外壁面10と地盤1との間のせん断抵抗力とを抵抗力として利用し、これらの抵抗力によって被圧水による圧力に抵抗することができるので、立坑6の浮き上りを確実に抑制することができる。
【0051】
また、壁体8の内壁面9に内方に突出する突起15を設け、この突起15に対応する底版17の周面17bの部分に外方に突出する突起20を設け、壁体8の内壁面9の突起15に底版17の周面17bの突起20を下方向から係合させるように構成したので、底版17の周面17bと壁体8の内壁面9との間のせん断抵抗力を大幅に高めることができる。
【0052】
さらに、壁体8の内壁面9の突起15にせん断補強部材12を配置したので、壁体8の内僻面9の突起15の強度を高めることができ、壁体8の内壁面9の突起15と底版17の周面17bの突起20とを係合した状態に保ち続けることができる。
【0053】
従って、従来の壁体の内壁面に突起がなく、底版の周面に突起のないものに比べて、壁体8の施工深さを浅くできるとともに、底版17の厚さを薄くして、壁体8の内側の部分の掘削深さ(掘削量)を少なくすることができ、立坑6の施工に要する時間と手間と費用を削減することができる。
【0054】
さらに、鋼殻桁18を掘削面5上に設置し、鋼殻桁18の壁体8の周方向への位置を調整して、鋼殻桁18の突起20を壁体8の内壁面9の突起15に下方向から係合させる場合に、地上に設置したレール22上を走行可能な揚重機23を利用することができるので、鋼殻桁18の設置に要する時間と手間と費用を削減できる。
【0055】
図10及び図11には、本発明による立坑及び立坑の構築方法の他の実施の形態が示されている。本実施の形態は、略矩形状の立坑6に適用したものであって、略矩形状の立坑6を囲むように角環状の壁体8を構築し、この壁体8の内側の掘削底面5上に略矩形板状の底板17を設置したものであって、その他の構成は前記実施の形態に示すものと同様である。
【0056】
壁体8の内壁面9の底版17の周面17bに対向する部分には、内方に突出する突起15が所定の間隔ごとに一体に設けられ、底版17の周面17bには、外方に突出する突起20が壁体8の突起15と同一ピッチで一体に設けられ、壁体8の内壁面9の突起15に底版17の周面17bの突起20を下方から係合させるようになっている。
【0057】
この場合、壁体8の突起15と底版17の突起20とが互いに干渉しないように底版17を下降させて掘削底面5上に設置したときに、壁体8及び底版17の図10中左側及び下側の突起15、20の先端15a、20aと相手方との間に僅かな隙間が形成され、図10中右側及び上側の突起15、20の先端15a、20aと相手側との間に大きな隙間が形成されるように、壁体8及び底版17の各突起15、20の長さ、幅を設定しておくことにより、底版17を掘削底面5上に設置した状態で、底版17を図10中矢印方向(図中斜め上方)に移動させることにより、図11に示すように、壁体8の突起15に底版17の突起20を下方から係合させることができる。
【0058】
上記のように構成した本実施の形態の立坑6にあっても、前記実施の形態の示すものと同様の作用効果を奏する。
【符号の説明】
【0059】
1 地盤 2 溝孔
3 凸部(内面側) 4 凸部(外面側)
5 掘削底面 6 立坑
7 底面 8 壁体
9 内壁面 10 外壁面
11 鉄筋籠 12 せん断補強部材
13 回転位置決め手段 14 コンクリート
15 突起(内壁面) 15a 先端
16 突起(外壁面) 17 底版
17a 上面 17b 周面
18 鋼殻桁 19 鋼材
20 突起 20a 先端
21 コンクリート 22 レール
23 揚重機

【特許請求の範囲】
【請求項1】
周囲が壁体によって囲まれ、底部に底版が設置された立坑であって、
前記壁体の、前記底版の上面よりも深い位置の内壁面に突起を設けたことを特徴とする立坑。
【請求項2】
前記壁体の内壁面の、前記底版の周面に対向する部分に前記突起を設け、前記底版の周面に、前記壁体の突起に対して下方から係合する突起を設けたことを特徴とする請求項1に記載の立坑。
【請求項3】
前記壁体の内壁面の突起に対応する外壁面の部分に、外方に突出する突起を設けたことを特徴とする請求項1又は2に記載の立坑。
【請求項4】
前記底版は、鋼材を井桁に組んで構成した鋼殻桁と、内部に前記鋼殻桁が埋設されるように打設されたコンクリートとからなり、前記鋼殻桁の周面から突出する前記鋼材の部分で前記突起が構成されていることを特徴とする請求項1〜3の何れか1項に記載の立坑。
【請求項5】
周囲が壁体によって囲まれ、底部に底版が設置された立坑の構築方法であって、
立坑の構築場所の地盤を掘削して溝孔を形成し、該溝孔内に予め製作しておいた鉄筋籠を挿入し、前記溝孔内にコンクリートを打設することにより、前記底版の周面に対向する部分に内方に突出する少なくとも一つの突起が設けられた壁体を構築する工程と、
前記壁体によって囲まれた前記地盤の部分を掘削する工程と、
前記掘削した部分の底面上に、周面に外方に突出する少なくとも一つの突起が設けられた前記底版を上方から降下させて、該底版をその周面の突起が前記壁体の突起と干渉しないように設置し、該底版を移動させて、該底版の突起が下方から前記壁体の突起に係合する位置に位置決めする工程と、
を備えてなることを特徴とする立坑の構築方法。
【請求項6】
前記底版は、鋼材を井桁に組んで構成した鋼殻桁と、内部に前記鋼殻桁が埋設されるように打設されたコンクリートとからなり、前記鋼殻桁の周面から突出する前記鋼材の部分で前記突起が構成されていることを特徴とする請求項5に記載の立坑の構築方法。
【請求項7】
前記壁体の突起に対応する前記鉄筋籠の部分には、せん断補強部材が回転位置決め手段を介して回転可能に設けられ、該せん断補強部材を上下方向に向けた状態で前記鉄筋籠を前記溝孔内に挿入し、挿入後に前記せん断補強部材を回転させて略水平方向に突出させることを特徴とする請求項5又は6に記載の立坑の構築方法。
【請求項8】
前記立坑を構築する場所の地盤上に、前記立坑を囲むようにレールを敷設し、該レール上に走行可能に揚重機を配置し、該揚重機によって前記底版を揚重することを特徴とする請求項5〜7の何れか1項に記載の立坑の構築方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【公開番号】特開2011−21378(P2011−21378A)
【公開日】平成23年2月3日(2011.2.3)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−167158(P2009−167158)
【出願日】平成21年7月15日(2009.7.15)
【出願人】(000000549)株式会社大林組 (1,758)