説明

立毛布帛およびその製造方法

有機繊維糸条からなる編織組織を有する地組織部と、ポリエステル系繊維からなる立毛部とで構成される立毛布帛であって、前記立毛部の1以上の部分領域において、立毛部の高さが漸減することにより、0.5〜10度の傾斜角度で勾配部が形成されていることを特徴とする立毛布帛。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
本発明は、地組織部と立毛部とで構成される立毛布帛およびその製造方法に関するものである。さらに詳しくは、立毛部の表面に、緩やかな勾配部を有する、高級感に富む立毛布帛およびその製造方法に関するものである。
【背景技術】
従来、車輌内装材、インテリア資材、衣料などの分野を中心として立毛布帛が使用されている。近年、かかる立毛布帛のなかでも布帛表面に立体模様を有するものが、高級感に富む立毛布帛として注目されている。このような立体模様を形成する方法としては、物理的に凹凸を形成する方法と化学的に凹凸を形成する方法が知られそいる。
物理的に凹凸を形成する方法としては、高温加熱下での彫刻ロールの接圧による型付け(例えば、エンボス加工、シュライナー加工等)が知られているが、重加圧下の加熱ロール間に布帛を挿入するため、風合いの硬化や布帛の扁平化が非常に大きくなるという問題や、熱ロールによる金属光沢を生じて熱変色を生じるという問題があった。
一方、化学的に凹凸を形成する方法としては、苛性ソーダを主とするアルカリ剤などを印捺しその印捺した部分を溶解させて凹凸差(階段状の段差)を形成する方法(例えば、特許文献1参照)や、無機または有機の溶剤を繊維収縮剤として用い該繊維収縮剤を立毛布帛に吹き付けることにより立毛糸を収縮させ深くシャープな凹凸模様を形成する方法(例えば、特許文献2参照)が提案されている。しかしながら、これら階段状の凹凸差や深くシャープな凹凸模様を有する立毛布帛は、高級感の点で満足と言えるものではなかった。また、繊維収縮剤を立毛布帛に吹き付ける方法では、繊維収縮剤が通常高粘度であるためノズル部での詰まりやコンピューター制御の特殊な吹き付け装置を必要とするという問題があった。
【特許文献1】特公平2−35075号公報
【特許文献2】特開平10−298863号公報
【発明の開示】
本発明の目的は、高級感に富む立毛布帛およびその製造方法を提供することを目的とする。上記目的は本発明の立毛布帛およびその製造方法により達成することができる。
本発明の立毛布帛は、有機繊維糸条からなる編織組織を有する地組織部と、ポリエステル系繊維からなる立毛部とで構成される立毛布帛であって、前記立毛部の1以上の部分領域において、立毛部の高さが漸減することにより、0.5〜10度の傾斜角度で勾配部が形成されていることを特徴とする立毛布帛である。
ここで、前記立毛部に、明度または色相、あるいは明度および色相において、互いに異なる2種以上の立毛糸が含まれており、勾配部の勾配に沿って色彩が徐々に変化することが好ましい。
また、前記勾配部において、最大立毛部高さと最小立毛部高さとの深度差が0.6〜1.0mmの範囲内であることが好ましい。
また、立毛部に複数の勾配部が形成され、これら複数の勾配部により模様付けされていることが好ましい。
本発明の立毛布帛において、前記勾配部の最大立毛部高さ側40%領域において、面積0.05mm以上の微細凹部の個数が120個/cm以下であることが好ましい。
さらには、かかる最大立毛部高さ側40%領域において、面積0.05mm以上の微細凹部の総面積が、前記40%領域の総面積に対して20%以下であることが好ましい。
本発明の立毛布帛は、着色プリントが施されていることが好ましい。
本発明の立毛布帛は、有機繊維糸条からなる編織組織を有する地組織部と、ポリエステル系繊維からなる立毛部とで構成される立毛布帛の立毛部を、化学的エッチング法で部分的に除去し、立毛部の高さを漸減させることにより、0.5〜10度の傾斜角度を有する勾配部を形成することを特徴とする立毛布帛の製造方法により得ることができる。
その際、化学的エッチング法で部分的に除去する前の立毛部に、互いに立毛糸高さを異にする2種以上の立毛糸が含まれ、かつこれらの立毛糸が、明度または色相、あるいは明度および色相において、互いに異なっていることが好ましい。
また、立毛部を化学的エッチング法で部分的に除去する際、エッチング処理液吐出孔の孔径が漸増する部分を有するロータリースクリーンを用いることが好ましい。
その際、2〜5本のロータリースクリーンを用いて、連続的に重ね合わせて化学的エッチング処理を施すことが好ましい。
【図面の簡単な説明】
図1は、本発明の立毛布帛において、立毛部に勾配部1が形成されている様子を模式的に示す説明図である。
図2は、本発明の立毛布帛において、別の態様を模式的に示す説明図である。
図3は、従来の立毛布帛において、立毛部に勾配のない段差が形成されている様子を模式的に示す説明図である。
図4は、本発明に係る立毛布帛において、立毛部の立毛部高さLを説明するための説明図である。
図5は、本発明に係る立毛布帛において、複数の勾配部により形成することができる模様の1例である。
【発明を実施するための最良の形態】
本発明の立毛布帛は(A)有機繊維糸条からなる編織組織を有する地組織部と、(B)ポリエステル系繊維からなる立毛部とからなるものであって、前記立毛部は、前記地組織部に編み込まれ、又は織り込まれ、前記地組織部から、その少なくとも1面側に伸び出ている複数の立毛糸(カットパイル)からなるものである。
前記立毛部は、ポリエステル繊維からなる立毛糸で構成される。立毛部を構成する立毛糸は1種でもよいし、2種以上でもよい。また、立毛糸を2種以上とし、立毛糸高さや、明度、色相などを互いに異ならせてもよい。かかる立毛糸は、通常の捲縮が付与された捲縮立毛糸でもよいし非捲縮立毛糸でもよい。さらには、捲縮立毛糸と非捲縮立毛糸とで立毛部を構成してもよい。立毛部に捲縮立毛糸が含まれていると、立毛糸の倒伏抵抗性が向上し好ましいことである。なお、捲縮を付与する方法としては、仮撚捲縮加工法、空気ジェット加工法、圧縮捲縮法などが例示される。
前記立毛糸を形成するポリエステル樹脂は、ジカルボン酸成分と、ジグリコール成分とから製造される。ジカルボン酸成分としては、主としてテレフタル酸が用いられることが好ましく、ジグリコール成分としては主としてエチレングリコール、トリメチレングリコール及びテトラメチレングリコールから選ばれた1種以上のアルキレングリコールを用いることが好ましい。また、ポリエステル樹脂には、前記ジカルボン酸成分及びグリコール成分の他に第3成分を含んでいてもよい。該第3成分としては、カチオン染料可染性アニオン成分、例えば、ナトリウムスルホイソフタル酸;テレフタル酸以外のジカルボン酸、例えばイソフタル酸、ナフタレンジカルボン酸、アジピン酸、セバシン酸;及びアルキレングリコール以外のグリコール化合物、例えばジエチレングリコール、ポリエチレングリコール、ビスフェノールA、ビスフェノールスルフォンの1種以上を用いることができる。
かかるポリエステル樹脂中には、必要に応じて、艶消し剤(二酸化チタン)、微細孔形成剤(有機スルホン酸金属塩)、着色防止剤、熱安定剤、難燃剤(三酸化二アンチモン)、蛍光増白剤、着色顔料、帯電防止剤(スルホン酸金属塩)、吸湿剤(ポリオキシアルキレングリコール)、抗菌剤、その他の無機粒子の1種以上を含有させてもよい。
ポリエステル繊維の単繊維繊度(番手)、又はこれらの1種以上からなる立毛部形成用糸条の総繊度(番手)などに制限はないが、単繊維繊度は0.5〜5dtex、また立毛部形成用糸条の総繊度は30〜300dtexであることが好ましい。単繊維繊度が0.1dtex未満であると、得られる倒伏抵抗性が不十分になることがあり、かつ得られる立毛部の風合いが過度に柔らかになることがあり、またそれが10dtexを越えると得られる立毛部の風合いが、過度にこわくなることがある。さらに立毛部形成用糸条の総繊度が30dtex未満である場合や逆に300dtexを越える場合、捲縮加工や他糸条との混繊などの糸加工時や製編織時の取扱い性が低下するという不都合を生じることがある。単繊維の断面形状には制限はなく、通常の円形断面のほかに三角、扁平、くびれ付扁平、十字形、六様形、あるいは中空形の断面形状を有していてもよい。また、立毛部形成用糸条は、2種以上の構成糸条からなる複合糸であってもよく、その際、構成糸条のポリエステル樹脂を互いに異ならせるか着色剤を練りこむことにより、異色または異染色性としてもよい。
本発明の立毛布帛において、図1に模式的に示すように、立毛部の1以上の部分領域に立毛部の高さLが漸減することによる勾配部1が形成される。かかる勾配部は、立毛部を構成するポリエステル系立毛糸の先端部を後記のように化学的エッチング法で除去することにより得られる。立毛部に勾配部が形成されることにより、立毛部の高さが高いところは淡色に見え、一方立毛部の高さが低いところは影になって濃色に見え、しかも勾配に沿って淡色から濃色へと徐々に濃淡が変化するので、高級感が得られる。
ここで、該勾配部の傾斜角度Aが0.5〜10度(好ましくは1〜3度)の範囲内であることが肝要である。該傾斜角度Aが10度よりも大きい鋭角であると淡色から濃色へ急激に明度が変化するため満足な高級感が得られない恐れがある。逆に、該傾斜角度が0.5度よりも小さいと十分に明度が変化せず、やはり満足な高級感が得られない恐れがある。また、図3に模式的に示すように、勾配のない段差のある凹凸が立毛部に形成されている場合も、高級感が得られず好ましくない。
その際、図2に模式的に示すように、前記立毛部に、明度または色相、あるいは明度および色相において、互いに異なる2種以上の立毛糸が含まれ、勾配に沿って色彩が徐々に変化すると、特に優れた高級感が得られ好ましい。
また、前記勾配部において、勾配部の最大立毛部高さと最小立毛部高さとの深度差Hが0.6〜1.0mmの範囲であることが満足な高級感を得る上で好ましい。また、立毛部の最大立毛部高さLとしては、1〜5mm(より好ましくは1.5〜3mm)であることが満足な高級感を得る上で好ましい。なお、立毛糸が地組織部に対して傾いている(90度未満)場合、立毛部の立毛部高さLは図4に示すように垂直距離を測定するものとする。
前記勾配部において、勾配部の表面(傾斜表面)には微細凹凸が少ないことが好ましい。勾配部表面に微細凹凸が少なく滑らかであると勾配に沿って淡色(最大パイル高さ側)から濃色(最小パイル高さ側)へと徐々に明度が変化するので、満足な高級感が得られる。かかる微細凹凸の少なさの目安として、勾配部の最大高さ側40%領域において、面積0.05mm以上の微細凹部の個数が120個/cm以下(より好ましくは、10〜100個/cm)であることが好ましい。特に、該凹部の総面積が前記40%領域の総面積に対して20%以下(より好ましくは2〜10%)であるとより好ましい。このように微細凹部の少ない滑らかな勾配は、後記のように複数本のロータリースクリーンにより重ね合わせてエッチング処理することにより得ることができる。なお、勾配部の最大高さ側40%領域とは、図1において0.4Wに相当する領域の勾配部表面積である。
また、立毛部の複数の部分領域において勾配部が形成されており、これら複数の勾配部により模様が形成されていると、さらに高級感が増し好ましいことである。かかる模様としては、図5に例示するような正方形(1辺の長さとしては1〜3cm程度が適当である。)が平面的に連続する模様、水玉模様、格子模様、市松模様などが例示される。なお、図5において淡色部が立毛部の高さが高いところであり、一方濃色部が立毛部の高さが低いところである。
本発明の立毛布帛の編織組織に制限はなく、例えば経パイル織物、緯パイル織物、シンカーパイル編物、ラッセルパイル編物、トリコットパイル編物などのループパイルをカットして得られたカットパイル布帛である。
本発明の立毛布帛において、地組織部に用いられる糸条の種類、繊維の種類、単糸繊度、総繊度について格別の制限はなく、通常の立毛布帛に用いられる有機繊維糸条を用いることができる。かかる有機繊維糸条としては、綿、羊毛、麻、ビスコースレーヨン繊維、ポリエステル繊維、ナイロン繊維、ポリオレフィン繊維、セルロースアセテート繊維などを包含する。一般に本発明の立毛布帛の地組織部用糸条はポリエステルマルチフィラメント糸条から選ばれることが好ましく、それによって好ましい風合いと染色性とを有する地組織部を得ることができる。
本発明の立毛布帛の立毛部における立毛糸の分布は34000〜220000dtex/cmの範囲内にあることが好ましい。この立毛糸密度が34000dtex/cm未満であると、エッチング処理の際、立毛部中の立毛糸が容易に倒伏してしまい、エッチング作用が不安定となる恐れがある。逆にそれが220000dtex/cmを越えると、エッチング処理の際、アルカリ処理液の立毛部への浸透性が悪くなり満足なエッチング処理ができない恐れがある。
本発明の立毛布帛は、例えば下記の方法により製造することができる。
まず、前記の有機繊維糸条からなり編織組織を有する地組織部と、前記のポリエステル系繊維からなるループパイル部とで構成されるパイル布帛を製編織した後、該布帛のループパイルを通常の方法によりカットし立毛布帛とする。
その際、立毛部を構成する立毛糸は1種類でもよいが、互いに立毛糸高さを異にする2種以上の立毛糸が含まれ、かつこれらの立毛糸が、明度または色相、あるいは明度および色相において、互いに異なっていることが好ましい。このように、立毛高さと色彩が異なる多種類の立毛糸が立毛部に含まれていると、勾配部を形成した際、勾配部の勾配に沿って色彩が徐々に変化するので特に優れた高級感が得られる。例えば、無着色(白色)かつ立毛糸高さの高い立毛糸と、着色されかつ立毛糸高さの低い立毛糸で立毛部を構成し、エッチング処理により勾配部を形成すると、立毛部の高さが高いところは白色に見え、一方立毛部の高さが低いところは有色に見え、しかも勾配に沿って白色から有色へと徐々に色彩が変化するので、高級感が得られる。また、立毛糸高さの高い立毛糸と立毛糸高さの低い立毛糸との中間の立毛糸高さを有する立毛糸が含まれ、かつ中間の立毛糸高さを有する立毛糸が他の色に着色されていると、多様な色彩の変化が得られ、さらに高級感が向上する。
なお、立毛糸の高さを異ならせる方法としては、パイル布帛を製編織する際、立毛糸用糸条として、沸水収縮率が異なる2種以上の糸条を用いて立毛部を形成した後、熱処理する方法や、立毛糸用糸条として、非捲縮糸条と捲縮糸条とを同じに引き揃えて混繊させた混繊糸を用いて立毛部を形成した後、捲縮を発現させる方法などが例示される。
次いで、該立毛布帛の立毛部に、化学的エッチング法で部分的に除去し、立毛部の高さを漸減させ、0.5〜10度の傾斜角度を有する勾配部を形成することにより、本発明の立毛布帛は容易に製造される。
ここで、立毛部を化学的エッチング法で部分的に除去する際、エッチング処理液吐出孔の孔径が漸増する部分を有するロータリースクリーンを用いることが好ましい。かかるロータリースクリーンの表面には、エッチング処理液の吐出孔が複数穿孔されており、かつ少なくとも該吐出孔の孔径が漸増する部分がある。大きな孔径を有する吐出孔からは多量のエッチング処理液が吐出されるため、立毛部が深くエッチングされてパイル部の高さが低くなる。一方、小さな孔径を有する吐出孔からは少量のエッチング処理液しか吐出されないため、立毛部は浅くエッチングされる。その結果、前記立毛部の1以上の部分領域に勾配を形成することができる。
また、エッチングにより立毛部に模様を形成する場合、該ロータリースクリーンにこれに対応して模様状に吐出孔が配列している必要がある。例えば、立毛部に図4に例示するような正方形が平面的に連続する模様を形成する場合は、これに対応する模様状に吐出孔が配列している必要がある。
前記ロータリースクリーンの本数としては、2〜5本であることが好ましい。1本目のロータリースクリーンで形成した勾配に、2本目以後のロータリースクリーンを用いてさらにエッチング処理を重ねて施すことにより、前記のような微細凹凸の少ない滑らかな勾配が得られる。なお、ロータリースクリーンの本数としては5本で十分であり、6本以上ではコストアップとなる恐れがある。
前記ロータリースクリーンの吐出孔の配列密度としては、経緯とも50〜90列/2.54cm程度が適当である。また、ロータリースクリーンからの吐出量としては、15〜25cm/mの範囲であることが好ましい。該吐出量が25cm/mよりも多いとアルカリ処理剤がアルカリ処理液が目詰まりを起こす恐れがある。逆に、該吐出量が15cm/mよりも少ないとアルカリ処理液が立毛部に付着する際に斑がでやすくなる恐れがある。
前記複数本のロータリースクリーンにおいて、吐出孔の孔数および/または配列は同じでもよいし異なっていてもよい。たとえば、1本目のロータリースクリーンで立毛部に勾配を形成した後、2本目のロータリースクリーンでは、該勾配部の最小高さ側にのみ重ねてエッチング処理できるよう2本目のロータリースクリーンの吐出孔の孔数および/または配列を変えてもよい。同様に、3本目以後のロータリースクリーンについても、勾配部の最小高さ側にのみ重ねてエッチング処理できるよう吐出孔の孔数および/または配列を変えてもよい。
前記アルカリ処理剤の種類としては特に限定されないが、例えば、30%リキッドアルカリの苛性ソーダ30〜70重量%と、固形分15%のエッチング用元糊(例えば、安達染料(株)製 セルパール587)70〜30重量%からなる粘度400〜800ポイズの捺染糊が好適に例示される。
かくして得られた立毛布帛には、公知の着色プリント(例えば、特開2000−345483号に開示されたインクジェット式捺染)や常法の染色仕上げ加工が施されていてもよい。さらには、常法の撥水加工、紫外線遮蔽あるいは抗菌剤、消臭剤、防虫剤、蓄光剤、再帰反射剤、マイナスイオン発生剤等の機能を付与する各種加工を付加適用してもよい。
【実施例】
次に本発明の実施例及び比較例を詳述するが、本発明はこれらによって限定されるものではない。なお、実施例中の各測定項目は下記の方法で測定した。
沸水収縮率
周長1.125mの検尺機を用い、試料を10回転サンプリングしてかせを作り、そのかせをスケール板の吊るし釘にかけた後、下部にかせの総重量の1/30の荷重を吊るし、処理前のかせの長さL1を読む。次に荷重を外し、かせを木綿袋に入れて沸騰水に30分浸ける。その後かせを取り出し、ろ紙で水分を切って24時間風乾した後、再びスケール板の吊るし釘に掛け、下部に上記と同じ荷重を吊るし処理後のかせの長さL2を読み取る。沸水収縮率(BWS)は下記の式により算出した。なお、n数は5でその平均値を算出した。
BWS(%)=(L1−L2)/L1×100
捲縮率
周長1.125mの検尺機を用いて総繊度3333dtexのかせを作り、そのかせをスケール板の吊るし釘にかけ下部に6gの初荷重と600gの荷重を吊るし、かせの長さL0を読み取った後、速やかに荷重を外すとともにスケール板より外し、沸騰水に30分浸けて、捲縮発現処理を行う。その後かせを取り出し、ろ紙で水分を切って24時間風乾した後、再びスケール板に吊るし、前記荷重を掛けて1分後のかせの長さL1を読み取り、次いで、速やかにこの荷重を外し1分後のかせの長さL2を読み取る。捲縮率は、下記の式により算出した。なお、n数は5でその平均値を算出した。
捲縮率(%)=(L1−L2)/L0×100
傾斜角度A
長さ5cm×5cmの正方形の試料を布帛の長さ方向に対してタテおよびヨコ方向に裁断して、キーエンス(株)製デジタルマイクロスコープVHXを使用して、立毛部の最頂部からアルカリ処理された最下部への傾斜方向と、水平方向との傾斜角度A(度)を測定した。なお、n数は5でその平均値を求めた。
深度差H
長さ5cm×5cmの正方形の試料を布帛の長さ方向に対してタテおよびヨコ方向に裁断して、キーエンス(株)製デジタルマイクロスコープVHXを使用して、立毛部の最頂部からアルカリ処理された最下部までの深さH(mm)を測定した。なお、n数は5でその平均値を求めた。
勾配部の長さW
長さ5cm×5cmの正方形の試料を布帛の長さ方向に対してタテおよびヨコ方向に裁断して、キーエンス(株)製デジタルマイクロスコープVHXを使用して、図1に示す勾配部の長さW(mm)を測定した。なお、n数は5でその平均値を求めた。
(6)勾配部の単位面積当たりの凹部個数および凹部比率
明石ビームテクノロジー(株)製の走査型電子顕微鏡SX−40を使用して、勾配部分の最大高さ側40%領域において、面積0.05mm以上の凹部の個数(個/cm)を測定し凹部個数とした。また、下記式により凹部比率(%)を算出した。なお、n数は5でその平均値を求めた。
凹部比率(%)=(面積0.05mm以上の凹部の総面積)/(勾配部分の最大高さ側40%領域の面積)×100
高級感
試験者3人により、高級感を下記4段階に分類し評価した。
5級 高級感の点で特に優れている。
4級 高級感の点で優れている。
3級 高級感の点でやや良好である。
2級 高級感の点でやや不満足である。
1級 高級感の点で不良である。
[実施例1]
通常のポリエチレンテレフタレートマルチフィラメント糸条(ヤーンカウント:56dtex/24本、沸水収縮率10%、帝人ファイバー(株)製)と通常のポリエチレンテレフタレート仮撚捲縮加工糸条(ヤーンカウント:84dtex/72本、捲縮率25%、帝人ファイバー(株)製)とを公知のインターレースノズルを用いて空気混繊させたポリエステル混繊糸条(ヤーンカウント:140dtex/96本)を立毛布帛の立毛糸用糸条として用い、一方、地組織形成用糸条として通常のポリエチレンテレフタレートフィラメント糸条(ヤーンカウント:56dtex/24本、帝人ファイバー(株)製)を用い、これらのフィラメント糸条を28ゲージのトリコット経編機(カールマイヤー社製)の筬(おさ)のすべてに供給して下記編組織で編密度69コース/2.54cm、28ウエール/2.54cmのパイル編物を編成した。
地組織:バックハーフ組織(バック:23/10、フロント:10/12による編方)
得られた編物を(株)日阪製作所製液流染色機にて130℃×30分間染色を行なった。染色後、常法の下加工(フルカット起毛→シャーリング→毛割→シャーリング→プレセット)を施し、カットパイル(立毛長2mm)を有する編密度64コース/2.54cm、35ウエール/2.54cmの立毛布帛(立毛糸密度が97217dtex/cm)を得た。
かかるカットパイル布帛において、ポリエチレンテレフタレートマルチフィラメント糸条で立毛糸高さの高い立毛糸が形成され、ポリエチレンテレフタレート仮撚捲縮加工糸条で立毛糸高さの低い立毛糸が形成されていた。
一方、30%リキッドアルカリの苛性ソーダ54重量%と、固形分15%のエッチング用元糊(例えば、安達染料(株)製 セルパール587)46重量%からなる粘度600ポイズのアルカリ処理剤を用意した。
次いで、下記の吐出孔を有し吐出量が20.0cm/mのロータリースクリーン(高木彫刻(株)製)を3本使用して、前記立毛布帛の立毛部に、図5(濃色部が深くエッチングされている。)に示す模様状に勾配部を形成した。その際、3本のロータリースクリーンによるエッチング個所が重なるようにした。なお、立毛部に形成された該模様において、基本単位となる正方形の1辺の長さは1cmであった。
(吐出孔)
配列密度:経緯とも70列/2.54cm
図5に示す模様に対応して吐出孔が分布(最濃色部に対応する位置に最も孔径の大きい吐出孔が配され、淡色部にかけて徐々に孔径の小さい吐出孔を配し、最淡色部に対応する位置は無孔とする。)
吐出孔の形状:直径0.068mm
そして、該布帛を温度130℃、時間5分で乾熱乾燥した後、温度165℃、時間8分間の高温スチーマー処理を施し、湯洗い、水洗いをして、立毛部が化学的エッチング法で部分的に除去されることにより立毛部に複数の勾配部が形成されている立毛布帛を得た。
該立毛布帛において、勾配部の傾斜角度Aが2度、深度差Hが0.8mm、勾配部の長さWが10mmであった。また、勾配部分の最大高さ側40%領域において、単位面積当たりの凹部個数が90個/cm、凹部比率2%であり、勾配部表面に微細凹凸が少なく滑らかであった。さらに、勾配部の勾配に沿って立毛部の高さが高いところは淡色に見え、一方立毛部の高さが低いところは影になって濃色に見え、しかも勾配に沿って淡色から濃色へと徐々に濃淡が変化するので、高級感の点で優れているもの(4級)であった。
[実施例2]
ポリエチレンテレフタレートマルチフィラメント糸条(ヤーンカウント:56dtex/72本、帝人ファイバー(株)製)をヒーター長:2m、熱処理温度:200℃、熱処理速度:500m/min、オーバーフィード率:5%の条件下で熱処理をした沸水収縮率3%の非捲縮ポリエチレンテレフタレートマルチフィラメント糸条を得た。
別に、黒色顔料により樹脂着色されたポリエチレンテレフタレート仮撚捲縮加工糸条(ヤーンカウント:84dtex/36本、捲縮率25%、帝人ファイバー(株)製)を得た。
また別に、カチオン染料可染性のポリエチレンテレフタレート(帝人ファイバー(株)製)を溶融紡糸し、3500m/分の巻き取り速度で巻き取った、カチオン染料可染性の部分配向未延伸ポリエチレンテレフタレート糸条を、延伸装置の温度65℃の第一ローラーと温度75℃の第2ローラーの間で熱セットを施すことなく延伸倍率1.4倍で延伸することにより、沸水収縮率45%の非捲縮ポリエチレンテレフタレートフィラメント糸条(ヤーンカウント:56dtex/24本)を得た。
次いで、これらの3糸条を公知のインターレースノズルを用いて空気混繊させたポリエステル混繊糸条(ヤーンカウント:205dtex/132本)を立毛布帛の立毛糸用糸条として用い、一方、地組織形成用糸条として通常のポリエチレンテレフタレートフィラメント糸条(ヤーンカウント:167dtex/48本、沸水収縮率10%、帝人ファイバー(株)製)を用い、これらのフィラメント糸条を28ゲージのポールシンカーを備えたトリコット経編機(カールマイヤー社製)の筬(おさ)のすべてに供給して下記編組織で編密度66コース/2.54cm、28ウエール/2.54cmのパイル編物を編成した。
組織:バック:10/12、フロント:10/01
得られたループパイル布帛をシャーリング機(日機(株)製)に供して、ループパイルの先端部分0.2mmをカットして、カットパイルを形成した。このカットパイル布帛を、乾熱セッターに供して、拡布状態において、温度:180℃、時間:45秒間の熱処理を施して、カットパイル中の非捲縮ポリエチレンテレフタレートマルチフィラメント糸条を安定化し、顔料により樹脂着色されたポリエチレンテレフタレートマルチ仮撚捲縮加工糸条の捲縮を十分に形成させ、かつ非捲縮カチオン染料可染性ポリエチレンテレフタレートフィラメント糸条を十分に熱収縮させた。
かかるカットパイル布帛において、非捲縮ポリエチレンテレフタレートマルチフィラメント糸条で最も立毛糸高さの高い立毛糸2が形成され、非捲縮カチオン染料可染性ポリエチレンテレフタレートフィラメント糸条で最も立毛糸高さの低い立毛糸4が形成され、顔料により樹脂着色されたポリエチレンテレフタレート仮撚捲縮加工糸条で中間の立毛糸高さの立毛糸3が形成されていた。
得られたカットパイル布帛に、(株)日阪製作所製液流染色機にてカチオン染料(青色)を用い130℃×30分間染色を行なった。染色後、乾燥、プレセットを施しカットパイル(立毛糸の高さ2mm)を有する編密度68コース/2.54cm、30ウエール/2.54cmの立毛布帛(立毛糸密度が129,642dtex/cm)を得た。得られた立毛布帛に対し、実施例1と同様にアルカリ処理剤を用い、同様の加工を実施した。
該立毛布帛において、図2に模式的に示すように勾配部が形成されており、勾配部の勾配角度Aが2度、深度差Hが0.8mm、勾配部の長さWが10mmであった。また、勾配部分の最大高さ側40%領域において、単位面積当たりの凹部個数が100個/cm、凹部比率5%であり、勾配部表面に微細凹凸が少なく滑らかであった。さらに、勾配部の勾配に沿って立毛部の高さが最も高いところは白色に見え、次いで黒色、そして、立毛部の高さが最も低いところが、黒色と青色とが混ざった色に見え、高級感の点で非常に優れているもの(5級)であった。
[実施例3]
実施例2において、ロータリースクリーンの本数を2本に変えること以外は実施例2と同様にして立毛部が化学的エッチング法で部分的に除去されることにより立毛部に勾配が形成されている立毛布帛を得た。
該立毛布帛において、勾配部の勾配角度Aが2度、深度差Hが0.8mm、勾配部の長さWが10mm、勾配部分の最大高さ側40%領域において、単位面積当たりの凹部個数が120個/cm、凹部比率20%であり、勾配部表面に微細凹凸が少し見られたが、高級感の点で優れているもの(4級)であった。
[実施例4]
実施例2で得られた立毛布帛に、通常のインクジェットにより着色プリントを施した。着色プリントを施された該布帛は、見る角度によって深みがありかつ緻密な勾配差のある外観であり優れるものであった。
[実施例5]
実施例1において、ロータリースクリーンの吐出量を26.3cm/mに変更しかつロータリースクリーンの本数を1本に変えること以外は実施例1と同様にして、立毛部を化学的エッチング法で部分的に除去することにより、立毛部に微細凹凸の多い勾配が形成されている立毛布帛を得た。
該立毛布帛において、勾配部の勾配角度Aが2度、深度差Hが0.8mm、勾配部の長さWが10mmであった。また、勾配部分の最大高さ側40%領域において、単位面積当たりの凹部個数が150個/cm、凹部比率25%であり、勾配部表面に微細凹凸が見られたが、高級感の点でやや良好(3級)であった。
【産業上の利用可能性】
本発明の立毛布帛は、立毛部表面に緩やかな勾配部を有し高級感に富むため、車輌内装材、インテリア資材、衣料などの分野に好適に使用することができ、高い実用性を有するものである。
【図1】

【図2】

【図3】

【図4】

【図5】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
有機繊維糸条からなる編織組織を有する地組織部と、ポリエステル系繊維からなる立毛部とで構成される立毛布帛であって、前記立毛部の1以上の部分領域において、立毛部の高さが漸減することにより、0.5〜10度の傾斜角度で勾配部が形成されていることを特徴とする立毛布帛。
【請求項2】
前記立毛部に、明度または色相、あるいは明度および色相において、互いに異なる2種以上の立毛糸が含まれており、勾配部の勾配に沿って色彩が徐々に変化する、請求項1に記載の立毛布帛。
【請求項3】
前記勾配部において、最大立毛部高さと最小立毛部高さとの深度差が0.6〜1.0mmの範囲内である、請求項1に記載の立毛布帛。
【請求項4】
複数の勾配部により模様が形成されている、請求項1に記載の立毛布帛。
【請求項5】
前記勾配部の最大立毛部高さ側40%領域において、面積0.05mm以上の微細凹部の個数が120個/cm以下である、請求項1に記載の立毛布帛。
【請求項6】
前記勾配部の最大立毛部高さ側40%領域において、面積0.05mm以上の微細凹部の総面積が、前記40%領域の総面積に対して20%以下である、請求項5に記載の立毛布帛。
【請求項7】
着色プリントが施されてなる、請求項1に記載の立毛布帛。
【請求項8】
有機繊維糸条からなる編織組織を有する地組織部と、ポリエステル系繊維からなる立毛部とで構成される立毛布帛の立毛部を、化学的エッチング法で部分的に除去し、立毛部の高さを漸減させることにより、0.5〜10度の傾斜角度を有する勾配部を形成することを特徴とする立毛布帛の製造方法。
【請求項9】
化学的エッチング法で部分的に除去する前の立毛部に、互いに立毛糸高さを異にする2種以上の立毛糸が含まれ、かつこれらの立毛糸が、明度または色相、あるいは明度および色相において互いに異なる、請求項8に記載の立毛布帛の製造方法。
【請求項10】
立毛部を化学的エッチング法で部分的に除去する際、エッチング処理液吐出孔の孔径が漸増する部分を有するロータリースクリーンを用いる、請求項8に記載の立毛布帛の製造方法。
【請求項11】
2〜5本のロータリースクリーンを用いて、連続的に重ね合わせて化学的エッチング処理を施す、請求項10に記載の立毛布帛の製造方法。

【国際公開番号】WO2005/059237
【国際公開日】平成17年6月30日(2005.6.30)
【発行日】平成19年7月12日(2007.7.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−516376(P2005−516376)
【国際出願番号】PCT/JP2004/018957
【国際出願日】平成16年12月13日(2004.12.13)
【出願人】(302011711)帝人ファイバー株式会社 (1,101)
【Fターム(参考)】