説明

立毛状複合粒子、その製造方法および該複合粒子を含む成形用複合材料

【課題】 マトリクス粉体中に偏析などが生じにくく、均一に分散し得る新規な立毛状複合粒子、このものを効率よく製造する方法および前記立毛状複合粒子を均一に含む成形用複合材料を提供する。
【解決手段】 ゾル-ゲル法で得られた金属酸化物粒子と繊維状物質とが結合してなる立毛状複合粒子、溶媒中において、繊維状物質の存在下に、加水分解性金属化合物を加水分解、縮合させて金属酸化物ゾルを形成させる工程を含む前記立毛状複合粒子の製造方法、およびマトリクス粉体と前記立毛状複合粒子を含む成形用複合材料である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、立毛状複合粒子、その製造方法および該複合粒子を含む成形用複合材料に関する。さらに詳しくは、本発明は、プラスチック材料やゴム材料等の補強用などとして好適な、ゾル−ゲル法で得られた金属酸化物粒子と繊維状物質とが結合してなる立毛状複合粒子、このものを効率よく製造する方法、およびマトリクス粉体と、前記立毛状複合粒子を含み、特に摩擦材に好適に用いられる成形用複合材料に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、プラスチック材料やゴム材料には、各種の充填材、例えば炭酸カルシウム、クレー、タルク、ケイ藻土、マイカ、シリカ、カーボンブラック、有機繊維や無機繊維等の繊維状物質などが、増量用や補強用として用いられている。補強用としては、成形体の機械的、電気的、化学的諸性質を向上させる目的で使用される。該繊維状物質は、例えば各種熱可塑性樹脂や、フェノール樹脂、不飽和ポリエステル樹脂、エポキシ樹脂などの熱硬化性樹脂の補強用として使用される。繊維強化熱硬化性樹脂としては、FRPが知られている。
【0003】
プラスチック材料やゴム材料と前記充填材を含む複合材料の成形においては、複数の粉粒体原料を混合して用いる場合、各原料の粒子径や粒子径分布、密度、形状、付着性などの材料に由来する特性の差異から、成形体内での偏析や成形体の強度不足を引き起こすことがあるなどの問題が生じる。特に繊維原料を含む場合、顕著であり、繊維原料を均一に分散させるために特別な装置、方法を考慮しなくてはならない場合が多々ある。
【0004】
ところで、各種車輌や産業機械等のブレーキパッド、ブレーキライニングやクラッチフェーシング等に広く使用される摩擦材は、耐熱性有機繊維や無機繊維、金属繊維等の繊維原料と、無機・有機充填材、摩擦調整剤及び熱硬化性樹脂バインダー等の粉末原料とを混合してなる出発原料を常温にて所定圧力で成形(予備成形)し、次いで所定温度にて熱成形し、硬化(アフタキュア)及び仕上げ処理して得られる。
【0005】
上記の製造工程において、各種原料は摩擦材中に均一に分布して存在することが望ましく、従って出発原料の調製に際して、各種原料はより均一に混合されなければならない。しかしながら、繊維原料と粉末原料とは形状が大きく異なるため、前述したような問題が生じる。
【0006】
そこで、繊維原料を用いた場合に生じる前述した問題を解決するために、例えば(1)所定長さのフィブリル化されたフィラメントのフィブリル間に、粉体が静電作用を伴って保持されているとともに、少なくとも1部の前記フィラメントの先端がその表面から突出していることを特徴とする立毛状複合材(例えば、特許文献1参照)、および(2)粉体粒子と繊維とを含む材料を造粒する方法において、粉体粒子と繊維とを含む材料を攪拌しながらそれにアルコールミストを噴霧することにより立毛状となった基材粒子を形成させることを特徴とする立毛状基材粒子の製造方法(例えば、特許文献2参照)などが開示されている。
【0007】
しかしながら、これまで、ゾル−ゲル法で得られた金属酸化物粒子と繊維状物質とが結合してなる立毛状複合粒子は全く知られていない。
【特許文献1】特開2000−144102号公報
【特許文献2】特開2000−153145号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は、このような事情のもとで、マトリクス粉体中に偏析などが生じにくく、均一に分散し得る新規な立毛状複合粒子、このものを効率よく製造する方法および前記立毛状複合粒子を均一に含む成形用複合材料を提供することを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者らは、前記目的を達成するために鋭意研究を重ねた結果、ゾル−ゲル法で得られた金属酸化物粒子と繊維状物質が結合してなる立毛状複合粒子は、プラスチック材料やゴム材料などのマトリクス粉体中に、偏析などが生じにくく、容易に均一に分散し得ること、そして、この立毛状複合粒子は、特定の工程を施すことにより、効率よく得られることを見出し、この知見に基いて本発明を完成するに至った。
【0010】
すなわち、本発明は、
(1) ゾル-ゲル法で得られた金属酸化物粒子と繊維状物質とが結合してなることを特徴とする立毛状複合粒子、
(2) 金属酸化物粒子が、アルミナ、シリカ、チタニアおよびジルコニアの中から選ばれる少なくとも1種の粒子である上記(1)項に記載の立毛状複合粒子、
(3) 繊維状物質が有機繊維、並びに無機ウイスカー、ガラス繊維、炭素繊維、鉱物繊維、セラミック繊維及び金属繊維からなる無機繊維の中から選ばれる少なくとも1種であり、かつ平均直径が0.1〜20μmである上記(1)または(2)項に記載の立毛状複合粒子、
(4) 繊維状物質が無機繊維であり、金属酸化物粒子と無機繊維との含有割合が、質量比で100:1〜100:500である上記(1)〜(3)項のいずれか1項に記載の立毛状複合粒子、
(5) 平均粒径が5〜500μmである上記(1)〜(4)項のいずれか1項に記載の立毛状複合粒子、
(6) 溶媒中において、繊維状物質の存在下に、加水分解性金属化合物を加水分解、縮合させて金属酸化物ゾルを形成させる工程を含むことを特徴とする、上記(1)〜(5)項のいずれか1項に記載の立毛状複合粒子の製造方法、
(7) (A)溶媒中において、繊維状物質の存在下に、加水分解性金属化合物として、一般式(I)
M(OR) …(I)
(式中、MはAl、Si、TiまたはZr、Rは炭素数1〜6のアルキル基、nはMの価数を示し、3または4である。)
で表される金属アルコキシドを加水分解、縮合させて金属酸化物ゾルを形成させる工程、(B)前記(A)工程で得られたゾルを乾燥処理して乾燥ゲルを形成させる工程、(C)前記(B)工程で得られた乾燥ゲルを加熱処理して加熱ゲルを形成させる工程、および(D)前記(C)工程で得られた加熱ゲルを粉砕処理する工程を含む上記(6)項に記載の方法、
(8) 繊維状物質として、平均直径が0.1〜20μmであり、かつ平均長さが5〜500μmの繊維を用いる上記(6)または(7)項に記載の方法、
(9) マトリクス粉体と、上記(1)〜(5)項のいずれか1項に記載の立毛状複合粒子を含むことを特徴とする成形用複合材料、および
(10) 摩擦材に用いられる上記(9)項に記載の成形用複合材料、
を提供するものである。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、マトリクス粉体中に偏析などが生じにくく、均一に分散し得る新規な立毛状複合粒子、このものを効率よく製造する方法および前記立毛状複合粒子を均一に含
む成形用複合材料を提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
本発明の立毛状複合粒子は、ゾル−ゲル法で得られた金属酸化物粒子と繊維状物質とが結合し、立毛状を呈していることを特徴とする粒子である。
【0013】
本発明の立毛状複合粒子の一つの成分を構成する金属酸化物粒子の種類については、ゾル−ゲル法で形成され、使用される繊維状物質となんらかの形で結合し得るものであればよく特に制限はないが、ゾル−ゲル法による金属酸化物粒子の形成の容易さ、使用される繊維状物質との結合性、および実用性などの観点から、アルミナ、シリカ、チタニア、ジルコニアなどの粒子が好ましい。これらの金属酸化物粒子は、1種のみであってもよいし、2種以上の混合物であってもよく、また、各金属酸化物粒子を構成する金属を2種以上含む複合酸化物粒子であってもよい。
【0014】
一方、本発明の立毛状複合粒子のもう一つの成分を構成する繊維状物質については、ゾル−ゲル法で形成された金属酸化物粒子となんらかの形で結合し、立毛状を呈するものであればよく、特に制限されず、有機繊維及び無機繊維のいずれも用いることができる。
【0015】
有機繊維としては、高強度の芳香族ポリアミド繊維(アラミド繊維;デュポン社製、商品名「ケブラー」など)、耐炎化アクリル繊維、ポリイミド繊維、ポリアクリレート繊維、ポリエステル繊維などを挙げることができる。
【0016】
一方、無機繊維としては、チタン酸カリウムウイスカーや炭化珪素ウイスカーなどの無機ウイスカー;ガラス繊維;炭素繊維;ワラストナイト、セピオライト、アタパルジャイト、ハロイサイト、モルデナイト、ロックウールなどの鉱物繊維;アルミナシリカ系繊維などのセラミック繊維;アルミニウム繊維、ステンレス繊維、銅繊維、黄銅繊維、ニッケル繊維などの金属繊維等を挙げることができる。
【0017】
これらの繊維状物質は1種含まれていてもよく、2種以上含まれていてもよいが、立毛性及びゾル−ゲル法で得られた金属酸化物粒子との結合性などの観点から、無機繊維が好適である。本発明の立毛状複合粒子における前記繊維状物質の平均直径は、立毛状複合粒子の立毛性や性能などの観点から、通常0.1〜20μm程度、好ましくは0.2〜12μmである。
【0018】
前記繊維状物質は、ゾル−ゲル法で形成された金属酸化物粒子との結合性を向上させるために、表面処理剤で予め処理しておいてもよい。この表面処理剤としては、例えば、シラン系、チタネート系、アルミニウム系、クロム系、ジルコニウム系、ボラン系カップリング剤などが挙げられるが、これらの中でシラン系カップリング剤及びチタネート系カップリング剤が好ましく、特に、シラン系カップリング剤が好適である。
【0019】
このシラン系カップリング剤としては、例えば、トリエトキシシラン、ビニルトリス(β−メトキシエトキシ)シラン、γ−メタクリロキシプロピルトリメトキシシラン、γ−グリシドキシプロピルトリメトキシシラン、β−(3,4−エポキシシクロヘキシル)エチルトリメトキシシラン、N−β−(アミノエチル)−γ−アミノプロピルトリメトキシシラン、N−β−(アミノエチル)−γ−アミノプロピルメチルジメトキシシラン、γ−アミノプロピルトリエトキシシラン、N−フェニル−γ−アミノプロピルトリメトキシシラン、γ−メルカプトプロピルトリメトキシシラン、γ−クロロプロピルトリメトキシシランなどが挙げられる。これらの中でもγ−アミノプロピルトリエトキシシラン、N−β−(アミノエチル)−γ−アミノプロピルトリメトキシシランなどのアミノシラン類が好適である。
【0020】
該繊維を、前記表面処理剤で処理する方法については、特に制限はなく、従来慣用されている方法、例えば、水溶液法、有機溶媒法、スプレー法など、任意の方法を用いることができる。
【0021】
本発明の立毛状複合粒子においては、繊維状物質が無機繊維である場合、金属酸化物粒子と無機繊維との含有割合は、摩擦材の物性、摩擦特性の観点から、質量比で100:1〜100:500であることが好ましく、100:3〜100:300であることがより好ましく、100:5〜100:200であることがさらに好ましい。また、本発明の立毛状複合粒子の平均粒径は、プラスチック材料やゴム材料などのマトリクス粉体に対する均一分散性および最終的に得られる成形体の強度などの物性の観点から、5〜500μmであることが好ましく、10〜300μmであることがより好ましく、20〜100μmであることがさらに好ましい。
【0022】
なお、前記平均粒径は、以下に示す方法により測定した値である。
<立毛状複合粒子の平均粒径の測定>
まず、走査型電子顕微鏡(SEM)で、1視野に数個の粒子を入れて画像を撮る。次いで、この画像を2値化して粒子を抽出し、1個の粒子面積から、円相等径を算出する。次に、25〜50個の粒子データを1サンプルデータとし、25サンプルを測定して、平均粒径(円相等径)を算出する。
【0023】
図1は、本発明の立毛状複合粒子の1例の走査型電子顕微鏡(SEM)写真図である。この図は、ゾル−ゲル法で形成されたAl(アルミナ)とSiCウイスカーとが結合してなる複合粒子の写真図であり、SiCウイスカーが立毛状を呈していることが分かる。
【0024】
前記の性状を有する本発明の立毛状複合粒子は、プラスチック材料やゴム材料などの補強用等として好適に用いられる。該立毛状複合粒子を、プラスチック材料やゴム材料のマトリクス粉体と混合し、成形用複合材料を調製した場合、偏析などが生じにくく、容易に均一に分散させることができ、その結果、得られる成形体の強度は、例えばアルミナとSiCウイスカーを別々に、該マトリクス粉体に混合してなる成形用複合材料に比べて、大きく向上する。
【0025】
次に、前述した本発明の立毛状複合粒子の製造方法としては、ゾル−ゲル法で形成した金属酸化物粒子と繊維状物質とが結合し、立毛状を呈した複合粒子が得られるのであれば、いかなる方法であってもよいが、以下に示す本発明の方法に従えば、所望の立毛状複合粒子を効率よく製造することができる。
【0026】
本発明の立毛状複合粒子の製造方法は、溶媒中において、繊維状物質の存在下に、加水分解性金属化合物を加水分解、縮合させて金属酸化物ゾルを形成させる工程を含むことを特徴とする。
【0027】
前記金属酸化物ゾルを形成させるための原料である加水分解性金属化合物としては、加水分解、縮合して金属酸化物ゾルを形成し得る化合物であればよく、特に制限はないが、加水分解性、入手性などの観点から、金属アルコキシドが好適である。
【0028】
この金属アルコキシドとしては、例えばAl、Si、Ti、Zrなどのアルコキシド、アルカリ土類金属のアルコキシド、希土類元素のアルコキシドなどを用いることができるが、安定した加水分解、縮合反応性および得られる立毛状複合粒子の性能などの観点から、Al、Si、Ti、Zrのアルコキシドが特に好ましい。
【0029】
本発明の立毛状複合粒子の製造方法においては、好ましい態様として、(A)溶媒中において、繊維状物質の存在下に、加水分解性金属化合物として、一般式(I)
M(OR) …(I)
(式中、MはAl、Si、TiまたはZr、Rは炭素数1〜6のアルキル基、nはMの価数を示し、3または4である。)
で表される金属アルコキシドを加水分解、縮合させて金属酸化物ゾルを形成させる工程、(B)前記(A)工程で得られたゾルを乾燥処理して乾燥ゲルを形成させる工程、(C)前記(B)工程で得られた乾燥ゲルを加熱処理して加熱ゲルを形成させる工程、および(D)前記(C)工程で得られた加熱ゲルを粉砕処理する工程を含む方法を採用することができる。
【0030】
前記(A)工程である金属酸化物ゾルを形成させる工程において、使用する溶媒としては、例えばアルコール系、セロソルブ系、ケトン系、エーテル系などの極性溶媒、およびこれらの極性溶媒と、脂肪族、脂環族、芳香族炭化水素などの非極性溶媒との混合物等を挙げることができる。
【0031】
一般式(I)において、MはAl、Si、TiまたはZrを示し、nは該Mの価数であり、MがAlの場合にはnは3、Si、Ti、Zrの場合にはnは4である。また、Rで示される炭素数1〜6のアルキル基は、直鎖状、分岐状、環状のいずれであってもよく、その例としては、メチル基、エチル基、n−プロピル基、イソプロピル基、n−ブチル基、イソブチル基、sec−ブチル基、tert−ブチル基、ペンチル基、ヘキシル基、シクロペンチル基、シクロヘキシル基などが挙げられる。
【0032】
Mが3価のアルミニウムである場合の金属アルコキシドの例としては、トリメトキシアルミニウム、トリエトキシアルミニウム、トリ−n−プロポキシアルミニウム、トリイソプロポキシアルミニウム、トリ−n−ブトキシアルミニウム、トリイソブトキシアルミニウム、トリ−sec−ブトキシアルミニウム、トリ−tert−ブトキシアルミニウムなどが挙げられる。
【0033】
またMが4価の珪素、チタン、ジルコニウムである場合の金属アルコキシドの例としては、テトラメトキシシラン、テトラエトキシシラン、テトラ−n−プロポキシシラン、テトライソプロポキシシラン、テトラ−n−ブトキシシラン、テトライソブトキシシラン、テトラ−sec−ブトキシシラン、テトラ−tert−ブトキシシランなど、および前記化合物のシランを、チタンまたはジルコニウムに置き換えた化合物を挙げることができる。また。珪素のアルコキシドとしては、前記のテトラアルコキシシランのオリゴマーである「メチルシリケート51」、「エチルシリケート40」(いずれもコルコート社製、商品名)、「MS−51」、「MS−56」(いずれも三菱化学社製、商品名)などを用いることもできる。
【0034】
当該(A)工程においては、前記溶媒中に、一般式(I)で表される金属アルコキシドと前述の繊維状物質とを所定の割合で加え、十分に攪拌して該繊維状物質を均一に分散させる。次いで、この分散液に、該金属アルコキシドの加水分解に必要な十分な量の水を加え、さらに必要に応じ触媒として、塩酸、硫酸、硝酸、ギ酸、酢酸などの酸を添加し、通常0〜60℃、好ましくは20〜40℃の温度にて加水分解、縮合反応させて、金属酸化物ゾルを形成させる。このようにして形成された金属酸化物ゾルにおける金属酸化物粒子は、繊維状物質と結合してなる形態を有している。
【0035】
当該(A)工程におけるゾル中の固形分濃度としては、加水分解、縮合反応を安定して進行させると共に、得られる金属酸化物粒子と繊維状物質との結合性の観点から、加水分
解、縮合により形成される金属酸化物粒子と繊維状物質との合計含有量が、好ましくは1〜70質量%、より好ましくは10〜50質量%であることが望ましい。
【0036】
なお、使用する繊維状物質の形状としては、平均粒径は、通常0.1〜20μm程度、好ましくは0.2〜12μm、平均長さは、通常5〜500μm程度、好ましくは100〜300μmである。
【0037】
次に、(B)工程において、前記(A)工程で得られたゾルを乾燥処理して、不要な溶媒や水分を取り除き、乾燥ゲルを形成させる。乾燥手段については特に制限はなく、常圧乾燥、減圧乾燥のいずれであってもよい。
【0038】
次に、(C)工程において、前記(B)工程で得られた乾燥ゲルを加熱処理して、加熱ゲルを形成させる。この加熱処理は、好ましくは1〜10℃/min程度の昇温速度で、450〜500℃程度まで徐々に昇温したのち、その温度で好ましくは10〜240分間程度保持する。
【0039】
さらに、(D)工程において、前記(C)工程で得られた加熱ゲルを粉砕処理し、平均粒径5〜500μm程度の立毛状複合粒子を得る。この平均粒径の測定方法については、前述したとおりである。粉砕処理方法に特に制限はなく、従来公知の様々な方法を採用することができる。例えば気流式や衝撃式などの粉砕機を使用する方法などを用いることができる。この際、不要な微細粒子や粗大な粒子を、公知の分級法により取り除くことができる。
【0040】
なお、前記(B)工程で得られた乾燥ゲルを、前記(D)工程のように粉砕処理したのち、この粉砕ゲルを、前記(C)工程のように加熱処理して加熱ゲルとし、所望の立毛状複合粒子を得てもよい。
【0041】
このようなゾル−ゲル法により、前記図1で示す立毛状複合粒子を効率よく製造することができる。
【0042】
次に、本発明の成形用複合材料は、マトリクス粉体と、前述の本発明の立毛状複合粒子を含むものである。
【0043】
マトリクス粉体としては、通常熱可塑性樹脂や熱硬化性樹脂などのプラスチック材料あるいはゴム材料の粉体を挙げることができるが、プラスチック材料の粉体が好適である。前記熱可塑性樹脂については、特に制限はなく、従来繊維強化複合材料に使用されているものの中から任意のものを選択して用いることができる。この熱可塑性樹脂としては、例えば、ポリオレフィン系樹脂、ポリ塩化ビニル系樹脂、ポリアミド系樹脂、ポリエステル系樹脂、ポリアセタール系樹脂、ポリカーボネート系樹脂、ポリ芳香族エーテル又はチオエーテル系樹脂、ポリ芳香族エステル系樹脂、ポリスルホン系樹脂、スチレン系樹脂、アクリレート系樹脂などが挙げられる。
【0044】
一方、熱硬化性樹脂については、特に制限はなく、従来繊維強化複合材料に使用されているものの中から任意のものを選択して用いることができる。この熱硬化性樹脂としては、例えばフェノール樹脂、各種変性フェノール樹脂、メラミン樹脂、エポキシ樹脂、シアン酸エステル樹脂などが挙げられる。
【0045】
本発明の成形用複合材料においては、前記プラスチック材料あるいはゴム材料からなるマトリクス粉体100質量部に対し、得られる成形体の用途にもよるが、本発明の立毛状複合粒子を、通常1〜50質量部、好ましくは5〜20質量部の割合で含有することが望
ましい。この成形用複合材料には、本発明の立毛状複合粒子以外に、各種添加成分、例えば酸化防止剤、紫外線吸収剤、光安定剤、他の充填材、離型剤、着色剤、硬化剤などを、必要に応じて含有させることができる。
【0046】
本発明の成形用複合材料の調製方法に特に制限はなく、例えばマトリクス粉体と本発明の立毛状複合粒子と必要に応じて用いられる各種添加成分を、ヘンシェルミキサーやタンブラーブレンダーなどの通常の混合機を用いてドライブレンドする方法を採用することができる。
【0047】
このようにして調製された本発明の成形用複合材料においては、該立毛状複合粒子は偏析せずに均一に分散しており、その結果得られる成形体の強度が向上する。
【0048】
本発明の成形用複合材料は、特に摩擦材用として好適に用いられる。前記摩擦材は、各種車輌や産業機械などのブレーキパッド、ブレーキライニングやクラッチフェーシングなどに使用される。
【0049】
この摩擦材用の成形用複合材料としては、マトリクス粉体として、フェノール樹脂などの熱硬化性樹脂粉体が用いられ、さらに本発明の立毛状複合粒子と共に、必要に応じアルミナ、シリカ、マグネシア、ジルコニア、酸化クロムなどの金属酸化物からなる摩擦調整剤、グラファイトや二硫化モリブデンなどの固体潤滑剤、バーミキュライトやマイカなどの鱗片状無機物、硫酸バリウム、炭酸カルシウムなどの無機充填材や有機充填材等を含有するものを挙げることができる。
【0050】
この成形用複合材料を、常温にて所定圧力で成形(予備成形)したのち、所定の温度にて熱成形し、硬化(アフタキュア)及び仕上げ処理することにより、摩擦材が得られる。
【実施例】
【0051】
次に、本発明を実施例により、さらに詳細に説明するが、本発明は、これらの例によってなんら限定されるものではない。
実施例1
金属アルコキシドとして、トリイソプロポキシアルミニウムを使用し、以下に示すゾル−ゲル法により、立毛状複合粒子を製造した。
【0052】
トルエン260質量部中に、トリイソプロポキシアルミニウム90質量部を加え、室温(25℃)にて30分間攪拌してトリイソプロポキシアルミニウムを溶解させた。次いで、この溶液にエタノール470質量部を加えた。この際、白濁が生じたので、白濁が消失するまで、室温にて30分間攪拌し、トリイソプロポキシアルミニウムのトルエン/エタノール溶液を調製した。
【0053】
次に、この溶液に、SiCウイスカー(平均直径:0.2μm、平均長さ:50μm)4質量部を添加し、室温にて60分間攪拌することにより、炭化珪素ウイスカーを均一に分散させた。次いで、この分散液に水24質量部を加えたのち、室温にて攪拌を続け、トリイソプロポキシアルミニウムの加水分解、縮合反応を行った。4時間攪拌することにより、Al粒子とSiCウイスカーが結合した複合粒子を含むアルミナゾルが得られた。
【0054】
次に、このゾルを常圧にて、温度80〜120℃で乾燥処理し、乾燥ゲル20質量部を得たのち、6時間かけて500℃まで昇温し、さらにその温度で1時間保持することにより、加熱ゲルを得た。
【0055】
この加熱ゲルを乳鉢で粉砕したのち、分級法により、微細粒子及び粗大粒子を取り除き、平均粒径30μmの立毛状複合粒子10質量部を得た。この立毛状複合粒子中のアルミナの含有量は85質量%であり、SiCウイスカーの含有量は15質量%であった。なお、前記平均粒径は、明細書本文に記載の方法に従って測定した。
実施例2
金属アルコキシドとして、テトライソプロポキシチタンを使用し、以下に示すゾル−ゲル法により、立毛状複合粒子を製造した。
【0056】
エタノール115質量部中に、テトライソプロポキシチタン71質量部を加え、室温(25℃)にて30分間攪拌してテトライソプロポキシチタンを溶解させ、テトライソプロポキシチタンのエタノール溶液を調製した。
【0057】
次に、この溶液に、SiCウイスカー(平均直径:0.2μm、平均長さ:50μm)2質量部を添加し、室温にて60分間攪拌することにより、炭化珪素ウイスカーを均一に分散させた。次いで、この分散液に水5質量部を加えたのち、室温にて攪拌を続け、テトライソプロポキシチタンの加水分解、縮合反応を行った。0.1時間攪拌することにより、TiO粒子とSiCウイスカーが結合した複合粒子を含むチタニアゾルが得られた。
【0058】
次に、このゾルを常圧にて、温度80〜120℃で乾燥処理し、乾燥ゲル20質量部を得たのち、5時間かけて500℃まで昇温し、さらにその温度で1時間保持することにより、加熱ゲルを得た。
【0059】
この加熱ゲルを乳鉢で粉砕したのち、分級法により、微細粒子及び粗大粒子を取り除き、平均粒径30μmの立毛状複合粒子15質量部を得た。この立毛状複合粒子中のチタニアの含有量は90質量%であり、SiCウイスカーの含有量は10質量%であった。なお、前記平均粒径は、明細書本文に記載の方法に従って測定した。
実施例3
金属アルコキシドとして、テトラエトキシシランを使用し、以下に示すゾル−ゲル法により、立毛状複合粒子を製造した。
【0060】
エタノール192質量部中に、テトラエトキシシラン44質量部を加え、室温(25℃)にて30分間攪拌してテトラエトキシシランを溶解させ、テトラエトキシシラン−エタノール溶液を調製した。
【0061】
次に、この溶液に、酢酸36質量部及びSiCウイスカー(平均直径:0.2μm、平均長さ:50μm)1質量部を添加し、室温にて30分間攪拌することにより、炭化珪素ウイスカーを均一に分散させた。次いで、この分散液に水15質量部を加えたのち、室温にて攪拌を続け、テトラエトキシシランの加水分解、縮合反応を行った。12時間攪拌することにより、SiO粒子とSiCウイスカーが結合した複合粒子を含むシリカゾルが得られた。
【0062】
次に、このゾルを常圧にて、温度80〜120℃で乾燥処理し、乾燥ゲル10質量部を得たのち、5時間かけて500℃まで昇温し、さらにその温度で1時間保持することにより、加熱ゲルを得た。
【0063】
この加熱ゲルを乳鉢で粉砕したのち、分級法により、微細粒子及び粗大粒子を取り除き、平均粒径30μmの立毛状複合粒子5質量部を得た。この立毛状複合粒子中のシリカの含有量は92質量%であり、SiCウイスカーの含有量は8質量%であった。なお、前記平均粒径は、明細書本文に記載の方法に従って測定した。
実施例4
ノボラック型フェノール樹脂粉体[カシュー社製、商品名「#2075」、硬化剤含有]100質量部に対し、実施例1で得られた立毛状複合粒子20質量部を加え、ヘンシェルミキサーで混合して、成形用複合材料を調製した。
【0064】
この成形用複合材料を、常温にて、圧力30MPa、160℃で硬化させ、長さ65mm、幅50mm、厚さ10mmの成形体を作製した。この成形体を5分割し、長さ50mm、幅10mmのテストピースA、B、C、DおよびEの5個を作製した。
【0065】
各テストピースについて、JIS K 7203に準拠して曲げ弾性率を測定した。その結果
テストピース 曲げ弾性率(MPa)
A 22.1
B 19.5
C 20.7
D 21.8
E 20.6
であった。
比較例1
実施例4で用いたものと同じノボラック型フェノール樹脂粉体100質量部に対し、平均粒径2μmのアルミナ17質量部および実施例1で用いたものと同じSiCウイスカー3質量部を加え、ヘンシェルミキサーで混合して、成形用複合材料を調製した。
【0066】
以下、実施例4と同様な操作を行い、テストピースF、G、H、IおよびJの5個を作製し、各テストピースについて、実施例4と同様にして曲げ弾性率を測定した。その結果
テストピース 曲げ弾性率(MPa)
F 17.5
G 18.1
H 17.1
I 18.5
J 16.5
であった。
【産業上の利用可能性】
【0067】
本発明の立毛状複合粒子は、ゾル−ゲル法で得られた金属酸化物粒子と繊維状物質とが結合してなる複合粒子であって、プラスチック材料やゴム材料などの補強用等として好適に用いられる。
【0068】
また、プラスチック材料などのマトリクス粉体と、前記立毛状複合粒子を含む成形用複合材料は、各種の成形体に用いられるが、特に摩擦材用として好適である。
【図面の簡単な説明】
【0069】
【図1】本発明の立毛状複合粒子の1例の走査型電子顕微鏡写真図である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ゾル-ゲル法で得られた金属酸化物粒子と繊維状物質とが結合してなることを特徴とする立毛状複合粒子。
【請求項2】
金属酸化物粒子が、アルミナ、シリカ、チタニアおよびジルコニアの中から選ばれる少なくとも1種の粒子である請求項1に記載の立毛状複合粒子。
【請求項3】
繊維状物質が有機繊維、並びに無機ウイスカー、ガラス繊維、炭素繊維、鉱物繊維、セラミック繊維及び金属繊維からなる無機繊維の中から選ばれる少なくとも1種であり、かつ平均直径が0.1〜20μmである請求項1または2に記載の立毛状複合粒子。
【請求項4】
繊維状物質が無機繊維であり、金属酸化物粒子と無機繊維との含有割合が、質量比で100:1〜100:500である請求項1〜3のいずれか1項に記載の立毛状複合粒子。
【請求項5】
平均粒径が5〜500μmである請求項1〜4のいずれか1項に記載の立毛状複合粒子。
【請求項6】
溶媒中において、繊維状物質の存在下に、加水分解性金属化合物を加水分解、縮合させて金属酸化物ゾルを形成させる工程を含むことを特徴とする、請求項1〜5のいずれか1項に記載の立毛状複合粒子の製造方法。
【請求項7】
(A)溶媒中において、繊維状物質の存在下に、加水分解性金属化合物として、一般式(I)
M(OR) …(I)
(式中、MはAl、Si、TiまたはZr、Rは炭素数1〜6のアルキル基、nはMの価数を示し、3または4である。)
で表される金属アルコキシドを加水分解、縮合させて金属酸化物ゾルを形成させる工程、(B)前記(A)工程で得られたゾルを乾燥処理して乾燥ゲルを形成させる工程、(C)前記(B)工程で得られた乾燥ゲルを加熱処理して加熱ゲルを形成させる工程、および(D)前記(C)工程で得られた加熱ゲルを粉砕処理する工程を含む請求項6に記載の方法。
【請求項8】
繊維状物質として、平均直径が0.1〜20μmであり、かつ平均長さが5〜500μmの繊維を用いる請求項6または7に記載の方法。
【請求項9】
マトリクス粉体と、請求項1〜5のいずれか1項に記載の立毛状複合粒子を含むことを特徴とする成形用複合材料。
【請求項10】
摩擦材に用いられる請求項9に記載の成形用複合材料。

【図1】
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【公開番号】特開2008−81690(P2008−81690A)
【公開日】平成20年4月10日(2008.4.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−266304(P2006−266304)
【出願日】平成18年9月29日(2006.9.29)
【出願人】(000000516)曙ブレーキ工業株式会社 (621)
【Fターム(参考)】