説明

第1級アミンを有する化合物をタンパク質の特定の部位に結合させる方法

【課題】タンパク質の特定の位置に化合物を修飾する方法を提供すること。
【解決手段】本発明の第1級アミンを有する化合物をタンパク質の特定の部位に結合させる方法は、ソルターゼにより特異的に認識される配列を有するタンパク質を調製する工程;および該ソルターゼの存在下で、第1級アミンを有する化合物と該調製したタンパク質とを反応させる工程を含む。好ましくは、ソルターゼは、スタフィロコッカス・アウレウス由来のソルターゼAまたはラクトバシラス・プランタラムNCIMB8826株由来のソルターゼであり、そしてLPXTG配列、LPQTS配列またはLPQTAEQ配列を認識する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、第1級アミンを有する化合物をタンパク質の特定の部位に結合させる方法、言い換えれば、第1級アミンを有する化合物でタンパク質を配列特異的に修飾する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
タンパク質を化合物で修飾して高機能化する技術が、種々検討されている。これらの技術は、遺伝子工学による技術、有機化学反応をベースにした化学修飾技術、および酵素反応を用いた部位特異的修飾技術に大別される。
【0003】
遺伝子工学による修飾では、遺伝子にコードされたとおりの配列を有する融合タンパク質を調製できるが、アミノ酸以外の化合物を導入したタンパク質を得ることができない。また、有機化学反応をベースにした化学修飾技術では、リジンやシステインなどの反応性の高いアミノ酸の側鎖と特異的に反応する試薬(例えば、N−ヒドロキシスクシンイミド、マレイミド)を用いてそのアミノ酸を特異的に修飾できる。しかし、目的のタンパク質中にリジンなどのアミノ酸が複数個存在する場合、修飾されるアミノ酸の位置の制御ができず、複数のアミノ酸のうちで修飾されるアミノ酸の数の制御や確認も非常に難しい。そのため、生成物が混合物になるという問題点がある。
【0004】
酵素の基質特異性を利用して、特定の配列に特異的に目的物質を修飾することができる。そのような酵素として、トランスグルタミナーゼが知られている。この酵素は、タンパク質のグルタミン残基とリジン残基の側鎖とを、あるいはグルタミン残基の側鎖と第1級アミンとを特異的にペプチド結合する酵素である。この酵素を用いて、タンパク質にアミンを有する化合物を修飾した例がある(非特許文献1〜3)。しかし、このトランスグルタミナーゼが認識するアミノ酸配列は未解明のままであるため、部位特異的にタンパク質を修飾できるとはいえない。
【0005】
トランスグルタミナーゼのように特定のアミノ酸残基に対して結合を形成する能力を有する酵素として、ソルターゼがある。例えば、スタフィロコッカス・アウレウス(Staphylococcus aureus)由来のソルターゼAは非常によく研究されている。この酵素は、配列表の配列番号1の配列(Leu−Pro−Xaa−Thr−Gly)を認識してトレオニン残基とグリシン残基との間を切断し、そこへN末端にGly−Gly配列を有する別のタンパク質(あるいはペプチド)をペプチド結合で結合させる反応を触媒する(非特許文献4および5)。しかし、Gly−Gly配列を有するタンパク質以外との結合については、知られていない。
【非特許文献1】Fontana, A.ら,Adv. Drug Deliv. Rev.,2008年,60巻,1号,13-28頁
【非特許文献2】Sato H.,Adv. Drug Deliv. Rev.,2002年,54巻,4号,487-504頁,Review
【非特許文献3】Sato H.ら,Bioconjug. Chem.,2000年,11巻,4号,502-509頁
【非特許文献4】Mao H.ら,J. Am. Chem. Soc.,2004年,126巻,9号,2670-2671頁
【非特許文献5】Kruqer R.G.ら,Biochemistry,2004年,43巻,6号,1541-1551頁
【非特許文献6】Bentley M.L.ら,J. Biol. Chem.,2007年,282巻,9号,6571-6581頁
【非特許文献7】Maresso A.W.ら,J. Bacteriol.,2006年,188巻,23号,8145-8152頁
【非特許文献8】Marraffini L.A.およびSchneewind O.,J. Bacteriol.,2007年,189巻,17号,6425-6436頁
【非特許文献9】Barnett T.G.ら,J. Bacteriol.,2004年,186巻,17号,5865-5875頁
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、タンパク質の特定の部位に化合物を結合させる方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は、第1級アミンを有する化合物をタンパク質の特定の部位に結合させる方法を提供し、該方法は、
ソルターゼにより特異的に認識される配列を有するタンパク質を調製する工程;および
該ソルターゼの存在下で、第1級アミンを有する化合物と該調製したタンパク質とを反応させる工程を含む。
【0008】
1つの実施態様では、上記ソルターゼは、スタフィロコッカス・アウレウス(Staphylococcus aureus)由来のソルターゼAであり、そして前記特異的に認識される配列が、配列表の配列番号1の配列(Leu−Pro−Xaa−Thr−Gly)である。
【0009】
1つの実施態様では、上記ソルターゼは、ラクトバシラス・プランタラム(Lactobacillus plantarum)NCIMB8826株由来のソルターゼであり、そして前記特異的に認識される配列が、配列表の配列番号1の配列(Leu−Pro−Xaa−Thr−Gly)、配列表の配列番号2の配列(Leu−Pro−Gln−Thr−Ser)または配列表の配列番号3の配列(Leu−Pro−Gln−Thr−Ala−Glu−Gln)である。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、第1級アミンを有する化合物をタンパク質に配列特異的に結合させることができる。すなわち、目的タンパク質に遺伝子工学的に特定の配列を付加して得られる組換えタンパク質を発現させて精製し、その組換えタンパク質に対して第1級アミンを有する化合物およびソルターゼを加えて反応させることにより、目的のタンパク質に部位特異的に種々の化合物を修飾できる。したがって、タンパク質に対してDNAやポリエチレングリコール(PEG)などの機能分子を修飾した薬剤の調製技術として応用できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
本明細書において、アミノ酸の表記を、3文字または1文字で表記する場合がある。すなわち、アラニンは、AlaまたはA;アルギニンは、ArgまたはR;アスパラギンは、AsnまたはN;アスパラギン酸は、AspまたはD;システインは、CysまたはC;グルタミン酸は、GluまたはE;グルタミンは、GlnまたはQ;グリシンは、GlyまたはG;ヒスチジンは、HisまたはH;イソロイシンは、IleまたはI;ロイシンは、LeuまたはL;リジンは、LysまたはK;メチオニンは、MetまたはM;フェニルアラニンは、PheまたはF;プロリンは、ProまたはP;セリンは、SerまたはS;トレオニンは、ThrまたはT;トリプトファンは、TrpまたはW;チロシンは、TyrまたはY;そしてバリンは、ValまたはVを示す。また、任意のアミノ酸は、XaaまたはXと表記する場合がある。
【0012】
本発明の方法は、第1級アミンを有する化合物をタンパク質の特定の部位に結合させる方法であって、
ソルターゼにより特異的に認識される配列を有するタンパク質を調製する工程;および
該ソルターゼの存在下で、第1級アミンを有する化合物と該タンパク質とを反応させる工程を含む。
【0013】
ソルターゼは、グラム陽性菌の細胞壁結合タンパク質の表層提示に必要な酵素として知られている。例えば、スタフィロコッカス・アウレウス(Staphylococcus aureus)由来のソルターゼAは、細胞壁結合タンパク質がこの菌体の表層に提示される過程で、LPXTG配列(配列表の配列番号1)を特異的に切断し、生じたポリペプチド末端が細胞壁のペプチドグリカンにペプチド結合されることにより、細胞壁結合タンパク質を細胞壁に配置固定させる。
【0014】
ソルターゼは、その由来する微生物および種類によって認識する配列や切断部位が異なる。ソルターゼAは、一般的に、LPXTG配列(配列表の配列番号1)を認識し、TG間を切断する。スタフィロコッカス・アウレウス由来のソルターゼBは、NPQTNを認識し、TN間を切断する(非特許文献6)。バシラス・アントラシス(Bacillus anthracis)由来のソルターゼBは、NPKTGを認識し、TG間を切断し(非特許文献7)、そしてバシラス・アントラシス由来のソルターゼCは、LPNTAを認識し、TA間を切断する(非特許文献8)。また、ストレプトコッカス・パイロゲネス(Streptococcus pyogenes)由来のソルターゼCは、QVPTGVを認識する(非特許文献9)。
【0015】
本発明の方法において用いられるソルターゼは、タンパク質中の特定の配列を認識して、その配列中の特定のアミノ酸残基間を切断し、その切断部位に別のタンパク質(またはペプチド)をペプチド結合で結合させる反応を触媒すれば、その由来や種類は特定されない。例えば、上記のスタフィロコッカス・アウレウス(Staphylococcus aureus)由来のソルターゼA、ラクトバシラス・プランタラム(Lactobacillus plantarum)NCIMB8826株由来のソルターゼなどが用いられる。このようなソルターゼは、遺伝子配列が公知であれば、その配列を取得して、当業者が通常用いる手段によって、例えば、Molecular Cloning A Laboratory Manual,第2版,Sambrook, J.ら編,1989年に記載の操作に従って得られ得る。例えば、この遺伝子配列を含む適切なベクターを調製し、このベクターで適切な細胞(例えば、大腸菌)を形質転換して、得られた形質転換体を適切な培地中で培養することにより、組換えタンパク質として発現させることによって得ることができる。ソルターゼは、粗精製酵素または精製酵素であってもよい。あるいは、分泌発現させた場合は、培養上清を酵素として用いてもよい。
【0016】
本発明で用いられ得るスタフィロコッカス・アウレウス(Staphylococcus aureus)由来のソルターゼAは、LPXTG配列(配列表の配列番号1)を認識し、この配列のTG間を切断し、次いでN末端にGly−Gly配列を有する別のタンパク質(あるいはペプチド)を基質とし、生じたポリペプチド末端にペプチド結合で結合させる。本発明は、この酵素が、細胞壁のペプチドグリカンやN末端GG配列を有するタンパク質以外に、第1級アミンを有する化合物も基質とし得ることを新たに見出したことに基づく。
【0017】
本発明で用いられ得るラクトバシラス・プランタラム(Lactobacillus plantarum)NCIMB8826株由来のソルターゼは、遺伝子配列(配列表の配列番号4)が公知であったが、発現させたタンパク質(配列表の配列番号5)がソルターゼとして機能することが、本発明により初めて明らかにされた酵素である。この酵素は、LPXTG(配列表の配列番号1)、LPQTS(配列表の配列番号2)またはLPQTAEQ(配列表の配列番号3)を認識し、この配列のTG間、TS間またはTA間を切断し、そして生じたポリペプチド末端に第1級アミンを有する化合物を結合させ得る。
【0018】
本発明の方法では、まず、ソルターゼにより特異的に認識される配列を有するタンパク質を調製する。この工程において、ソルターゼにより特異的に認識される配列は、ソルターゼに応じて異なる。例えば、スタフィロコッカス・アウレウス由来のソルターゼAを用いる場合は、LPXTG(配列表の配列番号1)であり、ラクトバシラス・プランタラムNCIMB8826株由来のソルターゼを用いる場合は、LPXTG(配列表の配列番号1)、LPQTS(配列表の配列番号2)またはLPQTAEQ(配列表の配列番号3)である。
【0019】
第1級アミンを有する化合物を結合させることを意図する目的のタンパク質は、特に限定されず、例えば、酵素などの任意のタンパク質であり得る。また、タンパク質中の特定の部位も、特に限定されず、目的に応じてN末端やC末端またはタンパク質配列内部の任意の部位が選択される。特定の部位は、必要に応じて複数であってもよい。上記のような特異的に認識される配列は、タンパク質の特定の部位に遺伝子工学的に付加され得、目的のタンパク質の組換えタンパク質として調製され得る。このような組換えタンパク質の調製は、当業者が通常用いる手段によって、例えば、Molecular Cloning A Laboratory Manual,第2版,Sambrook, J.ら編,1989年に記載の操作に従って行われ得る。例えば、目的のタンパク質をコードする遺伝子配列を取得し、この遺伝子配列に任意の位置に特異的に認識される配列をコードするDNA配列を挿入した遺伝子配列を含む適切なベクターを調製し、次いでこのベクターで適切な細胞を形質転換して、得られた形質転換体を適切な培地中で培養することにより、組換えタンパク質として発現させて精製する。
【0020】
次いで、ソルターゼの存在下で、第1級アミンを有する化合物と上記のように調製したタンパク質とを反応させる。
【0021】
第1級アミンを有する化合物は、特に限定されない。例えば、薬物、試薬、ポリマー、DNA、RNA、ペプチド、アミノ酸などが挙げられる。
【0022】
ソルターゼの存在下での反応の条件は、用いられるソルターゼに応じて、ソルターゼの活性が十分に発揮され得るように適切に設定される。代表的には、反応液中には、特異的に認識される配列を有するタンパク質に対して、1〜100倍量の第1級アミンを有する化合物が含まれる。反応液のpHは、約6〜8、好ましくは約7であり、反応温度は通常約30〜40℃、好ましくは約37℃である。反応時間は、通常1〜72時間、好ましくは6〜36時間である。反応は、好ましくは振とうしながら行われる。
【0023】
反応により得られた修飾されたタンパク質は、イオン交換クロマトグラフィー、ゲルろ過クロマトグラフィー、疎水クロマトグラフィー、アフィニティークロマトグラフィーなどの各種クロマトグラフィーなどの当該技術分野で通常用いられるタンパク質精製法により、精製することができる。
【実施例】
【0024】
(実施例1:ソルターゼにより認識される配列を有する緑色蛍光タンパク質の調製−1)
モデルタンパク質として、緑色蛍光タンパク質(EGFP)を選択した。まず、T. Tanakaら,FEBS Lett.,2005年,579巻,10号,2092-2096頁に記載の方法により、pBAD-DHFRベクターを調製した。具体的には、大腸菌XL1-Blue(Stratagene)を鋳型とし、配列番号6および7のプライマーを用いて、PCR酵素pyrobest DNAポリメラーゼ(TAKARA社)を用いてジヒドロ葉酸還元酵素(DHFR)を増幅した。得られた断片をpBAD/thio-TOPOベクター(Invitrogen社製)にライゲーションし、pBAD-DHFRを得た。
【0025】
次に、プラスミドpEGFP(クロンテック社)を鋳型として、配列番号8および9のプライマーを用い、PCR酵素pyrobest DNAポリメラーゼ(TAKARA社)を用いてEGFPを増幅した。この断片をKpnIおよびSacIで切断し、同様に切断した上記pBAD-DHFRにライゲーションし、pBAD-EGFPを得た。
【0026】
次いで、pBAD-EGFPをテンプレートとし、配列番号10および11のプライマーを用い、QuikChange Site-directed mutagenesisキット(Stratagene社)を用いて、EGFPのC末端にLPKTGDD配列(配列番号12)を有するベクター調製した。このベクターを大腸菌TOP10(Invitrogen社)に形質転換し、LB培地中で37℃にて、OD600=0.8になるまで培養した。その後、最終濃度0.1%(w/v)となるようにL−アラビノースを加えて27℃にて一晩培養してタンパク質を発現させた。得られた大腸菌からTALON Metal Affinity resin(クロンテック社)にマニュアルに従ってタンパク質を調製し、20mM Tris、150mM NaCl(pH8)に対して透析して、C末端にLPKTGDD配列(配列番号12)を付加した組換えEGFP(I)を得た。
【0027】
また、配列番号10および11のプライマーの代わりに、配列番号13および14のプライマーを用いて、緑色蛍光タンパク質EGFPのC末端にLPQTSEQ配列(配列番号15)を付加した組換えEGFP(II)を調製した。
【0028】
(参考例1:スタフィロコッカス・アウレウス由来のソルターゼAの調製)
スタフィロコッカス・アウレウスのゲノムDNA(ATCC番号:10832D)を鋳型にし、配列番号16および17のプライマーを用いて、ソルターゼAのオープンリーディングフレーム(ORF)(非特許文献4参照)を増幅した。得られた断片を、KpnIおよびSacIで切断し、pET-30b(+)(Novagen社)にライゲーションして、pET30b-SrtAを得た。このベクターを大腸菌BL21(DE3)株(Novagen社)に形質転換し、LB培地中で37℃にてOD600=0.8になるまで培養した。さらにIPTGを0.3mMとなるように加えて、27℃にて一晩培養してタンパク質を発現させた。得られた大腸菌からTALON Metal Affinity resin(クロンテック社)にマニュアルに従ってタンパク質を調製し、50mM Tris、150mM NaCl、pH8に対して透析して、ソルターゼAを得た。なお、ソルターゼAの濃度については、BCA protein assayキット(PIERCE社製)を用い、そのマニュアルに従って決定した。
【0029】
(実施例2:スタフィロコッカス・アウレウス由来のソルターゼAによるEGFPの修飾−1)
第1級アミンを有する化合物として、以下の構造を有するビオチン−PEO−アミン(PIERCE社製)を用いた。
【0030】
【化1】

【0031】
緩衝液(20mM Tris、0.5mM CaCl、150mM NaCl、pH7)中に、上記参考例1で調製したソルターゼAが5μM、上記実施例1で調製した組換えEGFP(I)または(II)が5μM、およびビオチン−PEO−アミンが50μMの最終濃度となるように加えた。この反応液を、37℃にて24時間インキュベートした。インキュベーション終了後、上清についてSDS−PAGEおよびウエスタンブロッティングを行い、ストレプトアビジン−アルカリホスファターゼ(AP)(Promega社製)を用いてタンパク質が修飾されたかどうかを確認した。なお、対照として、ソルターゼAを含まずに、組換えEGFPとビオチン−アミンとを反応させた系を設けた。結果を図1に示す。
【0032】
図1の左に示すように、ソルターゼAで処理した場合、LPKTG配列(配列番号18)を有するEGFP(I)にのみバンドが確認された。一方、LPKTG配列(配列番号18)を有さないEGFP(II)では、ソルターゼAを用いてもバンドを確認できなかった(図1右)。このことから、ソルターゼAは、LPKTG配列(配列番号18)のみを認識してビオチンを修飾することができるが、LPQTS配列(配列番号2)を認識できないことがわかった。
【0033】
(実施例3:スタフィロコッカス・アウレウス由来のソルターゼAによるEGFPの修飾−2)
第1級アミンを有する化合物として、以下の構造を有する5−(ビオチンアミド)ペンチルアミン(PIERCE社製)を用いたこと以外は、上記実施例2と同様に操作した。
【0034】
【化2】

【0035】
実施例2の場合と同様に、ソルターゼAでの処理により、LPKTG配列(配列番号18)を有するEGFP(I)にのみバンドが確認され、LPQTS配列(配列番号2)を有するEGFP(II)では、バンドを確認できなかった。
【0036】
(実施例4:ソルターゼにより認識される配列を有するZZドメインの調製)
モデルタンパク質として、スタフィロコッカス・アウレウス由来のプロテインAのZZドメインを選択した。まず、スタフィロコッカス・アウレウス由来のゲノムDNA(ATCC番号:10832D)を鋳型にし、配列番号19および20のプライマーを用いて、プロテインAのZZドメインのORFを増幅した。得られた断片を、KpnIおよびSacIで切断してpBAD-EGFPにライゲーションし、C末端にLPETGG配列(配列番号21)を付加した組換えZZドメインを有するベクターを得た。このベクターを大腸菌TOP10(Invitrogen社)に形質転換し、LB培地中で37℃にて、OD600=0.8になるまで培養した。その後、最終濃度0.1%(w/v)となるようにL−アラビノースを加えて27℃にて一晩培養してタンパク質を発現させた。得られた大腸菌からTALON Metal Affinity resin(クロンテック社)にマニュアルに従ってタンパク質を調製し、20mM Tris、150mM NaCl、pH8に対して透析して、C末端にLPETGG配列(配列番号21)を付加した組換えZZドメインを精製した。
【0037】
(実施例5:スタフィロコッカス・アウレウス由来のソルターゼAによるZZドメインの修飾)
組換えEGFPの代わりに、上記実施例4で調製した組換えZZドメインを用いたこと以外は、上記実施例2と同様に操作した。実施例2の場合と同様に、ソルターゼAでの処理により、LPETG配列(配列番号22)を有するZZドメインにおいてバンドを確認することができた。
【0038】
(参考例2:ラクトバシラス・プランタラムNCIMB8826株由来のソルターゼの調製)
新規酵素として乳酸菌ラクトバシラス・プランタラムNCIMB8826株(WCFS1とも呼ばれる)由来のソルターゼをクローニングし、大腸菌で発現させて精製した。
【0039】
まず、現段階でラクトバシラス・プランタラムNCIMB8826株について、ソルターゼと予測される遺伝子配列を、http://www.doe-mbi.ucla.edu/Services/Sortase/から、genome:Lactobacillus plantarum WCFS1を選択し、Sortases/Substrates?で検索実行することにより、http://www.ncbi.nlm.nih.gov/entrez/viewer.fcgi?val=28376974&from=460295&to=460999&view=gbwithpartsから得た(配列番号4)。この配列をもとに、プライマー(配列番号23および24)を設計し、ラクトバシラス・プランタラムNCIMB8826株(NCIMBより購入)を鋳型としてPCRを行った。PCRの条件は、95℃(30秒)、55℃(30秒)、および72℃(1分)を30サイクル繰り返した。得られた断片を増幅後、KpnIおよびSacIで切断して上記のpBAD-EGFPにライゲーションした。このベクターで大腸菌TOP10(Invitrogen社)を形質転換し、300mLのLB培地中で37℃にてOD=0.8になるまで培養した。次いで、最終濃度0.1%(w/v)になるようにL−アラビノースを加えて26℃で一晩培養してタンパク質を発現させた。得られた大腸菌からTALON metal affinity resin(クロンテック社)のマニュアルに従ってタンパク質を調製し、20mM Tris、150mM NaCl、pH8の緩衝液に対して透析し、目的のソルターゼを得た。このソルターゼは、配列番号5に示すアミノ酸配列を有する新規な酵素である。
【0040】
(実施例6:ラクトバシラス・プランタラムNCIMB8826株由来のソルターゼによるEGFPの修飾−1)
スタフィロコッカス・アウレウス由来のソルターゼAの代わりに、上記参考例2で調製したラクトバシラス・プランタラムNCIMB8826株由来のソルターゼを用いたこと以外は、上記実施例2と同様に操作した。結果を図2に示す。
【0041】
図2から明らかなように、この新規な酵素を用いたところ、LPKTG配列(配列番号18)およびLPQTS配列(配列番号2)のいずれの配列を有するEGFPにも、ビオチンを付加することができた。したがって、この新規な酵素は、上記のスタフィロコッカス・アウレウス由来のソルターゼAでは認識できないLPQTS配列(配列番号2)も認識して、第1級アミンを有する化合物を該配列を有するタンパク質に結合できることがわかった。
【0042】
(実施例7:ソルターゼにより認識される配列を有する緑色蛍光タンパク質の調製−2)
上記実施例1に記載の手順に従って、緑色蛍光タンパク質EGFPのC末端にLPQTAEQ(配列番号3)、LPQTTEQ(配列番号25)、LPQTVEQ(配列番号26)、LPQTEQ(配列番号27)、LPQEQ(配列番号28)、LWATGEQ(配列番号29)、およびLWATSEQ(配列番号30)をそれぞれ付加するように設計されたプライマーを用いて、これらの配列がそれぞれ付加された組換えEGFPを調製した。
【0043】
(実施例8:ラクトバシラス・プランタラムNCIMB8826株由来のソルターゼによるEGFPの修飾−2)
スタフィロコッカス・アウレウス由来のソルターゼAの代わりに、上記参考例2で調製したラクトバシラス・プランタラムNCIMB8826株由来のソルターゼを用い、第1級アミンを有する化合物として上記実施例3で用いた5−(ビオチンアミド)ペンチルアミンを用い、そして組換えEGFPとして上記実施例7で調製した種々の組換えEGFPを用いたこと以外は、上記実施例2と同様に操作した。
【0044】
ラクトバシラス・プランタラムNCIMB8826株由来のソルターゼは配列LPQTAEQ(配列番号3)を認識できることがわかった(図3)。一方、LPQTTEQ(配列番号25)、LPQTVEQ(配列番号26)、LPQTEQ(配列番号27)、LPQEQ(配列番号28)、LWATGEQ(配列番号29)、およびLWATSEQ(配列番号30)は認識されないこともわかった。なお、これらの配列はいずれも、スタフィロコッカス・アウレウス由来のソルターゼAでは認識できない配列であることも確認した。
【0045】
(実施例9:ラクトバシラス・プランタラムNCIMB8826株由来のソルターゼによるZZドメインの修飾)
スタフィロコッカス・アウレウス由来のソルターゼAの代わりに、上記参考例2で調製したラクトバシラス・プランタラムNCIMB8826株由来のソルターゼを用い、第1級アミンを有する化合物として上記実施例3で用いた5−(ビオチンアミド)ペンチルアミンを用い、そして組換えEGFPの代わりに上記実施例4で調製した組換えZZドメインを用いたこと以外は、上記実施例2と同様に操作した。実施例2の場合と同様に、ソルターゼでの処理により、LPETG配列(配列番号22)を有するZZドメインにおいてバンドを確認できた(図4)。
【0046】
(実施例10:ラクトバシラス・プランタラムNCIMB8826株由来のソルターゼによるEGFP修飾−3)
緩衝液(20mM Tris、0.5mM CaCl、150mM NaCl、pH7)中に、上記参考例2で調製したラクトバシラス・プランタラムNCIMB8826株由来のソルターゼが5μM、上記実施例1で調製したC末端にLPQTSEQ(配列番号15)を有する組換えEGFPが1μM、およびNH−DNA−ビオチン(Invitrogen社)が100μMの最終濃度となるように加えた。なお、NH−DNA−ビオチンのDNA部分は、配列番号31に記載の塩基配列を有する。この反応液を、37℃にて24時間インキュベートした。インキュベーション終了後、上清についてSDS−PAGEおよびウエスタンブロッティングを行い、抗EGFP抗体(MBL社製)を用いてタンパク質が修飾されたかどうかを確認した。結果を図5に示す。
【0047】
図5から明らかなように、ソルターゼでの処理により、LPQTSEQ(配列番号15)を有する組換えEGFPにNH−DNA−ビオチンが結合したバンドを確認できた(レーン4)。また、抗EGFP抗体(MBL社製)の代わりに、ストレプトアビジン−西洋ワサビペルオキシダーゼ(HRP)(Invitrogen社製)(図6:レーン4)またはストレプトアビジン−AP(Promega社製)を用いて検出できることも確認した。
【産業上の利用可能性】
【0048】
本発明によれば、第1級アミンを有する化合物をタンパク質に配列特異的に結合させることができる。すなわち、目的タンパク質に遺伝子工学的に特定の配列を付加して得られる組換えタンパク質を発現させて精製し、その組換えタンパク質に対して第1級アミンを有する化合物およびソルターゼを加えて反応させることにより、目的のタンパク質に部位特異的に種々の化合物を修飾できる。したがって、タンパク質に対してDNAやポリエチレングリコール(PEG)などの機能分子を修飾した薬剤の調製技術として応用できる。また、第1級アミンを有する基板上にタンパク質を部位特異的に固定化したプロテインチップまたはアレイの調製技術としても応用できる。
【図面の簡単な説明】
【0049】
【図1】スタフィロコッカス・アウレウス由来のソルターゼAによる組換えEGFP(I)および(II)のビオチン修飾の結果を示すウエスタンブロッティングの写真である。
【図2】ラクトバシラス・プランタラムNCIMB8826株由来のソルターゼによる組換えEGFP(I)および(II)のビオチン修飾の結果を示すウエスタンブロッティングの写真である。
【図3】ラクトバシラス・プランタラムNCIMB8826株由来のソルターゼによる、C末端にLPQTAEQ(配列番号3)を有する組換えEGFPのビオチン修飾の結果を示すウエスタンブロッティングの写真である。
【図4】ラクトバシラス・プランタラムNCIMB8826株由来のソルターゼによる組換えZZドメインのビオチン修飾の結果を示すウエスタンブロッティングの写真である。
【図5】ラクトバシラス・プランタラムNCIMB8826株由来のソルターゼによる組換えEGFPのDNA−ビオチン修飾の結果を示すウエスタンブロッティングの写真である(抗EGFP抗体による検出)。
【図6】ラクトバシラス・プランタラムNCIMB8826株由来のソルターゼによる組換えEGFPのDNA−ビオチン修飾の結果を示すウエスタンブロッティングの写真である(ストレプトアビジン−HRPによる検出)。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
第1級アミンを有する化合物をタンパク質の特定の部位に結合させる方法であって、
ソルターゼにより特異的に認識される配列を有するタンパク質を調製する工程;および
該ソルターゼの存在下で、第1級アミンを有する化合物と該調製したタンパク質とを反応させる工程を含む、方法。
【請求項2】
前記ソルターゼが、スタフィロコッカス・アウレウス(Staphylococcus aureus)由来のソルターゼAであり、そして前記特異的に認識される配列が、配列表の配列番号1の配列(Leu−Pro−Xaa−Thr−Gly)である、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記ソルターゼが、ラクトバシラス・プランタラム(Lactobacillus plantarum)NCIMB8826株由来のソルターゼであり、そして前記特異的に認識される配列が、配列表の配列番号1の配列(Leu−Pro−Xaa−Thr−Gly)、配列表の配列番号2の配列(Leu−Pro−Gln−Thr−Ser)または配列表の配列番号3の配列(Leu−Pro−Gln−Thr−Ala−Glu−Gln)である、請求項1に記載の方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2009−189325(P2009−189325A)
【公開日】平成21年8月27日(2009.8.27)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−35150(P2008−35150)
【出願日】平成20年2月15日(2008.2.15)
【出願人】(504150450)国立大学法人神戸大学 (421)
【Fターム(参考)】