説明

第8因子阻害抗体と反応する細胞障害性抗体

【課題】ヒト第8因子阻害抗体を標的とする抗イディオタイプ抗体の提供。
【解決手段】ヒト第8因子のC2領域を標的とする前記阻害抗体であって、その各々の軽鎖可変領域が、配列番号1のマウスの核酸配列と少なくとも70%同一である核酸配列によってコードされ、その各々の重鎖可変領域が、配列番号2のマウスの核酸配列と少なくとも70%同一である核酸配列によってコードされ、その軽鎖定常領域及び重鎖定常領域が、非マウス種由来の定常領域である前記阻害抗体。本発明はまた、細胞障害性免疫細胞のFcγRIII受容体を活性化させ、並びに特に血友病Aの治療用薬剤を製造するための、前記抗体の使用にも関する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はヒト第8因子阻害抗体と反応する抗イディオタイプ抗体に関する。前記阻害抗体はヒト第8因子のC2領域を認識し、当該抗体の各軽鎖可変領域が、配列番号1のマウスの核酸配列と少なくとも70%の同一性を有する核酸配列によってコードされ、その各重鎖可変領域が、配列番号2のマウスの核酸配列と少なくとも70%の同一性を有する核酸配列によってコードされ、更に軽鎖及び重鎖定常領域が非マウス種由来の定常領域である。並びに本発明は、細胞障害性免疫細胞のFcγRIII受容体の活性化のための、及び薬剤(特に血友病Aの治療用の薬剤)の調製のための、当該抗体の使用の提供に関する。
【背景技術】
【0002】
血友病AはX染色体の異常を原因とする遺伝性疾患であり、その患者においては、血液凝固が行われない。血友病Aは血液凝固に悪影響を与える不全症の中で最も一般的なものであり、フランスでは5000の1人の男性が罹患し、血友病患者の80%を占める。この疾患は、凝固に関係するタンパク質、第8因子(FVIII)の遺伝子上の突然変異の結果であり、それにより血液中のFVIIIの全体の欠損又は一部の欠損がもたらされる。
【0003】
他のタイプの血友病(血友病B)は血友病患者の20%を占め、それは他の凝固因子(第IX因子)の不足によって生じる。
【0004】
現在の血友病(タイプA又はB)の治療方法は、静脈ルートによる不完全若しくは失活した凝固因子を投与することを含んでなる。フランスにおいては、タイプA血友病患者の治療を目的とするFVIIIは、Laboratoire Francais de Fractionnement des Biotechnologies(LFB)、又は国際的な製薬研究所から供給される血液製剤の形で、あるいは遺伝子工学的に調製した組換え製剤の形で入手できる。事実、哺乳類細胞由来のFVIIIをコードするDNAが単離され、発現され、更にそのアミノ酸配列がcDNAから予想されている(非特許文献1)。
【0005】
分泌されたFVIIIは、生体内の凝固経路の活性化において鍵となる役割を演じる300のKdaの分子量(2332アミノ酸)を有する糖タンパク質である。不活性なFVIIIは、6つの領域から構成される:(N末端からC末端に向けて)A1(残基1−372)、A2(残基373−740)、B(残基741−1648)、A3(残基1690−2019)、C1(残基2020−2172)及びC2(残基2173−2332)。分泌の後、FVIIIはフォン・ウィルブランド因子(vWF)と相互作用することにより、血漿中のプロテアーゼによる攻撃を回避する。FVIIIはトロンビンによる裂開の後、vWFから分離される。この裂開によりB領域が除去され、更にヘテロ二量体の形成がなされる。FVIIIはこの形態で血漿中を循環する。このヘテロ二量体は、重鎖(A1、A2)及び軽鎖(A3、C1、C2)により構成される。
【0006】
FVIIIは、血友病患者に注射された後、患者の血液中を循環するvWFと結合する。活性化するFVIIIは活性化第IX因子の補因子として機能し、活性化因子Xへの因子Xの変換を促進する。活性化因子Xは、プロトロンビンをトロンビンに変換する。トロンビンは更にフィブリノゲンをフィブリンに変換し、凝血塊が形成される。
【0007】
FVIIIの投与において生じる大きな課題は、患者体内における、FVIIIを認識する「阻害抗体」と呼ばれる抗体の出現である。これらの抗体はFVIIIによる血液凝固活性を中和し、注射後直ちに不活性となる。すなわち、投与された凝固因子は、止血を行う前に破壊されてしまい、それは血友病の重い合併症を構成し、治療効果が損なわれる。更に、ある特定の非遺伝的血友病患者は、内因性FVIIIに対する阻害物質を生じさせる、いわゆる後天性血友病の患者である。
【0008】
抗FVIII免疫反応がポリクローン性であり、主にA2及びC2領域に対する反応であるという研究結果が報告されている(非特許文献2)。FVIII阻害物質の形成を研究する目的でモデル動物を作製し、当該ラットを組換えヒトFVIIIで免疫した結果、ポリクローン性の急激な免疫反応が観察された(非特許文献3)。
【0009】
抗FVIII阻害抗体がFVIIIの機能を阻害する機構多く存在し、FVIIIのタンパク質分解への干渉、並びに異なるパートナー(例えばvWF、リン脂質(PL)、第IX因子、活性化因子X(FXa)又はAPC(活性化プロテインC))とFVIIIとの相互作用への干渉が挙げられる。
【0010】
この免疫反応の低減化を可能にするための幾つかの処理方法が存在する。例えば、FVIIIの産生を刺激する合成ホルモンであるデスモプレッシン(プロトロンビン複合体レベルの上昇、活性化プロトロンビン複合体レベルの上昇などにより凝固を促進する)又は組換え因子VIIaを投与することや、顕著量若しくは適当量のFVIIIを血奨交換及び潅流により供給することが挙げられる。しかしながら、これらの方法は非常に高価であり、また未だ低効率に留まっている。
【0011】
別のストラテジーとして、抗イディオタイプ抗体を投与してこれらの阻害抗体を中和するという新規な方法が提案されている(非特許文献4)。また特許文献1では、マウスの抗イディオタイプモノクローナル抗体(14C12)を用いて、ヒトFVIIIの阻害抗体による阻害特性を、投与量依存的に中和する技術が開示されている。しかしながら、これらの抗体は抗体の中和機能のみを有するに留まっている。すなわちそれらは阻害抗体の分泌の上流側に対する効力を有しない。
【特許文献1】国際公開第2004/014955号
【非特許文献1】Woodら、Nature(1984)312:330−337
【非特許文献2】Gilles JGら、(1993)Blood、82:2452−2461
【非特許文献3】Jarvisら、Thromb Haemost.1996 Feb、75(2):318−25
【非特許文献4】Saint−Remy JMら、(1999)Vox Blood、77(suppl1):21−24
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
以上より、循環する阻害抗体を中和し、阻害抗体の分泌の上流側に作用し、分泌を減少させることを可能にする、新規な治療ツールに対するニーズが存在する。
【0013】
以上より発明者らは、分泌された阻害抗体対する作用、及び、FVIIIの阻害抗体を分泌するプラズマ細胞の前駆体(特に記憶B細胞)の上流側に対する作用の両方を有する、血友病Aの治療に有用が新規ツールの開発を行った。
【課題を解決するための手段】
【0014】
発明者らは、FVIII阻害と反応する新規な細胞障害性抗イディオタイプ抗体を開発した。かかる抗体は、これらの循環する阻害抗体と結合することにより中和活性を発揮し、かつ記憶B細胞と相互作用できる。記憶B細胞はプラズマ細胞の起源であり、ADCC(抗体依存性細胞媒介性細胞毒性)機構によって溶解することにより、これらの阻害抗体が産生される。
【発明を実施するための最良の形態】
【0015】
抗イディオタイプ抗体とは、他の抗体の可変領域と相互作用する能力を有する抗体のことを意味する。
【0016】
本発明に係る抗イディオタイプ細胞障害性抗体は、A1領域、A2領域、B領域、A3領域又はC1領域などの、ヒトFVIIIにおけるいずれかの領域と結合する阻害抗体と反応する。本発明による好ましい抗イディオタイプ抗体は、FVIIIのC2領域と結合するヒト由来の阻害抗体と反応する抗体である。
【0017】
FVIIIのC2領域は、リン脂質(PL)結合部位、及びフォン・ウィルブランド因子(vWF)との主要な結合部位を有する。PLsの結合はFVIIIの生理的活性にとり重要であり、特に第IX因子(FIX)と因子X(FX)を伴うテナーゼ複合体形成にとり重要である。vWFはシャペロンタンパク質として作用し、FVIIIを初期の分解及びクリアランスからの保護に関与する。FVIIIのC2領域と反応するFVIII−阻害抗体は、阻害抗体を生合成する患者において最も頻繁に見られる阻害物質である。すなわち、FVIIIのC2領域と反応する阻害抗体を標的とする、本発明に係る好ましい抗イディオタイプ抗体は、それらが阻害抗体を生じさせる大多数の血友病A患者において有効に機能するという点で、特に有用である。
【0018】
すなわち本発明は、ヒトFVIII阻害抗体と反応する抗イディオタイプモノクローナル抗体の提供に関する。この阻害抗体はヒトFVIIIのC2領域と反応し、本発明に係る抗イディオタイプモノクローナル抗体では、各軽鎖可変領域は、配列番号1のマウス核酸配列と少なくとも70%の同一性を有する核酸配列によってコードされ、その各重鎖可変領域は、配列番号2のマウス核酸配列と少なくとも70%の同一性を有する核酸配列によってコードされ、その軽鎖定常領域及びその重鎖定常領域が非マウスの種由来である。
【0019】
好適には、配列の同一性は少なくとも70%、好ましくは少なくとも80%、より好ましくは少なくとも95%若しくは少なくとも99%の同一性である。同一性のパーセンテージは2つの配列のアラインメントを比較し、同一のヌクレオチドを有する部分の数を、この配列中のヌクレオチド総数で除算することにより算出する。同じアミノ酸がいくつかの異なる3ヌクレオチドによってコードされうるという事実により、当該遺伝暗号は縮重していてもよい。いずれにせよ、配列中のこれらの相違は、モノクローナル抗体のその標的への結合特異性に影響を及ぼさず、標的とする阻害抗体と結合することにより阻害活性を中和するその能力にも影響を及ぼさない。好適には、本発明に係る抗体の、その標的分子との親和性は、同一若しくはほぼ同一のレベルが維持される。
【0020】
本発明では、「モノクローナル抗体」又は「モノクローナル抗体組成物」などの表現は、同一及びユニークな特性を有する抗体分子の調製物のことを指す。
【0021】
軽鎖及び重鎖の可変領域の由来が、軽鎖及び重鎖の定常領域のそれと異なる種由来である、本発明に係る抗イディオタイプモノクローナル抗体は、「キメラ」抗体とも言える。
【0022】
本発明に係る抗イディオタイプキメラ抗体は、標準的な組み換えDNA技術を使用して調製することもでき、かかる技術は当業者に周知であり、例えばMorrisonら、Proc.Natl.Acad.Sci.U.S.A.,81,:6851−55(1984)に記載のキメラ抗体作製技術を使用してもよい。当該技術では、組み換えDNA技術を用い、ヒト以外の哺乳類由来の抗体の重鎖定常領域及び/又は軽鎖定常領域を、ヒト免疫グロブリンの対応する領域で置換している。かかる抗体及びそれらの調製方法はまた、例えば欧州特許出願公開第173494号、Neuberger,M.S.ら、Nature 312(5995):604−8(1985)、並びに欧州特許出願公開第125023号にも記載されている。
【0023】
マウス由来の配列番号1、配列番号2の核酸配列はそれぞれ、マウスハイブリドーマ14C12が産生する抗体の、軽鎖可変領域及び重鎖可変領域をコードする。それらは2002年6月30日以降、Belgian Coordinated Collections of Microorganisms(BCCM)から入手でき、登録番号LMBP 5878CBとして、LMBP(プラスミドコレクション、Laboratorium voor Moleculaire Biologie、Universiteit、K.L. Ledeganckstraat 35、9000 Gent、ベルギー)に寄託されている。クローン14C12は、国際公開第2004/014955号に記載されている。マウス抗体14C12の配列は、本発明に係る抗体の可変領域と同一の配列、又は少なくとも70%、好ましくは少なくとも80%、より好ましくは少なくとも90%、又更に好ましくは少なくとも99%の同一性を有する配列をコードするために選択された。すなわちマウス抗体14C12の可変領域の使用は、国際公開第2004/014955号に記載されているように、多くの利点を有する。マウス抗体14C12の第1の有利な側面としては、FVIIIのC2領域と反応する阻害抗体(抗体BO2C11)と結合する能力が挙げられる。抗体BO2C11は、阻害物質を産生する患者において、FVIIIと特異的に結合し、投与量依存的に、この循環する阻害抗体(FVIII)とその標的(C2領域)との結合を阻害する、天然のレパートリに由来するヒトモノクローナル抗体のことを指す(Jacqueminら、(1998),Blood 92:496−506)。抗体BO2C11の軽鎖及び重鎖の可変領域のヌクレオチド及びペプチド配列は、国際公開第01/04269号に記載されている。更に、マウス抗体14C12は、抗体BO2C11の阻害特性を、投与量依存的に中和する能力を有する。更にマウス抗体14C12は、ポリクローン性のFVIIIsを阻害する抗体の存在により観察されるFVIIIの活性阻害が、インヴィトロで60%中和させることが明らかとなっている。マウス抗体14C12はまた、クローンBO2C11の起源の患者とは異なる患者に由来するポリクローナル抗体により観察される、FVIII阻害活性をインヴィトロで顕著に中和することが明らかとなっている。それらの結果は、マウス抗体14C12が、FVIIIのC2領域と反応するヒト抗体に共通に存在するエピトープを認識することを示すものである。マウス抗体14C12のインビボ特性に関しては、組換えヒトFVIII及び阻害抗体BO2C11を注射したFVIII−/−C57B1/6マウスでは、マウス抗体14C12が投与量依存的に抗体BO2C11の阻害特性を中和することが示されている。すなわち、FVIIIのC2領域と反応する阻害物質が産生される血友病Aに罹患する患者の治療における、マウス抗体14C12の有用性を物語るものである。更にマウス抗体14C12は、それぞれ10−1−1のkon値、及び10−5−1のkoff値で、抗体BO2C11との高い結合親和性を有する。更に、マウス抗体14C12の重鎖可変部には、13アミノ酸によるC2領域と同一若しくは相同な内部領域、及びBO2C11の可変部との接触に供される幾つかの残基の両方が含まれることが明らかとなっている。最後に、マウス抗体14C12は、vWF又はPLとFVIIIとの結合を阻害しないことが証明されている。すなわち、FVIIIのC2領域と反応する阻害抗体が産生されることを特徴とする血友病Aに罹患する患者へのマウス抗体14C12の投与によって、FVIIIの機能に対する望ましくない阻害効果が生じない。好適には、本発明に係る抗イディオタイプモノクローナル抗体は、抗体14C12の可変領域に関連する全ての有利な特性を有する。
【0024】
本発明に係る抗体はまた、非マウスの種に属する軽鎖及び重鎖定常領域を有する。すなわち、マウスでない全ての哺乳類のファミリー及びの種のそれらを使用でき、特にヒト、サル、げっ歯類(マウスを除く)、ブタ、ウシ、ウマ、ネコ、イヌ並びにトリなど(これらに限定されない)が挙げられる
【0025】
好ましくは、本発明の抗イディオタイプ抗体の各軽鎖可変領域は、配列番号1のマウス核酸配列によってコードされ、その各重鎖可変領域は、配列番号2のマウス核酸配列によってコードされ、その軽鎖及び重鎖定常領域は非マウス種由来の定常領域である。
【0026】
好適には、本発明に係る抗イディオタイプモノクローナル抗体は、抗体組成物の形で細胞において産生され、当該抗体中のFc領域のグリコシル化部位に存在する、そのグリカン構造中のフコース濃度/ガラクトース濃度の比率は0.6以下であることを特徴とする。「Fc領域のグリコシル化部位」とは、アスパラギン297(Asn297、Kabat付番号)を意味し、N−グリコシル化部位として機能する。実際、抗体のFc定常領域はCH2及びCH3と称される2つの球状領域により構成されている。2つの重鎖はCH3領域のレベルで密接に相互作用するが、CH2のレベルでは、各々2つの鎖上の領域における、Asn297と結合する二アンテナ−タイプのN−グリカンの存在により、2つの領域に分離される。すなわち、本発明の実施態様では、抗体組成物に存在するグリコシル化部位の全てに存在するグリカン構造は、0.6以下のフコース濃度/ガラクトース濃度比率を示す。このことは、抗体が強力なADCC活性(「抗体依存性細胞媒介性細胞毒性」)における最適な条件であり、仏国特許出願第0312229号において開示されている。ゆえに本発明に係る抗イディオタイプ抗体は、それらのFc領域によって、細胞障害性エフェクター細胞のFc受容体、及び特にFcγRIIIA受容体(CD16とも呼ばれ、細胞障害性エフェクター細胞を活性化する受容体)、を活性化する能力が強化されている。本発明に係る抗イディオタイプモノクローナル抗体によって活性化されうるエフェクター細胞としては、例えばNK(ナチュラルキラー)細胞、マクロファージ、好中球、CD8リンパ球、Tγδリンパ球、NKT細胞、好酸球、好塩基球又はマスト細胞が挙げられる。好ましくは、本発明に係る抗イディオタイプ抗体は、NK細胞の補充を可能にする。すなわち本発明に係る抗イディオタイプモノクローナル抗体は細胞障害性であることを特徴とし、そのFc領域を介して、エフェクター細胞の補充を可能にし、本発明に係る抗イディオタイプ抗体の標的を細胞表面に有する細胞を破壊する。
【0027】
本発明に係る抗体は、特に記憶B細胞などの、細胞表面に前記FVIII阻害抗体を発現する細胞、FVIII阻害抗体を分泌するプラズマ細胞前駆体を破壊する能力を有する。
【0028】
好ましくは、標的細胞は記憶B細胞である。
【0029】
すなわち本発明に係る抗イディオタイプモノクローナル抗体は、一方では阻害抗体のイディオトープとの結合によってFVIII阻害抗体の結合を阻害し、もう一方では、細胞表面に標的となる阻害抗体を発現する記憶B細胞、及び阻害抗体を分泌するプラズマ細胞の前駆体の溶解を生じさせる。これらの2つの効果により、血友病患者において産生されるFVIII阻害抗体による阻害活性の低減化が可能となる。
【0030】
好ましくは、本発明の抗イディオタイプ抗体が標的とする抗FVIII阻害抗体は抗体BO2C11である。この抗体は、阻害物質が産生される血友病Aに罹患する患者の天然のレパートリに由来する、FVIIIに特異的なヒトIgG4κモノクローナル抗体である(Jacquemin MGら、(1998)Blood 92:496−506)。抗体BO2C11はC2領域を認識し、FVIIIのvWF及びリン脂質(PL)との結合を阻害する。この活性メカニズムは、FVIIIのC2領域に特異的な阻害抗体を保持する患者において最も頻繁に見られる。更に、C2領域に対する抗体BO2C11の正確な結合部位が、Fabフラグメント及びC2領域のX線結晶構造解析により確認されている(Spiegel PCら、(2001)Blood 98:13−19)。抗体BO2C11の重鎖及び軽鎖可変領域のアミノ酸及びヌクレオチド配列は、国際公開第01/04269号(2000)に記載されている。
【0031】
すなわち、本発明に係る抗イディオタイプ抗体は、記憶B細胞BO2C11のクローンの表面に存在する膜抗体BO2C11(BCR)のみならず、循環する抗体BO2C11をも認識する。ゆえに本発明に係る抗イディオタイプ抗体は、一方では循環抗体との結合によって、もう一方では膜免疫グロブリンとの結合によって中和活性を発揮し、それは更に、これらの細胞障害性細胞のFc受容体を介した、本発明抗体のFc領域と細胞障害性細胞との間の結合へと至る。本発明に係る抗体は、従って、それらの表面で免疫グロブリンBO2C11を発現している記憶B細胞の溶解に参加する。
【0032】
好ましくは、本発明に係る抗イディオタイプ抗体の各軽鎖及び各重鎖の定常領域はヒト定常領域である。この本発明の好ましい実施態様により、ヒトの抗体の免疫原性が減少し、その結果、ヒトへのその治療的投与の間におけるその治療効果が向上する。
【0033】
本発明の好ましい実施形態では、本発明に係る抗体の各軽鎖の定常領域は、κ(カッパ)タイプである。いかなるアロタイプも本発明の実施にとり好適であり、例えばKm(1)、Km(1、2)、Km(1、2、3)又はKm(3)が挙げられるが、好ましくはアロタイプKm(3)である。
【0034】
他の補完的な実施形態では、本発明に係る抗体の各軽鎖定常領域は、λ(ラムダ)タイプである。
【0035】
特定の本発明の態様では、特に本発明に係る抗体の各軽鎖及び各重鎖の定常領域がヒト領域である場合、抗体の各重鎖定常領域はγ型である。この異型の場合、抗体の各重鎖定常領域は、タイプγ1、γ2又はγ3(これらの3つのタイプの定常領域はヒト補体と結合する特徴を有する)であるか、あるいはタイプγ4であってもよい。タイプγの各重鎖定常領域を有する抗体は、IgGクラスに属する。タイプG免疫グロブリン(IgG)は、2つの重鎖及び2つの軽鎖により構成され、ジスルフィド架橋によって各々結合したヘテロ二量体である。各鎖はN末端において、当該抗体が反応する抗原に特異的な可変領域又はドメイン(軽鎖の場合はV−J再構成遺伝子、及び重鎖の場合はV−D−J再構成遺伝子でコードされる)によって構成されており、またC末端において、定常領域(軽鎖の場合は単一のCL領域、又は重鎖の場合は3度メイン(CH1、CH2及びCH3))によって構成されている。重鎖及び軽鎖の可変ドメイン及びCH及びCL領域の組合せによりFab領域が形成され、それは非常にフレキシブルなヒンジ部位を介してFc領域と結合し、それにより各Fabのその標的抗原との結合が可能となり、一方Fc領域(抗体のエフェクター特性を媒介する)は、エフェクター分子(例えば受容体FcγR及びC1q)とのアクセスが可能な状態に維持される。Fc領域(2つの球状領域、CH及びCHにより構成される)は、2つの各鎖上で、Asn297と結合する二アンテナ−タイプのN−グリカンの存在により、CH2ドメインのレベルでグリコシル化される。
【0036】
好ましくは、抗体の各重鎖定常領域はタイプγ1であり、それにより、かかる抗体による、大多数の個人(ヒト)におけるADCC活性の発揮が可能となる。この点で、いかなるアロタイプ(例えばG1m(3)、G1m(1、2、17)、G1m(1、17)又はG1m(1、3))も本発明の実施にとり好適である。好ましくは、アロタイプはG1m(1、17)である。
【0037】
本発明の特定の態様では、抗体の各重鎖定常領域はγ1タイプであり、配列番号3のヒト核酸配列と少なくとも70%の同一性を有する核酸配列によってコードされ、その各軽鎖定常領域は、配列番号4のヒト核酸配列と少なくとも70%の同一性を有する配列によってコードされる。
【0038】
好適には、前述の配列同一性は、少なくとも80%、特に好適には少なくとも90%若しくは99%であるが、ただし当該変異は本発明に係る抗体の機能特性を変化させるような変異であってはならない。
【0039】
好ましくは、本発明に係る抗体の各重鎖定常領域はγ1タイプであって、配列番号3のヒト核酸配列によってコードされ、その各軽鎖定常領域は配列番号4のヒト核酸配列によってコードされる。
【0040】
すなわち、かかる抗体は、γ1タイプの重鎖と共に、マウスの可変領域及びヒトの定常領域を有する。ゆえにこの抗体はヒトIgG1サブクラスに属する。この抗体は、2つの軽鎖を有し、その可変ドメインは配列番号1のマウス核酸配列によってコードされ、その定常領域は配列番号4のヒト核酸配列によってコードされる。またその抗体は、2つの重鎖を有し、その可変ドメインは配列番号2のマウス核酸配列によってコードされ、その定常領域は配列番号3のヒト核酸配列によってコードされる。
【0041】
本発明の他の態様では、本発明に係る抗体の軽鎖の各々は、配列番号5のマウス−ヒトキメラ核酸配列と少なくとも70%の同一性を有する配列によってコードされ、重鎖の各々は、配列番号6のマウス−ヒトキメラ核酸配列と少なくとも70%の同一性を有する配列によってコードされる。特定の有利な態様では、配列同一性は少なくとも80%、より好適には少なくとも90%、更に好適には少なくとも99%であるが、ただし当該変異は本発明に係る抗体の機能特性を変化させるような変異であってはならない。
【0042】
好ましくは、本発明に係る抗体の軽鎖の各々は配列番号5のマウス−ヒトキメラ核酸配列によってコードされ、重鎖の各々は配列番号6のマウス−ヒトキメラ核酸配列によってコードされる。抗体の各軽鎖をコードする配列番号5のマウス−ヒトキメラ核酸配列は、抗体の各軽鎖可変ドメインをコードする配列番号1のマウス核酸配列と、抗体の各軽鎖定常領域をコードする配列番号4のヒト核酸配列とを融合させることにより得られる。
【0043】
抗体の各重鎖をコードする配列番号6のマウス−ヒトキメラ核酸配列は、抗体の各重鎖可変ドメインをコードする配列番号2のマウス核酸配列と、抗体の各重鎖定常領域をコードする配列番号3のヒト核酸配列とを融合させることにより得られる。好適には、本発明に係る抗体の軽鎖の各々は、配列番号7のペプチド配列と少なくとも70%の同一性を有するペプチド配列を有し、本発明に係る抗体の重鎖の各々は、配列番号8のペプチド配列と少なくとも70%の同一性を有するペプチド配列を有する。特定の有利な態様では、配列同一性は少なくとも80%、より好適には少なくとも90%、更に好適には少なくとも99%であるが、ただし当該変異は本発明に係る抗体の機能特性を変化させるような変異であってはならない。
【0044】
好ましくは、本発明に係る抗体の軽鎖の各々のペプチド配列は配列番号7のペプチド配列であり、本発明に係る抗体の重鎖の各々のペプチド配列は配列番号8のペプチド配列である。
【0045】
すなわち、抗体の軽鎖の各々が配列番号5のっ歯類−ヒトキメラ核酸配列によってコードされるときに、重鎖の各々は配列番号6のマウス−ヒトキメラ核酸配列によってコードされ、配列番号5の核酸配列から推論される軽鎖の各々のペプチド配列は配列番号7の配列であり、配列番号6の核酸配列から推論される重鎖の各々のペプチド配列は配列番号8の配列である。
【0046】
本発明に係る抗体は、いかなる細胞系によっても産生させることができ、特にCD16との高い親和性を有する抗体を産生する細胞系が好ましい。
【0047】
特に好適な態様では、本発明の抗体はラット骨髄腫細胞系において産生させる。本発明に係る抗体を生産している細胞系は、抗体の具体的な特性を左右しうるため、重要な要素である。事実、抗体発現のための手段は、特にグリコシル化修飾などの、翻訳後修飾の元となり、それは細胞系ごとにそれぞれ異なり、同一の一次構造を有するにも関わらず、抗体の機能特性が異なる結果となりうる。
【0048】
好ましい実施形態では、抗体は、ラット骨髄腫YB2/0、細胞YB2/3HL.P2.G11.16Ag.20(ATCC番号 CRL−1662としてATCCに寄託されている)において産生される。この細胞株の選択は、例えばCHOを用いて調製した同じ一次構造の抗体と比較し、改良されたADCC活性を有する抗体を生産する能力、並びに内因性免疫グロブリン産生の欠如が理由である。すなわち、細胞系YB2/0において産生される本発明に係る抗体は、それらのFc領域によって、他の細胞系において産生された同じ一次構造の抗体と比較して、細胞障害性細胞のFc受容体を活性化する能力が増加している。更に、この細胞系の使用により、抗体組成物の形で抗体を産生し、抗体のFc領域のグリコシル化部位に存在するグリカン構造のフコース濃度/ガラクトース濃度の比率が0.6以下であるという特徴及び効果が得られる。
【0049】
好適には、本発明に係る抗体は、2005年10月25日に寄託されたクローンR565(寄託番号I−3510、Collection Nationale de Culture des Microorganismes(CNCM,25 rue du Docteur Roux,75724 Paris cedex 15)から調製することができる
【0050】
好適には、本発明に係る抗体は抗体EMAB565であり、クローンR565によって産生される。抗体EMAB565の軽鎖の各々は配列番号5のマウス−ヒトキメラ核酸配列によってコードされ、その重鎖の各々は配列番号6のマウス−ヒトキメラ核酸配列によってコードされる。このキメラ抗体はFVIIIとの結合においてマウス抗体14C12と競合し、強力な細胞毒性活性(マウス14C12のそれより非常に強力である)を示すが、それはこれらの抗体の重鎖のN−グリカンの特有のグリコシル化に一部に起因すると考えられる。事実、クローンR565は0.6未満のフコース濃度/ガラクトース濃度比率を有する抗体EMAB565の組成物を産生することを特徴とし、そのため、強力なADCC活性を有する抗体の産生にとり最適であることが、仏国特許出願第0312229号に記載されている。ゆえにこの抗体は、標特に的細胞がFVIII阻害抗体を発現する場合における病理の治療のための治ツールとして有用である。
【0051】
本発明にはまた、実質的に抗体EMAB565と同じ特徴を有するいかなるモノクローナル抗体も包含される。
【0052】
本発明の他の態様は、本発明に係る抗体の軽鎖を発現するベクターの提供に関する。このベクターは、本発明の抗体を発現させるベクターであり、その抗体の軽鎖は配列番号5の核酸配列によってコードされ、それから推論されるペプチド配列は配列番号7の配列である。このベクターは、抗体の軽鎖の各々の可変ドメインをコードする配列番号1のマウス核酸配列と、抗体の各軽鎖定常領域をコードする配列番号4の核酸配列が挿入された核酸分子であり、それらを宿主細胞に導入することにより、それらが細胞内で維持される。選択及び発現のために不可欠な配列(プロモータ、ポリアデニル化配列、選択遺伝子)を存在させることにより、宿主細胞におけるこれらの外来の核酸断片の発現が可能となる。かかるベクターは当業者にとって周知で、例えばアデノウイルス、レトロウイルス、プラスミド又はバクテリオファージが挙げられるが、これらに限定されない。更に、いかなる哺乳類細胞も、本発明に係る抗体を発現させる細胞宿主細胞として使用できる(例えばYB2/0、CHO、CHO dhfr−(例えばCHO DX B11、CHO DG44)、CHO Lec13、SP2/0、NSO、293、BHK又はCOSなどが挙げられる)。
【0053】
本発明の別の態様は、本発明に係る抗体の重鎖を発現するベクターの提供に関する。このベクターは、本発明の抗体を発現させるベクターであり、その抗体の重鎖は配列番号6の核酸配列によってコードされ、それから推論されるペプチド配列は配列番号8の配列である。このベクターは、抗体の重鎖の各々の可変ドメインをコードする配列番号2のマウス核酸配列と、抗体の各重鎖定常領域をコードする配列番号3の核酸配列が挿入された核酸分子であり、それらを宿主細胞に導入することにより、それらが細胞内で維持される。発現に不可欠な配列(プロモータ、ポリアデニル化配列、選択遺伝子)を存在させることにより、宿主細胞におけるこれらの外来の核酸断片の発現が可能となる。上記のように、かかるベクターとしては例えばアデノウイルス、レトロウイルス、プラスミド又はバクテリオファージが挙げられ、例えばYB2/0、CHO、CHO dhfr−(例えばCHO DX B11、CHO DG44)、CHO Lec13、SP2/0、NSO、293、BHK又はCOSなどのいかなる哺乳動物細胞が使用できる。
【0054】
細胞YB2/0における重鎖及び軽鎖の発現ベクターの共発現によって得られる抗体としては例えば抗体EMAB565が挙げられ、それはクローンR565(CNCM登録番号:I−3510として寄託)により調製される。この抗体は、ヒトNK細胞の存在下で、マウス抗体14C12により誘導される細胞毒性と比較し、非常に強力な細胞毒性を誘発する。更に、抗体EMAB565は、マウス抗体14C12による誘導よりも強力に、Jurkat−CD16細胞からのIL−2(インターロイキン2)の分泌を誘発する。ゆえに、培地中における、上記のベクターの発現を可能にする条件下でのクローンR565の培養組織によって産生される抗体EMAB565は、BO2C11が関与する病理(特に血友病A)の治療及び診断の効率化、並びにこの分野における研究の効率化を可能にする最も有用なツールの1つといえる。
【0055】
本発明の他の具体的態様は、本発明に係る抗体を発現する安定細胞株の提供に関する。
【0056】
好適には、本発明に係る抗体を発現する安定細胞株は、以下からなる群から選択される:SP2/0、YB2/0、IR983F、ヒト骨髄腫(例えばNamalwa)又はPER.C6などのヒト由来の他のいかなる細胞、CHO株(特にCHO−K−1、CHO−Lec10、CHO−Lec1、CHO−Lec13、CHOプロ−5、CHO dhfr−(CHO DX B11、CHO DG44))、又はWil−2、Jurkat、Vero、Molt−4、COS−7、293−HEK、BHK、K6H6、NSO、SP2/0−Ag 14及びP3X63Ag8.653から選択される他の細胞株。好ましくは、使用する細胞株はラット骨髄腫YB2/0細胞である。この細胞株の選択は、例えばCHOを用いて調製した同じ一次構造の抗体と比較し、改良されたADCC活性を有する抗体を生産する能力が理由である。
【0057】
本発明の特定の態様では、本発明に係る抗体を発現している安定な細胞系(より詳しくは前記した群から選択される細胞系)には、前記した重鎖及び軽鎖に係る2つの発現ベクターが組み込まれる。
【0058】
本発明の具体的態様は、クローンR565(寄託番号I−3510、Collection Nationale de Culture des Microorganismes(CNCM)に関する。
【0059】
本発明はまた、上記の通りに細胞株R565によって産生される抗体EMAB565と実質的に同等の反応性を有するモノクローナル抗体を産生するあらゆる細胞に関する。
【0060】
本発明の他の具体的態様は、ヒトFVIIIのC2領域と反応し、クローンR565により産生される抗体と結合する、抗イディオタイプモノクローナル抗体の提供に関する。
【0061】
本発明の別の実施形態は、本発明に係る抗体の重鎖をコードする配列番号6の配列のDNA断片に関する。配列番号6のマウス−ヒトキメラ核酸配列は、抗体の各重鎖をコードする。それは抗体の各重鎖可変領域をコードする配列番号2のマウスの核酸配列と抗体の各重鎖定常領域をコードする配列番号3のヒトの核酸配列とを融合させることによって得られる。
【0062】
本発明の他の具体的態様は、本発明に係る抗体の軽鎖をコードする配列番号5の配列のDNA断片に関する。配列番号5のマウス−ヒトキメラ核酸配列は、抗体の各軽鎖をコードする。それは抗体の各軽鎖可変領域をコードする配列番号1のマウスの核酸配列と抗体の各軽鎖定常領域をコードする配列番号4のヒトの核酸配列とを融合させることによって得られる。
【0063】
本発明の別の実施形態は、好適には単クローン性の抗イディオタイプ抗体の使用に関する。当該抗体はヒトFVIIIの阻害抗体と反応し、前記抗イディオタイプ抗体のFc領域の存在により、インビボ又はインヴィトロで、細胞障害性免疫細胞の補充がなされる。かかる使用は、FVIIIのいずれかのドメインと反応するいかなる細胞障害性の抗イディオタイプ抗体によっても実施できる。これらの細胞障害性抗イディオタイプ抗体は、細胞障害性免疫細胞におけるFcγRIII受容体、特にFcγRIIIA受容体を活性化させる。好適には、使用する抗体は上記の本発明に係る抗体であり、特に好適な態様では抗体EMAB565である。
【0064】
本発明の抗体は、それらのFc領域を介して、FcγRIIIA受容体を活性化させる能力を有する。この受容体は「エフェクター細胞」と呼ばれる細胞の表面で発現されるため、非常に好都合である。すなわち、エフェクター細胞に発現されるその受容体への、当該抗体のFc領域の結合によって、エフェクター細胞のFcγRIIIA及び標的細胞の破壊が活性化される。エフェクター細胞としては、例えばNK(ナチュラルキラー)細胞、マクロファージ、好中球、CD8リンパ球、Tγδリンパ球、NKT細胞、好酸球、好塩基球又はマスト細胞が挙げられる。
【0065】
好適には、かかる使用により、インビボ又はインヴィトロにおいて、FVIIIの阻害抗体を分泌し、FVIII阻害抗体を細胞表面に発現するプラズマ細胞前駆体細胞の破壊が可能となる。これらの細胞は好ましくはB細胞であり、特に好ましくは記憶B細胞である。好適には、この阻害抗体はFVIIIのC2領域と反応する。
【0066】
Bリンパ球は、他のタンパク質と結合する膜免疫グロブリンにより構成される、抗原受容体(「B細胞受容体」(BCR))を細胞表面に発現する。各Bリンパ球は、一種類の膜免疫グロブリンのみを合成し、その可変領域は、分泌されたその抗体のそれと同一である。Bリンパ球はそれらのBCRを介して直接抗原を認識する。BCRによる抗原の結合は、他の基本的シグナルを伴う場合、前記Bリンパ球の増殖を誘発し、それによりこのリンパ球の増殖によるクローン形成がなされる。有糸分裂に由来するBリンパ球の幾つかは、循環する抗体を分泌するプラズマ細胞に分化し、その他は、記憶Bリンパ球(この最初の反応の終わりにおいては不活性)を形成する。
【0067】
血友病A(特に重度の血友病A)に罹患する患者では、内因性のFVIIIの産生は極わずか若しくは全く起こらず、すなわちこのタンパク質はそれらの生物体にとっては外来物質となり、投与されたFVIIIはその最初の投与又は次の投与において、免疫反応を誘発する。投与されたFVIIIとBリンパ球に発現されたBCRが充分な親和性を有する場合には、それらの結合によりBリンパ球が活性化され、プラズマ細胞による可溶性の抗FVIII抗体の分泌、及びFVIII特異的なBCRを細胞表面に発現する記憶Bリンパ球の形成がなされる。これらの記憶Bリンパ球は、FVIIIと新規に接触した場合、同じ特性を有する記憶Bリンパ球が増殖して数を増加させ、高い親和性を有する抗FVIII抗体を分泌するプラズマ細胞に分化する。
【0068】
単純なBリンパ球により生じる反応より、記憶Bリンパ球により生じる反応は強力であり、またこれらの記憶細胞の数は、それらが由来するリンパ球よりはるかに多く、また高い親和性をもつBCRを有する。更に、プラズマ細胞への分化は、同じ特性を有する初期細胞からの場合よりも、記憶細胞からの場合の方が急速である。
【0069】
膜免疫グロブリンは、特定の抗原に対する特異性を有するため、Bリンパ球を特徴付けるものである。抗FVIII BCRを有し、プラズマ細胞を分泌するFVIII阻害抗体を生じさせるBリンパ球は更に、抗FVIII抗体を特徴づける免疫グロブリン部分への抗体結合により、標的とされうる。すなわち本発明に係る抗体は、膜免疫グロブリンを認識し、そのFc領域を介して細胞障害性免疫細胞を補充させ、細胞表面でBCRを発現する細胞を溶解させる。
【0070】
より詳細には、かかる使用により、インビボ又はインヴィトロで、抗体BO2C11の軽鎖可変領域(VL)及び重鎖可変領域(VH)を有するBCRを細胞表面に発現する記憶B細胞の破壊が可能となる。この破壊は、抗体依存性の細胞除去メカニズム(特にADCC)を介して生じる。
【0071】
本発明の他の具体的態様は、薬剤としての本発明に係る抗体の使用である。好適には、かかる薬剤はFVIII阻害抗体が生じる疾患の治療を目的とする。
【0072】
本発明の別の実施形態は、薬剤を製造するための本発明に係る抗体の使用である。
【0073】
より詳細には、本発明の別の実施形態は、血友病Aの治療用薬剤の製造への、本発明に係る抗体の使用である。本発明では、「血友病Aの治療に使用される」という用語は、「血友病Aの治療を目的とする」という用語と同義に解釈すべきである。
【0074】
好適には、治療される血友病Aは、阻害物質を伴う血友病Aである。
【0075】
本発明に係る抗イディオタイプ抗体はFVIIIと同時に患者に投与され、それらは同じ薬剤中に含有させて投与してもよく、又は付随する形で2つを別個に投与してもよい。
【0076】
最後に、最後の本発明の目的は、本発明に係る抗体と、1つ以上の薬学的に許容できる賦形剤及び/又は担体とを含有する医薬品組成物の提供に関する。上記賦形剤は、食塩水、生理食塩水、等張液、緩衝溶液などの溶液、あらゆる懸濁液、ゲル、粉末などの、製薬への使用に適合する、当業者に当業者に公知のいかなるものであってもよい。本発明に係る組成物は更に、分散剤、可溶化剤、安定化剤、界面活性剤、防腐剤などから選択される1つ以上の物質又は担体を含有してもよい。一方では、本発明に係る組成物は、他の薬品又は有効成分を含有してもよい。
【0077】
更に、当該組成物は別の方法で、別の形態で投与されてもよい。当該投与はかかる治療的法において標準的ないかなる経路で行ってもよく、特に全身投与経路(例えば静脈内、皮内、腫瘍内、皮下、腹膜内、筋肉内、動脈内注射など)が好適である。例えば、腫瘍付近又は腫瘍内部への注入や、腫瘍の潅注などが挙げられる。
【0078】
投与量は、投与回数、他の有効成分との組合せ、病理学的な進行段階に基づき適宜変化させてもよい。
【実施例】
【0079】
<実施例1:キメラ抗体 抗Id−FVIII EMAB565の発現ベクター構築>
A.マウス抗体14C12の可変領域のリーダー配列の決定
タイプIgG2a κの免疫グロブリンを産生するマウスハイブリドーマ14C12から、全RNAを単離した。逆転写の後、抗体14C12の軽鎖(Vκ)及び重鎖(VH)可変ドメインを、5’RACE技術(cDNA末端の迅速な増幅)により増幅した(GeneRacer kit,Invitrogen ref.L1500−01)。
【0080】
簡潔には、最初にマウス定常領域Cκ又はG1の5’領域に配置されるプライマーを使用して、逆転写を実施した。次に、ポリdC配列を、合成されたcDNAsの3’末端に付加し、その後、逆転写プライマーの5’末端で、マウス定常領域Cκ又はG1に配置される、ポリdC配列及び3’プライマーを認識する5’プライマーを使用してVκ及びVH領域の増幅を実施した。これらの2段階操作に使用するプライマーを以下に示す:
【0081】
1.逆転写プライマー
a.マウスκ特異的アンチセンスプライマー(配列番号19):5’−ACTGCCATCAATCTTCCACTTGAC−3’、
b.マウスG2a特異的アンチセンスプライマー(配列番号20):5’−CTGAGGGTGTAGAGGTCAGACTG−3’。
【0082】
2.5’RACE PCRプライマー
a.マウスκ特異的アンチセンスプライマー(配列番号21):5’−TTGTTCAAGAAGCACACGACTGAGGCAC−3’、
b.マウスG2a特異的アンチセンスプライマー(配列番号22):5’−GAGTTCCAGGTCAAGGTCACTGGCTCAG−3’。
【0083】
このように得られたPCR生成物VH及びVκを、pCR4Blunt−TOPOベクター(ゼロブラントTOPO PCRクローニングキット、Invitrogen社、ref.K2875−20)にクローニングし、更に塩基配列決定した。
【0084】
マウス抗体14C12のVκ領域のヌクレオチド配列を配列番号1の配列で示し、推定されるペプチド配列を配列番号9の配列として示す。Vκ遺伝子は、サブグループVκ23 [Almagro JCら、Immunogenetics(1998),47:355−363]に属した。マウス抗体14C12のVκ領域のCDR1、CDR2及びCDR3の配列を、Kabat付番に従い、それぞれ以下の配列番号13、配列番号14及び配列番号15として示す(Kabatら、“Sequences of Proteins of Immunological Interest”,NIH Publication,91−3242(1991))。マウス抗体14C12のVκ領域のCDR1−IMGT、CDR2−IMGT及びCDR3−IMGT配列を、IMGT(国際的なImMunoGeneTicsデータベース)分析(Lefranc,M.−P.ら、Dev. Comp. Immunol.,27,55−77(2003))に従って定義し、それぞれ以下の配列番号27、配列番号28及び配列番号29として示す。この定義(単に配列可変性の分析のみに基づき、カバットのそれと異なる)は、超可変ループ[Chothia C.and Lesk A.M.J.Mol.Biol.196:901−17(1987)]の特徴描写及び抗体の結晶構造解析を考慮し、組み合わせることにより行った。
【0085】
14C12のVH領域のヌクレオチド配列は配列番号2の配列であり、推定されるペプチド配列は配列番号10の配列である。VH遺伝子は、VH1サブグループ[Honjo T.and Matsuda F.in “Immunoglobulin genes”.Honjo T.and Alt F.W.eds,Academic Press,London(1996),pp145−171]に属していた。マウス抗体14C12のVH領域のCDR1、CDR2及びCDR3配列を、Kabat付番に従い、それぞれ以下の配列番号16、配列番号17及び配列番号18として示す(Kabatら、“Sequences of Proteins of Immunological Interest”,NIH Publication,91−3242(1991))。マウス抗体14C12のVH領域のCDR1−IMGT、CDR2−IMGT及びCDR3−IMGT配列を、IMGT(国際的なImMunoGeneTicsデータベース)分析(Lefranc,M.−P.ら、Dev. Comp. Immunol.,27,55−77(2003))に従って定義し、それぞれ以下の配列番号30、配列番号31及び配列番号32として示す。この定義(単に配列可変性の分析のみに基づき、カバットのそれと異なる)は、超可変ループ[Chothia C.and Lesk A.M.J.Mol.Biol.196:901−17(1987)]の特徴描写及び抗体の結晶構造解析を考慮し、組み合わせることにより行った。
【0086】
B.キメラ抗体EMAB565の重鎖及び軽鎖発現ベクターの構築
1.κ軽鎖ベクター
シークエンス用ベクターpCR4Blunt−TOPOにクローニングしたVκ配列を、以下のクローニングプライマーを使用して増幅した:
【0087】
a)Vκセンスプライマー(配列番号23):
【数1】

下線を有する配列は制限部位SpeIに対応し、太字の配列はコザック共通配列に対応し、ATGイニシエータをイタリックで示す。
【0088】
b)Vκアンチセンスプライマー(配列番号24)
【数2】

【0089】
このプライマーにより、マウスVκ配列(イタリック)及びヒト定常領域(Cκ)(太字)の連結がなされる。下線を引かれた配列はDraIII制限部位に対応する。
【0090】
このように得たVκPCR生成物は、マウス抗体14C12の天然のシグナルペプチドをコードする配列を含む。このVκPCR生成物を、ヒトCκ定常領域の5’末端の、軽鎖キメラベクターのSpe I及びDraIII部位との間にクローニングした。その核酸配列を配列番号4の配列として示し、その推定されるペプチド配列を配列番号12の配列として示す。このキメラベクターのヒトCκ配列は事前に部位特異的突然変異導入により修飾し、マウスVκ配列をクローニングするためのDraIII制限部位を導入した。このキメラベクターは、当業者に公知の、例えばCMV又はRSVなどのプロモーター、並びにHGH(Human Growth Hormone)ポリアデニル化配列、並びにdhfr(ジヒドロ葉酸還元酵素)選抜遺伝子を含む。
【0091】
抗体EMAB565の発現用に、キメラベクターのプロモータを更にヒトEF−1αプロモータで置換した。
【0092】
このベクターによってコードされるキメラ抗体EMAB565の軽鎖配列を配列番号5のヌクレオチド配列として示し、推定されるペプチド配列を配列番号7として示す。
【0093】
2.重鎖ベクター
同様の方法を用い、抗体EMAB565の重鎖をキメラ化した。シークエンス用ベクターpCR4Blunt−TOPOにクローニングしたVH配列を、以下のクローニングプライマーを使用して増幅した:
【0094】
a)VHセンスプライマー(配列番号25)
【数3】

下線を有する配列は制限部位SpeIに対応し、太字の配列はコザック共通配列に対応し、ATGイニシエータをイタリックで示す。
【0095】
b)VHアンチセンスプライマー(配列番号26)
【数4】

このプライマーにより、マウスVH配列(イタリック)及びヒトG1定常領域(太字)の連結がなされる。
【0096】
下線を有する配列はApaI制限部位に対応する。
【0097】
増幅されたVH断片は、マウス抗体14C12の天然のシグナルペプチドをコードする配列を含む。このVH PCR生成物を、ヒトγ1定常領域の5’末端で、重鎖キメラベクターのSpeI部位とApaI部位との間にクローニングし、その核酸配列を配列番号3の配列として示し、推定されるペプチド配列を配列番号11の配列として示す。このキメラベクターは、当業者に公知のCMV又はRSVなどのプロモータ、並びにbGH(ウシGrowth Hormone)ポリアデニル化配列、並びにneo選抜遺伝子を含む。
【0098】
抗体EMAB565の発現用に、キメラベクターのプロモータを更にヒトEF−1αプロモータで置換した。
【0099】
このベクターによってコードされるキメラ抗体EMAB565の重鎖配列を配列番号6のヌクレオチド配列として示し、推定されるペプチド配列を配列番号8として示す。
【0100】
<実施例2:FVIII抗阻害キメラ抗体EMAB565を産生する、YB2/0に由来する細胞系の構築>
ラット細胞株YB2/0(ATCC#CRL−1662)を、5%の牛胎児血清(FCS)(JRH Biosciences,ref.12107)を含有するEMS培地(Invitrogen,ref.041−95181M)で培養した。500万の細胞を、25μgのAatIIで線形化した軽鎖ベクター、27μgのSca−Iで線形化した重鎖ベクターを、Optimix培地(Equibio,ref.EKITE 1)中に懸濁し、エレクトロポレーション(Biorad electroporator, model 1652077)によりトランスフェクションした。エレクトロポレーション条件を、0.5mlのキュベットあたり230V及び960μFとした。各エレクトロポレーションキュベットを更に、5000細胞/ウェルの密度で5枚の96穴プレートに播いた。
【0101】
トランスフェクションの3日後に、5%の透析済血清(Invitrogen,ref.10603−017)、ジネティシンG418(Invitrogen,ref.10131−027)及び25nMのメトトレキサート(Sigma,ref.M8407)500μg/ml)を含むRPMI選択培地(Invitrogen,ref21875−034)へ添加した。
【0102】
トランスフェクション耐性細胞を含むウェルの上澄を用い、ヒトIg配列に特異的なELISAアッセイを行い、キメラ免疫グロブリン(Ig)の存在をスクリーニングした。
【0103】
最も多くの抗体を生産している10の形質転換株に関して、24−ウェルプレートで増殖させ、それらの上澄を用いて再度ELISAアッセイして抗体の産生性を推定し、最良の3ウェルを選抜し、限界希釈法(40細胞/プレート)によりクローニングした。
【0104】
クローニング終了後、クローンR565(以下「R565」)を、キメラ抗体EMAB565の産生に関して選抜し、徐々にCDハイブリドーマ作製用培地(Invitrogen,ref.11279−023)に順応させた。
【0105】
キメラ抗体EMAB565の産生はCDハイブリドーマ作製用培地へ培養細胞を分散させることにより行った。詳細には、ローラータイプフラスコ中に4.5×l0細胞/mlに希釈し、更に75cm及び175cmフラスコ中に3×l0細胞/mlに希釈することにより、抗体を得た。最大容量(1l)に達した後、細胞生存度が20%に達するまで培養を継続した。抗体産生の後、キメラ抗体EMAB565を、プロテインA親和性クロマトグラフィ(<95%、HPLC推定純度)で精製し、ポリアクリルアミドゲル電気泳動で確認した。
【0106】
得られる抗体組成物(EMAB565)のグリカン分析をHPCE−LIFによって実施した。その結果、約7%のフコース含有、約52%のガラクトース含有、及び0.133のfuc/Gal比率を示した。
【0107】
<実施例3:ヒトNK細胞の存在下、抗体EMAB565により誘発されるB02C11の溶解>
ADCC法
NK細胞は、Myltenyiの磁気活性化細胞分離法(MACS)を使用して、PBMCs(末梢血液単核細胞)から単離した。NK細胞を洗浄し、IMDM(Iscoveの修飾ダルベッコ培地)+5% FCS(45×l0細胞/ml)中に再懸濁した。エフェクター細胞及び標的細胞を、15/1の比率で用いた。BO2C11標的細胞を、IMDM+5% FCS中で、3×l0細胞/mlの濃度に調製した。抗体を、IMDM+0.5% FCS中で、最終濃度500、50、5、0.5、0.005及び0.005ng/mlとなるように希釈した。
【0108】
96穴マイクロタイタープレート中に、抗体50μl、エフェクター細胞50μl、標的細胞50μl、IMDM培地50μlを含む反応混合液を調製した。以下の2つの陰性コントロールを準備した:
−NK不含有溶解液:NKエフェクター細胞を、IMDM+5% FCSで置換。
−抗体lAc不含有溶解液:抗体を、IMDM+5% FCSで置換。
【0109】
5%のCOを含む空気下、37℃で16時間インキュベートした後、プレートを遠心分離し、上澄みにリリースされる細胞内LDH濃度をプローブとし、特異的試薬(細胞毒性検出キット1644793)でアッセイした。
【0110】
トリトンX100(2%)を用いて、異なる希釈率の標的細胞をそれぞれ100、50、25及び0%で溶解させ、それらの溶解度に対応する較正曲線上の範囲を用いて、溶解%を算出した。
【0111】
以下の式に従い、結果を算出した:
溶解%=(抗体及びNKを有する溶解%)−(抗体のない溶解%)−(NKのない溶解%)。
【0112】
マウス14C12の抗イディオタイプ抗体、及びキメラのEMABling 14C12 FVIII阻害物質に関して、NK細胞の存在下、BO2C11細胞の溶解能を解析した。
【0113】
図1は、マウス抗体14C12がBO2C11細胞の溶解を誘発しない一方で、キメラ抗体(EMABling Technology)が投与量依存的に溶解を誘発することを示す。
【0114】
<実施例4:BO2C11及び抗体EMAB565の存在下における、Jurkat CD16からのIL−2分泌>
この試験は、当該抗体の、Jurkat CD16細胞に発現されるCD16受容体(FcγRIIIa)との結合能、及びIL2の分泌誘発能を解析するものである。
【0115】
96穴プレート中に、以下の物質を添加して混合した:
50μlの抗体溶液(最終濃度25、2.5、0.25、0.025、0.012μg/ml/IMDM+5% FCS)、
50μlのPMA(5%のFCSを有するIMDMの40ng/mlに対する希釈)、
50μlのBO2C11細胞(6×10/ml)(IMDM+5% FCS)、
及び50μlのJurkat CD16細胞(20×10/ml)(IMDM+5% FCS)。
【0116】
37℃で一晩インキュベーションの後、プレートを遠心分離し、上澄みに含まれるIL2を、市販のキット(R&D Quantikine)でアッセイした。ODを450nmで測定した。
【0117】
IL−2濃度の測定結果を、抗体濃度の関数として表した。
【0118】
FVIII阻害物質EMAB565の抗イディオタイプ抗体を用い、BO2C11細胞の存在下で、CD16でトランスフェクションしたJurkat細胞からのIL2の分泌誘発能を解析した。
【0119】
図2は、抗体EMAB565がIL−2の分泌を誘発することを示す。
【0120】
<実施例5:抗体EMAB565により誘発されるBO2C11のBCRsのキャッピング>
BO2C11細胞(1.2×10細胞/ml)を、5%のFCS(pH7.4)を含有するIMDMで洗浄し、保存した。細胞を、10μg/mlの濃度で事前に標識した抗体EMAB565(ALEXA)で、4℃及び37℃で1時間、4時間及び16時間インキュベートした。抗体による受容体のキャッピングを、LEICA蛍光顕微鏡(×63オイル浸漬レンズ)で観察した。
【0121】
インキュベーション時間を変化させた試験した結果、キャッピングが早期(30分後)に行われ、時間経過とともに強まることが示された。例えば、図4では、16時間、BO2C11と結合する抗体が極部に塊を形成し、膜の表面に均一に分布しないことが示された。これは、BO2C11に対する抗体14C12 CHの結合が、膜受容体の再編成及び潜在的な形質導入シグナルを誘導することを示す。
【0122】
<実施例6:抗体EMAB565により誘発されるBO2C11アポトーシス>
BO2C11細胞(2.5×10)を、37℃で24時間、24−ウェルプレート中で、1mlのRMPI培地(+10% FCS)中で、クロスリンカー(10μg/mlのヤギF(ab2)’抗ヒトIgG Fcγ)の有無において、抗体EMAB565(1μg/ml)とインキュベートした。細胞を更に遠心分離し、PBSで2回洗浄し、キットに含まれるバッファ中に再懸濁し、BD Biosciences社の説明に従い、Annexin V−FITC及びヨウ化プロピジウム(PI)とインキュベートした。フローサイトメトリを用い、アポトーシス細胞の%を、全細胞に対するアネキシンV(アネキシンV及びアネキシンV+PI)標識付き細胞に関して解析した。
【0123】
図4は、抗体EMAB565(EMABling Technology)の存在下において、アポトーシス誘導が、クロスリンカー非存在下では3%未満、クロスリンカー存在下ではわずか6.5%であることを示す(図4)。
【0124】
<実施例7:補体の存在下、抗体EMAB565により誘発されるB02C11の溶解>
BO2C11細胞を洗浄し、IMDM培地+5%FCSで1:10に希釈した補体(Cedarlane製、若いウサギの補体)の存在下で、抗体EMAB565(0〜2.5μg/mlの最終濃度)の濃度範囲で、37℃で1時間インキュベートした。更に細胞を2回遠心分離(1分間、1200回転/分(270g))し、上澄を除去した。細胞溶解に対応する、上澄中に放出された細胞内LDHの量を、特異的な試薬(細胞毒性検出キット1644793)で測定した。
【0125】
トリトンX100(2%)を用いて、異なる希釈率の標的細胞をそれぞれ100、50、25及び0%で溶解させ、それらの溶解度に対応する較正曲線上の範囲を用いて、溶解%を算出した。コントロールは自然発生的な放出(標的細胞だけ)を含む。
【0126】
以下の式に従って結果を算出した:
溶解%=(抗体及び補体を有する溶解%)−(補体のない溶解%)。
【0127】
図5は、抗体EMAB565(EMABling Technology)により誘導されるCDC(補体依存性細胞毒性)活性は、最も高い抗体濃度を使用した場合の5%が最大であることを示す。
【図面の簡単な説明】
【0128】
【図1】ヒトNK細胞の存在下で、抗体EMAB565(図中14C12 CHと示す)により誘発されるBO2C11の溶解。
【図2】BO2C11及び抗体EMAB565(図中14C12 CHと示す)の存在下で、Jurkat CD16によるIL2の分泌。
【図3】抗体EMAB565(図中14C12 CHと示す)により誘発されるBO2C11のBCRsのキャッピング。
【図4】抗体EMAB565(図中14C12 CHと示す)により誘発されるBO2C11のアポトーシス。
【図5】補体の存在下で、抗体EMAB565(図中14C12 CHと示す)により誘発されるBO2C11の溶解。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ヒト第8因子(FVIII)の阻害抗体と反応する抗イディオタイプモノクローナル抗体であって、前記阻害抗体はFVIIIのC2領域を認識し、当該抗体の各軽鎖可変領域が配列番号1のマウスの核酸配列と少なくとも70%の同一性を有する核酸配列によってコードされ、当該抗体の各重鎖可変領域が配列番号2のマウスの核酸配列と少なくとも70%の同一性を有する核酸配列によってコードされ、当該抗体の軽鎖定常領域及び重鎖定常領域が非マウス種由来の定常領域である、抗イディオタイプモノクローナル抗体。
【請求項2】
前記各軽鎖可変領域が配列番号1のマウス核酸配列によってコードされ、前記各重鎖可変領域が配列番号2のマウス核酸配列によってコードされ、前記軽鎖定常領域及び前記重鎖定常領域が非マウス種由来の定常領域である、請求項1記載の抗イディオタイプモノクローナル抗体。
【請求項3】
抗体組成物の形で細胞において産生され、Fc領域のグリコシル化部位に存在するグリカン構造中のフコース濃度/ガラクトース濃度の比率が0.6以下である、請求項1又は2のいずれか1項記載の抗イディオタイプモノクローナル抗体。
【請求項4】
前記FVIII阻害抗体が抗体BO2C11である、請求項1から3のいずれか1項記載の抗イディオタイプモノクローナル抗体。
【請求項5】
前記各軽鎖定常領域及び前記各重鎖定常領域がヒト定常領域である、請求項1から4のいずれか1項記載の抗イディオタイプモノクローナル抗体。
【請求項6】
前記各軽鎖定常領域がタイプκである、請求項1から5のいずれか1項記載の抗イディオタイプモノクローナル抗体。
【請求項7】
前記各重鎖定常領域がタイプγである、請求項1から6のいずれか1項記載の抗イディオタイプモノクローナル抗体。
【請求項8】
前記各重鎖定常領域がタイプγ1である、請求項7記載の抗イディオタイプモノクローナル抗体。
【請求項9】
前記各重鎖定常領域がタイプγ1であって、配列番号3のヒト核酸配列と少なくとも70%の同一性を有する配列によってコードされ、前記各軽鎖定常領域が、配列番号4のヒト核酸配列と少なくとも70%の同一性を有する配列によってコードされる、請求項1から8のいずれか1項記載の抗イディオタイプモノクローナル抗体。
【請求項10】
前記各重鎖定常領域がタイプγ1であって、配列番号3のヒト核酸配列によってコードされ、前記各軽鎖定常領域が配列番号4のヒト核酸配列によってコードされる、請求項1から9のいずれか1項記載の抗イディオタイプモノクローナル抗体。
【請求項11】
各軽鎖が配列番号5のマウス−ヒトキメラ核酸配列と少なくとも70%の同一性を有する核酸配列によってコードされ、各重鎖が配列番号6のマウス−ヒトキメラ核酸配列と少なくとも70%の同一性を有する配列によってコードされる、請求項1から10のいずれか1項記載の抗イディオタイプモノクローナル抗体。
【請求項12】
各軽鎖が配列番号5のマウス−ヒトキメラ核酸配列によってコードされ、各重鎖が配列番号6のマウス−ヒトキメラ核酸配列によってコードされる、請求項1から11のいずれか1項記載の抗イディオタイプモノクローナル抗体。
【請求項13】
各軽鎖が配列番号7の配列を有する少なくとも70%の同一性を有するペプチド配列を有し、各重鎖が配列番号8の配列を有する少なくとも70%の同一性を有するペプチド配列を有する、請求項1から12のいずれか1項記載の抗イディオタイプモノクローナル抗体。
【請求項14】
各軽鎖のペプチド配列が配列番号7のペプチド配列であり、各重鎖のペプチド配列が配列番号8のペプチド配列である、請求項1から13のいずれか1項記載の抗イディオタイプモノクローナル抗体。
【請求項15】
ラットハイブリドーマ細胞系によって産生される、請求項1から14のいずれか1項記載の抗イディオタイプモノクローナル抗体。
【請求項16】
ラットハイブリドーマYB2/0(細胞YB2/3HL.P2.G11.16Ag.20、ATCC寄託番号:ATCC CRL−1662)によって産生される、請求項15記載の抗イディオタイプモノクローナル抗体。
【請求項17】
クローンR565(Collection Nationale de Cultures de Microorganismesの寄託番号I−3510)によって産生される、請求項1から16のいずれか1項記載の抗イディオタイプモノクローナル抗体。
【請求項18】
クローンR565(Collection Nationale de Cultures de Microorganismesの寄託番号I−3510)によって産生される抗体EMAB565である、請求項1から17のいずれか1項記載の抗イディオタイプモノクローナル抗体。
【請求項19】
請求項1から14のいずれか1項記載の抗体を発現する安定細胞株。
【請求項20】
SP2/0、YB2/0、IR983F、ヒト骨髄腫Namalwa、PER.C6、CHO株(特にCHO−K−1、CHO−Lec10、CHO−Lec1、CHO−Lec13、CHO Pro−5、CHO dhfr−)、Wil−2、Jurkat、Vero、MoIt−4、COS−7、293−HEK、BHK、K6H6、NSO、SP2/0−Ag 14及びP3X63Ag8.653からなる群から選択される、請求項19記載の安定な細胞株。
【請求項21】
クローンR565(Collection Nationale de Cultures de Microorganismesの寄託番号I−3510)。
【請求項22】
請求項1から18のいずれか1項記載の抗体重鎖をコードする、配列番号6の配列を有するDNA断片。
【請求項23】
請求項1から18のいずれか1項記載の抗体重鎖をコードする、配列番号5の配列を有するDNA断片。
【請求項24】
前記抗イディオタイプ抗体のFc領域を介する、in vitroにおける、細胞障害性免疫細胞の補充のための、ヒトFVIIIの阻害抗体と反応する抗イディオタイプモノクローナル抗体の使用。
【請求項25】
前記抗体が請求項1から18のいずれか1項記載の抗体である、請求項24記載の使用。
【請求項26】
FVIII阻害抗体を細胞表面に発現するB細胞(特に記憶B細胞)のin vitroにおける破壊のための、請求項24又は25記載の抗イディオタイプモノクローナル抗体の使用。
【請求項27】
抗体BO2C11の軽鎖可変領域(VL)及び重鎖可変領域(VH)を有するBCRを細胞表面で発現する記憶B細胞のin vitroにおける破壊のための、請求項24から26のいずれか1項記載の抗体の使用。
【請求項28】
前記破壊のメカニズムが抗体依存性の細胞溶解メカニズム(ADCC)である、請求項24から27のいずれか1項記載の使用。
【請求項29】
薬剤を製造するための、請求項1から18のいずれか1項記載の抗体の使用。
【請求項30】
血友病Aの治療用薬剤の製造への、請求項1から18のいずれか1項記載の抗体の使用。
【請求項31】
前記血友病Aが、阻害物質の存在を伴う血友病Aである、請求項30記載の抗体の使用。
【請求項32】
請求項1から18のいずれか1項記載の抗イディオタイプモノクローナル抗体、及び1つ以上の薬学的に許容できる賦形剤及び/又は担体を含有する医薬品組成物。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公表番号】特表2009−514516(P2009−514516A)
【公表日】平成21年4月9日(2009.4.9)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−538382(P2008−538382)
【出願日】平成18年11月2日(2006.11.2)
【国際出願番号】PCT/FR2006/002452
【国際公開番号】WO2007/051926
【国際公開日】平成19年5月10日(2007.5.10)
【出願人】(508177460)エルエフビー バイオテクノロジーズ (3)
【Fターム(参考)】