説明

筆記具用インク組成物及び筆記具

【課題】脱気泡剤としてアスコルビン酸類を添加した水性インク組成物において、顔料の分散についても経時安定性を付与する。
【解決手段】顔料、アスコルビン酸類及びHLBが17以上のノニオン系界面活性剤を含有する。前記ノニオン系界面活性剤はエチレンオキサイド付加物である。前記ノニオン系界面活性剤はその分子骨格中にベンゼン環を有する。前記ベンゼン環は2個以上である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、筆記具用のインクとして用いられる組成物及びこれを備えた筆記具に関する。
【背景技術】
【0002】
ボールペンのような筆記具に用いられるインク、特にいわゆる水性ゲルボールペンに用いられるインクにおいては、使用中に気泡が生ずることがある。一旦気泡が生ずると、外部環境の変化や時間の経過とともに徐々に大きくなり、インクの流通を妨げ、果てはインク収容管の後端からインクやインク追従体が漏出することもある。
これを防ぐべく、気泡中の酸素を吸収するための脱気泡剤をインクに添加することがある。たとえば、下記特許文献1記載の技術のように、水性インク組成物にアスコルビン酸を添加する場合もある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開平3−275778号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
上記従来技術のように、アスコルビン酸を添加した水性インク組成物は、脱気泡作用が得られる。しかし、これを添加した場合には、アスコルビン酸自体の反応性が高いため、顔料の分散に悪影響を与えやすい。すなわち、インク組成物中で均等に分散しているべき顔料が凝集したり、沈降したりすることになる。
上記の問題点に鑑み、本発明は、脱気泡剤としてアスコルビン酸類を添加した水性インク組成物において、顔料の分散についても経時安定性を付与することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
上記の課題を解決するために、本発明に係る筆記具用インク組成物は、顔料、アスコルビン酸類及びHLBが17以上のノニオン系界面活性剤を含有することを特徴とする。
すなわち、HLBが17以上の、比較的親水性の高いノニオン系界面活性剤を添加することで、アスコルビン酸類を添加することによる顔料分散に対する悪影響が解消されることとなっている。HLBが18以上であると、顔料分散性がさらに安定化するので好ましい。なお、HLBが17を下回るノニオン系界面活性剤では、インク組成物の顔料分散に関する経時安定性は良好ではない。
本願発明におけるHLBは、下記グリフィンの式により求められる値である。
HLB=(親水基部分の分子量/界面活性剤の分子量)×20
【0006】
上記のようなノニオン系界面活性剤としては、エチレンオキサイド付加物であることが望ましい。すなわち、界面活性剤の親水基として、
−(CHCH0)−H
が付加されていることが望ましい。ここで、上記化学式の括弧内に示すエチレンオキサイド分子が多数付加されることによって、界面活性剤の親水性が増し、上記のようなHLB値とすることができる。HLBは疎水基と親水基のバランスにより規定されるので一概には言えないが、概ねこのエチレンオキサイド分子のモル数(すなわち上記化学式中の「n」の値)は30以上が望ましい。たとえば、エチレンオキサイド50モル以上の多環フェニル系ポリオキシエチレン、エチレンオキサイド200モル以上のポリオキシエチレンモノステアレートが挙げられる。
【0007】
また、上記のようなノニオン系界面活性剤として具体的には、ポリオキシエチレンフェニルエーテル、ポリオキシエチレンアルキルエーテル、ポリオキシエチレンアルキルエステル、ポリオキシエチレングリセリン脂肪酸エステル、ポリオキシエチレンソルビタン脂肪酸エステル、ポリオキシエチレンソルビット脂肪酸エステル、ポリオキシエチレンステロール、ポリオキシエチレン水素添加ステロール、ポリオキシエチレン硬化ヒマシ油等を挙げることができる。これらのなかでも、その分子骨格中にベンゼン環を有することが望ましい。また、このベンゼン環は2個以上であることがさらに望ましい。このような分子構造を持つノニオン系界面活性剤は、特に顔料の分散安定化に寄与する。このようなものとしては、多環フェニル系界面活性剤があり、とりわけ、上述のような、エチレンオキサイドが50モル以上付加されたポリオキシエチレン多環フェニル類が望ましい。
【0008】
さらに、このような多環フェニル系界面活性剤としては、下記の化学式(1)に示すような、ベンゼン環がジスチレン化されたポリオキシエチレンフェニルエーテルを使用することができる。
【0009】
【化1】

【0010】
なお、上記化学式中のnは50以上が望ましい。
一方、上記のようなノニオン系界面活性剤としては、その分子骨格中にステロール環を有するものであってもよい。このような界面活性剤のうち、エチレンオキサイド付加物がなお望ましい。具体的には、エチレンオキサイドが30モル以上付加されたポリオキシエチレンフィトステロール類が挙げられる。このような分子構造を持つノニオン系界面活性剤もまた、顔料の分散安定化に寄与する。
【0011】
本発明に用いられるアスコルビン酸類としては、アスコルビン酸、及びその塩、たとえばアスコルビン酸ナトリウム、アスコルビン酸誘導体、たとえば、リン酸アスコルビン酸ナトリウム、リン酸アスコルビン酸マグネシウム、アスコルビン酸グルコシド、アスコルビン酸−2リン酸−6パルミチン酸などが挙げられる。また、アスコルビン酸の立体異性体であるエリソルビン酸やその塩も含まれる。この中でも価格や効果の点から、アスコルビン酸が好ましい。
【0012】
本発明に用いられる顔料については、特に限定されず、従来水性インキ組成物に慣用されている無機及び有機系顔料、酸化チタン、樹脂エマルションを染料で着色した疑似顔料等を用いることができる。無機系顔料としては、たとえば、カーボンブラック、金属粉などが挙げられる。有機系顔料としては、たとえば、アゾレーキ、不溶性アゾ顔料、キレートアゾ顔料、フタロシアニン顔料、ペリレン及びペリノン顔料、アントラキノン顔料、キナクリドン顔料、染料レーキ、ニトロ顔料、ニトロソ顔料などが挙げられる。
より具体的には、カーボンブラック、チタンブラック、亜鉛華、べんがら、酸化クロム、雲母チタン、鉄黒、コバルトブルー、酸化鉄黄、ピリジアン、硫化亜鉛、リトポン、カドミウムエロー、朱、カドミウムレッド、黄鉛、モリブデードオレンジ、ジンククロメート、ストロンチウムクロメート、ホワイトカーボン、クレー、タルク、群青、沈降性硫酸バリウム、バライト粉、炭酸カルシウム、鉛白、紺青、マンガンバイオレット、アルミニウム粉、真鍮粉等の無機顔料、C.I.ピグメントブルー1、C.I.ピグメントブルー15、C.I.ピグメントブルー17、C.I.ピグメントブルー27、C.I.ピグメントレッド5、C.I.ピグメントレッド22、C.I.ピグメントレッド38、C.I.ピグメントレッド48、C.I.ピグメントレッド49、C.I.ピグメントレッド53、C.I.ピグメントレッド57、C.I.ピグメントレッド81、C.I.ピグメントレッド104、C.I.ピグメントレッド146、C.I.ピグメントレッド245、C.I.ピグメントイエロー1、C.I.ピグメントイエロー3、C.I.ピグメントイエロー12、C.I.ピグメントイエロー13、C.I.ピグメントイエロー14、C.I.ピグメントイエロー17、C.I.ピグメントイエロー34、C.I.ピグメントイエロー55、C.I.ピグメントイエロー74、C.I.ピグメントイエロー83、C.I.ピグメントイエロー95、C.I.ピグメントイエロー166、C.I.ピグメントイエロー167、C.I.ピグメントオレンジ5、C.I.ピグメントオレンジ13、C.I.ピグメントオレンジ16、C.I.ピグメントバイオレット1、C.I.ピグメントバイオレット3、C.I.ピグメントバイオレット19、C.I.ピグメントバイオレット23、C.I.ピグメントバイオレット50、C.I.ピグメントグリーン7等が例示される。また、樹脂エマルションを染料で着色した疑似顔料としては、たとえば、アクリロニトリル、スチレン、メタクリル酸メチル等の共重合体からなる樹脂を染料で着色したものなどが挙げられる。
【0013】
また、上記顔料に加えて、水溶性染料を添加することとしてもよい。水溶性染料としては、直接染料、酸性染料、食用染料、塩基性染料のいずれも用いることができる。より具体的には、直接染料としては、たとえば、C.I.ダイレクトブラック17、同19、同22、同32、同38、同51、同71、C.I.ダイレクトエロー4、同26、同44、同50、C.I.ダイレクトレッド1、同4、同23、同31、同37、同39、同75、同80、同81、同83、同225、同226、同227、C.I.ダイレクトブルー1、同15、同71、同86、同106、同119などが挙げられる。酸性染料としては、たとえば、C.I.アシッドブラック1、同2、同24、同26、同31、同52、同107、同109、同110、同119、同154、C.I.アシッドエロー7、同17、同19、同23、同25、同29、同38、同42、同49、同61、同72、同78、同110、同141、同127、同135、同142、C.I.アシッドレッド8、同9、同14、同18、同26、同27、同35、同37、同51、同52、同57、同82、同87、同92、同94、同115、同129、同131、同138、同186、同249、同254、同265、同276、C.I.アシッドバイオレット15、同17、C.I.アシッドブルー1、同7、同9、同15、同22、同23、同25、同40、同41、同43、同62、同78、同83、同90、同93、同103、同112、同113、同158、C.I.アシッドグリーン3、同9、同16、同25、同27などが挙げられる。食用染料としては、その大部分が直接染料又は酸性染料に含まれるが、これらの範疇に含まれないものの一例としては、C.I.フードエロー3等が挙げられる。塩基性染料としては、たとえば、C.I.ベーシックエロー1、同2、同21、C.I.ベーシックオレンジ2、同14、同32、C.I.ベーシックレッド1、同2、同9、同14、C.I.ベーシックバイオレット1、同3、同7、C.I.ベーシックグリーン4、C.I.ベーシックブラウン12、C.I.ベーシックブラック2、同8などが挙げられる。これらの着色剤は、それぞれ単独で用いても良いし、また、2種類以上を組み合わせて用いることができる。これらの着色剤の含有量は、インキ組成物全量に対して0.5〜40重量%程度が好ましく、1〜30重量%であることが望ましい。
【0014】
また、本発明においては、顔料、アルコルビン酸類及びHLBが17以上のノニオン系界面活性剤以外にも、インクの製造上必要とされる成分は当然に含有されるものであり、その種類についてはインクの性質に応じて適宜選択されるものである。
たとえば、顔料の沈降が著しい場合には、沈降防止の点から、粘度調整剤を含有せしめることが望ましい。用いる粘度調整剤としては、合成高分子、天然ガム類、セルロース類及び多糖類から選択される少なくとも一種が例示される。合成高分子としては、たとえば、ポリアクリル酸やその架橋型共重合体、ポリビニルアルコール、ポリビニルピロリドン及びその誘導体、ポリビニルメチルエーテル及びその誘導体などが挙げられ、天然ガム類、多糖類としては、たとえば、トラガカントガム、グァーガム、ローカストビーンガム、キサンタンガムなど、セルロース類としては、メチルセルロース、エチルセルロース、ヒドロキシエチルセルロース、カルボキシメチルセルロースなどが挙げられる。粘度調整剤としては、東亞合成(株)製“ジュンロンPW−110”、和光純薬(株)製“ハイビスワコー104”、三晶(株)製“KELZAN”“KELZAN AR”“K1A96”、DSP五協フード&ケミカル(株)製“エコーガムGM”などの市販品を好適に使用できる。これらの粘度調整剤の含有量は、インキ組成物全量に対して、0.1〜1.5重量%程度であることが好ましい。粘度調整剤の種類によっても含有量は異なり、合成高分子系では、0.1〜1.5重量%程度が好ましく、天然多糖類系では、0.1〜0.8重量%程度が好ましい。これらの粘度調整剤の含有量が0.1重量%未満であると、粘度調整剤を含有せしめる更なる効果を発揮することができない場合があり、また、1.5重量%を越えると、インキの流動性が低下し、インキの追従性不良による筆記不良が発生しやすくなる傾向がある。
【0015】
本発明のインキ組成物には、本発明の効果を損なわない範囲内で、さらに通常筆記具用インキ組成物に用いられる他の任意成分を必要に応じて含有せしめることができる。本発明で使用可能な他の任意成分としては、たとえば、エチレングリコール、プロピレングリコール、グリセリンなどの水溶性多価アルコール類、エチレングリコールモノメチルエーテル(メチルセルソルブ)、エチレングリコールモノエチルエーテル(エチルセルソルブ)などのセルソルブ類、ジエチレングリコールモノメチルエーテル(メチルカルビトール)、ジエチレングリコールモノエチルエーテル(エチルカルビトール)などのカルビトール類、エチレングリコールモノエチルエーテルアセテートのようなグリコールエーテルエステル類などの水性媒体;アンモニア、尿素、モノエタノールアミン、ジエタノールアミン、トリエタノールアミン、トリポリ燐酸ナトリウム、炭酸ナトリウムなど炭酸や燐酸のアルカリ金属塩、水酸化ナトリウムなどのアルカリ金属の水酸化物等のpH調整剤;フェノール、ナトリウムオマジン、ペンタクロロフェノールナトリウム、1,2−ベンズイソチアゾリン−3−オン、2,3,5,6−テトラクロロ−4−(メチルスルフォニル)ピリジン、安息香酸ナトリウムなどの安息香酸やソルビン酸、デヒドロ酢酸のアルカリ金属塩、ベンズイミダゾール系化合物等の防腐若しくは防黴剤;ベンゾトリアゾール、ジシクロヘキシルアンモニウムナイトライト、ジイソプロピルアンモニウムナイトライト、トリルトリアゾール等の防錆剤;リン酸エステル等の潤滑剤、アセチレングリコール等の消泡剤などを適宜選択して使用することができる。また、本発明に用いる水としては、精製水、イオン交換水などが挙げられ、その含有量は、上記各成分の合計含有量に対する残りの量(残部)となる。
【0016】
上記のような成分を含有する筆記具用インク組成物は、筆記具のリフィルに充填したり、又は軸筒に直接充填したりして筆記具に備えられることが可能である。
【発明の効果】
【0017】
本発明は上述のように構成されているので、筆記具用インク組成物において脱気泡剤としてアスコルビン酸類を添加した場合であっても、アスコルビン酸類によるインク顔料の分散への悪影響を排除し、インク組成物の経時安定性を確保することが可能となっている。
【実施例】
【0018】
(1)粘度及び平均粒子径の測定条件
後述の各実施例及び比較例のインク組成物を調製した直後、下記に示す方法により粘度と平均粒子径の測定を行った。また、該インク組成物を20mlのスクリューキャップつきガラス瓶に入れ、70℃の環境下で2週間保管したのち、同様に粘度と平均粒子径の測定を行った。
粘度の測定は以下の条件により実施した。
測定装置:E型回転粘度計(VISCOMETER TV−22、東機産業株式会社製)。
測定条件:コーン1°34′×R24。
剪断速度:38.3/sec。
測定時間:60秒。
測定温度:25℃。
平均粒子径の測定は以下の条件により実施した。
測定装置:動的光散乱法粒度分布測定装置(N4 Plus、Beckman Coulter, Inc.製)。
測定条件:90°散乱光測定。
測定温度:25℃。
【0019】
(2)実施例
本発明の各実施例に係るインクの組成は、下記表1のとおりとした。
【0020】
【表1】

【0021】
上記のとおり、実施例1〜6では脱気泡剤としてアスコルビン酸が添加されている。また、実施例7では脱気泡剤としてアスコルビン酸ナトリウムが添加されている。
各実施例で使用されている界面活性剤については以下のとおりである。
【0022】
(2−1)実施例1
ポリオキシエチレンジスチレン化フェニルエーテルを使用した。疎水基にはベンゼン環を2個以上有する。親水基のエチレンオキサイドは50モル以上で、HLBは18.0であった。
(2−2)実施例2
ポリオキシエチレン多環フェニルを使用した。疎水基にはベンゼン環を2個以上有する。親水基のエチレンオキサイドは50モル以上で、HLBは17.5であった。
(2−3)実施例3
ポリオキシエチレンフィトステロールを使用した。疎水基にはステロール環を有する。親水基のエチレンオキサイドは30モル以上で、HLBは18.0であった。
【0023】
(2−4)実施例4
ポリオキシエチレンモノステアレートを使用した。疎水基は直鎖構造である。親水基のエチレンオキサイドは200モル以上で、HLBは19.1であった。
(2−5)実施例5
ポリオキシエチレンノニルフェニルエーテルを使用した。疎水基にはベンゼン環を1個有する。親水基のエチレンオキサイドは40モル以上で、HLBは18.0であった。
(2−6)実施例6
ポリオキシエチレンミリスチルエーテルを使用した。疎水基は直鎖構造である。親水基のエチレンオキサイドは70モル以上で、HLBは18.9であった。
(2−7)実施例7
実施例1と同様である。
【0024】
(3)比較例
各比較例に係るインクの組成は、下記表2のとおりとした。
【0025】
【表2】

【0026】
上記のとおり、比較例1〜7では脱気泡剤としてアスコルビン酸が添加されている。
各比較例で使用されている界面活性剤については以下のとおりである。
【0027】
(3−1)比較例1
界面活性剤は使用していない。
(3−2)比較例2
ポリオキシエチレン多環フェニルを使用した。疎水基にはベンゼン環を2個以上有する。親水基のエチレンオキサイドは20モル未満で、HLBは14.3であった。
(3−3)比較例3
ポリオキシエチレンロジンエステルを使用した。疎水基には下記化学式(2)に示すアビエチン酸様の三環式の縮合環を有する。親水基のエチレンオキサイドは30モルで、HLBは16.1であった。
【0028】
【化2】

【0029】
(3−4)比較例4
ポリオキシエチレンソルビタンモノラウレートを使用した。疎水基は直鎖構造である。親水基のエチレンオキサイドは20モル未満で、HLBは16.7であった。
(3−5)比較例5
ポリオキシエチレンステアリルアミンを使用した。疎水基は直鎖構造である。親水基のエチレンオキサイドは20モル未満で、HLBは15.4であった。
(3−6)比較例6
ポリオキシエチレン硬化ヒマシ油を使用した。疎水基は直鎖構造である。親水基のエチレンオキサイドは60モルで、HLBは14.0であった。
(3−7)比較例7
ショ糖ステアリン酸エステルを使用した。疎水基は直鎖構造である。親水基はエチレンオキサイドは含有せず、HLBは16.0であった。
【0030】
(4)測定結果
上記の各インクを用いた上述の粘度測定及び平均粒子径測定の結果を下記表3に示す。
【0031】
【表3】

【0032】
まず、脱気泡剤としてアスコルビン酸を添加しつつ、界面活性剤は添加していない比較例1においては、70℃で2週間経過後の粘度自体には調整直後のそれとは大差はなかったものの平均粒子径は調整直後に対し88.6%の増加率を見た。この比較例1に対し、比較例2〜7の、HLB17未満の界面活性剤を添加したところ、平均粒子径の増加率はいずれも調整直後に対し300%を超えた。さらに、粘度も比較例2では調整直後の7.7培に増加し、比較例3〜7では完全にゲル化したため粘度測定が不可能であった。
一方、HLB17以上の界面活性剤を添加した各実施例では、70℃で2週間経過後の粘度は調整直後のそれと大差なく、平均粒子径の増加率も調整直後に対しせいぜい20%台と、比較例1に対して格段の改善を見た。
【0033】
以上より、脱気泡剤としてアスコルビン酸を添加する場合、HLB17未満の界面活性剤を添加した場合、粘度の上昇及び平均粒子径の増加の観点からはかえって悪影響を及ぼすが、HLB17以上の界面活性剤を添加するとこれらは劇的に改善することが判明した。このことは、同じポリオキシエチレン多環フェニルでありながら、エチレンオキサイドモル数が20未満であることによりHLBが14.4と低い比較例2に対し、エチレンオキサイドモル数を50以上にしたことでHLBが17.5と高くなった実施例2の結果を比較すれば明らかである。
また、脱気泡剤としてアスコルビン酸を添加した実施例1〜実施例6のうち、疎水基にベンゼン環やステロール環といった環構造を有している実施例1、2、3及び5の平均粒子径の増加率はそれぞれ10.0%、15.7%、15.0%及び17.6%と、いずれも疎水基が直鎖構造である実施例4及び6の増加率(22.6%及び18.1%)を下回っている。このことから、HLBが17以上の界面活性剤においては、疎水基に環構造を有することがアスコルビン酸による経時劣化を防ぐのにさらに寄与しているものと考えられる。
【0034】
なお、実施例1と同じくHLB18.0で疎水基のベンゼン環が3個である実施例7では平均粒子径の増加率は実施例1よりやや上昇している。これは、実施例1でアスコルビン酸が脱気泡剤として添加されているのに対し、実施例7ではアスコルビン酸ナトリウムが添加されていることに起因するものと考えられる。よって、脱気泡剤としてはアスコルビン酸ナトリウムよりはアスコルビン酸の方が適しているものと思われる。
【産業上の利用可能性】
【0035】
本発明は、筆記具、特にボールペンに用いられるインク、特に水性ゲルインクの製造に利用可能である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
顔料、アスコルビン酸類及びHLBが17以上のノニオン系界面活性剤を含有することを特徴とする筆記具用インク組成物。
【請求項2】
前記ノニオン系界面活性剤はエチレンオキサイド付加物であることを特徴とする請求項1記載の筆記具用インク組成物。
【請求項3】
前記ノニオン系界面活性剤はその分子骨格中にベンゼン環を有することを特徴とする請求項1又は2記載の筆記具用インク組成物。
【請求項4】
前記ベンゼン環は2個以上であることを特徴とする請求項3記載の筆記具用インク組成物。
【請求項5】
前記ノニオン系界面活性剤は下記化学式(1)で表されることを特徴とする請求項4記載の筆記具用インク組成物。
【化1】

【請求項6】
前記ノニオン系界面活性剤はその分子骨格中にステロール環を有することを特徴とする請求項1又は2記載の筆記具用インク組成物。
【請求項7】
請求項1から6までのいずれかに記載の筆記具用インク組成物を備えたことを特徴とする筆記具。

【公開番号】特開2012−52011(P2012−52011A)
【公開日】平成24年3月15日(2012.3.15)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−195291(P2010−195291)
【出願日】平成22年9月1日(2010.9.1)
【出願人】(000005957)三菱鉛筆株式会社 (692)
【Fターム(参考)】