説明

等温容量過渡分光法

【発明の詳細な説明】
【0001】
【産業上の利用分野】本発明は、半導体ウエハや半導体チップなどにおける不純物や欠陥などを非破壊かつ短時間で測定する方法に関するものである。
【0002】
【従来の技術】半導体ウエハやチップなどは、それに含まれている不純物または欠陥などを測定して、その評価を行っている。この測定方法の一つに、等温容量過渡分光法(ICTS:Isothermal Capacitance Transient Spectroscopy)による半導体に含まれる不純物などを測定する方法が知られている。
【0003】図1および図2において、1は過渡容量計で、その内部には、パルスジェネレータ2、過渡容量計本体3、AD変換器4が設けられている。5は恒温槽で、その内部には、半導体試料6と、過渡容量計1に接続された一対のプローブ7,8とが設けられ、これらのプローブ7,8の各先端には接触針9,10が設けられている。11はコンピュータ、12はプロッタ、13はディスプレイである。
【0004】前記過渡容量計1を用いて半導体試料6中に含まれる不純物などを測定するには、半導体試料6を所定の等温度に保持した状態で、図2に示すように、接触針9,10の各先端を半導体試料6の測定部分に間隔をおいて接触させて、パルスジェネレータ2によって発生された所定の大きさのパルス電圧を一時的に印加し、その後、半導体試料6の測定部分におけるの静電容量に基づく信号を、過渡容量計本体3に入力し、AD変換した後、コンピュータ11において演算処理することにより、半導体試料6の測定部分の不純物または欠陥などを測定するのである。
【0005】
【発明が解決しようとする課題】ところで、上記従来の等温容量過渡分光法においては、ICTSスペクトルS(t)を次のように定義していた。すなわち、図(A)に示すような容量過渡波形をC(t)とするとき、S(t)は下記(2)式で表される。ここで、tは時間である(以下、同じ)。


【0006】この場合、前記C(t)の自乗であるC (t)は、下記(3)式で表される。ここで、Cは定常容量、Nは意図的に添加した不純物の濃度を示す。


【0007】そして、ICTSスペクトルのピーク強度Sとピーク時間tとから、不純物濃度Nと熱放出時定数τは、それぞれ、(4)式、(5)式のように計算される。


【0008】しかしながら、上記従来の等温容量過渡分光法においては、容量計の分解能に比べて容量変化が小さい場合や外乱ノイズがある場合には、前記C(t)にノイズが乗り、前記C(t)を直接微分して得られるS(t)が、図(B)に示すように、激しく振動してしまう。その結果、前記不純物濃度Nの測定精度が悪くなったり、低濃度不純物を検出できないことがあった。
【0009】本発明は、上述の事柄に留意してなされたもので、その目的とするところは、低濃度不純物を確実に検出することができ、精度の高い測定を行うことができる等温容量過渡分光法を提供することにある。
【0010】
【課題を解決するための手段】上記目的を達成するため、本発明では、等温度に保持された半導体試料に所定の大きさのパルス電圧を印加し、半導体試料のその後の容量変化を解析することによってこの半導体試料中の不純物の濃度やエネルギー準位を測定する等温容量過渡分光法において、下記(1)式で定義される関数を微分したものをICTSスペクトルとしている。


ここで、C(t′)は容量過渡波形を表し、t′は時間を表す。
【0011】
【作用】本発明においては、上記(1)式のS/Nが改善されているので、従来方法に比べて、ICTSスペクトルのS/Nが10倍以上改善される。その結果、不純物濃度の測定精度が改善され、従来方法に比べて、1/10以下の低濃度の不純物を検出できるようになり、えば、不純物濃度の測定限界が従来方法では1012子/cmであったが、本発明方法によれば、これを111原子/cmにまで向上させることができるようになった。
【0012】
【実施例】本発明においては、等温度に保持された半導体試料に所定の大きさのパルス電圧を印加し、この半導体試料のその後の容量変化を解析することによって半導体試料中の不純物などを測定する等温容量過渡分光法において、下記(1)式で定義される関数を用いるようにしている。


ここで、C(t′)は容量過渡波形を表し、t′は時間を表す。
【0013】前記(1)式で定義される関数K(t)を微分したものをICTSスペクトルとしており、これは下記(6)式のように表される。


【0014】この場合、不純物濃度Nおよび熱放出時定数τは、それぞれ、前記(3)式から、下記(7)式、(8)式のように表される。


【0015】これを、図3を参照しながら説明すると、今、容量過渡波形C(t)が同図(A)に示すものであるとする。前記(1)式に従って得られるK(t)、すなわち、積分された容量過渡波形は、同図(B)に示すようになる。同図(B)から理解されるように、前記積分された容量過渡波形K(t)は、S/Nが改善されている。そして、このK(t)を微分し、この微分されたものをICTSスペクトルとするのである。このICTSスペクトルは、同図(C)に示すような波形となり、このICTSスペクトルのS/Nは、上記した従来手法に比べて10倍以上改善される。従って、不純物濃度測定精度が改善され、その結果、従来手法に比べて1/10以下の低濃度の不純物を測定することができる。えば、不純物濃度の測定限界が従来方法では1012子/cmであったが、本発明方法によれば、これを111原子/cmにまで向上させることができる。
【0016】
【発明の効果】以上説明したように、本発明によれば、従来方法に比べて、ICTSスペクトルのS/Nが10倍以上改善されるので、不純物濃度測定精度が改善され、従来方法に比べて、1/10以下の低濃度の不純物を検出でき、例えば、不純物濃度の測定限界が従来方法では1012原子/cmであったが、本発明方法によれば、これを1011原子/cmにまで向上させることができるようになった。
【図面の簡単な説明】
【図1】本発明に係る等温容量過渡分光法を実施する装置の概略を示すブロック図である。
【図2】前記装置の要部を示す図である。
【図3】本発明方法を説明するための図で、(A)は容量過渡波形を、(B)は積分された容量過渡波形を、そして、(C)はICTSスペクトルをそれぞれ表している。
【図4】従来方法を説明するための図で、(A)は容量過渡波形を、そして、(B)はICTSスペクトルをそれぞれ表している。
【符号の説明】
6…半導体試料。

【特許請求の範囲】
【請求項1】 等温度に保持された半導体試料に所定の大きさのパルス電圧を印加し、半導体試料のその後の容量変化を解析することによってこの半導体試料中の不純物の濃度やエネルギー準位を測定する等温容量過渡分光法において、下記(1)式で定義される関数を微分したものをICTSスペクトルとしたことを特徴とする等温容量過渡分光法。


ここで、C(t′)は容量過渡波形を表し、t′は時間を表す。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【特許番号】第2681767号
【登録日】平成9年(1997)8月8日
【発行日】平成9年(1997)11月26日
【国際特許分類】
【出願番号】特願平3−157569
【出願日】平成3年(1991)6月1日
【公開番号】特開平4−355358
【公開日】平成4年(1992)12月9日
【出願人】(000155023)株式会社堀場製作所 (638)