説明

等速ジョイント用グリース組成物

【課題】CVJの振動を軽減する低摩擦係数を有する等速ジョイント用グリース組成物の提供。
【解決手段】基油とウレア系化合物の増ちょう剤から構成されるグリースに、
(A)モリブデンジアルキルジチオカーバメートおよび
(B)下記一般式(I)


(式中、Rは一級または二級のアルキル基およびアリール基よりなる群から選ばれた基である。)
で示されるモリブデンジアルキルジチオフォスフェートまたはモリブデンジアリールジチオフォスフェートの少なくとも1種および、
(C)無灰ジチオカーバメートまたはジンクジチオカーバメートとの混合物、を
(A)、(B)、および(C)のそれぞれの配合量が全量に対して0.1〜10重量%となるよう混合したことを特徴とする等速ジョイント用グリース組成物。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、自動車の等速ジョイントの潤滑箇所に適応するグリース組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
等速ジョイント(Constant Velocity Joints、以下CVJと略す)は、エンジンの動力をムラなくタイヤに伝達し、左右の車輪を一定速度で回転させる部材である。このCVJは、自動車のFF化の波に乗って急成長してきた。トリポート型ジョイント(TJ)およびダブルオフセット型ジョイント(DOJ)がトルクを伝達しながら摺動すると、軸方向にスライド抵抗を生じる。この抵抗が大きいとエンジンや路面からの振動を車体に伝え、車体の揺れや車内の騒音の起振源となる。この問題の解決のため、CVJ自体の機構的な対策もなされているが、低摩擦グリースを採用することでCVJの摩擦抵抗が軽減し、車の振動や騒音防止に効果がある。
【0003】
従って、特にプランジング型等速ジョイント内に充填されるグリースは、摺動部の摩擦抵抗を低減することを強く要求されている。低摩擦係数を有するグリースは、CVJの摩擦を低減し、振動の発生を防止できる。
【0004】
このような課題に対処するため、市場では耐熱性や摩擦特性に優れたウレアグリースを使用する例が増えてきた。代表的な先行技術としては、特許文献1や特許文献2がある。
【0005】
特許文献1の技術は、ウレアグリースに、(イ)二硫化モリブデン(ロ)硫化ジアルキルジチオカルバミン酸モリブデンおよび(ハ)ジアルキルジチオカルバミン酸鉛を配合した等速ジョイント用グリース組成物である。
【0006】
特許文献2の技術は、ウレアグリースに、モリブデンジチオカーバメートとモリブデンジチオフォスフェートの添加剤を併用し、もしくはこれらの有機モリブデン化合物にジンクジチオフォスフェートを混合してなる等速ジョイント用グリースを開示している。
【0007】
しかし、これらの先行技術におけるグリースは、プランジング型等速ジョイントの誘起スラスト力が、市販グリースを充填した場合に比較して小さいもののシャフトに振動が発生し、十分満足できる低摩擦力グリースとは言えなかった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開平6−57283号公報
【特許文献2】特公平5−79280号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明の目的は、CVJの振動を軽減する低摩擦係数を有する等速ジョイント用グリース組成物を提供する点にある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者らは、特許文献2(特公平5−79280号公報)の技術をさらに改良すべく鋭意検討を進めた結果、特定の硫黄化合物を従来の技術と組合せることによりCVJの振動を抑制する、すなわちより低い摩擦係数を有するグリースが得られることを見い出し、本発明を完成するに至ったものである。
【0011】
本発明は、基油とウレア系化合物の増ちょう剤から構成されるグリースに、
(A)モリブデンジアルキルジチオカーバメートおよび
(B)下記一般式(I)
【化1】

(式中、Rは一級または二級のアルキル基およびアリール基よりなる群から選ばれた基である。)
で示されるモリブデンジアルキルジチオフォスフェートまたはモリブデンジアリールジチオフォスフェートの少なくとも1種および、
(C)無灰ジチオカーバメートまたはジンクジチオカーバメートとの混合物、を
(A)、(B)、および(C)のそれぞれの配合量が全量に対して0.1〜10重量%となるよう混合したことを特徴とする等速ジョイント用グリース組成物に関する。
【0012】
本発明で使用できる基油は、鉱油およびエステル油、エーテル油、炭化水素油等の合成油またはそれらの混合物を用いることができる。
【0013】
増ちょう剤としては、ウレア系であればいずれのものも使用できる。ウレア系増ちょう剤の例としてジウレア、トリウレア、テトラウレア等を挙げることができる。また、ウレア・ウレタン化合物およびウレア・イミド化合物のようにウレア化合物を含む種々の増ちょう剤を用いることができる。
【0014】
前記(A)、(B)および(C)のそれぞれのグリース中の含有量は、多すぎても効果は同じか、もしくはかえって悪くなるので、10重量%以下の含有量で使用する。(A)と(B)については、好ましくは3〜5重量%以下であるが、(C)についてはおおむね1重量%前後がベストである。しかし、(A)、(B)、(C)のいずれもが少なくとも0.1重量%以上使用することが好ましい。
【0015】
また、これらの添加剤に加えて、酸化防止剤、防錆剤、分散剤など任意の添加剤を適宜併用してもこの発明に支障をきたすものではない。
【0016】
前記(A)成分のモリブデンジアルキルジチオカーバメートの具体例としては、硫化モリブデンジエチルジチオカーバメート、硫化モリブデンジプロピルジチオカーバメート、硫化モリブデンジブチルジチオカーバメート、硫化モリブデンジペンチルジチオカーバメート、硫化モリブデンジヘキシルジチオカーバメート、硫化モリブデンジオクチルジチオカーバメート、硫化モリブデンジデシルジチオカーバメート、硫化モリブデンジドデシルジチオカーバメート、硫化モリブデンジ(ブチルフェニル)ジチオカーバメート、硫化モリブデンジ(ノニルフェニル)ジチオカーバメート、硫化オキシモリブデンジエチルジチオカーバメート、硫化オキシモリブデンジプロピルジチオカーバメート、硫化オキシモリブデンジブチルジチオカーバメート、硫化オキシモリブデンジペンチルジチオカーバメート、硫化オキシモリブデンジヘキシルジチオカーバメート、硫化オキシモリブデンジオクチルジチオカーバメート、硫化オキシモリブデンジデシルジチオカーバメート、硫化オキシモリブデンジドデシルジチオカーバメート、硫化オキシモリブデンジ(ブチルフェニル)ジチオカーバメート、硫化オキシモリブデンジ(ノニルフェニル)ジチオカーバメートおよびこれらの混合物などを挙げることができる。
【0017】
前記(B)成分の式(I)中におけるRの具体例としては、メチル基、エチル基、プロピル基、ブチル基、ペンチル基、ヘキシル基、ヘプチル基、オクチル基、ノニル基、デシル基、ドデシル基、テトラデシル基、ヘキサデシル基、オクタデシル基、エイコシル基、ドコシル基、テトラコシル基、シクロペンチル基、シクロヘキシル基、メチルシクロヘキシル基、エチルシクロヘキシル基、ジメチルシクロヘキシル基、シクロヘプチル基、フェニル基、トリル基、キシリル基、エチルフェニル基、プロピルフェニル基、ブチルフェニル基、ペンチルフェニル基、ヘキシルフェニル基、ヘプチルフェニル基、オクチルフェニル基、ノニルフェニル基、デシルフェニル基、ドデシルフェニル基、テトラデシルフェニル基、ヘキサデシルフェニル基、オクタデシルフェニル基、ベンジル基、フェネチル基などが挙げられる。式中の各Rは同一であってもよいし、それぞれが異なっていてもよい。
【0018】
前記(B)成分の具体例としては、例えば、硫化モリブデンジエチルジチオフォスフェート、硫化モリブデンジプロピルジチオフォスフェート、硫化モリブデンジブチルジチオフォスフェート、硫化モリブデンジペンチルジチオフォスフェート、硫化モリブデンジヘキシルジチオフォスフェート、硫化モリブデンジオクチルジチオフォスフェート、硫化モリブデンジデシルジチオフォスフェート、硫化モリブデンジドデシルジチオフォスフェート、硫化モリブデンジ(ブチルフェニル)ジチオフォスフェート、硫化モリブデンジ(ノニルフェニル)ジチオフォスフェート、硫化オキシモリブデンジエチルジチオフォスフェート、硫化オキシモリブデンジプロピルジチオフォスフェート、硫化オキシモリブデンジブチルジチオフォスフェート、硫化オキシモリブデンジペンチルジチオフォスフェート、硫化オキシモリブデンジヘキシルジチオフォスフェート、硫化オキシモリブデンジオクチルジチオフォスフェート、硫化オキシモリブデンジデシルジチオフォスフェート、硫化オキシモリブデンジドデシルジチオフォスフェート、硫化オキシモリブデンジ(ブチルフェニル)ジチオフォスフェート、硫化オキシモリブデンジ(ノニルフェニル)ジチオフォスフェートなどを挙げることができる。
【発明の効果】
【0019】
本発明のグリースは、限定された硫黄化合物を含有する添加剤を併用することにより、従来の特許文献2(特公平5−79280号公報)の技術よりもさらに低い摩擦係数を有する等速ジョイント用のグリース組成物、特にプランジング型等速ジョイント用に適したグリース組成物が提供できた。
【実施例】
【0020】
本発明を実施例および比較例により説明するが、これにより本発明はなんら限定されるものではない。
【0021】
表1〜2に示す実施例と比較例は、以下に記載する基グリースに添加剤としてモリブデンジチオカーバメートおよびモリブデンジアルキルジチオフォスフェートまたはモリブデンジアリールジチオフォスフェートの少なくとも1種および無灰ジチオカーバメートまたはジンクジチオカーバメートとの混合物から選ばれた硫黄化合物を添加した後、3本ロールにより均一に仕上げたものである。
【0022】
実施例および比較例に用いる基グリースについて以下に説明する。
【0023】
I.ジウレアグリース
100℃の動粘度が約15mm/sの鉱油(5400g)中で、1モルの4,4′−ジフェニルメタンジイソシアネート(295.1g)と2モルのオクチルアミン(304.9g)を反応させ、生成したウレア化合物を均一に分散、処理して、ちょう度(25℃、60W):283、滴点:265℃のグリースを得た。このグリースは、ウレア化合物の含有量を10重量%となるように調整したものである。
【0024】
II.テトラウレアグリース
100℃の動粘度が約15mm/sの鉱油(5220g)中で、2モルの4,4′−ジフェニルメタンジイソシアネート(446.05g)と1モルのオクチルアミン(115.26g)、1モルのラウリルアミン(165.13g)および1モルのエチレンジアミン(53.56g)を反応させ、生成したウレア化合物を均一に分散、処理して、ちょう度(25℃、60W):325、滴点:253℃のグリースを得た。このグリースは、ウレア化合物の含有量を13重量%となるように調整したものである。
【0025】
III.リチウム石けんグリース
100℃の動粘度が約11mm/sの鉱油(5400g)中に、リチウム石けんとして12−ヒドロキシステアリン酸リチウム(600g)を溶解し、均一に分散、処理して、ちょう度(25℃、60W):271、滴点198℃のグリースを得た。このグリースは、リチウム石けん含有量を10重量%となるように調整したものである。
【0026】
IV.アルミニウム複合石けんグリース
100℃の動粘度が約11mm/sの鉱油(712g)中で、安息香酸(26.37g)とステアリン酸(55.80g)を溶解させ、その後市販の環状アルミニウムオキサイドイソピレート潤滑液〔商品名:川研ファインケミカル(株)製アルゴマー〕を48.94g加えて反応を行い、生成した石けんを均一に分散、処理して、ちょう度(25℃、60W):272、滴点:>270℃のグリースを得た。このグリースは、リチウム石けん含有量を11重量%となるように調整したものである。また、安息香酸(BA)とステアリン酸(FA)のモル比を
〔数1〕
BA/FA=1.1
とし、安息香酸(BA)とステアリン酸(FA)に対するアルミニウム(Al)のモル比を
〔数2〕
(BA+FA)/Al=1.9
としたものである。
【0027】
表1〜2にその組成を示す実施例および比較例の各グリース組成物について、下記の条件でファレックス試験を行い、摩擦係数を測定した(IP241/69)。なお、試験時間は15分間とし、終了時(15分後)の摩擦係数を求めた。その結果も併せて表1〜2に示す。
【0028】
試験条件
回転数 :290r.p.m
荷重 :200lb
温度 :室温
時間 :15分
グリース:試験片にグリースを約1g塗布
【0029】
下記表1〜2の〔注〕は、表中1)〜5)のとおりである。
1)バンダービルト社 商品名 モリバンA
2)旭電化工業(株) 商品名 サクラルーブ300
3)バンダービルト社 商品名 モリバンL
4)バンダービルト社 商品名 バンルーブ7723
5)バンダービルト社 商品名 バンルーブ869
【0030】
【表1】

【0031】
【表2】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
基油とウレア系化合物の増ちょう剤から構成されるグリースに、
(A)モリブデンジアルキルジチオカーバメートおよび
(B)下記一般式(I)
【化2】

(式中、Rは一級または二級のアルキル基およびアリール基よりなる群から選ばれた基である。)
で示されるモリブデンジアルキルジチオフォスフェートまたはモリブデンジアリールジチオフォスフェートの少なくとも1種および、
(C)無灰ジチオカーバメートまたはジンクジチオカーバメートとの混合物、を
(A)、(B)、および(C)のそれぞれの配合量が全量に対して0.1〜10重量%となるよう混合したことを特徴とする等速ジョイント用グリース組成物。

【公開番号】特開2009−235416(P2009−235416A)
【公開日】平成21年10月15日(2009.10.15)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−146298(P2009−146298)
【出願日】平成21年6月19日(2009.6.19)
【分割の表示】特願平11−114196の分割
【原出願日】平成11年4月21日(1999.4.21)
【出願人】(000186913)昭和シェル石油株式会社 (322)
【出願人】(000102692)NTN株式会社 (9,006)
【Fターム(参考)】