等速自在継手用シャフト
【課題】捩り振動(回転方向の振動)を吸収しつつ剛性感を損なうことのない等速自在継手用シャフトを提供する。
【解決手段】出力側端部1aおよび入力側端部1bにそれぞれ等速自在継手が接続され、出力側端部1aと入力側端部1bとの間の等速自在継手用シャフト中央部に、入力側端部1bからのトルク変動を回転方向の抵抗により抑制する減衰機構4を設けた等速自在継手用シャフトである。減衰機構4は、出力側端部1aと入力側端部1bとを連結する中間軸1cと、中間軸1cに外嵌される筒状の外方部材2とで構成される。中間軸1cと外方部材2とが抑制部位において回転方向に相対変位する。
【解決手段】出力側端部1aおよび入力側端部1bにそれぞれ等速自在継手が接続され、出力側端部1aと入力側端部1bとの間の等速自在継手用シャフト中央部に、入力側端部1bからのトルク変動を回転方向の抵抗により抑制する減衰機構4を設けた等速自在継手用シャフトである。減衰機構4は、出力側端部1aと入力側端部1bとを連結する中間軸1cと、中間軸1cに外嵌される筒状の外方部材2とで構成される。中間軸1cと外方部材2とが抑制部位において回転方向に相対変位する。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、駆動系に発生する捩り振動を抑制することが出来る等速自在継手用シャフトに関する。
【背景技術】
【0002】
自動車用における駆動輪への動力伝達手段は、ハーフシャフトにより連結された固定型等速自在継手と摺動型等速自在継手により、トルク変動することなく滑らかに伝達されている。このように、等速自在継手を含む駆動系では、エンジンからの振動を主に摺動型等速自在継手が吸収し、車体に不快な振動として伝えないようにしている。
【0003】
しかし、摺動型等速自在継手における振動の吸収方向は、スライド方向(軸方向)が全てであり、捩り方向(回転方向)の変位を吸収することができない。つまり、エンジン側からの回転変動を伴ったトルクの変動、いわゆる捩り振動を吸収することができない。
【0004】
このため、従来には、外側継手部材(外輪)を、外筒部と内筒部の2層構造とし、この外筒部と内筒部との間に、軸方向の相対移動及び軸心廻りの相対回転を許容する案内装置を介在した等速自在継手がある(特許文献1)。また、この等速自在継手は、外筒部と内筒部との軸方向の相対移動及び軸心廻りの相対回転を抑制する抑制装置(ゴム素材からなる)を備えている。
【0005】
この特許文献1に記載の案内装置102は、図13と図14に示すように、外筒部76と内筒部82との間に配設される摺動体106を備え、外筒部76と摺動体106との間に軸方向溝108が形成されるとともに、内筒部82と摺動体106との間に周方向溝110が形成され、各溝108、110に転動体112,114が嵌合されるものである。
【0006】
また、図14に示すように、案内装置102における摺動体106の近傍には、摺動板100、100間に介在される第1ばね96と第2ばね98を有する相対抑制装置が配設されている。この相対抑制装置は、外筒部76と内筒部82との軸心廻りの相対回転を抑制する。
【0007】
特許文献1に記載の等速自在継手では、前記のように構成することによって、「駆動系の一部である車両用等速自在継手のねじり剛性が低下して駆動系の共振周波数が低下し、ドライブシャフトのねじり共振が抑制されることになって、ロックアップこもり音等の騒音の発生を抑制しつつロックアップクラッチのロックアップ回転速度の低回転化が図れる」というものである。さらには、「外筒部と内筒部との軸心まわりの相対回転速度に応じて相対移動抵抗を発生する減衰要素を備えることになり、その減衰要素において駆動系に発生するねじり振動が吸収されるので、駆動系に発生する振動を十分に抑制することができる」というものである。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開2010-144763号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
しかしながら、前記特許文献1では、外輪の回転方向に対する相対変位量は転動体114の稼動範囲により規制され、この間の捩り剛性は相対抑制装置のバネ力により決まり、このバネ特性により狙いの捩り剛性が得られるように、チューニングすることになる。
【0010】
また、ゴム素子(相対回転抑制装置)が、外筒部76と内筒部82との周方向の間隙に設けられていることから、駆動系に発生するねじり振動は必ずそのゴム素子を介して外筒部76と内筒部82との間を伝播するようになっている。このため、駆動系にて発生するねじり振動を抑制することができる。
【0011】
ところが、前記特許文献1に記載のねじり振動吸収構造では、低トルク領域で回転方向に大きく捩れる構造であるため、トルク入力が正負で変わる状況においては回転方向の変位が大きくなる。このため、加減速を繰り返す(負荷トルクが正負で入れ替わる)ような走行状態では、剛性感(=ダイレクト感)が損なわれてしまう。
【0012】
本発明の課題は、捩り振動(回転方向の振動)を吸収しつつ剛性感を損なうことのない等速自在継手用シャフトを提案することにある。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明の等速自在継手用シャフトは、出力側端部および入力側端部にそれぞれ等速自在継手が接続され、出力側端部と入力側端部との間の等速自在継手用シャフト中央部に、入力側端部からのトルク変動を回転方向の抵抗により抑制する減衰機構(つまり、シャフトの捩れ変位を利用した減衰機構)を設けた等速自在継手用シャフトであって、前記減衰機構は、出力側端部と入力側端部とを連結する中間軸と、この中間軸に外嵌される筒状の外方部材とで構成され、この中間軸と外方部材とが抑制部位において回転方向に相対変位するものである。
【0014】
本発明の等速自在継手用シャフトは、減衰機構を設けたことによって、入力トルクの変動に伴う回転変動を抑制することができる、つまり捩り方向の振動を吸収することができる。
【0015】
前記外方部材は、トルク入力側又はトルク出力側において中間軸に結合され、中間軸に結合されていないトルク出力側又はトルク入力側における中間軸との嵌合部位が前記抑制部位となって、中間軸と相対変位するものとできる。
【0016】
出力側端部と中間軸と入力側端部とが一体成形された中実シャフトである。また、中間軸と外方部材とはその抑制部位において、締め代が付与されて嵌合されるのが好ましい。
【0017】
中間軸と外方部材とが相対変位する前記抑制部位となる嵌合部位における中間軸と外方部材との間に潤滑剤を介在させたものであってもよい。このように潤滑剤を介在させることによって、抑制部位における相対変位が滑らかに行われる。
【0018】
前記嵌合部位に前記潤滑剤を溜める潤滑剤溜り部を設けることができる。前記嵌合部位における外方部材内径面に周方向に沿って所定ピッチで配設される凹部を形成して、前記潤滑剤溜り部を構成するものであっても、前記嵌合部位における中間軸外径面に周方向に沿って所定ピッチで配設される凹部を形成して、前記潤滑剤溜り部を構成するものであっても、中間軸のブーツ固定部近傍の外径面に凹部を形成して、前記潤滑剤溜り部を構成するものであってもよい。
【0019】
このように潤滑剤溜り部を設けることによって、抑制部位における潤滑剤の介在が安定して、抑制部位における摩擦抵抗を小さくでき、相対変位が滑らかに行うことができる。
【0020】
前記潤滑剤溜り部を構成するための凹部における周方向端縁部をアール部としてもよい。このようにアール部を設けることにより、抑制部位における相対変位時において、凹部の周方向端縁部の引っかかりを防止できる。
【0021】
前記嵌合部位における外方部材に周方向に沿って軸方向に延びるスリットを設け、周方向に隣り合うスリット間の残部の内径方向への縮径変位を可能としてもよい。このようにスリットを設けることによって、嵌合部位における締め付け嵌合を行い易くできる。
【0022】
前記残部の内径方向への縮径状態で、外方部材の嵌合部位を中間軸の嵌合部位に圧入し、この圧入によって、この残部を外径方向に拡径させたものであってもよい。このように構成することによって、回転変位時の抵抗を安定して発生させることができる。これによって、この抵抗によって、瞬間的に変動する捩り方向の変動エネルギーが相殺(吸収)されることになる。
【0023】
残部の周方向内径端をアール部とするのが好ましい。アール部を設けることにより、抑制部位における相対変位時において、スリットの引っかかりを防止できる。
【0024】
外方部材と中間軸との結合はセレーション結合であっても、溶接による結合であってもよい。
【0025】
入力側端部に摺動型等速自在継手を取り付け、出力側端部に固定式等速自在継手を取り付けたものであっても、入力側端部及び出力側端部に摺動型等速自在継手を取り付けたものであってもよい。
【発明の効果】
【0026】
本発明の等速自在継手用シャフトでは、トルク変動を減衰させる機構を設けたことによって、トルク変動による捩り振動を吸収することができる。この等速自在継手用シャフトを、自動車における駆動輪への動力伝達手段に用いれば、加減速を繰り返すような走行状態においても剛性感(=ダイレクト感)を損なうことなく優れた運転性が発揮され、しかも捩り振動を抑制することができる。
【0027】
減衰機構は、中間軸と外方部材とで構成することができ、構成の簡略化を図ることができ、しかも、外方部材はトルク伝達シャフトとして機能する中間軸に対して外嵌されるものでは、コンパクト化を図ることができる。
【0028】
また、出力側端部と中間軸と入力側端部とが一体成形されているので、入力側から出力側へのトルク伝達が安定する。
【0029】
中間軸と外方部材との間に潤滑剤を介在させたものでは、抑制部位における相対変位が滑らかに行うことができ、捩り振動を安定して抑制することができる。特に、潤滑剤溜り部を形成することによって、抑制部位における潤滑剤の介在が安定して、相対変位をさらに滑らかに行うことができる。また、潤滑剤溜り部を形成するために凹部の周方向端部にアール部を設けることにより、凹部の周方向端縁部の引っかかりを防止でき、相対変位がより滑らかに行うことができる。
【0030】
外方部材にスリットを設けることによって、外方部材の嵌合部位における拡縮変形を容易とできて、締め付け嵌合を行い易くでき、組立て作業性の向上を図ることができる。しかも、回転変位時の抵抗を発生でき、瞬間的に変動する捩り方向の変動エネルギーが相殺(吸収)されることになり、捩り振動の安定した抑制が可能となる。特に、残部の周方向内径端をアール部とすることにより、スリットの引っかかりを防止でき、相対変位がより滑らかに行うことができる。
【0031】
入力側端部に摺動型等速自在継手を取り付け、出力側端部に固定型等速自在継手を取り付けたものとすることができ、また、入力側端部及び出力側端部に摺動型等速自在継手を取り付けたものとできので、種々のタイプの動力伝達手段を構成でき、汎用性に優れる。
【図面の簡単な説明】
【0032】
【図1】本発明の等速自在継手用シャフトの縦断面図である。
【図2】前記等速自在継手用シャフトの要部拡大縦断面図である。
【図3】前記等速自在継手用シャフトの要部拡大横断面図である。
【図4】前記等速自在継手用シャフトの第1の変形例を示す要部拡大横断面図である。
【図5】図4の要部拡大断面図である。
【図6】前記等速自在継手用シャフトの第2の変形例を示す要部拡大横断面図である。
【図7】前記図6に示す等速自在継手用シャフトの要部拡大断面図である。
【図8】前記等速自在継手用シャフトの第3の変形例を示す要部拡大横断面図である。
【図9】前記図8に示す等速自在継手用シャフトのスリット間の残部の拡大図である。
【図10】前記図1に示す等速自在継手用シャフトの簡略断面図である。
【図11】前記図10のY−Y線断面図である。
【図12】前記図10のZ−Z線断面図である。
【図13】従来に車両用等速自在継手の要部断面図である。
【図14】前記図13に示す車両用等速自在継手の要部拡大断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0033】
以下、本発明の実施形態を図面に従って説明する。
【0034】
図1は本発明に係る等速自在継手用シャフトの縦断面図を示し、この等速自在継手用シャフトは、シャフト本体1と、このシャフト本体1に外嵌される外方部材2とを備え、シャフト中央部3には減衰機構4が設けられている。
【0035】
シャフト本体1は、出力側端部1aと、入力側端部1bと、中間軸(本体部)1cと、出力側端部1aと本体部1cとの間に配設される小径部1d及び中径部1eと、入力側端部1bと本体部1cとの間に配設される小径部1f及び中径部1gとを有するものである。
【0036】
この場合、出力側端部1aに図示省略の固定式等速自在継手が連結され、入力側端部1bに図示省略の摺動式等速自在継手が連結される。なお、固定式等速自在継手としては、トラック溝底が円弧部のみであるバーフィールド型やトラック溝底の一部に直線部分を有するアンダーカットフリー型等の種々のタイプのものを用いることができる。また、摺動式等速自在継手としては、ダブルオフセット型、トリポード型、又はクロスグルーブ型等の種々のタイプのものを用いることができる。
【0037】
このため、出力側端部1aはその外径面に雄スプライン5が形成されるとともに、止め輪(図示省略)が嵌合される周方向溝6が形成されている。また、入力側端部1bも同様に、その外径面に雄スプライン7が形成されるとともに、止め輪(図示省略)が嵌合される周方向溝8が形成されている。
【0038】
出力側端部1a側の中径部1eは図示省略の固定式等速自在継手の開口部を塞ぐためのブーツ(図示省略)の装着部(ブーツ固定部)を構成する。このため、中径部1eには周方向溝9が形成されている。また、入力側端部1b側の中径部1gは図示省略の摺動式等速自在継手の開口部を塞ぐためのブーツ(図示省略)の装着部(ブーツ固定部)を構成する。このため、中径部1gには周方向溝10が形成されている。
【0039】
また、中間軸(本体部)1cは、中央本体12と、出力側端部1a側の中径部1eに連設される大径部15と、入力側端部1b側の中径部1gに連設される大径部16とを有する。なお、大径部15は、大径本体15aと、この大径本体15aの軸方向両側に配設されるテーパ部15b、15cとからなる。また、大径本体16aと、この大径本体16aの軸方向両側に配設されるテーパ部16b、16cとからなる。
【0040】
外方部材2は、本体筒状部2aと、この本体筒状部2aの入力側の支持用小径部2bとを備える。この支持用小径部2bが、本体部1cの大径部16に結合される。この場合の結合はいわゆるセレーション結合20である。すなわち、図2に示すように、大径部16の外周面に雄セレーション20aを形成して雄形結合部を構成するとともに、支持用小径部2bの内周面に雌セレーション20bを形成して雌形結合部を構成し、雄形結合部と雌形結合部とを嵌合(係合)させることによって、結合するものである。なお、大径部16と支持用小径部2bとの結合手段は、セレーション結合20に限るものではなく、溶接等の他の手段であってもよい。また、このセレーション結合20における雄形結合部における雄セレーションには雄スプラインを含み、セレーション結合20における雌形結合部における雌セレーションには雌スプラインを含むものとする。このため、セレーション結合20にはスプライン結合を含む。
【0041】
また、外方部材2の出力側端部11は、大径部15に圧入されている。すなわち、所定の締め代をもって外方部材2の出力側端部11がシャフト本体1の大径部15に嵌合(外嵌)されている。
【0042】
次にこのシャフトの組立方法について説明する。シャフト本体1に、入力側から外方部材2を挿入する。この際、外方部材2の出力側端部11を圧入するとともに、シャフト本体1の大径部16の雄形結合部に対して外方部材2の支持用小径部2bの雌形結合部を圧入することになる。これによって、図1に示す等速自在継手用シャフトが完成する。このように組立てられた等速自在継手用シャフトは、シャフト本体1の中間軸1cと、これに外嵌される外方部材2にて減衰機構4を構成することになる。すなわち、中間軸1cの大径部15と、外方部材2の出力側端部11とが、後述するように、回転方向に相対変位する抑制部位となる。
【0043】
次に図10から図12を用いて、減衰機構4の機能を説明する。なお、入力側のセレーション結合20と出力側の相対変位部(つまり、中間軸1cと外方部材2とが相対変位する抑制部位となる嵌合部位25)との間は、任意の所定寸Aに設定される。入力側において、中間軸1cと外方部材2とがセレーション結合20にて結合されているので、入力側において、図10に示すように、トルク負荷が付与された場合、図11に示すように、外方部材2は中間軸1cの捩れ変位(θt)と同期する。図11において、P1は、トルク負荷時の中間軸1cと外方部材2の位相を示す。これに対して、出力側において、結合されていないので、図12に示すように、中間軸1cと外方部材2とには位相差(θt)が生じる。しかしながら、出力側において、外方部材2は中間軸1cに所定の締め代をもって嵌合されているので、発生する摩擦力(抵抗力)によって、瞬間的に変動する捩り方向の変動エネルギーが相殺(吸収)されることになる。このため、捩り振動を抑制(減衰)することができる。図12において、P2はトルク負荷時の中間軸1cの位相を示し、P3はトルク負荷時の外方部材2の位相を示す。
【0044】
このように、本発明では、トルク変動を抑制するための減衰機構4を設けたことによって、トルク変動による捩り振動を吸収することができる。このため、この等速自在継手用シャフトを、自動車における駆動輪への動力伝達手段に用いれば、加減速を繰り返すような走行状態においての剛性感(=ダイレクト感)を損なうことなく優れた運転性が発揮される。
【0045】
減衰機構4は、中間軸1cと外方部材2とで構成することができ、構成の簡略化を図ることができ、しかも、外方部材2はトルク伝達シャフトとして機能する中間軸1cに対して外嵌されるものでは、コンパクト化を図ることができる。
【0046】
また、出力側端部1aと中間軸1cと入力側端部1bとが一体成形されていので、入力側から出力側へのトルク伝達が安定する。
【0047】
ところで、前記嵌合部位25における、中間軸1cの大径部15の外径面と外方部材2の出力側端部11の内径面との間に潤滑剤を介在させてもよい。このように、抑制部位における相対変位が滑らかに行うことができ、捩り振動を安定して抑制することができる。
この場合の潤滑剤としては、グリース等を用いることができる。
【0048】
図4に示すように、嵌合部位25における中間軸と外方部材との間の周方向一部に潤滑剤溜り部30を設けてもよい。この場合、外方部材2の出力側端部11の内径面に、周方向に沿って所定ピッチ(例えば、60°ピッチ)に凹部31を設けることによって潤滑剤溜り部30を形成している。
【0049】
このように、潤滑剤溜り部30を設けることによって、抑制部位における潤滑剤の介在が安定して、抑制部位における摩擦抵抗を小さくでき、相対変位が滑らかに行うことができる。また、このような凹部31を設ける場合、図5に示すように、凹部31の周方向端部をアール部31a,31bとするのが好ましい。このように、凹部31の周方向端縁部の引っかかりを防止でき、相対変位がより滑らかに行うことができる。
【0050】
潤滑剤溜り部30を設ける場合、嵌合部位25における中間軸1cの外径面に周方向に沿って所定ピッチで配設される凹部31を形成して、前記潤滑剤溜り部30を構成するようにしてもよい。また、嵌合部位25としては、中間軸1cのブーツ固定部1eの近傍部位としてもよい。この場合、中間軸1cのブーツ固定部1eの近傍の外径面に凹部31を形成して、前記潤滑剤溜り部30を構成することになる。
【0051】
また、図6と図7に示すように、外方部材2の出力側端部11に軸方向に延びるスリット33を、周方向に沿って所定ピッチ(例えば、60°ピッチ)に設けたものであってもよい。この場合、周方向に隣り合うスリット33の残部34の内径方向への縮径変位が可能となる。
【0052】
そこで、このようなスリット33を設けた場合、図7の仮想線で示すように、残部34を内径方向へ縮径させた状態で、外方部材2の出力側端部11を中間軸1cの大径部15に圧入し、この圧入によって、この残部34を外径方向に拡径させるようにするのが好ましい。
【0053】
スリット33を設けることによって、外方部材2の嵌合部位における拡縮変形を容易とできて、締め付け嵌合を行い易くでき、組立て作業性の向上を図ることができる。しかも、回転変位時の抵抗を発生でき、瞬間的に変動する捩り方向の変動エネルギーが相殺(吸収)されることになり、捩り振動の安定した抑制が可能となる。
【0054】
図8では残部34の周方向内径端をアール部33a、33bとしている。このように、アール部33a、33bとすることにより、スリット33の引っかかりを防止でき、相対変位がより滑らかに行うことができる。
【0055】
また、この等速自在継手用シャフトは、前記実施形態では、入力側端部1bに摺動式等速自在継手を取付け、出力側端部1aに固定式等速自在継手を取付けるものであったが、他の実施形態として、出力側端部1aおよび入力側端部1bに摺動式等速自在継手を取付けるものとすることができる。また、この場合の摺動式等速自在継手としても、ダブルオスセット型、トリポード型、又はクロスグルーブ型等の種々のタイプのものを用いることができる。このように、本発明の等速自在継手用シャフトは、種々のタイプの動力伝達手段を構成でき、汎用性に優れる。
【0056】
前記実施形態では、外方部材2を中間軸1cの入力側に結合していたが、別の実施形態として、外方部材2を中間軸1cの出力側に結合してもよい。このような場合であっても、入力側端部からのトルク負荷による回転変動を抑制することができ、捩り方向の振動を吸収することができる。
【0057】
以上、本発明の実施形態につき説明したが、本発明は前記実施形態に限定されることなく種々の変形が可能であって、例えば、締め代としては、中間軸1cと外方部材2との間で、相対変位部において、位相差が生じる摩擦抵抗を発生させる範囲で種々変更できる。また、嵌合部位25の嵌合範囲、潤滑剤溜り部30の各体積、潤滑剤溜り部30の数、スリット33の大きさ、スリット33の数等としても、位相差が生じる摩擦抵抗を発生させる範囲で種々変更できる。
【0058】
前記実施形態では、外方部材2はその入力側が小径部2bとされているが、このような小径部2bを設けないものであってもよい。すなわち、外方部材2の入力側の本体筒状部2aと連続した同一径の筒部としてもよい。また、外方部材2の出力側を小径部としてもよい。
【0059】
凹部31のアール部31a、31bの曲率半径や残部34のアール部33a、33bの曲率半径は任意に設定できる。
【符号の説明】
【0060】
1a 出力側端部
1c 中間軸(本体部)
1b 入力側端部
2 外方部材
3 シャフト中央部
4 減衰機構
25 嵌合部位
30 潤滑剤溜り部
31a,31bアール部
31 凹部
33a、33bアール部
33 スリット
34 残部
【技術分野】
【0001】
本発明は、駆動系に発生する捩り振動を抑制することが出来る等速自在継手用シャフトに関する。
【背景技術】
【0002】
自動車用における駆動輪への動力伝達手段は、ハーフシャフトにより連結された固定型等速自在継手と摺動型等速自在継手により、トルク変動することなく滑らかに伝達されている。このように、等速自在継手を含む駆動系では、エンジンからの振動を主に摺動型等速自在継手が吸収し、車体に不快な振動として伝えないようにしている。
【0003】
しかし、摺動型等速自在継手における振動の吸収方向は、スライド方向(軸方向)が全てであり、捩り方向(回転方向)の変位を吸収することができない。つまり、エンジン側からの回転変動を伴ったトルクの変動、いわゆる捩り振動を吸収することができない。
【0004】
このため、従来には、外側継手部材(外輪)を、外筒部と内筒部の2層構造とし、この外筒部と内筒部との間に、軸方向の相対移動及び軸心廻りの相対回転を許容する案内装置を介在した等速自在継手がある(特許文献1)。また、この等速自在継手は、外筒部と内筒部との軸方向の相対移動及び軸心廻りの相対回転を抑制する抑制装置(ゴム素材からなる)を備えている。
【0005】
この特許文献1に記載の案内装置102は、図13と図14に示すように、外筒部76と内筒部82との間に配設される摺動体106を備え、外筒部76と摺動体106との間に軸方向溝108が形成されるとともに、内筒部82と摺動体106との間に周方向溝110が形成され、各溝108、110に転動体112,114が嵌合されるものである。
【0006】
また、図14に示すように、案内装置102における摺動体106の近傍には、摺動板100、100間に介在される第1ばね96と第2ばね98を有する相対抑制装置が配設されている。この相対抑制装置は、外筒部76と内筒部82との軸心廻りの相対回転を抑制する。
【0007】
特許文献1に記載の等速自在継手では、前記のように構成することによって、「駆動系の一部である車両用等速自在継手のねじり剛性が低下して駆動系の共振周波数が低下し、ドライブシャフトのねじり共振が抑制されることになって、ロックアップこもり音等の騒音の発生を抑制しつつロックアップクラッチのロックアップ回転速度の低回転化が図れる」というものである。さらには、「外筒部と内筒部との軸心まわりの相対回転速度に応じて相対移動抵抗を発生する減衰要素を備えることになり、その減衰要素において駆動系に発生するねじり振動が吸収されるので、駆動系に発生する振動を十分に抑制することができる」というものである。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開2010-144763号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
しかしながら、前記特許文献1では、外輪の回転方向に対する相対変位量は転動体114の稼動範囲により規制され、この間の捩り剛性は相対抑制装置のバネ力により決まり、このバネ特性により狙いの捩り剛性が得られるように、チューニングすることになる。
【0010】
また、ゴム素子(相対回転抑制装置)が、外筒部76と内筒部82との周方向の間隙に設けられていることから、駆動系に発生するねじり振動は必ずそのゴム素子を介して外筒部76と内筒部82との間を伝播するようになっている。このため、駆動系にて発生するねじり振動を抑制することができる。
【0011】
ところが、前記特許文献1に記載のねじり振動吸収構造では、低トルク領域で回転方向に大きく捩れる構造であるため、トルク入力が正負で変わる状況においては回転方向の変位が大きくなる。このため、加減速を繰り返す(負荷トルクが正負で入れ替わる)ような走行状態では、剛性感(=ダイレクト感)が損なわれてしまう。
【0012】
本発明の課題は、捩り振動(回転方向の振動)を吸収しつつ剛性感を損なうことのない等速自在継手用シャフトを提案することにある。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明の等速自在継手用シャフトは、出力側端部および入力側端部にそれぞれ等速自在継手が接続され、出力側端部と入力側端部との間の等速自在継手用シャフト中央部に、入力側端部からのトルク変動を回転方向の抵抗により抑制する減衰機構(つまり、シャフトの捩れ変位を利用した減衰機構)を設けた等速自在継手用シャフトであって、前記減衰機構は、出力側端部と入力側端部とを連結する中間軸と、この中間軸に外嵌される筒状の外方部材とで構成され、この中間軸と外方部材とが抑制部位において回転方向に相対変位するものである。
【0014】
本発明の等速自在継手用シャフトは、減衰機構を設けたことによって、入力トルクの変動に伴う回転変動を抑制することができる、つまり捩り方向の振動を吸収することができる。
【0015】
前記外方部材は、トルク入力側又はトルク出力側において中間軸に結合され、中間軸に結合されていないトルク出力側又はトルク入力側における中間軸との嵌合部位が前記抑制部位となって、中間軸と相対変位するものとできる。
【0016】
出力側端部と中間軸と入力側端部とが一体成形された中実シャフトである。また、中間軸と外方部材とはその抑制部位において、締め代が付与されて嵌合されるのが好ましい。
【0017】
中間軸と外方部材とが相対変位する前記抑制部位となる嵌合部位における中間軸と外方部材との間に潤滑剤を介在させたものであってもよい。このように潤滑剤を介在させることによって、抑制部位における相対変位が滑らかに行われる。
【0018】
前記嵌合部位に前記潤滑剤を溜める潤滑剤溜り部を設けることができる。前記嵌合部位における外方部材内径面に周方向に沿って所定ピッチで配設される凹部を形成して、前記潤滑剤溜り部を構成するものであっても、前記嵌合部位における中間軸外径面に周方向に沿って所定ピッチで配設される凹部を形成して、前記潤滑剤溜り部を構成するものであっても、中間軸のブーツ固定部近傍の外径面に凹部を形成して、前記潤滑剤溜り部を構成するものであってもよい。
【0019】
このように潤滑剤溜り部を設けることによって、抑制部位における潤滑剤の介在が安定して、抑制部位における摩擦抵抗を小さくでき、相対変位が滑らかに行うことができる。
【0020】
前記潤滑剤溜り部を構成するための凹部における周方向端縁部をアール部としてもよい。このようにアール部を設けることにより、抑制部位における相対変位時において、凹部の周方向端縁部の引っかかりを防止できる。
【0021】
前記嵌合部位における外方部材に周方向に沿って軸方向に延びるスリットを設け、周方向に隣り合うスリット間の残部の内径方向への縮径変位を可能としてもよい。このようにスリットを設けることによって、嵌合部位における締め付け嵌合を行い易くできる。
【0022】
前記残部の内径方向への縮径状態で、外方部材の嵌合部位を中間軸の嵌合部位に圧入し、この圧入によって、この残部を外径方向に拡径させたものであってもよい。このように構成することによって、回転変位時の抵抗を安定して発生させることができる。これによって、この抵抗によって、瞬間的に変動する捩り方向の変動エネルギーが相殺(吸収)されることになる。
【0023】
残部の周方向内径端をアール部とするのが好ましい。アール部を設けることにより、抑制部位における相対変位時において、スリットの引っかかりを防止できる。
【0024】
外方部材と中間軸との結合はセレーション結合であっても、溶接による結合であってもよい。
【0025】
入力側端部に摺動型等速自在継手を取り付け、出力側端部に固定式等速自在継手を取り付けたものであっても、入力側端部及び出力側端部に摺動型等速自在継手を取り付けたものであってもよい。
【発明の効果】
【0026】
本発明の等速自在継手用シャフトでは、トルク変動を減衰させる機構を設けたことによって、トルク変動による捩り振動を吸収することができる。この等速自在継手用シャフトを、自動車における駆動輪への動力伝達手段に用いれば、加減速を繰り返すような走行状態においても剛性感(=ダイレクト感)を損なうことなく優れた運転性が発揮され、しかも捩り振動を抑制することができる。
【0027】
減衰機構は、中間軸と外方部材とで構成することができ、構成の簡略化を図ることができ、しかも、外方部材はトルク伝達シャフトとして機能する中間軸に対して外嵌されるものでは、コンパクト化を図ることができる。
【0028】
また、出力側端部と中間軸と入力側端部とが一体成形されているので、入力側から出力側へのトルク伝達が安定する。
【0029】
中間軸と外方部材との間に潤滑剤を介在させたものでは、抑制部位における相対変位が滑らかに行うことができ、捩り振動を安定して抑制することができる。特に、潤滑剤溜り部を形成することによって、抑制部位における潤滑剤の介在が安定して、相対変位をさらに滑らかに行うことができる。また、潤滑剤溜り部を形成するために凹部の周方向端部にアール部を設けることにより、凹部の周方向端縁部の引っかかりを防止でき、相対変位がより滑らかに行うことができる。
【0030】
外方部材にスリットを設けることによって、外方部材の嵌合部位における拡縮変形を容易とできて、締め付け嵌合を行い易くでき、組立て作業性の向上を図ることができる。しかも、回転変位時の抵抗を発生でき、瞬間的に変動する捩り方向の変動エネルギーが相殺(吸収)されることになり、捩り振動の安定した抑制が可能となる。特に、残部の周方向内径端をアール部とすることにより、スリットの引っかかりを防止でき、相対変位がより滑らかに行うことができる。
【0031】
入力側端部に摺動型等速自在継手を取り付け、出力側端部に固定型等速自在継手を取り付けたものとすることができ、また、入力側端部及び出力側端部に摺動型等速自在継手を取り付けたものとできので、種々のタイプの動力伝達手段を構成でき、汎用性に優れる。
【図面の簡単な説明】
【0032】
【図1】本発明の等速自在継手用シャフトの縦断面図である。
【図2】前記等速自在継手用シャフトの要部拡大縦断面図である。
【図3】前記等速自在継手用シャフトの要部拡大横断面図である。
【図4】前記等速自在継手用シャフトの第1の変形例を示す要部拡大横断面図である。
【図5】図4の要部拡大断面図である。
【図6】前記等速自在継手用シャフトの第2の変形例を示す要部拡大横断面図である。
【図7】前記図6に示す等速自在継手用シャフトの要部拡大断面図である。
【図8】前記等速自在継手用シャフトの第3の変形例を示す要部拡大横断面図である。
【図9】前記図8に示す等速自在継手用シャフトのスリット間の残部の拡大図である。
【図10】前記図1に示す等速自在継手用シャフトの簡略断面図である。
【図11】前記図10のY−Y線断面図である。
【図12】前記図10のZ−Z線断面図である。
【図13】従来に車両用等速自在継手の要部断面図である。
【図14】前記図13に示す車両用等速自在継手の要部拡大断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0033】
以下、本発明の実施形態を図面に従って説明する。
【0034】
図1は本発明に係る等速自在継手用シャフトの縦断面図を示し、この等速自在継手用シャフトは、シャフト本体1と、このシャフト本体1に外嵌される外方部材2とを備え、シャフト中央部3には減衰機構4が設けられている。
【0035】
シャフト本体1は、出力側端部1aと、入力側端部1bと、中間軸(本体部)1cと、出力側端部1aと本体部1cとの間に配設される小径部1d及び中径部1eと、入力側端部1bと本体部1cとの間に配設される小径部1f及び中径部1gとを有するものである。
【0036】
この場合、出力側端部1aに図示省略の固定式等速自在継手が連結され、入力側端部1bに図示省略の摺動式等速自在継手が連結される。なお、固定式等速自在継手としては、トラック溝底が円弧部のみであるバーフィールド型やトラック溝底の一部に直線部分を有するアンダーカットフリー型等の種々のタイプのものを用いることができる。また、摺動式等速自在継手としては、ダブルオフセット型、トリポード型、又はクロスグルーブ型等の種々のタイプのものを用いることができる。
【0037】
このため、出力側端部1aはその外径面に雄スプライン5が形成されるとともに、止め輪(図示省略)が嵌合される周方向溝6が形成されている。また、入力側端部1bも同様に、その外径面に雄スプライン7が形成されるとともに、止め輪(図示省略)が嵌合される周方向溝8が形成されている。
【0038】
出力側端部1a側の中径部1eは図示省略の固定式等速自在継手の開口部を塞ぐためのブーツ(図示省略)の装着部(ブーツ固定部)を構成する。このため、中径部1eには周方向溝9が形成されている。また、入力側端部1b側の中径部1gは図示省略の摺動式等速自在継手の開口部を塞ぐためのブーツ(図示省略)の装着部(ブーツ固定部)を構成する。このため、中径部1gには周方向溝10が形成されている。
【0039】
また、中間軸(本体部)1cは、中央本体12と、出力側端部1a側の中径部1eに連設される大径部15と、入力側端部1b側の中径部1gに連設される大径部16とを有する。なお、大径部15は、大径本体15aと、この大径本体15aの軸方向両側に配設されるテーパ部15b、15cとからなる。また、大径本体16aと、この大径本体16aの軸方向両側に配設されるテーパ部16b、16cとからなる。
【0040】
外方部材2は、本体筒状部2aと、この本体筒状部2aの入力側の支持用小径部2bとを備える。この支持用小径部2bが、本体部1cの大径部16に結合される。この場合の結合はいわゆるセレーション結合20である。すなわち、図2に示すように、大径部16の外周面に雄セレーション20aを形成して雄形結合部を構成するとともに、支持用小径部2bの内周面に雌セレーション20bを形成して雌形結合部を構成し、雄形結合部と雌形結合部とを嵌合(係合)させることによって、結合するものである。なお、大径部16と支持用小径部2bとの結合手段は、セレーション結合20に限るものではなく、溶接等の他の手段であってもよい。また、このセレーション結合20における雄形結合部における雄セレーションには雄スプラインを含み、セレーション結合20における雌形結合部における雌セレーションには雌スプラインを含むものとする。このため、セレーション結合20にはスプライン結合を含む。
【0041】
また、外方部材2の出力側端部11は、大径部15に圧入されている。すなわち、所定の締め代をもって外方部材2の出力側端部11がシャフト本体1の大径部15に嵌合(外嵌)されている。
【0042】
次にこのシャフトの組立方法について説明する。シャフト本体1に、入力側から外方部材2を挿入する。この際、外方部材2の出力側端部11を圧入するとともに、シャフト本体1の大径部16の雄形結合部に対して外方部材2の支持用小径部2bの雌形結合部を圧入することになる。これによって、図1に示す等速自在継手用シャフトが完成する。このように組立てられた等速自在継手用シャフトは、シャフト本体1の中間軸1cと、これに外嵌される外方部材2にて減衰機構4を構成することになる。すなわち、中間軸1cの大径部15と、外方部材2の出力側端部11とが、後述するように、回転方向に相対変位する抑制部位となる。
【0043】
次に図10から図12を用いて、減衰機構4の機能を説明する。なお、入力側のセレーション結合20と出力側の相対変位部(つまり、中間軸1cと外方部材2とが相対変位する抑制部位となる嵌合部位25)との間は、任意の所定寸Aに設定される。入力側において、中間軸1cと外方部材2とがセレーション結合20にて結合されているので、入力側において、図10に示すように、トルク負荷が付与された場合、図11に示すように、外方部材2は中間軸1cの捩れ変位(θt)と同期する。図11において、P1は、トルク負荷時の中間軸1cと外方部材2の位相を示す。これに対して、出力側において、結合されていないので、図12に示すように、中間軸1cと外方部材2とには位相差(θt)が生じる。しかしながら、出力側において、外方部材2は中間軸1cに所定の締め代をもって嵌合されているので、発生する摩擦力(抵抗力)によって、瞬間的に変動する捩り方向の変動エネルギーが相殺(吸収)されることになる。このため、捩り振動を抑制(減衰)することができる。図12において、P2はトルク負荷時の中間軸1cの位相を示し、P3はトルク負荷時の外方部材2の位相を示す。
【0044】
このように、本発明では、トルク変動を抑制するための減衰機構4を設けたことによって、トルク変動による捩り振動を吸収することができる。このため、この等速自在継手用シャフトを、自動車における駆動輪への動力伝達手段に用いれば、加減速を繰り返すような走行状態においての剛性感(=ダイレクト感)を損なうことなく優れた運転性が発揮される。
【0045】
減衰機構4は、中間軸1cと外方部材2とで構成することができ、構成の簡略化を図ることができ、しかも、外方部材2はトルク伝達シャフトとして機能する中間軸1cに対して外嵌されるものでは、コンパクト化を図ることができる。
【0046】
また、出力側端部1aと中間軸1cと入力側端部1bとが一体成形されていので、入力側から出力側へのトルク伝達が安定する。
【0047】
ところで、前記嵌合部位25における、中間軸1cの大径部15の外径面と外方部材2の出力側端部11の内径面との間に潤滑剤を介在させてもよい。このように、抑制部位における相対変位が滑らかに行うことができ、捩り振動を安定して抑制することができる。
この場合の潤滑剤としては、グリース等を用いることができる。
【0048】
図4に示すように、嵌合部位25における中間軸と外方部材との間の周方向一部に潤滑剤溜り部30を設けてもよい。この場合、外方部材2の出力側端部11の内径面に、周方向に沿って所定ピッチ(例えば、60°ピッチ)に凹部31を設けることによって潤滑剤溜り部30を形成している。
【0049】
このように、潤滑剤溜り部30を設けることによって、抑制部位における潤滑剤の介在が安定して、抑制部位における摩擦抵抗を小さくでき、相対変位が滑らかに行うことができる。また、このような凹部31を設ける場合、図5に示すように、凹部31の周方向端部をアール部31a,31bとするのが好ましい。このように、凹部31の周方向端縁部の引っかかりを防止でき、相対変位がより滑らかに行うことができる。
【0050】
潤滑剤溜り部30を設ける場合、嵌合部位25における中間軸1cの外径面に周方向に沿って所定ピッチで配設される凹部31を形成して、前記潤滑剤溜り部30を構成するようにしてもよい。また、嵌合部位25としては、中間軸1cのブーツ固定部1eの近傍部位としてもよい。この場合、中間軸1cのブーツ固定部1eの近傍の外径面に凹部31を形成して、前記潤滑剤溜り部30を構成することになる。
【0051】
また、図6と図7に示すように、外方部材2の出力側端部11に軸方向に延びるスリット33を、周方向に沿って所定ピッチ(例えば、60°ピッチ)に設けたものであってもよい。この場合、周方向に隣り合うスリット33の残部34の内径方向への縮径変位が可能となる。
【0052】
そこで、このようなスリット33を設けた場合、図7の仮想線で示すように、残部34を内径方向へ縮径させた状態で、外方部材2の出力側端部11を中間軸1cの大径部15に圧入し、この圧入によって、この残部34を外径方向に拡径させるようにするのが好ましい。
【0053】
スリット33を設けることによって、外方部材2の嵌合部位における拡縮変形を容易とできて、締め付け嵌合を行い易くでき、組立て作業性の向上を図ることができる。しかも、回転変位時の抵抗を発生でき、瞬間的に変動する捩り方向の変動エネルギーが相殺(吸収)されることになり、捩り振動の安定した抑制が可能となる。
【0054】
図8では残部34の周方向内径端をアール部33a、33bとしている。このように、アール部33a、33bとすることにより、スリット33の引っかかりを防止でき、相対変位がより滑らかに行うことができる。
【0055】
また、この等速自在継手用シャフトは、前記実施形態では、入力側端部1bに摺動式等速自在継手を取付け、出力側端部1aに固定式等速自在継手を取付けるものであったが、他の実施形態として、出力側端部1aおよび入力側端部1bに摺動式等速自在継手を取付けるものとすることができる。また、この場合の摺動式等速自在継手としても、ダブルオスセット型、トリポード型、又はクロスグルーブ型等の種々のタイプのものを用いることができる。このように、本発明の等速自在継手用シャフトは、種々のタイプの動力伝達手段を構成でき、汎用性に優れる。
【0056】
前記実施形態では、外方部材2を中間軸1cの入力側に結合していたが、別の実施形態として、外方部材2を中間軸1cの出力側に結合してもよい。このような場合であっても、入力側端部からのトルク負荷による回転変動を抑制することができ、捩り方向の振動を吸収することができる。
【0057】
以上、本発明の実施形態につき説明したが、本発明は前記実施形態に限定されることなく種々の変形が可能であって、例えば、締め代としては、中間軸1cと外方部材2との間で、相対変位部において、位相差が生じる摩擦抵抗を発生させる範囲で種々変更できる。また、嵌合部位25の嵌合範囲、潤滑剤溜り部30の各体積、潤滑剤溜り部30の数、スリット33の大きさ、スリット33の数等としても、位相差が生じる摩擦抵抗を発生させる範囲で種々変更できる。
【0058】
前記実施形態では、外方部材2はその入力側が小径部2bとされているが、このような小径部2bを設けないものであってもよい。すなわち、外方部材2の入力側の本体筒状部2aと連続した同一径の筒部としてもよい。また、外方部材2の出力側を小径部としてもよい。
【0059】
凹部31のアール部31a、31bの曲率半径や残部34のアール部33a、33bの曲率半径は任意に設定できる。
【符号の説明】
【0060】
1a 出力側端部
1c 中間軸(本体部)
1b 入力側端部
2 外方部材
3 シャフト中央部
4 減衰機構
25 嵌合部位
30 潤滑剤溜り部
31a,31bアール部
31 凹部
33a、33bアール部
33 スリット
34 残部
【特許請求の範囲】
【請求項1】
出力側端部および入力側端部にそれぞれ等速自在継手が接続され、出力側端部と入力側端部との間の等速自在継手用シャフト中央部に、入力側端部からのトルク変動を回転方向の抵抗により抑制する減衰機構を設けた等速自在継手用シャフトであって、
前記減衰機構は、出力側端部と入力側端部とを連結する中間軸と、この中間軸に外嵌される筒状の外方部材とで構成され、この中間軸と外方部材とが抑制部位において回転方向に相対変位することを特徴とする等速自在継手用シャフト。
【請求項2】
前記外方部材は、トルク入力側又はトルク出力側において中間軸に結合され、中間軸に結合されていないトルク出力側又はトルク入力側における中間軸との嵌合部位が前記抑制部位となって、中間軸と相対変位することを特徴とする請求項1に記載の等速自在継手用シャフト。
【請求項3】
出力側端部と中間軸と入力側端部とが一体成形されていることを特徴とする請求項1又は請求項2に記載の等速自在継手用シャフト。
【請求項4】
中間軸と外方部材とはその抑制部位において、締め代が付与されて嵌合されることを特徴とする請求項1〜請求項3のいずれか1項に記載の等速自在継手用シャフト。
【請求項5】
中間軸と外方部材とが相対変位する前記抑制部位となる嵌合部位における中間軸と外方部材との間に潤滑剤を介在させたことを特徴とする請求項1〜請求項4のいずれか1項に記載の等速自在継手用シャフト。
【請求項6】
前記嵌合部位に前記潤滑剤を溜める潤滑剤溜り部を設けたことを特徴とする請求項5に記載の等速自在継手用シャフト。
【請求項7】
前記嵌合部位における外方部材内径面に周方向に沿って所定ピッチで配設される凹部を形成して、前記潤滑剤溜り部を構成する特徴とすることを請求項6に記載の等速自在継手用シャフト。
【請求項8】
前記嵌合部位における中間軸外径面に周方向沿って所定ピッチで配設される凹部を形成して、前記潤滑剤溜り部を構成する特徴とすることを請求項6に記載の等速自在継手用シャフト。
【請求項9】
前記中間軸のブーツ固定部近傍の外径面に凹部を形成して、前記潤滑剤溜り部を構成したことを特徴とする請求項6に記載の等速自在継手用シャフト。
【請求項10】
前記潤滑剤溜り部を構成するための凹部における周方向端縁部をアール部としたことを特徴とする請求項6〜請求項9のいずれか1項に記載の等速自在継手用シャフト。
【請求項11】
前記嵌合部位における外方部材に周方向に沿って軸方向に延びるスリットを設け、周方向に隣り合うスリット間の残部の内径方向への縮径変位を可能としたことを特徴とする請求項2〜請求項10のいずれか1項に記載の等速自在継手用シャフト。
【請求項12】
前記残部の内径方向への縮径状態で、外方部材の嵌合部位を中間軸の嵌合部位に圧入し、この圧入によって、この残部を外径方向に拡径させたことを特徴とする請求項11に記載の等速自在継手用シャフト。
【請求項13】
前記残部の周方向内径端をアール部としたことを特徴とする請求項11又は請求項12に記載の等速自在継手用シャフト。
【請求項14】
外方部材と中間軸との結合はセレーション結合であることを特徴とする請求項2〜請求項13に記載の等速自在継手用シャフト。
【請求項15】
外方部材と中間軸との結合は溶接による結合であることを特徴とする請求項2〜請求項13に記載の等速自在継手用シャフト。
【請求項16】
入力側端部に摺動型等速自在継手を取り付け、出力側端部に固定式等速自在継手を取り付けたことを特徴とする請求項1〜請求項15のいずれか1項に記載の等速自在継手用シャフト。
【請求項17】
入力側端部及び出力側端部に摺動型等速自在継手を取り付けたことを特徴とする請求項1〜請求項15のいずれか1項に記載の等速自在継手用シャフト。
【請求項1】
出力側端部および入力側端部にそれぞれ等速自在継手が接続され、出力側端部と入力側端部との間の等速自在継手用シャフト中央部に、入力側端部からのトルク変動を回転方向の抵抗により抑制する減衰機構を設けた等速自在継手用シャフトであって、
前記減衰機構は、出力側端部と入力側端部とを連結する中間軸と、この中間軸に外嵌される筒状の外方部材とで構成され、この中間軸と外方部材とが抑制部位において回転方向に相対変位することを特徴とする等速自在継手用シャフト。
【請求項2】
前記外方部材は、トルク入力側又はトルク出力側において中間軸に結合され、中間軸に結合されていないトルク出力側又はトルク入力側における中間軸との嵌合部位が前記抑制部位となって、中間軸と相対変位することを特徴とする請求項1に記載の等速自在継手用シャフト。
【請求項3】
出力側端部と中間軸と入力側端部とが一体成形されていることを特徴とする請求項1又は請求項2に記載の等速自在継手用シャフト。
【請求項4】
中間軸と外方部材とはその抑制部位において、締め代が付与されて嵌合されることを特徴とする請求項1〜請求項3のいずれか1項に記載の等速自在継手用シャフト。
【請求項5】
中間軸と外方部材とが相対変位する前記抑制部位となる嵌合部位における中間軸と外方部材との間に潤滑剤を介在させたことを特徴とする請求項1〜請求項4のいずれか1項に記載の等速自在継手用シャフト。
【請求項6】
前記嵌合部位に前記潤滑剤を溜める潤滑剤溜り部を設けたことを特徴とする請求項5に記載の等速自在継手用シャフト。
【請求項7】
前記嵌合部位における外方部材内径面に周方向に沿って所定ピッチで配設される凹部を形成して、前記潤滑剤溜り部を構成する特徴とすることを請求項6に記載の等速自在継手用シャフト。
【請求項8】
前記嵌合部位における中間軸外径面に周方向沿って所定ピッチで配設される凹部を形成して、前記潤滑剤溜り部を構成する特徴とすることを請求項6に記載の等速自在継手用シャフト。
【請求項9】
前記中間軸のブーツ固定部近傍の外径面に凹部を形成して、前記潤滑剤溜り部を構成したことを特徴とする請求項6に記載の等速自在継手用シャフト。
【請求項10】
前記潤滑剤溜り部を構成するための凹部における周方向端縁部をアール部としたことを特徴とする請求項6〜請求項9のいずれか1項に記載の等速自在継手用シャフト。
【請求項11】
前記嵌合部位における外方部材に周方向に沿って軸方向に延びるスリットを設け、周方向に隣り合うスリット間の残部の内径方向への縮径変位を可能としたことを特徴とする請求項2〜請求項10のいずれか1項に記載の等速自在継手用シャフト。
【請求項12】
前記残部の内径方向への縮径状態で、外方部材の嵌合部位を中間軸の嵌合部位に圧入し、この圧入によって、この残部を外径方向に拡径させたことを特徴とする請求項11に記載の等速自在継手用シャフト。
【請求項13】
前記残部の周方向内径端をアール部としたことを特徴とする請求項11又は請求項12に記載の等速自在継手用シャフト。
【請求項14】
外方部材と中間軸との結合はセレーション結合であることを特徴とする請求項2〜請求項13に記載の等速自在継手用シャフト。
【請求項15】
外方部材と中間軸との結合は溶接による結合であることを特徴とする請求項2〜請求項13に記載の等速自在継手用シャフト。
【請求項16】
入力側端部に摺動型等速自在継手を取り付け、出力側端部に固定式等速自在継手を取り付けたことを特徴とする請求項1〜請求項15のいずれか1項に記載の等速自在継手用シャフト。
【請求項17】
入力側端部及び出力側端部に摺動型等速自在継手を取り付けたことを特徴とする請求項1〜請求項15のいずれか1項に記載の等速自在継手用シャフト。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【公開番号】特開2012−122511(P2012−122511A)
【公開日】平成24年6月28日(2012.6.28)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−272132(P2010−272132)
【出願日】平成22年12月7日(2010.12.7)
【出願人】(000102692)NTN株式会社 (9,006)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成24年6月28日(2012.6.28)
【国際特許分類】
【出願日】平成22年12月7日(2010.12.7)
【出願人】(000102692)NTN株式会社 (9,006)
【Fターム(参考)】
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