等速自在継手
【課題】従来からある加工方法を取りながら、高いガタ詰め効果が得られる内方部材とシャフトのスプライン嵌合部を有する等速自在継手を提供することにある。
【解決手段】継手の内方部材2がシャフト10とスプライン嵌合した等速自在継手1において、前記内方部材2およびシャフト10の少なくとも一方のスプラインのピッチ円が丸型スプラインのピッチ円に対して異形形状に形成され、当該一方のスプラインのピッチ円直径と他方のスプラインのピッチ円直径との半径差により、スプライン嵌合部の円周方向の複数箇所に部分的に締め代を有する。
【解決手段】継手の内方部材2がシャフト10とスプライン嵌合した等速自在継手1において、前記内方部材2およびシャフト10の少なくとも一方のスプラインのピッチ円が丸型スプラインのピッチ円に対して異形形状に形成され、当該一方のスプラインのピッチ円直径と他方のスプラインのピッチ円直径との半径差により、スプライン嵌合部の円周方向の複数箇所に部分的に締め代を有する。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、継手の内方部材がシャフトとスプライン嵌合した等速自在継手に関する。
【背景技術】
【0002】
例えば、自動車のエンジンから車輪に回転力を等速で伝達するドライブシャフトやプロペラシャフト等に組み込まれる等速自在継手には、固定式等速自在継手と摺動式等速自在継手の二種がある。これらの等速自在継手は、駆動側と従動側の二軸を連結して、その二軸が作動角をとっても等速で回転トルクを伝達し得る構造を備えている。
【0003】
自動車のエンジンから駆動車輪に動力を伝達するドライブシャフトは、デフと車輪との相対的な位置関係の変化による角度変位と軸方向変位に対応する必要があるため、一般的にデフ側(インボード側)に角度変位と軸方向変位に対応できる摺動式等速自在継手を、駆動車輪側(アウトボード側)に大きな作動角が取れる固定式等速自在継手をそれぞれ装着し、両等速自在継手をシャフトで連結した構造を有する。この等速自在継手の内方部材とシャフトの連結構造として、スプライン結合(セレーション結合も含む。以下、同じ)が使用されている。
【0004】
ところで、近年の自動車においては、騒音、振動等のNVH(Noise Vibration Harshness)対策として、また、自動車の走行応答性の観点から、動力伝達系の各結合部の円周方向ガタを詰めることが重要視されている。そのため、ドライブシャフトにおいては、等速自在継手の内方部材とシャフトとのスプライン嵌合部は締め代とすることが望ましい。ところが、締め代が大きくなり過ぎると、スプライン嵌合時の圧入力の増大、スプライン部のむしれや過大な応力集中が発生し、軸強度、軸寿命の低下を招く恐れがある。
【0005】
そこで、シャフトのスプライン部に捩れを設けて、スプラインの嵌合締め代を確保しながら、圧入力を増大させない工夫がなされている。しかし、回転方向によりシャフト端部の応力が高くなり、かえって軸強度の低下、軸寿命の低下を招く恐れがある(特許文献1参照)。
【0006】
上記の従来技術の問題について図17〜図22に基づいて説明する。図17、図18に固定式等速自在継手であるツェッパ型等速自在継手101を示す。この等速自在継手101は、外側継手部材103、内側継手部材102、ボール104およびケージ105からなる。外側継手部材103の球状内周面106には複数のトラック溝107が円周方向等間隔に、かつ軸方向に沿って形成されている。内側継手部材102の球状外周面108には、外側継手部材103のトラック溝107と対向するトラック溝109が円周方向等間隔に、かつ軸方向に沿って形成されている。外側継手部材103のトラック溝107と内側継手部材102のトラック溝109との間にトルクを伝達する複数のボール104が介在されている。外側継手部材103の球状内周面106と内側継手部材102の球状外周面108の間に、ボール104を保持するケージ105が配置されている。外側継手部材103の外周と、内側継手部材102にスプライン嵌合されたシャフト110の外周とをブーツ111で覆い、継手内部には、潤滑剤としてグリースが封入されている。
【0007】
図17に示すように、外側継手部材103の球状内周面106と内側継手部材102の球状外周面108の曲率中心は、いずれも、継手の中心Oに形成されている。これに対して、外側継手部材103のトラック溝107の曲率中心Aと、内側継手部材102のトラック溝109の曲率中心Bとは、継手の中心Oに対して軸方向に等距離オフセットされている。これにより、継手が作動角をとった場合、外側継手部材103と内側継手部材102の両軸線がなす角度を二等分する平面上にボール104が常に案内され、二軸間で等速に回転トルクが伝達されることになる。
【0008】
図19は、内側継手部材102を拡大した正面図である。内側継手部材102の内径孔112に雌スプライン113が形成されている。また、図20に示すようにシャフト110の軸端部114に雄スプライン115が形成されている。雄スプライン115と雌スプライン113はいずれもスプラインのピッチ円が真円形状である。図22にスプライン嵌合部を拡大した横断面を示す。この図に示すように、シャフト110に形成された雄スプライン115と内側継手部材102に形成された雌スプライン113は同じピッチ円直径PCDを有する。内側継手部材102の内径孔112に形成された雌スプライン113は、軸線に平行に延び、一方、シャフト110の軸端部114に形成された雄スプライン115は、軸線に対して捩れ角γ(図21参照)を有する。この捩れ角γの値は10分程度である。したがって、図21に示すように、シャフト110の雄スプライン115(破線で図示)を内側継手部材102の雌スプライン113(実線で図示)に圧入したとき、雄スプライン115の歯面115aと雌スプライン113の歯面113aの間でハッチングした部分が締め代部となり圧縮応力が生じ、その圧縮応力は内側継手部材102の両端102aで大きくなる。シャフト110と内側継手部材102間に回転トルクがかかると、上記の圧縮応力に加えて回転トルクが加わるので、内側継手部材102の両端102aでの応力が高くなり、軸強度の低下、軸寿命の低下を招く恐れがある。
【0009】
また、特許文献2〜4には、シャフト強度を確保しつつ、高いガタ詰め効果が得られる形状が提案されているが、形状が複雑であり、加工性が著しく低下することが考えられる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【特許文献1】実公平6−33220号公報
【特許文献2】特開2007−247771号公報
【特許文献3】特開2007−247770号公報
【特許文献4】特開2007−247769号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
本発明は、前述の問題点に鑑みて提案されたもので、その目的とするところは、従来からある加工方法を取りながら、高いガタ詰め効果が得られる内方部材とシャフトのスプライン嵌合部を有する等速自在継手を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明者らは、上記の目的を達成するために種々検討した結果、基本的に内方部材の全体的な弾性変形を利用してガタ詰めを行うという新規な手段を着想した。
【0013】
前述の目的を達成するための技術的手段として、本発明は、継手の内方部材がシャフトとスプライン嵌合した等速自在継手において、前記内方部材およびシャフトの少なくとも一方のスプラインのピッチ円が、丸型スプラインのピッチ円に対して異形形状に形成され、当該一方のスプラインのピッチ円直径と他方のスプラインのピッチ円直径との半径差により、スプライン嵌合部の円周方向の複数箇所に部分的に締め代を有することを特徴とする。具体的には、締め代は0.01mm〜0.03mm程度である。
【0014】
上記の構成により、基本的に内方部材の全体的な弾性変形を利用して、スプライン嵌合部の締め代部が円周方向の複数箇所に部分的に形成されるので、シャフトと内方部材の組付け時の圧入力を低く抑えることができ、円周方向ガタを確実に抑制することができる。また、スプライン嵌合部の締め代部が内方部材の軸方向幅の全長にわたって形成されるので、円周方向ガタを確実に抑制することができる。
【0015】
具体的には、前記異形形状のスプラインが内方部材に形成され、前記シャフトには丸型スプラインが形成されている。これとは逆に、前記異形形状のスプラインがシャフトに形成され、前記内方部材には丸型スプラインが形成されている。丸型スプラインとはスプラインのピッチ円が真円形状のものと定義する。上記構成により、スプライン加工において、内方部材側はブローチ加工を施すことができ、一方、シャフト側は、丸型スプラインの場合は転造加工を施し、三角形状や多角形状などの異形形状の場合はプレス加工を施すことができ、いずれも、通常用いる加工方法により、容易に製造することができる。
【0016】
さらに、前記異形形状のスプラインが前記内方部材とシャフトのいずれにも形成され、両部材の異形形状の頂部を周方向で互いにずらせて嵌合したことを特徴とする。
【0017】
前記異形形状が三角形状あるいは多角形状であることを特徴とする。雄スプラインのピッチ円直径と雌スプラインのピッチ円直径の半径差は0.01mm〜0.03mm程度である。特に好ましいのは、0.01mm〜0.02mm程度である。スプライン嵌合部の円周方向の複数箇所に部分的に締め代部が生じる構成のため、スプライン嵌合時の圧入力を抑制することができるので、上記半径差を最大0.04mm程度まで可能にできる。これにより、円周方向ガタを確実に抑制することができる。また、上記の構成により、従来と同様の材料や熱処理でも、シャフトと内方部材のスプライン嵌合時の圧入力を低く抑えることができ、円周方向ガタを確実に抑制することができる。
【0018】
前記シャフトのスプラインが軸方向に捩れ角を有することを特徴とする。これにより、スプライン嵌合時の圧入力をさらに抑制することができる。
【0019】
前記内方部材は、ボールを有する等速自在継手の内側継手部材や、トリポード型等速自在継手のトリポード部材である。
【発明の効果】
【0020】
本発明によれば、基本的に内方部材の全体的な弾性変形を利用して、スプライン嵌合部の締め代部が円周方向の複数箇所に部分的に形成されるので、シャフトと内方部材の組付け時の圧入力を低く抑えることができ、円周方向ガタを確実に抑制することができる。さらに、スプライン嵌合部の締め代部が内方部材の軸方向幅の全長にわたって形成されるので、円周方向ガタを一層抑制することができる。
【0021】
また、スプライン加工において、内方部材側はブローチ加工を施すことができ、一方、シャフト側は、丸型スプラインの場合は転造加工を施し、三角形状や多角形状などの異形形状の場合はプレス加工を施すことができ、いずれも、通常用いる加工方法により、容易に製造することができる。さらに、従来と同様の材料や熱処理でも、シャフトと内方部材のスプライン嵌合時の圧入力を低く抑えることができ、円周方向ガタを確実に抑制することができる。
【図面の簡単な説明】
【0022】
【図1】本発明の第1の実施形態の等速自在継手の縦断面図である。
【図2】本発明の第1の実施形態の等速自在継手の正面図である。
【図3】内側継手部材を拡大した正面図である。
【図4】シャフトを拡大した図である。
【図5】第1の実施形態のスプラインの嵌合状態を示す図である。
【図6】第2の実施形態のスプラインの嵌合状態を示す図である。
【図7】第3の実施形態のスプラインの嵌合状態を示す図である。
【図8】第4の実施形態のスプラインの嵌合状態を示す図である。
【図9】第5の実施形態の等速自在継手の縦断面図である。
【図10】トリポード部材を拡大した正面図である。
【図11】シャフトを拡大した図である。
【図12】第5の実施形態のスプラインの嵌合状態を示す図である。
【図13】第6の実施形態のスプラインの嵌合状態を示す図である。
【図14】第7の実施形態のスプラインの嵌合状態を示す図である。
【図15】第8の実施形態のスプラインの嵌合状態を示す図である。
【図16】トリポード部材の熱処理変形を示す図である。
【図17】従来の等速自在継手の縦断面図である。
【図18】従来の等速自在継手の正面図である。
【図19】従来の等速自在継手の内側継手部材を拡大した正面図である。
【図20】従来の等速自在継手のシャフトを拡大した図である。
【図21】従来のスプラインの嵌合状態を示す説明図である。
【図22】従来のスプラインの嵌合状態を示す横断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0023】
以下に本発明の実施の形態を図面に基づいて説明する。
【0024】
本発明の第1の実施形態を図1〜図5に基づいて説明する。本実施形態の等速自在継手1は固定式等速自在継手であるツェッパ型等速自在継手である。図1および図2に示すように、等速自在継手1は、外側継手部材3、内方部材としての内側継手部材2、ボール4およびケージ5からなる。外側継手部材3の球状内周面6には6本のトラック溝7が円周方向等間隔に、かつ軸方向に沿って形成されている。内側継手部材2の球状外周面8には、外側継手部材3のトラック溝7と対向するトラック溝9が円周方向等間隔に、かつ軸方向に沿って形成されている。外側継手部材3のトラック溝7と内側継手部材2のトラック溝9との間にトルクを伝達する6個のボール4が介在されている。外側継手部材3の球状内周面6と内側継手部材2の球状外周面8の間に、ボール4を保持するケージ5が配置されている。外側継手部材3の外周と、内側継手部材2にスプライン連結されたシャフト10の外周とをブーツ11で覆い、継手内部には、潤滑剤としてグリースが封入されている。
【0025】
図1に示すように、外側継手部材3の球状内周面6と内側継手部材2の球状外周面8の曲率中心は、いずれも、継手の中心Oに形成されている。これに対して、外側継手部材3のトラック溝7の曲率中心Aと、内側継手部材2のトラック溝9の曲率中心Bとは、継手の中心Oに対して軸方向に等距離オフセットされている。これにより、継手が作動角をとった場合、外側継手部材3と内側継手部材2の両軸線がなす角度を二等分する平面上にボール4が常に案内され、二軸間で等速に回転トルクが伝達されることになる。
【0026】
図3は、内側継手部材2を拡大した正面図である。内側継手部材2の内径孔12に雌スプライン13が形成されている。丸型スプラインのピッチ円に対して異形形状のピッチ円を有するスプラインとして、雌スプライン13のピッチ円は、頂部13bを有する微少な径差の三角形状(おむすび形状)に形成され、頂部13bと、頂部13b、13b間の中間部の半径差は0.01mm〜0.03mm程度となっている。内側継手部材2の雌スプライン13は、上記のような三角形状のピッチ円形状で、軸線に平行に延びている。
【0027】
図4にシャフト10を示す。シャフト10の軸端部14に雄スプライン15が形成されている。雄スプライン15は、丸型スプラインで、軸線に平行に延びている。
【0028】
図5に内側継手部材2の雌スプライン13(歯面の図示省略、他の実施形態も同じ)にシャフト10の雄スプライン15(歯面の図示省略、他の実施形態も同じ)を圧入した状態を示す。内側継手部材2の雌スプライン13のピッチ円直径PCDiを実線で示し、シャフト10の雄スプライン15のピッチ円直径PCDsを破線で示す。内側継手部材2の雌スプライン13のピッチ円直径PCDiは、前述したように頂部13bを有する微少な径差の三角形状(おむすび形状)に形成され、頂部13bと、頂部13b、13b間の中間部の半径差は0.01mm〜0.03mm程度となっている。本実施形態や後述する他の実施形態において説明を分かりやすくするため、雌スプライン13の三角形状は誇張して示している。この実施形態では、各頂部13bはトラック溝9の溝底に配置されている。内側継手部材2の三角形状の雌スプライン13は、従来と同様、ブローチ加工により、容易に製造することができる。一方、シャフト10の雄スプライン15は丸型スプラインである。丸型スプラインであるので、従来と同様、転造加工により、容易に製造することができる。
【0029】
シャフト10の雄スプライン15を内側継手部材2の雌スプライン13に圧入したとき、雄スプライン15のピッチ円直径PCDsと雌スプライン13のピッチ円直径PCDiの半径差δにより、基本的に内側継手部材2が全体的に弾性変形し、円周方向の3箇所に部分的に締め代部16(ハッチングで図示)が生じる。雄スプライン15のピッチ円直径PCDsと雌スプライン13のピッチ円直径PCDiの半径差は0.01mm〜0.03mm程度となっている。特に好ましいのは、0.01mm〜0.02mm程度である。本実施形態では、雌スプライン13のピッチ円の頂部13bにおいて、雄スプライン15のピッチ円直径PCDsより雌スプライン13のピッチ円直径PCDiが大きく、隙間嵌合としている。しかし、この頂部13bにおいて軽微な締め代を付与することも可能であり、後述する他の実施形態においても同様である。スプライン嵌合部の円周方向の3箇所に部分的に締め代部16が生じる構成のため、スプライン嵌合時の圧入力を抑制することができるので、雄スプライン15のピッチ円直径PCDsと雌スプライン13のピッチ円直径PCDiの半径差を最大0.04mm程度まで可能にできる。これにより、円周方向ガタを確実に抑制することができる。また、締め代部16は、内側継手部材2の軸方向幅の全長にわたって形成されるので、スプライン嵌合時の圧入力の増大、スプライン部のむしれや過大な応力集中が回避でき、軸強度および軸寿命を高めることができる。
【0030】
本実施形態では、シャフト10の雄スプライン15を丸型スプラインで軸線に平行に延びるものを示したが、雄スプライン15に軸方向に捩れ角を付与してもよい。この場合の捩れ角は、従来技術である図15に示す捩れ角γ(10分程度)より小さくすることが望ましい。雄スプライン15に軸方向に捩れ角を付与することにより、スプライン嵌合時の圧入力をさらに抑制することができる。また、捩れ角を有する丸型スプラインは、従来と同様、転造加工により、容易に製造することができる。
【0031】
次に、本発明の第2の実施形態を図6に基づいて説明する。本実施形態および後述する第3、第4の実施形態では、前述した第1の実施形態と同様の機能を有する箇所には同一の符号を付して重複説明を省略する。
【0032】
この実施形態は、第1の実施形態と比較して、丸型スプラインが内側継手部材2側に形成され、三角形状のスプラインがシャフト10側に形成されるところが異なる。内側継手部材2の雌スプライン13のピッチ円直径PCDiを実線で示し、シャフト10の雄スプライン15のピッチ円直径PCDsを破線で示す。内側継手部材2の雌スプライン13のピッチ円は真円形状で、丸型スプラインである。シャフト10の雄スプライン15のピッチ円は頂部15bを有する微少な径差の三角形状(おむすび形状)に形成され、頂部15bと、頂部15b、15b間の中間部の半径差は0.01mm〜0.03mm程度となっている。各頂部15bはトラック溝9の溝底に配置されている。この実施形態においても、締め代部16は、内側継手部材2の軸方向幅の全長にわたって形成されるので、スプライン嵌合時の圧入力の増大、スプライン部のむしれや過大な応力集中が回避でき、軸強度および軸寿命を高めることができる。
【0033】
シャフト10の三角形状のピッチ円を有する雄スプライン15の加工は、転造加工ではなく、プレス加工により容易に製造することができる。このプレス加工は、従来より実施されている加工方法で、三角形状の雄スプライン15に対応する成形面を有する金型に振動を与えながらプレス加工するものである。
【0034】
本発明の第3の実施形態を図7に基づいて説明する。この実施形態は、第1の実施形態に対して、丸型スプラインのピッチ円に対して異形形状のピッチ円を有するスプラインとして、内側継手部材2に形成された雌スプライン13が微少径差の五角形状であることが異なる。内側継手部材2の雌スプライン13のピッチ円直径PCDiは、頂部13bを有する微少な径差の五角形状に形成され、頂部13bと、頂部13b、13b間の中間部の半径差は0.01mm〜0.03mmとなっている。前述した実施形態と同様に、シャフト10の雄スプライン15を内側継手部材2の雌スプライン13に圧入したとき、雄スプライン15のピッチ円直径PCDsと雌スプライン13のピッチ円直径PCDiの半径差により、内側継手部材2が全体的に弾性変形し、円周方向の5箇所に締め代部16(ハッチングで図示)が生じる。締め代部16は、内側継手部材2の軸方向幅の全長にわたって形成されるので、スプライン嵌合時の圧入力の増大、スプライン部のむしれや過大な応力集中が回避でき、軸強度および軸寿命を高めることができる。
【0035】
本発明の第4の実施形態を図8に基づいて説明する。この実施形態は、第1の実施形態に対して、シャフト10の雄スプライン15も三角形状(おむすび形状)に形成し、この三角形状の雄スプライン15のピッチ円の頂部15bと、内側継手部材2の三角形状の雌スプライン13のピッチ円の頂部13bとを円周方向に互いにずらせて圧入したことが異なる。シャフト10の三角形状の雄スプライン15のピッチ円直径PCDsの頂部15bと、頂部15b、15b間の中間部の半径差および内側継手部材2の三角形状の雌スプライン13のピッチ円直径PCDiの頂部13bと、頂部13b、13b間の中間部の半径差は、いずれも0.01mm〜0.03mm程度となっている。シャフト10の雄スプライン15を内側継手部材2の雌スプライン13に圧入したとき、雄スプライン15のピッチ円直径PCDsと雌スプライン13のピッチ円直径PCDiの径差により、内側継手部材2が全体的に弾性変形し、円周方向の6箇所に締め代部16(ハッチングで図示)が生じる。
【0036】
本発明の第5の実施形態を図9および図12に基づいて説明する。この実施形態はトリポード型等速自在継手に適用したものである。この等速自在継手21は、外側継手部材23、内方部材としてのトリポード部材22、転動体24および球面ローラ25とからなる。外側継手部材23の内周部に軸方向の三本のトラック溝26が形成され、各トラック溝26の両側にそれぞれ軸方向のローラ案内面27が形成されている。トリポード部材22は、そのボス部22aより三本の脚軸22bが放射状に形成されている。脚軸22bに多数の転動体24を介して球面ローラ25が嵌合され、転動体24の両端にワッシャ28、29を介させ、ワッシャ29は止め輪30により位置決めされている。これにより、転動体24の列が脚軸22b上で案内されると共に、球面ローラ25は、転動体24上で回転自在であると共に、脚軸22bの軸線方向に移動可能となっている。球面ローラ25は、外側継手部材23のローラ案内面27に回転自在に収容されている。
【0037】
このように、外側継手部材23のローラ案内面27とトリポード部材22の三本の脚軸22bとが球面ローラ25を介して回転方向に係合することにより、駆動側から従動側へ回転トルクが等速で伝達される。また、各球面ローラ25が脚軸22bに対して回転しながらローラ案内面27上を転動することにより、外側継手部材23とトリポード部材22との間の相対的な軸方向変位や角度変位が吸収される。
【0038】
図9に示すように、トリポード部材22のボス部22aの内径孔32に雌スプライン33が形成されている。この雌スプライン33とシャフト31の雄スプライン35が嵌合される。
【0039】
図10は、トリポード部材22を拡大した正面図である。トリポード部材22の内径孔32に雌スプライン33が形成されている。丸型スプラインのピッチ円に対して異形形状のピッチ円を有するスプラインとして、雌スプライン33のピッチ円は、頂部33bを有する微少な径差の三角形状(おむすび形状)に形成され、頂部33bと、頂部33b、33b間の中間部の半径差は0.01mm〜0.03mm程度となっている。トリポード部材22の雌スプライン33は、上記のような三角形状のピッチ円形状で、軸線に平行に延びている。
【0040】
図11にシャフト31を示す。シャフト31の軸端部34に雄スプライン35が形成されている。雄スプライン35は、丸型スプラインで、軸線に平行に延びている。
【0041】
図12に、トリポード部材22の雌スプライン33のピッチ円直径PCDtを実線で示し、シャフト31の雄スプライン35のピッチ円直径PCDsを破線で示す。雌スプライン33のPCDtは、頂部33bを有する微少な径差の三角形状(おむすび形状)に形成され、頂部33bと、頂部33b、33b間の中間部の半径差は0.01mm〜0.03mm程度となっている。トリポード部材22の雌スプライン33は、第1の実施形態と同様、三角形状のPCDtで、軸線に平行に延びている。この実施形態では、各頂部33bは脚軸22bの中心位置のボス部22aに配置されている。シャフト31の雄スプライン35は丸型スプラインで、軸方向に平行に延びている。
【0042】
本実施形態では、シャフト31の雄スプライン35を丸型スプラインで軸線に平行に延びるものを示したが、雄スプライン35に軸方向に捩れ角を付与してもよい。この場合の捩れ角は、図15に示す捩れ角γ(10分程度)より小さくすることが望ましい。雄スプライン35に軸方向に捩れ角を付与することにより、スプライン嵌合時の圧入力をさらに抑制することができる。また、捩れ角を有する丸型スプラインは、従来と同様、転造加工により、容易に製造することができる。
【0043】
シャフト31の雄スプライン35をトリポード部材22の雌スプライン33に圧入したとき、雄スプライン35のピッチ円直径PCDsと雌スプライン33のピッチ円直径PCDtの半径差により、トリポード部材22のボス部22aが全体的に弾性変形し、円周方向の3箇所に締め代部36(ハッチングで図示)が生じる。締め代部36は、トリポード部材22の軸方向幅の全長にわたって形成されるので、スプライン嵌合時の圧入力の増大、スプライン部のむしれや過大な応力集中が回避でき、軸強度および軸寿命を高めることができる。
【0044】
トリポード部材22は、非常に変肉の大きい形状であるため、熱処理後に雌スプライン33が三角形状(おむすび形状)の変形が伴う。その変形を図16に示す。熱処理前の雌スプライン33のピッチ円直径PCDt(1)を破線で示し、熱処理後の雌スプライン33のピッチ円直径PCDt(2)を実線で示す。本実施形態では、トリポード部材22のこの特性を生かして、シャフト31の丸型スプラインとの嵌合が円周方向の3箇所で0.01mm〜0.03mm程度の締め代となるように設定することができる。この実施形態では、トリポード部材22の変形特性を生かして、雌スプライン33の各頂部33bを脚軸22bの中心位置のボス部22aに配置させている。また、トリポード部材22の雌スプライン33の熱処理後の形状を、四角形状、五角形状、六角形状などになるように予め設定することができる。
【0045】
図13に本発明の第6の実施形態を示す。本実施形態および後述する第7、第8の実施形態では、前述した第5の実施形態と同様の機能を有する箇所には同一の符号を付して重複説明を省略する。
【0046】
第6の実施形態は、雌スプライン33と雄スプライン35の関係については、第2の実施形態と同じである。丸型スプラインがトリポード部材22に形成され、三角形状のスプラインがシャフト31側に形成されている。トリポード部材22の雌スプライン33のピッチ円直径PCDtを実線で示し、シャフト31の雄スプライン35のピッチ円直径PCDsを破線で示す。シャフト31の雄スプライン35のピッチ円は頂部35bを有する微少な径差の三角形状(おむすび形状)に形成され、頂部35bと、頂部35b、35b間の中間部の半径差は0.01mm〜0.03mm程度となっている。各頂部35bは脚軸22bの中心位置のボス部22aに配置されている。この実施形態においても、締め代部36は、トリポード部材22のボス部22aの円周方向の部分的に生じ、かつトリポード部材22の軸方向幅の全長にわたって形成されるので、スプライン嵌合時の圧入力の増大、スプライン部のむしれや過大な応力集中が回避でき、軸強度および軸寿命を高めることができる。
【0047】
図14に本発明の第7の実施形態を示す。この実施形態は、雌スプライン33と雄スプライン35の関係については、第3の実施形態と同じである。この実施形態は、丸型スプラインのピッチ円に対して異形形状のピッチ円を有するスプラインとして、トリポード部材22に形成された雌スプライン33が微少径差の五角形状である。トリポード部材22の雌スプライン33のピッチ円直径PCDtは、頂部33bを有する微少な径差の五角形状に形成され、頂部33bと、頂部33b、33b間の中間部の半径差は0.01mm〜0.03mmとなっている。前述した実施形態と同様に、シャフト31の雄スプライン35をトリポード部材22の雌スプライン33に圧入したとき、雄スプライン35のピッチ円直径PCDsと雌スプライン33のピッチ円直径PCDtの半径差により、トリポード部材22が全体的に弾性変形し、円周方向の5箇所に締め代部36(ハッチングで図示)が生じる。締め代部36は、トリポード部材22のボス部22aの円周方向の部分的に生じ、かつトリポード部材22の軸方向幅の全長にわたって形成されるので、スプライン嵌合時の圧入力の増大、スプライン部のむしれや過大な応力集中が回避でき、軸強度および軸寿命を高めることができる。
【0048】
図15に本発明の第8の実施形態を示す。この実施形態は、雌スプライン33と雄スプライン35の関係については、第4の実施形態と同じである。この実施形態は、シャフト31の雄スプライン35も三角形状(おむすび形状)に形成し、この三角形状の雄スプライン35のピッチ円の頂部35bと、トリポード部材22の三角形状の雌スプライン33のピッチ円の頂部33bとを円周方向に互いにずらせて圧入したものである。シャフト31の三角形状の雄スプライン35のピッチ円直径PCDsの頂部35bと、頂部35b、35b間の中間部の半径差およびトリポード部材22の三角形状の雌スプライン33のピッチ円直径PCDiの頂部33bと、頂部33b、33b間の中間部の半径差は、いずれも0.01mm〜0.03mm程度となっている。シャフト31の雄スプライン35をトリポード部材22の雌スプライン33に圧入したとき、雄スプライン35のピッチ円直径PCDsと雌スプライン33のピッチ円直径PCDiの径差により、トリポード部材22が全体的に弾性変形し、円周方向の6箇所に締め代部36(ハッチングで図示)が生じる。
【0049】
以上の実施形態では、丸型スプラインのピッチ円に対して異形形状のピッチ円を有するスプラインとして、微少な径差の三角形状(おむすび形状)、五角形状を示したが、これに限られるものではなく、四角形状、六角形状やなだらかな曲線で構成された多角形状でも適宜実施することができる。要は、基本的に内方部材の全体的な弾性変形を利用して、スプライン嵌合部の締め代部が、円周方向の複数箇所に部分的に形成される形状であれば、どのような形状であってもよい。また、いずれの実施形態でも、異形形状スプラインのピッチ円の頂部において、雄スプラインのピッチ円直径と雌スプラインのピッチ円直径との寸法関係は、隙間にすることも、軽微な締め代を付与することも可能である。
【0050】
また、以上の実施形態ではツェッパ型等速自在継手とトリポード型等速自在継手を示したが、これに限ることなく、ダブルオフセット型等速自在継手、クロスグルーブ型等速自在継手をはじめ他の等速自在継手にも適用することができる。さらに、ボールの個数も6個に限ることなく、8個や他の個数の等速自在継手にも同様に適用することができる。
【符号の説明】
【0051】
1 等速自在継手
2 内側継手部材
3 外側継手部材
4 ボール
5 ケージ
6 球状内周面
7 トラック溝
8 球状外周面
9 トラック溝
10 シャフト
12 内径孔
13 雌スプライン
13b 頂部
15b 頂部
21 等速自在継手
22 トリポード部材
23 外側継手部材
24 転動体
25 球面ローラ
31 シャフト
33 雌スプライン
35 雄スプライン
A、B トラック溝の曲率中心
O 継手の中心
δ 半径差
PCD スプラインのピッチ円直径
【技術分野】
【0001】
この発明は、継手の内方部材がシャフトとスプライン嵌合した等速自在継手に関する。
【背景技術】
【0002】
例えば、自動車のエンジンから車輪に回転力を等速で伝達するドライブシャフトやプロペラシャフト等に組み込まれる等速自在継手には、固定式等速自在継手と摺動式等速自在継手の二種がある。これらの等速自在継手は、駆動側と従動側の二軸を連結して、その二軸が作動角をとっても等速で回転トルクを伝達し得る構造を備えている。
【0003】
自動車のエンジンから駆動車輪に動力を伝達するドライブシャフトは、デフと車輪との相対的な位置関係の変化による角度変位と軸方向変位に対応する必要があるため、一般的にデフ側(インボード側)に角度変位と軸方向変位に対応できる摺動式等速自在継手を、駆動車輪側(アウトボード側)に大きな作動角が取れる固定式等速自在継手をそれぞれ装着し、両等速自在継手をシャフトで連結した構造を有する。この等速自在継手の内方部材とシャフトの連結構造として、スプライン結合(セレーション結合も含む。以下、同じ)が使用されている。
【0004】
ところで、近年の自動車においては、騒音、振動等のNVH(Noise Vibration Harshness)対策として、また、自動車の走行応答性の観点から、動力伝達系の各結合部の円周方向ガタを詰めることが重要視されている。そのため、ドライブシャフトにおいては、等速自在継手の内方部材とシャフトとのスプライン嵌合部は締め代とすることが望ましい。ところが、締め代が大きくなり過ぎると、スプライン嵌合時の圧入力の増大、スプライン部のむしれや過大な応力集中が発生し、軸強度、軸寿命の低下を招く恐れがある。
【0005】
そこで、シャフトのスプライン部に捩れを設けて、スプラインの嵌合締め代を確保しながら、圧入力を増大させない工夫がなされている。しかし、回転方向によりシャフト端部の応力が高くなり、かえって軸強度の低下、軸寿命の低下を招く恐れがある(特許文献1参照)。
【0006】
上記の従来技術の問題について図17〜図22に基づいて説明する。図17、図18に固定式等速自在継手であるツェッパ型等速自在継手101を示す。この等速自在継手101は、外側継手部材103、内側継手部材102、ボール104およびケージ105からなる。外側継手部材103の球状内周面106には複数のトラック溝107が円周方向等間隔に、かつ軸方向に沿って形成されている。内側継手部材102の球状外周面108には、外側継手部材103のトラック溝107と対向するトラック溝109が円周方向等間隔に、かつ軸方向に沿って形成されている。外側継手部材103のトラック溝107と内側継手部材102のトラック溝109との間にトルクを伝達する複数のボール104が介在されている。外側継手部材103の球状内周面106と内側継手部材102の球状外周面108の間に、ボール104を保持するケージ105が配置されている。外側継手部材103の外周と、内側継手部材102にスプライン嵌合されたシャフト110の外周とをブーツ111で覆い、継手内部には、潤滑剤としてグリースが封入されている。
【0007】
図17に示すように、外側継手部材103の球状内周面106と内側継手部材102の球状外周面108の曲率中心は、いずれも、継手の中心Oに形成されている。これに対して、外側継手部材103のトラック溝107の曲率中心Aと、内側継手部材102のトラック溝109の曲率中心Bとは、継手の中心Oに対して軸方向に等距離オフセットされている。これにより、継手が作動角をとった場合、外側継手部材103と内側継手部材102の両軸線がなす角度を二等分する平面上にボール104が常に案内され、二軸間で等速に回転トルクが伝達されることになる。
【0008】
図19は、内側継手部材102を拡大した正面図である。内側継手部材102の内径孔112に雌スプライン113が形成されている。また、図20に示すようにシャフト110の軸端部114に雄スプライン115が形成されている。雄スプライン115と雌スプライン113はいずれもスプラインのピッチ円が真円形状である。図22にスプライン嵌合部を拡大した横断面を示す。この図に示すように、シャフト110に形成された雄スプライン115と内側継手部材102に形成された雌スプライン113は同じピッチ円直径PCDを有する。内側継手部材102の内径孔112に形成された雌スプライン113は、軸線に平行に延び、一方、シャフト110の軸端部114に形成された雄スプライン115は、軸線に対して捩れ角γ(図21参照)を有する。この捩れ角γの値は10分程度である。したがって、図21に示すように、シャフト110の雄スプライン115(破線で図示)を内側継手部材102の雌スプライン113(実線で図示)に圧入したとき、雄スプライン115の歯面115aと雌スプライン113の歯面113aの間でハッチングした部分が締め代部となり圧縮応力が生じ、その圧縮応力は内側継手部材102の両端102aで大きくなる。シャフト110と内側継手部材102間に回転トルクがかかると、上記の圧縮応力に加えて回転トルクが加わるので、内側継手部材102の両端102aでの応力が高くなり、軸強度の低下、軸寿命の低下を招く恐れがある。
【0009】
また、特許文献2〜4には、シャフト強度を確保しつつ、高いガタ詰め効果が得られる形状が提案されているが、形状が複雑であり、加工性が著しく低下することが考えられる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【特許文献1】実公平6−33220号公報
【特許文献2】特開2007−247771号公報
【特許文献3】特開2007−247770号公報
【特許文献4】特開2007−247769号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
本発明は、前述の問題点に鑑みて提案されたもので、その目的とするところは、従来からある加工方法を取りながら、高いガタ詰め効果が得られる内方部材とシャフトのスプライン嵌合部を有する等速自在継手を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明者らは、上記の目的を達成するために種々検討した結果、基本的に内方部材の全体的な弾性変形を利用してガタ詰めを行うという新規な手段を着想した。
【0013】
前述の目的を達成するための技術的手段として、本発明は、継手の内方部材がシャフトとスプライン嵌合した等速自在継手において、前記内方部材およびシャフトの少なくとも一方のスプラインのピッチ円が、丸型スプラインのピッチ円に対して異形形状に形成され、当該一方のスプラインのピッチ円直径と他方のスプラインのピッチ円直径との半径差により、スプライン嵌合部の円周方向の複数箇所に部分的に締め代を有することを特徴とする。具体的には、締め代は0.01mm〜0.03mm程度である。
【0014】
上記の構成により、基本的に内方部材の全体的な弾性変形を利用して、スプライン嵌合部の締め代部が円周方向の複数箇所に部分的に形成されるので、シャフトと内方部材の組付け時の圧入力を低く抑えることができ、円周方向ガタを確実に抑制することができる。また、スプライン嵌合部の締め代部が内方部材の軸方向幅の全長にわたって形成されるので、円周方向ガタを確実に抑制することができる。
【0015】
具体的には、前記異形形状のスプラインが内方部材に形成され、前記シャフトには丸型スプラインが形成されている。これとは逆に、前記異形形状のスプラインがシャフトに形成され、前記内方部材には丸型スプラインが形成されている。丸型スプラインとはスプラインのピッチ円が真円形状のものと定義する。上記構成により、スプライン加工において、内方部材側はブローチ加工を施すことができ、一方、シャフト側は、丸型スプラインの場合は転造加工を施し、三角形状や多角形状などの異形形状の場合はプレス加工を施すことができ、いずれも、通常用いる加工方法により、容易に製造することができる。
【0016】
さらに、前記異形形状のスプラインが前記内方部材とシャフトのいずれにも形成され、両部材の異形形状の頂部を周方向で互いにずらせて嵌合したことを特徴とする。
【0017】
前記異形形状が三角形状あるいは多角形状であることを特徴とする。雄スプラインのピッチ円直径と雌スプラインのピッチ円直径の半径差は0.01mm〜0.03mm程度である。特に好ましいのは、0.01mm〜0.02mm程度である。スプライン嵌合部の円周方向の複数箇所に部分的に締め代部が生じる構成のため、スプライン嵌合時の圧入力を抑制することができるので、上記半径差を最大0.04mm程度まで可能にできる。これにより、円周方向ガタを確実に抑制することができる。また、上記の構成により、従来と同様の材料や熱処理でも、シャフトと内方部材のスプライン嵌合時の圧入力を低く抑えることができ、円周方向ガタを確実に抑制することができる。
【0018】
前記シャフトのスプラインが軸方向に捩れ角を有することを特徴とする。これにより、スプライン嵌合時の圧入力をさらに抑制することができる。
【0019】
前記内方部材は、ボールを有する等速自在継手の内側継手部材や、トリポード型等速自在継手のトリポード部材である。
【発明の効果】
【0020】
本発明によれば、基本的に内方部材の全体的な弾性変形を利用して、スプライン嵌合部の締め代部が円周方向の複数箇所に部分的に形成されるので、シャフトと内方部材の組付け時の圧入力を低く抑えることができ、円周方向ガタを確実に抑制することができる。さらに、スプライン嵌合部の締め代部が内方部材の軸方向幅の全長にわたって形成されるので、円周方向ガタを一層抑制することができる。
【0021】
また、スプライン加工において、内方部材側はブローチ加工を施すことができ、一方、シャフト側は、丸型スプラインの場合は転造加工を施し、三角形状や多角形状などの異形形状の場合はプレス加工を施すことができ、いずれも、通常用いる加工方法により、容易に製造することができる。さらに、従来と同様の材料や熱処理でも、シャフトと内方部材のスプライン嵌合時の圧入力を低く抑えることができ、円周方向ガタを確実に抑制することができる。
【図面の簡単な説明】
【0022】
【図1】本発明の第1の実施形態の等速自在継手の縦断面図である。
【図2】本発明の第1の実施形態の等速自在継手の正面図である。
【図3】内側継手部材を拡大した正面図である。
【図4】シャフトを拡大した図である。
【図5】第1の実施形態のスプラインの嵌合状態を示す図である。
【図6】第2の実施形態のスプラインの嵌合状態を示す図である。
【図7】第3の実施形態のスプラインの嵌合状態を示す図である。
【図8】第4の実施形態のスプラインの嵌合状態を示す図である。
【図9】第5の実施形態の等速自在継手の縦断面図である。
【図10】トリポード部材を拡大した正面図である。
【図11】シャフトを拡大した図である。
【図12】第5の実施形態のスプラインの嵌合状態を示す図である。
【図13】第6の実施形態のスプラインの嵌合状態を示す図である。
【図14】第7の実施形態のスプラインの嵌合状態を示す図である。
【図15】第8の実施形態のスプラインの嵌合状態を示す図である。
【図16】トリポード部材の熱処理変形を示す図である。
【図17】従来の等速自在継手の縦断面図である。
【図18】従来の等速自在継手の正面図である。
【図19】従来の等速自在継手の内側継手部材を拡大した正面図である。
【図20】従来の等速自在継手のシャフトを拡大した図である。
【図21】従来のスプラインの嵌合状態を示す説明図である。
【図22】従来のスプラインの嵌合状態を示す横断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0023】
以下に本発明の実施の形態を図面に基づいて説明する。
【0024】
本発明の第1の実施形態を図1〜図5に基づいて説明する。本実施形態の等速自在継手1は固定式等速自在継手であるツェッパ型等速自在継手である。図1および図2に示すように、等速自在継手1は、外側継手部材3、内方部材としての内側継手部材2、ボール4およびケージ5からなる。外側継手部材3の球状内周面6には6本のトラック溝7が円周方向等間隔に、かつ軸方向に沿って形成されている。内側継手部材2の球状外周面8には、外側継手部材3のトラック溝7と対向するトラック溝9が円周方向等間隔に、かつ軸方向に沿って形成されている。外側継手部材3のトラック溝7と内側継手部材2のトラック溝9との間にトルクを伝達する6個のボール4が介在されている。外側継手部材3の球状内周面6と内側継手部材2の球状外周面8の間に、ボール4を保持するケージ5が配置されている。外側継手部材3の外周と、内側継手部材2にスプライン連結されたシャフト10の外周とをブーツ11で覆い、継手内部には、潤滑剤としてグリースが封入されている。
【0025】
図1に示すように、外側継手部材3の球状内周面6と内側継手部材2の球状外周面8の曲率中心は、いずれも、継手の中心Oに形成されている。これに対して、外側継手部材3のトラック溝7の曲率中心Aと、内側継手部材2のトラック溝9の曲率中心Bとは、継手の中心Oに対して軸方向に等距離オフセットされている。これにより、継手が作動角をとった場合、外側継手部材3と内側継手部材2の両軸線がなす角度を二等分する平面上にボール4が常に案内され、二軸間で等速に回転トルクが伝達されることになる。
【0026】
図3は、内側継手部材2を拡大した正面図である。内側継手部材2の内径孔12に雌スプライン13が形成されている。丸型スプラインのピッチ円に対して異形形状のピッチ円を有するスプラインとして、雌スプライン13のピッチ円は、頂部13bを有する微少な径差の三角形状(おむすび形状)に形成され、頂部13bと、頂部13b、13b間の中間部の半径差は0.01mm〜0.03mm程度となっている。内側継手部材2の雌スプライン13は、上記のような三角形状のピッチ円形状で、軸線に平行に延びている。
【0027】
図4にシャフト10を示す。シャフト10の軸端部14に雄スプライン15が形成されている。雄スプライン15は、丸型スプラインで、軸線に平行に延びている。
【0028】
図5に内側継手部材2の雌スプライン13(歯面の図示省略、他の実施形態も同じ)にシャフト10の雄スプライン15(歯面の図示省略、他の実施形態も同じ)を圧入した状態を示す。内側継手部材2の雌スプライン13のピッチ円直径PCDiを実線で示し、シャフト10の雄スプライン15のピッチ円直径PCDsを破線で示す。内側継手部材2の雌スプライン13のピッチ円直径PCDiは、前述したように頂部13bを有する微少な径差の三角形状(おむすび形状)に形成され、頂部13bと、頂部13b、13b間の中間部の半径差は0.01mm〜0.03mm程度となっている。本実施形態や後述する他の実施形態において説明を分かりやすくするため、雌スプライン13の三角形状は誇張して示している。この実施形態では、各頂部13bはトラック溝9の溝底に配置されている。内側継手部材2の三角形状の雌スプライン13は、従来と同様、ブローチ加工により、容易に製造することができる。一方、シャフト10の雄スプライン15は丸型スプラインである。丸型スプラインであるので、従来と同様、転造加工により、容易に製造することができる。
【0029】
シャフト10の雄スプライン15を内側継手部材2の雌スプライン13に圧入したとき、雄スプライン15のピッチ円直径PCDsと雌スプライン13のピッチ円直径PCDiの半径差δにより、基本的に内側継手部材2が全体的に弾性変形し、円周方向の3箇所に部分的に締め代部16(ハッチングで図示)が生じる。雄スプライン15のピッチ円直径PCDsと雌スプライン13のピッチ円直径PCDiの半径差は0.01mm〜0.03mm程度となっている。特に好ましいのは、0.01mm〜0.02mm程度である。本実施形態では、雌スプライン13のピッチ円の頂部13bにおいて、雄スプライン15のピッチ円直径PCDsより雌スプライン13のピッチ円直径PCDiが大きく、隙間嵌合としている。しかし、この頂部13bにおいて軽微な締め代を付与することも可能であり、後述する他の実施形態においても同様である。スプライン嵌合部の円周方向の3箇所に部分的に締め代部16が生じる構成のため、スプライン嵌合時の圧入力を抑制することができるので、雄スプライン15のピッチ円直径PCDsと雌スプライン13のピッチ円直径PCDiの半径差を最大0.04mm程度まで可能にできる。これにより、円周方向ガタを確実に抑制することができる。また、締め代部16は、内側継手部材2の軸方向幅の全長にわたって形成されるので、スプライン嵌合時の圧入力の増大、スプライン部のむしれや過大な応力集中が回避でき、軸強度および軸寿命を高めることができる。
【0030】
本実施形態では、シャフト10の雄スプライン15を丸型スプラインで軸線に平行に延びるものを示したが、雄スプライン15に軸方向に捩れ角を付与してもよい。この場合の捩れ角は、従来技術である図15に示す捩れ角γ(10分程度)より小さくすることが望ましい。雄スプライン15に軸方向に捩れ角を付与することにより、スプライン嵌合時の圧入力をさらに抑制することができる。また、捩れ角を有する丸型スプラインは、従来と同様、転造加工により、容易に製造することができる。
【0031】
次に、本発明の第2の実施形態を図6に基づいて説明する。本実施形態および後述する第3、第4の実施形態では、前述した第1の実施形態と同様の機能を有する箇所には同一の符号を付して重複説明を省略する。
【0032】
この実施形態は、第1の実施形態と比較して、丸型スプラインが内側継手部材2側に形成され、三角形状のスプラインがシャフト10側に形成されるところが異なる。内側継手部材2の雌スプライン13のピッチ円直径PCDiを実線で示し、シャフト10の雄スプライン15のピッチ円直径PCDsを破線で示す。内側継手部材2の雌スプライン13のピッチ円は真円形状で、丸型スプラインである。シャフト10の雄スプライン15のピッチ円は頂部15bを有する微少な径差の三角形状(おむすび形状)に形成され、頂部15bと、頂部15b、15b間の中間部の半径差は0.01mm〜0.03mm程度となっている。各頂部15bはトラック溝9の溝底に配置されている。この実施形態においても、締め代部16は、内側継手部材2の軸方向幅の全長にわたって形成されるので、スプライン嵌合時の圧入力の増大、スプライン部のむしれや過大な応力集中が回避でき、軸強度および軸寿命を高めることができる。
【0033】
シャフト10の三角形状のピッチ円を有する雄スプライン15の加工は、転造加工ではなく、プレス加工により容易に製造することができる。このプレス加工は、従来より実施されている加工方法で、三角形状の雄スプライン15に対応する成形面を有する金型に振動を与えながらプレス加工するものである。
【0034】
本発明の第3の実施形態を図7に基づいて説明する。この実施形態は、第1の実施形態に対して、丸型スプラインのピッチ円に対して異形形状のピッチ円を有するスプラインとして、内側継手部材2に形成された雌スプライン13が微少径差の五角形状であることが異なる。内側継手部材2の雌スプライン13のピッチ円直径PCDiは、頂部13bを有する微少な径差の五角形状に形成され、頂部13bと、頂部13b、13b間の中間部の半径差は0.01mm〜0.03mmとなっている。前述した実施形態と同様に、シャフト10の雄スプライン15を内側継手部材2の雌スプライン13に圧入したとき、雄スプライン15のピッチ円直径PCDsと雌スプライン13のピッチ円直径PCDiの半径差により、内側継手部材2が全体的に弾性変形し、円周方向の5箇所に締め代部16(ハッチングで図示)が生じる。締め代部16は、内側継手部材2の軸方向幅の全長にわたって形成されるので、スプライン嵌合時の圧入力の増大、スプライン部のむしれや過大な応力集中が回避でき、軸強度および軸寿命を高めることができる。
【0035】
本発明の第4の実施形態を図8に基づいて説明する。この実施形態は、第1の実施形態に対して、シャフト10の雄スプライン15も三角形状(おむすび形状)に形成し、この三角形状の雄スプライン15のピッチ円の頂部15bと、内側継手部材2の三角形状の雌スプライン13のピッチ円の頂部13bとを円周方向に互いにずらせて圧入したことが異なる。シャフト10の三角形状の雄スプライン15のピッチ円直径PCDsの頂部15bと、頂部15b、15b間の中間部の半径差および内側継手部材2の三角形状の雌スプライン13のピッチ円直径PCDiの頂部13bと、頂部13b、13b間の中間部の半径差は、いずれも0.01mm〜0.03mm程度となっている。シャフト10の雄スプライン15を内側継手部材2の雌スプライン13に圧入したとき、雄スプライン15のピッチ円直径PCDsと雌スプライン13のピッチ円直径PCDiの径差により、内側継手部材2が全体的に弾性変形し、円周方向の6箇所に締め代部16(ハッチングで図示)が生じる。
【0036】
本発明の第5の実施形態を図9および図12に基づいて説明する。この実施形態はトリポード型等速自在継手に適用したものである。この等速自在継手21は、外側継手部材23、内方部材としてのトリポード部材22、転動体24および球面ローラ25とからなる。外側継手部材23の内周部に軸方向の三本のトラック溝26が形成され、各トラック溝26の両側にそれぞれ軸方向のローラ案内面27が形成されている。トリポード部材22は、そのボス部22aより三本の脚軸22bが放射状に形成されている。脚軸22bに多数の転動体24を介して球面ローラ25が嵌合され、転動体24の両端にワッシャ28、29を介させ、ワッシャ29は止め輪30により位置決めされている。これにより、転動体24の列が脚軸22b上で案内されると共に、球面ローラ25は、転動体24上で回転自在であると共に、脚軸22bの軸線方向に移動可能となっている。球面ローラ25は、外側継手部材23のローラ案内面27に回転自在に収容されている。
【0037】
このように、外側継手部材23のローラ案内面27とトリポード部材22の三本の脚軸22bとが球面ローラ25を介して回転方向に係合することにより、駆動側から従動側へ回転トルクが等速で伝達される。また、各球面ローラ25が脚軸22bに対して回転しながらローラ案内面27上を転動することにより、外側継手部材23とトリポード部材22との間の相対的な軸方向変位や角度変位が吸収される。
【0038】
図9に示すように、トリポード部材22のボス部22aの内径孔32に雌スプライン33が形成されている。この雌スプライン33とシャフト31の雄スプライン35が嵌合される。
【0039】
図10は、トリポード部材22を拡大した正面図である。トリポード部材22の内径孔32に雌スプライン33が形成されている。丸型スプラインのピッチ円に対して異形形状のピッチ円を有するスプラインとして、雌スプライン33のピッチ円は、頂部33bを有する微少な径差の三角形状(おむすび形状)に形成され、頂部33bと、頂部33b、33b間の中間部の半径差は0.01mm〜0.03mm程度となっている。トリポード部材22の雌スプライン33は、上記のような三角形状のピッチ円形状で、軸線に平行に延びている。
【0040】
図11にシャフト31を示す。シャフト31の軸端部34に雄スプライン35が形成されている。雄スプライン35は、丸型スプラインで、軸線に平行に延びている。
【0041】
図12に、トリポード部材22の雌スプライン33のピッチ円直径PCDtを実線で示し、シャフト31の雄スプライン35のピッチ円直径PCDsを破線で示す。雌スプライン33のPCDtは、頂部33bを有する微少な径差の三角形状(おむすび形状)に形成され、頂部33bと、頂部33b、33b間の中間部の半径差は0.01mm〜0.03mm程度となっている。トリポード部材22の雌スプライン33は、第1の実施形態と同様、三角形状のPCDtで、軸線に平行に延びている。この実施形態では、各頂部33bは脚軸22bの中心位置のボス部22aに配置されている。シャフト31の雄スプライン35は丸型スプラインで、軸方向に平行に延びている。
【0042】
本実施形態では、シャフト31の雄スプライン35を丸型スプラインで軸線に平行に延びるものを示したが、雄スプライン35に軸方向に捩れ角を付与してもよい。この場合の捩れ角は、図15に示す捩れ角γ(10分程度)より小さくすることが望ましい。雄スプライン35に軸方向に捩れ角を付与することにより、スプライン嵌合時の圧入力をさらに抑制することができる。また、捩れ角を有する丸型スプラインは、従来と同様、転造加工により、容易に製造することができる。
【0043】
シャフト31の雄スプライン35をトリポード部材22の雌スプライン33に圧入したとき、雄スプライン35のピッチ円直径PCDsと雌スプライン33のピッチ円直径PCDtの半径差により、トリポード部材22のボス部22aが全体的に弾性変形し、円周方向の3箇所に締め代部36(ハッチングで図示)が生じる。締め代部36は、トリポード部材22の軸方向幅の全長にわたって形成されるので、スプライン嵌合時の圧入力の増大、スプライン部のむしれや過大な応力集中が回避でき、軸強度および軸寿命を高めることができる。
【0044】
トリポード部材22は、非常に変肉の大きい形状であるため、熱処理後に雌スプライン33が三角形状(おむすび形状)の変形が伴う。その変形を図16に示す。熱処理前の雌スプライン33のピッチ円直径PCDt(1)を破線で示し、熱処理後の雌スプライン33のピッチ円直径PCDt(2)を実線で示す。本実施形態では、トリポード部材22のこの特性を生かして、シャフト31の丸型スプラインとの嵌合が円周方向の3箇所で0.01mm〜0.03mm程度の締め代となるように設定することができる。この実施形態では、トリポード部材22の変形特性を生かして、雌スプライン33の各頂部33bを脚軸22bの中心位置のボス部22aに配置させている。また、トリポード部材22の雌スプライン33の熱処理後の形状を、四角形状、五角形状、六角形状などになるように予め設定することができる。
【0045】
図13に本発明の第6の実施形態を示す。本実施形態および後述する第7、第8の実施形態では、前述した第5の実施形態と同様の機能を有する箇所には同一の符号を付して重複説明を省略する。
【0046】
第6の実施形態は、雌スプライン33と雄スプライン35の関係については、第2の実施形態と同じである。丸型スプラインがトリポード部材22に形成され、三角形状のスプラインがシャフト31側に形成されている。トリポード部材22の雌スプライン33のピッチ円直径PCDtを実線で示し、シャフト31の雄スプライン35のピッチ円直径PCDsを破線で示す。シャフト31の雄スプライン35のピッチ円は頂部35bを有する微少な径差の三角形状(おむすび形状)に形成され、頂部35bと、頂部35b、35b間の中間部の半径差は0.01mm〜0.03mm程度となっている。各頂部35bは脚軸22bの中心位置のボス部22aに配置されている。この実施形態においても、締め代部36は、トリポード部材22のボス部22aの円周方向の部分的に生じ、かつトリポード部材22の軸方向幅の全長にわたって形成されるので、スプライン嵌合時の圧入力の増大、スプライン部のむしれや過大な応力集中が回避でき、軸強度および軸寿命を高めることができる。
【0047】
図14に本発明の第7の実施形態を示す。この実施形態は、雌スプライン33と雄スプライン35の関係については、第3の実施形態と同じである。この実施形態は、丸型スプラインのピッチ円に対して異形形状のピッチ円を有するスプラインとして、トリポード部材22に形成された雌スプライン33が微少径差の五角形状である。トリポード部材22の雌スプライン33のピッチ円直径PCDtは、頂部33bを有する微少な径差の五角形状に形成され、頂部33bと、頂部33b、33b間の中間部の半径差は0.01mm〜0.03mmとなっている。前述した実施形態と同様に、シャフト31の雄スプライン35をトリポード部材22の雌スプライン33に圧入したとき、雄スプライン35のピッチ円直径PCDsと雌スプライン33のピッチ円直径PCDtの半径差により、トリポード部材22が全体的に弾性変形し、円周方向の5箇所に締め代部36(ハッチングで図示)が生じる。締め代部36は、トリポード部材22のボス部22aの円周方向の部分的に生じ、かつトリポード部材22の軸方向幅の全長にわたって形成されるので、スプライン嵌合時の圧入力の増大、スプライン部のむしれや過大な応力集中が回避でき、軸強度および軸寿命を高めることができる。
【0048】
図15に本発明の第8の実施形態を示す。この実施形態は、雌スプライン33と雄スプライン35の関係については、第4の実施形態と同じである。この実施形態は、シャフト31の雄スプライン35も三角形状(おむすび形状)に形成し、この三角形状の雄スプライン35のピッチ円の頂部35bと、トリポード部材22の三角形状の雌スプライン33のピッチ円の頂部33bとを円周方向に互いにずらせて圧入したものである。シャフト31の三角形状の雄スプライン35のピッチ円直径PCDsの頂部35bと、頂部35b、35b間の中間部の半径差およびトリポード部材22の三角形状の雌スプライン33のピッチ円直径PCDiの頂部33bと、頂部33b、33b間の中間部の半径差は、いずれも0.01mm〜0.03mm程度となっている。シャフト31の雄スプライン35をトリポード部材22の雌スプライン33に圧入したとき、雄スプライン35のピッチ円直径PCDsと雌スプライン33のピッチ円直径PCDiの径差により、トリポード部材22が全体的に弾性変形し、円周方向の6箇所に締め代部36(ハッチングで図示)が生じる。
【0049】
以上の実施形態では、丸型スプラインのピッチ円に対して異形形状のピッチ円を有するスプラインとして、微少な径差の三角形状(おむすび形状)、五角形状を示したが、これに限られるものではなく、四角形状、六角形状やなだらかな曲線で構成された多角形状でも適宜実施することができる。要は、基本的に内方部材の全体的な弾性変形を利用して、スプライン嵌合部の締め代部が、円周方向の複数箇所に部分的に形成される形状であれば、どのような形状であってもよい。また、いずれの実施形態でも、異形形状スプラインのピッチ円の頂部において、雄スプラインのピッチ円直径と雌スプラインのピッチ円直径との寸法関係は、隙間にすることも、軽微な締め代を付与することも可能である。
【0050】
また、以上の実施形態ではツェッパ型等速自在継手とトリポード型等速自在継手を示したが、これに限ることなく、ダブルオフセット型等速自在継手、クロスグルーブ型等速自在継手をはじめ他の等速自在継手にも適用することができる。さらに、ボールの個数も6個に限ることなく、8個や他の個数の等速自在継手にも同様に適用することができる。
【符号の説明】
【0051】
1 等速自在継手
2 内側継手部材
3 外側継手部材
4 ボール
5 ケージ
6 球状内周面
7 トラック溝
8 球状外周面
9 トラック溝
10 シャフト
12 内径孔
13 雌スプライン
13b 頂部
15b 頂部
21 等速自在継手
22 トリポード部材
23 外側継手部材
24 転動体
25 球面ローラ
31 シャフト
33 雌スプライン
35 雄スプライン
A、B トラック溝の曲率中心
O 継手の中心
δ 半径差
PCD スプラインのピッチ円直径
【特許請求の範囲】
【請求項1】
継手の内方部材がシャフトとスプライン嵌合した等速自在継手において、前記内方部材およびシャフトの少なくとも一方のスプラインのピッチ円が、丸型スプラインのピッチ円に対して異形形状に形成され、当該一方のスプラインのピッチ円直径と他方のスプラインのピッチ円直径との半径差により、スプライン嵌合部の円周方向の複数箇所に部分的に締め代を有することを特徴とする等速自在継手。
【請求項2】
前記締め代が0.01mm乃至0.03mmであることを特徴とする請求項1に記載の等速自在継手。
【請求項3】
前記異形形状のスプラインが内方部材に形成され、前記シャフトには丸型スプラインが形成されていることを特徴とする請求項1又は請求項2に記載の等速自在継手。
【請求項4】
前記異形形状のスプラインがシャフトに形成され、前記内方部材には丸型スプラインが形成されていることを特徴とする請求項1又は請求項2に記載の等速自在継手。
【請求項5】
前記異形形状のスプラインが前記内方部材とシャフトのいずれにも形成され、両部材の異形形状の頂部を周方向で互いにずらせて嵌合したことを特徴とする請求項1又は請求項2に記載の等速自在継手。
【請求項6】
前記異形形状が三角形状であることを特徴とする請求項1〜5項のいずれか1項に記載の等速自在継手。
【請求項7】
前記異形形状が多角形状であることを特徴とする請求項1〜5項のいずれか1項に記載の等速自在継手。
【請求項8】
前記シャフトのスプラインが軸方向に捩れ角を有することを特徴とする請求項1又は請求項3に記載の等速自在継手。
【請求項9】
前記内方部材がボールを有する等速自在継手の内側継手部材であることを特徴とする請求項1〜8項のいずれか1項に記載の等速自在継手。
【請求項10】
前記内方部材がトリポード型等速自在継手のトリポード部材であることを特徴とする請求項1〜8項のいずれか1項に記載の等速自在継手。
【請求項1】
継手の内方部材がシャフトとスプライン嵌合した等速自在継手において、前記内方部材およびシャフトの少なくとも一方のスプラインのピッチ円が、丸型スプラインのピッチ円に対して異形形状に形成され、当該一方のスプラインのピッチ円直径と他方のスプラインのピッチ円直径との半径差により、スプライン嵌合部の円周方向の複数箇所に部分的に締め代を有することを特徴とする等速自在継手。
【請求項2】
前記締め代が0.01mm乃至0.03mmであることを特徴とする請求項1に記載の等速自在継手。
【請求項3】
前記異形形状のスプラインが内方部材に形成され、前記シャフトには丸型スプラインが形成されていることを特徴とする請求項1又は請求項2に記載の等速自在継手。
【請求項4】
前記異形形状のスプラインがシャフトに形成され、前記内方部材には丸型スプラインが形成されていることを特徴とする請求項1又は請求項2に記載の等速自在継手。
【請求項5】
前記異形形状のスプラインが前記内方部材とシャフトのいずれにも形成され、両部材の異形形状の頂部を周方向で互いにずらせて嵌合したことを特徴とする請求項1又は請求項2に記載の等速自在継手。
【請求項6】
前記異形形状が三角形状であることを特徴とする請求項1〜5項のいずれか1項に記載の等速自在継手。
【請求項7】
前記異形形状が多角形状であることを特徴とする請求項1〜5項のいずれか1項に記載の等速自在継手。
【請求項8】
前記シャフトのスプラインが軸方向に捩れ角を有することを特徴とする請求項1又は請求項3に記載の等速自在継手。
【請求項9】
前記内方部材がボールを有する等速自在継手の内側継手部材であることを特徴とする請求項1〜8項のいずれか1項に記載の等速自在継手。
【請求項10】
前記内方部材がトリポード型等速自在継手のトリポード部材であることを特徴とする請求項1〜8項のいずれか1項に記載の等速自在継手。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【図17】
【図18】
【図19】
【図20】
【図21】
【図22】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【図17】
【図18】
【図19】
【図20】
【図21】
【図22】
【公開番号】特開2012−97889(P2012−97889A)
【公開日】平成24年5月24日(2012.5.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−248643(P2010−248643)
【出願日】平成22年11月5日(2010.11.5)
【出願人】(000102692)NTN株式会社 (9,006)
【公開日】平成24年5月24日(2012.5.24)
【国際特許分類】
【出願日】平成22年11月5日(2010.11.5)
【出願人】(000102692)NTN株式会社 (9,006)
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