説明

筋力維持および関節機能改善組成物

【課題】安全および安価で簡便に日常的に継続して摂取することができ、かつ顕著な筋力維持および関節機能の改善作用を有し、種々の筋力維持および関節機能障害、特に筋肉や関節の不具合に起因する自覚症状、例えば、関節痛、歩行障害、関節可動範囲の減少等の予防および/または改善に有効な天然素材を開発し、提供すること。
【解決手段】小麦蛋白質の加水分解物、好ましくは小麦グルテンの加水分解物、特に好ましくはL−グルタミン含有量が15〜60質量%であり、平均分子量が200〜100,000ダルトンであるペプチドを含有する筋力維持および関節機能改善組成物。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、小麦蛋白質の加水分解物を含んでなる筋力維持および関節機能改善組成物ならびに該組成物を含有する筋力維持および関節機能改善用食品、飼料および化粧品に関する。
【背景技術】
【0002】
日本の総人口の60歳以上が占める割合は、2015年には約3割となり、2025年には約4割まで上昇すると推計されており、今後は超高齢化が社会問題になることが確実視されている。さらに医療発達に伴い寿命が伸張する結果、75歳以上の後期高齢者人口も増加している。このような社会において、高齢者が筋力低下による体のだるさや関節痛を自覚することが多くなってきている。特に足、腰、膝などの下肢周辺でそのような自覚症状があると、体を動かす意欲が低下し、悪循環に陥りやすい。このように日常生活のクオリティオブライフ(QOL)の質が下がることは、本人はもとより、周囲にとっても切実な問題である。
【0003】
従来、関節炎等の関節痛の治療には、ステロイドや非ステロイド剤によるものがある。しかし、これらは胃腸障害等の副作用があり、継続して摂取することはできない。関節炎を予防する食品組成物として、特許文献1には、コラーゲンと、メチルスルホニルメタン(MSM)と、グルコサミンと、コンドロイチンとを組み合わせた食品が開示されている。しかし、特許文献1に記載の食品には、関節痛を改善する効果はあるが、筋力を維持したり筋肉低下を抑制する等して、健康な生活を維持していく効果はなかった。
【0004】
また筋肉量を維持するには、継続して筋肉トレーニングを行うことが重要であるが、日常生活の中で筋肉トレーニングを継続することは大きな困難がある。また、高齢者の場合、代謝機能が減退し、筋肉の合成および分解のバランスが変化しているため、トレーニングを行うだけでは十分に筋肉量を維持することができないことが多い。特許文献2には、カテキン類を有効成分とする筋機能低下抑制剤が開示されている。しかし、特許文献2に記載の剤には、筋機能の低下を抑えて、寝たきりを予防する効果はあるが、関節に関する自覚症状を改善し、健康な生活を維持していく効果はなかった。
【0005】
小麦蛋白質の加水分解物には、グルタミン源としての生理機能だけでなく、小麦蛋白質の加水分解物に固有の生理機能が報告されている。例えば、特許文献3には、肝臓酵素、血糖値、血清脂質を低下させる効果、特許文献4には、慢性疲労、疲労感、易疲労等の疲労に対する抗疲労効果、特許文献5には、抗ヒスタミン作用によってアレルギー性疾患を緩和する効果、特許文献6および非特許文献1には、NK活性を高める効果があることがそれぞれ報告されている。また、非特許文献2には、炎症性組織障害を抑制する効果があること、具体的には、小麦蛋白質の加水分解物が、アスリートの運動後の炎症性筋障害によるクレアチンキナーゼの上昇を抑制する効果があることが報告されている。
しかしながら、これらの何れの文献にも、小麦蛋白質の加水分解物が、筋力維持や関節障害改善に効果があることは報告されていない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2009-51833号公報
【特許文献2】特開2008-13473号公報
【特許文献3】国際公開第03/074071号公報
【特許文献4】特開2005-97162号公報
【特許文献5】特開2009-249323号公報
【特許文献6】特開2005-97223号公報
【非特許文献】
【0007】
【非特許文献1】“Bioscience, Biotechnology, and Biochemistry”, 69(12), 2445-2449,2005
【非特許文献2】“第61回 日本体力医学会大会予稿集”, p.360, 演題番号1p-7-P-032 (2006)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明の課題は、安全および安価で簡便に日常的に継続して摂取することができ、かつ顕著な筋力維持および関節機能の改善作用を有し、種々の筋力維持および関節機能障害、特に筋力の低下や関節の不具合に起因する自覚症状、例えば、関節痛、体のだるさ、歩行障害、関節可動範囲の減少等の予防および/または改善に有効な天然素材を開発し、提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明は、小麦蛋白質の加水分解物を含有する筋力維持および関節機能改善組成物ならびに該組成物を含有する筋力維持および関節機能改善用食品、飼料または化粧品を提供することにより、前記課題を解決したものである。
【発明の効果】
【0010】
本発明により、安全および安価で簡便に日常的に継続して摂取することができ、かつ顕著な筋力維持および関節機能の改善作用を有し、種々の筋力低下および関節機能低下による障害の予防および/または改善に有効な筋力維持および関節機能改善組成物を提供することができる。さらに本発明により、種々の筋力低下、筋肉萎縮、関節機能低下等による障害、特に下肢周辺の関節の不具合に起因する自覚症状、例えば、関節痛、体のだるさ、歩行障害、関節可動範囲の減少等の予防および/または改善に有用な筋力維持および関節機能改善組成物を提供することができる。本発明の組成物は、外出からの帰宅時の各種自覚症状、就寝から起床時の自覚症状に特に有効であり、日常生活でのQOL向上に極めて有用である。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【図1】図1は、試験例1で実施したアンケートを示す。
【図2】図2は、腰、膝および足に凝りや痛み等の不調を感じていたモニターの本発明の組成物服用前、服用時および服用後における腰、膝および足の凝りおよび痛みに対する体感スコアを示すグラフである。
【図3】図3は、運動(散歩、テニスおよびジョギング)を日課としているモニターの本発明の組成物服用前、服用時および服用後における運動後の腰、膝および足に対する痛みスコアを示すグラフである。
【図4】図4は、全モニターの本発明の組成物服用前、服用時および服用後における疲労感や睡眠への不快感、風邪症状に対する体感スコアを示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本発明の好適な実施形態について具体的に説明する。
本発明において「筋力維持および関節機能改善」とは、筋肉量の維持作用もしくは低下防止作用、筋肉萎縮の防止作用、筋力の維持作用もしくは低下防止作用、または関節部の痛みの低下等の作用の結果、足、膝、腰の不具合、違和感または痛みの症状や自覚症状を、軽減、治療または予防することを言う。
【0013】
本発明において「小麦蛋白質の加水分解物(Wheat Gluten Hydrolysate:WGH)」とは、高分子の小麦由来の蛋白質を、加水分解することによって比較的分子量の小さいペプチドとすることにより、上記作用を獲得させたものである。したがって、上記作用を有する限り、どのような小麦蛋白質の加水分解物であっても、本発明の「小麦蛋白質の加水分解物」に包含されるが、後述するように、好ましくは、特定のアミノ酸含量、および特定の分子量を有するペプチド(ペプチド混合物)を含む組成物とすることで、より高い効果を期待することができる。
【0014】
小麦としては、入手可能な小麦であればいずれのものも用いることができる。好適な例として、イネ科コムギ属のパンコムギ、デュラムコムギ、クラブコムギ、スペルトコムギ、エンマコムギ等や、イネ科エギロプス属のタルホコムギ、クサビコムギ等が挙げられる。
【0015】
加水分解に用いられる小麦蛋白質としては、主として小麦由来のグルテン(小麦グルテン)をさすが、その他にアルブミン、グロブリン、グルテニン、グリアジン等の小麦中に含まれていることが知られている他の蛋白質を含有していてもよく、さらに澱粉質や繊維質等の不純物を不可避的に含有していてもよい。また、本発明では、小麦蛋白質として、小麦由来のグルテンに予め化学的処理や酵素等による生物的処理を施して、分子量を低下させたものやプロテアーゼとの親和性等を高めたものも使用できる。さらに、未精製の小麦蛋白質、未精製の小麦グルテン等も使用することができる。小麦から澱粉を精製する際に副生物として小麦蛋白質が得られるが、これをそのまま利用してもよく、そうすることで従来使用されなかった副生物の小麦蛋白質を有効利用することができる。
【0016】
小麦蛋白質の加水分解物としては、上記の小麦蛋白質を加水分解したものであればいずれのものでもよく、加水分解は、適宜公知の方法、例えば、酸を用いて加水分解する方法や、蛋白質加水分解酵素(プロテアーゼ)を用いて加水分解する方法等を適用して実施することができる。
【0017】
酸を用いて小麦蛋白質を加水分解する方法としては、慣用の方法が採用できる。例えば、酸としては、鉱酸である硫酸、塩酸、硝酸、リン酸、亜硫酸;有機酸であるシュウ酸、クエン酸、酢酸、ギ酸等が使用できる。このような酸を用いて小麦蛋白質を加水分解する手順としては、小麦蛋白質を含有する水性媒体に、酸規定度0.01〜2規定の範囲になるように酸を加え、水性媒体の温度を50〜100℃にして10分〜6時間加水分解させる手順が挙げられる。加水分解を停止させたい場合には、塩基を加えて中和することで停止させることができる。
【0018】
酸を用いて加水分解する場合、水性媒体中における小麦蛋白質の濃度は、酸の種類や規定度により適宜調節する必要があるが、通常、1.0〜80質量%の範囲に調節して処理するのがよい。
【0019】
蛋白質加水分解酵素を用いて小麦蛋白質を加水分解する方法としては、例えば、小麦グルテンを、プロテアーゼ、またはプロテアーゼとアミラーゼを用いて加水分解する方法が挙げられる(特許第2019439号公報および特許第2985193号公報参照)。その際のプロテアーゼとしては、例えば、ペプシン、トリプシン、キモトリシプシン、ヒイロタケ起源の酸性プロテアーゼ、アスペルギルス起源の酸性プロテアーゼ、パパイン、ブロメライン、サーモリシン、トリプシン、キモトリプシン、プロナーゼ、サチライシン、エスペラーゼ等のような種々のプロテアーゼを用いることができる。プロテアーゼは、単一のものを用いてもよいし、複数種を組み合わせて、例えば、酸性プロテアーゼと中性プロテアーゼを組み合わせて用いてもよいし、複数回処理を行ってもよい。
【0020】
小麦グルテンをプロテアーゼで加水分解する際に、アミラーゼを併用すると、小麦グルテンに含まれている澱粉質や繊維質等の不純物が分解除去されて、ペプチド成分を高純度で含む加水分解物を高収率で得ることができる(特許第2985193号公報を参照)。小麦グルテンは水に不溶で且つ水に対する分散性に劣るが、小麦グルテンの加水分解物は、低分子化しているために水に対する分散性に優れている。
【0021】
こうして得られる小麦蛋白質の加水分解物をそのまま本発明における有効成分として用いてもよい。したがって、本発明の小麦蛋白質の加水分解物には、ペプチド成分に加えて、製造工程上不可避的に含まれる小麦蛋白質や小麦グルテン由来のその他の成分や酵素類が含まれていてもよい。
【0022】
しかしながら、取り扱いの容易性、保存性等を考慮すると、この加水分解物から不溶物を除去し、さらに水分を除去して固体状の形態とすることが好ましい。この不溶物の除去や水分除去は、得られた加水分解物が変性や熱分解を起こさない条件下であれば、どのような方法でもよく、例えば、ろ過、遠心分離、遠心ろ過、スプレードライ、スプレークール、ドラムドライ、真空乾燥、凍結乾燥等のいずれの方法も使用できる。または、水溶性成分を適当な担体に結合または担持させた後、上記のような方法により溶媒を除去することで、固形物として得ることもできる。
【0023】
本発明で用いる小麦蛋白質の加水分解物は、市販されているもの(例えば、日清ファルマ株式会社製の「グルタミンペプチドGP-1」、「グルタミンペプチドGP-2」、「グルタミンペプチドGP-1N」等)をそのまま用いてもよいし、また場合によりこれを原料としてさらに加水分解、分画等の処理を施して用いてもよい。
【0024】
本発明で用いる小麦蛋白質の加水分解物の好ましい一態様として、L-グルタミン含有量が少なくとも15質量%で、平均分子量が200〜100,000ダルトンのペプチド(ペプチド混合物)が挙げられる。
【0025】
小麦蛋白質の加水分解物におけるL-グルタミン含有量が15質量%以上であると、効果が高く、相対的に摂取量を抑えることができる。L-グルタミン含有量の上限は特に限定されないが、60質量%以下であれば天然蛋白質からの調製が容易であることから、入手や調製の容易性および経済性の面から、60質量%以下であることが好ましい。したがって、小麦蛋白質の加水分解物中のL-グルタミン含有量は、好ましくは15〜60質量%、より好ましくは20〜40質量%である。なお、小麦蛋白質の加水分解物中のL-グルタミン含有量は、アミド態窒素置換法により測定したアミド態窒素含有量から求めたアミド態窒素含有L-アミノ酸含有量に基づいて算出することができる。
【0026】
本発明で用いる小麦蛋白質の加水分解物は、L-グルタミン含有量が少なくとも15質量%であれば、L-グルタミン以外のアミノ酸の種類およびその組成比等は特に制限されない。
【0027】
小麦蛋白質の加水分解物の平均分子量が200ダルトン以上であると、苦味を呈することなく味が良好であり、平均分子量が100,000ダルトン以下であれば、水に対する溶解性を失わず、水を加えた時に粘稠な塊を形成することもなく取り扱いが容易である。小麦蛋白質の加水分解物の平均分子量は200〜100,000ダルトンであれば特に制限されないが、500〜80,000ダルトンであることが好ましく、1,000〜60,000ダルトンであることがより好ましく、2,000〜50,000ダルトンであることがさらに好ましく、3,000〜40,000ダルトンであることが最も好ましい。なお、小麦蛋白質の加水分解物の平均分子量は、ゲル濾過法によって測定したときの平均分子量であり、その詳細については以下の実施例の項に記載するとおりである。
【0028】
小麦蛋白質の加水分解物の原料として用いる小麦グルテンは、通常25〜50質量%のL-グルタミンを含有しており、そのため平均分子量が200〜100,000ダルトンの範囲内になるような条件下で小麦グルテンを加水分解し、必要に応じて分画等を行うことにより、L-グルタミン含有量が15〜60質量%で平均分子量が200〜100,000ダルトンの範囲内のペプチドを比較的容易に得ることができる。
【0029】
本発明で用いる小麦蛋白質の加水分解物は、食経験のある小麦に由来し、天然の蛋白質を構成するL-アミノ酸からなるために、ヒトや動物に対する安全性の点で優れているうえ、入手および調製の容易性、経済性等の点からも好ましい。また、本発明で用いる小麦蛋白質の加水分解物は、風味もよく保存性も良好であるため、食品、飼料、医薬等の様々な形態にして摂取することができる。
【0030】
本発明の筋力維持および関節機能改善組成物は、小麦蛋白質の加水分解物の乾燥質量を基準として、成人1日当たり0.5〜40gの範囲で投与される。一般的な1日当たり投与量は、1〜10gである。しかし、本発明において用いる小麦蛋白質の加水分解物は、天然物に由来する安全性の高いものであり、その投与量をさらに増やすこともできる。投与量は効果等を見ながら適宜増減するのが望ましい。1日当たりの投与量を1回に投与または摂取することもできるが、数回に分けて投与するのが望ましい。なお、後述する他の筋力低下を改善する成分、関節の機能を改善する成分を併用する場合は、小麦蛋白質の加水分解物は、成人1日当たり0.1〜10gの範囲で投与され、他の筋力低下を改善する成分、関節の機能を改善する成分は、成人1日当たり0.001mg〜10gの範囲で投与される。
【0031】
本発明の筋力維持および関節機能改善組成物は、上記の工程によって得られた小麦蛋白質の加水分解物を含有することを特徴とするが、これをそのまま単独で、あるいは食品、飼料、医薬等の様々な組成物の形態にして継続的に摂取する、あるいは化粧料組成物の形態にして継続的に適用すると、全身性、または局所的に筋力維持・関節機能改善が発揮され、種々の筋力低下・関節機能低下による障害、特に関節の不具合に起因する自覚症状、例えば、関節痛、歩行障害、関節可動範囲の減少等の予防および/または改善に有用である。
【0032】
また本発明の筋力維持および関節機能改善組成物は、安全な小麦を原料とし、過度の精製操作を行っていないため、安全性が高く、また風味もよいことから、そのままでも充分に経口摂取すること、あるいは化粧料としても適用することが可能であり、長期間の継続的投与が可能である。さらに様々な食品、飼料、医薬等の組成物の形態として長期間の継続的摂取も容易である。
【0033】
その際、上記の工程によって得られた小麦蛋白質の加水分解物をそのまま単独で用いることもできるが、本発明の効果を阻害しない限り、後述する他の筋力低下を改善する成分、関節の機能を改善する成分等を単独または複数組み合わせて配合してもよい。
【0034】
本発明の組成物を食品組成物として調製する場合、その形態は特に制限されず、健康食品、機能性食品、特定保健用食品等の他、小麦蛋白質の加水分解物を配合できる全ての食品が含まれる。また、本発明に係る食品組成物には飲料も包含される。具体的には、錠剤、チュアブル錠、粉剤、カプセル剤、顆粒剤、ドリンク剤、経管経腸栄養剤等の流動食等の各種製剤形態とすることができる。製剤形態の食品組成物は、後述する医薬組成物と同様に製造することができる。さらに本発明に係る食品組成物は、緑茶、ウーロン茶や紅茶等の茶飲料、清涼飲料、ゼリー飲料、スポーツ飲料、乳飲料、炭酸飲料、果汁飲料、乳酸菌飲料、発酵乳飲料、粉末飲料、ココア飲料、精製水等の飲料、バター、ジャム、ふりかけ、マーガリン等のスプレッド類、マヨネーズ、ショートニング、カスタードクリーム、ドレッシング類、パン類、米飯類、麺類、パスタ、味噌汁、豆腐、牛乳、ヨーグルト、スープ又はソース類、菓子(例えば、ビスケットやクッキー類、チョコレート、キャンディ、ケーキ、アイスクリーム、チューインガム、タブレット)等として調製してもよい。
【0035】
本発明に係る食品組成物にはさらに、食品や飼料の製造に用いられる他の食品素材、各種栄養素、各種ビタミン、ミネラル、アミノ酸、各種油脂、種々の添加剤(例えば、呈味成分、甘味料、有機酸等の酸味料、界面活性剤、pH調整剤、安定剤、酸化防止剤、色素、フレーバー)等を配合して、常法に従って製造することができる。また、通常食されている食品に本発明の小麦蛋白質の加水分解物を配合することにより、本発明に係る食品組成物を製造することもできる。
【0036】
本発明に係る食品組成物において、小麦蛋白質の加水分解物の含有量は、食品の形態により異なるが、乾燥質量を基準として、通常は、0.001〜95質量%、好ましくは0.01〜80質量%、より好ましくは1〜80質量%の範囲である。1日当たりの摂取量は、1回で摂取してもよいが、数回に分けて摂取してもよい。上述した、成人1日当たりの摂取量が飲食できるよう、1日当たりの摂取量が管理できる形にするのが好ましい。
【0037】
本発明に係る食品組成物には、人用の食品のみならず、家畜、競走馬等の飼料、ペットフード等も包含する。飼料は、対象が動物である以外は食品とほぼ等しいことから、本明細書における食品組成物に関する記載は、飼料についても同様に当てはめることができる。
【0038】
本発明の組成物は、安全性が高いため、化粧料組成物として調製することもできる。化粧料を調製する場合、小麦蛋白質の加水分解物をそのまま化粧料組成物としてもよく、または化粧料原料と小麦蛋白質の加水分解物とを汎用の方法で配合し、乳液、化粧液、クリーム、ローション、エッセンス、パック及びシート、ファンデーション、おしろい、頬紅、口紅、アイシャドー、アイライナー、マスカラ、洗顔料、皮膚洗浄料、ゲル剤、ジェル剤、美肌剤、ボディシャンプー等の洗浄料、シャンプー、リンス等の毛髪化粧料、ヘアートリートメント、養毛剤、浴用剤、軟膏、医薬部外品、あぶら取り紙等の形態の化粧料組成物を調製してもよい。
【0039】
本発明に係る化粧料組成物は、小麦蛋白質の加水分解物のほかに、所望の剤型に応じて従来公知の賦形剤や香料を初め、油脂類、界面活性剤、防腐剤、金属イオン封鎖剤、水溶性高分子、増粘剤、顔料等の粉末成分、紫外線防御剤、保湿剤、酸化防止剤、pH調節剤、洗浄剤、乾燥剤、乳化剤等を適宜配合して、常法に従って製造することができる。
【0040】
本発明に係る化粧料組成物における小麦蛋白質の加水分解物の含有量は、特に限定されないが、乾燥質量を基準として、通常、0.0001〜80質量%、好ましくは0.01〜50質量%の範囲内である。
【0041】
本発明の組成物を医薬組成物として調製する場合、その剤型としては、例えば、錠剤、カプセル剤、顆粒剤、散剤、シロップ剤、ドライシロップ剤、液剤、懸濁剤等の経口剤、吸入剤、坐剤等の経腸製剤、軟膏、クリーム剤、ゲル剤、貼付剤等の皮膚外用剤、点滴剤、注射剤等が挙げられる。これらのうちでは、経口剤が好ましい。
【0042】
本発明に係る医薬組成物は、有効成分である小麦蛋白質の加水分解物に、慣用される添加剤、例えば、賦形剤、崩壊剤、結合剤、滑沢剤、界面活性剤、アルコール、水、水溶性高分子、甘味料、矯味剤、酸味料等を剤型に応じて配合し、常法に従って製剤化することができる。なお、液剤、懸濁剤等の液体製剤は、服用直前に水又は他の適当な媒体に溶解又は懸濁する形であってもよく、また錠剤、顆粒剤の場合には周知の方法でその表面をコーティングしてもよい。
【0043】
本発明に係る医薬組成物における小麦蛋白質の加水分解物の含有量は、その剤型により異なるが、乾燥質量を基準として、通常は、0.001〜90質量%、好ましくは0.1〜80質量%の範囲であり、上述した成人1日当たりの摂取量を摂取できるよう、1日当たりの投与量が管理できる形にすることが望ましい。
【0044】
本発明の組成物には、他の筋力低下を改善する成分、関節の機能を改善する成分等を単独または複数組み合わせて配合してもよい。そのような成分としては、グルコサミン、サメ軟骨エキス、コンドロイチン硫酸、コラーゲン、オリーブ葉エキス、キャッツクロー、デビルズクロー、メチルスルホニルメタン(MSM)、ヒアルロン酸等が挙げられ、これらの他の筋力低下を改善する成分、関節の機能を改善する成分の含有量は、組成物の形態、添加剤の種類および所望すべき摂取量に応じて適宜決められるが、本発明の組成物中、
0.01〜70質量%の範囲内であり、好ましくは0.1〜50質量%の範囲内である。
【0045】
さらに本発明の組成物には、上記以外にも、骨に作用して本発明の効果を増強し得る成分として、カルシウム、ナットウキナーゼ、ビタンミンK2、イソフラボン等や、筋肉に作用して本発明の効果を増強し得る成分として、乳、大豆等の蛋白質、クレアチン、BCAA、シトルリン、アルギニン等のアミノ酸の他、共役リノール酸、タウリン、グルタチオン、カルニチン、コエンザイムQ、グルクロン酸、グルクロノラクトン、トウガラシエキス、ショウガエキス、カカオエキス、ガラナエキス、ガルシニアエキス、テアニン、γ−アミノ酪酸、カプサイシン、カプシエイト、各種有機酸、フラボノイド類、ポリフェノール類、カテキン類、キサンチン誘導体、フラクトオリゴ糖等の難消化性オリゴ糖、ポリビニルピロリドン等の添加剤を配合してもよい。
これら添加剤の配合量は、組成物の形態、添加剤の種類および所望すべき摂取量に応じて適宜決められるが、本発明の組成物中、0.01〜70質量%の範囲内であり、好ましくは0.1〜50質量%の範囲内である。
【実施例】
【0046】
以下、実施例をもって本発明をさらに詳細に説明する。しかしながら、本発明は以下の実施例によって何ら制限を受けるものではない。
【0047】
下記の実施例において、小麦蛋白質の加水分解物の平均分子量およびグルタミン含有量は次の方法で測定した。
【0048】
小麦蛋白質の加水分解物の平均分子量:
小麦蛋白質の加水分解物の水溶液を孔径0.45μmのメンブランフィルターで濾過し、ゲル濾過にて分子量を測定した。カラムとして、日本バイオラッドラボラトリーズ社製「バイオシルSEC125-5」を使用した。測定条件は、測定波長280nm、溶出液0.2mMリン酸緩衝液(pH6.0, 0.1%SDS)、流速0.2mL/分であった。また、分子量の標準として、オボアルブミン(分子量44kDa)、ミオグロブリン(分子量17kDa)およびビタミンB12(分子量1.35kDa)を使用した。
【0049】
小麦蛋白質の加水分解物中のL-グルタミン含有量:
アミド態窒素を含有するL-アミノ酸は、L-グルタミンとL-アスパラギンの2つであるが、小麦蛋白質では、そこに含まれるアミド態窒素含有L-アミノ酸のうちの95質量%以上がL-グルタミンである。すなわち、小麦蛋白質の加水分解物中のアミド態窒素含有L-アミノ酸量を、そのままL-グルタミン含有量としても、大きな誤差にならない。したがって、小麦蛋白質の加水分解物中のアミド態窒素含有L-アミノ酸量を、そのままL-グルタミン含有量とした。
【0050】
小麦蛋白質の加水分解物に含まれるアミド態窒素の含有量を、Wilcoxによる化学物質中のアミドの定量法[Meth. Enzymol.,11,36-65(1967)]に従って求めた。具体的には、コンウェイのフラスコ中に小麦蛋白質の加水分解物を入れ、そこに1Nの塩酸を加えて、小麦蛋白質の加水分解物中のアミド態窒素をアンモニアとして遊離させ、発生したアンモニアを衛生検査指針[日本薬学会編「衛生試験法・注解」,p274-276,金原出版(1990)]に従って定量し、定量したアンモニア量から小麦蛋白質の加水分解物に含まれるアミド態窒素量を求め、これに基づきL-グルタミン含有量としてアミド態窒素含有L-アミノ酸の含有量を算出した。
【0051】
<製造例1>小麦蛋白質の加水分解物の製造
(1)反応釜に、イオン交換水9,700L、無水クエン酸38kgおよび小麦グルテン(活性グルテン,Weston Foods Limited製)1,500kgを仕込み、45℃に加温した後、プロテアーゼ(天野製薬株式会社製「プロテアーゼMアマノ」)2.2kgおよびアミラーゼ(阪急バイオインダストリー株式会社製「液化酵素T」)1.1kgを加えて、45℃で5時間加水分解反応を行い、次いで25%水酸化ナトリウム水溶液を用いて液のpHを4.4〜4.5に調整して5時間保って酵素処理を行った。
(2)次いで、液を80℃に20分間保ってプロテアーゼを失活させた後、65℃に冷却し、そこにアミラーゼ(阪急バイオインダストリー株式会社製「液化酵素T」)0.5kgを加えて小麦グルテン中に含まれていた澱粉質および繊維質を加水分解させた後、液を90℃に20分間保ってアミラーゼを失活させた。
(3)次に、液を10℃以下に冷却した後、再度55℃に加熱し、そこに活性炭(武田薬品工業株式会社製「タケコール」)100kgを加えて55℃で30分間攪拌した。
(4)液温を45℃にし、濾過助剤(昭和化学工業株式会社製「ラヂオライト」)を加えて、加圧濾過装置を使用して濾過を行い、濾液7,000Lを回収した。
(5)上記(4)で回収した濾液をBrix値が20〜40になるまで減圧下で濃縮した後、プレートヒーターを使用して110℃で20秒間加熱して殺菌し、次いで55℃まで冷却した。
(6)上記(5)で得られた液を、噴霧乾燥装置を使用して送風温度160℃、排風温度80℃の条件下に噴霧乾燥して、小麦蛋白質の加水分解物を、粉末の形態で約1,000kg得た。
(7)上記(6)で得られた小麦蛋白質の加水分解物粉未を、60メッシュ篩(目開き0.246mm)を用いて分級し、60メッシュ篩を通過した微粉を回収した。
(8)上記(7)で回収した小麦蛋白質の加水分解物の平均分子量およびL-グルタミン含有量を測定したところ、平均分子量は約8,000ダルトンであり、L-グルタミン含有量は32質量%であった。
【0052】
<製造例2〜5>小麦蛋白質の加水分解物の製造
製造例1と同様な方法で、加水分解の条件を適宜変更し、下記の表1に示す性状の小麦蛋白質の加水分解物を得た。
【0053】
【表1】

【0054】
<実施例1>錠剤の製造
製造例1で得られた小麦蛋白質の加水分解物83.8gならびに賦形剤として結晶セルロース(旭化成株式会社製)10gおよびポリビニルピロリドン(BASF社製)5gを混合し、これにエタノール30mLを添加して、湿式法により常法に従って類粒を製造した。それにより得られた類粒を乾燥した後、ステアリン酸マグネシウム1.2gを加えて打錠用顆粒末とし、打錠機を用いて打錠し、1錠が1gの錠剤100個を製造した(錠剤1錠当たりの小麦蛋白質の加水分解物含有量0.838g)。
【0055】
<実施例2>錠剤の製造
グルタミンペプチドGP-1(日清ファルマ製、平均分子量:7,000ダルトン、L-グルタミン含有量:32質量%)166.67mg、サメ軟骨抽出物26.25mg、ビタミンB群1.87mgならびに賦形剤として微結晶セルロース33.37mgおよび寒天7.44mgを、混合および撹拌して均一に調製し、打錠して1錠248mgである錠剤を得た。
【0056】
<試験例1>腰、膝および足の症状に対する効果の確認試験
表2に記載の週5日勤務、休日2日(土日)の男女合計9人(内女2人、足腰に不調を感じる者7名)のモニターにより、本発明の効果を検討した。9人のモニターに実施例2の錠剤1日12錠を、1日量として小麦蛋白質の加水分解物2000mg、およびサメ軟骨抽出物315mgになるようにして4週間連続(2010年2月15日〜3月14日、なお、スギ花粉飛散は2月27日頃)で服用させた。錠剤の服用前、服用中1週毎および服用終了後に、アンケートを図1に示す各項目について実施した。表3は、9人のモニターの錠剤の服用前、表4〜7は、錠剤の服用中、表8は、錠剤服用後のアンケートの結果をそれぞれ示している。
アンケートの集計は、平日の体調についての項目(1)〜(6)についてはa,b,c,d,f,h,iの7名の平均値を、項目(10)〜(13)については9名全員の平均値を算出した。休日を含めた一週間の体調についての項目(2)〜(4)については、試験期間中に日常的に運動をしていたa,b,hの3名の平均値を算出した。
【0057】
【表2】

【0058】
【表3】

【0059】
【表4】

【0060】
【表5】

【0061】
【表6】

【0062】
【表7】

【0063】
【表8】

【0064】
表3〜8で得られた結果から、錠剤服用前に、腰、膝および足に凝りや痛み等の不調を感じていた7名のモニターの結果を抽出し、腰、膝および足について起床時と帰宅時の凝りや痛み等の症状を感じた日数を平均したところ、図2に示すように、6項目全てにおいて、錠剤を服用する前よりも症状を感じる日数が減少する傾向が見られた。また、錠剤の服用期間を経る毎に症状が緩和され、かつ服用後に症状が服用前の状態に戻ることが確認された。
また、7名の中では、特に効果が顕著であったのは、50代の3名であり、それぞれの悩みとする部位は異なるものの、痛みが顕著に改善される様子が確認された。
一方、腰、膝および足以外の部位では、肩、首、腕の順番で凝りやだるさを感じているモニターが多かったが、本発明の組成物の服用による効果は顕著ではなかった。
これらのことから、本発明の組成物が、特に腰、膝および足の症状に効果的であることが確認できた。
【0065】
また、表3〜8で得られた結果から、運動(散歩、テニスおよびジョギング)を日課としている3名のモニターの結果を抽出し、運動後の腰、膝および足についての凝りや痛み等の症状の度合いを平均したところ、図3に示すように、錠剤の服用により、運動後の腰、膝および足についての凝りや痛み等の症状が低減する傾向が見られた。また、錠剤の服用期間を経る毎に症状が緩和され、かつ服用後に症状が元の状態に戻ることが確認された。
【0066】
また、表3〜8で得られた結果から、9名全員のモニターにおける疲労感や睡眠への不快感、風邪症状に関する結果を抽出し、これらの症状を感じた日数についてそれぞれ平均したところ、図4に示すように、錠剤の服用により、起床時および帰宅時の疲労感ならびに不眠を感じる日数が減少する傾向が見られた。また、錠剤の服用期間を経る毎に症状が緩和され、かつ服用後に症状が元の状態に戻ることが確認された。
また、これらの効果は、腰、膝および足に症状のない20〜30代のモニターを含めた全ての世代について確認された。
これらの結果から、疲労感の低減は、本発明の組成物の服用により、良い睡眠が得られたこと、腰、膝および足の凝りや痛みが低減されたことに関連していると推定される。
一方、風邪の症状に対しては、効果がなかったことから、本発明の組成物は、免疫系には効果がないことが確認された。
【0067】
なお、図2、図3および図4において、棒グラフは、左から順に、錠剤服用前(pre)、錠剤服用1週目(1w)、錠剤服用2週目(2w)、錠剤服用3週目(3w)、錠剤服用4週目(4w)および錠剤服用後(post)のスコアを示す。
【0068】
したがって、本発明の組成物は、40代から50代のいわゆる中年世代以上で、腰、膝および足に凝りや痛みの症状を持つ人の症状の緩和、さらには、疲労感や快眠等といったQOLの向上にも効果的であることが確認された。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
小麦蛋白質の加水分解物を含有する、筋力維持および関節機能改善組成物。
【請求項2】
さらにグルコサミン、サメ軟骨エキス、コンドロイチン硫酸、コラーゲン、オリーブ葉エキス、キャッツクロー、デビルズクロー、メチルスルホニルメタンおよびヒアルロン酸から選択される1種以上を含有する、請求項1に記載の組成物。
【請求項3】
小麦蛋白質の加水分解物として、小麦グルテンの加水分解物を含有する、請求項1または2に記載の組成物。
【請求項4】
小麦蛋白質の加水分解物として、L−グルタミン含有量が15〜60質量%で平均分子量が200〜100,000ダルトンのペプチドを含有する、請求項1〜3のいずれか1項に記載の組成物。
【請求項5】
請求項1〜4のいずれか1項に記載の組成物を含有する、筋力維持および関節機能改善用食品、飼料または化粧品。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2011−246387(P2011−246387A)
【公開日】平成23年12月8日(2011.12.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−120820(P2010−120820)
【出願日】平成22年5月26日(2010.5.26)
【出願人】(301049744)日清ファルマ株式会社 (61)
【Fターム(参考)】