説明

筋肉の酸化ストレス軽減用経口剤

【課題】 スーパーオキシドジスムターゼを含有する筋肉の酸化ストレス軽減用経口剤を提供する。
【解決手段】 本発明に係る筋肉の酸化ストレス軽減用経口剤は、スーパーオキシドジスムターゼ(SOD)複合体を有効成分として含有することを特徴とし、経口投与で有効であることから長期投与に適している。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、スーパーオキシドジスムターゼ複合体を含有する筋肉の酸化ストレス軽減用経口剤に関し、特に、酸化ストレスによる筋肉組織の分解を抑制し、廃用性筋萎縮等の筋萎縮障害を阻止し得る経口用剤に関する。
【背景技術】
【0002】
筋肉は自発的な運動のみならず、消化管の運動、呼吸又は心臓の拍動などの生命維持活動にも深く関与しており、筋萎縮による機能障害は重篤な症状を引き起こすことが知られている。筋萎縮とは筋の容積が減少することをいい、骨格筋の萎縮は筋繊維の萎縮や筋繊維数の減少によりもたらされる。筋萎縮の原因には、細胞内での活性酸素の増加が関与していると言われている。
生体の抗酸化能力以上に活性酸素が増加している状態を酸化ストレス状態と言う。生体内では、生理活動から派生して、或いは、体内に侵入した毒物又は免疫学的異物を分解するなどの様々な目的のために活性酸素(スーパーオキシドアニオンラジカル、過酸化水素、ヒドロキシラジカル、窒素酸化物など)が生成し、生理機能の維持に役立っている。正常な状態では、体内の余分な活性酸素は抗酸化酵素を含む制御系により除去され、過剰になることはない。しかしながら、筋萎縮では、このような酸化ストレス状態が引き起こされる。
【0003】
筋萎縮のなかでも、廃用性筋萎縮(disuse muscle atrophy)は、寝たきり等の安静状態、或いは、疾病による長期臥床やギプス固定などの活動制限により引き起こされ、日常散見される現象である。筋萎縮に伴う筋力低下は日常生活での身体活動を制限し、Quality of life(QOL)を低下させる。
従来、廃用性筋萎縮を防止又は改善するためには、健常時に適度な運動などの予防を実践すること、或いは、術後早期より十分なリハビリテーションを施行することなどが行われているが、これら以外に有効な解決方法は無かった。そのため、寝たきり状態や手術後の長期臥床によって廃用性筋萎縮が生じると、身体の回復がさらに困難になるという問題がある。
特に、加齢に伴い筋タンパク合成能は低下するため、老齢期では退縮からの筋機能の回復は遷延すると考えられる。そのため、高齢化社会を迎えた現在において、高齢期における廃用性筋萎縮の予防は、健康的な日常生活の活動を確保するうえで重要な課題の一つである。
【0004】
Kondoらは(非特許文献1)、下肢をギプス拘束することによりヒラメ筋のtiobarbituric acid reactive substance(TBARS)が増加することを報告している。また、Lawlerらも(非特許文献2)、尾部懸垂によりヒラメ筋で過酸化脂質とdichlorohydro-fluorescein diacetate(DCFH−DA)の酸化が増加することを報告している。
活性酸素の増加(酸化ストレス状態)による筋萎縮亢進の作用機序については不明な点が多いが、その一つに細胞内のカルシウムイオンの増加が考えられている(非特許文献3)。細胞膜が脂質過酸化反応により障害され、細胞質のカルシウム濃度が上昇することにより(非特許文献4)、カルシウム依存性のプロテアーゼが活性化され、タンパク分解が亢進する。その結果、筋肉組織の分解を引き起こし、筋萎縮を生じさせると考えられる。
さらに、フリーラジカルにより酸化されたタンパク質は生体内で分解されやすくなり(非特許文献5)、このことが筋肉組織の分解及び筋萎縮を更に進行させると考えられる。
【0005】
このような廃用性筋萎縮を抑制する手段として、抗酸化物質の投与が検討され、抗酸化ビタミンであるビタミンEの投与が廃用性筋萎縮の程度を減少させることが報告されている(非特許文献6、非特許文献7、非特許文献8)。
従来知られているビタミンE、ビタミンC、β−カロチン等の抗酸化物質は、他の栄養分と同様に摂取後数時間で体内に吸収され、速やかに効果を発揮し、活性酸素を消去する。しかし、これらは活性酸素と反応することにより自らは酸化されしまうため、化学量論的に消費され、効果の持続性がないため、頻繁に摂取し続ける必要がある。
【0006】
スーパーオキシドジスムターゼ(Superoxide Dismutase, 以下「SOD」と略記する場合がある)は様々な生物の組織に存在する抗酸化酵素であり、銅、亜鉛、マンガン等を含むタンパク質からなり、特に肝臓、副腎、腎臓などに多く含まれており、細胞質内に局在するCu,Zn−SOD、ミトコンドリア内に局在するMn−SOD、体液中に局在するEC−SODの3種類が知られている。
SODは、生体内で発生した反応性の強い活性酸素であるスーパーオキシドアニオンラジカル(以下「O」と略記する場合がある)を分解する。生体内の活性酸素制御系においては、Oが発生するとSODの作用により不均化されて過酸化水素が生じ、過剰の過酸化水素はカタラーゼやグルタチオンペルオキシダーゼ等の過酸化水素の除去に関連した酵素により分解される。この一連のスキームを以下に示す。
【0007】
SODの作用: 2O+2H → H+O
カタラーゼの作用: 2H → O+2H
グルタチオンペルオキシダーゼの作用: ROOH+2GSH → ROH+2HO+GSSG
なお、カタラーゼ及びグルタチオンペルオキシダーゼの存在量が不十分の場合には、そして特に細胞病変に起因して鉄の存在量が非常に少ない場合には、過酸化水素は以下のスキームによって、毒性がより強いヒドロキシラジカルに転化される(フェントン反応)。
フェントン反応:
+Fe3+ → Fe2++O
Fe2++H → Fe3++OH+OH
+H → O+OH+OH
【0008】
特許文献1には、スパーオキシドジスムターゼを含有する経口投与用の医薬品組成物が記載されており、その用途は異なる炎症性作用(特にリューマチや繊維症)、ウィルス性作用(特にHIV感染)、及び多量の酸素の存在と関連している毒性症状(中枢神経系、虚血、非血管性胃腸障害、眼性障害又は抗癌治療の望ましくない効果抑制)等の緩和に役立つとされている。しかしながら、SODが筋萎縮に有効に作用することは全く記載されていない。
また、特許文献2には、神経変性疾患、肝硬変、レンチウィルス感染、寄生虫感染及び医原性疾患(薬物中毒)からなる群から選択される変性疾患の治療のためにSODを使用することが記載されている。しかしながら、この文献には、細胞を用いた実験結果しか記載されておらず、SODが筋萎縮に有効であることも、経口投与が可能であることも記載されていない。
【0009】
【特許文献1】特表平10−511944号公報
【特許文献2】特表2002−500236号公報
【非特許文献1】Kondo et al., Acta Physiosol Scand 142, p527-528 (1991)
【非特許文献2】Lawler et al., Free Radic Biol Med 35, 9-16 (2003)
【非特許文献3】井上正康, 「廃用性筋萎縮における酸化的ストレス.活性酸素と運動−しなやかな健康と長寿を求めて−」共立出版(東京), p115-119 (1999)
【非特許文献4】Mourelle et al., J. Appl Toxicol 10, p23-27 (1990)
【非特許文献5】Davies et al., J. Biol Chem 262, p8220-8226 (1987)
【非特許文献6】Appell et al., Int J. Sports Med 18, p157-160 (1997)
【非特許文献7】Kondo et al., Am J. Physiol 262, E583-590 (1992)
【非特許文献8】Kondo et al., FEBS Lett 326, p189-919 (1993)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
本発明者らは、筋肉の酸化ストレスが筋肉組織の分解及び筋萎縮の一因であると考え、その阻止のために有用な経口用剤を開発すべく鋭意研究を進めた。
本発明の目的は、経口摂取によって生体内のSOD活性を誘導し得る、筋肉の酸化ストレス軽減用経口剤、特に、筋肉の酸化ストレスが一因と考えられる筋肉組織の分解及び筋萎縮を阻止し得る経口用剤を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明により提供される筋肉の酸化ストレス軽減用経口剤は、スーパーオキシドジスムターゼ複合体を有効成分として含有し、経口摂取用に処方された筋肉の酸化ストレス軽減用経口剤である。
本発明に係る筋肉の酸化ストレス軽減用経口剤は、経口摂取により筋肉の酸化ストレス状態を軽減し、筋肉の酸化ストレス状態に起因する生体の様々な疾患、機能障害又はそれらの発症前段階を阻止すると考えられる。
特に、本発明に係る筋肉の酸化ストレス軽減用経口剤は、臨床上頻繁に遭遇する廃用性筋萎縮をはじめとして、筋肉組織の分解又は筋萎縮に対し広く予防的及び治療的効果を発揮する。
【0012】
有効成分であるSOD複合体は、消化抵抗性を持っているため、分解されずに腸管から吸収されると同時に、生体に対する異物として認識され、免疫系を刺激する。そのためSOD複合体は、生体の防御反応の一環として内因性SOD及びその他の抗酸化酵素活性、例えばカタラーゼ、グルタチオンペルオキシダーゼ等を誘導し、活性酸素抑制系に対して全体的に改善効果を与えると考えられる。
【発明の効果】
【0013】
本発明に係る筋肉の酸化ストレス軽減用経口剤は、経口摂取により筋肉の酸化ストレス状態に対して優れた軽減効果が認められるため、投与経路が簡便である。
特に、廃用性筋萎縮を薬物療法により予防、改善、治療するためには、萎縮の原因となる長期間の活動制限状態及びその後の回復期間にわたり薬物投与を続ける必要がある。本発明に係る筋肉の酸化ストレス軽減用経口剤は、経口投与により優れた筋萎縮阻止の効果が認められるため長期投与に適しており、廃用性筋萎縮阻止剤として非常に利用価値が高い。
【発明を実施するための最良の形態】
【0014】
本発明に係る筋肉の酸化ストレス軽減用経口剤は、消化管内で消化抵抗性を有するSOD複合体を有効成分として含有し、経口摂取により生体内のSOD活性を誘導する。
複合体を形成するSODとしては、ヒト由来SODでなければ、いかなる起源の異種SODを用いても良いが、SOD含量の高いメロン果実から抽出されるSODを用いることが好ましい。
SODはそのまま用いても良いし、薬学上許容される塩を用いても良い。また本発明においては、天然SODに部位特異的変異法等の方法を行って配列中のアミノ酸の一部を他のアミノ酸に変換したものや、一部のアミノ酸を化学的に修飾したものであっても、SOD活性を失っていないものである限り、SODとして用いることができる。
【0015】
SODに付加して複合体を形成する物質としては、経口摂取時に消化酵素に抵抗性を持ち、かつ、生体内において異物として認識されやすいものを選択すべきであり、例えば、種々の脂質や蛋白質を用いることができる。
具体的に好ましい複合体としては、SODと少なくともプロラミンを含む1種または2種以上の付加物質との複合体が挙げられる。プロラミンは、植物起源、特に種々の穀類(小麦、ライ麦、大麦、エンバク、米、キビ及びトウモロコシ等)から誘導される天然(すなわち、非変性)の不溶性蛋白であり、特に小麦から得られるプロラミン(グリアジン)が好ましい。
SOD複合体は、特表平10-511944に記載の方法により製造することが可能であるほか、市販品のメロンSOD−グリアジン複合体(商品名「オキシカイン(登録商標)」、製造会社ISOCELL S.A.)を用いることができる。
【0016】
本発明に係る筋肉の酸化ストレス軽減用経口剤は、経口摂取により筋肉の酸化ストレス状態を軽減し、筋肉の酸化ストレス状態に起因する生体の様々な疾患、機能障害又はそれらの発症前段階を阻止すると考えられる。
すなわち、有効成分であるSOD複合体は、経口摂取される際に消化抵抗性を持っているため、分解されずに腸管から吸収されると同時に、生体に対する異物として認識され、免疫系を刺激する。異物として認識されたSOD複合体は、マクロファージ等が産生する活性酸素等により分解を受けるが、SOD複合体自体が活性酸素を分解してしまうため、SOD複合体は本質的に分解されにくい。そのためSOD複合体は、生体内において手強い異物として認識され、生体の防御反応の一環として内因性SOD及びその他の抗酸化酵素活性、例えばカタラーゼ、グルタチオンペルオキシダーゼ等を誘導し、活性酸素抑制系に対して全体的に改善効果を与えると考えられる。
【0017】
SOD誘導体を注射により直接体内に投与する場合には、それ自身の酵素作用によって活性酸素を消去するだけであるが、本発明に係る筋肉の酸化ストレス軽減用経口剤は、SOD複合体が免疫系を刺激することにより活性酸素抑制系全体を改善する点で、効果発現のメカニズムが異なっている。
また、本発明に係る筋肉の酸化ストレス軽減用経口剤の効果は免疫系を刺激によるものであるから、一旦発現すると持続性がある。しかも、本発明に係る筋肉の酸化ストレス軽減用経口剤は経口摂取するものであるから、投与時の生体に与える侵襲が注射剤と比べて少ない。
【0018】
本発明に係る筋肉の酸化ストレス軽減用経口剤は、臨床上頻繁に遭遇する廃用性筋萎縮をはじめとして、筋肉組織の分解又は筋萎縮の予防、改善、治療を目的として、医薬品又は健康食品として用いることができる。
実際の投与に際し、本発明に係る筋肉の酸化ストレス軽減用経口剤は、筋肉組織の分解又は筋萎縮の進行度に合わせて、その投与量、投与スケジュール等の条件を適宜決定される。
特に、廃用性筋萎縮を薬物療法により予防、改善、治療するためには、萎縮の原因となる長期間の活動制限状態及びその後の回復期間にわたり薬物投与を続ける必要があるが、本発明に係る筋肉の酸化ストレス軽減用経口剤は経口投与で有効であり、且つ、効果に持続性があるため長期投与に適しており、非常に利用価値が高い。
【0019】
経口投与する場合の投与量は、予防的又は保健的に用いるのか、治療的に用いるのかでも異なるが、通常は成人1人1日当り、SOD量として1mg〜25mg又は100〜2,500単位を1〜4回程度に分けて投与すればよい。
なお、本発明においてSODの1単位とは、McCordとFridovichの方法に従い、キサンチン/キサンチンオキシダーゼにより発生させたOにより発色する系の550nmの吸光度が直線的に増加する濃度域において、1分間の吸光度変化0.025を、Oを消去することにより50%に阻害するときに試験系(3.0ml)中に含まれるSOD量である(McCord, J.M. & Fridovich, I. : J. Biol. Chem., 244, 6049-6055 (1969))。
【0020】
経口投与剤の剤型や処方等の製剤化も、投与経路及び投与条件を考慮して適宜設計される。経口投与の剤型としては、錠剤、ハード又はソフトカプセル、顆粒又は細粒のような粒剤、散剤等の公知のものを選択できる。経口投与の処方としては、SOD複合体を有効成分とし、上記剤型に合わせて、公知の賦型剤、結合剤、滑沢剤、着色剤、及びその他の成分を適宜配合すればよい。
【実施例】
【0021】
(1)実験方法
(a)実験動物の群分け及び飼育条件
5週齢のWister系ラットを無作為に、(a)水投与群(以下「W群」と略す)、(b)複合SODであるオキシカイン(商品名)の投与群(以下「O群」と略す)、(c)ビタミンE投与群(以下「E群」と略す)、(d)対照群(以下「C群」と略す)の4群に分け、1群につき8〜10匹の動物を割り当た。
各群のラットを、実験動物用固形飼料MF(オリエンタル酵母工業)と水を自由摂取させて5週間飼育し、この飼育期間中、以下の投与を行った。
【0022】
O群には、水に溶解したオキシカインを小動物用ゾンデを用いて週6回の頻度で経口投与したが、体重の変化を考慮して投与量を調整した結果、その投与量は1日1回、1kg当たり5〜6.25mgであった。
E群には、大豆油に溶解したα−トコフェロール酢酸塩(和光純薬)を小動物用ゾンデを用いて週6回の頻度で経口投与したが、体重の変化を考慮して投与量を調整した結果、その投与量は1日1回、体重1kg当たり30〜35mgであった。
W群には水を小動物用ゾンデにて、1日1回、体重1kg当たり0.2mlを週6日の頻度で経口投与した。C群は飼料と水の自由摂取だけで飼育した。
【0023】
(b)骨格筋萎縮の方法
飼育開始から5週間目に入った日(飼育開始から29日目)から、下肢の筋を萎縮させるために、W群、O群、E群のラットの両下肢を、いわゆる「ふくらはぎ」側の筋であるヒラメ筋(soleus)、足底筋(plantaris)、腓腹筋(gastrocnemius)が緩み、いわゆる「すね」側の筋である長指伸筋(extensor digitorum longus)が引っ張られる状態に進展し、石膏ギプスにより固定した。一方、C群はギプス拘束しなかった。なお、拘束期間中も、上記の投与スケジュールを続行した。
【0024】
(c)骨格筋の採取
飼育開始から5週間経過後(飼育開始から35日目)、ネンブタール麻酔下のラットから骨格筋を採取した。採取した骨格筋はギプス拘束により緩ませた部分、すなわちヒラメ筋、足底筋及び、腓腹筋である。
採取した骨格筋は、筋湿重量を測定した後、直ちに液体窒素で凍結し、分析に供するまでは−80℃で凍結保存した。
【0025】
(2)測定方法
(a)SOD活性値の測定
SOD測定キット(SOD Assay Kit-WST;Dojindo Molecular Technology社)を用いて測定した。約20mgの骨格筋サンプルに、キットに付属の希釈用バッファを10倍量で添加し、ハンドホモジナイザーにてホモジナイズした。その後、遠心分離(6,500 rpm×10 min)して上清を回収し、これを希釈用バッファで10倍に希釈したものを測定に用いた。反応は、96wellプレートを用いて行い、測定手順はキットのプロトコールに順じ、プレートリーダー(Multistan;Labsystems社)で450nmでの吸光度の変化を測定し、サンプル添加による吸光度上昇の阻害率を求めた。
【0026】
同時に、既知濃度のSODをサンプルと同様の手順で測定し、この時の阻害率を基に検量線を作成し、サンプルの阻害率をこの検量線に代入して、サンプルのSOD活性値を求めた。また、Coomassie Plus Protein Assay Reagent Kit (Pierce社)を用いてSOD測定に用いた希釈サンプルのタンパク質濃度を測定した。最終的にサンプルのSOD値は、筋のタンパク1mg当たりのSOD活性値(U/mg protein)として表した。
【0027】
(b)α−トコフェロールの測定
組織サンプル中のα−トコフェロール量は、Uedaらの方法(五十嵐、島崎共著、生物化学実験法34, 過酸化脂質・フリーラジカル実験法, p65-69, 学会出版センター, 東京(1995))に従い、高速クロマトグラフィーを用いて以下の手順で測定した。
約20mgの組織サンプルをハサミで1mm角以下の大きさに細切りし、チューブに入れて重量を測定した後、0.02mlの1%NaCl溶液を加えて細切り試料を分散させ、その後、0.2mlの6%ピロガロール/エタノール溶液と、0.2mlのPMC(2,2,5,7,8−pentamethyl−6−hydroxychroman)内部標準液(1μg/ml)を加えて混和した。さらに、0.04mlの60%KOH溶液を加え、キャップをして混和した後、70℃の水浴中で時々振り混ぜながら約30分間けん化した。チューブを氷水中で冷却した後に、0.9mlの1%NaCl溶液と、0.6mlの10%酢酸エチル/n−ヘキサン溶液を加え、1分間激しく混和してα−トコフェロールを抽出した。再びチューブを氷水中で約5分間冷却した後、遠心分離(3,000 rpm×5 min)し、0.4mlの上層(酢酸エチル/n−ヘキサン層)を別のチューブに分取した。
【0028】
その後、0.2mlの5%n−デカン溶液を加え、ヒートブロックで加温(40℃以下)しながらNを通気して少量のn−デカンを残して溶液を留去し、残ったn−デカンに0.04mlのn−ヘキサンを加えて溶解した。この溶液0.05mlを高速液体クロマトグラフィーに注入して、α−トコフェロールを検出した。この時の高速液体クロマトグラフィーの測定条件は、カラムがInertosil-5NH2(径4.6mm×長さ250mm)、カラム温度は30℃、移動相はn−ヘキサン/イソプロパノール(体積比98:2)、流速は1.5ml/分、検出器は蛍光検出器(励起波長297nm、蛍光波長327nm)で行った。
【0029】
(c)酸化タンパク質(Carbonyl protein)濃度の測定
Levinらの方法(Levin RL et al., "Carbonyl assays for determination of oxidatively modified proteins", Methods Enzymol 233, p346-357, 1994)に従い、以下の手順で測定した。
15〜20mgの各筋組織サンプルをできるだけ細かく刻み、0.3mlのホモジナイズ用バッファ(50mM phosphate buffer, pH 7.4, 0.1% digitonin, 40 μg/ml phenylmethylsulfonyl fluoride, 5 μg/ml leupeptin, 7 μg/ml pepstatin, 5 μg/ml aprotonin, 1 mM EDTA)の入った1.5mlサンプルチューブに入れ、室温で15分間インキュベートした後、遠心分離(6,000 rpm×10 min)して不溶物を取り除いた。
【0030】
核酸の有無を調べるために、上清の吸光比(280nm/260nm)を測定し、この吸光比が1.0以下の場合は核酸除去のために、0.03mlの10%ストレプトマイシンを添加して室温で15分間インキュベートした後に、遠心分離(6,000 rpm×10 min)した。この吸光比が1.0以上の場合は上記の操作を省略した。遠心分離の上清を0.1mlずつ2個の1.5mlサンプルチューブに分取し、そのうちの一本には0.4mlの10mM ジニトロフェニルヒドラジン(DNPH, in 2.5M HCl)を添加し、もう一本には同量の2.5M HClを添加した。チューブを遮光して室温で1時間インキュベートした。この間15分毎にチューブを振とうした。0.5mlの20%トリクロロ酢酸(TCA)を両チューブに添加し、10分間氷中で冷却し、遠心分離(1,000 rpm×5 min)して上清を除去した。
【0031】
新たに0.4mlの10%TCAを両チューブに添加し、ガラス棒でタンパク質の沈殿を砕き、遠心分離(1,000 rpm×5 min)して上清を除去した。遊離DNPHと脂質の混入を除去するために、沈殿に0.4mlのエタノール/酢酸エチル溶液(体積比1:1)を添加し、遠心分離(1,000 rpm×5 min)して上清を除去し、この洗浄操作を3回繰り返した。20mM リン酸カリウム(pH2.3)に溶解した6M 塩酸グアニジンを0.2ml添加して37℃で10分間インキュベートした後に、遠心分離(12,000 rpm×5 min)して不溶物を除去した。DNPH添加反応液と2.5M HCl添加反応液ともに吸光度(370nm)を測定した。酸化タンパク質濃度は、以下の式により計算した。
<計算式>
C(DNPH/ml)=Absorption(Abs)/ε=Abs(370nm)/2.2×10/10=Abs(370nm)×45.45 nmol/ml〔ε=22,000/M=22,000/106 nmol/ml〕
【0032】
最終的に回収されたタンパク質量を測定するために、2.5M HCl添加後の吸光度(280nm)を測定した。同時にウシ血清アルブミン(BSA)を6M 塩酸グアニジン溶液に溶解させた各種濃度のBSA標準液(0.25-2.0 mg/ml)を調製し、これらの吸光度を測定して検量線を作成し、サンプルのタンパク質濃度を計算した。組織サンプルの酸化タンパク質量は、沈殿として回収されたタンパク質当たりの酸化タンパク質量(DNPH濃度)として計算した(表示単位はnmol/mg protein)。
【0033】
(d)過酸化脂質の測定
過酸化脂質測定キット(BIOXYTECH LPO-586;OXIS International社)を用いて測定を行った。各筋を、リン酸バッファ生理食塩水(PBS)でホモジナイズした後に遠心分離(6,500 rpm×10 min)して上清を回収し、これをサンプルとして用いた。測定は、キットに添付されたマニュアルに従って行い、Ultrospec Plus(Pharmacia International社)で586nmの吸光度を測定した。
【0034】
(e)統計処理
得られたデータは、平均±標準誤差で表した。各測定項目の比較にはtwo-way ANOVAを用い、Fisher's PLSD post hoc testにより統計処理を行い、危険率が5%未満の場合を有意差ありとした。
【0035】
(3)実験結果
表1に、各群ごとに被験ラットの解剖時体重、筋湿重量、SOD活性、α−トコフェロール量、酸化タンパク質量、過酸化脂質量それぞれの平均値±標準誤差を示す。また、これらの測定値をグラフ化して図に示した。
【0036】
【表1】

【0037】
(a)解剖時体重
図1は、解剖時のラット体重を示すグラフである。体重は、一週間のギプス拘束により各群とも有意な減少を示した。ギプス拘束によるストレスが、体重減少の原因と考えられる。
【0038】
(b)筋湿重量
図2は、ヒラメ筋の筋湿重量を示すグラフである。O群のヒラメ筋湿重量は、非拘束であるC群の筋湿重量に最も近く、拘束による筋萎縮の影響が最も軽かった。また、O群のヒラメ筋湿重量は、他の拘束群であるE群及びW群との対比において、有意差(P<0.05)をもって筋萎縮の阻止に効果があるという結果が得られた。
図3は、非拘束であるC群と対比したW群の筋萎縮変化量を基準(抑制率0%)とした時の、O群とE群の筋萎縮抑制率を示すグラフである。すなわち、筋萎縮抑制率は次式により計算される。
<計算式>
筋萎縮抑制率(%)=100−筋萎縮変化率(%)
ここで、
筋萎縮変化率(%)=(C群の筋湿重量−O群又はE群の筋湿重量)÷(C群の筋湿重量−W群の筋湿重量)×100
O群及びE群は、ネガティブコントロールであるW群での筋萎縮と比べて筋萎縮の阻止が認められ、特にO群は、E群と比べて阻止効果が大きいことが認められた。
【0039】
(c)SOD活性値
図4a及び4bは、それぞれヒラメ筋及び足底筋のSOD活性値である。ヒラメ筋、足底筋ともに、O群は他の3群に対して有意な高値を示した。一方、C群、E群、W群の3群間には有意な差は見られなかった。
【0040】
(d)α−トコフェロール量
図5a及び5bは、それぞれヒラメ筋及び足底筋のα−トコフェロール量である。ヒラメ筋、足底筋ともに、E群は他の3群に対して有意な高値を示した。一方、C群、O群、W群の3群間には有意な差は見られなかった。
【0041】
(e)酸化タンパク質量
図6a及び6bは、それぞれヒラメ筋及び足底筋の酸化タンパク質量である。図6aに示すヒラメ筋では、C群に対してE群とW群は有意な高値を示した。しかし、C群とO群の間には有意な差は見られなかった。また、ギプス拘束した3群間の比較では、O群がW群とE群に対して有意な低値を示した。
一方、図6bに示す足底筋では、ギプス拘束した3群(O群、E群、W群)は、C群に対して有意な高値を示した。また、ギプス拘束した3群間の比較では、O群はE群とW群に対して有意な低値を示した。
【0042】
(f)過酸化脂質量
図7a及び7bは、それぞれヒラメ筋及び足底筋の過酸化脂質量である。図7aに示すヒラメ筋では、ギプス拘束した3群(O群、E群、W群)は、C群に対して有意な高値を示した。また、ギプス拘束した3群間の比較では、O群がW群に対して有意な低値を示した。
一方、図7bに示す足底筋でも、ヒラメ筋と同様に、ギプス拘束した3群(O群、E群、W群)は、C群に対して有意な高値を示した。また、ギプス拘束した3群間の比較では、O群がE群に対して有意な低値を示した。
【0043】
(g)結果のまとめ
筋湿重量の測定結果から、ギプス拘束しないコントロールであるC群と比べ、ギプス拘束し水を経口投与したネガティブコントロールであるW群は、廃用性筋萎縮が現れた。ギプス拘束しオキシカイン(SOD複合体)を経口投与した実施例であるO群と、ギプス拘束しビタミンEを経口投与した比較例であるE群は、W群と比べて筋湿重量の減少が抑制され、萎縮阻止の効果が認められた。
O群は、E群との比較でも筋萎縮抑制率が大きく、より大きな萎縮阻止の効果が認められた。この傾向は、ヒラメ筋、足底筋、腓腹筋いずれの比較においても認められたが、特にヒラメ筋の比較(図2及び図3を参照)においては有意差(P<0.05)をもって効果の差が認められた。
【0044】
酸化タンパク質量及び過酸化脂質量の測定結果から、筋萎縮阻止の効果が高いO群において、酸化ストレスの状態がより軽減されていることが認められた。すなわち、オキシカイン(SOD複合体)を経口投与した実施例であるO群における酸化タンパク質量は、比較例であるE群及びネガティブコントロールであるW群のそれと比べて有意に低い値であった(図6a及び図6bを参照)。特に、ヒラメ筋の比較(図6aを参照)においては、O群の酸化タンパク質量は、ギプス拘束しないコントロールであるC群との有意差が認められなかった。また、O群の過酸化脂質量は、ヒラメ筋の比較(図7aを参照)においてはネガティブコントロールであるW群と比べて有意に低い値であり、足底筋の比較(図7bを参照)においては比較例であるE群と比べて有意に低い値であった。
【0045】
SOD活性値及びα−トコフェロール量の結果(図4a、図4b、図5a、図5b)から、実施例であるO群は、SOD複合体の経口投与によりSOD活性値を有意に高くする効果が認められた。一方、比較例であるE群では、ビタミンEの経口投与によりα−トコフェロール量が有意に大きくなったが、SOD活性値がそれほど高くならなかった。
また、今回の実験に用いたO群とE群の投与量は、O群でのSOD換算した投与量が1日1回、体重1kg当たり5mg〜6.25mgであったのに対して、E群でのビタミンE投与量が1日1回、体重1kg当たり30mg〜35mgであり、SODはビタミンEよりも少ない量で優れた筋萎縮阻止の効果が認められた。
これらの結果から、実施例であるO群ではSOD複合体の経口投与により体内のSOD活性を直接高め、酸化ストレス及び廃用性筋萎縮に対して優れた阻止効果を発揮することが認められた。その阻止効果は、比較例であるE群(SOD様作用物質であるビタミンEの経口投与)と比べて有意に優れていた。
【図面の簡単な説明】
【0046】
【図1】被験ラットの解剖時体重を示すグラフである。
【図2】被験ラットのヒラメ筋湿重量を示すグラフである。
【図3】被験ラットのヒラメ筋湿重量について、W群の萎縮に対する筋萎縮抑制率を示すグラフである。
【図4】被験ラットのヒラメ筋及び足底筋のSOD活性値を示すグラフである。
【図5】被験ラットのヒラメ筋及び足底筋のα−トコフェロール量を示すグラフである。
【図6】被験ラットのヒラメ筋及び足底筋の酸化タンパク質量を示すグラフである。
【図7】被験ラットのヒラメ筋及び足底筋の過酸化脂質量を示すグラフである。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
スーパーオキシドジスムターゼ複合体を有効成分として含有し、経口摂取用に処方された筋肉の酸化ストレス軽減用経口剤。
【請求項2】
筋肉分解抑制剤である請求項1に記載の筋肉の酸化ストレス軽減用経口剤。
【請求項3】
経口用筋萎縮阻止剤である請求項1又は2に記載の筋肉の酸化ストレス軽減用経口剤。
【請求項4】
経口用廃用性筋萎縮阻止剤である請求項1乃至3のいずれかに記載の筋肉の酸化ストレス軽減用経口剤。
【請求項5】
前記スーパーオキシドジスムターゼ複合体は、スーパーオキシドジスムターゼと少なくともプロラミンとの複合体である、請求項1乃至4のいずれかに記載の筋肉の酸化ストレス軽減用経口剤。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2006−62976(P2006−62976A)
【公開日】平成18年3月9日(2006.3.9)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−244145(P2004−244145)
【出願日】平成16年8月24日(2004.8.24)
【出願人】(803000034)学校法人日本医科大学 (37)
【出願人】(391003912)コンビ株式会社 (165)
【Fターム(参考)】