説明

筒状シリコン結晶体製造方法及びその製造方法で製造される筒状シリコン結晶体

【課題】切削加工を行なうことなくシリコン原料から筒状シリコン結晶体を製造することを可能とする、筒状シリコン結晶体製造方法とその製造方法で製造する筒状シリコン結晶体を提供する。
【解決手段】シリコンよりも熱膨張係数が小さく、融点が高い材質で形成された融液貯留容器と、シリコンよりも熱膨張係数が大きく、融点が高い材質で形成された中子を使用する。前記融液貯留容器の内面及び前記中子の外面に窒化珪素(Si)を塗布し、前記中子を前記融液貯留容器の内部に配置する。そして、前記融液貯留容器の内面と前記中子の外面とで形成された空隙にシリコン融液を充填し、前記シリコン融液の溌液性を維持しながら、前記融液貯留容器の底面側から上側へ温度勾配を設け、前記シリコン融液を固化させる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、切削加工を行なうことなくシリコン原料から筒状シリコン結晶体を製造することを可能とする、筒状シリコン結晶体製造方法と、その製造方法で製造される筒状シリコン結晶体に関する。
【背景技術】
【0002】
太陽電池などの材料となるシリコン結晶は、シリコン原料の融液から所定の大きさの塊(インゴット)として製造される。そして、これらのインゴットに、切削や切断などの加工を施し、太陽電池や基板などの製品の製造に必要となる所望の形状とする。ところが、インゴットを加工して所望の形状を作る場合、その加工には時間やエネルギーを要し、また切削や切断により生じる原料のくずは原料として再利用することが難しく廃棄せざるを得ない実情において、時間やエネルギー、そして資源の多大な損失をもたらすという問題がある。そこで、これらの損失を低減するため方法が提案されている。
【0003】
そのような方法として、例えば、特開平4−292494号公報には、所望の形状をなす高品質のシリコン結晶を量産できる整形結晶の製造方法が開示されている。また、特開2002−29882号公報には、自由表面(外部の融液保持容器などの束縛を受けない結晶体外表面)を有するシリコン結晶を量産できる結晶製造方法が開示されている。更に、特開2008−143754号公報には、シリコン原料を直接球状シリコン単結晶にするとともに、その歩留りを大幅に向上させる製造方法が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開平4−292494号公報
【特許文献2】特開2002−29882号公報
【特許文献3】特開2008−143754号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、上記従来の製造方法でも、シリコン原料から直接製造できない形状があり、そのような形状として筒状体が挙げられる。
【0006】
筒状体のシリコン結晶体は、例えば、シリコンウェーハをプラズマエッチングする際に用いられるフォーカスリングの製造に必要となり、また、シリコンのスパッタリング用ターゲットとしても好適であるが、現状では、まず、円柱状のインゴットを製造し、そのインゴットの内部を長さ方向にくり抜くことにより製造される。そして、このくり抜き切削加工において、時間、エネルギー、及び資源の多大な損失をもたらす問題があることは既述の通りである。また、インゴットの底面形状が円形ではなく多角形の場合は、その外周を切削して円形とする必要があり、更なる時間、エネルギー、及び資源の損失をもたらすこととなっているのが実情である。
【0007】
そこで、本発明は、切削加工を行なうことなくシリコン原料から筒状シリコン結晶体を製造することを可能とする、筒状シリコン結晶体製造方法とその製造方法で製造する筒状シリコン結晶体を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明に係る筒状シリコン結晶体製造方法では、シリコン結晶体よりも熱膨張係数が小さく、融点が高い材質で形成された融液貯留容器と、シリコン結晶体よりも熱膨張係数が大きく、融点が高い材質で形成された中子を使用する。前記融液貯留容器の内面及び前記中子の外面に窒化珪素(Si)を塗布し、前記中子を前記融液貯留容器の内部に配置する。そして、前記融液貯留容器の内面と前記中子の外面とで形成された空隙にシリコン融液を充填し、前記シリコン融液の溌液性を維持しながら、前記融液貯留容器の底面側から上側へ温度勾配を設け、前記シリコン融液を固化させる。
【0009】
本発明において溌液性とは、上記特許文献1〜3における定義と同様であり、高温の素材融液が、それを支える基板や容器の表面で「濡れ性のない状態」にあることをいう。なお、「濡れ」とは、液体と固体表面との相互作用を表現し、固体表面に置かれた液体がその固体表面に一様に広がることをいい、濡れない場合の液体は、水平面上では、玉、球状となる。水などが濡れない状態は「撥水性」といわれるが、この言葉は常温近傍の液体に対するものであるのに対し、溌液性は、より幅広い温度領域での「濡れ性のない状態」を普遍的に表現するものである。
【0010】
なお、前記シリコン融液の溌液性は、前記融液貯留容器の内面及び前記中子の外面に窒化珪素を塗布し、前記中子の材質を所定のセラミックスとすることに加え、シリコン融液の周囲環境の水分や酸素などの不純物を低減することで維持できる。
【0011】
前記融液貯留容器及び前記中子の材質は、シリコン結晶体の熱膨張係数(5×10−6[/℃])を考慮して選定すればよいが、融液貯留容器の材質にはシリコン結晶体よりも熱膨張係数が小さい石英(熱膨張係数5.5×10−7[/℃])、又はカーボン、例えば、新日本テクノカーボン株式会社製 EG−20(熱膨張係数1.5×10−6[/℃])や東海カーボン株式会社製 G159(熱膨張係数0.7×10−6[/℃])などが好ましく、中子の材質には炭化珪素(SiC)、アルミナ(Al)又はマグネシア(MgO)のいずれかが好ましい。
【0012】
本発明に係る筒状シリコン結晶体製造方法において、前記融液貯留容器の内面及び前記中子の外面に塗布される窒化珪素の純度を、前記中子の材質の純度よりも高いものとしてシリコン結晶体への不純物汚染を低減することが好ましい。なお、本発明において、純度とは主要成分の比率を意味し、従って、純度が高いほど窒化珪素以外の不純物の含有量が少ないことになる。
【0013】
前記中子は、前記中子の底面が前記融液貯留容器の底面から離れる状態で保持されてもよい。
【0014】
本発明に係る筒状シリコン結晶体は、周壁と底壁が一体に形成され、底面の一方で開口し長手方向に軸線と平行に伸びる中空部を有した、柱状晶シリコンで構成される。
【発明の効果】
【0015】
本発明に係る筒状シリコン結晶体製造方法における製造目的である筒状シリコン結晶体は、融液を固化して結晶体とした後、その融点(1414℃)より室温へ降温することで得られる。ところが、この降温過程で融液貯留容器内部の筒状シリコン結晶体は、その熱膨張係数(5×10−6[/℃])に従って熱収縮する。例えば外径100mm、内径80mmの筒状シリコン結晶体が1414℃より室温の24℃へ降温する場合、以下の式(1)に示すように、外径でΔL=0.695[mm]の直径方向の熱収縮量がある。
【数1】

【0016】
ここで融液貯留容器に熱膨張係数5.5×10−7[/℃]の石英ガラスを用いた場合、1414℃より室温の24℃へ降温する際における、シリコン結晶体と接触しているその内面の熱収縮量は以下の式(2)によりΔl=0.0765mmとなる。
【数2】

【0017】
つまり、石英ガラス融液貯留容器内径の熱収縮量はシリコン結晶体の熱収縮量よりも1桁近く小さく、両者の差は、ΔL−Δl=0.695[mm]−0.0765[mm]=0.62[mm]となる。これは直径での値であり、石英ガラス融液貯留容器内径側とシリコン結晶体の外径側では半径当たり0.62[mm]÷2=0.31[mm]の差が生じる、つまり両者に間隙ができることになる。
【0018】
一方、内径80mmの筒状シリコン結晶体が1414℃より室温の24℃へ降温する場合、以下の式(3)によりΔR=0.556[mm]の熱収縮量がある。
【数3】

【0019】
ここで中子として熱膨張係数12×10−6[/℃]のマグネシアを用いた場合、1414℃より室温の24℃へ降温する際における、筒状シリコン結晶体内面と接触している中子外面の熱収縮量は以下の式(4)によりΔr=1.334[mm]となる。
【数4】

【0020】
以上の式(3)、(4)により筒状シリコン結晶体内径と中子外径との熱収縮量差はΔR−Δr=1.334[mm]−0.556[mm]=0.778[mm]となる。これは直径での値でありシリコン結晶体の内径側とマグネシア中子外径側では半径当たり0.778[mm]÷2=0.389[mm]の差が生じる、つまり両者に間隙ができることになる。
【0021】
この様に、筒状シリコン結晶体の製造時に、シリコン結晶体、融液貯留容器及び中子の熱膨張係数の値を相互に勘案して適宜選択することにより、結晶体が室温になった際にシリコン結晶体と液貯留容器及びシリコン結晶体と中子の間には間隙ができシリコン結晶体が分離されて得られることになる。
【0022】
しかも、シリコン融液の溌液性は維持されるため、固化したシリコン結晶体が融液貯留容器や中子に固着することは無く、熱膨張係数の差により破損することはない。このようにして製造されたシリコン結晶体には、中子により中空部が形成されることになる。従って、切削加工を行なうことなくシリコン原料から筒状シリコン結晶体を製造することが可能となる。
【0023】
また、融液貯留容器の内面及び中子の外面に塗布される窒化珪素の純度を、中子の材質の純度よりも高いものとすることで、シリコン融液への不純物の混入を抑制し、製造される筒状シリコン結晶体の品質を向上させることができる。
【0024】
更に、中子の保持状態を調整することにより、筒状シリコン結晶体の中空部の深さを変えることができる。すなわち、中子の底面を融液貯留容器の底面に密着させることで、製造される筒状シリコン結晶体の中空部は両底面で開口するものとなり、中子の底面が融液貯留容器の底面から離れる状態で保持することで、製造される筒状シリコン結晶体は有底筒状となる。そして、中子の底面と融液貯留容器の底面との距離を調整することで、製造される筒状シリコン結晶体の中空部の深さと底の厚みを変えることができる。
【0025】
本発明に係る有底筒状結晶体は、本発明に係る筒状シリコン結晶体製造方法により製造されるもので、長手方向に直交して切断することでフォーカスリングに好適な材料を得ることができるとともに、底壁を有するものであることから、必要に応じて容器として使用することも可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0026】
【図1】本発明に係る筒状シリコン結晶体製造方法の実施例に使用する鋳型の概略を示す断面図である。
【図2】同実施例で製造される筒状シリコン結晶体を、その一部を切断して示す斜視図である。
【図3】中子の底面を有益貯留容器の底面から離して保持した状態の鋳型を示す断面図である。
【図4】中子の底面を有益貯留容器の底面から離して保持した場合に製造される筒状シリコン結晶体を、その一部を切断して示す斜視図である。
【発明を実施するための形態】
【0027】
図1及び図2を参照しながら、本発明に係る筒状シリコン結晶体製造方法の実施例を説明する。
まず、実施例に係る製造方法で使用する鋳型1について説明する。図1に示すように、鋳型1は、カーボン容器2と、カーボン容器2の内側に設置された融液貯留容器3と、融液貯留容器3の内側に任意の状態で配置される中子4と、カーボン容器2及び融液貯留容器3の上方開口部を開閉する蓋体5とで構成されている。融液貯留容器3は、シリコン結晶体よりも熱膨張係数が小さい石英で形成され、中子4は、シリコン結晶体よりも熱膨張係数が大きく、融点が高い材質であるアルミナで形成されている。また、カーボン容器2には、公知の石英ルツボを支持するために使用される、公知のサセプタが採用されており、蓋体5は、このカーボン容器2と同じ材質(カーボン)で形成されている。なお、鋳型1は図示しない真空チャンバに収容されており、鋳型1の上方及び下方には、図示しないヒータが設置されている。
【0028】
次に、この鋳型1を使用して筒状シリコン結晶体を製造する方法について説明する。結晶体を製造するにあたり、まず、融液貯留容器3の内面及び中子4の外面に窒化珪素(Si)を塗布し、真空チャンバ内を、シリコン融液の溌液性を維持するために必要な環境とする。このような環境に整えるために、真空チャンバ内を加熱しながら真空粗引きから10−4トール以下の真空状態にしてシリコン融液の溌液性を阻害する水分や酸素などの不純物を除去する。この真空熱処理を十分にした後、真空チャンバ内にアルゴンガスを導入し流すことでシリコン融液の溌液性を維持することが可能となる。
【0029】
真空チャンバ内の環境を整えたら、融液貯留容器3に予め投入された高純度シリコン原料を融解することでシリコン融液6を融液貯留容器3の内面と中子4の外面とで形成された空隙に充填する。
【0030】
シリコン融液6の充填が終了したら、鋳型1の上方及び下方に配置されたヒータの出力を除々に弱め、融液貯留容器3の底面側から上側へ温度勾配を設け、シリコン融液6を融液貯留容器3の底側から固化させる。この際、真空チャンバ内へはアルゴンガスを常時流すことで、シリコン融液6の溌液性は維持されることになる。
【0031】
シリコン融液6が固化した後、融液貯留容器3の内部に形成されるシリコン結晶体は、熱膨張係数が小さい融液貯留容器3よりも収縮し、融液貯留容器3から分離することになる。また、シリコン融液6よりも熱膨張係数が大きい中子4は、シリコン結晶体よりも大きく収縮するため、その外側に形成されるシリコン結晶体から分離することになる。しかも、シリコン融液6の溌液性は維持されるため、固化したシリコン結晶体が融液貯留容器3や中子4に固着することは無く、熱膨張係数の差により破損することはない。
【0032】
結晶体が形成されたら、真空チャンバ内から鋳型1を取出し、鋳型1からシリコン結晶体を取り出す。図2に示すように、形成されたシリコン結晶体7には、中子4により中空部7aが形成されることになる。すなわち、切削加工を行なうことなくシリコン原料から筒状シリコン結晶体が製造されることになる。
【実施例】
【0033】
図1に示す鋳型1を使用し、上記製造方法を実施したところ、直径60mmの中空部を有し、柱状晶シリコンで構成される、外径80mm、高さ50mmの筒状シリコン結晶体を得ることができた。なお、上記製造方法で製造される筒状シリコン結晶体の純度は、融液貯留容器3の内面に塗布される窒化珪素の純度の影響を受けるが、この窒化珪素の純度を、中子4の材質の純度よりも高いものとすることで、市販の柱状シリコン結晶体と同程度となることがこの実施例で確認された。
【0034】
中子4は、シリコンの熱膨張係数(5×10−6[/℃])よりも大きいものであれば、その材質を適宜選択でき、上記アルミナ(熱膨張係数8×10−6[/℃])の他、炭化珪素(熱膨張係数6×10−6[/℃])やマグネシア(熱膨張係数12×10−6[/℃])を使用してもよい。
【0035】
また、図1に示す鋳型1において、中子4の底面は融液貯留容器3の底面に密着されており、製造される筒状シリコン結晶体7の中空部7aは両底面で開口するものとなっているが、中子4の底面が融液貯留容器3の底面から離れる状態で中子4を保持してもよい。図3に、中子4の底面が融液貯留容器3の底面から離れる状態で中子4を保持した状態を示す。この場合、図4に示すように、製造される筒状シリコン結晶体8は底壁8aを有する有底筒状となる。なお、中子4の底面と融液貯留容器3の底面との距離を調整することで、製造される筒状シリコン結晶体の中空部の深さと底の厚みを変えてもよい。
【0036】
有底筒状シリコン結晶体8は、長手方向に直交して切断することでフォーカスリングに好適な材料を得ることができるとともに、底壁8aを有するものであることから、必要に応じて容器として使用することも可能となる。
【符号の説明】
【0037】
1 鋳型
2 カーボン容器
3 融液貯留容器
4 中子
5 蓋体
6 シリコン融液
7 筒状シリコン結晶体
7a 中空部
8 有底筒状シリコン結晶体
8a 底壁


【特許請求の範囲】
【請求項1】
シリコン結晶体よりも熱膨張係数が小さく、融点が高い材質で形成された融液貯留容器と、シリコン結晶体よりも熱膨張係数が大きく、融点が高い材質で形成された中子を使用し、前記融液貯留容器の内面及び前記中子の外面に窒化珪素(Si)を塗布し、前記中子を前記融液貯留容器の内部に配置し、前記融液貯留容器の内面と前記中子の外面とで形成された空隙にシリコン融液を充填し、前記シリコン融液の溌液性を維持しながら、前記融液貯留容器の底面側から上側へ温度勾配を設け、前記シリコン融液を固化させることを特徴とする筒状シリコン結晶体製造方法。
【請求項2】
前記融液貯留容器の材質を石英、又はシリコン結晶体よりも熱膨張係数が小さいカーボンとし、前記中子の材質を炭化珪素(SiC)、アルミナ(Al)又はマグネシア(MgO)のいずれかとする請求項1に記載の筒状シリコン結晶体製造方法。
【請求項3】
前記融液貯留容器の内面及び前記中子の外面に塗布される窒化珪素の純度を、前記中子の材質の純度よりも高いものとする請求項1又は2に記載の筒状シリコン結晶体製造方法。
【請求項4】
前記中子を、前記中子の底面が前記融液貯留容器の底面から離れる状態で保持する請求項1、2又は3のいずれかに記載の筒状シリコン結晶体製造方法
【請求項5】
周壁と底壁が一体に形成され、底面の一方で開口し長手方向に軸線と平行に伸びる中空部を有した、柱状晶シリコンで構成されることを特徴とする筒状結晶体。






【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2011−246296(P2011−246296A)
【公開日】平成23年12月8日(2011.12.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−119173(P2010−119173)
【出願日】平成22年5月25日(2010.5.25)
【特許番号】特許第4693932号(P4693932)
【特許公報発行日】平成23年6月1日(2011.6.1)
【出願人】(591054864)ユニオンマテリアル株式会社 (13)
【出願人】(591274303)株式会社芝技研 (10)
【Fターム(参考)】