説明

箔転写射出成形方法及び金型並びに成形品

【課題】転写箔のシワや箔バリの発生を低減した箔転写射出成形方法及び金型並びに成形品を提供する。
【解決手段】キャビティ輪郭部を構成し、可動側金型131に対してバネ111により一定圧力で付勢するスライドコア101を設け、成形時、このスライドコア101によって輪郭形成と、転写フィルム141の固定を行うことにより、成形品輪郭部のシワ発生を抑制する。また、溶融樹脂を射出、成形冷却後に、転写フィルム141のキャビティ輪郭部をスライドコア101で固定した状態で金型を開く。このとき、キャビティ輪郭部における成形品の成形部と非成形部にて、転写フィルム141の基材フィルムと転写箔から転写箔を分離することにより、転写箔を輪郭形状通りに切り取り、箔バリの発生を抑制する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、箔転写射出成形に関するもので、特に転写するフィルム箔のシワの抑制を図ることと、フィルム箔を転写した輪郭部形状を正確に形成する箔転写射出成形方法及び金型並びに成形品に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来の箔転写射出成形において、成形時に転写フィルムにズレが生じないよう、金型に転写する転写フィルムを固定するためのフィルム押さえプレートを設けて、これにより転写フィルムを固定する方法が一般的である。
【0003】
しかし、これだけでは転写フィルムの固定が不充分であり、型締め後の溶融樹脂を金型キャビティ内へ射出した際に、キャビティ輪郭部に転写フィルムのズレが生じ、成形品にシワ模様が発生する。また、成形品への転写フィルムの転写後、基材フィルムとフィルム箔の剥離時に箔バリ(成形品よりはみ出したフィルム箔)が発生し、それが成形品の表面あるいは金型に付着することにより外観不良を引き起こすという問題点がある。
【0004】
そこで、箔転写射出成形の金型に転写箔固定用のフィルム押さえプレートを設けて、そのフィルム押さえプレートを一定の力で付勢し、かつラバー部材で挟み込むことよって、転写フィルムを固定する方法などがある。
【0005】
図6に示すように、この方法は、可動側取付板3にコア型4の周縁部の四隅を貫通するよう型締め方向に平行に4本のガイドピン7を立設し、これらガイドピン7に圧縮バネ8を挟んでフィルム押さえプレート5を挿着する。そして、フィルム押さえプレート5には上部と下部にラバー部材11を装着する。
【0006】
成形時のシワをラバー部材11の位置で止めるとともに、フィルム押さえプレート5で押さえた段階で転写フィルム12を完全に固定し、型締め時に転写フィルム12が引き戻されないようにできる。
【0007】
なお、この方式については、特許文献1に詳しく説明されている。
【特許文献1】特開平7−47565号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかしながら、従来例の箔転写射出成形方法では、キャビティ輪郭形状より離れた外側にて転写フィルムの固定を行うため、その離れた部分において、溶融樹脂の射出時に、転写フィルム固定部とキャビティ輪郭部の間で転写フィルムにシワが生じ、成形品へそのシワ模様が転写されていた。
【0009】
また、転写フィルムの固定端とキャビティの輪郭部が離れているため、成形品へ転写フィルムの転写後の基材フィルムと転写フィルムの剥離時において、箔バリが発生し、それが成形品あるいは金型に付着していた。これらによって、成形品の外観不良を引き起こすという問題点があった。
【0010】
本発明は、前記従来の問題点に鑑み、金型のキャビティ輪郭部にて転写フィルムを固定し、成形後は、成形品が基材フィルムと剥離が完了するまで転写フィルムを固定し続けることにより、成形品輪郭部にシワがなく、また、箔バリの発生しない箔転写射出成形方法及び金型並びに成形品を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0011】
前記の目的を達成するために、本発明の請求項1に係る箔転写射出成形方法は、第1金型と第2金型とで形成したキャビティによる成形品の一部の面にフィルム箔を転写する箔転写射出成形方法において、キャビティの外周を平面とする外周平面部を有する第1金型にフィルム箔を配置する第1工程と、キャビティ輪郭部を構成する枠形状のスライドコアを第1金型の外周平面部に転写フィルムを挟んで接触させる第2工程と、第1金型にスライドコアを付勢手段で押圧するとともに、型締めする第2金型によって形成したキャビティに樹脂を射出する第3工程と、からなり、フィルム箔を転写した成形品を成形することを特徴とする。
【0012】
このような方法により、フィルム箔のキャビティ輪郭部より外周となる全ての部分を固定することができる。
【0013】
また、請求項2に記載された発明は、請求項1の箔転写射出成形方法における第3工程の後、スライドコアを第1金型の外周平面部に押圧した状態で、第1金型と第2金型を一定の量型開きする第4工程を有することを特徴とする。
【0014】
このような構成により、キャビティ輪郭部にて成形品の成形部と非成形部のフィルム箔が分離することで輪郭形状に切り取られ、箔バリの発生を抑制することができる。
【0015】
また、請求項3に記載された発明は、請求項2の箔転写射出成形方法における型開きする一定の量は、0.2mm以上であることを特徴とする。
【0016】
このような構成により、さらに効率的に箔バリの発生を抑制することができる。
【0017】
また、請求項4に記載された箔転写射出成形用金型は、キャビティに形成する外周平面部を有しフィルム箔を配置する第1金型と、キャビティ輪郭部を構成する枠形状のスライドコアと、フィルム箔を挟んで第1金型の外周平面部にスライドコアを付勢手段で押圧するとともに、キャビティを形成するため型締めする第2金型と、を備え、第1金型とスライドコアと第2金型で形成したキャビティに樹脂を射出し、フィルム箔を転写した成形品を成形することを特徴とする。
【0018】
また、請求項5,6に記載された発明は、請求項4の箔転写射出成形用金型において、第1金型とスライドコアと第2金型で形成したキャビティにおいて、樹脂を射出成形した後、スライドコアを第1金型の外周平面部に押圧した状態で、第1金型と第2金型を一定の量型開きする機能を備えたこと、この型開きする機能の一定の量は、0.2mm以上であることを特徴とする。
【0019】
このような構成により、箔転写射出成形において、フィルム箔のシワや箔バリの発生を抑制した成形品を成形することができる。
【発明の効果】
【0020】
本発明によれば、転写するフィルム箔をキャビティ輪郭部の外周全体で固定し、また固定した状態で成形品を基材フィルムより転写するフィルム箔を剥離することにより、シワがなく、箔バリがない箔転写射出成形を実現できるという効果を奏する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0021】
以下、図面を参照して本発明における実施の形態を詳細に説明する。
【0022】
(実施の形態1)
図1は本発明の実施の形態1における箔転写射出成形用金型を示す断面図であり、図2は溶融樹脂を射出して成形品を形成した状態を示す断面図である。
【0023】
図1において、図2に示す成形品100の輪郭形状を形成するスライドコア101は付勢手段であるバネ111を介し、固定側金型121に取り付けられ、固定側金型121は成形機固定側プラテン201に固定されている。転写フィルム141の送りと巻取りを行うフィルム供給装置151及び可動側金型131は、成形機可動側プラテン211に固定されている。
【0024】
また、図3は転写フィルムの層構成を示す断面図である。転写フィルム141は成形品100に転写するフィルム箔(以下、転写箔という)302と成形後に剥離除去する基材フィルム301(一般にPETフィルム材料を使用)から構成される。
【0025】
次に、箔転写の射出成形の工程を説明する。図1に示す状態から成形時には、成形機の型締め動作によって転写フィルム141はスライドコア101と可動側金型131の外周平面部に挟み込まれ、型締め完了時にはバネ111によって、一定の圧力で押圧され固定される。この状態が図4である。
【0026】
本実施の形態1においては、この状態で溶融樹脂を射出し、成形品100を形成(図2)の後、可動側金型131が開き、スライドコア101と固定側金型121と共に成形品100が可動側金型131から離型する。このとき、スライドコア101と可動側金型131の外周平面部によって、成形品100の輪郭の外周全面で転写フィルム141を固定しているため、従来の成形品の輪郭外側の離れた部分を固定する方法に比べて、輪郭部で転写フィルム141がずれるという問題に対して、大きく改善することができた。
【0027】
なお、前記のような方法を利用した、箔転写射出成形方法及び金型は、転写フィルムのズレによる成形品のシワを低減できるという特徴を有し、安定して転写箔を転写した成形品を得ることができ、成形品の不良を低減できるという格別の効果を奏する。
【0028】
(実施の形態2)
次に、本発明の実施の形態2について説明する。図5は成形後で、金型を型締めの状態から動作ストロークAの距離を開いた型開きの状態を示す図である。溶融樹脂が射出され、成形冷却後に、転写フィルム141の転写箔302が成形品100に転写され、前述の図2の位置から図5の位置に金型を移動させる。
【0029】
このとき、バネ111により付勢されたスライドコア101と可動側金型131の外周平面部では転写フィルム141を固定した状態であり、金型を動作ストロークAの距離を移動させることによって、成形品100に転写された転写箔302は成形品100と共に基材フィルム301からシワや箔バリを低減した剥離ができる。その後、さらに金型を開き成形品100を得る。
【0030】
また、この動作ストロークAを「A>0.2mm」に設定することにより、前述の実施の形態1に比べて、キャビティの輪郭に沿った、よりシャープな転写箔302の切れができることを確認した。
【0031】
本発明の形態においては、スライドコア101により転写フィルム141のキャビティ輪郭部を固定した状態で、基材フィルム301から成形品100に転写した転写箔302の剥離を行う。これによって、転写フィルム141が固定された非成形部の転写箔302は基材フィルム301から剥離することがなく、キャビティ輪郭部内側の成形部の転写箔302のみが基材フィルム301から剥離でき、転写箔302がキャビティの輪郭形状に切り取られ、箔バリの発生がなくなるという特徴を有し、成形品の不良を低減できる格別の効果を奏することができる。
【0032】
以上述べた各実施の形態においては、基材フィルムと転写箔から構成される転写フィルムを用い、転写箔だけを成形品に転写する箔転写射出成形方法の場合を例示したが、加飾したフィルム全体を成形品に転写し、成形完了後の型開き時と同時に加飾したフィルム自体の輪郭をトリミングするフィルム転写射出成形方法においても、シワの低減と良好なトリミング面を得ることができるという利点がある。
【産業上の利用可能性】
【0033】
本願発明の箔転写射出成形方法及び金型並びに成形品によれば、箔転写射出成形品のシワ不良と箔バリの低減を実現でき、さらに、加飾されたフィルム全体を成形品に転写し、トリミングするフィルム転写射出成形方法においても、前記と同様の転写射出成形方法及び金型並びに成形品として、適用することができる。
【図面の簡単な説明】
【0034】
【図1】本発明の実施の形態1における箔転写射出成形用金型(成形動作前)を示す断面図
【図2】本実施の形態1における箔転写射出成形用金型の成形型締め動作後、溶融樹脂を射出し、冷却完了時を示す断面図
【図3】箔転写射出成形に用いる転写フィルムの層構成を示す断面図
【図4】本実施の形態1で用いた箔転写射出成形用金型の成形型締め動作開始後、転写フィルムが固定側金型のスライドコアに接触時を示す断面図
【図5】本発明の実施の形態2における箔転写射出成形用金型の成形射出、冷却後の、成形品に転写箔が転写し基材フィルムから剥離した状態を示す断面図
【図6】従来の箔転写射出成形用金型を示す断面図
【符号の説明】
【0035】
1 固定側取付板
3 可動側取付板
4 コア型
5 フィルム押さえプレート
7 ガイドピン
8 圧縮バネ
11 ラバー部材
12,141 転写フィルム
100 成形品
101 スライドコア
111 バネ
121 固定側金型
131 可動側金型
151 フィルム供給装置
201 成形機固定側プラテン
211 成形機可動側プラテン
301 基材フィルム
302 転写箔

【特許請求の範囲】
【請求項1】
第1金型と第2金型とで形成したキャビティによる成形品の一部の面にフィルム箔を転写する箔転写射出成形方法において、
前記キャビティの外周を平面とする外周平面部を有する前記第1金型に前記フィルム箔を配置する第1工程と、
キャビティ輪郭部を構成する枠形状のスライドコアを前記第1金型の外周平面部に前記転写フィルムを挟んで接触させる第2工程と、
前記第1金型に前記スライドコアを付勢手段で押圧するとともに、型締めする前記第2金型によって形成したキャビティに樹脂を射出する第3工程と、
からなり、前記フィルム箔を転写した成形品を成形することを特徴とする箔転写射出成形方法。
【請求項2】
前記第3工程の後、前記スライドコアを前記第1金型の外周平面部に押圧した状態で、前記第1金型と第2金型を一定の量型開きする第4工程を有することを特徴とする請求項1記載の箔転写射出成形方法。
【請求項3】
前記型開きする一定の量は、0.2mm以上であることを特徴とする請求項2記載の箔転写射出成形方法。
【請求項4】
キャビティに形成する外周平面部を有しフィルム箔を配置する第1金型と、キャビティ輪郭部を構成する枠形状のスライドコアと、前記フィルム箔を挟んで前記第1金型の外周平面部に前記スライドコアを付勢手段で押圧するとともに、前記キャビティを形成するため型締めする第2金型と、を備え、
前記第1金型と前記スライドコアと前記第2金型で形成したキャビティに樹脂を射出し、前記フィルム箔を転写した成形品を成形することを特徴とする箔転写射出成形用金型。
【請求項5】
前記第1金型と前記スライドコアと前記第2金型で形成したキャビティにおいて、樹脂を射出成形した後、前記スライドコアを前記第1金型の外周平面部に押圧した状態で、前記第1金型と前記第2金型を一定の量型開きする機能を備えたことを特徴とする請求項4記載の箔転写射出成形用金型。
【請求項6】
前記型開きする機能の一定の量は、0.2mm以上であることを特徴とする請求項5記載の箔転写射出成形用金型。
【請求項7】
請求項1〜3のいずれか1項に記載の箔転写射出成形方法により、フィルム箔を転写し成形したことを特徴とする箔転写射出成形品。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2010−173167(P2010−173167A)
【公開日】平成22年8月12日(2010.8.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−17966(P2009−17966)
【出願日】平成21年1月29日(2009.1.29)
【出願人】(000005821)パナソニック株式会社 (73,050)
【Fターム(参考)】