説明

管の内面疵測定方法

【課題】管の内面疵の深さを容易にかつ精度よく測定することができる管の内面疵測定方法を提供する。
【解決手段】非破壊検査法で管の内面疵の深さを測定する際、凹状の内面疵を造型材料に転写した後、前記造型材料に形成された凸状の疵転写部の頂部までの高さを測定し、その高さ測定値を内面疵の深さとする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、非破壊検査法で管の内面疵の深さを容易にかつ精度よく測定することができる管の内面疵測定方法に関する。
【背景技術】
【0002】
鋼管などの管を製造する場合、検査ラインでは、管の種類に応じて予め定められている外観・形状の検査や寸法の検査、欠陥の検査などを行って品質を保証している(非特許文献1)。
管の製造に際し、例えば管内面には何かで疵付けられた凹み状欠陥(以下、内面疵という)が発生することがある。このような凹み状の内面疵欠陥があると、その部分が肉厚不足となるため、凹み状の内面疵の深さを容易にかつ精度よく測定することが重要である。
【0003】
管の欠陥を検査する非破壊検査法には各種方式があるが、管の内面疵測定方法には簡便な非破壊検査法が採用されている。従来の管の内面疵測定方法を図6(a)、(b)を参照しつつ説明する。
従来の管の内面疵測定方法では、製造された管の内面を検査者が目視にて詳細に観察し、凹み状の内面疵があると、その欠陥部分の近くにマーキングを施し、その後、凹みの深さを測定するため、図6(a)、(b)に示したように、マイクロメータを搭載してなる深さ検出用の測定器5を管内面に配置して測定工程を行っていた。
【0004】
この凹みの深さを測定する測定工程では、欠陥のない正常部に測定器5を配置し、その位置で測定した測定値と、内面疵上に測定器5を配置し、その位置で測定した測定値との差でもって内面疵の深さとしていた。なお、深さ検出用の測定器5は測定対象側の触針先端部5Cが針状に形成してあるマイクロメータを具備している。
【非特許文献1】日本鉄鋼協会編、「第3版 鉄鋼便覧 第III巻(2)」丸善株式会社、昭和55年11月20日発行、p1221
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら従来の管の内面疵測定方法は簡便であるものの、内面疵の深さの測定値にばらつきが大きく、精度よく測定することが困難であるという問題があった。
この原因を鋭意検討したところ、従来の管の内面疵測定方法は、測定工程で凹みの深さを測定するようにしているから、凹みの底よりも浅い斜面までの深さを測定してしまうことが起こりやすく、内面疵の深さの測定値にばらつきが大きくなることがわかった。
【0006】
なお、凹みの深さを測定する場合、触針が上下移動するときの位置変化を検出する検出部のマイクロメータと、該検出部を搭載する台板5Aと、該台板5Aに取り付けてなる脚部5Bを具備した測定器自体を、針状に形成してある触針先端部5Cが凹みの底の直上に来るよう配置することが難しいことも精度よく測定できない一因である。
本発明は、上記従来技術の問題点を解消し、非破壊検査法で管の内面疵の深さを容易にかつ精度よく測定することができる管の内面疵測定方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は、非破壊検査法で管の内面疵の深さを測定する際、凹状の内面疵を造型材料に転写した後、前記造型材料に形成された凸状の疵転写部の頂部までの高さを測定し、その高さ測定値を前記内面疵の深さとすることを特徴とする管の内面疵測定方法である。その際、枠体と枠体内に嵌装される蓋を有し、造型材料を枠体に詰め込んだ後、枠体の一側から造型材料がはみ出ないよう蓋を嵌装したレプリカユニットを用い、凹状の内面疵を転写することが好ましく、また前記造型材料を常温硬化性材料とするのが好ましい。
【0008】
また触針が上下移動するときの位置変化を検出する検出部を具備し、その触針先端部が測定対象側から見て平面に形成されてなる高さ検出用の測定器を用い、高さを測定することが好ましい。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、非破壊検査法で管の内面疵の深さを容易にかつ精度よく測定することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0010】
以下、図を用い、本発明にかかる管の内面疵測定方法について説明する。
図1は、本発明の測定方法に用いて好適な一例のレプリカユニットを示す斜視図であり、図2は、一例のレプリカユニットを用い、管Wの内面に存在している凹み状の内面疵を転写する造型工程を示す斜視図である。このレプリカユニットは、枠体2と枠体2内に嵌装される蓋3を有し、造型材料1を枠体2に詰め込んだ後、枠体2の一側から造型材料1がはみ出ないよう蓋3を嵌装したものである。造型材料1としては実施例で説明する常温硬化性材料を用いるのが好ましい。突っ張り棒4は、枠体2に詰め込んだ造型材料1を蓋3を介して内面疵部分に押し付ける道具である。
【0011】
ここで図3には、凹状の内面疵を造型材料1に転写した後、造型材料1を管内から取り出す前の造型工程の最終段階を示した。造形工程の次に造型材料1を管内から取り出し、凸状の疵転写部1Aの高さを測定する測定工程を行う。図3は、凹状の内面疵がある管Wの要部を示した斜視図であり、本発明の測定方法は非破壊検査法であるから、凹状の内面疵がある欠陥部分で管Wを切断したことを示す図ではない。
【0012】
本発明にかかる管の内面疵測定方法は、非破壊検査法で管の内面疵の深さを測定する際、凹状の内面疵を造型材料1に転写した後、造型材料1に形成された凸状の疵転写部1Aの頂部までの高さを測定し、その高さ測定値を内面疵の深さとすることを特徴とする。
なお、図4には凸状の疵転写部1Aの高さを測定するため、造型材料1を管内から取り出した状態を示し、図5(a),(b)には、触針が上下移動するときの位置変化を検出する検出部にマイクロメータを搭載した高さ検出用の測定器5を用い、造型材料1に形成された凸状の疵転写部1Aの高さを測定する測定工程を示した。この測定工程では、定盤などの上に造型材料1を置いて、凸状の疵転写部1Aの頂部までの高さを高さ検出用の測定器5で測定する。
【0013】
その際、測定器5の高さ方向原点(基準)は、測定器5を疵転写部1Aよりも管軸方向へ移動した正常部で測定した値とし、その位置から管軸方向へ測定器5をずらせ、触針先端部5Cの位置が疵転写部1Aの上方に概略来るようにすれば、触針先端部5Cと疵転写部1Aの頂部とを接触させることができるため、疵転写部1Aの頂部までの高さを容易にかつ精度よく測定することができる。
【0014】
このように本発明によれば、従来の管の内面疵測定方法のように、凹みの深さを測定するのではなく、測定工程で造型材料1に形成された凸状の疵転写部1Aの頂部までの高さを測定し、その高さ測定値を内面疵の深さとするので、従来の管の内面疵測定方法での問題を解決できる。尚、本発明の方法は、円周方向のどの位置においても測定が可能である。
【0015】
その際、高さを測定するには、触針が上下移動するときの位置変化を検出する検出部と、検出部を搭載する台板5Aと、台板5Aに取り付けてなる脚部5Bを具備し、触針先端部5Cが測定対象側から見て平面に形成されてなる高さ検出用の測定器5を用いるのが容易にかつ精度よく高さを測定することができるので好ましい。なお高さ検出用の測定器5としては、触針が上下移動するときの位置変化を検出する検出部としてマイクロメータを搭載したものに限定されず、検出部を搭載する台板5Aと、台板5Aに取り付けてなる脚部5Bを具備し、触針先端部5Cが測定対象側から見て平面に形成されてなるものを用いてもよい。
【0016】
また本発明には、枠体2と枠体2内に嵌装される蓋3を有し、造型材料1を枠体2に詰め込んだ後、枠体2の一側から造型材料1がはみ出ないよう蓋3を嵌装したレプリカユニットを用いるのが、凹状の内面疵を造型材料1に容易にかつ精度よく転写することができるので好ましい。また造型材料1としては常温硬化性材料を用いるのが好ましい。この理由は、造型材料1を内面疵部分に押し付けた状態で所定の時間保持すれば、常温で造型材料1を硬化させることができ、凹状の内面疵を造型材料1に転写した後、造型材料1に形成された疵転写部1Aの高さを測定するに際し、造型材料1を加熱処理しなくても、十分な硬さとすることができ、疵転写部1Aの頂部までの高さを精度よく測定することができるからである。
【実施例】
【0017】
中径鋼管の内面疵の測定試験を5人の検査者で行い、本発明を適用した場合の内面疵の深さのばらつきを調べ、その結果を表1に示した。
【0018】
【表1】

【0019】
表1中、疵転写部の標高(3)、正常部の標高(1)、(2)は、図5に示したように、触針先端部5Cが平面に形成されてなる高さ検出用の測定器5を用い、管長手方向位置でそれぞれ測定した値である。正常部の標高(1)、(2)を測定した位置は、疵転写部の標高(3)を測定した位置に対し、管長手方向にそれぞれ5mm離れた箇所とした。この高さ検出用の測定器5としては0.010mmの精度のマイクロメータ(Mitutoyo Corporation製)を搭載した。また造型材料1としては、2種類の棒状材料からなるパテ(ITW Industry Co.,Ltd製:FAS-STIK)を用いた。
【0020】
なお、各標高は、測定器5の基準高さを零とし、そこから、触針先端部5Cがレプリカユニットの蓋3と接触した造型材料1の一側面(図5中、造型材料1の下側の面)に対して垂直な方向への移動距離とした。また疵転写部1Aの高さ(4)は、疵転写部の標高(3)から正常部の標高(1)、(2)の平均値を引いて求めた。このようにして凹状の内面疵を造型材料1に転写した後、造型材料1に形成された凸状の疵転写部1Aの頂部までの高さを測定し、その測定値を内面疵の深さとした。
【0021】
その結果、表1に示したように、疵転写部1Aの頂部までの高さの1σ(標準偏差)は0.015mmであり、内面疵の深さのばらつきが小さく、また真の疵深さ(=0.14mm)からの差も小さく、容易にかつ精度よく測定できることがわかる。
ただし、管の内面疵の形状を造型材料1に転写する造型工程の手順は以下のようにした。
【0022】
ステップ1:管の内面疵部分に離型剤としてグリースを塗る。ステップ2:2種類の棒状材料を適宜な長さ(30〜40mm)切断する。ステップ3:切断した2種類の棒状材料をよく練り合わせる。ステップ4:枠体2に造型材料1(パテ)を所定量詰め込む。ステップ5:レプリカユニットの蓋3にグリースを塗り、造型材料1を詰め込んだ枠体2の一側に蓋3を装着する。このようにしてレプリカユニットを作成する(図1)。
【0023】
ステップ6:次いでグリースを塗った管の内面疵部分に、蓋をしていない他側を向けてレプリカユニットを配置し、造型材料1がはみ出ないよう蓋3で蓋をした一側に突っ張り棒4を配置した後、突っ張り棒4と接触する蓋3を介して枠体2に詰め込んだ造型材料1を内面疵部分に押し付ける(図2)。ステップ7:その状態で造型材料1が固化するまで待つ(このパテでは最低限5分)。ステップ8:突っ張り棒4、蓋3、枠体2を取り去った後、造型材料1の蓋3と接触した一側面を観察する(図3)。造型材料1の一側面が平面となっていれば、造型材料1が十分に内面疵部分に充満できていることになり、造型材料1の他側面に精度よく凸状の内面疵が転写される(図4)。ステップ9:造型材料1を管から取り出す。ステップ10:造型材料1に付着したグリースを取り除く。
【図面の簡単な説明】
【0024】
【図1】本発明の測定方法に用いて好適な一例のレプリカユニットを示す斜視図である。
【図2】一例のレプリカユニットを用い、内面疵の形状を造型材料に転写する造型工程を示す斜視図である。
【図3】一例のレプリカユニットを用い、内面疵の形状を造型材料に転写した後、造型材料を管から取り出す直前の状態を示す斜視図である。
【図4】凸状の疵転写部が形成された造型材料を管内から取り出した状態を示す斜視図である。
【図5】高さ検出用の測定器と、それを用いた、凸状の疵転写部の高さを測定する測定工程を示す斜視図(a)と、その要部を示す断面図(b)である。
【図6】従来の測定方法の問題点を説明する正面図(a)と、その要部を示す断面図(b)である。
【符号の説明】
【0025】
W 管(測定対象)
1 造型材料
1A 疵転写部
2 枠体
3 蓋
4 突っ張り棒
5 測定器
5A 台板
5B 脚部
5C 触針先端部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
非破壊検査法で管の内面疵の深さを測定する際、凹状の内面疵を造型材料に転写した後、前記造型材料に形成された凸状の疵転写部の頂部までの高さを測定し、その高さ測定値を前記内面疵の深さとすることを特徴とする管の内面疵測定方法。
【請求項2】
枠体と枠体内に嵌装される蓋を有し、造型材料を枠体に詰め込んで枠体の一側から造型材料がはみ出ないよう蓋を嵌装したレプリカユニットを用い、凹状の内面疵を転写することを特徴とする請求項1に記載の管の内面疵測定方法。
【請求項3】
前記造型材料を常温硬化性材料とすることを特徴とする請求項1又は2に記載の管の内面疵測定方法。
【請求項4】
触針が上下移動するときの位置変化を検出する検出部を具備し、その触針先端部が測定対象側から見て平面に形成されてなる高さ検出用の測定器を用い、高さを測定することを特徴とする請求項1〜3のいずれかに記載の管の内面疵測定方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2008−58043(P2008−58043A)
【公開日】平成20年3月13日(2008.3.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−232896(P2006−232896)
【出願日】平成18年8月30日(2006.8.30)
【出願人】(000001258)JFEスチール株式会社 (8,589)
【Fターム(参考)】