説明

管外面塗装の膜厚調整方法

【課題】管外面塗装において塗膜厚さを変更する際に、ノズルチップや吐出量の変更といった煩わしい調整作業(段取り替え作業)が不要で、塗着効率の低下を招くこともなく美しい塗装仕上がりを得ることができる管外面塗装の膜厚調整方法を提供することを課題とする。
【解決手段】管の外面に塗料を吹き付けて塗膜を形成する管外面塗装において、塗膜の厚みをx%減少させるときに、吹き付け前の塗料を、揮発性又は蒸発性を有する溶媒で{100/(100−x)}倍に稀釈するだけで、管外面に吹き付ける塗料の吐出量を減らすことなく、厚みがx%減少した塗膜を形成する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、管、例えば鋳鉄管などの外面塗装において、塗装の膜厚(以下、塗膜厚さという)の変更を効率良く行い、かつ、塗膜厚さを変更しても塗着効率が下がらず塗装を美しく仕上げる管外面塗装の膜厚調整方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
管外面の防食や美粧を図る目的で、従来から鋳鉄管などの管外面には塗装が施されてきた。その塗装方法には、浸漬法やスプレー法(噴霧法)、刷毛塗り法など種々のものがある。中でもスプレー法は塗装作業の機械化・自動化に伴い、広く用いられる塗装方法となっている。
そのスプレー法による管外面塗装の一従来例を、図1に示す。これは、管Pを4基のローラーRに載せて水平に支持し、そのローラーRの回転により管Pをその軸周りに回転させ、続いて、管の上方に設置した塗装ガン1から、回転する管に向けて塗料を噴出し、そのままその塗装ガン1を管軸方向に移動させることで管外面の大部を塗装するものである。
【0003】
ここで、管Pは、塗着した塗料の乾きを良くするために、予め、加熱炉(図示せず)などに入れられて温められた状態となっている。
また、塗装ガン1には塗料タンクからの塗料配管が接続されていて、この配管の途中には、ポンプ、開閉弁、フィルター、流量調整弁、圧力計などが取り付けられ、流量調整弁の操作によって塗装ガンからの塗料の吐出流量を変化させることができる。
【0004】
このようなスプレーによる管外面塗装において、塗装ガンから吐出される塗料の塗着効率を高める技術として、塗装ガンの配置や塗料の吹き付け方向を変えたり、塗料とは別に管外面に向かってエアーを吹き付ける技術がある。
【特許文献1】特開2003−265990号公報
【0005】
ところで、このようなスプレー法により管外面塗装を行う場合に、塗膜厚さを減少させる必要が生じたときは、従来は、塗料配管内の流量調整弁を絞り、塗装ガンから噴出する塗料の吐出流量を減少させて管外面に吹き付ける塗料の量を減らす手段が採られてきた。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
スプレー法により塗装を行う場合、塗装ガンから噴出する塗料の飛散分布(以下、吐出パターンという)は、塗装ガンの塗料噴出口に取り付ける「ノズルチップ」の孔径(いわゆる「チップ口径」)やその形状だけで決まるわけではなく、塗料の吐出流量によっても大きく変化する。
よって、ノズルチップを交換せずに塗料の吐出流量だけを減少させると、吐出パターンは変化する。
【0007】
吐出パターンが変化する場合に、その塗装仕上り状態や塗装時間などを管理するには、吐出パターンが変化するたびにその吐出パターンに合った塗装条件(例えば塗装ガンの移動速度や管回転速度、塗装ガンと管外面との距離など)を揃え直す必要がある。吐出パターンと塗装条件が合わないと、塗膜厚さのバラツキや塗装ムラが発生し、上手く塗装できないからである。
しかし、吐出パターンの変化に合わせて塗装条件を変えることは、塗装条件の管理やその制御の複雑化を招き、塗装作業の機械化・自動化を進める上で好ましくない。
【0008】
一方、塗料の吐出流量を減少させても吐出パターンを一定に保つには、ノズルチップを、減少させた吐出流量で同じ吐出パターンを形成するものに交換する必要がある。
しかし、ノズルチップは、吐出流量や塗料物性など、種々の条件下での試用結果に基づく改良を積み重ねて初めて最適なものが得られるものであるから、吐出流量の変更に伴う最適ノズルチップの選定は多大な手間を伴う作業となる。
【0009】
なお、ノズルチップを変えずに塗料の吐出流量を減少させると、吐出パターンに変化が生じるだけでなく、吐出される塗料の勢いの低下も発生する。塗料の勢いが低下すると、吐出しても管外面まで届かずに管の周辺に飛散、散逸する塗料が増え、塗着効率が低下する。
特に、図1に示した管外面塗装の場合には、塗着効率の低下が顕著になる。これは、管の回転や管温度の影響で管外面の周囲には気流が発生しており、吐出した塗料の勢いが弱いと、その気流の影響をより強く受け、吐出パターンが崩れ、周辺に散逸する塗料が増えるからである。
【0010】
塗料の勢いの低下に対しては、塗装ガンを管外面に近付けることでも解消できるが、塗装ガンを管外面に近付けると、管からの塗料のはね返りや管周囲の気流に乗った塗料粒子が塗装ガンに付着・堆積し、その付着塗料の影響で塗装品質が低下する恐れが生じ得る。
このような気流による塗着効率低下に対しては、前述の特許文献1に示すように、塗装ガンの配置や塗料の吹き付け方向を変えたり、管外面にエアーを吹き付ける技術があるが、これらは塗装設備の複雑化を招くため、設備費用が増大する。
【0011】
この発明は、管外面塗装において塗膜厚さを管毎に変更する際に、ノズルチップや吐出流量の変更・調整といった煩わしい作業(段取り替え作業)が不要で、そのうえ塗着効率の低下を招かず美しい塗装仕上りを得ることができる管外面塗装膜厚の調整方法を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
上記課題を解決するために、この発明は、塗膜厚さを減少させる際には、その減少量に応じて塗装前の塗料を溶媒で稀釈することとしたのである。
具体的には、管の外面に塗料を吹き付けて塗膜を形成する管外面塗装において、塗膜の厚みをx%減少させるときには、吹き付け前の塗料を、揮発性又は蒸発性を有する溶媒で{100/(100−x)}倍に稀釈するだけで、管外面に吹き付ける塗料の吐出流量を減らすことなく、厚みが減少した塗膜を形成することとしたのである。
【0013】
この構成によれば、塗膜厚さを減少させる際に、吐出流量やノズルチップ形状などの他の塗装条件を変えず、塗装前に塗料を稀釈するだけで済むので、ノズルチップの選定・交換や塗装条件変更の管理・制御といった煩わしい手間が発生しない。また、塗料の吐出流量を変えないから、吐出パターンが安定し、かつ、吹き付ける塗料の勢いが低下せず管周囲の気流の影響を受けにくい。そのため、塗装のムラや塗膜厚さのバラツキを抑えることができる。
【0014】
ここで、稀釈に使われた溶媒は、管外面に吹き付けられてから時間の経過とともに蒸発または揮発していくため、その溶媒の量は乾燥・固化後の塗膜厚さに関与しない。一方、塗膜を形成する塗料成分(固形分)は、塗料に占める溶媒の比率が増えた分、減少する。即ち、塗料成分は稀釈倍率の逆数{(100−x)/100}倍に減少している。乾燥・固化後の塗膜はこの塗料成分によって形成されるから、その塗膜厚さは稀釈しない塗料を使う場合と比べて減少する。
【0015】
また、塗料を吹き付ける時の管外面の温度を60〜80℃とし、溶媒を水道水とする構成を採用し得る。
この構成によれば、管外面の熱が溶媒(水道水)の蒸発を助けるために、塗料を水道水で稀釈しても余分な水道水はすぐに蒸発し、塗料の乾燥時間の長期化を招かない。また、水道水は有機溶剤と異なり、人体や環境への影響が少なく、その取り扱いや管理が容易である。
【発明の効果】
【0016】
この発明は、以上のように、塗料の塗布量を減らして塗膜を薄くする際には、その減少量に対応させて算出した稀釈量で、塗装前の塗料を溶媒で稀釈する構成としたから、塗装条件の調整といった煩雑な段取り変え作業が不要で、そのうえ塗着効率の低下を防ぐこともできる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0017】
この発明の一実施形態を図3乃至図5を使って説明する。
図4は鋳鉄管の管外面塗装装置を示す説明図である。鋳鉄管Pが4基のローラーRの上に載せられ、管軸が水平になる状態で支持されている。4基のローラーRのうち、少なくとも1基には、電動モーター(図示せず)が取り付けられ、その電動モーターの駆動により、ローラーが回転する構造となっている。そのローラーRの回転に従動して鋳鉄管Pが管軸周りに回転する。
鋳鉄管Pの真上には、レシプロ装置16によって管軸方法に移動する塗装ガン1が管に臨んで下向きに設置されている。この塗装ガン1の下端にはノズルチップ8が付いていて、塗装ガン1の内部配管から供給される塗料を、管軸方向に広がる吐出パターンで管外面の上面側に吹き付ける。
以上の装置構成により、管外面の塗装は行われる。即ち、ローラーRの回転により管Pをその軸周りに回転させた状態で、塗装ガン1から管Pに向けて塗料を吹き付け、そのまま、塗装ガン1をレシプロ装置16によって管Pの軸方向に移動させ、管外面の大部(ローラーRとの接触部分を除く)に塗料を均一に吹き付ける。
なお、ローラーRとの接触部分の塗装は、別の装置(図示せず)で行う。
【0018】
塗装ガン1の内部配管には、塗料供給ホース14が接続されていて、このホースの他端は塗料ポンプ2側に伸びる塗料供給配管15に接続している。塗料ポンプ2の吸い込み側の配管は途中で分岐し、分岐した配管がそれぞれ、塗料タンクT1、塗料タンクT2、塗料タンクT3に接続されている。(図4)
塗料タンクT1と塗料タンクT2、塗料タンクT3には、同種の水系エマルジョン塗料が貯えられている。塗料タンクT2には塗料タンクT1の塗料(以下、原液という)を水道水で1.11倍に稀釈した塗料が貯えられ、塗料タンクT3には原液を水道水で1.25倍に稀釈した塗料が貯えられている。
各塗料タンクとポンプ2の間には開閉コックV1、V2、V3が設けられている。この開閉コックの操作によって、管外面塗装に使用する塗料を選択することができる。
例えば、塗料タンクT2の塗料を使用する場合には、開閉コックV1とV3は閉じ、開閉コックV2のみ開ける。
【0019】
図3は塗装ガンの構造を示す説明図である。
塗装ガンは周知のエアレスオートガンであり、その構造は図に示すように、塗料流入室17に塗料口12を備え、吐出口17aにシリンダー式のニードル9が取り付けられている。このニードル9はそのシリンダー部分がシリンダー室10内のバネ11によって吐出口17aを塞ぐように付勢されており、シリンダー室10内へ空気口13から圧縮空気を入れると、バネ11の付勢力に抗してニードル9が後退して、吐出口17aが開く構造となっている。
【0020】
図5は、塗料配管の構成を示す説明図である。
塗料タンク内の塗料は、ポンプ2によって塗料配管内を塗装ガン1側へ圧送される。その塗料配管の道中には、開閉弁5、ラインフィルター4、流量調整弁3、圧力計6が取り付けられている。開閉弁5や流量調整弁3はメンテナンス作業時に使用するもので、管外面塗装作業中に使用することは通常はない。
塗装ガン1に塗料が圧送された状態で、電磁弁7を開放し圧縮空気を塗装ガン1のシリンダー室10に送れば、吐出口17aが開き、塗装ガン1のノズルチップ8を通って塗料が噴出する。噴出した塗料が管外面に塗着し、塗膜が所定の厚さになるまでの間、電磁弁7の開放が保持される。
【0021】
次に、塗膜厚さの変更操作を説明する。
例えば、原液を使用する通常の塗膜厚さの管の塗装が終了し、次の管から塗膜厚さを10%減少させる必要が生じた場合は、まず、塗料タンクT2の開閉コックV2を開き、塗料タンクT1の開閉コックV1を閉じる。このとき、併せて塗料タンクT3の開閉コックV3が閉じていることを確認する。この状態でポンプ2と塗装ガン1を作動させて一定時間、塗料の捨て吹きを行う。この捨て吹きにより、塗料配管内に残る原液を排出すると同時に、塗料配管内を塗料タンク2の塗料で満たす。
これで、塗膜厚さの変更操作(段取り変え作業)は完了し、その後は1.11倍に稀釈した塗料タンクT2の塗料が塗装ガン1から吐出される。
この塗料の稀釈に使われた水道水は、管に塗着後、管の熱によって短時間で蒸発し塗膜から除かれる。よって、この状態で塗料の吐出流量を変えずに塗装を行うと、乾燥後の塗膜厚さは10%減少する。
なお、吐出流量やノズルチップ形状などの塗装条件が同じままなので、吐出パターンは崩れず、塗装が美しく仕上がる。
【0022】
塗膜厚さを10%減じた管の塗装に続けて、次の管から原液を使用した管に比べて塗膜厚さを20%減少させる必要が生じた場合は、まず、塗料タンクT3の開閉コックV3を開き、塗料タンクT2の開閉コックV2を閉じる。このとき、併せて塗料タンクT1の開閉コックV1が閉じていることを確認する。次に、塗料配管内に残っている塗料タンクT2の塗料を捨て吹きにより吐出し、塗料配管内を塗料タンクT3の塗料で満たす。
これで、塗膜厚さの変更操作(段取り変え作業)は完了し、その後は1.25倍に稀釈した塗料タンクT3の塗料が塗装ガン1から吐出され、乾燥後の塗膜厚さは原液使用時に比べ20%減少する。
【実施例】
【0023】
次に本発明の一実施例を塗装の諸条件や塗装仕上り状態と併せて説明する。
図3乃至図5に示す塗装装置を用いて、表1に示す塗装条件のもとに管外面塗装を行った。ここで、塗料タンクT1内には塗料原液を貯え、塗料タンクT2内には原液を水道水で1.11倍に稀釈した塗料を、塗料タンクT3内には原液を水道水で1.25倍に稀釈した塗料を貯えて使用した。
塗装装置の構造・動作や塗膜厚さの変更操作については、既に述べたとおりである。
【0024】







表1 塗装条件

ここで、10%稀釈塗料使用時や20%稀釈塗料使用時と原液使用時との塗装仕上り状態の外観観察結果を表2に示す。
【0025】
表2 塗装仕上り観察結果

以上の結果より、吐出流量を減らすと吐出パターンが崩れて塗装ムラが生じたのに対し、稀釈塗料を使用した場合は吐出パターンが崩れず、良好な塗装仕上りとなることが分かる。
【0026】
なお、実施例では塗装ガンが移動する構成としたが、塗装ガンが固定で管が管軸方向に移動する構成も採用し得る。塗料は上述の水系エマルジョン塗料に限られず、揮発性溶媒を使った溶剤系塗料も使用できる。また、塗装条件は被塗装管の呼び径や塗装処理速度などによって変わり、本実施例の条件に限定されるものではない。
【図面の簡単な説明】
【0027】
【図1】(a)従来の管外面塗装装置の正面図,(b)A−A’矢視図
【図2】従来の塗装装置の説明図
【図3】塗装ガンの構造説明図
【図4】本発明の一実施例の管外面塗装装置説明図
【図5】本発明の一実施例の塗料配管構成説明図
【符号の説明】
【0028】
1 塗装ガン
2 ポンプ
3 流量調整弁
4 ラインフィルター
5 開閉弁
6 圧力計
7 電磁弁
8 ノズルチップ
9 ニードル
10 シリンダー室
11 バネ
12 塗料口
13 空気口
14 塗料供給ホース
15 塗料供給配管
16 レシプロ装置
17 塗料流入室
P 管
R 支持ローラー
b 塗膜
t 塗膜厚さ
T,T1,T2,T3 塗料タンク

【特許請求の範囲】
【請求項1】
管Pの外面Sに塗料aを吹き付け、その塗料aが乾燥・固化して外面Sの表面に塗膜bを形成する管外面塗装に際して、その塗膜bを所定の厚みtに調整する管外面塗装の膜厚調整方法であって、
塗膜bの厚みtをx%減少させるときに、吹き付け前の塗料aを、揮発性又は蒸発性を有する溶媒cで{100/(100−x)}倍に稀釈するだけで、管Pの外面Sに吹き付ける塗料aの量を減らすことなく、厚みtがx%減少した塗膜bを形成することを特徴とする管外面塗装の膜厚調整方法。
【請求項2】
塗料aを吹き付ける時の管Pの外面Sの温度を60〜80℃とし、かつ、溶媒cを水道水としたことを特徴とする請求項1に記載の管外面塗装の膜厚調整方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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