説明

管更生部材の加熱軟化温度測定装置およびそれを備える加熱装置

【構成】 加熱装置10は、管更生部材100を加熱して軟化させるために用いられるものであり、管更生部材100を収容する加熱室12と、加熱室12内に取り付けられる加熱軟化温度測定装置14とを備えている。加熱軟化温度測定装置14は、管更生部材100と同じ合成樹脂材料からなる中実体(54)、および中実体(54)の内部に設けられる温度計(56)を含む。この加熱軟化温度測定装置14では、中実体(54)の外表面から温度計(56)の温度計測素子(56a)までの最短距離が管更生部材100の厚みに相関して設定されており、温度計(56)の周囲には、管更生部材100の難加熱部分(108)に近似した環境が作り出されている。
【効果】 温度計の測定結果から管更生部材の難加熱部分の軟化状態を把握することできるので、管更生部材をその難加熱部分が十分に軟化するまで加熱することができ、しかも、管更生部材を過剰に加熱して燃料や時間を無駄にすることもなくなる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、管更生部材の加熱軟化温度測定装置およびそれを備える加熱装置に関し、特にたとえば、老朽化した既設管を内側から補修する管更生部材を加熱して軟化させる際に用いる、管更生部材の加熱軟化温度測定装置およびそれを備える加熱装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、折り畳み変形させた管更生部材を既設管に挿入した状態で、加熱および内圧をかけて円形管に復元させることにより、既設管を更生する技術が公知である。
【0003】
たとえば、特許文献1のプラスチック管の管路挿入工法では、扁平管状にしたプラスチック管(管更生部材)がロール状にドラムに巻き取られて、保温ケーシングの中に水平設置される。そして、そこでプラスチック管の内部にスチームを通すことにより、プラスチック管を加熱軟化させて曲げ易くして、既設管への挿入抵抗を低減させている。
【特許文献1】特公平5−64581号[B29C 63/34]
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、特許文献1の技術では、プラスチック管を加熱軟化させるときに、プラスチック管の軟化状態を把握するための具体的な方法が特に開示されていない。
【0005】
たとえば、加熱軟化させているプラスチック管を作業者が目視または触視することで、プラスチック管の軟化状態を確認することが考えられるが、扁平管状にしたプラスチック管をロール状にドラムに巻き取っている場合には、プラスチック管どうしが重なっていて目視(または触視)が困難な部分がどうしても生じてしまうので、その部分において熱が十分に伝わっていないと、プラスチック管の軟化が不十分になる恐れがある。
【0006】
一方、プラスチック管の全体を十分に軟化させるために、プラスチック管を長時間加熱し続けることが考えられるが、必要以上の時間プラスチック管を加熱し続けと、燃料や時間を無駄にしてしまうことになる。
【0007】
それゆえに、この発明の主たる目的は、新規な、管更生部材の加熱軟化温度測定装置およびそれを備える加熱装置を提供することである。
【0008】
この発明の他の目的は、コストの上昇を抑えつつ、管更生部材の全体を適切に加熱軟化させることが可能な、加熱軟化温度測定装置およびそれを備える加熱装置を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明は、上記の課題を解決するために、以下の構成を採用した。なお、括弧内の参照符号および補足説明などは、本発明の理解を助けるために後述する実施の形態との対応関係を示したものであって、本発明を何ら限定するものではない。
【0010】
第1の発明は、既設管を更生する管更生部材を加熱軟化させる際に用いられる管更生部材の加熱軟化温度測定装置であって、管更生部材と同じ合成樹脂材料からなる中実体、および中実体の内部に設けられる温度計測素子を備え、中実体の外表面から温度計測素子までの最短距離が管更生部材の厚みに相関して設定されている、管更生部材の加熱軟化温度測定装置である。
【0011】
第1の発明では、加熱軟化温度測定装置(14)は、たとえば管更生部材(100)を加熱して軟化させる加熱装置(10)に適用されるものであり、管更生部材と同じ合成樹脂材料からなる中実体(54)と、中実体の内部に設けられる温度計(56)とを備えている。実施例では、中実体は、径方向に大きく軸方向に小さい円柱状に形成され、温度計は、その温度計測素子(56a)が中実体の径方向の中心部に位置するように、中実体内に設けられる。この加熱軟化温度測定装置では、中実体の外表面から温度計測素子までの最短距離が管更生部材の厚みに相関して設定されており、温度計測素子の周囲には、管更生部材の難加熱部分(108)に近似した環境が作り出されている。よって、管更生部材に加熱処理を施す際に、加熱軟化温度測定装置を加熱装置の加熱室(12)内に取り付けておけば、温度計の測定結果から、管更生部材の難加熱部分の軟化状態を把握することができるようになる。
【0012】
第1の発明によれば、管更生部材をその難加熱部分が十分に軟化するまで加熱することが可能になり、しかも、管更生部材を過剰に加熱してコストを無駄にすることがない。
【0013】
第2の発明は、第1の発明に従属し、最短距離は、加熱軟化させる前の状態における管更生部材の実質的な最大厚みに相関して設定されている。
【0014】
第2の発明では、中実体(54)の外表面から温度計(56)の温度計測素子(56a)までの最短距離が、加熱軟化させる前の状態における管更生部材(100)の管壁の重なりなどを考慮した、管更生部材の実質的な最大厚みに相関して設定されている。
【0015】
第3の発明は、第1または2の発明に従属し、温度計測素子が所定の温度に達したときに加熱の完了通知を行う通知手段をさらに備える。
【0016】
第3の発明では、温度計(56)には、たとえば配線(58)を介して、制御器(60)が電気的に接続されており、この制御器には、温度計の温度計測素子(56a)の周囲が設定温度に達したときに通知を行うアラーム(64)が設けられている。
【0017】
第4の発明は、第1ないし3のいずれかの発明の加熱軟化温度測定装置、および管更生部材を収容する加熱室を備え、加熱室内に加熱軟化温度測定装置が取り付けられる、管更生部材の加熱装置である。
【0018】
第4の発明では、加熱装置(10)は、管更生部材(100)を加熱して軟化させるために用いられるものであり、管更生部材(100)を収容する加熱室(12)と、加熱室内に取り付けられる加熱軟化温度測定装置(14)とを備えている。このような加熱装置では、加熱軟化温度測定装置の温度計(56)の測定結果を参照して、難加熱部分(108)の軟化状態を確認しながら管更生部材を加熱することにより、管更生部材の全体を適切に軟化させることが可能である。また、管更生部材を過剰に加熱せずに済むので、燃料や時間を無駄にしてしまうことがなく、コストの無駄を省くことができる。
【0019】
第5の発明は、第4の発明に従属し、加熱軟化温度測定装置を、加熱室内における加熱時に最も温度が低くなる場所に設置した。
【0020】
第5の発明では、加熱軟化温度測定装置(14)は、加熱室内における、加熱時に最も低温になる場所に取り付けられ、実施例では、加熱室内における、熱風を送り込む熱風供給部(50)から最も離れた位置に取り付けられる。
【0021】
第5の発明によれば、管更生部材を加熱する際に、中実体の内部の温度を温度計によって正確に計測することができるようになる。
【発明の効果】
【0022】
この発明によれば、温度計の測定結果から管更生部材の軟化状態を把握できるため、管更生部材の全体を適切に加熱軟化させつつ、コストの上昇を抑えることができる。
【0023】
この発明の上述の目的,その他の目的,特徴および利点は、図面を参照して行う以下の実施例の詳細な説明から一層明らかとなろう。
【図面の簡単な説明】
【0024】
【図1】この発明の一実施例の加熱装置を示す断面図である。
【図2】(a)は、図1の加熱装置のドラムに巻きつけられた管更生部材を示す図解図であり、(b)は、(a)の管更生部材の拡大断面図である。
【図3】図1の加熱装置の第1蒸気パイプを示す図解図である。
【図4】図1の加熱装置を蒸気発生装置および熱風発生装置に接続した様子を示す図解図である。
【図5】図1の第1蒸気パイプの内部用蒸気パイプを示す図解図である。
【図6】図1の加熱装置のテント部を取り除いた状態を示す上面図である。
【図7】図1の加熱装置の加熱軟化温度測定装置を示す斜視図である。
【図8】図7の加熱装置の加熱軟化温度測定装置を示す図解図である。
【図9】図1の加熱装置を用いて加熱軟化させた管更生部材によって既設管を更生する様子を示す図解図である。
【図10】加熱軟化温度測定装置の変形実施例を示す図解図である。
【図11】この発明の他の実施例の加熱装置を示す断面図である。
【図12】(a)は、図11の加熱装置のドラムに巻きつけられた管更生部材を示す図解図であり、(b)は、(a)の管更生部材の拡大断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0025】
図1を参照して、この発明の一実施例である加熱装置10は、図9に示すような老朽化した既設管200を内側から補修するための管更生部材100を加熱して軟化させる際に用いられるものである。
【0026】
なお、既設管200の用途および構成材料には、種々のものを適用し得るが、たとえば、ガス、上下水道、通信ケーブル保護または電力ケーブル保護等の用途であってよいし、また、鉄筋コンクリート管、鋳鉄管、鋼管ならびに合成樹脂管等から構成される管路であってよい。
【0027】
ここで、加熱装置10の具体的な説明に先立って、管更生部材100について説明しておく。
【0028】
管更生部材100の構成材料は、合成樹脂(塩化ビニル、ポリエチレン,ポリブテン,ポリプロピレン,ナイロン等)であるが、ここでは硬質塩化ビニルの実施例を示す。管更生部材100は既設管102の長さよりも長くされた長尺管であり、その厚みは、たとえば13mmである。管更生部材100は、図2(a)に示すように、加熱装置10のドラム30に渦巻き状(ロール状)に巻き取られている。
【0029】
この実施例では、管更生部材100は、図2(b)に示すように、扁平加工により扁平化されるとともに、上下方向(長辺方向)の中間部の管壁が左右両側から押し込まれることにより、断面略瓢箪形状に形成された縮径管である。この押し込まれた部分を押し込み部分102という。つまり、この実施例では、管更生部材100は、上側と下側に1つずつ断面略楕円形状の楕円部分104を有し、さらにそれらの間に押し込み部分102を有している。
【0030】
ただし、後に詳細を説明するように、管更生部材100としては、断面略瓢箪形状を有する縮径管に限定されるものではなく、たとえば折り畳み加工により折り畳まれた縮径管であってもよいし、周方向の一部が押し込まれた断面略ハート形状を有する縮径管であってもよい。
【0031】
この管更生部材100は、従来公知の方法(特許文献1等)によって製造することができるので、その製造方法の詳細な説明は省略する。簡単に言えば、所定の径で押出成形された直管に対して、軟化点以上融点以下の範囲における所定の温度(この実施例では、たとえば約100℃程度)に加熱して、押し板やローラ等を用いて扁平加工を施すとともに、押し込み部分102を形成する。こうすることにより、再び軟化点以上融点以下の温度に加熱し加圧することによって、押し込み部分102が外面側へ戻されて、円筒形等に復元することが可能となる。なお、管更生部材100は、復元したときの外径が既設管200の内径と略等しいサイズとなるように設定されている。
【0032】
加熱装置10の説明に戻って、加熱装置10は、上述したように、管更生部材100を加熱して軟化させる際に用いられるものであり、内側に管更生部材100を巻き付けたドラム30を収容可能な加熱室12と、加熱室12内に取り付けられる加熱軟化温度測定装置14とを備えている。
【0033】
図1に示すように、加熱室12は、台座16、および台座16上に設けられるテント部18を含み、全体として、中空の略円柱形状に形成される。加熱室12の直径は、たとえば2550mmであり、その上下方向の長さ(つまり、高さ)は、たとえば1700mmである。
【0034】
台座16は、加熱室12の下面を構成する部分であり、鉄やSUS(ステンレス鋼)等の金属によって円形の板状に形成される。台座12の高さは、たとえば200mmである。
【0035】
また、テント部18は、加熱室12の上面および側面を構成する部分であり、フレーム20と、フレーム20に被せられる天幕シート22とを有し、有頂円筒形状に形成される。なお、この実施例では、テント部18の上面(天面)は、その中央部から周縁部に向かう下り傾斜を有する下部開口の円錐状に形成されている。
【0036】
フレーム20は、鉄やSUS等の金属からなる中空パイプを組み合わせることによって形成される。フレーム20は、たとえば、台座16上の周縁部から垂直上方向に立ち上がる縦フレーム20aと、縦フレーム20aの上端どうしを繋ぐ横フレーム20bとを含み、テント部18の骨組みを形成する。
【0037】
天幕シート22は、耐熱ゴム等の弾性材からなり、フレーム20の外側、具体的には、横フレーム20bの上方および縦フレーム20aの側方に密着してそれらを被覆する。そして、この天幕シート22によって、加熱室12内の密閉性が確保される。
【0038】
加熱室12内には、ドラム30を回転させるための回転機構として、回転台部24および回転軸部26が設けられている。
【0039】
図1および図3に示すように、台座16の上面には、その中央部に相当する位置に、回転台部24が設置される。回転台部24は、鉄やSUS等の金属からなり、円形の板状に形成される。回転台部24は、電動モータおよびギア等を備える駆動装置(図示せず)によって自身の周方向に回転自在とされている。たとえば、駆動装置は、台座16の内部に設けられ(埋め込まれ)ている。また、回転台部24には、その中心部に相当する位置に、挿通孔28が形成されている。
【0040】
回転台部24の中心部には、挿通孔28を囲んで、回転軸部26が立設される。回転軸部26は、鉄やSUS等の金属によって断面真円形の中空パイプ状に形成され、回転台部24と一体回転する。回転軸部26の径は、たとえば600mmであり、その高さは、テント部18の高さ(縦フレーム20aの高さ)よりも低い所定の値に設定されている。
【0041】
そして、回転軸部26の外周を囲繞するように、ドラム30が取り付けられる。ドラム30は、鉄やSUS等の金属によって形成され、銅部32およびフランジ部34を含む。上述したように、円筒形状の銅部32には、管更生部材100が渦巻き状に巻き付けられている。そして、胴部32の上下端に、径方向の外側へ張り出すフランジ部34が形成される。また、そのうちの上側のフランジ部34には、詳細は後述する、内部用蒸気パイプ42および外部用蒸気パイプ44の各々を挿通させるための、図示しない開口が形成されている。胴部32の内径は、たとえば600mmであり、フランジ部34の直径は、たとえば2400mmである。胴部32内を回転軸部26が上下に貫通しており、胴部32は回転軸部26と一体回転する。すなわち、ドラム30は、回転軸部26を回転軸として回転自在である。そして、
また、回転軸部26の内部には、パイプ立ち上げ部36が設けられる。パイプ立ち上げ部36は、詳細は後述する、第1蒸気パイプ38を上方に立ち上げるための部分であり、鉄やSUS等の金属によって断面真円形の中空パイプ状に形成される。パイプ立ち上げ部36は、回転台部24の挿通孔28に挿通されており、回転台部24や回転軸部26とは非接触になる(つまり、一体回転しない)ように台座16上に立設されている。ただし、回転軸部26の上端部36aは、詳細は後述する、内部用蒸気パイプ42および外部用蒸気パイプ44の回転に付随できるように、回転自在にされている。
【0042】
また、図1および図4に示すように、加熱室12の内外には、第1および第2蒸気パイプ38,40が設けられる。第1および第2蒸気パイプ38,40は、加熱室12の外部で供給ホース112を介してボイラ等の蒸気発生装置110に接続され、所定温度に加熱し加圧した蒸気を供給可能にされている。
【0043】
第1蒸気パイプ38は、図3に示すように、台座16の内部を貫通してそこからパイプ立ち上げ部36の内側を通って上方に立ち上がり、パイプ立ち上げ部36の上端部36aで、内部用蒸気パイプ42と外部用蒸気パイプ44とに分岐する。
【0044】
内部用蒸気パイプ42は、管更生部材100の内周側端に挿入され、その先端が管更生部材100の内部で開口するように配置される。具体的には、図5に示すように、管更生部材100の内周側端には、開口を密封する栓部材106が取り付けられており、この栓部材106のたとえば中央に気密的に挿通された内部用蒸気パイプ42が、所定の長さだけ管更生部材100の内部を延びて、管更生部材100の内部で開口する。この実施例では、内部用蒸気パイプ42の管壁には、管更生部材100内に挿通される部分に、一定の間隔を隔てて放出孔46が形成されており、蒸気発生装置110を作動させると、蒸気発生装置110から供給された蒸気が、内部用蒸気パイプ42の先端の開口および放出孔46を介して、管更生部材100の内部に放出されることとなる。
【0045】
図3に戻って、外部用蒸気パイプ44は、その先端が管更生部材100の外側かつ近傍で開口するように配置される。したがって、蒸気発生装置110を作動させると、蒸気発生装置100から供給される蒸気が、外部用蒸気パイプ44の先端の開口を介して、管更生部材100の管壁の外面側に向けて放出されることとなる。
【0046】
また、図1および図6に示すように、第2蒸気パイプ40は、台座16の内部を貫通してそこから立ち上がり、台座16とドラム30(の下側のフランジ34)との間の空間に配置される。第2蒸気パイプ40は、回転台部24を囲むように略コ字状に台座16上に配管され、その管壁には、一定の間隔を隔てて上向きに放出孔48が形成されている。したがって、蒸気発生装置110を作動させると、蒸気発生装置110から供給された蒸気が、第2蒸気パイプ40の放出孔48を介して、加熱室12内に放出されることとなる。
【0047】
さらに、加熱室12の内外には、熱風供給部50が設けられる。熱風供給部50は、たとえば所定温度に加熱し加圧された熱風を加熱室12内に供給するためのものであり、鉄やSUS等の金属によって断面真円形の中空パイプ状に形成され、その一端が加熱室12内において台座16の周縁部で開口する。また、図4に示すように、熱風供給部50の他端は、加熱室12の外部で、可撓性を有するホース122を介して、ジェットヒータ等の熱風発生装置120に接続される。したがって、熱風発生装置120を作動させると、熱風発生装置120から供給された熱風が、熱風供給部50を通って加熱室12の内部に送り込まれることとなる。
【0048】
また、図1に示すように、加熱室12の上面は、テント部18の天幕シート22が開口しており、そこに排気口52が形成されている。排気口52は、加熱室12の内から熱風を外部に排出するためのものであり、たとえば、通常封止されていて、必要なときだけ開放される。
【0049】
さらに、上述したように、加熱室12内の所定位置には、加熱軟化温度測定装置14が取り付けられる。加熱軟化温度測定装置14は、図7に示すように、中実体54、および温度計56を含む。
【0050】
中実体54は、管更生部材100と同じ合成樹脂材料からなる樹脂成形体であり、図8に示すように、幅方向(径方向)に大きく上下方向(軸方向)に小さい円柱状に形成される。
【0051】
ただし、ここでいう「同じ合成樹脂材料」とは、合成樹脂材料の成分・組成や添加剤などが厳密に一致することを要求するものではなく、少なくとも軟化点がほぼ一致する程度に同じであればよい。
【0052】
中実体54の内部には、温度検出手段としての温度計56が設けられる。温度計56は、先端に温度を測定するための温度測定素子56aを有する棒状に形成される。そして、温度計56は、その温度測定素子56aが中実体54の上下方向の中心部に位置するように、中実体54内に設けられる。
【0053】
また、図7に戻って、温度計56には、配線58を介して、制御器60が電気的に接続されている。制御器60には、温度計56が計測した温度を表示する温度表示部62、温度計56が設定温度に達したときに通知を行う通知手段としてのアラーム64が設けられている。
【0054】
さらに、加熱軟化温度測定装置14は、熱風供給部50から可及的遠い位置、具体的には、図1に示すように、ドラム30を挟んで熱風供給部50の対角線上に位置する、横フレーム20bの外側端部付近に吊下げて設置される。この理由は、熱風供給部50から離した場所では、管更生部材100に加熱処理を施す際に、熱風供給部50から送り込まれる熱風による直接的な温度上昇が生じにくいからであり、温度(雰囲気温度)が他の場所と比較して低くなるので、中実体54の内部の温度を温度計56によって正確に計測することができるからである。
【0055】
このように、加熱軟化温度測定装置14は、加熱室12内における、加熱時に可及的低温になる場所に取り付けられることが望ましく、より好ましくは、加熱室12内における、加熱時に最も低温になる場所に取り付けられることが望ましい。
【0056】
ところで、この実施例では、図2(a)に示すように、ドラム30に管更生部材100を渦巻き状に巻き付けるときに、管更生部材100の省スペース化を考慮して、管更生部材100の楕円部分104がその内周側の管更生部材100の押し込み部分102に嵌まり合うように、管更生部材100を巻き付けている。
【0057】
図2(b)に示すように、管更生部材100の押し込み部分102においては、左右両側から押し込まれた管壁の内面どうしが接触またはほぼ接触しているので、その管壁の内面どうしの接触部分(たとえば、図2(b)における破線で囲まれた部分)が、内部用蒸気パイプ42から管更生部材100の内部に放出される蒸気の熱を十分に受けることができない。
【0058】
その上、上述のような方法で管更生部材100を巻き付けているので、管更生部材100の押し込み部分102は、自身の内周側に隣接する管更生部材100の楕円部分104と、自身の外周側に隣接する管更生部材100の楕円部分104とに挟まれることとなり、押し込み部分102における管壁の内面どうしの接触部分(たとえば、図2(b)における破線で囲まれた部分)は、実質的に、管更生部材100の管壁の厚みtの2倍に相当する厚み2tの管壁を隔てて、外部用蒸気パイプ44からの蒸気や、第2蒸気パイプ40からの蒸気、また、熱風供給部50からの熱風の熱を受けることとなる。
【0059】
つまり、この管壁の内面どうしの接触部分は、実質的に厚み2tの管壁を隔てて蒸気や熱風の熱を受けることとなるので、管更生部材100の他の部分と比較すると、蒸気や熱風による熱が到達しにくい難加熱部分108となってしまう。このような難加熱部分108では、蒸気や熱風の熱を十分に受けることができないので、温度が他の場所と比較して低くなり、軟化も不十分になる。
【0060】
そこで、この実施例では、管更生部材100の難加熱部分108に近い環境を模擬的に作り出すために、中実体54の外表面から温度計56の温度測定素子56aまでの最短距離を、管更生部材100の厚みtに相関した所定の数値に設定している。具体的には、中実体54の上面ないし下面から温度計56の温度測定素子56aまでの距離D(図8参照)を、管更生部材100の実質的な最大厚み(この実施例では、管壁の厚みtの2倍に相当する値)2tに設定している。そして、中実体54内の温度を温度計56によって測定し、その測定結果が設置温度(たとえば、管更生部材100の軟化温度等)に達しているか否かを参照することによって、管更生部材100の難加熱部分108の軟化状態を把握するようにしている。
【0061】
ただし、ここでいう「管更生部材100の実質的な最大厚み」とは、管更生部材100を加熱軟化させる前の状態、すなわち管更生部材100をドラム30に巻き付けた状態で、管更生部材100の管壁どうしが密着して重なることにより管更生部材100の管壁の厚みが実質的に大きくなると擬制したときの、管更生部材100の厚みの最大値を意味する。
【0062】
図1および図4を参照して、このような加熱装置10を用いて、管更生部材100の加熱処理を行う方法を以下に示す。
【0063】
先ず、駆動装置(図示せず)を作動させて、管更生部材100を巻き付けたドラム30を回転させる。
【0064】
続いて、蒸気発生装置110を作動させて、蒸気発生装置110から供給ホース112を介して第1蒸気パイプ38に供給された蒸気を、内部用蒸気パイプ42を介して管更生部材100の内部に放出するとともに、外部用蒸気パイプ44を介して管更生部材100の外部かつ近傍に放出する。また、蒸気発生装置110から供給ホース112を介して第2蒸気パイプ40に供給された蒸気を、加熱室12内の全体に放出する。
【0065】
それから、熱風発生装置120を作動させて、熱風発生装置120からホース122を介して熱風供給部50に供給された熱風を加熱室12内に送り込んで、加熱室12内に放出された蒸気をさらに加熱し、その雰囲気温度の中で管更生部材100を加熱する。
【0066】
次に、一定時間経過後、温度表示部62に表示された温度計56の温度が、予め設定しておいた設定温度(この実施例では、たとえば80〜90℃程度)に達したことを確認できたら、蒸気発生装置110ならびに熱風発生装置120を停止させて、管更生部材100の加熱処理を終了する。ただし、温度計56の温度が設定温度に達したときに、制御器60のアラーム64によって加熱の完了通知を行うようにしてもよい。
【0067】
さらに、図9を参照して、このように加熱軟化させた管更生部材100を使用して、老朽化した既設管200を補修する工法の手順を説明する。
【0068】
管更生部材100によって老朽化した既設管200を内側から補修するときには、既設管200の両端を、立坑202および204内でそれぞれ開口させる。そして、予め、始点の立坑202側に、加熱装置10、蒸気発生装置110を配置し、終点の立坑204側に牽引ワイヤ132を巻き取るためのウインチ130を配置しておく。
【0069】
次に、上述の要領で、加熱装置10を用いて管更生部材100を加熱軟化させる。すると、管更生部材100は曲がり易くなって、既設管200への挿入抵抗が低減されるので、終点の立坑204側から既設管200内に牽引ワイヤ132を挿通し、その牽引ワイヤ132を、加熱装置10のドラム30から引き出した管更生部材100の先端にワイヤ取付具等を介して接続する。それから、その牽引ワイヤ132をウインチ130で巻き取ることにより、管更生部材100を既設管200内に引き込む。
【0070】
そして、管更生部材100の先端が立坑204に到達すると、管更生部材100の両端を切断して、そこに拡径用金具等を取り付け、管更生部材100の管端を封止した後で、蒸気発生装置110から管更生部材100内に蒸気を供給し、管更生部材100を加熱しかつ内圧をかける。すると、管更生部材100はその断面形状が真円または真円に十分に近い略真円形に復元されて、管更生部材100の外周面の全体が既設管200の内周面の全体に略密着する。
【0071】
次に、たとえば所定時間経過後、内圧を保持した状態で、冷却ノズル等から管更生部材100内に冷却空気を供給して、管更生部材100を冷却する。そして、冷却後、管更生部材100内から圧力空気を排出する。これにより、管更生部材100を用いた既設管200の補修が完了する。
【0072】
以上のように、加熱軟化温度測定装置14では、中実体54の外表面から温度計56の温度測定素子56aまでの最短距離が管更生部材100の厚みに相関して設定されており、温度計56の周囲には、管更生部材100の難加熱部分108に近似した環境が作り出されている。よって、管更生部材100に加熱処理を施す際に、加熱軟化温度測定装置14を加熱装置10の加熱室12内に取り付けておけば、温度計56の測定結果から、作業者が目視ないし触視することが困難な管更生部材100の難加熱部分108の軟化状態を把握することが可能になる。
【0073】
したがって、この実施例によれば、加熱軟化温度測定装置14の温度計56の測定結果を参照して、難加熱部分108の軟化状態を確認しながら管更生部材100を加熱することにより、管更生部材100の全体を適切に加熱軟化させることが可能である。しかも、管更生部材100を過剰に加熱することで燃料や時間を無駄にしてしまうことがないので、コストの上昇を抑えることもできる。
【0074】
さらに、従来のように、作業者が加熱により高温になった加熱室12内に手をいれて触視する必要がなくなるので、作業者の軟化状態の確認時の事故などの弊害も防止することができる。
【0075】
なお、上述の実施例では、中実体54が径方向に大きく軸方向に小さい円柱状に形成され、温度計56をその温度測定素子56aが中実体54の上下方向の中心部に位置するように配置して、中実体54の上面ないし下面から温度計56の温度測定素子56aまでの距離を、管更生部材100の管壁の厚みに相関した所定の数値に設定したが、これに限定される必要はない。中実体54の外表面から温度計56の温度測定素子56aまでの最短距離Dを管更生部材100の管壁の厚み(望ましくは、管更生部材100の実質的な最大厚み)に相関させて設定することによって、温度計56の周囲に、管更生部材100の難加熱部分108に近似した環境を模擬的に作り出すことができるのであれば、中実体54の形状は特に問わない。
【0076】
たとえば、図10に示すように、中実体54が径方向に小さく軸方向に大きい円柱状に形成するのであれば、温度計56をその温度測定素子56aが中実体54の径方向の中心部に位置するように設けて、中実体54の側面から温度計56の温度測定素子56aまでの距離Dを、管更生部材100の管壁の厚みに相関させて設定すればよい。
【0077】
また、図示は省略するが、中実体54を球状に形成するのであれば、温度計56をその温度測定素子56aが中実体54の中心に位置するように設けて、中実体54の表面から温度計56の温度測定素子56aまでの距離を管更生部材100の管壁の厚みに相関させて設定すればよい。
【0078】
さらに、上述の実施例では、加熱室12の上面に1つの排気口52が形成され、この排気口52から加熱室12内の熱風を外部に排出したが、これに限定される必要はない。排気口52は、加熱室100の側面に形成してもよいし、加熱室100の上面および側面にそれぞれ形成するようにしてもよい。
【0079】
ただし、排気口52を、熱風供給部50から可及的遠い位置、たとえば、ドラム30を挟んで熱風供給部50の対角線上に位置する横フレーム20bの外側端部付近に形成すると、熱風供給部50から送り込まれる熱風が管更生部材100の全体を加熱した後で加熱室12の外部に排出されることとなり、熱風の熱を有効利用することができるので、好適である。
【0080】
さらにまた、上述の実施例では、温度計56に配線58を介して制御器60が電気的に接続されたが、これに限定される必要はなく、温度計56の温度測定素子56aから無線で制御器60にデータの送信をするようにしてもよい。この場合には、温度計56を棒状に形成して、その先端の温度測定素子56aが中実体54内の所定位置に達するように中実体54内に挿入する必要はなく、温度計56の温度測定素子56aを中実体54内に埋め込んでしまうようにしてもよい。
【0081】
さらに、上述の実施例では、加熱軟化温度測定装置14が、ドラム30を挟んで熱風供給部50の対角線上に位置する横フレーム20bの外側端部付近に吊下げて設置されたが、これに限定される必要はなく、熱風供給部50の開口位置、第2蒸気パイプ40の開口位置等の条件を適宜勘案して、加熱室12内における、加熱時に低温になる場所に加熱軟化温度測定装置14を設置すればよい。
【0082】
また、中実体54内の温度を温度計56によって正確に計測することができるのであれば、必ずしも加熱軟化温度測定装置14を管更生部材100の加熱時に低温になる位置に取り付ける必要はない。たとえば、温度計測装置14をドラム30に取り付けるようにすれば、温度計測装置14もドラム30と一体回転することとなるので、熱むらなく温度を計測できるようになり、これもまた望ましい。
【0083】
さらにまた、上述の実施例では、第2蒸気パイプ40は、回転台部24を囲むように略コ字状に台座16上に配管されたが、これに限定される必要はない。第2蒸気パイプ40の放出孔48を介して加熱室12内に放出した蒸気を、加熱室12内の全体に拡散させることができるのであれば、第2蒸気パイプ40の配管形状は特に問わない。
【0084】
また、上述の実施例では、管更生部材100として、扁平加工により扁平化されるとともに、上下方向(長辺方向)の中間部の管壁が左右両側から押し込まれることによって、断面略瓢箪形状に形成された縮径管を使用した。しかしながら、縮径加工を施された縮径管であれば、管更生部材100の形状は特に限定されるものではない。
【0085】
たとえば、図11に示すこの発明の他の一実施例では、管更生部材100として、周方向の一部が押し込まれた断面略ハート形状を有する縮径管が使用される。以下、図1に示す加熱装置10と同様の部分については、同じ参照番号を用い、その説明を省略或いは簡略化する。
【0086】
管更生部材100は、図11および図12(a)に示すように、縮径加工により周方向の一部が押し込まれた断面略ハート形状を有する縮径管である。この略U字状の押し込まれた部分を押し込み部分110という。管更生部材100の構成材料は、たとえば硬質塩化ビニルである。管更生部材100は、既設管200の長さよりも長くされた長尺管であり、その厚みは、たとえば13mmであり、加熱装置10のドラム30に渦巻き状に巻き取られている。管更生部材100は、所定の温度に加熱しかつ加圧されることにより円筒形に復元され、既設管200の内面に略密着して既設管200を補修する。管更生部材100は、復元したときの外径が既設管200の内径と略等しいサイズとなるように設定されている。
【0087】
図12に示すように、この実施例では、ドラム30に管更生部材100を巻き付けるときに、ドラム30の径方向に隣接する管更生部材100の管壁の外面どうしが接触またはほぼ接触するので、その管壁の外面どうしの接触部分(たとえば、図12(b)における破線で囲まれた部分)が、実質的に、管更生部材100の管壁の厚みtに相当する厚みtの樹脂を隔てて、蒸気や熱風の熱を受けることとなる。つまり、この管更生部材100の管壁の外面どうしの接触部分は、実質的に厚みtの管壁を隔てて蒸気や熱風の熱を受けることとなるので、管更生部材100の他の部分と比較すると、蒸気や熱風による熱が到達しにくい難加熱部分108となってしまう。
【0088】
そこで、この実施例では、図示は省略するが、中実体54の上面ないし下面から温度計56の温度測定素子56aまでの距離Dを、管更生部材100の実質的な最大厚み(つまり、この実施例では、管壁の厚みtに相当する値)に設定して、温度計56の周囲に、管更生部材100の難加熱部分108に近似した環境を作り出すようにしている。
【0089】
こうすることにより、この実施例においても、管更生部材100に加熱処理を施す際に、加熱軟化温度測定装置14を加熱装置10の加熱室12内に取り付ければ、温度計56の測定結果から、管更生部材100の難加熱部分108の軟化状態を把握することができるようになる。したがって、管更生部材100をその難加熱部分108が十分に軟化するまで加熱して、管更生部材100の全体を適切に加熱軟化させることが可能である。しかも、管更生部材100を過剰に加熱することで燃料や時間を無駄にしてしまうことがなくなるので、コストの無駄を省くこともできる。
【0090】
なお、上述した径や高さ等の具体的数値は、いずれも単なる一例であり、必要に応じて適宜変更可能である。
【符号の説明】
【0091】
10 …加熱装置
12 …加熱室
14 …温度測定装置
30 …ドラム
54 …中実体
56 …温度計
100 …管更生部材
200 …既設管

【特許請求の範囲】
【請求項1】
既設管を更生する管更生部材を加熱軟化させる際に用いられる管更生部材の加熱軟化温度測定装置であって、
前記管更生部材と同じ合成樹脂材料からなる中実体、および
前記中実体の内部に設けられる温度計測素子を備え、
前記中実体の外表面から前記温度計測素子までの最短距離が前記管更生部材の厚みに相関して設定されている、管更生部材の加熱軟化温度測定装置。
【請求項2】
前記最短距離は、加熱軟化させる前の状態における前記管更生部材の実質的な最大厚みに相関して設定されている、請求項1記載の管更生部材の加熱軟化温度測定装置。
【請求項3】
前記温度計測素子が所定の温度に達したときに加熱の完了通知を行う通知手段をさらに備える、請求項1または2記載の管更生部材の加熱軟化温度測定装置。
【請求項4】
請求項1ないし3のいずれかに記載の加熱軟化温度測定装置、および
管更生部材を収容する加熱室を備え、
前記加熱室内に前記加熱軟化温度測定装置が取り付けられた、管更生部材の加熱装置。
【請求項5】
前記加熱軟化温度測定装置を、前記加熱室内における加熱時に最も温度が低くなる場所に設置した、請求項4記載の管更生部材の加熱装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【公開番号】特開2012−193753(P2012−193753A)
【公開日】平成24年10月11日(2012.10.11)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−56114(P2011−56114)
【出願日】平成23年3月15日(2011.3.15)
【出願人】(505142964)クボタシーアイ株式会社 (192)
【出願人】(000149206)株式会社大阪防水建設社 (44)
【Fターム(参考)】