説明

管楽器演奏装置の口腔機構

【課題】アクチュエータの増設等を行うことなく、楽器の装着作業が容易な口腔機構を提供する。
【解決手段】管楽器を演奏する管楽器演奏装置の口腔機構1であって、可撓性を有する部材からなり、管楽器の空気吹込部が装着される開口部11を備える唇部材2と、所定の駆動力を発生させるアクチュエータ3と、アクチュエータ3の駆動力を第1の方向に伝達し、該伝達された力により唇部材を第1の方向に沿って伸張する第1の伸張手段4と、アクチュエータ3の駆動力を第1の方向と直行する第2の方向に伝達し、該伝達された力により唇部材2を第2の方向に沿って伸張する第2の伸張手段5とを備える。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、管楽器を自動演奏する装置に関し、特にその口腔機構の構造に関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年、管楽器を自動演奏する装置の技術開発が進められている。例えば、特許文献1において、木管楽器のマウスピースに取り付けられたリードを励振信号に応じて振動させる振動子と、互いに上下に開閉自在な一対の開閉壁を有する人工口腔と、可撓性部材で構成され、前記一対の開閉壁の対向する縁部に設けられ、前記開閉壁が閉じた時前記リードを挟持する一対の人工唇と、前記人工口腔に貫通して設けられ、加圧気体が導入される加圧気体導入孔とを具備する構成が開示されている。
【0003】
このような管楽器演奏装置には、管楽器の一部であるマウスピース等と称される空気吹込部を装着する口腔機構を備えている。この口腔機構には、通常、人間の唇に相当する唇部材(人工唇)が備えられ、この唇部材に空気吹込部が装着されるようになされている。
【0004】
特許文献2において、トランペット等の管楽器の演奏に必要な振動する唇の状態を人工唇により実現し、口の開け具合を、人工唇の断面積をソレノイドにより変化させることにより調整する構成が開示されている。
【0005】
また、特許文献3において、上唇及び下唇に、左右方向に延びるコイルばねを設置し、各コイルばねが、左右方向複数箇所で上下方向に引っ張り又は押圧されると共に、前後方向に移動される構成が開示されている。
【0006】
更に、特許文献4において、アンブシュアアクチュエータが人工唇の上下に設けられ、アンブシュアアクチュエータ駆動部の制御により、人工唇に対する押圧力の大きさや方向を変化させ、唇の緊張、開口サイズ等を調整する構成が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2007−65197号公報
【特許文献2】特開2004−177828号公報
【特許文献3】特開2005−91947号公報
【特許文献4】特開2007−65198号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
上記のような従来の口腔機構においては、唇部材の開口部が一方向(縦方向)にのみ開閉(拡張)する構造となっているため、楽器を装着する作業が困難となる場合があった。このような困難性を改善するためには、開口部を縦方向のみでなく、横方向にも拡張可能にすることが考えられる。しかしながら、このような構成を実現しようとすると、唇部材を縦方向に変位させるアクチュエータの他に、横方向に変位させるためのアクチュエータを増設する必要がある。そのため、製造コストの増加、大型化、重量増加等の問題が生じていた。
【0009】
そこで、本発明は、管楽器演奏装置の口腔機構において、アクチュエータ等の設備の増設を最小限に抑えつつ、楽器の装着作業を容易にすることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明は、上記課題を解決するものであり、管楽器を演奏する管楽器演奏装置の口腔機構であって、可撓性を有する部材からなり、前記管楽器の空気吹込部が装着される開口部を備える唇部材と、所定の駆動力を発生させるアクチュエータと、前記アクチュエータの駆動力を第1の方向に伝達し、該伝達された力により前記唇部材を前記第1の方向に沿って伸張する第1の伸張手段と、前記アクチュエータの駆動力を前記第1の方向と直行する第2の方向に伝達し、該伝達された力により前記唇部材を前記第2の方向に沿って伸張する第2の伸張手段とを備えるものである。
【0011】
上記本発明によれば、アクチュエータの駆動力により唇部材を第1の方向(縦方向)に伸張すると、この動作に連動して、唇部材は第2の方向(横方向)へも伸張される。これにより、1つのアクチュエータの駆動力により開口部を縦横方向に拡張させることができ、開口部への空気吹込部の装着作業を容易にすることができる。
【0012】
具体的には、前記第1の伸張手段は、前記駆動力を受けて前記第1の方向に沿って変位する第1の可動部材、及び前記第1の可動部材と前記唇部材とを連結させる第1の連結部材を備え、前記第2の伸張手段は、前記駆動力を受けて前記第1の方向に沿って変位する第2の可動部材、前記第2の可動部材を前記第1の方向へ変位させる力を前記第2の方向へ変位させる力に変換し自らが前記第2の方向へ変位するガイド部材、及び前記ガイド部材と前記唇部材とを連結させる第2の連結部材を備えることが好ましい。
【0013】
より具体的には、前記ガイド部材は、前記第2の可動部材と当接し前記第1の方向に対して傾斜した形状を有する傾斜部、及び該方向変換部材の前記第2の方向のみへの摺動を許容するスライダを備えることが好ましい。
【0014】
また、前記第2の伸張手段は、前記唇部材の前記第1の方向への伸張量が所定量以上となった場合に、前記第2の方向への伸張を開始する構成を備えることが好ましい。
【0015】
また、前記開口部の収縮は、前記唇部材の弾性力を利用して行われることが好ましい。これにより、アクチュエータ等の設備の更なる削減が可能となる。
【発明の効果】
【0016】
上記本発明によれば、1つのアクチュエータの駆動力により、唇部材の開口部を縦横方向に拡張させることが可能となる。これにより、アクチュエータ等の設備の増設によるコスト増加、大型化、重量増加等を招くことなく、楽器の装着作業を容易にすることが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【図1】本発明の実施の形態に係る管楽器演奏装置の口腔機構の構成を示す斜視図である。
【図2】本実施の形態に係るガイド部材の構造、及びガイド部材と唇部材との状態変化の対応を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
実施の形態1
以下、図面を参照して本発明の実施の形態について説明する。図1は、本実施の形態に係る管楽器演奏装置の口腔機構1の構成を示している。口腔機構1は、唇部材2、アクチュエータ3、縦方向伸張部(第1の伸張手段)4、横方向伸張部(第2の伸張手段)5を備える。
【0019】
唇部材2は、シリコンゴム等の可撓性を有する部材からなり、管楽器の空気吹込部(マウスピース)が装着される開口部11を備える。
【0020】
アクチュエータ3は、所定の駆動力を発生させるものであり、モータ21、回転軸、関節機構、ボールねじ等から構成されるリンク機構22を備える。
【0021】
縦方向伸張部4は、アクチュエータ3の駆動力を縦方向に伝達し、該伝達された力により唇部材2を上方に伸張するものである。本実施の形態に係る縦方向伸張部4は、昇降板31、ブラケット32、縦連結ロッド33を備える。昇降板31は、アクチュエータ3のリンク機構22の一部をなすボールねじと連結し、モータ21の回転に応じて縦方向に平行移動する。ブラケット32は、昇降板31に各種固定部材35を介して固定され、唇部材2の上部に延設されたフランジ部37を備える。縦連結ロッド33は、ブラケット32のフランジ部37と唇部材2の上部とに固定される。
【0022】
横方向伸張部5は、アクチュエータ3の駆動力を横方向に伝達し、該伝達された力により唇部材2を左右に伸張するものである。本実施の形態においては、唇部材2の左右両側に1つずつ横方向伸張部5が配置されている。本実施の形態に係る横方向伸張部5は、立設板41、ローラ42、ガイド部材43、横連結ロッド44を備える。立設板41は、昇降板31に対して垂直となるように、各種固定部材35に固定されている。尚、各種固定部材35は、昇降板31に固定されているので、立設板41を昇降板31に固定しても同様の機構を構成することができる。ローラ42は、その軸方向が立設板41に対して垂直となるように、立設板41に回転自在に軸支されている。ガイド部材43は、ローラ42を挿通する開口45を備える板状の部材であり、立設板41に対して平行となるように、後述するスライダ53(図2参照)により摺動可能に固定されている。ガイド部材43の構造については、後に詳述する。横連結ロッド44は、固定台47と、唇部材2の右端又は左端とに固定される。
【0023】
図2は、ガイド部材43の構造、及びガイド部材43と唇部材2との状態変化の対応を示している。上述したように、ガイド部材43は、ローラ42が挿通される開口45を備えている。この開口45を構成する内壁の一部は、直立部51、傾斜部52となっている。直立部51は、縦方向、即ち上記縦方向伸張部4の変位方向に対して平行な壁面である。傾斜部52は、直立部51に対して傾斜した壁面である。ローラ42は、上記縦方向伸張部4の昇降板31、ブラケット32、縦連結ロッド33と共に上下に変位し、直立部51又は傾斜部52に常に当接する。
【0024】
また、ガイド部材43には、スライダ53が連結されている。スライダ53は、本体固定レール55と、ガイド固定レール56とからなる。本体固定レール55は、長手方向が横方向に沿うように、管楽器演奏装置本体又は口腔機構1の一部に固定される棒状部材である。ガイド固定レール56は、本体固定レール55を摺動可能に挟持するように、ガイド部材43に固定される2本の棒状部材である。このスライダ53により、ガイド部材43は横方向へのみ変位可能となる。
【0025】
上記構成により、ローラ42が上方へ変位していくと、ローラ42が当接する開口45の部分は、直立部51から傾斜部52へと変化していく。ローラ42が直立部51に当接している間は、ガイド部材43は変位しない。そして、ローラ42が傾斜部52に当接しながら変位する間は、ガイド部材43はスライダ53にガイドされることにより横方向に変位する。即ち、ローラ42が傾斜部52に当接しながら上方へ変位すると、ガイド部材43は、横方向に沿って唇部材2から遠ざかる方向に変位する。このような構成により、唇部材2を縦方向に所定量以上伸張すると、唇部材2は縦方向のみでなく横方向へも伸張され、唇部材2の開口部11は、縦横方向に拡張される。
【0026】
また、伸張された唇部材2は、元の形状に戻ろうとする弾性力(復元力)を発生させるため、唇部材2の材料を適切に選択することにより、アクチュエータ3の駆動力を利用することなく、開口部11の収縮を行うことが可能である。
【0027】
以上のように、本実施の形態によれば、1つのアクチュエータ3の駆動力により、唇部材2の開口部11を縦横方向に拡張させることが可能となる。これにより、アクチュエータ3等の設備の増設によるコスト増加、大型化、重量増加等を招くことなく、楽器の装着作業を容易にすることが可能となる。
【0028】
尚、本発明は上記実施の形態に限られるものではなく、趣旨を逸脱しない範囲で適宜変更することが可能である。
【符号の説明】
【0029】
1 口腔機構
2 唇部材
3 アクチュエータ
4 縦方向伸張部(第1の伸張手段)
5 横方向伸張部(第2の伸張手段)
11 開口部
21 モータ
22 リンク機構
31 昇降板
32 ブラケット
33 縦連結部材
35 各種固定部材
37 フランジ部
41 立設板
42 ローラ
43 ガイド部材
44 横連結部材
45 開口
47 固定台
51 直立部
52 傾斜部
53 スライダ
55 本体固定レール
56 ガイド固定レール

【特許請求の範囲】
【請求項1】
管楽器を演奏する装置の口腔機構であって、
可撓性を有する部材からなり、前記管楽器の空気吹込部が装着される開口部を備える唇部材と、
所定の駆動力を発生させるアクチュエータと、
前記アクチュエータの駆動力を第1の方向に伝達し、該伝達された力により前記唇部材を前記第1の方向に沿って伸張する第1の伸張手段と、
前記アクチュエータの駆動力を前記第1の方向と直行する第2の方向に伝達し、該伝達された力により前記唇部材を前記第2の方向に沿って伸張する第2の伸張手段と、
を備える管楽器演奏装置の口腔機構。
【請求項2】
前記第1の伸張手段は、前記駆動力を受けて前記第1の方向に沿って変位する第1の可動部材、及び前記第1の可動部材と前記唇部材とを連結させる第1の連結部材を備え、
前記第2の伸張手段は、前記駆動力を受けて前記第1の方向に沿って変位する第2の可動部材、前記第2の可動部材を前記第1の方向へ変位させる力を前記第2の方向へ変位させる力に変換し自らが前記第2の方向へ変位するガイド部材、及び前記ガイド部材と前記唇部材とを連結させる第2の連結部材を備える、
請求項1に記載の管楽器演奏装置の口腔機構。
【請求項3】
前記ガイド部材は、前記第2の可動部材と当接し前記第1の方向に対して傾斜した形状を有する傾斜部、及び該ガイド部材の前記第2の方向のみへの摺動を許容するスライダを備える、
請求項2に記載の管楽器演奏装置の口腔機構。
【請求項4】
前記第2の伸張手段は、前記唇部材の前記第1の方向への伸張量が所定量以上となった場合に、前記第2の方向への伸張を開始する構成を備える、
請求項1〜3のいずれか1つに記載の管楽器演奏装置の口腔機構。
【請求項5】
前記開口部の収縮は、前記唇部材の弾性力を利用して行われる、
請求項1〜4のいずれか1つに記載の管楽器演奏装置の口腔機構。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2010−250169(P2010−250169A)
【公開日】平成22年11月4日(2010.11.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−100951(P2009−100951)
【出願日】平成21年4月17日(2009.4.17)
【出願人】(000003207)トヨタ自動車株式会社 (59,920)
【出願人】(899000068)学校法人早稲田大学 (602)