説明

管渠の布設方法

【課題】 鋼球を用いた横引きによりボックスカルバート等の管渠を布設するのに際し、布設区間内に設けられた勾配部において、確実かつ安全にボックスカルバート等の管体の横引きを行えるようにする。
【解決手段】 複数基を連結して管渠を構成するボックスカルバート1を山留め空間内に搬入し、山留め空間の縦断方向に所定の勾配をなして構築された基礎コンクリート13上に敷設されたレール面10に鋼球11を分散して配置する。ボックスカルバート1を鋼球11で支持した状態で横引きすることにより、鋼球11の転動によりボックスカルバート1を所定の連結位置まで移送する際、ボックスカルバート1を移送するレール10面上に、水硬性固化材料が所定厚さで塗布された鋼球位置保持層20を形成し、鋼球位置保持層20内に、鋼球11の一部を埋没させて位置保持させるようにした。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は管渠の布設方法に係り、特にプレキャストコンクリート製ボックスカルバートを、勾配部を経て管体の連結位置まで横引きし、複数基を連結させ管渠を構築するようにした管渠の布設方法に関する。
【背景技術】
【0002】
出願人の一は、すでに都市部等における狭隘な道路下に建設される下水幹線等に用いられるプレキャストコンクリート製の管渠の合理的な布設方法として、摩擦低減手段としての鋼球を利用した横引き工法を開発している(特許文献1参照)。本工法によれば、開削トンネル部の構築後に、地上のわずかなスペースに単位管体としてのボックスカルバートの搬入部を設け、そこから搬入されたボックスカルバートを所定連結位置まで横引きし、これらを連結した管渠を迅速に構築することができる。
【0003】
ところが、上述した鋼球を利用した管渠の横引き方法では、管渠が横引きされる位置のレール面上に多数の鋼球を分散して配置させるため、レール面がほぼ水平となることが重要である。ところが、管渠は、下水等の流下勾配を考慮してが延長方向に所定の勾配をつけて布設される場合が多い。このようなに縦断方向に勾配を有する横引き用レールを布設した場合、鋼球は勾配に沿って転がってしまい、レール面に鋼球を分散して配置することはできない。そこで、出願人は、その対策工として、レール面上に粘着マットや金網等の鋼球保持手段を設け、レール面が所定勾配をもって敷設された際にも、鋼球保持手段によって鋼球が支持され、その上を単位管体が所定勾配面に沿って移送させることができる(特許文献2参照)。
【0004】
同様の問題点を解決するための先行技術には特許文献3に開示された発明がある。この発明では、粘着性を有する水糊を平板上に形成し、そのうえに鋼球を落下させて水糊に鋼球を保持させるようになっている。このため、この平板が傾斜している場合でも鋼球が転がらないようになっている。
【0005】
【特許文献1】特許第2879021号公報
【特許文献2】特開2005−90226号公報
【特許文献3】特許第3515961号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
ところで、上述したように、粘着マットをレール面に敷き詰めたり(特許文献2)、コンクリートとの一体化が図れるか、化学的に確認されていない水糊(特許文献3参照)等を平板上に形成し、その後、モルタル等で隙間充填を行った際、この鋼球等で支持された個所において、ボックスカルバート等の単位管体と基礎コンクリートとの間の構造上の一体化が図れないおそれがある。
【0007】
そこで、本発明の目的は上述した従来の技術が有する問題点を解消し、鋼球を用いた横引きによりボックスカルバート等の管渠を布設するのに際し、布設区間内に設けられた勾配部において、確実かつ安全にボックスカルバート等の管体の横引きを行えるようにした管渠の布設方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記目的を達成するために、本発明は、複数基を連結して管渠を構成する単位管体を山留め空間内に搬入し、該山留め空間の縦断方向に勾配をなして構築された基礎コンクリート上に敷設されたレール面に球状体を分散して配置し、前記単位管体を前記該球状体で支持した状態で横引きすることにより、前記球状体の転動により前記単位管体を所定の連結位置まで移送するようにした管渠の布設方法において、前記単位管体を移送するレール面上に、超遅延剤が添加された水硬性固化材料が所定厚さで塗布された球状体位置保持層を形成し、該球状体位置保持層内に、前記球状体の一部を埋没させて位置保持させるようにしたことを特徴とする。
【0009】
前記水硬性 固化材料は、超遅延剤が添加されたセメントペーストあるいはモルタルを塗布して形成するか、超遅延剤を混合した粘性のある溶媒を塗布することが好ましい。
【0010】
他の発明として、複数基を連結して管渠を構成する単位管体を山留め空間内に搬入し、該山留め空間の縦断方向に勾配をなして構築された基礎コンクリート上に敷設されたレール面に球状体を分散して配置し、前記単位管体を前記該球状体で支持した状態で横引きすることにより、前記球状体の転動により前記単位管体を所定の連結位置まで移送するようにした管渠の布設方法において、前記単位管体を移送するレール面上に、前記球状体を複数個ずつ収容可能な球状体保持枠が所定間隔をあけて設けられ、該球状体保持枠内に前記球状体を位置保持させるようにしたことを特徴とする。
【0011】
前記球状体保持枠は、前記球状体の直径より低く、かつ直径の1/2より高い壁高をなして前記複数の球状体が転動可能な状態に収容されるように設置することが好ましい。
【発明の効果】
【0012】
以上の説明から明らかなように、本発明によれば、トンネル内に搬入されたボックスカルバートを勾配部においても効率よく横引きして据え付け位置まで移動することができるという効果を奏する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
以下、本発明の管渠の布設方法の実施するための最良の形態として、以下の実施例について添付図面を参照して説明する。
【実施例】
【0014】
以下、本発明の管渠の布設方法の方向変換部と勾配部における実施の形態について添付図面を参照して説明する。
【0015】
前述したように、横引き用レール上に分散して配置された鋼球は、レールが所定勾配以上になると転がってしまい、ボールをレール全長にわたり満遍なく分散させることができない。そこで、ボックスカルバートを勾配で布設する場合には、横引き用レール上全体に鋼球が分散した状態で保持されるようにすることが必要である。
【0016】
図1は本発明の単位管体としてのボックスカルバートを横引きしている作業状態を示した斜視図、図2は側面図である。図1,図2には、図中に模式的に示した水平レベル線に対して進行方向に所定の下り勾配をなして敷設された基礎コンクリート上に設置されたレール10上に載置されたボックスカルバート1が示されている。このボックスカルバート1をワイヤWによって横引きする作業を容易に実現するために、ボックスカルバート1とレール10との間に摩擦を低減する構成(摩擦低減手段)が設けられている。
【0017】
本実施例の摩擦低減手段は、上述した特許文献2に開示された構成と同等の構成からなる。すなわち、図1に示したように、所定勾配をなした基礎コンクリート13上面には、単位管体としてのボックスカルバート1の底版1aの幅方向に十分な幅員を確保した2本のガイドレール10が埋設されている。本実施例では、図4に拡大して示したように、ガイドレール10として細幅系のH形鋼(たとえばH−150×75)等の形鋼規格品が横置きされた状態でフランジ10aのほぼ全体が基礎コンクリート13内に埋設される程度の深さで設置されて管渠の軸線方向に延在するように敷設されている。
【0018】
図4に示したように、埋設されたH形鋼からなる横引き用レール10(以後、単にレール10と記す。)のウェブ10dがレール面を構成し、両側のフランジ10aの内面側が側壁に相当する凹溝10bが形成され、この凹溝10b内に所定数量の鋼球11が撒き出され、配置されている。本実施例では、球状体として鋼球11が使用されている。鋼球11の仕様、材質としては、直径φ11mmの熱入れ処理されバレル研磨されたJIS規格品(SWCH12)が使用されている。
【0019】
このとき、前述したように、レール10上に分散して配置された鋼球11は、レール10が所定勾配以上になると転がってしまい、鋼球11をレール11の全長にわたり満遍なく分散して転動可能に敷き詰めることができない。そこで、ボックスカルバート1を勾配面に沿って布設するような場合には、レール10上全体において鋼球11が分散した状態で保持されるようにすることが必要である。
【0020】
図2〜図4には、勾配部のレール10内において、鋼球11を所定位置に分散して配置するための鋼球位置保持層を形成した実施例が示されている。本実施例では、図3(a)、(b)に示したように、勾配がついた基礎コンクリート面に設けられた横引き用レール10の溝内に層厚5mm程度の鋼球位置保持層20が形成され、その上に所定密度となるように鋼球11が撒き出されている。このとき鋼球位置保持層20は、所定の弾粘性性状を示す柔らかいペースト状体を塗布した層から構成されている。このペースト状体は本実施例では、超遅延剤を所定添加量だけ添加したセメントペーストを塗布した層からなり、その流動性はレール10内にセメントペーストが流し込まれた際に、レール10の底面全面には広がるが(図2(b)拡大平面図)、勾配に沿ってはほとんど流下しない程度にのフロー性状が得られるようにその水結合材比が設定されている。また、超遅延剤としては、公知のオキシカルボン酸系遅延剤が使用され、凝結始発時間の制御は一連のボックスカルバート1の横引き、連結作業が完了するまでの時間を確保できればよく、その時間を考慮して超遅延剤の添加量を調整することが好ましい。通常、添加量に応じて凝結までの時間は数時間から数日までの範囲を制御できるため、施工工程に応じた添加量を適宜設定すればよい。
【0021】
また、このペースト状の材料としては、超遅延剤、砂を添加したモルタルも利用できるが、その他、所定粘性を有し、グラウト材の固化に悪影響のない溶媒であれば、超遅延剤単味を溶媒に溶解して塗布可能な粘性塗布材として利用することもできる。
【0022】
図4は、レール10内の位置保持層20に、その下部が埋没した状態の鋼球11上にボックスカルバート1が、その底面1aに一体的に形成された突起16がプレート17で被覆されたガイドプレート12上に載置された状態を示している。レール10が縦断方向に勾配をつけて敷設されていても、同図に示したように、鋼球11の下側が柔らかい位置保持層20内に嵌った状態にあるため、ボックスカルバート1の横引き時に鋼球11の転動は阻害されることはない。
【0023】
(鋼球位置保持部材)
図5、図6は、勾配の横引き用レール10のレール面の所定位置にまとまった数量の鋼球4を保持させるための鋼球保持枠30を示している。図5はレール10内に配置された鋼球保持枠30の配置状態を模式的に示した拡大平面図である。この鋼球保持枠30は、レール面上に載置可能な程度の直径の鋼管を、図6に示したように、高さ6〜7mm程度になるように細幅のリング状に切断して製造した部材で、横引きレールの底面に設置した際に、その枠内において転動可能な数量の鋼球を収容させることができる。このときの壁状をなすリングの高さはは、横引き時の鋼球11ととガイドプレート12との接触の干渉とならず、かつ鋼球が枠を超えないように、鋼球11の直径以下で直径の1/2以上とすることが好ましい。
【0024】
鋼球保持枠30は、レール面の所定位置に固定することが好ましいが、本実施例の鋼球保持枠30は鋼製であるため部分的な点付け溶接等により固定することができる。また、鋼球保持枠30の素材としては、鋼管をリング状としたものの他、各種金網を同様の寸法の帯形状としてそれをさらに輪状に加工したものを採用することもできる。
【0025】
図7(a)は各鋼球保持枠30の配置間隔をおおよそ保持するために、連結棒31を用いた変形例を示している。同図に示した枠体連結棒31には、その端部がL字形に屈曲加工された鋼棒が使用され、枠体連結棒31の端部を各鋼球保持枠30の上縁部の一部に係止することで、隣り合う鋼球保持枠30の間隔をおおよそ確保することができる。なお、連結された鋼球保持枠30のうちのいくつかをレール面に溶接等で仮止めすることにより、連結された複数の鋼球保持枠30の位置保持を図ることができる。
【0026】
同図(b)は、2個の弧形状部分を有するように湾曲加工された枠体支持材32により2個の鋼球保持枠30をレール面上の所定位置に位置保持させるようにした鋼球保持枠30の配置状態を示している。枠体支持材32は棒鋼材等の曲げ加工品等の材料を使用することができる。この枠体支持材32の形状は鋼球保持枠30が勾配に沿って低い側に移動せず、個々の鋼球保持枠30を適当な間隔で配置できれば適宜その加工形状を設定できることはいうまでもない。
【0027】
図8各図は、上述した鋼球保持枠30のレール面上への固定手段として永久磁石34を用いた変形例を示している。同図に示したように、鋼球保持枠30の底面の所定位置にシート状の永久磁石34を取り付けることで、鋼球保持枠30をこの永久磁石34の磁力を利用してレール面上の所定位置に固定することができる。
【0028】
以上に述べた鋼球保持枠30は円形リング状をなしたものであったが、図8(b)に示したように、角形リング状をなした鋼球保持枠30等としてよいことは言うまでもない。この角形リング状をなした鋼球保持枠30では、勾配方向に沿って細長形状の永久磁石34を取り付けることにより、レール面上への固定度が増すという利点がある。またこの鋼球保持枠30のリング形状、寸法は、レール幅等を考慮して適宜設定でき、使用材料も鋼板加工品、金網、セメント成形品等、種々材料から選択できることはいうまでもない。
【図面の簡単な説明】
【0029】
【図1】勾配部において適用される球状体保持手段の構成例及び横引き状態を示した斜視図,正面図。
【図2】図1に示した球状体保持手段における横引き状態を示した側面図およびレール面の拡大平面図。
【図3】球状体保持層の構成を模式的に示した部分断面図。
【図4】本発明による管渠の布設方法のための管渠を支持する球状体および球状体保持層の構成例を示した部分拡大断面図。
【図5】勾配部において適用される球状体保持手段の他の発明の構成例を示した部分拡大平面図。
【図6】図5に球状体保持手段の構成を模式的に示した部分拡大断面図。
【図7】球状体保持手段の連結例、位置保持例を模式的に示したレール面平面図。
【図8】球状体保持手段のレール面への固定手段の一実施例を示した平面図。
【符号の説明】
【0030】
1 ボックスカルバート
10 レール
11 鋼球
12 ガイドプレート
20 鋼球位置保持層
30 鋼球保持枠

【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数基を連結して管渠を構成する単位管体を山留め空間内に搬入し、該山留め空間の縦断方向に勾配をなして構築された基礎コンクリート上に敷設されたレール面に球状体を分散して配置し、前記単位管体を前記該球状体で支持した状態で横引きすることにより、前記球状体の転動により前記単位管体を所定の連結位置まで移送するようにした管渠の布設方法において、
前記単位管体を移送するレール面上に、水硬性固化材料が所定厚さで塗布された球状体位置保持層を形成し、該球状体位置保持層内に、前記球状体の一部を埋没させて位置保持させるようにしたことを特徴とする管渠の布設方法。
【請求項2】
前記水硬性固化材料は、所定配合で超遅延剤が添加されたセメントペーストであることを特徴とする請求項1に記載の管渠の布設方法。
【請求項3】
前記水硬性固化材料は、所定配合で超遅延剤が添加されたモルタルであることを特徴とする請求項1に記載の管渠の布設方法。
【請求項4】
前記水硬性固化材料は、所定配合で超遅延剤が粘性溶媒に混合されたことを特徴とする請求項1に記載の管渠の布設方法。
【請求項5】
複数基を連結して管渠を構成する単位管体を山留め空間内に搬入し、該山留め空間の縦断方向に勾配をなして構築された基礎コンクリート上に敷設されたレール面に球状体を分散して配置し、前記単位管体を前記該球状体で支持した状態で横引きすることにより、前記球状体の転動により前記単位管体を所定の連結位置まで移送するようにした管渠の布設方法において、
前記単位管体を移送するレール面上に、前記球状体を複数個ずつ収容可能な球状体保持枠が所定間隔をあけて設けられ、該球状体保持枠内に前記球状体を位置保持させるようにしたことを特徴とする管渠の布設方法。
【請求項6】
前記球状体保持枠は、前記球状体の直径より低く、かつ直径の1/2より高い壁高をなして前記複数の球状体が転動可能な状態に収容されるように設置されたことを特徴とする請求項5に記載の管渠の布設方法。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate

【図7】
image rotate

【図8】
image rotate


【公開番号】特開2007−332599(P2007−332599A)
【公開日】平成19年12月27日(2007.12.27)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−163734(P2006−163734)
【出願日】平成18年6月13日(2006.6.13)
【出願人】(591028108)安藤建設株式会社 (46)
【出願人】(000230010)ジオスター株式会社 (77)
【Fターム(参考)】