説明

管状体

【課題】負荷が急激かつ複合的に作用した場合であっても、本体層を確実に保護することができる耐久性に優れた管状体を提供すること。
【解決手段】強化繊維に合成樹脂を含浸した繊維強化プリプレグを芯金に巻回して形成した本体層20と、この本体層の外側に形成した補強層22とを備え、この補強層22は、軸長方向に強化繊維を引き揃えた軸長方向繊維層36dと、軸長方向に対して傾斜方向に強化繊維を引き揃え、これらの強化繊維を互いに交差方向に配置した傾斜方向繊維層36a,36cと、周方向に強化繊維を引き揃えた周方向繊維層36bとを重合し、これらの繊維層を強化繊維よりも軟質の編糸48で編成した編成プリプレグ36Pを巻回して形成されるる管状体10。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、管状体に関し、特に、強化繊維に合成樹脂を含浸した繊維強化プリプレグを巻回して形成した管状体に関する。
【背景技術】
【0002】
一般に、ゴルフクラブのシャフト等の管状体は、強化繊維に合成樹脂を含浸させた繊維強化プリプレグを、芯金に対して重合するように巻回し、その上に緊締テープを巻回して安定させた後、これを加熱炉において合成樹脂を熱硬化し、その後、冷却して、脱芯、緊締テープの剥離、研磨、塗装等の工程を経て作成された積層体として形成されている。
【0003】
このような繊維強化プリプレグから形成される管状体は、比強度、比剛性に優れているが、強化繊維の方向や積層条件によって管状体の物性が大きく変化する。
【0004】
このため、強化繊維組織の伸びによる層間剥離に起因するゴルフシャフト、釣り竿等の管状体の破壊に着目し、炭素繊維又は炭化けい素組糸に、縦方向の寸法安定糸を組み込まれてなる縦方向形状安定性組み織り筒状体が開発されている。この筒状体を用いてゴルフクラブシャフトを形成する場合は、ステンレスパイプに外挿し、型内でポリアミド樹脂を充填することにより行う。この筒状体を用いることにより、縦方向の伸びを防ぎ、これにより径方向の変化もほとんどなくすことができる(例えば特許文献1参照)。
【0005】
また、複数の繊維強化樹脂層から構成されるゴルフクラブシャフトについて、繊維配向方向がシャフト軸線に対して略直交して本体層のバット側に配置されるフープ層およびチップ側の補強層を順に配置し、各繊維強化樹脂層の樹脂含有量及び厚さを調整することにより、シャフトの耐久性を確保して柔軟性を向上させるゴルフクラブシャフトが開発されている(例えば特許文献2参照)。
【特許文献1】特開2001−115356
【特許文献2】特開2005−176960
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかし、上述の縦方向形状安定性組み織り筒状体によれば、縦方向の伸びを防ぐとしても、組み糸が複雑に重なり合うために強化繊維が波うち状態になり、比剛性が低下し易く、織成した繊維間の樹脂部分から剥離を生じ易い。この場合には、本体が損傷する虞が高い。また、本体層の外側にフープ層および補強層を順に配置したゴルフシャフトによれば、比強度、比剛性を効率よく向上できるとしても、例えば曲げ、ねじり、潰し等の種々の負荷が急激に作用するときは、これに耐えることが困難であり、また、一部の強化繊維が傷付くと、破壊が進行し易く、本体層を損傷する虞が高い。
【0007】
本発明は、このような事情に基づいてなされたもので、負荷が急激かつ複合的に作用した場合であっても、本体層を確実に保護することができる耐久性に優れた管状体を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記目的を達成するため、本発明によると、強化繊維に合成樹脂を含浸した繊維強化プリプレグを芯金に巻回して形成した本体層と、この本体層の外側に形成した補強層とを備える管状体であって、この補強層は、管状体の軸長方向に強化繊維を引き揃えた軸長方向繊維層と、前記軸長方向に対して傾斜方向に強化繊維を引き揃え、これらの強化繊維を互いに交差方向に配置した傾斜方向繊維層と、管状体の周方向に強化繊維を引き揃えた周方向繊維層とを重合し、これらの繊維層を強化繊維よりも軟質の編糸で編成した編成プリプレグを巻回して形成される管状体が提供される。
【0009】
前記編成プリプレグは、それぞれの繊維層を非直交状態に積層してなるのが好ましい。
【0010】
また、編成プリプレグは、強化繊維よりも軟質の編糸が、それぞれの強化繊維に対して、非直交方向に編成してなることが好ましい。
【0011】
更に、前記編成プリプレグは、強化繊維が互いに交差する状態に積層された傾斜方向繊維層の間に、周方向繊維層を配設し、最外層に軸長方向繊維層を配設して形成されることが好ましい。
【0012】
前記補強層は、前記編糸が露出しかつ研磨された外面を有し、この外面が透明状の被膜で覆われることが好ましい。
【0013】
また、前記編成プリプレグは、強化繊維が互いに交差する状態に積層された傾斜方向繊維層の間に、軸長方向繊維層を配設し、最外層に周方向繊維層を配設して形成し、編糸により編成された模様の凹凸方向を軸長方向とすることが好ましい。
【0014】
更に、前記本体層と前記補強層との間に、この両方の層に使用した強化繊維の50%以下の低弾性率の強化繊維に合成樹脂を含浸した繊維強化樹脂層を形成することが好ましい。
【発明の効果】
【0015】
本発明の管状体によると、本体層の外側に位置する補強層が、軸長方向と、互いに交差する2つの傾斜方向と、周方向との4つの方向に強化繊維を配置し、かつこれらの強化繊維よりも軟質の編糸で編成して一体化されているため、曲げ、ねじり、潰しの複合的な負荷が急激に作用しても、その作用が最も大きい本体層の外側で耐えることができ、本体層を確実に保護し、この外側の補強層を強化して高強度の管状体を形成することに加え、更に、補強層の強化繊維に達する傷が発生しても、この補強層が一体化されているため、強化繊維の破損、剥離の拡大を防止することができ、耐久性に優れた管状体を形成することができる。
【0016】
編成プリプレグが、互いに隣接する繊維層を非直交状態に積層してなる場合には、直交方向の繊維配向による層間剥離や繊維間剥離を防止することができ、これにより、管状体の強度および耐久性を更に優れたものとすることができる。
【0017】
また、編成プリプレグが、強化繊維よりも軟質の編糸で、それぞれの強化繊維に対して、非直交方向に編成してなる場合には、強化繊維がこの編糸で傷付きあるいは破損するのを防止し、高強度で耐久性に優れた管状体とすることができる。
【0018】
更に、編成プリプレグが、強化繊維を互いに交差する状態に積層した傾斜方向繊維層の間に、周方向繊維層を配設し、最外層に軸長方向繊維層を配設した場合には、曲げ、ねじり、潰しの複合的な負荷に対して効率よく補強することができ、高強度で耐久性に優れた管状体を形成することができる。
【0019】
更に、補強層が編糸を露出しかつ研磨された外面を有し、この外面を透明状の被膜で覆った場合には、この編糸が外部から見えるため、その特徴的な模様層が装飾効果を有すると共に、高強度で耐久性に優れた上に、外観装飾性に優れた管状体を形成することができる。
【0020】
また、編成プリプレグが、強化繊維が互いに交差する状態に積層された傾斜方向繊維層の間に、軸長方向繊維層を配設し、最外層に周方向繊維層を配設して形成し、編糸により編成された模様の凹凸方向を軸長方向とする場合には、この凹凸模様をきれいに現出できる。
【0021】
更に、本体層と前記補強層との間に、この両方の層に使用した強化繊維の50%以下の低弾性率の強化繊維に合成樹脂を含浸した繊維強化樹脂層を形成する場合には、補強層で受けた衝撃、負荷が緩和された状態で本体層に伝播するので、より高強度で、耐久性に優れた管状体とすることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0022】
図1は、本発明の好ましい実施形態による管状体10を示す。この実施形態では、その重さに比して強度および剛性を高くする必要のあるゴルフクラブのシャフトとして形成してある。この他にも、この管状体10は、釣竿あるいはテニスラケット等のスポーツ用品として形成することも可能である。
【0023】
本実施形態の管状体10は、先端側すなわちゴルフクラブシャフトの場合には打球するクラブヘッドを取付ける側に向けて先細状に形成してあり、先端側から、先部12と中間部14とグリップが取付けられる元部16とが形成され、長手方向である軸長方向に貫通する内孔18が先端および後端で外方に開口する。
【0024】
この管状体10は、後述する補強耳44が配置されていない位置における先部12の肉厚tを、先端で開口する内孔18の内径dよりも大きく、例えば2.0mm以上で、2.4〜3.5mmに形成してあり、後述する元側補強プリプレグが配置されていない位置における中間部14の肉厚は、例えば1.0mm以上で、1.2〜2.0mmに形成してある。この管状体10は、中間部14を最も基本的な構造に形成してあり、後述するように、本体層20で基本的な曲げ強度を確保した上で、所要位置に種々の補強層を設けるのが好ましい。
【0025】
図2に示すように、本実施形態の管状体10の最も基本的な構造を備える中間部14は、強化繊維に合成樹脂を含浸した複数のプリプレグを内側から順に積層して形成され、この本体層20の外側に配置された補強層22を被膜層24が覆っている。この被膜層24は透明状であるのが好ましく、透明クリヤー層、染料や顔料等の有色物質あるいは光輝性粒子等を混合したカラークリヤー層を1層あるいは複数層重ねて透明状に形成したものでもよい。
【0026】
この本体層20は、内周側の第1層26として、周方向に強化繊維を引き揃えて形成された周方向プリプレグを巻回して形成される。この第1層26の外側には、管状体10の軸線に対して傾斜する方向に強化繊維を引き揃えて形成された傾斜方向繊維層28a,28bからなる第2層28が形成され、この傾斜方向繊維層28a,28bを形成するそれぞれの強化繊維は、互いに交差する方向に配向されている。更に、この第2層28の外側には、軸長方向に強化繊維を引き揃えて形成された軸長方向繊維層である第3層30と、周方向繊維層で形成した第4層32と、軸長方向繊維層で形成した第5層34とが順に配置されている。これにより、本体層20は、大きな曲げを可能としつつ、軸長方向および捩じり方向の大きな引張り力に耐えることができるように、基本的な曲げ強度を確保できることが好ましい。
【0027】
この本体層12の上に形成した補強層22は、後述するように、互いに交差する4つの方向に強化繊維を配向した4つの繊維層を、糸状部材である編糸で一体的に編成した複合繊維層36で形成され、これらの強化繊維を編成する編糸が後述するように補強層22の外側に露出して模様を形成する。
【0028】
このような管状体10は、強化繊維に合成樹脂を含浸した複数のプリプレグを芯金8に巻回することで形成される。プリプレグの強化材は、炭素繊維の他、例えばガラス、ボロン、アラミド、アルミナ等の有機、無機繊維で形成し、含浸する合成樹脂についても、エポキシ等の熱硬化性合成樹脂の他、熱可塑性合成樹脂を用いることができる。
【0029】
このような複合繊維層36の合成樹脂含浸量RCは、28wt%〜40wt%の範囲とし、特に、30wt%〜36wt%の範囲にあることが好ましい。これは、強化繊維が多数の方向に配向されるため、強化繊維の層間は強化繊維間にボイドあるいは空隙が形成されるのを防止するためである。このような合成樹脂含浸量とすることで、各繊維層の強度の低下を防止し、管状体10を高強度とすることができる。
【0030】
また、本体層20の第3層30および第5層34の軸長方向繊維層および第2層28の傾斜方向繊維層よりも、補強層22の合成樹脂含浸量を多くすることが好ましい。これにより、補強層22のボイド発生を防止し、本体層20の軽量化が図れ、管状体10の比強度、比剛性を、バランスよく向上させることができると共に、耐久性についても向上させることができる。
【0031】
図3は、この管状体10を形成する際に、芯金8に対して巻回されるプリプレグの配置例を示す。本実施形態では、芯金8に対して長さが約1200mmの領域に、後述する各プリプレグが巻回される。この芯金8は、そのシャフトを形成する管状体10の内孔18に対応した外径を有し、先端の径が、内孔18の先端の径dに対応した約2.50〜4.50mm、管状体10の後端の径が例えば約14.00〜17.00mmとなように形成してあり、全体に滑らかなテーパ状に形成されている。なお、管状体10の先部12に近接する部位で中間部14の傾斜角度を変更させ、この剛性分布を変化させることも可能である。
【0032】
芯金8の先端領域には、先部12の内側補強層として、主に先部12の剛性バランスを調整するための第1プリプレグ38が巻回される。更に、順にシャフトの全長にわたって本体層20を形成する本体層用の第2プリプレグ26P,第3プリプレグ28P,第4プリプレグ30P,第5プリプレグ32P,第8プリプレグ34Pが巻回される。更に、先部12と元部16とにおいて中間補強層となる補強用の第6プリプレグ40と第7プリプレグ42とが本体層用の第5プリプレグ32Pと第8プリプレグ34Pとの間に介挿され、第6プリプレグ40は、主として先部12の剛性バランスを調整し、第7プリプレグ42は元部16に配置される握り部を軸長方向あるいは周方向等に補強する。
【0033】
そして、本体層20の外側に、補強層22の複合繊維層36を形成する編成プリプレグ36Pが巻回され、この外側の先端領域に、最外側の補強耳である第9プリプレグ44が巻回される。この第9プリプレグ44は、主として、図示しないクラブヘッドを取付けるための補強用である。
【0034】
上述の第1乃至第9プリプレグは、それぞれ1層又は複数層巻回することが可能であり、必要に応じて一部を省略することも可能である。また、内側補強層および中間補強層を形成する第1プリプレグ38、第6,第7プリプレグ40,42の巻回位置を軸長方向に沿う任意位置に調整し、ヘッド取付部の強度向上や高剛性化によるキックポイントの調整をすることができる。
【0035】
これらのプリプレグは、必要に応じて適宜のものを用いることができ、例えばゴルフクラブのシャフトを形成する場合には、以下に例示する特性とすることもできる。
【0036】
先部12において内側補強層を形成する第1プリプレグ38は、例えば弾性率20〜50tonf/mmの強化繊維39を軸長方向に引揃えたものであり、樹脂含漫率が25〜33wt%、繊維の目付け量が30〜150g/m、厚さが0.03〜0.15mmで構成されており、軸長方向両端において芯金8に対して1〜3プライされる大きさに裁断されている。この第1プリプレグ38に対しては、別途、ガラスの織布を裏打ちしても良い。
【0037】
本体層20の最内層となる第2プリプレグ26Pは、弾性率20〜50tonf/mmの強化繊維27を周方向に引揃え、樹脂含漫率を25〜40wt%、繊維の目付け量を19〜80g/m、厚さを0.025〜0.080mmとした周方向プリプレグで形成してあり、軸長方向両端において芯金8に対して各1〜1.1プライ又は複数プライされる大きさに裁断されている。
【0038】
この第2プリプレグ26P上に配置される第3プリプレグ28Pは、弾性率20〜50tonf/mmの強化繊維29a,29bを軸長方向に対して互いに交差する斜方向に引揃えて重ね合わせた斜向プリプレグとして形成してあり、この斜向プリプレグ28Pの強化繊維29a,29bは、管状体10のねじり強度を増大するために、例えば管状体10の軸長方向に対して±45°(±15°)の範囲で互いに交差状に配向されている。この斜向プリプレグ28Pは、樹脂含漫率が25±10wt%で、繊維の目付け量が55〜150g/m、厚さが0.045〜0.150mmで構成されている。
【0039】
第4プリプレグ30Pは、弾性率20〜60tonf/mmの強化繊維31を軸長方向に引揃えた軸長方向プリプレグで形成してあり、樹脂含漫率が17〜33wt%、繊維の目付け量が80〜170g/m、厚さが0.08〜0.170mmで構成されている。そして、軸長方向両端において芯金8に対して各1〜2プライされる大きさに裁断されている。
【0040】
第5プリプレグ32Pは、強化繊維33を周方向に引き揃えて、上述の周方向プリプレグ26Pと同様に形成され、軸長方向両端において芯金8に対して各1.0〜1.1プライされる大きさに裁断されている。また、この周方向プリプレグ32Pの先端領域および後端領域に巻回される補強用プリプレグ40,42はその長さおよび巻回数を調節することにより、先部12および元部16における管状体10の剛性を所要の大きさに調節することができる。本実施形態では、これらの補強用プリプレグ40,42を、上述の補強用の第1プリプレグ38と同様に、弾性率20〜50tonf/mmの強化繊維41,43を軸長方向に引き揃えて形成してあり、樹脂含浸率が25〜33wt%、繊維の目付け量が30〜150g/m、厚さが0.03〜0.150mmで構成されている。
【0041】
これらの中間補強用第6,第7プリプレグ40,42および第5プリプレグ32P上に巻回する第8プリプレグ34Pは、強化繊維35を軸長方向に引き揃え、上述の軸長方向プリプレグ30Pとほぼ同様に形成してあるが、樹脂含浸率はこれよりも多い30〜35wt%にしてあり、芯金8上に1.0〜2.0プライされる大きさに裁断されている。また、先端領域において補強層となる第9プリプレグ44は、上述の最内層側の第1プリプレグ38および中間補強用の第6,第7プリプレグ40,42と同一の構成であり、芯金8の先端部に対してヘッドのシャフト取付孔内径と一致する外径とするように、強化繊維45を軸長方向に引き揃えた状態で数回巻回されるように裁断されている。そして、この第9プリプレグ44が巻回される編成プリプレグ36Pは、傾斜方向繊維層36aと周方向繊維層36bと傾斜方向繊維層36cと軸長方向繊維層36dとを後述するように編成して形成され、本体層20の上に外側補強層22の複合繊維層36を形成する。
【0042】
各プリプレグを芯金8に巻回する場合は、1枚づつ個別に巻回してもよく、あるいは各プリプレグ同士を任意にあらかじめ貼り付けておき、これを巻回してもよい。例えば、第2プリプレグ26Pは、第3プリプレグ28Pにあらかじめ貼り付けておいてもよいし、第5プリプレグ32Pは、第4プリプレグ30Pにあらかじめ貼り付けておいてもよい。また、補強用の第1,第6,第7,第9プリプレグ28P,40,42,44についても、これに隣接する本体層用プリプレグにあらかじめ貼り付けて、これらの本体層用プリプレグと共に巻回し、あるいは、個別に巻回してもよい。このように芯金8にプリプレグを巻回し、緊締テープで締付けた後、常法、すなわち、加熱工程、冷却工程、脱芯、緊締テープの除去、研磨、塗装等の工程を経て、図1に示すような管状体10が形成される。外側補強層22の上には、透明樹脂を配置したクリア層が好ましい塗装層24を形成することが好ましい。そして、ゴルフクラブを形成する場合は、管状体10の先端部にクラブヘッドを嵌入し、基端部にグリップを取着して完成する。
【0043】
図4および図5に詳細に示すように、外側補強層22を形成する編成プリプレグ36Pは、傾斜方向繊維層36a,36cを形成するそれぞれ一方向に配向された強化繊維37a,37cを互いに交差する状態に重ね合せ、これらの傾斜方向繊維層36a,36c間に強化繊維37bを周方向に配向した周方向繊維層36bを介挿し、更に、傾斜方向繊維層36c上に、強化繊維37dを軸長方向に配向した軸長方向繊維層36dを最外層に重ねた強化材46を備えている。これらの軸長方向と、互いに交差する2つの傾斜方向と、周方向との合計4つの方向に配向させた各繊維層36a〜36dの強化繊維37a〜37dは、少なくとも互いに隣接する繊維層の強化繊維37a〜37dが互いに非直交すなわち互いに直交しないように重ねて配向され、直交方向の繊維配向による層間剥離や繊維間剥離を防止することができ、これにより、管状体10の強度および耐久性を更に優れたものとすることができる。
【0044】
これらの各繊維層36a〜36dの厚さの関係は、使用条件によって任意に設定することができ、合計の厚さが0.08mm〜0.32mmの範囲であることが好ましい。厚さが0.08mmよりも薄いと繊維の均一引揃えがしにくくなり、0.32mmよりも厚いと巻回端部の肉厚変化が大きく、作業性が低下するからである。また、傾斜方向繊維層36a,36cのそれぞれの厚さは、直交方向に重ねて使用するために、軸長方向繊維層36dよりも薄く、周方向繊維層36bと同等以下であることが好ましい。そして、最も外側に配置される軸長方向繊維層36dの厚さは、比曲げ剛性を向上するために、これらの繊維層36a〜36dの全体の厚さの約25〜50%の範囲とすることが好ましい。
【0045】
更に、これらの繊維層36a〜36dは、強化繊維37a〜37dよりも軟質の編糸48で一体的に編成された布状構造を有する強化材46として、上述の合成樹脂含浸量RCとなるように合成樹脂を含浸させた編成プリプレグ36Pを形成する。このため、各繊維層36a〜36d内における強化繊維37a〜37dの蛇行あるいは偏位が防止され、隣接する層との剥離あるいは破損などが生じ難くなる。特に、編糸48が後述するように、強化繊維37a〜37dよりも軟質の形成され、この編糸48が積層したそれぞれの強化繊維37a〜37dに対して、非直交方向に編成してなる場合には、強化繊維37a〜37dがこの編糸48で傷付きあるいは破損するのが防止され、高強度で耐久性に優れた管状体10を形成することができる。
【0046】
この編成プリプレグ36Pは、積層した繊維層間の剥離あるいは破損が防止されるため、外側補強層22内の強化繊維37a〜37dおよび編糸48のズレを防止し、管状体10に、曲げ、ねじり、潰しの複合的な負荷が急激に作用しても、その作用が最も大きい本体層20の外側で耐えることができ、本体層20を確実に保護し、この外側の補強層22を強化して高強度の管状体10を形成する。更に、補強層22の強化繊維37a〜37dにまで達する傷が発生しても、この補強層22の全体が一体化されているため、強化繊維37a〜37dの破損、剥離の拡大を防止することができ、耐久性に優れた管状体10を形成することができる。更に、管状体10の所要の外観を正確に形成すると共に、この補強層22の強度を安定させ、向上させることができる。
【0047】
特に、このような種々の方向の強化繊維37a〜37dからなる繊維層36a〜36dが編糸48で一体化されているため、各繊維層36a〜36d間や強化繊維37a〜37d間におけるマイクロ剥離、すなわち、実際には破損してない状態であっても、繊維間や層間の結合力が低下し、本来の剛性、シャープさが発揮できなくなる状態が発生するのを防止でき、したがって、ヘタリ、腰抜け現象の生じ難い、耐久性に優れた管状体10とすることができるものである。
【0048】
このように編成プリプレグ36Pの繊維層36a〜36dを一体的に編成する編糸48は、例えばポリエステル糸、ナイロン糸、ポリアクリル糸、レーヨン糸等の非弾性糸、あるいは、例えばポリウレタン糸等の弾性糸を用いることができる。編糸48をこのような合成繊維で形成する場合は、モノフィラメント糸あるいはマルチフィラメント糸等のフィラメント糸を用いることが好ましい。また、このような合成繊維の編糸だけでなく、綿糸等の天然繊維を単独であるいは合成繊維と組合せて用いることもできる。いずれも場合も、強化繊維37a〜37dよりも軟質すなわちこれらの強化繊維を傷つけたり、又は有効性を損なわないような特性を有する材料で形成することが好ましい。
【0049】
特に、編糸48をポリエステル糸あるいはナイロン糸等で形成した場合は、吸湿性が高いため、含浸性がよく、含浸させる樹脂Mとの密着性を向上させることができる。また、強化繊維37a〜37dと交差した状態で編糸48が突出することにより、周囲の樹脂との接触面積が増大する。また、隣接する本体層20の強化繊維が、最も近接した側の強化繊維37aの引き揃え方向と交差する方向に引き揃えられていることにより、作用する力の方向が異なるとしても、編糸48が強化繊維37aの結合力を増大し、層間剥離が生じ難くなり、破損が防止され、安定した模様層が形成される。特に、編糸48の吸湿性が高い場合は、隣接する本体層20あるいは被膜層24との一体性が増大する。
【0050】
本実施形態では、強化繊維37a〜37dおよび本体層20の強化繊維35および補強層の強化繊維45よりも編糸48を大径に形成してある。これにより、編糸48が強化繊維37a〜37d,35,45を局部的に押圧するのを防止し、これらの強化繊維35,37a〜37d,45の強度を低下しにくくしている。例えば強化繊維35,37a〜37d,45の外径が5〜10μmの場合には、編糸48の外径はこれよりも大きい8〜15mmとするのが好ましい。
【0051】
特に図5に示すように、本実施形態では、編糸48は、編成プリプレグ36Pのそれぞれの強化繊維37a〜37dと交差する方向に、編成条部としてピッチHが3〜7mmで、幅Wが3〜8mmのジグザグ状のウェール50を形成する。これらのウェール50は互いに独立しており、0〜10mmの間隔Dで、ほぼ平行に延びる。この編糸48は、強化繊維37a〜37dと直交しない非直交方向に延設し、強化繊維37a〜37d又は編成プリプレグ36Pに局部的に負荷が集中し難いように配置することが好ましい。これにより、強化繊維37a〜37dがこの編糸48で傷付きあるいは破損するのを防止し、高強度で耐久性に優れた管状体とすることができる。
【0052】
また、強化繊維37a〜37dが編糸48で保持されるため、芯金8に巻回する際、あるいは、管状体10に曲げ、捩じり等が作用した際に、これらの強化繊維37a〜37dが蛇行し難くくなる。これらの編糸48が形成するウェール50間の間隔が20mmよりも大きくなると、これらのウェール50間で強化繊維37a〜37dがずれ易くなる。
【0053】
更に、図5の矢印Rで示す軸長方向に沿って編糸48が形成する山谷(凹凸)模様を配置することにより、周方向に沿うジグザグ模様が所定の間隔Dで形成され、その模様を強調することができる。
【0054】
図6は、このような編成プリプレグ36Pを形成する手順の一例を概略的に示す。
図6の(A)に示すように、強化繊維37a〜37dを交差させて形成した布状の強化材46の一側から、先に形成したループ48aを通して針52を刺し入れ、先端に形成したフック状の針先に給糸側の編糸48を引掛ける。この後、図6の(B)に示すように、針52を強化材46の一側に引き戻し、先に形成したループ48aを引き絞りつつ、図6の(C)に示すように新しいループ48bを形成する。そして、強化材46あるいは針52を移動して、上記の図6の(A)に示す工程を繰返す。針52に設けられたべら54が開閉することにより、好適な位置でフック状の針先に編糸48を給糸しあるいは抜出すことができる。これにより、強化材46の一側に形成される単環状の第1ループと、これに対向する他側では直線状に露出する第2ループとで編目が形成され、強化繊維37a〜37dがこの編目内に保持される。編成は編糸48のみで行うため、強化繊維37a〜37dの蛇行が生ぜず、編成プリプレグ36Pの強度が安定する。
【0055】
なお、編成プリプレグ36Pの強化材46は、このようにべら針52を用いて編成する他、ひげ針あるいは通常の編針等を用いて編成することも、可能であり、更に、環縫ミシン等の好適な縫製機械を用いて、例えば環縫系の縫目で縫製することも可能である。また、編目あるいは縫目の形状についても、強化繊維37a〜37dの配向方向に合わせて適宜の構造に形成することができる。
【0056】
いずれの場合も、強化繊維37a〜37dからなる強化材46を編成した後、この強化材46を一対の薄い合成樹脂製シート間に挟んで加圧することにより、このような強化繊維37a〜37dからなる強化材46に樹脂を含浸させたプリプレグとして編成プリプレグ36Pが形成される。強化材46に含浸させる合成樹脂は、特に編糸48が形成する模様を目立たせるために、無色透明あるいは有色透明であることが好ましい。
【0057】
特に、補強層22が編糸48を露出しかつ研磨された外面を有し、この外面を透明状の被膜24で覆った場合には、その特徴的模様層が装飾効果を有すると共に、高強度で耐久性に優れた上に、外観装飾性に優れた管状体10を形成することができる。
【0058】
また、編成プリプレグ36Pは、上述の実施形態のように、編成プリプレグ36Pを形成する布状の強化材46の全面にわたってほぼ均等に強化繊維37a〜37dを分散配置したものに限らず、適宜の模様状に形成してもよい。ウェール50は、強化繊維37a〜37dが存在しない領域で、含浸する樹脂層の強度を増大し、編成プリプレグ36Pの強度を増大する。
【0059】
例えば編成プリプレグ36Pの内層の一部に織布で形成する場合には、この織布と組み合わせた模様により、外観が向上する。
【0060】
また、ウェール50は、一方向に限らず例えばキルト状に互いに交差させ、あるいは曲線状に形成してもよい。このようなウェール50を形成する編糸48の色彩を、強化繊維37a〜37dとは異なる色彩とすることにより、このウェール50を目立たせ、優れた外観を形成する。色彩は1つに限らず、ウェール42毎あるいは同じウェール42内で複数の色彩を組合せることが可能である。
【0061】
このような外側補強層22を形成する編成プリプレグ36Pは、例えば図3に示す第2〜第4プリプレグ26P〜30Pに代えて、あるいはこれらのプリプレグと共に、本体層20の少なくとも一部を形成することもできる。この場合には、周方向プリプレグ32P上に、編成プリプレグ36Pを巻回する。この編成プリプレグ36Pは、樹脂含浸率が40±15wt%で、繊維の目付け量が98〜200g/m、厚さが0.100〜0.250mmで構成されすることが好ましい。編成プリプレグ36Pの厚さは、0.260mm以下であれば良く、編成される各シートの厚さは0.120mmか、それ以下にするのが良い。この理由は、薄肉厚により巻回が容易となり、又、シート間のせん断応力を緩和するためである。また、樹脂含浸率は、隣接するプリプレグよりも大きいことが好ましく、このように樹脂含浸率を多くする理由は編糸間の隙間に十分な樹脂を含浸させ、層間の密着性を高めるためである。この編成プリプレグ36Pは、周方向の外径、剛性を安定させるため、芯金8上に1プライされる大きさに裁断するのが好ましい。
【0062】
このように編成プリプレグ36Pを用いて本体層20を形成する場合は、適宜の位置に配置することができる。いずれの場合も、管状体10が変形したときの強化繊維37a〜37dのズレが防止され、これにより、層間の剥離、破損等が生じ難く、比強度、比剛性が向上し、設計自由度の高い管状体10が得られる。
【0063】
図7は、変形例による編成プリプレグ136Pを示す。この編糸48は、軸長方向Rに沿う間隔D(図5参照)が0であり、凹凸方向が軸長方向であることから、周方向に沿って台形状の模様が形成される。
【0064】
なお、上述の実施形態では、4つの方向の強化繊維37a〜37dを積層して編糸48で編成することにより、予め強化材46を形成し、この強化材46を薄い合成樹脂製シート間に挟んで加圧することにより、樹脂を含浸した編成プリプレグ36Pを形成したが、これに限らず、例えばそれぞれ強化繊維を一方向に引き揃えたプリプレグを積層し、これらのプリプレグを編糸48で編成することも可能である。そして、一対の合成樹脂シート間に挟んで編糸48を樹脂で覆い、更に、針52が形成した孔に樹脂を充填させてもよい。このような一方向プリプレグを積層する場合は、繊維層36a〜36dの全てをプリプレグで形成することに代え、その一部のみをプリプレグで形成し、これに合成樹脂を含浸してない繊維層を重ねてもよい。
【0065】
これらの繊維層36a〜36dの強化繊維37a〜37dを非直交方向に重ねる際、隣接する繊維層中の強化繊維の配向方向は互いに10度以上80度以下の傾斜とし、より好ましくは30〜60°の範囲で非直交とし、全てが45°づつ交差することにより、合計4つの方向とすることが最も好ましい。そして、最外層36dに軸長方向繊維層を配置した場合は、その強度と外観との双方に優れた補強層22を形成し、一方、最外層36dに周方向繊維層を配置した場合には、特に、編糸48による軸長方向の凹凸模様を周方向に沿ってきれいに現出することができる。
【0066】
更に、本体層20と補強層22との間に、この両方の層に使用した強化繊維の50%以下の低弾性率の強化繊維に合成樹脂を含浸した繊維強化樹脂層(図示しない)を形成する場合には、補強層22で受けた衝撃、負荷が緩和された状態で本体層に伝播するので、より高強度で、耐久性に優れた管状体10とすることができる。この場合の低弾性率の層は、強化繊維を1200kg/mm以下で、含浸する合成樹脂より高弾性率の強化繊維を使用することが好ましい。また、剛性樹脂含浸比率(RC)は、本体層20よりも樹脂量を多くし、補強層22と同様の範囲でしようすることが好ましい。
【0067】
また、ゴルフクラブのシャフト以外のスポーツ用品にも好適に用いることができ、この場合は、本体層20については、例えば積層構造等の通常用いられている構造でもよく、その外側に上述の補強層22を形成することができる。
【0068】
例えば、釣り竿に使用する場合には、補強層22は上述と同様に形成することができ、一方、本体層20については、曲げ剛性を大きくし、長い竿でも軽く、持ち重りしない構造とする必要があり、傾斜方向繊維層である上述の第2層28(図2)を省略するか、あるいは極めて薄く形成し、その分、軸長方向繊維の割合を多くすることが好ましい。
【0069】
また、テニスラケットに用いる場合には、補強層22は上述の実施形態と同様に形成可能であるが、本体層20は圧縮方向の負荷に耐えることができるように、周方向や傾斜方向の繊維の割合を多くすることが好ましい。また、スキーのストックに使用する場合には、ゴルフクラブのシャフトに関する上述の実施形態を適用することができる。
【図面の簡単な説明】
【0070】
【図1】本発明の好ましい実施形態による管状体の断面図。
【図2】図1の円IIで囲む部分の拡大図。
【図3】図1の管状体を形成するプリプレグの配置図。
【図4】図2の補強層を形成する編成プリプレグの拡大断面。
【図5】図2の補強層を形成する編成プリプレグの平面図。
【図6】図5の編成シートの強化繊維を編成する工程を示す説明図。
【図7】他の実施形態による補強層を形成する編成プリプレグの図5と同様な平面図。
【符号の説明】
【0071】
10…管状体、20…本体層、22…補強層、36P…編成プリプレグ、36a,36c…傾斜方向繊維層、36b…周方向繊維層、36d…軸長方向繊維層、48…編糸。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
強化繊維に合成樹脂を含浸した繊維強化プリプレグを芯金に巻回して形成した本体層と、この本体層の外側に形成した補強層とを備える管状体であって、この補強層は、管状体の軸長方向に強化繊維を引き揃えた軸長方向繊維層と、前記軸長方向に対して傾斜方向に強化繊維を引き揃え、これらの強化繊維を互いに交差方向に配置した傾斜方向繊維層と、管状体の周方向に強化繊維を引き揃えた周方向繊維層とを重合し、これらの繊維層を強化繊維よりも軟質の編糸で編成した編成プリプレグを巻回して形成されることを特徴とする管状体。
【請求項2】
前記編成プリプレグは、互いに隣接する繊維層を非直交状態に積層してなることを特徴とする請求項1に記載の管状体。
【請求項3】
前記編成プリプレグは、強化繊維よりも軟質の編糸が、それぞれの強化繊維に対して、非直交方向に編成してなることを特徴とする請求項1又は2に記載の管状体。
【請求項4】
前記編成プリプレグは、強化繊維が互いに交差する状態に積層された傾斜方向繊維層の間に、周方向繊維層を配設し、最外層に軸長方向繊維層を配設して形成されることを特徴とする請求項1から3のいずれか1つに記載の管状体。
【請求項5】
前記補強層は、前記編糸が露出しかつ研磨された外面を有し、この外面が透明状の被膜で覆われることを特徴とする請求項1から4のいずれか1つに記載の管状体。
【請求項6】
前記編成プリプレグは、強化繊維が互いに交差する状態に積層された傾斜方向繊維層の間に、軸長方向繊維層を配設し、最外層に周方向繊維層を配設して形成し、編糸により編成された模様の凹凸方向を軸長方向としたことを特徴とする請求項1から5のいずれか1つに記載の管状体。
【請求項7】
前記本体層と前記補強層との間に、この両方の層に使用した強化繊維の50%以下の低弾性率の強化繊維に合成樹脂を含浸した繊維強化樹脂層を形成したことを特徴とする請求項1から6のいずれか1つに記載の管状体。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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