説明

管状部材の加工方法及び管状部材加工装置

【課題】従来のダイレス引抜きは、引抜き前の管状部材と引抜き後の管状部材は、断面形状が略同一形状であり、断面形状を変形することはできなかった。本発明は、ダイスを用いずに管状部材の断面形状を変形しつつ該管状部材を細管化する管状部材の加工方法を提供する。
【解決手段】管状部材10を、周方向に局所的に加熱しつつダイスなしで引抜くことにより、管状部材10を、断面形状を変形しつつ細管化する。管状部材10のうち周方向に局所的に加熱されている部分の周囲に位置する雰囲気を冷却するのが好ましい。周方向に互いに離間したn箇所を加熱される場合、引抜き後の管状部材の断面形状は、中空のn角形になる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ダイスを用いずに管状部材の断面形状を変形しつつ該管状部材を細管化する管状部材の加工方法及び管状部材加工装置に関する。
【背景技術】
【0002】
管状部材を細管化する従来の方法として、ダイスを用いないダイレス引抜きがある。ダイレス引抜きは、管状部材の一部を周方向に均等に誘導加熱しつつ引抜くことにより、管状部材を高温部で延伸させて細管化する方法である(例えば特許文献1参照)。
【0003】
【特許文献1】特開2004−332107号公報(第6段落)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
従来のダイレス引抜きによれば、引抜き前の管状部材と引抜き後の管状部材は、断面形状が略同一の形状であり、断面形状を変形すること、例えば円筒状の管を断面が四角形の中空管に変形することはできなかった。
【0005】
本発明は上記のような事情を考慮してなされたものであり、その目的は、ダイスを用いずに管状部材の断面形状を変形しつつ該管状部材を細管化することができる、管状部材の加工方法及び管状部材加工装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記課題を解決するため、本発明に係る管状部材の加工方法は、管状部材を、周方向に局所的に加熱し、周方向に変形抵抗差を与えつつダイスなしで引抜くことにより、前記管状部材を、断面形状を変形しつつ細管化する方法である。
【0007】
加工前の前記管状部材は円筒形であり、前記管状部材は、引抜き時に、周方向に互いに離間したn箇所を加熱される場合、引抜き後の前記管状部材の断面形状は、中空のn角形である。ここでのn角形には、角部に円形部分が残っている場合も含む。nは自然数である。
【0008】
前記管状部材のうち周方向に局所的に加熱されている部分の周囲に位置する雰囲気を冷却しつつ、前記管状部材を引抜くのが好ましい。前記管状部材のうち、局所的に加熱されている領域の相互間に位置する領域を局所的に冷却しつつ、前記管状部材を引抜いてもよい。
【0009】
本発明に係る管状部材加工装置は、管状部材を、周方向に局所的に加熱する第1の加熱手段と、
周方向に局所的に加熱されている前記管状部材を長手方向に引抜く引抜き手段と、
を具備する。
前記第1の加熱手段は、例えば加熱用のレーザーを前記管状部材の周方向に局所的に照射する。
【0010】
前記管状部材のうち、前記第1の加熱手段で加熱される部分とは長手方向に別の部分を加熱する第2の加熱手段を具備してもよい。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、前記管状部材は引抜き時に周方向に局所的に加熱されている為、前記管状部材を、ダイスなしで断面形状を変形しつつ細管化することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
以下、図面を参照して本発明の実施形態について説明する。図1(A)は、本発明の第1の実施形態に係る管状部材の加工方法を説明するための断面図である。本図は管状部材の長手方向の断面を示している。また図1(B)は、図1(A)のA−A´断面図であり、図1(C)は図1(A)のB−B´断面図である。
【0013】
これらの図に示す管状部材の加工方法は、管状部材10の長手方向の一部に、周方向に局所的にレーザーを照射することにより、管状部材10を周方向に局所的に加熱し、この状態で管状部材10を引抜いくことにより、管状部材10より細管の管状部材11をダイスなしで製造する方法である。管状部材10の局所的な加熱温度は、管状部材10の材質によって変わるが、管状部材10の周方向に必要な大きさの変形抵抗差を与えることができる温度以上であるのが好ましい。管状部材11の引抜き速度Vは、管状部材10の供給速度Vより速い。
【0014】
引抜き時に管状部材10は周方向に局所的に加熱されている為、管状部材10には周方向に変形抵抗差が与えられ、管状部材11の断面形状は管状部材10の断面形状とは異なる形状になる。本図に示す例では、管状部材10には、周方向に90°間隔で離間した4箇所にレーザーが照射され、円柱状の管状部材10が、断面形状が中空の正方形である管状部材11に引抜かれる。なお、ここでの正方形には、角部に円形部分が残っている場合も含まれている。管状部材11の用途としては、無痛注射針、MEMS部品、μ-TAS部品、マイクロ熱交換器、放電加工用の電極管、マイクロノズル、ノズル、ヘッドレスト、レーザー加速器等がある。
【0015】
管状部材10がレーザーによって加熱されている部分の周囲に位置する雰囲気は、冷却手段(例えばクーラー)を用いて冷却されている。これにより、管状部材10のうち、加熱されている部分の相互間に位置する領域の温度が上昇することを抑制できる。
【0016】
尚、管状部材10の加工を開始してから、管状部材11の引抜き速度及び管状部材10の供給速度それぞれを定常状態であるV,Vにするまでの時間は、ある程度長いほうが良い。これにより、引抜き開始直後に管状部材11の断面形状が不安定になることを抑制できる。また、管状部材10の結晶粒が小さいほど、管状部材11の表面粗さは小さくなる。
【0017】
図2は、図1を用いて説明した管状部材の加工方法に用いられる管状部材加工装置のレーザー照射系の一例を示す図である。本図に示す管状加工装置は、管状部材10,11を長手方向に移動(引抜き)させる移動手段(図示せず)と、図2に示すレーザー照射系を有している。図2に示すレーザー照射系は、一つのレーザー光源20から照射されたレーザーを、3つのハーフミラー21を用いて4つのレーザーに分割し、分割後の4つのレーザーを、複数の全反射ミラー22を用いて図1に示した位置に照射するものである。
【0018】
以上、本実施形態によれば、管状部材10は引抜き時に周方向に局所的に加熱されている為、引抜きによって形成される管状部材11の断面形状を、管状部材10の断面形状とは異なる形状にすることができる。
【0019】
尚、レーザー照射系は図2に示した照射系に限定されるものではなく、例えば4つのレーザー光源から照射された4つのレーザーを、直接図1に示した位置に照射するものであってもよい。この場合、図示しない制御部を用いて各レーザー光源の出力、スポット系、及び照射位置を制御するのが好ましい。例えば、レーザー光源を移動させること、又はレーザー光源と管状部材10の間に配置された光学系を構成する部材を移動させたり角度を変えたりすることにより、レーザーの照射位置を適切に制御しつつ移動させることが可能になる。
【0020】
また、管状部材11の形状は上記した形状に限定されず、管状部材10が周方向に互いに離間したn箇所を加熱されている場合、管状部材11の断面形状は、中空のn角形になる。ただしnは自然数である。例えば図3(A)に示すように、管状部材10が周方向に互いに離間した3箇所を加熱されている場合、図3(B)に示すように、管状部材11の断面形状は、中空の3角形になる。なお、ここでのn角形には、角部に円形部分が残っている場合も含む。
【0021】
図4は、本発明の第2の実施形態に係る管状部材の加工方法を説明するための断面図である。以下、第1の実施形態と同様の構成については同一の符号を付し、説明を省略する。
【0022】
本図に示す加工方法は、管状部材10より断面形状が大きい管状部材12の長手方向の一部を、全周にわたって加熱しつつ、管状部材12をダイレスで引抜くことにより管状部材10を製造し、その直後に第1の実施形態で示した加工方法を行って管状部材11を製造する方法である。管状部材12の供給速度Vは、管状部材10の供給速度すなわち引抜き速度Vより遅い。
【0023】
本実施形態で用いられる管状部材加工装置は、第1の実施形態で用いた管状部材加工装置の手前に、管状部材12の一部を全周にわたって加熱する手段を追加した構成である。管状部材12の一部を全周にわたって加熱する手段は、例えば誘導加熱コイル23及び冷却手段24(例えば水冷手段や空冷手段)を用いた誘導加熱手段であるが、図1と同様のレーザー照射系においてレーザーのスポット径を大きくしたものであっても良い。
【0024】
本実施形態によれば、管状部材12を2段で引抜いて管状部材11を製造している為、管状部材12に対する管状部材11の減面率を高くすることができる。また管状部材11の引抜き速度Vを高速化することができる。尚、管状部材の引抜き段数は2段に限定されるものではなく、3段以上であっても良い。この場合、少なくともいずれか一つの引抜き工程は、第1の実施形態で説明した引抜き工程になる。
【0025】
図5は、本発明の第3の実施形態に係る管状部材の加工方法を説明するための断面図である。以下、第1の実施形態と同様の構成については同一の符号を付し、説明を省略する。
【0026】
本実施形態に示す加工方法は、管状部材10のうちレーザーによって加熱されている部分の相互間に位置する領域を、冷却手段25を用いて局所的に冷却する点を除いて、第1の実施形態と同様である。冷却手段25は第2の実施形態における冷却手段24と略同様の構成であるが、管状部材10の周方向ではなく長手方向に沿って配置されている点が異なる。なお本実施形態では、管状部材10がレーザーによって加熱されている部分の周囲に位置する雰囲気を冷却しなくても良い。
【0027】
本実施形態によっても第1の実施形態と同様の効果を得ることができる。また、管状部材10のうち、加熱されている部分の相互間に位置する領域の温度が上昇することを抑制し、引抜きによって形成される管状部材11の断面形状と、管状部材10の断面形状の差をさらに大きくすることができる。
【0028】
尚、本発明は上述した実施形態に限定されるものではなく、本発明の主旨を逸脱しない範囲内で種々変更して実施することが可能である。
【図面の簡単な説明】
【0029】
【図1】(A)は第1の実施形態に係る管状部材の加工方法を説明するための断面図、(B)は(A)のA−A´断面図、(C)は(A)のB−B´断面図。
【図2】図1を用いて説明した管状部材の加工方法に用いられる管状部材加工装置のレーザー照射系の一例を示す図。
【図3】(A)及び(B)は第1の実施形態の変形例を説明するための図。
【図4】第2の実施形態に係る管状部材の加工方法を説明するための断面図。
【図5】第3の実施形態に係る管状部材の加工方法を説明するための断面図。
【符号の説明】
【0030】
10,11,12…管状部材、20…レーザー光源、21…ハーフミラー、22…全反射ミラー、23…誘導加熱コイル、24,25…冷却手段

【特許請求の範囲】
【請求項1】
管状部材を、周方向に局所的に加熱し、周方向に変形抵抗差を与えつつダイスなしで引抜くことにより、前記管状部材を、断面形状を変形しつつ細管化する管状部材の加工方法。
【請求項2】
加工前の前記管状部材は円筒形であり、
前記管状部材は、引抜き時に、周方向に互いに離間したn箇所を加熱され、
引抜き後の前記管状部材の断面形状は、中空のn角形である請求項1に記載の管状部材の加工方法。ただしnは自然数。
【請求項3】
前記管状部材のうち周方向に局所的に加熱されている部分の周囲に位置する雰囲気を冷却しつつ、前記管状部材を引抜く請求項1又は2に記載の管状部材の加工方法。
【請求項4】
前記管状部材のうち、局所的に加熱されている領域の相互間に位置する領域を局所的に冷却しつつ、前記管状部材を引抜く請求項1〜3のいずれか一項に記載の管状部材の加工方法。
【請求項5】
管状部材を、周方向に局所的に加熱する第1の加熱手段と、
周方向に局所的に加熱されている前記管状部材を長手方向に引抜く引抜き手段と、
を具備する管状部材加工装置。
【請求項6】
前記第1の加熱手段は、加熱用のレーザーを前記管状部材の周方向に局所的に照射する請求項5に記載の管状部材加工装置。
【請求項7】
前記管状部材のうち、前記第1の加熱手段で加熱される部分とは長手方向に別の部分を加熱する第2の加熱手段を具備する請求項5又は6に記載の管状部材加工装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2008−188602(P2008−188602A)
【公開日】平成20年8月21日(2008.8.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−22824(P2007−22824)
【出願日】平成19年2月1日(2007.2.1)
【出願人】(800000080)タマティーエルオー株式会社 (255)
【Fターム(参考)】