管継手
【課題】小さな力で拡径部材が締付環体から離脱し、かつ、十分なパイプ引抜力を有する管継手を提供する。
【解決手段】拡径部材6が、2部品から成り、拡径本体61と仮補強片62とから構成され、締付環体5に挟持されている。
【解決手段】拡径部材6が、2部品から成り、拡径本体61と仮補強片62とから構成され、締付環体5に挟持されている。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、管継手に関する。
【背景技術】
【0002】
本発明者は、過去に多数の管継手に関して特許出願を行ってきた。
例えば、図14〜図17に示すように、被接続用のパイプ31の端部に挿入される挿入筒部32を有する継手本体33と、上記挿入筒部32の凹周溝34に装着されるシール材35と、上記挿入筒部32に外嵌された上記パイプ31の端部を弾発的な締め付け力F36で締め付けるためのスリット付きの締付環体36と、該締付環体36の弾発力に抗して該締付環体36を拡径するように上記スリットの端部に離脱可能に挟持されて、挿入される上記パイプ31の先端部に当接して離脱する拡径片37と、上記挿入筒部32に外嵌された上記パイプ31の外周面に抜け止め状態に内周面が掛止する抜け止めリング38と、を具備し、該抜け止めリング38の内周側には、周方向に等間隔に切り込み形成された複数個の歯部39が設けられた管継手を、提案している(特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特許第3411546号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、上述の図14〜図17に示した従来の管継手には、以下のような問題点があった。 (i) 締付環体36によってパイプ31の端部を弾発的な締め付け力F36(図17参照)にて締め付けてパイプ31の矢印G方向への引き抜けを防止せんとしているが引き抜け抑止力が不十分であった。 (ii) 締付環体36の締め付け力F36のみでは引き抜け抑止力が不十分であったが故に、さらに、抜け止めリング38を必要とした。(iii) 図14からも判るように、この抜け止めリング38がパイプ31から受ける反力は、袋ナット40及び透明包囲筒体41を経て、さらに螺着部42を介して継手本体33へ伝達されることとなるので、袋ナット40,包囲筒体41,螺着部42等は強度上十分な肉厚を要し、かつ、相互連結強度も必要であった。 (iv) シール材35とシール溝(凹周溝)34を必要とし、このシール材35が無ければ流体の外部漏洩が避けられなかった。 (v) このようにシール材35とシール溝(凹周溝)34を必要としたために、挿入筒部32の肉厚寸法が増加して、挿入筒部32の貫通孔(流路孔)43が小径となり流体通過抵抗が増大する。
【0005】
また、締付環体36の弾発的締め付け力F36を十分に増加すれば、上記問題点 (i)(ii)(iv) 等を解決できるはずであるが、現実には、肉厚を増加した締付環体36は製造が極めて困難であって、さらに、仮にそのような肉厚の強力な弾発的締め付け力F36を発生させる締付環体36に於ては、そのスリットに挟持した拡径片37を、パイプ31の先端にて押圧して離脱させることが不可能であることも判った。即ち、拡径片37は数100Kg もの大きな挟圧力にて挟持されていて、パイプ31自体の差込み力では、拡径片37が離脱しないのである。
本発明は、上述した多くの問題点を解決することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
そこで、本発明に係る管継手は、被接続用のパイプの端部に挿入される挿入筒部を有する継手本体と、上記挿入筒部に外嵌された上記パイプの端部を弾発的な締め付け力で締め付けるための締付環体と、該締付環体の弾発力に抗して該締付環体を拡径するように挟持された拡径部材と、を具備してなる管継手に於て、上記拡径部材は、上記締付環体からの上記弾発力によって破損する強度に設定された拡径本体と、該拡径本体が上記弾発力によって破損しないように仮組みされると共に挿入されてくる上記パイプの先端部を検出して上記拡径本体から分離し上記拡径本体を破損させ上記締付環体から離脱させる仮補強片とを、具備している。なお、本発明に於て、「仮組みされる」「仮補強片」との用語に於ける「仮」とは、本格的(最終的)に接続状態に切替わるまでの「仮の姿」であるという意味である。
【0007】
また、上記締付環体が内層クランプリングと外層クランプリングの2重構造とした。
また、上記内層クランプリングのスリットと、上記外層クランプリングのスリットとを、周方向に 180°位置を相違させて相互に嵌合させた。
また、上記拡径本体は、硬度がHRC45以上の鋼鉄製であり、かつ、破損促進用の応力集中発生ノッチを形成して成るものである。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、前述の従来の問題点(i)〜(v)を解決できる。そして、パイプの引抜けを防止するために強力な締め付け力を発生する締付環体5を使用した場合に、拡径部材を軽く(小さな力で)離脱可能である。しかも、構造が簡素となり、挿入筒部に於て、シール溝とシール材を省略することも可能となる場合も多くなり、挿入筒部の貫通孔(流路孔)の径を増大でき、流体通過抵抗も減少できる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【図1】本発明の実施の一形態を示す要部断面図である。
【図2】パイプ接続途中と完了状態を示した要部断面図である。
【図3】要部正面図である。
【図4】図3のK−K矢視拡大図である。
【図5】概略構成説明図である。
【図6】要部拡大説明図である。
【図7】拡径本体の一例を示す図であって、(A)は正面図、(B)は側面図である。
【図8】仮補強片の一例を示す図であって、(A)は正面図、(B)は側面図である。
【図9】拡径部材の構造と作用を示す説明図である。
【図10】拡径部材に於て仮補強片が分離した瞬間を示す説明図である。
【図11】拡径本体が破壊する瞬間の説明図である。
【図12】他の実施の形態を示し、仮補強片が分離する状態の説明用断面図である。
【図13】他の実施の形態における接続完了状態を示す断面図である。
【図14】従来例を示す断面図である。
【図15】従来例に用いられている抜け止めリングの正面図である。
【図16】従来の抜け止めリングの断面側面図である。
【図17】従来例の要部拡大説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、図示の実施の形態に基づき本発明を詳説する。
図1と図2に於て、1は被接続用のパイプであって、その端部1Aが矢印Aのように本発明に係る管継手Jに差込まれる。2は継手本体であって、パイプ1の端部1Aの内周面に挿入される挿入筒部3を一体に有している。
【0011】
パイプ1は、内周面が合成樹脂であれば各種の材質・構造のものが使用できるが、好ましくは、PEX(架橋ポリエチレン)、PE(ポリエチレン)、PB(ポリブデン)等の合成樹脂管や、Al等の金属層を中間層として有する複合管が使用される。また、このパイプ1と管継手Jには給水、給湯等の液体、あるいは、エア,天然ガス,LPG等の気体が流れる。
そして、挿入筒部3に外嵌されたパイプ端部1Aを(図2と図3と図4に示すように)弾発的な締め付け力で締め付けるための締付環体5と、この締付環体5の弾発力に抗して締付環体5を拡径するように離脱可能に挟持された拡径部材6を、備えている。この拡径部材6は、後述するように、複数(2個)の部品を仮組みしてユニット化した小部材であって、複数(2個)の部品は巧妙な機能と作動を各々行って、図1から図2(A)(B)のように挿入されてくるパイプ1の先端部1Bを検知して締付環体5の挟持から離脱する。
【0012】
そして、図1〜図4に示すように、締付環体5は、C型の内層クランプリング51とC型の外層クランプリング52の2重構造であり、しかも、図5(B)と図3でも明らかなように、内層クランプリング51のスリット51Aと外層クランプリング52のスリット52Aとを、周方向に 180°位置を相違させて相互に嵌合(嵌着)させて成る。このように、締付環体5は内層外層2重構造体であり、パイプ締付環状ユニットUと呼ぶこともできる。
【0013】
上記拡径部材6は、このような2重構造の締付環体5(締付環状ユニットU)の内層クランプリング51のスリット51Aに挟持されている。図5に於て、内層クランプリング51と外層クランプリング52とを相互に密嵌させた2重構造体のパイプ締付環状ユニットU(締付環体5)は、強力弾発力Fuをもって、図2(B)に示す如く、パイプ端部1Aをラジアル内方向に弾発的に締め付けることができる。ここで、内層クランプリング51、外層クランプリング52の各々のラジアル内方向弾発力を、F1 ,F2 とすれば、上記ユニットU(締付環体5)の前記強力弾発力Fuは、Fu=F1 +F2 なる数式をもって示すことができる。
【0014】
このような2重弾発構造の締付環体5(パイプ締付環状ユニットU)の強力弾発力Fuによって、(拡径部材6が図2(B)のように離脱した状態下で)パイプ1の端部1Aを、挿入筒部3に対して高面圧で圧接させて、挿入筒部3にシール材(及びシール溝)を全く省略しても、十分な密封作用が得られる。
また、内層クランプリング51と外層クランプリング52とを相互に連結する、ピンやリベットやボルトやバンド等の連結部材を省略している。
なお、図5(A)に示すように、内層スリット51Aと外層スリット52Aとを同方向に一致させて、同一位置にて組立てるようにするも自由である。
【0015】
次に、図6は図2の要部拡大図であるが、この図6と図1,図2に於て、挿入筒部3の外周面には、(従来例の図14,図17に示したような)シール溝(凹周溝)34及びシール材35を省略して、多数本の低い三角突条8を独立円環状に突設している。図5(A)(B)に示した強力弾発力Fuによる、パイプ端部1Aへの締め付け力によって、パイプ端部1Aの内周面に三角突条8を食い込ませて、矢印E方向へのパイプ抜けを阻止すると共に流体の外部漏洩を防止する。即ち、2重構造とした締付環体5(パイプ締付環状ユニットU)の強力弾発力Fuによって、パイプ1の端部内周面に三角突条8を食い込ませて、抜け止め兼密封作用をなさしめている。
【0016】
本発明に於て、三角突条8が多数本とは、7本以上であると定義し、また、三角突条8が低いとは、高さ寸法H8 が、 0.1mm〜 0.3mmであると定義する。(図1,図2,図6では9本の場合を示している。)
さらに、挿入筒部3の外周面に突設された多数本の低い三角突条8の軸心方向中間位置には、低い丸山型のシール用丸突条9が配設されている。この丸山型のシール用丸突条9が低いとは、その高さ寸法H9 が 0.1mm〜 0.3mmであると定義する。このように、三角突条8とシール用丸突条9の高さ寸法H8 ,H9 は略等しく設定され、従来公知のタケノ子状三角突条よりも十分に低く設定した。
【0017】
また、図6に示すように、三角突条8,8相互の基本(間隔)ピッチP1 としては、2mm以下に設定し、さらに、このピッチP1 に対して、シール用丸突条9と隣り合う三角突条8Aとの間のピッチP2 ,P3 を、大きく設定する。後者のピッチP2 ,P3 とを同一としても良いが、僅かに差を設けても良い。
【0018】
仮に、極めて大きい引抜力が矢印E方向に瞬間的に作用した際には、多数の三角突条8を越えてパイプ1の内面が矢印E方向へ移動するが、上記基本ピッチP1 の移動で再び三角突条8が元の三角凹溝13に係止すると想定され、図6中に矢印E′,E′で示すように基本ピッチP1 だけ移動する。
このとき、一ピッチ分だけ矢印E′のように移動した凹溝13が存在しない平坦円周面が、丸突条9に対応して丸い凹状に弾性変形して密接状態となり、しかも、摩耗傷のない上記平坦円周面が丸い凹状に弾性変形するので、流体の外部漏洩が生じず、安定した密封性を発揮する。
なお、三角突条8は、図6に示すように、管継手内方側に軸心直交状の辺18を有する直角三角形とするのが望ましい。
また、三角突条8としては、(図示省略するが)頂部を丸型や平坦付きの丸型を有する断面形状として、係止機能の他に、シール(密封)機能を同時に具備するようにしても良い。
【0019】
次に、拡径部材6について説明する。図3は管継手の内部から外部方向を見た要部の図であり、図4は図3のK−K矢視拡大図であり、この図3と図4、及び、図7〜図11、さらに、図1と図2に示すように、拡径部材6は、拡径本体61と仮補強片62とを仮組みして構成され、しかも、拡径本体61は締付環体5から受ける弾発力Fxによって破損する硬度に予め設定しておく。つまり、仮補強片62を仮組みしない場合、図3に示す矢印Fxにて示す強大な弾発力によって、破損(破壊)―――図11参照―――を生ずる。
具体的には、図3と図4に示す実施の形態では、内層クランプリング51のスリット51Aに拡径本体61が挟持され、パイプ未挿入状態では、仮補強片62によって、このような破損(破壊)を防止するように補強している。このとき、前記弾発力Fxは、2重構造の締付環体5の内層クランプリング51と外層クランプリング52の両者から発生する弾発的な外力である。
【0020】
拡径本体61は、硬度がHRC45以上―――好ましくはHRC48〜55―――であるS65CやSK材や可鍛鋳鉄等の鋼鉄製である。しかも、少なくとも1ヶ所には、(仮補強片62が離脱した際には直ちに破損が発生するように)破損促進用の応力集中発生ノッチNが形成されている。
【0021】
図7に於て、この拡径本体61は均一な肉厚のブロック体であって、2点鎖線にて区分して説明すれば、一文字状中央杆部63と、この中央杆部63の一辺(下辺)から突設された2本の被挟持脚部64,64と、中央杆部63の他辺(上辺)から突設された2本の仮補強片取付用突片部65,65とを、有すると共に、2本の突片部65,65の間隔部66から連続して倒立三角形状の切欠部67を、中央杆部63の上辺を切欠状に形成して、この切欠部67の倒立三角形の一頂角をもって、(鋭利な形状に)ノッチNを形成する。
【0022】
一対の被挟持脚部64,64は、所定半径Rの略半円形の内周面を形成するように、弧状突片型であり、その外周弧状面68が、直接に内層クランプリング51のスリット51Aを形成している開口端面69に当接する。
仮補強片62は略矩形状の孔70を有する、同一肉厚寸法の板片から成り、全体が略矩形枠型であって、図3のように締付環体5に組立てた状態で外層クランプリング52の外周面と同一面状乃至僅かにラジアル内方位置にあるような円弧辺71に形成する。さらに、図8(A)でも明らかなように、貫通状の孔70の左右側辺72,72は、相互に平行な線部72Aと、間隔がラジアル内方向(図8の下方向)へ拡大する傾斜部72Bとから成る。このようにすることで、図1から図2(A)のように、さらには図2(B)のように、仮補強片62が、パイプ1の先端部1Bに押圧されて、しだいに傾斜してゆく際の抵抗力を低減して、軽い力で仮補強片62が拡径本体61の突片部65,65から、離脱する。
【0023】
図9に於て、拡径本体61の突片部65,65が、仮補強片62の孔70に差込まれ、矢印Fx,Fxにて示す締め付け力が締付環体5によって付与されたとき、この締め付け力Fxよりも十分に小さい抑止力F62にて、ノッチNからの亀裂発生を防止している(図1参照)。
【0024】
パイプ未挿入状態を示した図1と図3の状態では、仮補強片62の一部62Aが、内層クランプリング51の内周面よりもラジアル内方向へ突出しており、パイプ1が矢印A方向に挿入されてくると、パイプ1の先端部1Bがこの一部62Aに当接する。言い換えると、仮補強片62は、挿入されてくるパイプ1の先端部1Bを検出する。直ちに(瞬時に)図2(A)に示すように、仮補強片62は傾斜してゆき、拡径本体61から分離し、図10の状態となり、今まで、図9の矢印F62にて示すように作用していた抑止力が零となって、応力集中点であるところのノッチNから、瞬時に亀裂Yが発生して、矢印73,73の方向に一対の突片部65,65が隔離するように変形しつつ亀裂Yが図11に示す如く拡大して、拡径本体61が破損(破壊)し、パチッ(又はバチッ)という大きな音を発生する。これに伴って、図11の矢印74,74のように高速で破損(破壊)した各片が飛散しつつ締付環体5から離脱する(図2(B)参照)。カバー12の内部には、このように離脱した仮補強片62と拡径本体61を収納する空間部75を予め有している。
【0025】
ところで、図9に於て、極めて大きい弾発力Fxが脚部64に作用している状態下で、抑止力F62が十分に小さくて済む理由は、次の通りである。即ち、弾発力Fxに対応する大きな抵抗力は、拡径本体61(の中央杆体63)自身の内部応力によって大部分を分担しており、例えば、10%〜30%の外力を矢印F62の方向に仮補強片62によって付与すれば済むからである。
【0026】
このようにして、仮補強片62を、拡径本体61の突片部65,65から小さな力をもって分離できる。特に、2重構造として内層クランプリング51と外層クランプリング52から成る締付環体5は、従来は全く至難であったところの強大な弾発力Fxを発生可能となるが、このような強大な弾発力Fxにかかわらず、本発明では小さな力にて(上述のように)仮補強片62を分離(離脱)させ、直ちに、拡径本体61を破壊して、図2に示すように強力弾発力Fuをもってパイプ端部1Aを、締付環体5が締め付けて、図6のように挿入筒部3に対し、パイプ1の内周面を密着できる。
また、図2の状態からも判るように、梃子の原理を用いているため、パイプ1から矢印A方向に仮補強片62の一部62Aに付与すべき力は、一層小さくて済む。
【0027】
次に、図8に2点鎖線にて示すような感知用突片部76を形成することも、Al−プラスチック複合管等には、好ましい。即ち、このような突片部76を拡径部材6に形成しておけば、図12と図13に示すように、パイプ1の挿入―――先端部1Bの挿入―――を早く感知し(図2と図3と比較参照)、パイプ1の特に先端部1Bの近くを締付環体5によって締め付けて抜け止め可能となり、変形が難しい上記のAl−プラスチック複合管等の接続に好適なものである。
【0028】
さらに追加説明すれば、図1〜図3に於て、図1のパイプ未挿入状態では、パイプ1の外径よりも僅かに大きな内径寸法に内層クランプリング51の内径を拡大している。図1に示すように、2重構造であるパイプ締付環状ユニットUは、内層クランプリング51を、いわば正確な真円に近い形状に作製すると共に、外層クランプリング52は強力な弾発力F2 を発揮させるように幅寸法W52を内層クランプリング51の幅寸法W51よりも大に設定するのが望ましい。さらには、外層クランプリング52の肉厚寸法T52を内層クランプリング51の肉厚寸法T51よりも大きく設定するのが望ましい。
2重構造である締付環体5の内層クランプリング51は、(1重の厚肉のものと比較して)バネ鋼材等をC型に塑性加工が容易であり、かつ、正確な真円状とすることも容易である。他方、外層クランプリング52も、(1重の厚肉のものと比較して)バネ鋼材等にてC型に塑性加工が容易であると共に、真円度は、それ程、厳密でなくて済むので、作製が容易で、十分に幅寸法W52と肉厚寸法T52を大きくしても、作製可能となるという利点を有する。
【0029】
しかも、内層クランプリング51のみの構成について考察すれば、(図3と図4に於て、外層クランプリング52が存在しないとすれば、)軸心方向(幅寸法W51の方向)に僅かに円錐状(テーパ状)に、拡径部材6の存在によって変形する。つまり、拡径部材6は、軸心方向(幅寸法W51の方向)の中央ではなくて、図4の上端側に偏在するため、弾性的に拡径した内層クランプリング51は、図4の上側から下側へ僅かに縮径するテーパ状に変形し、パイプ1のスムースな挿入を阻害する虞がある。しかしながら、図1に示す如く、外層クランプリング52は、図1の左方向(管継手内方向)に、拡径部材6を越えて内方延伸状であり、その幅寸法W52の中央近傍に拡径部材6を配設できるので、締付環体5の内径がテーパ状(円錐状)となることを、防止できる。
【0030】
例えば、本発明に係る管継手Jの適用されるパイプ1の外径を、10mm〜30mmとした場合に、図3と図4に於て、拡径部材6を挟圧保持する挟圧力(弾発力)Fxは、 200kg〜 800kgと極めて大きい。特に、図6に示したように、シール材を省略して密封を確実に行うには、三角突条8及びシール用丸突条9が十分にパイプ内周面に食い込む必要があり、既述の締付環体5の弾発力Fu(=F1 +F2 )を、十分に大きくせねばならないため、上記挟圧力(弾発力)Fxを、 200kg〜 800kgと極めて大きく設定せねばならない。
【0031】
そこで、従来例の図14〜図17に示したような一枚の素材(バネ鋼帯板)からなる締付環体36では、従来は全く不可能と考えられていた上述の 200kg〜 800kgもの挟圧力を、2重構造とすることで初めて達成できた。
言い換えると、特に厚さ寸法の大きいバネ鋼帯板を、内径を10mm強〜30mm強の小径筒型に塑性変形させようとすれば、製作中に破壊してしまう問題、真円状に加工することが至難であるという問題、及び、径寸法の変化に伴って弾発力(締め付け力)が極端に大小変化してしまうという問題があり、従来から、不可能と考えられていたのである。
【0032】
また、図1と図2に於て、12はカバーであり、離脱した締付環体5が収納される空間部75を有し、透明樹脂とするのが好ましく、外から目視にて拡径部材6が離脱したか否かを確認できる。そして、図1,図2から明らかなように、従来例の図14〜図17に図示した抜け止めリング38を全く省略している。従って、図14〜図17では、パイプ31の外周面に食い込んだ抜け止めリング38がパイプ31から受ける軸心方向の大きな抜け力を、カバー(包囲筒体)41によって受け持つ必要があり、螺着部42等にて強固に継手本体33に連結せねばならなかった。これに対し、本発明では、強度はほとんど必要なくなり、継手本体2に対して、簡易な連結を行うのみで十分であり、カバー12自体も薄い樹脂で済む。
【0033】
なお、本発明は、図示の実施の形態に限らず設計変更自由であって、例えば、突片部65,65の長さを十分に延長することで、脚部64,64に作用する弾発力Fxの大きい場合に対応させても良い。また、拡径本体61の形状は変形可能であり、仮補強片62が分離すれば、弾発力Fxを受けて瞬時に破壊(破損)するような形状と構造とすれば良い。さらに、仮補強片62は、周囲が包囲された四角環状体の他に、C字型やU字型等であっても良い。
また、図1,図2に例示した雄ネジアダプター型に限らず、雌ネジアダプターやソケットやチーズ等の各種の形式の管継手に応用自由である。
【0034】
本発明は以上述べたように、締付環体5が、内層クランプリング51と外層クランプリング52の2重構造であるので、各々、バネ鋼等から破損を生じない範囲内で、十分に小径(例えば、内径10mm〜30mm)の円筒形に加工して後に、内層と外層を成すように嵌合して2重構造にユニット化できるので、従来、不可能と考えられていた強大な締め付け弾発力をもって、パイプ1を締め付けて、大きな引抜け力に耐え、かつ、挿入筒部3のシール材も省略可能となる。そして、従来の抜け止めリング38(図14〜図17参照)を省略可能となり、管継手の構成が簡略化される。また、カバー12も強度を必要としない薄肉のものとでき、継手本体2に対する連結強度も弱いもので済む。
【0035】
また、挿入筒部3からシール材とシール溝を省略したので、挿入筒部3の肉厚寸法を減少でき、これに伴って、挿入筒部3の貫通孔を十分に大きく形成でき、流体通過抵抗の増加を防止できる。
【0036】
本発明は、以上述べたように、被接続用のパイプ1の端部1Aに挿入される挿入筒部3を有する継手本体2と、上記挿入筒部3に外嵌された上記パイプ1の端部1Aを弾発的な締め付け力で締め付けるための締付環体5と、該締付環体5の弾発力に抗して該締付環体5を拡径するように挟持された拡径部材6と、を具備してなる管継手に於て、上記拡径部材6は、上記締付環体5からの上記弾発力によって破損する強度に設定された拡径本体61と、該拡径本体61が上記弾発力によって破損しないように仮組みされると共に挿入されてくる上記パイプ1の先端部1Bを検出して上記拡径本体61から分離し上記拡径本体61を破損させ上記締付環体5から離脱させる仮補強片62とを、具備しているので、仮補強片62をパイプ先端部1Bによる小さな押圧力にて分離させることができ、パイプ1の挿入作業が容易かつ迅速にできる。そして、このような締付環体5を拡径させる力は極めて大きくすることが可能なため、締付環体5を内層クランプリング51と外層クランプリング52の強力弾発力Fu発生の2重構造とすることを可能とした。
【符号の説明】
【0037】
1 パイプ
1A 端部
1B 先端部
3 挿入筒部
5 締付環体
6 拡径部材
51 内層クランプリング
52 外層クランプリング
51A,52A スリット
61 拡径本体
62 仮補強片
N ノッチ
【技術分野】
【0001】
本発明は、管継手に関する。
【背景技術】
【0002】
本発明者は、過去に多数の管継手に関して特許出願を行ってきた。
例えば、図14〜図17に示すように、被接続用のパイプ31の端部に挿入される挿入筒部32を有する継手本体33と、上記挿入筒部32の凹周溝34に装着されるシール材35と、上記挿入筒部32に外嵌された上記パイプ31の端部を弾発的な締め付け力F36で締め付けるためのスリット付きの締付環体36と、該締付環体36の弾発力に抗して該締付環体36を拡径するように上記スリットの端部に離脱可能に挟持されて、挿入される上記パイプ31の先端部に当接して離脱する拡径片37と、上記挿入筒部32に外嵌された上記パイプ31の外周面に抜け止め状態に内周面が掛止する抜け止めリング38と、を具備し、該抜け止めリング38の内周側には、周方向に等間隔に切り込み形成された複数個の歯部39が設けられた管継手を、提案している(特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特許第3411546号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、上述の図14〜図17に示した従来の管継手には、以下のような問題点があった。 (i) 締付環体36によってパイプ31の端部を弾発的な締め付け力F36(図17参照)にて締め付けてパイプ31の矢印G方向への引き抜けを防止せんとしているが引き抜け抑止力が不十分であった。 (ii) 締付環体36の締め付け力F36のみでは引き抜け抑止力が不十分であったが故に、さらに、抜け止めリング38を必要とした。(iii) 図14からも判るように、この抜け止めリング38がパイプ31から受ける反力は、袋ナット40及び透明包囲筒体41を経て、さらに螺着部42を介して継手本体33へ伝達されることとなるので、袋ナット40,包囲筒体41,螺着部42等は強度上十分な肉厚を要し、かつ、相互連結強度も必要であった。 (iv) シール材35とシール溝(凹周溝)34を必要とし、このシール材35が無ければ流体の外部漏洩が避けられなかった。 (v) このようにシール材35とシール溝(凹周溝)34を必要としたために、挿入筒部32の肉厚寸法が増加して、挿入筒部32の貫通孔(流路孔)43が小径となり流体通過抵抗が増大する。
【0005】
また、締付環体36の弾発的締め付け力F36を十分に増加すれば、上記問題点 (i)(ii)(iv) 等を解決できるはずであるが、現実には、肉厚を増加した締付環体36は製造が極めて困難であって、さらに、仮にそのような肉厚の強力な弾発的締め付け力F36を発生させる締付環体36に於ては、そのスリットに挟持した拡径片37を、パイプ31の先端にて押圧して離脱させることが不可能であることも判った。即ち、拡径片37は数100Kg もの大きな挟圧力にて挟持されていて、パイプ31自体の差込み力では、拡径片37が離脱しないのである。
本発明は、上述した多くの問題点を解決することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
そこで、本発明に係る管継手は、被接続用のパイプの端部に挿入される挿入筒部を有する継手本体と、上記挿入筒部に外嵌された上記パイプの端部を弾発的な締め付け力で締め付けるための締付環体と、該締付環体の弾発力に抗して該締付環体を拡径するように挟持された拡径部材と、を具備してなる管継手に於て、上記拡径部材は、上記締付環体からの上記弾発力によって破損する強度に設定された拡径本体と、該拡径本体が上記弾発力によって破損しないように仮組みされると共に挿入されてくる上記パイプの先端部を検出して上記拡径本体から分離し上記拡径本体を破損させ上記締付環体から離脱させる仮補強片とを、具備している。なお、本発明に於て、「仮組みされる」「仮補強片」との用語に於ける「仮」とは、本格的(最終的)に接続状態に切替わるまでの「仮の姿」であるという意味である。
【0007】
また、上記締付環体が内層クランプリングと外層クランプリングの2重構造とした。
また、上記内層クランプリングのスリットと、上記外層クランプリングのスリットとを、周方向に 180°位置を相違させて相互に嵌合させた。
また、上記拡径本体は、硬度がHRC45以上の鋼鉄製であり、かつ、破損促進用の応力集中発生ノッチを形成して成るものである。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、前述の従来の問題点(i)〜(v)を解決できる。そして、パイプの引抜けを防止するために強力な締め付け力を発生する締付環体5を使用した場合に、拡径部材を軽く(小さな力で)離脱可能である。しかも、構造が簡素となり、挿入筒部に於て、シール溝とシール材を省略することも可能となる場合も多くなり、挿入筒部の貫通孔(流路孔)の径を増大でき、流体通過抵抗も減少できる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【図1】本発明の実施の一形態を示す要部断面図である。
【図2】パイプ接続途中と完了状態を示した要部断面図である。
【図3】要部正面図である。
【図4】図3のK−K矢視拡大図である。
【図5】概略構成説明図である。
【図6】要部拡大説明図である。
【図7】拡径本体の一例を示す図であって、(A)は正面図、(B)は側面図である。
【図8】仮補強片の一例を示す図であって、(A)は正面図、(B)は側面図である。
【図9】拡径部材の構造と作用を示す説明図である。
【図10】拡径部材に於て仮補強片が分離した瞬間を示す説明図である。
【図11】拡径本体が破壊する瞬間の説明図である。
【図12】他の実施の形態を示し、仮補強片が分離する状態の説明用断面図である。
【図13】他の実施の形態における接続完了状態を示す断面図である。
【図14】従来例を示す断面図である。
【図15】従来例に用いられている抜け止めリングの正面図である。
【図16】従来の抜け止めリングの断面側面図である。
【図17】従来例の要部拡大説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、図示の実施の形態に基づき本発明を詳説する。
図1と図2に於て、1は被接続用のパイプであって、その端部1Aが矢印Aのように本発明に係る管継手Jに差込まれる。2は継手本体であって、パイプ1の端部1Aの内周面に挿入される挿入筒部3を一体に有している。
【0011】
パイプ1は、内周面が合成樹脂であれば各種の材質・構造のものが使用できるが、好ましくは、PEX(架橋ポリエチレン)、PE(ポリエチレン)、PB(ポリブデン)等の合成樹脂管や、Al等の金属層を中間層として有する複合管が使用される。また、このパイプ1と管継手Jには給水、給湯等の液体、あるいは、エア,天然ガス,LPG等の気体が流れる。
そして、挿入筒部3に外嵌されたパイプ端部1Aを(図2と図3と図4に示すように)弾発的な締め付け力で締め付けるための締付環体5と、この締付環体5の弾発力に抗して締付環体5を拡径するように離脱可能に挟持された拡径部材6を、備えている。この拡径部材6は、後述するように、複数(2個)の部品を仮組みしてユニット化した小部材であって、複数(2個)の部品は巧妙な機能と作動を各々行って、図1から図2(A)(B)のように挿入されてくるパイプ1の先端部1Bを検知して締付環体5の挟持から離脱する。
【0012】
そして、図1〜図4に示すように、締付環体5は、C型の内層クランプリング51とC型の外層クランプリング52の2重構造であり、しかも、図5(B)と図3でも明らかなように、内層クランプリング51のスリット51Aと外層クランプリング52のスリット52Aとを、周方向に 180°位置を相違させて相互に嵌合(嵌着)させて成る。このように、締付環体5は内層外層2重構造体であり、パイプ締付環状ユニットUと呼ぶこともできる。
【0013】
上記拡径部材6は、このような2重構造の締付環体5(締付環状ユニットU)の内層クランプリング51のスリット51Aに挟持されている。図5に於て、内層クランプリング51と外層クランプリング52とを相互に密嵌させた2重構造体のパイプ締付環状ユニットU(締付環体5)は、強力弾発力Fuをもって、図2(B)に示す如く、パイプ端部1Aをラジアル内方向に弾発的に締め付けることができる。ここで、内層クランプリング51、外層クランプリング52の各々のラジアル内方向弾発力を、F1 ,F2 とすれば、上記ユニットU(締付環体5)の前記強力弾発力Fuは、Fu=F1 +F2 なる数式をもって示すことができる。
【0014】
このような2重弾発構造の締付環体5(パイプ締付環状ユニットU)の強力弾発力Fuによって、(拡径部材6が図2(B)のように離脱した状態下で)パイプ1の端部1Aを、挿入筒部3に対して高面圧で圧接させて、挿入筒部3にシール材(及びシール溝)を全く省略しても、十分な密封作用が得られる。
また、内層クランプリング51と外層クランプリング52とを相互に連結する、ピンやリベットやボルトやバンド等の連結部材を省略している。
なお、図5(A)に示すように、内層スリット51Aと外層スリット52Aとを同方向に一致させて、同一位置にて組立てるようにするも自由である。
【0015】
次に、図6は図2の要部拡大図であるが、この図6と図1,図2に於て、挿入筒部3の外周面には、(従来例の図14,図17に示したような)シール溝(凹周溝)34及びシール材35を省略して、多数本の低い三角突条8を独立円環状に突設している。図5(A)(B)に示した強力弾発力Fuによる、パイプ端部1Aへの締め付け力によって、パイプ端部1Aの内周面に三角突条8を食い込ませて、矢印E方向へのパイプ抜けを阻止すると共に流体の外部漏洩を防止する。即ち、2重構造とした締付環体5(パイプ締付環状ユニットU)の強力弾発力Fuによって、パイプ1の端部内周面に三角突条8を食い込ませて、抜け止め兼密封作用をなさしめている。
【0016】
本発明に於て、三角突条8が多数本とは、7本以上であると定義し、また、三角突条8が低いとは、高さ寸法H8 が、 0.1mm〜 0.3mmであると定義する。(図1,図2,図6では9本の場合を示している。)
さらに、挿入筒部3の外周面に突設された多数本の低い三角突条8の軸心方向中間位置には、低い丸山型のシール用丸突条9が配設されている。この丸山型のシール用丸突条9が低いとは、その高さ寸法H9 が 0.1mm〜 0.3mmであると定義する。このように、三角突条8とシール用丸突条9の高さ寸法H8 ,H9 は略等しく設定され、従来公知のタケノ子状三角突条よりも十分に低く設定した。
【0017】
また、図6に示すように、三角突条8,8相互の基本(間隔)ピッチP1 としては、2mm以下に設定し、さらに、このピッチP1 に対して、シール用丸突条9と隣り合う三角突条8Aとの間のピッチP2 ,P3 を、大きく設定する。後者のピッチP2 ,P3 とを同一としても良いが、僅かに差を設けても良い。
【0018】
仮に、極めて大きい引抜力が矢印E方向に瞬間的に作用した際には、多数の三角突条8を越えてパイプ1の内面が矢印E方向へ移動するが、上記基本ピッチP1 の移動で再び三角突条8が元の三角凹溝13に係止すると想定され、図6中に矢印E′,E′で示すように基本ピッチP1 だけ移動する。
このとき、一ピッチ分だけ矢印E′のように移動した凹溝13が存在しない平坦円周面が、丸突条9に対応して丸い凹状に弾性変形して密接状態となり、しかも、摩耗傷のない上記平坦円周面が丸い凹状に弾性変形するので、流体の外部漏洩が生じず、安定した密封性を発揮する。
なお、三角突条8は、図6に示すように、管継手内方側に軸心直交状の辺18を有する直角三角形とするのが望ましい。
また、三角突条8としては、(図示省略するが)頂部を丸型や平坦付きの丸型を有する断面形状として、係止機能の他に、シール(密封)機能を同時に具備するようにしても良い。
【0019】
次に、拡径部材6について説明する。図3は管継手の内部から外部方向を見た要部の図であり、図4は図3のK−K矢視拡大図であり、この図3と図4、及び、図7〜図11、さらに、図1と図2に示すように、拡径部材6は、拡径本体61と仮補強片62とを仮組みして構成され、しかも、拡径本体61は締付環体5から受ける弾発力Fxによって破損する硬度に予め設定しておく。つまり、仮補強片62を仮組みしない場合、図3に示す矢印Fxにて示す強大な弾発力によって、破損(破壊)―――図11参照―――を生ずる。
具体的には、図3と図4に示す実施の形態では、内層クランプリング51のスリット51Aに拡径本体61が挟持され、パイプ未挿入状態では、仮補強片62によって、このような破損(破壊)を防止するように補強している。このとき、前記弾発力Fxは、2重構造の締付環体5の内層クランプリング51と外層クランプリング52の両者から発生する弾発的な外力である。
【0020】
拡径本体61は、硬度がHRC45以上―――好ましくはHRC48〜55―――であるS65CやSK材や可鍛鋳鉄等の鋼鉄製である。しかも、少なくとも1ヶ所には、(仮補強片62が離脱した際には直ちに破損が発生するように)破損促進用の応力集中発生ノッチNが形成されている。
【0021】
図7に於て、この拡径本体61は均一な肉厚のブロック体であって、2点鎖線にて区分して説明すれば、一文字状中央杆部63と、この中央杆部63の一辺(下辺)から突設された2本の被挟持脚部64,64と、中央杆部63の他辺(上辺)から突設された2本の仮補強片取付用突片部65,65とを、有すると共に、2本の突片部65,65の間隔部66から連続して倒立三角形状の切欠部67を、中央杆部63の上辺を切欠状に形成して、この切欠部67の倒立三角形の一頂角をもって、(鋭利な形状に)ノッチNを形成する。
【0022】
一対の被挟持脚部64,64は、所定半径Rの略半円形の内周面を形成するように、弧状突片型であり、その外周弧状面68が、直接に内層クランプリング51のスリット51Aを形成している開口端面69に当接する。
仮補強片62は略矩形状の孔70を有する、同一肉厚寸法の板片から成り、全体が略矩形枠型であって、図3のように締付環体5に組立てた状態で外層クランプリング52の外周面と同一面状乃至僅かにラジアル内方位置にあるような円弧辺71に形成する。さらに、図8(A)でも明らかなように、貫通状の孔70の左右側辺72,72は、相互に平行な線部72Aと、間隔がラジアル内方向(図8の下方向)へ拡大する傾斜部72Bとから成る。このようにすることで、図1から図2(A)のように、さらには図2(B)のように、仮補強片62が、パイプ1の先端部1Bに押圧されて、しだいに傾斜してゆく際の抵抗力を低減して、軽い力で仮補強片62が拡径本体61の突片部65,65から、離脱する。
【0023】
図9に於て、拡径本体61の突片部65,65が、仮補強片62の孔70に差込まれ、矢印Fx,Fxにて示す締め付け力が締付環体5によって付与されたとき、この締め付け力Fxよりも十分に小さい抑止力F62にて、ノッチNからの亀裂発生を防止している(図1参照)。
【0024】
パイプ未挿入状態を示した図1と図3の状態では、仮補強片62の一部62Aが、内層クランプリング51の内周面よりもラジアル内方向へ突出しており、パイプ1が矢印A方向に挿入されてくると、パイプ1の先端部1Bがこの一部62Aに当接する。言い換えると、仮補強片62は、挿入されてくるパイプ1の先端部1Bを検出する。直ちに(瞬時に)図2(A)に示すように、仮補強片62は傾斜してゆき、拡径本体61から分離し、図10の状態となり、今まで、図9の矢印F62にて示すように作用していた抑止力が零となって、応力集中点であるところのノッチNから、瞬時に亀裂Yが発生して、矢印73,73の方向に一対の突片部65,65が隔離するように変形しつつ亀裂Yが図11に示す如く拡大して、拡径本体61が破損(破壊)し、パチッ(又はバチッ)という大きな音を発生する。これに伴って、図11の矢印74,74のように高速で破損(破壊)した各片が飛散しつつ締付環体5から離脱する(図2(B)参照)。カバー12の内部には、このように離脱した仮補強片62と拡径本体61を収納する空間部75を予め有している。
【0025】
ところで、図9に於て、極めて大きい弾発力Fxが脚部64に作用している状態下で、抑止力F62が十分に小さくて済む理由は、次の通りである。即ち、弾発力Fxに対応する大きな抵抗力は、拡径本体61(の中央杆体63)自身の内部応力によって大部分を分担しており、例えば、10%〜30%の外力を矢印F62の方向に仮補強片62によって付与すれば済むからである。
【0026】
このようにして、仮補強片62を、拡径本体61の突片部65,65から小さな力をもって分離できる。特に、2重構造として内層クランプリング51と外層クランプリング52から成る締付環体5は、従来は全く至難であったところの強大な弾発力Fxを発生可能となるが、このような強大な弾発力Fxにかかわらず、本発明では小さな力にて(上述のように)仮補強片62を分離(離脱)させ、直ちに、拡径本体61を破壊して、図2に示すように強力弾発力Fuをもってパイプ端部1Aを、締付環体5が締め付けて、図6のように挿入筒部3に対し、パイプ1の内周面を密着できる。
また、図2の状態からも判るように、梃子の原理を用いているため、パイプ1から矢印A方向に仮補強片62の一部62Aに付与すべき力は、一層小さくて済む。
【0027】
次に、図8に2点鎖線にて示すような感知用突片部76を形成することも、Al−プラスチック複合管等には、好ましい。即ち、このような突片部76を拡径部材6に形成しておけば、図12と図13に示すように、パイプ1の挿入―――先端部1Bの挿入―――を早く感知し(図2と図3と比較参照)、パイプ1の特に先端部1Bの近くを締付環体5によって締め付けて抜け止め可能となり、変形が難しい上記のAl−プラスチック複合管等の接続に好適なものである。
【0028】
さらに追加説明すれば、図1〜図3に於て、図1のパイプ未挿入状態では、パイプ1の外径よりも僅かに大きな内径寸法に内層クランプリング51の内径を拡大している。図1に示すように、2重構造であるパイプ締付環状ユニットUは、内層クランプリング51を、いわば正確な真円に近い形状に作製すると共に、外層クランプリング52は強力な弾発力F2 を発揮させるように幅寸法W52を内層クランプリング51の幅寸法W51よりも大に設定するのが望ましい。さらには、外層クランプリング52の肉厚寸法T52を内層クランプリング51の肉厚寸法T51よりも大きく設定するのが望ましい。
2重構造である締付環体5の内層クランプリング51は、(1重の厚肉のものと比較して)バネ鋼材等をC型に塑性加工が容易であり、かつ、正確な真円状とすることも容易である。他方、外層クランプリング52も、(1重の厚肉のものと比較して)バネ鋼材等にてC型に塑性加工が容易であると共に、真円度は、それ程、厳密でなくて済むので、作製が容易で、十分に幅寸法W52と肉厚寸法T52を大きくしても、作製可能となるという利点を有する。
【0029】
しかも、内層クランプリング51のみの構成について考察すれば、(図3と図4に於て、外層クランプリング52が存在しないとすれば、)軸心方向(幅寸法W51の方向)に僅かに円錐状(テーパ状)に、拡径部材6の存在によって変形する。つまり、拡径部材6は、軸心方向(幅寸法W51の方向)の中央ではなくて、図4の上端側に偏在するため、弾性的に拡径した内層クランプリング51は、図4の上側から下側へ僅かに縮径するテーパ状に変形し、パイプ1のスムースな挿入を阻害する虞がある。しかしながら、図1に示す如く、外層クランプリング52は、図1の左方向(管継手内方向)に、拡径部材6を越えて内方延伸状であり、その幅寸法W52の中央近傍に拡径部材6を配設できるので、締付環体5の内径がテーパ状(円錐状)となることを、防止できる。
【0030】
例えば、本発明に係る管継手Jの適用されるパイプ1の外径を、10mm〜30mmとした場合に、図3と図4に於て、拡径部材6を挟圧保持する挟圧力(弾発力)Fxは、 200kg〜 800kgと極めて大きい。特に、図6に示したように、シール材を省略して密封を確実に行うには、三角突条8及びシール用丸突条9が十分にパイプ内周面に食い込む必要があり、既述の締付環体5の弾発力Fu(=F1 +F2 )を、十分に大きくせねばならないため、上記挟圧力(弾発力)Fxを、 200kg〜 800kgと極めて大きく設定せねばならない。
【0031】
そこで、従来例の図14〜図17に示したような一枚の素材(バネ鋼帯板)からなる締付環体36では、従来は全く不可能と考えられていた上述の 200kg〜 800kgもの挟圧力を、2重構造とすることで初めて達成できた。
言い換えると、特に厚さ寸法の大きいバネ鋼帯板を、内径を10mm強〜30mm強の小径筒型に塑性変形させようとすれば、製作中に破壊してしまう問題、真円状に加工することが至難であるという問題、及び、径寸法の変化に伴って弾発力(締め付け力)が極端に大小変化してしまうという問題があり、従来から、不可能と考えられていたのである。
【0032】
また、図1と図2に於て、12はカバーであり、離脱した締付環体5が収納される空間部75を有し、透明樹脂とするのが好ましく、外から目視にて拡径部材6が離脱したか否かを確認できる。そして、図1,図2から明らかなように、従来例の図14〜図17に図示した抜け止めリング38を全く省略している。従って、図14〜図17では、パイプ31の外周面に食い込んだ抜け止めリング38がパイプ31から受ける軸心方向の大きな抜け力を、カバー(包囲筒体)41によって受け持つ必要があり、螺着部42等にて強固に継手本体33に連結せねばならなかった。これに対し、本発明では、強度はほとんど必要なくなり、継手本体2に対して、簡易な連結を行うのみで十分であり、カバー12自体も薄い樹脂で済む。
【0033】
なお、本発明は、図示の実施の形態に限らず設計変更自由であって、例えば、突片部65,65の長さを十分に延長することで、脚部64,64に作用する弾発力Fxの大きい場合に対応させても良い。また、拡径本体61の形状は変形可能であり、仮補強片62が分離すれば、弾発力Fxを受けて瞬時に破壊(破損)するような形状と構造とすれば良い。さらに、仮補強片62は、周囲が包囲された四角環状体の他に、C字型やU字型等であっても良い。
また、図1,図2に例示した雄ネジアダプター型に限らず、雌ネジアダプターやソケットやチーズ等の各種の形式の管継手に応用自由である。
【0034】
本発明は以上述べたように、締付環体5が、内層クランプリング51と外層クランプリング52の2重構造であるので、各々、バネ鋼等から破損を生じない範囲内で、十分に小径(例えば、内径10mm〜30mm)の円筒形に加工して後に、内層と外層を成すように嵌合して2重構造にユニット化できるので、従来、不可能と考えられていた強大な締め付け弾発力をもって、パイプ1を締め付けて、大きな引抜け力に耐え、かつ、挿入筒部3のシール材も省略可能となる。そして、従来の抜け止めリング38(図14〜図17参照)を省略可能となり、管継手の構成が簡略化される。また、カバー12も強度を必要としない薄肉のものとでき、継手本体2に対する連結強度も弱いもので済む。
【0035】
また、挿入筒部3からシール材とシール溝を省略したので、挿入筒部3の肉厚寸法を減少でき、これに伴って、挿入筒部3の貫通孔を十分に大きく形成でき、流体通過抵抗の増加を防止できる。
【0036】
本発明は、以上述べたように、被接続用のパイプ1の端部1Aに挿入される挿入筒部3を有する継手本体2と、上記挿入筒部3に外嵌された上記パイプ1の端部1Aを弾発的な締め付け力で締め付けるための締付環体5と、該締付環体5の弾発力に抗して該締付環体5を拡径するように挟持された拡径部材6と、を具備してなる管継手に於て、上記拡径部材6は、上記締付環体5からの上記弾発力によって破損する強度に設定された拡径本体61と、該拡径本体61が上記弾発力によって破損しないように仮組みされると共に挿入されてくる上記パイプ1の先端部1Bを検出して上記拡径本体61から分離し上記拡径本体61を破損させ上記締付環体5から離脱させる仮補強片62とを、具備しているので、仮補強片62をパイプ先端部1Bによる小さな押圧力にて分離させることができ、パイプ1の挿入作業が容易かつ迅速にできる。そして、このような締付環体5を拡径させる力は極めて大きくすることが可能なため、締付環体5を内層クランプリング51と外層クランプリング52の強力弾発力Fu発生の2重構造とすることを可能とした。
【符号の説明】
【0037】
1 パイプ
1A 端部
1B 先端部
3 挿入筒部
5 締付環体
6 拡径部材
51 内層クランプリング
52 外層クランプリング
51A,52A スリット
61 拡径本体
62 仮補強片
N ノッチ
【特許請求の範囲】
【請求項1】
被接続用のパイプ(1)の端部(1A)に挿入される挿入筒部(3)を有する継手本体(2)と、上記挿入筒部(3)に外嵌された上記パイプ(1)の端部(1A)を弾発的な締め付け力で締め付けるための締付環体(5)と、該締付環体(5)の弾発力に抗して該締付環体(5)を拡径するように挟持された拡径部材(6)と、を具備してなる管継手に於て、
上記拡径部材(6)は、上記締付環体(5)からの上記弾発力によって破損する強度に設定された拡径本体(61)と、該拡径本体(61)が上記弾発力によって破損しないように仮組みされると共に挿入されてくる上記パイプ(1)の先端部(1B)を検出して上記拡径本体(61)から分離し上記拡径本体(61)を破損させ上記締付環体(5)から離脱させる仮補強片(62)とを、具備していることを特徴とする管継手。
【請求項2】
上記締付環体(5)が内層クランプリング(51)と外層クランプリング(52)の2重構造とした請求項1記載の管継手。
【請求項3】
上記内層クランプリング(51)のスリット(51A)と、上記外層クランプリング(52)のスリット(52A)とを、周方向に180°位置を相違させて相互に嵌合させた請求項2記載の管継手。
【請求項4】
上記拡径本体(61)は、硬度がHRC45以上の鋼鉄製であり、かつ、破損促進用の応力集中発生ノッチ(N)を形成して成る請求項1記載の管継手。
【請求項1】
被接続用のパイプ(1)の端部(1A)に挿入される挿入筒部(3)を有する継手本体(2)と、上記挿入筒部(3)に外嵌された上記パイプ(1)の端部(1A)を弾発的な締め付け力で締め付けるための締付環体(5)と、該締付環体(5)の弾発力に抗して該締付環体(5)を拡径するように挟持された拡径部材(6)と、を具備してなる管継手に於て、
上記拡径部材(6)は、上記締付環体(5)からの上記弾発力によって破損する強度に設定された拡径本体(61)と、該拡径本体(61)が上記弾発力によって破損しないように仮組みされると共に挿入されてくる上記パイプ(1)の先端部(1B)を検出して上記拡径本体(61)から分離し上記拡径本体(61)を破損させ上記締付環体(5)から離脱させる仮補強片(62)とを、具備していることを特徴とする管継手。
【請求項2】
上記締付環体(5)が内層クランプリング(51)と外層クランプリング(52)の2重構造とした請求項1記載の管継手。
【請求項3】
上記内層クランプリング(51)のスリット(51A)と、上記外層クランプリング(52)のスリット(52A)とを、周方向に180°位置を相違させて相互に嵌合させた請求項2記載の管継手。
【請求項4】
上記拡径本体(61)は、硬度がHRC45以上の鋼鉄製であり、かつ、破損促進用の応力集中発生ノッチ(N)を形成して成る請求項1記載の管継手。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【図17】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【図17】
【公開番号】特開2012−197869(P2012−197869A)
【公開日】平成24年10月18日(2012.10.18)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−62391(P2011−62391)
【出願日】平成23年3月22日(2011.3.22)
【出願人】(390037774)井上スダレ株式会社 (34)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成24年10月18日(2012.10.18)
【国際特許分類】
【出願日】平成23年3月22日(2011.3.22)
【出願人】(390037774)井上スダレ株式会社 (34)
【Fターム(参考)】
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