説明

管継手

【課題】Cu系合金の管継手とAlパイプとの間に発生する接触腐食を確実に防止できる管継手を提供する。
【解決手段】管継手の袋ナット2の先端部には、被接続用パイプPの外周面に対応する円環状絶縁リング40を付設し、袋ナット2の軸心方向孔部には、袋ナット先端面23の近傍に凹溝部が形成され、絶縁リング40は、膨出部と、薄肉円筒壁部と、該円筒壁部の外端から外径方向へ起立した外鍔部とを、有し、絶縁性を有するゴム材又はプラスチックをもって、一体形成され、絶縁リング0の膨出部は、凹溝部に嵌着され、円筒壁部は袋ナット先端面23の近傍の内鍔部の内周面を被覆し、外鍔部は袋ナット先端面23を被覆するように構成する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、管継手に関する。
【背景技術】
【0002】
管継手の一種として、フレア継手が広く知られている。一般に、このフレア継手は、図8に示すように、パイプPの端部にフレア加工部fを特別な治具にて塑性加工して形成し、このフレア加工部fを、フレア継手本体hのテーパ部aに当てて袋ナットnにて締付けて、袋ナットnのテーパ面tとフレア継手本体hのテーパ部aにて挟圧し、金属面の相互圧接にて密封性を確保する構成である(例えば特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2005−42858号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、被接続用パイプPの材質として、Alを用いる場合、継手本体hと袋ナットnが黄銅等のCu系合金であれば、異種金属による接触腐食が発生するという問題がある。
図8に示すように、外部から水(水滴)がフレア加工部fの挟圧部位に浸入する構造であるため、パイプPと継手本体h,袋ナットnの間で、異種金属による接触腐食が容易に発生する。
また、作業現場にて、被接続パイプPの端部に、専用工具を使用して、フレア加工部fを形成する必要があり、作業能率が悪く、品質のバラツキも生じる。さらに、パイプPのフレア加工部fの小径端縁f1 に亀裂を生じ易く、特に、パイプ材質がAlのときにその亀裂発生率が高い。袋ナットnを締付けた際にパイプPが減肉して、その結果、密封性の低下や袋ナットnに緩みを発生し易いという問題もある。
【0005】
そこで、本発明は、このような問題を解決して、Al製パイプ等を用いても異種金属の接触による腐食を生ずることを防止でき、冷媒配管用として好適な管継手の提供を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
そこで、本発明に係る管継手は、袋ナットを備えた管継手に於て、上記袋ナットの先端部には、被接続用パイプの外周面に対応する円環状絶縁リングが付設されている。
また、上記袋ナットの軸心方向孔部には、袋ナット先端面の近傍に凹溝部が形成され;かつ、上記絶縁リングは、膨出部と、薄肉円筒壁部と、該円筒壁部の外端から外径方向へ起立した外鍔部とを、有すると共に、絶縁性を有するゴム材又はプラスチックをもって、一体形成され;上記絶縁リングの上記膨出部は、上記凹溝部に嵌着され、さらに、上記円筒壁部は袋ナット先端面の近傍の内鍔部の内周面を被覆し、かつ、上記外鍔部は上記袋ナット先端面を被覆するように構成した。
また、上記絶縁リングの膨出部は、被接続用パイプの外周面に密に接触するシール突条部を備えている。
また、上記被接続用パイプはAl管であり、かつ、袋ナットはCu系合金から成っている。
【発明の効果】
【0007】
本発明によれば、被接続用パイプの材質として(比較的安価な)Alを用いることが可能となる。即ち、異種金属の接触による腐食を巧妙に防止できる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【図1】本発明の実施の一形態を示しパイプ接続完了直前の状態を示した断面図である。
【図2】パイプ接続状態を示す断面図である。
【図3】袋ナットの一例を示す断面図である。
【図4】袋ナットの要部拡大断面図である。
【図5】ストップリングの一例を示す要部拡大断面図である。
【図6】絶縁リングを示す断面図である。
【図7】作用説明を兼ねた要部ユニットの断面図である。
【図8】従来例を示す断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、図示の実施の形態に基づき本発明を詳説する。
図1〜図7に示す実施の形態に於て、本発明に係る管継手Jは、フレア継手本体1と袋ナット2とストップリング3と耐冷媒シール4を具備し、さらに、被接続用パイプPの先端には(従来のフレア加工を全く省略して)ストレート状先端部10を有している。
【0010】
フレア継手本体1は、従来の継手本体と同様の形状・構成であり(図8のフレア継手本体h参照)、先端縮径テーパ部5を有する。つまり、流路孔6が貫設された接続筒部7の先端に先端縮径テーパ部5が形成される。
また、全体形状は、ストレート状,T字型,Y字型,十字型等自由であるが、(図1,図2の)図外に存在する他の接続端部の形状は、図1,図2と同様の接続筒部7を有していても、テーパ雄ネジ,平行雌ネジ,溶接用筒部等を有していても、自由である。
要するに、図1,図2に示すような少なくとも1個の接続筒部7を具備し、また、図1,図2の図例では、上記テーパ部5の基端縁に連設した短いストレート部8を介して、平行ネジの雄ネジ部9を、上記接続筒部7が有している。このフレア継手本体1の材質としては、黄銅(真鍮)が(従来から一般的に使用されているので)好適である。
【0011】
袋ナット2は、軸心方向に孔部11が貫設され、この孔部11の基端には、上記雄ネジ部9に螺着される雌ネジ部12を有し、そこから先端に向かって順次、軸心方向に小さな幅寸法W13のシール溝13、同一径部(ストレート部)14、段付部15、小さな幅寸法W16の短ストレート部16、先端縮径テーパ部17、(被接続パイプPの外径よりも僅かに大きい内径寸法の)短ストレート部18、凹溝部19、内鍔部20が、形成される。
【0012】
上記孔部11の中間の同一径部(ストレート部)14と段付部15と短ストレート部16とテーパ部17とをもって、ストップリング3を収納(内装)するための収納空間部Eを形成する(図1,図2,図3,図4参照)。この袋ナット2の材質は、C3604等の黄銅(真鍮)とするのが、フレア継手本体1との異種金属接触腐食対策の意味で、好ましい。また、この袋ナット2の外周面形状は、先端側を除いて、横断面六角形に形成し、作業工具にて把持しつつ回転トルクを付与しやすい形状とする。さらに、外周面先端側には、40°〜50°の大きな傾斜角度の先端縮径第1テーパ面21と、10°〜25°の小さな傾斜角度の先端縮径第2テーパ面22を、順次配設して、最先端側外径寸法D22を、パイプPの外径寸法に強度が許す範囲で、近づける。即ち、図8の従来例に比較して、袋ナット先端面23の外径寸法は十分に小さく、この先端面23の(軸心方向から見た)円環形状の幅寸法は小さく設定されている。
【0013】
次に、ストップリング3について説明すると、図5、及び、図1,図2,図7に示すように、このストップリング3は、袋ナット2の上述の収納空間部Eに、図7から図2の軸心方向範囲を移動可能領域として、内装される。その断面形状は短円筒型であり、外周面が基端から中間位置までが、袋ナット2の孔部11の同一径部(ストレート部)14に摺動可能に嵌合(対応)する基本外径部24と、段付部25を介して先端側に連設された小径部26とを、有する。また、内周面27は、軸心方向中間に基本内径部28を有し、かつ、この基本内径部28の軸心方向中間位置にシール凹溝29が配設され、パイプPはこの基本内径部28に、図1と図2のように挿入される。シール凹溝29に空調用冷媒に対する耐久性に優れた(IIRから成る)耐冷媒シール4が嵌着される。
【0014】
さらに、基本内径部28の端部(図5の左側)には、段付部30とアール状圧接勾配面32が順次連設した内周面形状に構成されている。図1,図2に示すように、このアール状圧接勾配面32は、フレア継手本体1の先端縮径テーパ部5に圧接(金属面の相互接触)して、密封作用をなす。なお、図例では、アール状圧接勾配面32は、内周面27から、軸心方向基端面33に渡って大きな曲率半径にて描かれる断面形状を呈し、略4半円形の膨出部31を形成している。
言い換えると、このストップリング3は、内周面27と基端面33の角部に大きな曲率半径でアール状面取りを施して、圧接勾配面32としている。なお、図示省略するがこの圧接勾配面32を、傾斜線状(傾斜直線状)とすることも自由である。
【0015】
上記段付部30は、挿入されるパイプPの端面34が当接する。
そして、ストップリング3の先端側には、塑性変形可能な薄肉円筒部35と、その先端のパイプ外周面食い込み用爪部36とを一体に有する。
即ち、ストップリング3に於て、その内周面27には、先端側に浅い盗み部37を凹設して、しかも、外周側の小径部26との共働によって、先端の爪部36が、図5と図1の自由状態から、図2に示した食い込み状態に弾性的に縮径可能なように、上記薄肉円筒部35を形成する。なお、爪部36を含んだ薄肉円筒部35には、軸心方向のスリットは全く存在せず、小孔等も存在しない。
爪部36は横断面不等辺三角形として、内方基端方向へ向き、図2のようにパイプPの外周面に対して、パイプPの引抜力に対抗して食い込み易い形状とする。
【0016】
図1に示すように、パイプPを挿入して、袋ナット2に小さな回転トルクを与えて雄ネジ部9に対し雌ネジ部12を軽く螺着すると、ストップリング3の小径部26(薄肉円筒部35)の先端が軽く袋ナット2のテーパ部17に接触する。このとき、ストップリング3の段付部25と、袋ナット2の段付部15との間には、軸心方向に所定小寸法Gの間隙が存在している。
その後、袋ナット2を螺進してゆくと、図1から図2に示すように、薄肉円筒部35の先端外周角部38がテーパ部17によって強く絞られ―――内径方向へ押圧され―――、爪部36が、パイプPのストレート状先端部10の外周面10Aに、食い込む。この食い込みによって、パイプ引抜抵抗力Z(図2参照)を発生する。同時に、この食い込みによって、大気側Aから(内部の)耐冷媒シール4への酸素流入を阻止する。
【0017】
言い換えると、(薄肉円筒部35はスリットも貫孔も無いので、)爪部36がパイプ先端部10の外周面10Aに食い込むと、ストップリング3の内周面27の軸心中間位置に在る耐冷媒シール4へ空気(酸素)の流入が遮断され、IIRから成る耐冷媒シール4の長寿命化が図られることとなる。このストップリング3の材質としては、フレア継手本体1の先端縮径テーパ部5の圧接部の密封性向上や塑性変形性を考慮するとC3604等の黄銅(真鍮)が好ましい。
さらに、爪部36近傍の外周角部38と、テーパ部17との強い圧接によって、この圧接部位からの酸素の内部への浸入も阻止される。
【0018】
次に、図6、及び、図1,図2,図7に於て、袋ナット2には円環状絶縁リング40が付設されている。この円環状絶縁リング40は、絶縁性を有するゴム材又はプラスチックから成り、例えば、耐寿命性、耐候性に優れるEPDM等のゴムが望ましいと共に、その付設位置は、袋ナット先端部41とする。図6に示すように、横断面が略五角形とした膨出部42と薄肉円筒壁部43と、その円筒壁部43の外端から外径方向に起立した外鍔部44とから、一体形成されている。
上記膨出部42は、(図4に示した)凹溝部19に嵌着され、三角山型のシール突条部45が内径方向に突出状に形成される。このシール突条部45は、パイプPの外周面に、弾性的圧接力をもって密に接触して、管継手内部への水等の電解質の浸入を防止し、管継手内部に於て異種金属の接触による腐食を確実に防いでいる。
【0019】
また、袋ナット2の内鍔部20の内周面、及び、その外周面(袋ナット先端面23)を、絶縁リング40が、その円筒壁部43と外鍔部44にて包囲する(被覆する)。このようにして、被接続用パイプPの外周面に対して、絶縁リング40が接触して、黄銅(真鍮)等の袋ナット2とAl等のパイプPの外周面に直接的に接触することを阻止して、絶縁作用をなして、異種金属接触による腐食を防いでいる。
さらに、外鍔部44の外径寸法D44は(前述の)袋ナット先端面23の外径寸法D22よりも僅かに大きく設定するのが望ましい。つまり、水滴が、袋ナット先端面23とパイプ外周面によって形成される隅部にブリッジ状に溜ることを、外鍔部44が確実に防止する。仮に、絶縁リング40が存在しない場合、あるいは、外鍔部44の外径寸法D44が極端に小さい場合には、上記隅部に水滴等の電解質が(ブリッジ作用で)溜って、異種金属の接触による腐食が発生する虞がある。このような腐食(電蝕)を絶縁リング40が有効に防止する。なお、膨出部42の断面形状は変形自由であって、円形としてもよい(そのときも円弧状シール突条部45が形成される)と共に、シール突条部45が2山以上形成されてもよい。
【0020】
ところで、袋ナット2の雌ネジ部12の隣のシール溝13には、Oリング等のシール46が嵌着され、このシール46の材質は冷媒シール性、耐寿命性に優れるEPDM等のゴムが好ましく、また、図2の使用(接続)状態でフレア継手本体1のストレート部8に接触して密封作用をなす。
このシール46の機能は2つあり、1つは、図2に示すように、圧接勾配面32とテーパ部5との金属面の相互圧接によるシール作用に対して補助する予備的密封機能であり、他の1つは、図7に示したようにストップリング3の脱落防止機能である。
【0021】
後者の機能、及び、その機能と作用を奏するための構成について説明すれば、(図7と図1に示すように、)袋ナット2の孔部11に形成された雌ネジ部12と同一径部14との間(のシール溝13)に、シール46を内装して、かつ、内装状態で該シール46の内径寸法D46を、ストップリング3の外径寸法dよりも小さく設定することで、未使用状態下にてストップリング3が袋ナット2から離脱しないように、シール46の内周端縁にストップリング3の基端面33の角部が引掛かるように保持されて、図7の状態下でも下方へ脱落しない。このように未使用状態(工場取扱中、在庫中、輸送中、配管作業中等)に於て、シール46が不意に離脱することを防ぐ。
【0022】
ところで、本発明に係る管継手は空調の冷媒(ガス)の密封に好適であり、施工も容易で作業性に優れ、従来のようなパイプPのフレア加工部f(図8参照)の形成作業は全く省略できる。従って、作業者や作業工具による作業のバラツキがなくなり品質が安定する。さらに、専用工具も不要となる。さらに、インコア無しで作業性がさらに向上する。
また、図1の小寸法Gが無くなるまで、図2のように、袋ナット2を螺進させると、自動的に、爪部36がパイプPの外周面に食い込んで引抜抵抗力Zを発揮し、同時に、ストップリング3の圧接勾配面32が、フレア継手本体1のテーパ部5に強く金属面相互が圧接して密封作用をなす。しかも、同時にシール46は図1から図2のように僅かに移動して、ストレート部8に於て弾性圧縮されて、圧接勾配面32とテーパ部5の金属面相互圧接によるシール部位に対する副シール(予備シール)の機能をはたす。
【0023】
耐冷媒シール4は、IIR(ブチルゴム)のOリングが好適であり、冷媒(ガス)の透過性が極めて低く、優れている。しかし、酸化劣化しやすい欠点があるが、これを、爪部36のパイプ外周面への食い込みにて防止できる。また、所望により給水、給湯配管に用いることも可能である。
【符号の説明】
【0024】
1 フレア継手本体
2 袋ナット
3 ストップリング
4 耐冷媒シール
5 先端縮径テーパ部
9 雄ネジ部
10 ストレート状先端部
10A 外周面
11 孔部
12 雌ネジ部
14 同一径部
17 テーパ部
19 凹溝部
20 内鍔部
23 袋ナット先端面
29 シール凹溝
32 圧接勾配面
35 薄肉円筒部
36 爪部
40 絶縁リング
41 袋ナット先端部
42 膨出部
43 薄肉円筒壁部
44 外鍔部
45 シール突条部
46 シール(Oリング)
P パイプ
E 収納空間部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
袋ナット(2)を備えた管継手に於て、上記袋ナット(2)の先端部(41)には、被接続用パイプ(P)の外周面に対応する円環状絶縁リング(40)が付設されていることを特徴とする管継手。
【請求項2】
上記袋ナット(2)の軸心方向孔部(11)には、袋ナット先端面(23)の近傍に凹溝部(19)が形成され、
かつ、上記絶縁リング(40)は、膨出部(42)と、薄肉円筒壁部(43)と、該円筒壁部(43)の外端から外径方向へ起立した外鍔部(44)とを、有すると共に、絶縁性を有するゴム材又はプラスチックをもって、一体形成され、
上記絶縁リング(40)の上記膨出部(42)は、上記凹溝部(19)に嵌着され、さらに、上記円筒壁部(43)は袋ナット先端面(23)の近傍の内鍔部(20)の内周面を被覆し、かつ、上記外鍔部(44)は上記袋ナット先端面(23)を被覆するように構成した請求項1記載の管継手。
【請求項3】
上記絶縁リング(40)の膨出部(42)は、被接続用パイプ(P)の外周面に密に接触するシール突条部(45)を備えている請求項1又は2記載の管継手。
【請求項4】
上記被接続用パイプ(P)はAl管であり、かつ、袋ナット(2)はCu系合金から成っている請求項1,2又は3記載の管継手。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2013−29200(P2013−29200A)
【公開日】平成25年2月7日(2013.2.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−200368(P2012−200368)
【出願日】平成24年9月12日(2012.9.12)
【分割の表示】特願2009−123834(P2009−123834)の分割
【原出願日】平成21年5月22日(2009.5.22)
【出願人】(000221638)東尾メック株式会社 (60)
【出願人】(508321823)株式会社イノアック住環境 (22)
【Fターム(参考)】