説明

管腔器官把持アクチュエータおよびこれを用いた管腔器官の直径の変化を監視するための装置

【課題】 外科手術を行った際の血管吻合部における血栓の発生を、患者に侵襲を与えるといったことなく、簡易、迅速かつ正確に検知するためなどに有用な管腔器官把持アクチュエータおよびこれを用いた管腔器官の直径の変化を監視するための装置を提供すること。
【解決手段】 本発明の管腔器官把持アクチュエータは、形状回復時に管腔器官を把持するように、または、形状回復時に把持していた管腔器官を開放するように、形状記憶させた形状記憶合金薄膜体の表面に、前記形状記憶合金薄膜体が把持した管腔器官の直径の変化を電気信号に変換して検知するための変位薄膜センサを設けてなることを特徴とし、本発明の管腔器官の直径の変化を監視するための装置は、この管腔器官把持アクチュエータを備えてなることを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、外科手術を行った際の血管吻合部における血栓の発生の有無を監視するためなどに有用な管腔器官把持アクチュエータおよびこれを用いた管腔器官の直径の変化を監視するための装置に関する。
【背景技術】
【0002】
外科手術を行った際、血管吻合部に血栓が発生しやすいことはよく知られた事実である。血管吻合部に発生した血栓は、血流の遮断を引き起こし、時には細胞の壊死といった事態を招く。従って、血管吻合部における血栓の発生の有無を監視することで、血栓が発生した場合には早期にそれを発見し、血栓溶解剤を投与するなどして処置を施すことは非常に重要である。血管吻合部における血栓の発生は、手術後24時間以内に起こりやすく、その後の発生率は激減するので、看護師は、手術直後から少なくとも24時間は、血管吻合部における血栓の発生の有無を監視する必要がある。しかしながら、現在のところ、血管吻合部における血栓の発生を簡易、迅速かつ正確に検知する方法が存在しないことから、看護師は、血栓の発生に起因する患者の容態変化がないかどうかを注意深く観察することで対処しているのが実態である。
【0003】
以上のような背景のもと、血管吻合部における血栓の発生を簡易、迅速かつ正確に検知するとともに、看護師の負担軽減を図るべく、血管吻合部における血栓の発生の有無を、ドップラープローブセンサを用いて監視する方法や、レーザ計測装置を用いて監視する方法が提案されている。
前者のドップラープローブセンサを用いて血管吻合部における血栓の発生の有無を監視する方法は、例えば、図4のようにして、プローブから血管内に超音波を発振し、その反射波を電気信号に変換して周波数の変化をドップラー現象として計算することで、血流の流速を測定することができるセンサを用い、血流の流速の変化の有無(血栓が発生した場合にはその近辺において血流の流速が低下する)から血栓の発生の有無を監視するものである(必要であれば非特許文献1や非特許文献2を参照のこと)。
後者のレーザ計測装置を用いて血管吻合部における血栓の発生の有無を監視する方法は、近赤外レーザを血管に照射してその透過光をフォトカウンタで受光すると、血栓が存在する部位の血球成分は、血栓が存在しない部位の血球成分と異なるため、両部位の間には光吸収特性や光散乱特性に違いを生じるので、その違いが透過光量の違いになって現れる現象を利用して血栓の発生の有無を監視するものである(必要であれば非特許文献3を参照のこと)。
【非特許文献1】Anilkumar K Reddy, George E Taffet, Sridhar Madala, Lloyd H Michael, Mark L Entman, and Craig J Hartley :" Noninvasive blood pressure measurement in mice using pulsed Doppler ultrasound ", Ultrasound in Medicine & Biology 29 (2003) 379-385
【非特許文献2】Reza Tabrizchi, Michael K Pugsley :" Methods of blood flow measurement in the arterial circulatory system ", Journal of Pharmacological Methods 44 (2000) 375-384
【非特許文献3】古口晴敏、山海嘉之、榛沢和彦「微小血栓(栓子)検出におけるレーザー計測の有効性の検討」第3回日本栓子検出と治療研究会予稿集pp.56-57(2000.12)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、上記のいずれの方法も、実用上の問題を少なからず抱えていると言わざるを得ない。即ち、ドップラープローブセンサを用いて血管吻合部における血栓の発生の有無を監視する方法では、プローブの構造が複雑なので、小型化しようとしても限界があるといった問題、極めて精巧に作製されていなければ、波動が乱されるなどするので正確な測定ができないといった問題、センサの形状が円筒形であるので、血管への取り付けや取り外しが容易ではないことから、作業に熟練を要するとともに、その際に患者に侵襲を与えることになるといった問題などがある。また、レーザ計測装置を用いて血管吻合部における血栓の発生の有無を監視する方法では、光学系を含む装置が大型化するといった問題や、レーザ照射の位置合わせが難しいといった問題などがある。
そこで本発明は、外科手術を行った際の血管吻合部における血栓の発生を、患者に侵襲を与えるといったことなく、簡易、迅速かつ正確に検知することで、必要に応じた血栓溶解剤の投与などによる適切な処置を可能なものにするなどといった有用性を有する、管腔器官把持アクチュエータおよびこれを用いた管腔器官の直径の変化を監視するための装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明者らは、上記の点に鑑みて鋭意研究を重ねた結果、形状記憶合金(SMA:Shape Memory Alloy)の薄膜体の表面に、圧電薄膜センサを設けてなる血管把持アクチュエータが、血栓検出センサとして有用であることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0006】
即ち、本発明の管腔器官把持アクチュエータは、請求項1記載の通り、形状回復時に管腔器官を把持するように、または、形状回復時に把持していた管腔器官を開放するように、形状記憶させた形状記憶合金薄膜体の表面に、前記形状記憶合金薄膜体が把持した管腔器官の直径の変化を電気信号に変換して検知するための変位薄膜センサを設けてなることを特徴とする。
また、請求項2記載の管腔器官把持アクチュエータは、請求項1記載の管腔器官把持アクチュエータにおいて、形状記憶合金薄膜体の厚さが1μm〜20μmであることを特徴とする。
また、請求項3記載の管腔器官把持アクチュエータは、請求項1または2記載の管腔器官把持アクチュエータにおいて、変位薄膜センサが圧電薄膜センサであることを特徴とする。
また、請求項4記載の管腔器官把持アクチュエータは、請求項1乃至3のいずれかに記載の管腔器官把持アクチュエータにおいて、管腔器官が血管であることを特徴とする。
また、本発明の管腔器官の直径の変化を監視するための装置は、請求項5記載の通り、請求項1記載の管腔器官把持アクチュエータの変位薄膜センサによって検知した電気信号を、管腔器官把持アクチュエータに接続した解析手段で解析することで、管腔器官の直径の変化を監視することができるようにしてなることを特徴とする。
【発明の効果】
【0007】
本発明によれば、外科手術を行った際の血管吻合部における血栓の発生を、患者に侵襲を与えるといったことなく、簡易、迅速かつ正確に検知するためなどに有用な管腔器官把持アクチュエータおよびこれを用いた管腔器官の直径の変化を監視するための装置が提供される。
【発明を実施するための最良の形態】
【0008】
図1は、本発明の管腔器官把持アクチュエータの一例の斜視図である。図1に示す管腔器官把持アクチュエータ1は、形状回復時に管腔器官を把持するように形状記憶させた、フォーク状の端部を備える形状記憶合金薄膜体2と、形状記憶合金薄膜体2のフォーク状の端部の中央のピラーの表面に設けた、形状記憶合金薄膜体2が把持した管腔器官の直径の変化を電気信号に変換して検知するための変位薄膜センサ3とから構成される。符号4は、変位薄膜センサ3によって検知した電気信号を外部に取り出すためのリード線である。
【0009】
形状記憶合金薄膜体2を構成する形状記憶合金としては、例えば、TiNiCu合金が挙げられる。形状記憶合金薄膜体2は、例えば、蒸着原料としてTiNiCu合金のペレットを用いて真空蒸着処理を行うことで、厚さ5μm〜20μmの銅基板の表面に、所望する厚さ(アクチュエータとしての取り扱いの容易性に鑑みれば1μm〜20μmが好ましい)のTiNiCu合金薄膜を形成した後、フォトリソグラフィを行って薄膜を所定の形状にパターニングし、次いで硝酸を用いて銅基板を溶解して薄膜を自立させ、最後に薄膜を加熱することで形状回復時に管腔器官を把持するように図1に示すような形状で形状記憶熱処理を行って得ることができる。真空蒸着処理と形状記憶熱処理は、1×10-3Pa以下の減圧下で、真空蒸着処理は基板温度を350℃以上に保持して、形状記憶熱処理は薄膜温度を400℃〜500℃に保持して行うことが好ましい。フォトリソグラフィは、自体公知の方法に従って行えばよい。
【0010】
形状記憶合金薄膜体2の変態温度制御は、銅基板の表面に形成する薄膜の合金組成を調節することで行うことができる。例えば、形状記憶合金薄膜体2を構成する形状記憶合金としてTiNiCu合金を用いる場合、TiNiCu合金薄膜が10at%以上の銅を含有するようにすれば、アクチュエータ駆動温度に相当する逆マルテンサイト変態終了温度(形状回復温度):Af点を体温と同程度(約45℃)にまで低温化することができる。
【0011】
形状記憶合金薄膜体2の表面に設ける変位薄膜センサ3としては、例えば、圧電薄膜とその上下(表裏)に位置する電極から構成される圧電薄膜センサが挙げられる。変位薄膜センサ3として圧電薄膜センサを採用する場合、圧電薄膜センサは、例えば、下部電極として機能させる厚さ5μm〜20μmの銅基板の表面に、厚さ0.5μm〜2μmの圧電薄膜を形成し、さらにその表面に、厚さ100nm〜150nmの上部電極を形成した積層体からなる。圧電薄膜は、例えば、圧電材料としてチタン酸ジルコン酸鉛を原料に用い、自体公知の方法に従ってスパッタ処理を行うことで形成することができる(ゾルゲル法によって形成してもよい)。上部電極は、例えば、電極材料として白金を原料に用い、自体公知の方法に従ってスパッタ処理を行うことで形成することができる。圧電薄膜センサの厚さは、アクチュエータとしての取り扱いの容易性に鑑みれば、10μm〜15μmであることが好ましい。このようにして作製した圧電薄膜センサは、例えば、圧電薄膜を形成した銅基板の表面と反対側の表面を、形状記憶熱処理を行った形状記憶合金薄膜体2の表面に、100℃程度の温度よりも低温で硬化するフォトレジストなどのフレキシブルな樹脂からなる接着剤で接着して使用すればよい。なお、圧電薄膜センサは、例えば、形状記憶熱処理を行った形状記憶合金薄膜体2の表面に、スパッタ処理を行うことで形成した酸化シリコン層などからなる絶縁層を介して、必要に応じてスパッタ処理を行うことでチタンなどからなる密着層を形成した後、下部電極、圧電薄膜、上部電極を順に積層することで形成することもできる。
【0012】
圧電材料は、力や歪みが加わると電荷を発生する正圧電効果と、電界を加えると力や歪みを発生する逆圧電効果、即ち、機械エネルギーと電気エネルギーの変換機能を有する材料であり、簡易な構造で両エネルギーを効率的に交換することができる。従って、圧電薄膜センサは、変位計測の分解能や応答性に優れているので、ミクロン単位の変位でも十分に計測することができることから、生体部位の微小な変位を計測するのに都合がよいセンサであり、形状記憶合金薄膜体2の把持対象となる管腔器官が直径が1mm程度の血管であっても、把持した血管の直径のわずかな変化を電気信号に変換して検知することができる。チタン酸ジルコン酸鉛は、チタン酸鉛とジルコン酸鉛の固溶体であるが、チタン酸バリウムや酸化亜鉛などのような他の圧電材料に比べて安定な温度特性と高い圧電定数を有するので、生体部位の微小な変位を計測するのに適した圧電材料である。
【0013】
なお、変位薄膜センサ3は、圧電薄膜センサに限定されるものではなく、力や歪みが加わると抵抗が変化し、この変化を電気信号に変換して検知することができるピエゾ抵抗型センサであってもよい。
【0014】
図1に示す管腔器官把持アクチュエータ1は、例えば、次のようにして用いることができる。即ち、管腔器官把持アクチュエータ1の形状記憶合金薄膜体2は、形状記憶熱処理により、図2に示す(A)のような形状に形状記憶されているので、この状態にある管腔器官把持アクチュエータ1に対し、室温において外力を加え、3つのピラーを図2に示す(B)のようにして広げた後、加熱すると、管腔器官把持アクチュエータ1は、形状記憶合金薄膜体2が有するAf点付近にまで加熱された時点で形状回復を起こし、図2に示す(A)のような形状の状態に戻ろうとする。従って、図2に示す(B)のような形状の状態にある管腔器官把持アクチュエータ1を、その3つのピラーの間に管腔器官が配置されるように体内に埋め込むと、体内に埋め込まれた管腔器官把持アクチュエータ1は、形状記憶合金薄膜体2が有するAf点が体温と同程度である場合、体内で形状回復を起こし、図2に示す(C)のような形状で管腔器官Xを把持する。従って、把持した管腔器官Xの直径が変化すれば、その変化を変位薄膜センサ3によって迅速かつ正確に電気信号に変換して検知することができる。なお、管腔器官把持アクチュエータ1が、体内で形状記憶合金薄膜体2が有するAf点にまで確実に加熱されることで、その形状回復が確実なものとなるように、管腔器官把持アクチュエータ1を体内で加熱するための手段として、例えば、形状記憶合金薄膜体2の変位薄膜センサ3を形成した表面と反対側の表面に、管腔器官把持アクチュエータ1を外部から通電加熱するためのマイクロヒータとして機能する金属薄膜を、スパッタ処理を行うことで所定のパターンに形成してもよい。
【0015】
例えば、外科手術を行った際の血管吻合部の上流と下流のそれぞれの血管を管腔器官把持アクチュエータ1で把持し、血管の直径の変化を監視した場合、血管吻合部において血栓が発生すると、血圧が変化することにより、吻合部の上流の血管は膨張する一方、下流の血管は収縮することから、いずれの部位の血管も、その直径が変化する。従って、この変化を変位薄膜センサ3によって電気信号に変換して検知し、検知した電気信号を、管腔器官把持アクチュエータ1に接続した解析手段で解析することで、血管吻合部における血栓の生成をin−situで迅速かつ正確に把握することができる。また、管腔器官把持アクチュエータ1は、小型化が可能であるとともに、体内に設置する際に血管に固定するための縫合などを必要とせず、血栓の発生の有無を所定の期間において監視した後に不要になった際には、薄膜物であるのでリード線4を引っ張ることで容易に体内から抜去することができる。従って、血管への取り付けや取り外しの作業に熟練を要することがなく、その際に患者に侵襲を与えることもない。
【0016】
なお、図1に示す管腔器官把持アクチュエータ1は、形状回復時に管腔器官を把持するように形状記憶させたものであるが、管腔器官把持アクチュエータは、形状回復時に把持していた管腔器官を開放するように形状記憶させたものであってもよい。Af点が体温よりも高い形状記憶合金(例えば、Af点が45℃以上の形状記憶合金)を用いて形状記憶合金薄膜体を構成した場合、予め所定の形状に形状記憶させておくことで、管腔器官把持アクチュエータが、体内で形状記憶合金薄膜体が有するAf点にまで加熱された時点で、管腔器官を把持するように形状回復させることも、把持していた管腔器官を開放するように形状回復させることもできる。管腔器官把持アクチュエータを、体内で形状記憶合金薄膜体が有する体温よりも高いAf点にまで加熱するための手段としては、前述したように、例えば、形状記憶合金薄膜体の変位薄膜センサを形成した表面と反対側の表面に、管腔器官把持アクチュエータを外部から通電加熱するためのマイクロヒータとして機能する金属薄膜を、スパッタ処理を行うことで所定のパターンに形成する方法が挙げられる。図3に示す管腔器官把持アクチュエータ11は、形状回復時に把持していた管腔器官を開放するように形状記憶させたものである。管腔器官把持アクチュエータ11の形状記憶合金薄膜体12は、形状記憶熱処理により、図3に示す(A)のような形状に形状記憶されている。この状態にある管腔器官把持アクチュエータ1に対し、室温において外力を加え、3つのピラーを図3に示す(B)のように変形させた後、図3に示す(C)のように3つのピラーの間に管腔器官を配置して体内に埋め込む。血栓の発生の有無を所定の期間において監視した後、管腔器官把持アクチュエータ11を、形状記憶合金薄膜体12が有するAf点にまで加熱すると、管腔器官把持アクチュエータ11は、形状回復を起こし、図3に示す(A)のような形状の状態に戻ろうとする。従って、3つのピラーの間に管腔器官が配置されている場合、管腔器官把持アクチュエータ11は、図3に示す(D)のような形状になるので、リード線14を引っ張ることで、管腔器官把持アクチュエータ11を体内から容易に抜去することができる。
【実施例】
【0017】
以下に本発明の管腔器官把持アクチュエータを実施例によって詳細に説明するが、本発明の管腔器官把持アクチュエータの形状や使用方法などは、以下の記載に何ら限定して解釈されるものではない。
【0018】
図1に示す管腔器官把持アクチュエータを次のようにして作製した。
工程1:
まず、Ti−46.98wt%,Ni−8.25wt%,残Cu組成のペレット(φ1.2×3.8mm)を用い、フラッシュ真空蒸着処理(必要であればE.Makino, M.Uenoyama, T.Shibata:“Flash evaporation of TiNi shape memory thin film for microactuators, Sensors and Actuators A, Physical, 71/3 (1998) pp.187-192”を参照のこと)を、1回あたり60秒で30回行って、厚さ10μmの銅基板の表面に厚さが4μmのTiNiCu合金薄膜を形成した。フラッシュ真空蒸着処理は、1×10-3Pa以下の減圧下で基板温度を380℃に保持して行った。蒸着原料の蒸発が始まってからシャッタを開いて蒸着を開始するまでの時間の相違により、TiNiCu合金薄膜の合金組成は変化するが、蒸着原料の蒸発が始まった直後にシャッタを開いて蒸着を開始することで形成されるTiNiCu合金薄膜は、10at%以上の銅を含有し、そのAf点は約45℃であり体温と同程度であった。
次に、市販のフォトレジストを用いてフォトリソグラフィを行って所定の形状にパターニングした後、硝酸を用いて銅基板を溶解し、外形が縦10mm×横2mm×厚さ4μmで、フォーク状の先端部のピラーが長さ5mm×幅0.6mmであるTiNiCu合金薄膜を得た。
次に、1×10-3Pa以下の減圧下で薄膜温度を450℃に1時間保持することで、TiNiCu合金薄膜に対して形状回復時に管腔器官を把持するように図1に示すような形状で形状記憶熱処理を行った。
このようにして作製した形状記憶合金薄膜体に、室温において外力を加え、3つのピラーを図2に示す(B)のようにして広げた後、3つのピラーの間に、血管に見立てた外径1.5mmのシリコンゴムチューブを配置し、加熱した。その結果、この形状記憶合金薄膜体は、45℃近辺にまで加熱された時点で形状回復を起こし、図2に示す(C)のような形状でチューブを把持した。チューブを把持した状態にある形状記憶合金薄膜体のフォーク状の端部と反対側の端部を、チューブが位置する方向と反対方向に引っ張ったところ、形状記憶合金薄膜体は、多少の引っ張り強度ではチューブを把持した状態を保持したが、引っ張り強度を高めることでこれを抜去することができた。
【0019】
工程2:
下部電極として機能させる厚さ10μmの銅基板の表面に、厚さ約1μmの圧電薄膜を形成し、さらにその表面に、厚さ100nm〜150nmの上部電極を形成することで圧電薄膜センサを作製した。ここで、圧電薄膜は、圧電材料としてチタン酸ジルコン酸鉛を原料に用い、自体公知の方法に従ってスパッタ処理を行った後、昇温速度10℃/秒、保持温度700℃、保持時間10分の熱処理を経て形成した。上部電極は、電極材料として白金を原料に用い、自体公知の方法に従ってスパッタ処理を行うことで形成した。圧電薄膜センサの厚さは、約11μmであった。このようにして作製した圧電薄膜センサを、圧電薄膜を形成した銅基板の表面と反対側の表面を、工程1で作製した形状記憶熱処理を行った形状記憶合金薄膜体のフォーク状の端部の中央のピラーの表面に、フォトレジストを接着剤として用いることによって接着し、管腔器官把持アクチュエータとした。このようにして作製した管腔器官把持アクチュエータが所望の動作を行うことは、人工血管やウサギを用いた実験で確認した。
【産業上の利用可能性】
【0020】
本発明は、外科手術を行った際の血管吻合部における血栓の発生を、患者に侵襲を与えるといったことなく、簡易、迅速かつ正確に検知するためなどに有用な管腔器官把持アクチュエータおよびこれを用いた管腔器官の直径の変化を監視するための装置を提供することができる点において、産業上の利用可能性を有する。
【図面の簡単な説明】
【0021】
【図1】本発明の管腔器官把持アクチュエータの一例の斜視図である。
【図2】同、動作原理を示す図である。
【図3】本発明の管腔器官把持アクチュエータのその他の例の動作原理を示す図である。
【図4】従来技術であるドップラープローブセンサを用いて血管吻合部における血栓の発生の有無を検知する方法を示す図である。
【符号の説明】
【0022】
1,11 管腔器官把持アクチュエータ
2,12 形状記憶合金薄膜体
3,13 変位薄膜センサ
4,14 リード線
X 管腔器官

【特許請求の範囲】
【請求項1】
形状回復時に管腔器官を把持するように、または、形状回復時に把持していた管腔器官を開放するように、形状記憶させた形状記憶合金薄膜体の表面に、前記形状記憶合金薄膜体が把持した管腔器官の直径の変化を電気信号に変換して検知するための変位薄膜センサを設けてなることを特徴とする管腔器官把持アクチュエータ。
【請求項2】
形状記憶合金薄膜体の厚さが1μm〜20μmであることを特徴とする請求項1記載の管腔器官把持アクチュエータ。
【請求項3】
変位薄膜センサが圧電薄膜センサであることを特徴とする請求項1または2記載の管腔器官把持アクチュエータ。
【請求項4】
管腔器官が血管であることを特徴とする請求項1乃至3のいずれかに記載の管腔器官把持アクチュエータ。
【請求項5】
請求項1記載の管腔器官把持アクチュエータの変位薄膜センサによって検知した電気信号を、管腔器官把持アクチュエータに接続した解析手段で解析することで、管腔器官の直径の変化を監視することができるようにしてなることを特徴とする管腔器官の直径の変化を監視するための装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2006−51286(P2006−51286A)
【公開日】平成18年2月23日(2006.2.23)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−236772(P2004−236772)
【出願日】平成16年8月16日(2004.8.16)
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第1項適用申請有り 平成16年3月8日 社団法人表面技術協会発行の「第109回 講演大会 講演要旨集」に発表
【出願人】(504229284)国立大学法人弘前大学 (162)
【Fターム(参考)】