説明

管路の補修工法

【課題】劣化した既設管路の内周面に配置した緩衝材の内側に新管を挿入する際の摩擦抵抗を小さくし、且つ長期間使用しても新管が沈下することがないようにする。
【解決手段】既設管1の内周面に弾性を有する緩衝材3を配置し、更に新管5を挿入して補修する補修工法であって、緩衝材3と新管5との間に摩擦を軽減させる減摩部材を配置して挿入する。減摩部材が管路の長さ方向に配置されたレール4、又は単位管5aの外周に配置されている減摩部材10である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、劣化した既設管の内部に緩衝材を配置すると共に該緩衝材の内部に新たな管を挿入して補修するための管路の補修工法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
地中には、下水道用の管路、上水道用の管路等の管路を含めて多くの管路が敷設されている。これらの管路は経時的に劣化するため、劣化した管路を更新したり、補修することが行われる。
【0003】
既設管の補修について下水道用の管路の例を説明する。下水道管路は、所要の位置毎にマンホールを設置すると共に、マンホールの間に複数の鉄筋コンクリート管を配置して敷設されている。このような管路では、長期間の使用によって管の内周面が腐食して強度が低下することがあり、作用する荷重によって破壊する虞が生じる。また、地震や地盤沈下等に起因して、管どうしの間に抜けだしを含むずれが生じたり、管にひび割れが生じることがあり、ずれやひび割れから地下水が浸入する虞がある。そして、管路内に地下水が浸入した場合、下水道処理施設に過大な負担をかけるという問題や、地下水と共に管路周囲の土砂が入り込んで管路の断面積が減少したり、周囲に空洞が生じて道路陥没の原因となるという問題が生じる。
【0004】
劣化した既設管を補修する場合、既設管の内部に複数の新たな管(新管)を連続させて挿入してマンホール間に新管からなる新たな管路を形成し、更に、新管と既設管との間に形成された隙間にセメントミルクを充填して補修する鞘管工法がある。この鞘管工法では、補修された管路は既設管の強度に硬化したセメントと新管の強度を付加した強度を発揮する。
【0005】
鞘管工法の場合、新管と既設管との隙間に均一にセメントミルクを充填することが困難であるという問題があり、この問題を解決するために、前記隙間の寸法を大きくとる必要がある。このため、新たな管路の内径は既設管の内径よりもかなり小さくなってしまうという問題が生じる。また、新管と既設管との隙間に充填されたセメントミルクによって新管に浮力が作用して浮上し、新管の中心と既設管の中心との間に偏心が生じるという問題も生じる。
【0006】
上記の如き鞘管工法に於ける新管と既設管との隙間が大きくならざるを得ないという問題を解決するために、既設管の内周面に弾力性を持った緩衝材による被覆層を形成した後、この被覆層の内側に新管を挿入する被覆工法が提案されている。この被覆工法では、新管の先頭に取り付けた先頭体によって被覆層を圧縮させつつ推進することで、新管を既設管に挿入している。そして、先頭体がマンホールに到達した後、この先頭体を離脱させることで、新管による補修を行っている。
【0007】
上記被覆工法では、新管を挿入したとき、被覆層は十分に圧縮されて厚みが薄くなっており、新管と既設管との隙間を小さくすることができる。このため、補修した管路の内径を鞘管工法を採用したときと比較して大きい寸法とすることができるという効果を発揮する。また、新管と既設管との間に弾力性を有する被覆層が介在するため、新管と既設管との相対的な変位を吸収することができるという効果も発揮する。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかし、上記被覆工法であっても全く問題がないわけではなく、既設管の内周面に緩衝材による被覆層を形成した後、該被覆層を圧縮させながら新管を挿入するため、挿入に際し新管と緩衝材との間に大きな摩擦抵抗が生じるという問題がある。この問題は、管の口径が大きくなるのに伴って、又は挿入延長が大きくなるのに伴って顕著になる。
【0009】
また、新管と既設管との間に存在する被覆層は、弾力性を有する緩衝材によって構成されており、且つ固形化したものではない。このため、長期間の使用に伴って、新管の下部にある緩衝材は上部にある緩衝材に比較して厚みが薄くなり、結果として新管が沈下して新管の中心と既設管の中心との間に偏心が生じるという問題が生じる。この問題は特に大口径の既設管を補修したときに生じる。
【0010】
本発明の目的は、既設管路の内周面に配置した緩衝材の内側に新管を挿入する際の摩擦抵抗を小さくすることが可能で、且つ長期間使用しても新管が沈下することがないようにした補修工法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0011】
上記課題を解決するために本発明に係る管路の補修工法は、既設管の内周面に弾性を有する緩衝材を配置すると共に該緩衝材の内部に新管を挿入して管路を補修する補修工法であって、既設管の内周面に配置した緩衝材と該緩衝材の内部に挿入する新管との間に前記緩衝材と前記新管との摩擦を軽減させる減摩部材を配置して、前記新管を前記緩衝材の内部に挿入することを特徴とするものである。
【0012】
上記補修工法に於いて、前記減摩部材が、既設管の内周面に配置された緩衝材の内部に且つ管路の長さ方向に配置されているか、又は新管の外周に且つ該新管の長さ方向に配置されていることが好ましい
【0013】
上記何れかの補修工法に於いて、前記減摩部材が、緩衝材の内部に挿入された新管を支持して該新管の重量が直接緩衝材に作用することを防ぐように構成されていることが好ましい。
【発明の効果】
【0014】
本発明に係る補修工法では、既設管の内周面に配置した緩衝材と該緩衝材の内部に挿入する新管との間に、緩衝材と新管との摩擦を軽減させる減摩部材を配置して新管を緩衝材の内部に挿入するので、新管を挿入する際の摩擦抵抗を軽減させることができる。
【0015】
上記補修工法に於いて、減摩部材が、既設管の内周面に配置された緩衝材の内部に且つ管路の長さ方向に配置されている場合には、軽減した摩擦抵抗の状態で新管を挿入することができる。即ち、挿入に際し、新管には何ら加工する必要がなく、容易に作業を行うことができる。
【0016】
また、上記補修工法に於いて、減摩部材が、新管の外周に且つ該新管の長さ方向に配置されている場合には、既設管の内周面に緩衝材を配置する以外の作業が必要がなく、減摩部材の施工を全て地上又はマンホールの内部で行うことができる。このため、作業性を向上させることができる。
【0017】
また、減摩部材が、緩衝材の内部に挿入された新管を支持して該新管の重量が直接緩衝材に作用することを防ぐように構成されている場合には、長期間使用しても挿入された新管が既設管の内部で沈下することがなく、新管の中心と既設管の中心とがずれることを防ぐことができる。
【0018】
本発明に係る補修工法では、緩衝材が既設管の内周面に配置されるので、この緩衝材の内部に挿入された新管は緩衝材によって支持される。このため、地震時や地盤沈下が生じて既設管が変位するような場合でも、この変位を緩衝材によって吸収することが可能であり、新管に作用する虞のある応力を最小限にすることができる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【図1】第1実施例に係る補修工法を説明する図である。
【図2】第1実施例に係る補修工法の他の例を説明する図である。
【図3】第2実施例に係る補修工法の部分的な拡大図である。
【図4】減摩部材と新管との関係を模式的に説明する図である。
【図5】減摩部材の例を説明する図である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下、本発明に係る補修工法について説明する。本発明に係る補修工法は、劣化した既設の管路(以下「既設管」という)の内周面に緩衝材からなる被覆層を形成し、この被覆層の内部に新たな管路(以下「新管」という)を構成することによって補修するものである。特に、被覆層の内部に新管を挿入する際に、緩衝材と新管との摩擦を軽減させる減摩部材を配置することによって、新管の挿入を容易に行えるようにしたものである。
【0021】
補修すべき既設管の口径は限定するものではなく、作業員が中に入ることのできない小口径の既設管から、作業員が中に入って作業することが許される大口径の既設管まで適用することが可能である。特に、緩衝材を既設管の内周面に配置する際の作業性の面からみて、800mm〜2000mm程度の口径を有する既設管に適用することが有利である。
【0022】
本発明に於いて、補修すべき既設管の劣化状態を問うものではなく、如何なる劣化状態であっても対応することが可能である。即ち、既設管の劣化状態が、内周面の腐食やひび割れの発生、或いは管の継ぎ目に生じた管どうしのずれや段差等を含むものであって良く、管路の強度が低下したり、内部に地下水が浸入して支障が生じるような場合を含む。しかし、管どうしのずれや段差が大きい場合、補修に先立って、ずれた部分を埋めたり、段差を滑らかにするような前処理が必要となる。
【0023】
また、「既設管の内周面に緩衝材を配置する」とは、緩衝材が既設管の内周面に固定されているか否か、を問うものではなく、新管を挿入したとき、該新管と既設管の内周面との間に配置されていれば良い。従って、新管の挿入に先立って、緩衝材を既設管の内周面に固定しておく場合と、緩衝材を既設管の内周面に固定することなく単に既設管に内部に通しておくだけの場合とがある。本発明では、何れの場合であっても緩衝材の内部に新管を挿入したとき、緩衝材は既設管の内周面と新管との間に存在することとなり、既設管の内周面に緩衝材を配置したものとする。
【0024】
既設管の内周面に配置する緩衝材は弾力性を有する緩衝性能を発揮し得るものであれば良く、材質を限定するものではない。このような緩衝材としては、合成繊維や天然繊維或いは無機質繊維からなる織布や不織布があり、これらの中から選択的に採用することが可能である。また、緩衝材としては織布や不織布に限定されるものではなく、弾力性を有する合成樹脂の発泡体を採用することも可能である。
【0025】
緩衝材の形状は特に限定するものではなく、シート状のものやスリーブ状のものを用いることが可能である。しかし、シート状の緩衝材を用いるか、スリーブ状の緩衝材を用いるかによって既設管の内周面に配置する際の施工法は異なるため、補修すべき既設管の径を含む条件に応じて適宜選択することが好ましい。
【0026】
例えば、シート状の緩衝材を既設管の内周面に配置する場合、既設管の内周面に緩衝材を沿わせておき、接着或いは釘等の手段によって張り付けておくことが必要となる。このような作業は、既設管の中に作業員が入って行うこととなり、大口径の既設管を対象としたときに有利である。
【0027】
スリーブ状の緩衝材を既設管の内周面に配置する場合、予め既設管の径に対応させた径を有する緩衝材のスリーブを平たく畳んでおき、この緩衝材を既設管の内部に通した後、内部に圧縮空気を供給して膨らませることで既設管の内周面に配置することが可能である。また、既設管の内部にスリーブ状の緩衝材を平たく畳んだ状態で通しておき、この緩衝材の内部に直接新管を挿入し、挿入した新管を推進することによって緩衝材を既設管の内周面に押し付けて配置することも可能である。
【0028】
上記の如く、既設管の内周面に緩衝材を配置する際の施工法や、緩衝材の形状は限定することなく、種々のものを選択して採用することが可能である。特に、補修すべき既設管に対する施工の容易さを考慮すると、大口径の既設管に対してはシート状の緩衝材を用い、小口径の既設管に対してはスリーブ状の緩衝材を用いることが好ましい。何れにしても緩衝材は、予め補修すべき既設管の内径に対応した最適なものを選択して採用することが好ましい。
【0029】
緩衝材の厚さは補修すべき既設管の径や劣化の状態に応じて異なるものの、自由状態で約10mm〜約30mm程度であることが好ましく、この緩衝材に新管を挿入したときに約30%〜約80%程度の圧縮率で圧縮することが好ましい。しかし、既設管や新管はJIS規格を含む規格によって径が決まっており、目的の既設管の径とこの既設管を補修する新管の径に対応し、前記圧縮率を想定した厚さを持った緩衝材を選択することが好ましい。
【0030】
例えば、補修すべき管路に不陸が生じていたり、既設管どうしの間に抜けなどに起因する寸法の大きい段差が生じているような場合、緩衝材が上記厚さよりも薄いと新管の挿入が困難になる虞がある。また、緩衝材が上記厚さよりも厚くなると、既設管と新管との隙間を大きくすることになり、補修後の管路の断面積が小さくなるという問題が生じ、更に、緩衝材の内部に新管を挿入する際に必要な推進力も大きくなるという問題が生じる。
【0031】
緩衝材を繊維や発泡体によって構成した場合、既設管に生じたひび割れや管どうしのずれた部分から地下水と土砂が浸入しても、土砂によって緩衝材が目詰まりを起こして、浸入した地下水が他の部位まで浸透するのを防ぐことが可能であるため好ましい。
【0032】
既設管を補修する新管の材質は特に限定するものではなく、従来の鞘管工法で用いられる管を用いることが可能である。即ち、合成樹脂管やコンクリート管、鉄管、FRP管、FRPM管等の管を選択的に用いることが可能である。
【0033】
減摩部材は、既設管の内周面に配置された緩衝材の内部に新管を挿入する際に、緩衝材と新管との間に生じる摩擦抵抗を軽減させるものである。このため、緩衝材と新管との摩擦抵抗を軽減させ得るものであれば、材質や形状を限定することなく利用することが可能である。特に、緩衝材と新管との摩擦は両者の全接触面で生じるため、緩衝材の内周面又は新管の外周面或いは両者に減摩部材を設けることで、緩衝材と新管との摩擦を軽減させることが好ましい。
【0034】
減摩部材としては、緩衝材と新管との間に配置されて、両者と接触し或いは何れか一方と接触して摩擦を軽減させるような部材、或いは緩衝材の一部を圧縮して変形させることで、緩衝材の新管に対する接触を遮断させるような部材、或いは接触面積を減少させるような部材、であって良く、このような部材を緩衝材の材料や新管の材料に対応させて選択することが好ましい。
【0035】
緩衝材と新管との摩擦を軽減させることが可能なものとして、例えば4フッ化エチレン樹脂やシリコン樹脂等の摩擦係数の小さい素材がある。このような素材からなるシートを既設管の内周面に配置した緩衝材の更に内面に張り付けることによって、或いは新管の全外周面に張り付けることによって、減摩部材として利用することが可能である。このようなシートの厚さは特に限定するものではないが、取り扱いを容易とすることの観点から、約0.2mm〜約0.5mm程度であることが好ましい。
【0036】
特に、新管の外周面に減摩部材を配置する場合、単に4フッ化エチレン樹脂やシリコン樹脂からなるシートを巻き付けておくことでも良い。しかし、シートを巻き付けただけでは緩衝材の内部に挿入する際に、外れてしまう虞がある。このため、新管の全外周に4フッ化エチレン樹脂やシリコン樹脂によるコーティングやライニング等の表面処理を施すことで、確実な減摩部材の配置を実現することが可能である。
【0037】
上記の如く、緩衝材の内周面に又は新管の外周面にシート状の減摩部材を配置した場合には、この減摩部材は新管の外周面、又は緩衝材の内周面と略均一に接触することとなり、新管の挿入時に生じる摩擦を軽減することが可能となる。
【0038】
また、既設管の内周面に配置された緩衝材の内部に新管を挿入する際に、新管の中心位置と既設管の中心とにずれが生じている場合、新管の挿入の際に生じる緩衝材の圧縮の度合いが不均一になる。このため、緩衝材の新管に対する反力が不均一となり、この結果、新管の全外周にわたって生じる摩擦抵抗が不均一となるため、全体の摩擦抵抗が大きくなる。特に、緩衝材が圧縮されて薄くなった部分では既設管の凹凸や不陸の影響を受け易くなり、大きな抵抗が生じる虞がある。従って、円滑な挿入作業を行うのに支障をきたす虞がある。
【0039】
このため、緩衝材の内部に新管を挿入する場合、既設管と新管の中心を略一致させることによって、発生する摩擦抵抗の平均化をはかることが可能であり、これにより円滑な挿入作業を実現することが可能となる。例えば、緩衝材の内部に、新管の中心位置が既設管の中心と略一致するように支持する支持部材を設け、該支持部材によって新管を支持することで、既設管と新管の中心を略一致させることが可能である。
【0040】
上記の如く、緩衝材の内部に設けた支持部材によって新管を支持して新管の中心位置を既設管の中心位置を略一致させることで、新管の挿入に伴って生じる緩衝材の変形量(圧縮される厚さ)は全周にわたって略均一となる。このため、新管の挿入に伴って生じる摩擦抵抗、及び緩衝材の圧縮変形に必要な抵抗も全周にわたって略均一となり、円滑な挿入作業を実現することが可能となる。
【0041】
支持部材は新管の一部と接触して該新管の重量を支持している。この支持部材が充分に高い剛性と強度を有する。このため、緩衝材が負担する重量を小さくすることが可能となり、この結果、新管の挿入に伴って生じる摩擦抵抗を小さくすることが可能である。
【0042】
特に、支持部材を新管との摩擦係数の小さい材質とすることで、新管を挿入する際の摩擦抵抗を軽減することが可能となり、この支持部材を減摩部材として用いることが可能である。また、支持部材は緩衝材よりも硬い材質であることが必要である。このように、緩衝材よりも硬い材質からなる支持部材を用いることによって、新管の重量が直接緩衝材に作用することがない。このため、新管を挿入する際に、該新管と緩衝材との接触摩擦を軽減することが可能となる。
【0043】
上記の如き支持機能を有する減摩部材として、アングル材やチャンネル材、レールを含む鋼やステンレス鋼からなる形材、丸棒や角棒等の棒状の部材、新管との接触部位に4フッ化エチレン樹脂やシリコン樹脂等によるコーティング或いはライニング等の表面処理を施した鋼製の形材や棒状の部材、更に、ナイロンを含む摩擦係数の小さい合成樹脂製の形材等があり、これらの中から選択的に採用することが可能である。
【0044】
減摩部材として上記の如き形材や棒状の部材を用いる場合、これらは長尺状であることが好ましい。このような減摩部材を既設管の内周面に配置した緩衝材の内周面に於ける上部側に配置する場合、減摩部材の落下を防止する目的で予め内周面に固定しておく必要がある。しかし、重量の大きい形材や棒状の部材の場合、緩衝材の内周面の上部側に固定するのは作業に手間がかかるため、緩衝材の内部であって下部側にのみ、該既設管の全長にわたって配置しておくことで良い。そして、新管を挿入する際には予め配置されている形材或いは棒状の部材に挿入すべき新管を載置して推進することで、緩衝材と新管との摩擦抵抗を軽減させることが可能となる。
【0045】
上記の如く、緩衝材の内部であって下部側に形材や棒状の部材からなる減摩部材を配置したとき、これらの減摩部材によって緩衝材に変形が生じ、該緩衝材と挿入された新管の外周面との間に隙間が形成される。即ち、緩衝材と新管の外周面とが全周にわたって接触することがなく、新管を挿入する際に生じる摩擦抵抗を軽減することが可能となる。
【0046】
上記の如く、減摩部材を兼ねた支持部材を用いた場合、この支持部材は新管を挿入した後は補修された管路内に残置される。このため、支持部材は緩衝材と比較して圧縮力に対する強度が大きい(緩衝材よりも硬い)ことが好ましい。このような支持部材を用いることで、緩衝材に経時的な変形が生じることを防ぐことが可能となりう、補修された管路が長期間にわたって使用されたとしても、下方の緩衝材が圧縮されて厚さが薄くなってしまう虞がない。従って、長期間使用しても新管と既設管の中心を略一致した状態で保持することが可能である。
【0047】
また、既設管の内周面に配置された緩衝材の内部に長尺状の支持部材を配置することなく、新管の中心を既設管の中心に略一致させることが可能である。即ち、緩衝材の厚さに対応させた厚さ或いは高さを有する減摩部材を新管の外周面に取り付けておくことで、この新管を緩衝材の内部に挿入したとき、該新管の中心を既設管の中心と略一致させることが可能である。
【0048】
上記の如き減摩部材の形状としては、新管の外周に嵌め込まれるリング状のもの、複数の滑り面を有するそり状のもの、等がある。また、これらの形状を持つ減摩部材の材質としては、ポリエチレンやナイロンを含む合成樹脂等がある。従って、前記した材料によってリング状に或いはそり状に成形することで、減摩部材を製造することが可能である。
【0049】
そして、上記の如き形状と材質を有する成形体を新管の外周面に強固に一体化することで、新管を緩衝材の内部に挿入する際には摩擦抵抗を軽減することが可能である。この成形体を一体化させた新管を用いて補修した管路では、前記成形体が緩衝材と比較して圧縮力に対する強度が大きいため、経時的な変形が生じ難く、長期間にわたって使用されたとしても、下方の緩衝材が圧縮されて厚さが薄くなってしまう虞がない。従って、長期間使用しても新管と既設管の中心を略一致した状態で保持することが可能である。
【0050】
このように、新管の外周めんに成形体を取り付けて新管の中心を既設管の中心に略一致させた場合でも、新管の挿入に伴って生じる緩衝材の変形量を全周にわたって略均一とすることが可能となる。このため、新管の挿入に伴って生じる摩擦抵抗、及び緩衝材の圧縮変形に必要な抵抗も全周にわたって略均一となり、円滑な挿入作業を実現することが可能とである。
【0051】
更に、シート状の減摩部材を外周面に巻き付けた新管を棒状の支持部材によって支持して緩衝材の内部に挿入することで、或いはシート状の減摩部材を内周面に巻き付けた緩衝材の内部に外周面に減摩部材を取り付けた新管を挿入することで、より摩擦抵抗を軽減させることが可能である。即ち、前述のシート状の減摩部材と支持部材、又はシート状の減摩部材と新管の外周面に取り付ける減摩部材、を夫々併用することも可能である。
【0052】
緩衝材の内部に新管を挿入する場合、新管の後部から押し込んで推進することで良いが、先頭に配置された新管に先頭体を取り付けておき、この先頭体にワイヤを接続して引っ張ることで推進しても良い。
【0053】
新管の後部に推力を付与して緩衝材の内部に挿入する場合、新管を構成する単位管どうしの接続は必ずしも強固である必要はなく、通常の推進工法で採用されるジョイントを利用し、或いはソケットを利用して接続部分に於ける水密性を確保し得れば良い。しかし、先頭体にワイヤを接続して引っ張ることで新管を推進する場合、新管を構成する複数の単位管どうしは強固に接続される必要があり、ねじを介した接合等を考慮する必要がある。
【0054】
次に、第1実施例に係る補修工法について図1を用いて説明する。図に示す補修すべき既設管1は下水道用の管路であり、マンホール2から図示しない他方のマンホールの間に複数のヒューム管を連続させて敷設されている。既設管1の内周面には緩衝材3が配置されている。
【0055】
緩衝材3はポリエステル繊維からなる不織布(フェルト)を既設管1の内径に対応させたスリーブ状に形成されている。このスリーブを、引込式又は反転式でマンホール2から隣接する他方のマンホールまで挿入した後、圧縮空気を供給して膨らませることで既設管1の内周面に圧接させ、この圧接状態を保持させている。この状態では、緩衝材は自由な状態を保持しており、厚さは略素材の厚さ(例えば30mm)を保持している。
【0056】
尚、前述したように、緩衝材3がシート状に形成されている場合、作業員が既設管1の内部に入り込んで該既設管1の内周面に緩衝材3を沿わせて接着或いは釘等によって張り付けておく。
【0057】
既設管1の内周面に配置された緩衝材3の内部であって下方には、減摩部材となる一対のレール4が一方のマンホール2から他方のマンホールにむけて、且つ既設管1の全長にわたって配置されている。レール4は、ステンレス鋼や硬質合成樹脂からなるアングル状の形材として構成されており、新管5(単位管5a)を載置したとき、既設管1の中心と新管5の中心が略一致し得るような寸法を有している。
【0058】
上記の如く配置されたレール4は、緩衝材3の内部に単位管5aを挿入する際に、該単位管5aと滑り接触しつつ荷重を支持することで、摩擦抵抗を軽減する減摩部材としての機能を発揮すると共に、推進方向を案内するガイド部材としての機能も有している。
【0059】
上記レール4は摩擦抵抗の小さい素材を用いることが好ましい。しかし、強度的な問題が生じるような場合、強度を優先させてレール4を構成し、少なくとも単位管5aと接触する表面に4フッ化エチレン樹脂或いはシリコン樹脂等による表面処理を施しておくことが好ましい。
【0060】
本実施例では、マンホール2には、単位管5aを推進するジャッキ7が設置されている。ジャッキ7は、単位管5aを載置して推進方向を案内するベッド7aと、ベッド7aに載置された単位管5aを推進する押輪7bと、押輪7bを往復駆動する駆動シリンダー7cと、を有して構成されている。そして、ジャッキ7はマンホール2の底盤2aに設置され、単位管5aの推進時に発生する反力を支持し得るように構成されている。
【0061】
単位管5aを緩衝材3の内部に推進するに際し、先頭の単位新管5aの先端には、外周の径が単位管5aよりも僅かに大きく設定された先頭体8が取り付けられている。この先頭体8は、ジャッキ7によって単位新管5aを推進する際に、緩衝材3を既設管1の内周面に押圧して拡径する機能を有する。
【0062】
次に、第1実施例に係る補修工法の手順について説明する。先ず、マンホール2に設置されたジャッキ7に先頭の単位管5aを載置し、この単位管5aに先頭体8を取り付ける。次いで、ジャッキ7の駆動シリンダー7cを駆動して押輪7bを前進させることで、単位管5aを推進する。この推進に伴って、先頭体8は緩衝材3を既設管1の内周面に圧接させて厚さを減少させる。
【0063】
推進された単位管5aはジャッキ7のベッド7aからレール4に移り、該レール4に載置された状態で推進される。このため、単位管5aの重量の一部はレール4に支持されることとなり、該単位管5aの重量の全てが緩衝材3に直接作用することがない。従って、単位管5aと緩衝材3の接触部分に作用する荷重が小さくなり、推進に伴って生じる摩擦抵抗が軽減される。1本の単位管5aの推進が終了すると、押輪7bを元の位置に復帰させた後、ベッド7aに新たな単位管5aを載置して既に推進された単位管5aに連続させて推進する。
【0064】
上記の如くして複数の単位管5aを連続させて推進し、先頭体8が隣接するマンホールに到着したとき、この先頭体8を離脱させることで、マンホール2及び他方のマンホールの間に敷設されている既設管1を新管5によって補修することが可能となる。
【0065】
特に、新管5がレール4に対する載置状態を保持していることから、将来長期間にわたって使用されたとしても、内部を流通する下水の重量を含む新管5からの荷重は全て減摩部材4に支持されることとなり、緩衝材3に偏った厚さの変動が生じることがない。従って、既設管1の中心と新管5の中心を略一致させた状態を保持することが可能となる。
【0066】
また、図2に示すように、減摩部材4として前述のアングル状の形材からなるレールに代えて断面形状が角型の棒状の部材を用いることも可能である。この場合、既設管1の内周面に緩衝材3を配置し、該緩衝材3の下部側の内部に複数本(図には2本)の減摩部材4を配置し、この減摩部材4に単位管5aを接続した新管5を推進することが可能である。
【0067】
同図に示すように、複数の減摩部材4に新管5を載置したとき、該新管5の重量は減摩部材4から緩衝材3を経て既設管1に伝えられる。このため、減摩部材4と接触している緩衝材3には伝えられた重量に応じた大きな変形が生じるものの、減摩部材4の間にある緩衝材3には大きな変形が生じることなく、新管4の外周面から離隔するか、僅かに接触するように変形する。即ち、減摩部材4の周囲にある緩衝材3には新管5に対し非接触となる部位が生じる。このため、新管5の推進時に生じる摩擦抵抗を軽減することが可能となる。
【0068】
上記の如く、新管5の重量の一部が減摩部材4を介して既設管1に伝えられて支持されるため、緩衝材3の一部に新管5の全重量が直接作用することがなく、長期間使用した場合でも偏心荷重によって変形することがない。従って、既設管1の中心と新管5の中心を略一致させた状態を保持することが可能となる。
【0069】
次に、第2実施例に係る補修工法について図3〜5を用いて説明する。本実施例は、単位管5aの外周に減摩部材10を装着して緩衝材3の内部に挿入することで、推進時に生じる摩擦抵抗を軽減すると共に、新管5の中心を既設管1の中心に略一致させた状態を保持し得るようにしたものである。
【0070】
即ち、図4に示すように、単位管5aの外周であって前後の端部近傍には、複数の治具11をリング状に接続することによって構成した減摩部材10が鉢巻状に装着されている。そして、単位管5aを緩衝材3の内部に挿入する際に生じる摩擦抵抗を、減摩部材10によって軽減し得るように構成されている。
【0071】
治具11は摩擦抵抗が小さく且つ高い強度を発揮し得る合成樹脂を材料とする成形品として構成されている。この治具11は、図5に示すように、湾曲状に形成された湾曲部11aと、湾曲部11aの長手方向の両端部分に形成された接続部11bと、接続部11bの一方側に形成された接続バンド11cと、接続部11bの他方側に形成された接続孔11dと、を有している。
【0072】
特に、湾曲部11aは頂部に力が作用したとき、作用する力に応じてつぶれるように変形して力を吸収するため、該湾曲部11aの湾曲形状は減摩部材10としての強度に影響を与えることになる。また、新管5を挿入した後の緩衝材3の厚さを含む補修時の条件は既設管1の口径に応じて変化する。従って、湾曲部11aの湾曲形状や寸法は一義的に設定されるものではなく、既設管1の口径、新管5の口径等の補修条件に対応させて適宜設定される。
【0073】
本実施例では、湾曲部11aは2本の湾曲部材を有して構成されているが、この形状に限定するものではなく、1本又は3本或いはより多数の湾曲部材によって湾曲部11aを構成しても良い。このような形状も、前述した補修条件に対応させて適宜設定される。
【0074】
上記の如く構成された治具11を、目的の単位管5aの外周の長さに対応させて複数選択し、夫々のバンド11cを隣接する治具11の孔11dに挿通して絞ることで接続しつつ、単位管5aの外周に巻き付けることで装着することが可能である。複数の治具11を接続して減摩部材10を構成したとき、治具11を構成する湾曲部11aが自由な湾曲状態を保持している。
【0075】
次に、第2実施例に係る補修工法の手順について説明する。先ず、既設管1を補修するのに必要な数の単位管5aを用意すると共に、各単位管5a毎に外周に減摩部材10を装着しておく。
【0076】
次に、前述の第1実施例と同様に先頭の単位管5aの先端に、単位管5aの外径よりも大きく且つ既設管1の内径よりも小さく外径を持った先頭体8を装着する。そして、一方のマンホールから他方のマンホールに向けて推進する。この推進に伴って、図3に示すように、先頭体8が緩衝材3を既設管1の内周面側に押圧して圧縮する。
【0077】
単位管5aの外周に装着した減摩部材10は、個々の治具11の湾曲部11aが橇のように作用する。即ち、湾曲部11aが摩擦抵抗の小さい材料によって構成されているため、緩衝材3との接触摩擦が軽減され、単位管5aの推進に伴う摩擦抵抗を軽減することが可能となる。
【0078】
また、治具11の湾曲部11aが緩衝材3を既設管1の内周面側に押圧することから、緩衝材3が単位管5aの外周に接触することが妨げられることとなり、両者の間で生じる摩擦抵抗を略無視することが可能となる。従って、単位管5aを緩衝材3の内部で推進する際に摩擦抵抗は略緩衝材3と治具11との間で生じることとなり、この結果、摩擦抵抗を軽減することが可能である。
【0079】
複数の単位管5aを連続させて推進し、先頭体8が他方のマンホールに到達した後、先頭体8を離脱させることで、隣接するマンホール間に敷設された既設管1を新管5によって補修することが可能である。このようにして既設管1を補修した新管5は、該新管5を構成する単位管5aが外周に装着した減摩部材10によって支持される。このため、新管5に作用する荷重を減摩部材10によって支持することとなり、長期間にわたって使用しても、緩衝材3の一部(新管の下方)が他の部分よりも薄くなることがなく、新管5の中心と既設管1の中心を略一致させた状態で保持することが可能となる。
【産業上の利用可能性】
【0080】
本発明に係る補修工法は、下水道用の既設管のみならず、地中に敷設され、劣化したときに内部に地下水が浸入する虞のある既設管に利用することが可能である。
【符号の説明】
【0081】
1 既設管
2 マンホール
2a 底盤
3 緩衝材
4 レール
5 新管
5a 単位管
7 ジャッキ
7a ベッド
7b 押輪
7c 駆動シリンダー
8 先頭体
10 減摩部材
11 治具
11a 湾曲部
11b 接続部
11c 接続バンド
11d 接続孔

【特許請求の範囲】
【請求項1】
既設管の内周面に弾性を有する緩衝材を配置すると共に該緩衝材の内部に新管を挿入して管路を補修する補修工法であって、
既設管の内周面に配置した緩衝材と該緩衝材の内部に挿入する新管との間に前記緩衝材と前記新管との摩擦を軽減させる減摩部材を配置して、前記新管を前記緩衝材の内部に挿入することを特徴とする補修工法。
【請求項2】
前記減摩部材が、既設管の内周面に配置された緩衝材の内部に且つ管路の長さ方向に配置されていることを特徴とする請求項1に記載した補修工法。
【請求項3】
前記減摩部材が、新管の外周に且つ該新管の長さ方向に配置されていることを特徴とする請求項1に記載した補修工法。
【請求項4】
前記減摩部材が、緩衝材の内部に挿入された新管を支持して該新管の重量が直接緩衝材に作用することを防ぐように構成されていることを特徴とする請求項1乃至3の何れかに記載した補修工法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2012−241880(P2012−241880A)
【公開日】平成24年12月10日(2012.12.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−115824(P2011−115824)
【出願日】平成23年5月24日(2011.5.24)
【出願人】(595053777)吉佳エンジニアリング株式会社 (49)
【Fターム(参考)】