説明

管部材の接合体、接合方法、及び冷凍サイクル装置の熱交換器

【課題】 経年腐食により管部材の接続箇所から流体が漏洩するのを好適に防止し得る管部材の接合体、その接合方法、及び該接合体を備える冷凍サイクルの熱交換器を提供する。
【解決手段】 接合体40は内嵌管部材50とこれに外嵌する外嵌管部材60とを備え、内嵌管部材の外周面52上には犠牲防食層53が設けられ、且つ、外嵌管部材60との接合箇所付近には非防食部54が内嵌管部材50を周回して形成されており、内嵌管部材50の非防食部54と外嵌管部材60との間がロウ付けされることにより、内嵌管部材50及び外嵌管部材60が互いに接合されている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、内部を流体が流れる管部材を延長接続した接合体であって、特に、接合箇所からの流体の漏洩を防止できる接合体に関する。また、その接合方法と、当該接合体を冷媒管の延長接続箇所に備える冷凍サイクル装置の熱交換器と、に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、冷凍サイクル装置として特に空気調和機では、室外熱交換器及び室内熱交換器の夫々の内部に配設される冷媒管、並びに、これら室内外の熱交換器の間を接続する冷媒管として、銅又は銅合金で形成された管部材を使用することが主流である。ところが、軽量化や低コスト化といった要望から、近年ではアルミニウム又はアルミニウム合金で形成した管部材を使用することが提案されている(特許文献1参照)。
【0003】
また、アルミニウム又はアルミニウム合金で形成した管部材の防食性を向上させるための方法も提案されている。例えば、当該管部材の外表面上にZn溶射して形成したZn拡散層を犠牲防食層とする方法や、管部材の外表面上に、該管部材より電気的に卑な金属(Znなど)を含有するクラッド層を設ける方法などが開示されている(特許文献1,2参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2005−90761号公報
【特許文献2】特開2005−16937号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところで、上記特許文献1,2に開示された防食手段は、管部材の周壁部が腐食して貫通孔が形成されると、この貫通孔から内部の流体が漏洩することを鑑み、このような貫通孔が形成されるのを防止しようとするものである。しかしながら、管部材の内部を流れる流体の漏洩ルートは、周壁部に形成される貫通孔だけに限られない。特に、犠牲防食層が外表面に形成された管部材を他の管部材に内嵌接合した場合、その接合箇所の経年腐食によって、流体が漏洩し得る隙間が形成されてしまう可能性がある。
【0006】
図7は、従来の管部材の接合箇所に、経年腐食により隙間が形成される状況を説明するための模式的断面図である。この図7に示す接合体100は、アルミニウム合金製の第1管部材110の開口端部111に、同様にアルミニウム合金製の第2管部材120の開口端部121を外嵌させ、両者をロウ材130によってロウ付けした構成になっている。また、各管部材110,120の外表面上には、これらよりも電気的に卑な金属から成る犠牲防食層112,122が形成されている。従って、上記ロウ材130は、第1管部材110に対してはその犠牲防食層112の外表面に接続した状態になっている(図7中の「初期状態」のイラスト参照)。
【0007】
このような接合体100の場合、犠牲防食層112は、これに接触する第1管部材100及び第2管部材120よりも電気的に卑であり、且つ、一般にはロウ材130に対しても電気的に卑である。従って、経年により犠牲防食層112が最も早く腐食する。また、例えばロウ材130との接触箇所では、異種金属接触腐食により犠牲防食層112の腐食が早期に進行する傾向がある。そうすると、犠牲防食層112のうち、初期状態では第1管部材110及び第2管部材120の間に挟まれて存在していた部分112aが、腐食により消滅して隙間140が形成されてしまう可能性がある。そうすると、この隙間140を介して流体が外部へ漏洩してしまうことになる(図7中の「漏洩状態」のイラスト参照)。
【0008】
そこで本発明は、上述したような事情に鑑みて、経年腐食により管部材の接続箇所から流体が漏洩するのを好適に防止し得る管部材の接合体、その接合方法、及び該接合体を備える冷凍サイクル装置の熱交換器を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明に係る管部材の接合体は、流体を通流させる内嵌管部材と、該内嵌管部材の開口端部に外嵌して接合され、前記流体を通流させる外嵌管部材と、を備え、前記内嵌管部材の外周面上には、該内嵌管部材に対する防食作用を有する犠牲防食層が設けられ、且つ、前記外嵌管部材との接合箇所付近には、前記犠牲防食層の欠如により前記内嵌管部材の外周面が露出した非防食部が、該内嵌管部材を周回して形成されており、前記内嵌管部材の前記非防食部と前記外嵌管部材との間がロウ付けされることにより、前記内嵌管部材及び前記外嵌管部材が互いに接合されている。
【0010】
このような構成とすることにより、接合箇所付近の犠牲防食層が腐食した場合であっても、内嵌管部材の外表面が露出した非防食部が外嵌管部材との間でロウ付けされているため、そのロウ材が内嵌管部材と外嵌管部材との隙間を閉鎖した状態に維持する。従って、内嵌管部材と外嵌管部材との間に隙間が生じ、そこから内部の流体が漏洩するのを防止することができる。なお、内嵌管部材の腐食に関しては、犠牲防食層が優先して腐食することによりこれを抑制できることは言うまでもない。
【0011】
また、前記内嵌管部材はアルミニウム製又はアルミニウム合金製であり、前記犠牲防食層は、Al-Zn合金のクラッド層から成るようにしてもよい。
【0012】
また、前記内嵌管部材はアルミニウム製又はアルミニウム合金製であり、前記犠牲防食層は、前記内嵌管部材の外周面上に形成されたZn拡散層から成るようにしてもよい。
【0013】
本発明に係る管部材の接合方法は、開口端部の近傍に、外周面の一部が露出した非防食部を有し、該非防食部を避けて前記外周面上に犠牲防食層が設けられた内嵌管部材を形成する第1の工程と、該内嵌管部材の前記開口端部に対して外嵌管部材を外嵌させ、前記非防食部と前記外嵌管部材との間をロウ付けする第2の工程と、を備えている。
【0014】
このような構成とすることにより、上述したような管部材の接合体を適切に製造することができ、製造された接合体においては、経年腐食による流体の漏洩を防止することができる。
【0015】
また、前記第1の工程は、外周面上に、Al-Zn合金のクラッド層又はZn溶射によるZn拡散層から成る犠牲防食層が設けられた内嵌管部材を形成する工程と、前記犠牲防食層の一部を切削又は薬剤により除去して前記非防食部を形成する工程と、を有していてもよい。
【0016】
また、前記第1の工程は、内嵌管部材の外周面上の非防食部を避けて、Al-Zn合金のクラッド層から成る犠牲防食層を前記外周面上に設けることとしてもよい。
【0017】
また、前記第1の工程は、内嵌管部材の外周面上の非防食部に対応する部分をマスキングした後に、該外周面に対してZn溶射してZn拡散層から成る犠牲防食層を形成し、更に前記マスキングを除去して前記非防食部を形成することとしてもよい。
【0018】
本発明に係る冷凍サイクル装置の熱交換器は、上述した何れかの管部材の接合体を、冷媒が通流する冷媒管同士の接合箇所に備えている。
【0019】
空気調和機の熱交換器が備える冷媒管は、内部を冷媒が通流するので外表面に水分が凝結しやすく、この水分による接合箇所の防食が重要である。これに対し、上述したような管部材の接合体を採用することにより、犠牲防食層が腐食した場合であっても、接合箇所に管部材の内外を連通する隙間が生じるのを防止することができる。従って、冷媒管の耐食性の向上を図ることができる。
【発明の効果】
【0020】
本発明によれば、経年腐食により管部材の接続箇所から流体が漏洩するのを好適に防止し得る管部材の接合体、その接合方法、及び該接合体を備える冷凍サイクル装置の熱交換器を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0021】
【図1】本実施の形態に係る空気調和機の構成を示す模式図である。
【図2】図1の室外熱交換器の具体的な構成を示す模式的斜視図である。
【図3】本実施の形態に係る管部材の接合体の構成を示す模式的断面図である。
【図4】経年腐食した接合体の構成を示す模式的断面図である。
【図5】本実施の形態に係る管部材の接合方法を説明するための模式図付きフローチャートである。
【図6】犠牲防食層及び非防食部を有する内嵌管部材の形成方法を示す模式図付きのフローチャートである。
【図7】従来の管部材の接合箇所に、経年腐食により隙間が形成される状況を説明するための模式的断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0022】
以下、本発明の実施の形態に係る冷凍サイクル装置の一種である空気調和機について、図面を参照しつつ説明する。図1は、本実施の形態に係る空気調和機の構成を示す模式図である。この図1に示すように空気調和機1は、冷房運転時に外部へ排熱する第1熱交換器2(以下、「室外熱交換器2」)と、外気から吸熱する第2熱交換器3(以下、「室内熱交換器3」)と、これらの熱交換器2,3を含んで構成される冷凍サイクル4とを備えている。また、これら室外熱交換器2及び室内熱交換器3の近傍には、それぞれモータ5,6によって駆動するファン7,8が設けられており、ファン7,8の回転駆動により発生する気流が、熱交換器2,3を経て流れるようになっている。
【0023】
なお、以下の説明では便宜上、「上流」及び「下流」という表現を用いるが、これらは、空気調和機1を冷房運転したときに冷凍サイクル4での冷媒の流れにおける「上流」及び「下流」を意味するものとする。そして、図1に示す冷凍サイクル4に沿って付された矢印は、冷房運転時に冷媒が「上流」から「下流」へ流れる向きを示している。また、付言しておくと、暖房運転をしたときの冷媒の流れは、冷房運転のときの冷媒の流れと逆向きになり、破線で示す通りである。
【0024】
図1に示すように、室内熱交換器3内には冷凍サイクル4の一部を構成する冷媒管4aが備えられており、その下流端からは冷媒管4bが延設されて室内機液側接続部10(冷房運転時における下流側の接続部)に接続されている。この室内機液側接続部10からは別の冷媒管4cが延設され、その下流端は三方弁11を介して冷媒管4dの上流端に接続され、更にその下流端は四方弁12の第1ポートに接続されている。四方弁12において、冷房運転時に第1ポートと連通する第2ポートからは冷媒管4eが延設され、その下流端は圧縮機13に接続されている。この圧縮機13は、冷房運転時においては室内熱交換器3から室外熱交換器2へ向かう低温低圧の冷媒を圧縮して高温高圧化し、暖房運転時において室外熱交換器2から室内熱交換器3へ向かう低温低圧の冷媒を圧縮して高温高圧化するものである。なお、図示していないが、圧縮機13の手前(上流側)には通常アキュムレータが接続され、冷媒の気液分離を行って、液冷媒が圧縮機13に戻らないようにしている。
【0025】
また、圧縮機13からは別の冷媒管4fが延設され、その下流端は、四方弁12の第3ポートに接続されている。四方弁12において、冷房運転時に第3のポートと連通する残りの第4ポートからは冷媒管4gが延設されており、その下流端は室外熱交換器2内に備えられた冷媒管4hの上流端に接続されている。この室外熱交換器2内の冷媒管4hの下流端からは別の冷媒管4iが延設され、その下流端は、膨張弁14に接続されている。この膨張弁14は、冷房運転時においては室外熱交換器2から室内熱交換器3へ向かう冷媒を降圧し、暖房運転時においては室内熱交換器3から室外熱交換器2へ向かう冷媒を降圧するものである。
【0026】
膨張弁14からは別の冷媒管4jが延設されており、その下流端は二方弁15の一方のポートに接続されている。この二方弁15の他方のポートからは冷媒管4kが延設され、その下流端は室内機接続部16(冷房運転時における上流側の接続部)に接続されている。そして、この室内機接続部16からは別の冷媒管4mが延設され、その下流端は、上述した室内熱交換器3内の冷媒管4aの上流端に接続されている。
【0027】
このようにして、冷媒管4a〜4k,4mによって周回経路4が構成されており、この周回経路4によって、室内熱交換器3,四方弁12,圧縮機13,室外熱交換器3,膨張弁14などが接続されている。また、上述した構成のうち、冷媒の流れに沿って三方弁11から二方弁15に至るまでの構成物(即ち、四方弁12,圧縮機13,室外熱交換器2,膨張弁14を含む)によって、本実施の形態に係る空気調和機1の室外機1Aが構成されている。また、冷媒の流れに沿って室内機液側接続部16から室内機液側接続部10へ至るまでの構成物(即ち、室内熱交換器3を含む)によって、空気調和機1の室内機1Bが構成されている。
【0028】
なお、上述した各構成自体は何れも公知のものを採用することができる。また、このような空気調和機1による冷房運転及び暖房運転時の動作については公知であるため、ここではその説明を省略する。
【0029】
図2は、図1の室外熱交換器2の具体的な構成を示す模式的斜視図である。図2に示すように、本実施の形態に係る室外熱交換器2は、両主面を前後に向けるように縦置きした板状を成しており、その内部に冷媒管4hが蛇行配置されている。より詳しく説明すると、冷媒管4hの上流側端部は、四方弁12(図1参照)から延びる冷媒管4gの下流側端部に接続されており、その接続直後の位置(接続箇所の下流側近傍位置)にて4つの管部材4h−1〜4h−4に分岐している。
【0030】
各管部材4h−1〜4h−4は、室外熱交換器2の一方の側部から略水平に延設された後、他方の側部にて上下方向に折り返され、前記一方の側部へ向かって略水平に延設される。そして更に、この一方の側部にて上下方向に折り返されて、前記他方の側部へ向かって略水平に延設される。このように、一方の側部と他方の側部とで夫々折り返されながら略水平に延設されることにより、各管部材4h−1〜4h−4は蛇行流路を形成している。また、各管部材4h−1〜4h−4の下流側端部は合流し、1つの下流側開口端部となって次の冷媒管4iの上流端に接続されるようになっている。
【0031】
また、各管部材4h−1〜4h−4において、上下方向に折り返された部分(ベンド管)と略水平に延設された部分(伝熱管)とは別々の管部材20,30により形成されている。即ち、管部材20は略U字形状を成す曲管を成している一方、管部材30は長寸の直管を成している。そして、直管状の管部材30の端部開口に対し、曲管状の管部材20の端部開口が内嵌した状態で、両者がロウ付けにより接合されている。このようにして、管部材4h−1〜4h−4は蛇行流路を構成している。なお、説明の便宜上、上記のように管部材30の端部開口に内嵌する管部材20を「内嵌管部材」と称し、これに対して外嵌する前記管部材30を「外嵌管部材」と称することとする。
【0032】
本実施の形態に係る室外熱交換器2では、上述した内嵌管部材20と外嵌管部材30との接合箇所に対し、本願発明に係る接合体の構成を採用している。また、このような接合箇所以外にも、図2の円形実線で囲んだ箇所P、即ち、1本の管部材に対してもう1本の管部材を延長接合した箇所であって、特に、室外熱交換器2の側部から外方に突出して位置する接合箇所には、本発明に係る接合体を好適に採用することができる。以下、この接合体及び接合方法について詳述する。
【0033】
[接合体の構成]
図3は、本実施の形態に係る管部材の接合体40,41の構成を示す模式的断面図である。はじめに、図3(a)に示す接合体40について説明する。この接合体40は、上記内嵌管部材20として採用可能な内嵌管部材50Aの開口端部51に対し、上記外嵌管部材30として採用可能な外嵌管部材60の開口端部61を、外嵌接合して構成されている。内嵌管部材50Aは、その外周面52に対して犠牲防食層53が被覆して設けられている。但し、開口端部51の近傍には、帯状を成して内嵌管部材50Aを周回する(即ち、周回方向が無端の)非防食部54が形成されている。この非防食部54は、内嵌管部材50Aの外周面52において犠牲防食層53が欠如した部分であり、外嵌管部材60との接合前の段階では、内嵌管部材50Aの外周面52を外部へ露出させる。
【0034】
ここで、犠牲防食層53及び非防食部54の構成について補足的に付言しておくと、犠牲防食層53は、非防食部54を挟んで開口端51a側に設けられた犠牲防食層53aと、反対側に設けられた犠牲防食層53bとを有している。即ち、内嵌管部材50Aの開口端51a付近には、帯状であって内嵌管部材50Aを周回する犠牲防食層53aが設けられている。そして非防食部54は、この犠牲防食層53aに対して開口端51aから離隔する側に隣接して設けられている。更に、この非防食部54に対して開口端51aから離隔する側に隣接して犠牲防食層53bが設けられている。
【0035】
一方、外嵌管部材60は、他の部分より拡径された開口端部61を有し、該開口端部61は、犠牲防食層53で被覆された状態の内嵌管部材50Aの外径寸法と略同一の内径寸法D1を有している。また、開口端部61における開口端61a付近は更に拡径されている。具体的には、断面視で略円弧状を成すように、開口端61aへ向かうに従って内径寸法がより大きくなるように拡径し、開口端61aの内径は寸法D2(>D1)となっている。この外嵌管部材60の外周面62にも犠牲防食層63が被覆して設けられている。
【0036】
図3(a)に示す接合体40では、上述した内嵌管部材50Aの開口端部51に対し、外嵌管部材60の開口端部61が外嵌しており、両方の開口端部51,61間はロウ材70によって接続されている。以下、このロウ材70による接合態様についてより詳述する。
【0037】
まず、図3(a)を参照しつつ、内嵌管部材50Aに対して外嵌管部材60が外嵌しているがロウ付けされていない状態を想定すると、このとき、非防食部54は外部に露出した状態となっている。即ち、内嵌管部材50Aの開口端51a側の犠牲防食層53aと非防食部54とを合わせた幅寸法(内嵌管部材50Aの軸芯方向寸法)は寸法L2であるのに対し、内嵌管部材50Aと外嵌管部材60との接触部分の幅寸法(開口端51aからの寸法)は、それより小さい寸法L1(<L2)となるように構成されている。従って、非防食部54は、外嵌管部材60によって全てが覆われてしまうことがなく、ロウ付け前の段階では少なくとも一部が外部に露出した状態になっている。
【0038】
一方、図3(a)に示すように、ロウ付けした後には、非防食部54の露出した部分の全てがロウ材70によって覆われた状態となり、更に、非防食部54よりも外側に位置する犠牲防食層53bの一部にもロウ材70が接続されるようになっている。換言すれば、内嵌管部材50Aと外嵌管部材60とが直接的又は間接的に接続される部分は、内嵌管部材50Aの開口端51a付近から、ロウ材70と内嵌管部材50Aの犠牲防食層53bとの境界部分に至る、幅寸法L3(>L2)の範囲となっている。そして、この接続範囲内には、犠牲防食層53を介さずに内嵌管部材50Aと外嵌管部材60とがロウ材70によって直接的に接続された部分が形成されている。
【0039】
なお、上述した犠牲防食層53は、内嵌管部材50Aを構成する金属又は合金よりも、電気的に卑な金属又は合金で構成されている。犠牲防食層63及び外嵌管部材60についても同様である。
【0040】
以上に説明したような接合体40によれば、犠牲防食層53(53b)の腐食が進行した場合であっても、接合箇所から内部の流体が漏洩するのを防止することができる。図4は、経年腐食した接合体の構成を示す模式的断面図であり、上述した接合体40が経年腐食した場合の構成を(a)に示している。上述したように、接合体40は、内嵌管部材50Aと外嵌管部材60とがロウ材70によって直接的に接続された部分を有する。従って、図4(a)に示すように、犠牲防食層53bが腐食して消滅した場合であっても、内嵌管部材50Aの外周面と外嵌管部材60の内周面との間の隙間はロウ材70により閉塞されているため、そこから流体が漏洩するのを防止することができる。
【0041】
次に、図3(b)に示す接合体41について説明する。なお、この接合体41は、大部分において上記接合体40と共通する構成を備えている。従って、以下では接合体40と比べたときの相違点に着目して説明し、共通する構成に対しては同一の符号を付してその詳細な説明は省略することとする。
【0042】
図3(b)に示すように、接合体41を構成する内嵌管部材50Bの開口端部51には、接合体40の犠牲防食層53aに対応する構成が存在せず、その分だけ幅寸法が大きくなった非防食部57が設けられている。換言すれば、内嵌管部材50Bの開口端51aから寸法L2の領域に、帯状を成して周回する幅広の非防食部57が設けられている。そして、この非防食部57に隣接して犠牲防食層53(53b)が設けられている。また、犠牲防食層53aに対応する部分には、ロウ材70が充填されている。従って、内嵌管部材50Bと外嵌管部材60とがロウ材70によって直接的に接続された部分は、接合体40よりも接合体41の方がより幅広い範囲となっている。なお、上記以外の構成については、接合体40と実質的に同じ構成になっている。
【0043】
図4(b)は、このような接合体41が経年腐食した場合の構成を示している。接合体41においても、内嵌管部材50Bと外嵌管部材60とがロウ材70によって直接的に接続された部分を有する。従って、図4(b)に示すように、犠牲防食層53bが腐食して消滅した場合であっても、内嵌管部材50Bの外周面と外嵌管部材60の内周面との間の隙間はロウ材70により閉塞されているため、そこから流体が漏洩するのを防止することができる。
【0044】
[接合方法]
次に、上述したような管部材の接合体を形成する方法(接合方法)について説明する。図5は、本実施の形態に係る管部材の接合方法を説明するための模式図付きフローチャートである。この図5に示すように、本実施の形態に係る接合方法は第1の工程と第2の工程とを含んでいる。このうち第1の工程(ステップS1)では、非防食部と犠牲防食層とを有する内嵌管部材を形成する。より正確には、開口端部の近傍に、外周面の一部が露出した非防食部を有し、該非防食部を避けて前記外周面上に犠牲防食層が設けられた内嵌管部材を形成する。
【0045】
例えば、図3(a)に示す内嵌管部材50Aのように、開口端部51の近傍に外周面52の一部が露出した非防食部54を有すると共に、該非防食部54を避けるようにして外周面52上に犠牲防食層53(53a,53b)が設けられた内嵌管部材50Aを形成する。あるいは、図3(b)に示す内嵌管部材50Bのように、開口端部51の近傍に外周面52の一部が露出した非防食部57を有すると共に、該非防食部57を避けるようにして外周面52上に犠牲防食層53(53b)が設けられた内嵌管部材50Bを形成する。
【0046】
そして次の第2の工程(ステップS2)では、第1の工程で形成した内嵌管部材に対して外嵌管部材を外嵌すると共に、両者をロウ付けする。即ち、上述した内嵌管部材50Aに対して外嵌管部材60を外嵌してロウ付けした場合には、図3(a)に示した接合体40が形成される。また、上述した内嵌管部材50Bに対して外嵌管部材60を外嵌してロウ付けした場合には、図3(b)に示した接合体41が形成される。
【0047】
ところで、上記第1の工程(ステップS1)では、内嵌管部材を形成するいくつかの方法の中から適宜選択して採用することができる。図6は、犠牲防食層53及び非防食部54,57を有する内嵌管部材50の形成方法を示す模式図付きのフローチャートである。
【0048】
図6(a)に示す方法では、最初のステップS1A−1の工程において、内嵌管部材50の外周面52の全体に犠牲防食層53を形成する。この犠牲防食層53の形成方法としては、Al-Zn合金から成るクラッド材を外周面52に被覆して形成したクラッド層をもって犠牲防食層53とする方法(例1)や、外周面52にZn溶射して加熱することで形成したZn拡散層をもって犠牲防食層53とする方法(例2)を採用することができる。なお、内嵌管部材50よりも電気的に卑である犠牲防食層53を形成するのに好適であれば、他の方法や材料を採用することも可能である。
【0049】
次のステップS1A−2の工程では、上述したようにして形成した犠牲防食層53の一部を除去することにより、非防食部54,57を形成する。その結果、図3(a),(b)に示したような内嵌管部材50A,50Bを形成することができる。なお、犠牲防食層53を除去する方法については、切削により機械的に除去する方法や、薬剤を用いて溶融させて除去する方法を採用することができる。また、他に好適な方法があればそれを採用することも可能である。
【0050】
図6(b),(c)に示す方法は、非防食部54,57に対応する部分をはじめから避けて犠牲防食層53を形成するものである。このうち図6(b)に示す方法の場合は、内嵌管部材50の外周面52に対し、非防食部54,57となる部分を避けて、Al-Zn合金から成るクラッド材を被覆してクラッド層(犠牲防食層53)を形成する(ステップS1B−1)。これにより、図3(a),(b)に示したような内嵌管部材50A,50Bを形成することができる。
【0051】
また、図6(c)に示す方法の場合は、内嵌管部材50の外周面52において非防食部54,57に対応する部分をマスクする(ステップS1C−1)。次に、一部がマスクされた内嵌管部材50の外周面52に対し、Zn溶射して加熱することでZn拡散層を形成する(ステップS1C−2)。その後、マスクを除去(ステップS1C−3)することにより、図3(a),(b)に示したような内嵌管部材50A,50Bを形成することができる。
【0052】
なお、非防食部54,57として示す領域は、犠牲防食層53が完全に欠如した状態になっている必要はない。例えば、切削や薬剤によって犠牲防食層53の一部を除去して非防食部54,57を形成する場合に、非防食部54,57内に犠牲防食層53が部分的に残存したとしても、本発明に係る作用効果を実質的に奏する程度であれば許容することができる。即ち、経年腐食によって周辺の犠牲防食層53が消滅した場合に、内嵌管部材50と外嵌管部材60との間がロウ材70によって閉塞されていればよい。
【産業上の利用可能性】
【0053】
本発明は、経年腐食により管部材の接続箇所から流体が漏洩するのを好適に防止し得る管部材の接合体、その接合方法、及び該接合体を備える空気調和機の熱交換器に適用することができる。
【符号の説明】
【0054】
1 空気調和機
2 室外熱交換器
3 室内熱交換器
4 冷媒管
20,50 内嵌管部材
30,60 外嵌管部材
40,41 接合体
53 犠牲防食層
54,57 非防食部


【特許請求の範囲】
【請求項1】
流体を通流させる内嵌管部材と、該内嵌管部材の開口端部に外嵌して接合され、前記流体を通流させる外嵌管部材と、を備え、
前記内嵌管部材の外周面上には、該内嵌管部材に対する防食作用を有する犠牲防食層が設けられ、且つ、前記外嵌管部材との接合箇所付近には、前記犠牲防食層の欠如により前記内嵌管部材の外周面が露出した非防食部が、該内嵌管部材を周回して形成されており、
前記内嵌管部材の前記非防食部と前記外嵌管部材との間がロウ付けされることにより、前記内嵌管部材及び前記外嵌管部材が互いに接合されていることを特徴とする、管部材の接合体。
【請求項2】
前記内嵌管部材はアルミニウム製又はアルミニウム合金製であり、前記犠牲防食層は、Al-Zn合金のクラッド層から成ることを特徴とする、請求項1に記載の管部材の接合体。
【請求項3】
前記内嵌管部材はアルミニウム製又はアルミニウム合金製であり、前記犠牲防食層は、前記内嵌管部材の外周面上に形成されたZn拡散層から成ることを特徴とする、請求項1に記載の管部材の接合体。
【請求項4】
開口端部の近傍に、外周面の一部が露出した非防食部を有し、該非防食部を避けて前記外周面上に犠牲防食層が設けられた内嵌管部材を形成する第1の工程と、
該内嵌管部材の前記開口端部に対して外嵌管部材を外嵌させ、前記非防食部と前記外嵌管部材との間をロウ付けする第2の工程と、
を備えることを特徴とする、管部材の接合方法。
【請求項5】
前記第1の工程は、
外周面上に、Al-Zn合金のクラッド層又はZn溶射によるZn拡散層から成る犠牲防食層が設けられた内嵌管部材を形成する工程と、
前記犠牲防食層の一部を切削又は薬剤により除去して前記非防食部を形成する工程と、
を有することを特徴とする、請求項4に記載の管部材の接合方法。
【請求項6】
前記第1の工程は、内嵌管部材の外周面上の非防食部を避けて、Al-Zn合金のクラッド層から成る犠牲防食層を前記外周面上に設けることを特徴とする、請求項4に記載の管部材の接合方法。
【請求項7】
前記第1の工程は、内嵌管部材の外周面上の非防食部に対応する部分をマスキングした後に、該外周面に対してZn溶射してZn拡散層から成る犠牲防食層を形成し、更に前記マスキングを除去して前記非防食部を形成することを特徴とする、請求項4に記載の管部材の接合方法。
【請求項8】
請求項1乃至3の何れかに記載の管部材の接合体を、冷媒が通流する冷媒管同士の接合箇所に備えることを特徴とする、冷凍サイクル装置の熱交換器。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2013−2682(P2013−2682A)
【公開日】平成25年1月7日(2013.1.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−132252(P2011−132252)
【出願日】平成23年6月14日(2011.6.14)
【出願人】(000005821)パナソニック株式会社 (73,050)