説明

簡易歪測定ツールおよび検査装置

【課題】電子回路基板の歪量を簡易に測定でき、かつ日常的に管理可能とする。
【解決手段】検査治具にセットされた被検査基板1を圧接し、当該被検査基板1の歪量を測定する際に使用される簡易歪測定ツールであって、被検査基板1上に実装され、当該被検査基板1に所定量を超える圧力が印加された場合に破損し、当該破損したことを人間の五感に認識させる構造体(検査部品5)を有する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、チップ部品等の電気回路素子が実装される電子回路基板の簡易歪測定ツールおよび検査装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
電子回路基板には多数のチップ部品等の電子回路素子が実装されている。従来、電子回路基板を製造する過程で、アセンブルされた電子回路基板上の各チップ部品等の素子が所望の電気的特性を発揮するか否かの検査をICT(インサーキットテスタ)により行なっている。
ICTは、被検査基板となる電子回路基板上の独立した配線パターン間に電圧あるいは電流を加えるための複数の計測ピン(検査治具)を備え、当該計測ピンを、PC等によって制御されるプレスユニットを介して各電子回路素子の両極に押し当て導通させ、その結果生じる電圧、電流をPCが測定して計算し、各電子回路素子の特性値を求めるものである。
【0003】
ところで、上記した検査治具の計測ピン1本あたりにかかる当接圧力は相当のものであり、被検査基板上の計測箇所は相当数に及ぶため、プレスユニットによって被検査基板を押圧する力も相当な値となり、弾性を有する被検査基板に歪を生じることになる。このとき、チップ部品は、リード付き部品のように歪を吸収する構造を持たないため、セラミック等により構成されるチップ部品の本体に直接に応力が加わることになり、結果的に検査工程でチップ部品に割れを生ずることがある。上記したチップ部品の割れは、ICTの検査治具の計測ピンにかける圧力を調整と、検査工程における被検査基板の歪の発生量を減少させることで防止できるが、かかる調整を行うためには実際に被検査基板に生じている歪を計測する必要がある。
【0004】
上記した歪の計測には、通常、歪ゲージが用いられる。従来は、歪ゲージを被検査基板上に接着剤により貼付し、当該歪ゲージの電気端子を計測装置に接続して実装位置における歪量を計測し表示装置に表示していた。
【0005】
一方、歪ゲージ等の電気的な手段はノイズを受けやすいばかりでなく、空間にノイズを放射する難点があることから、光導波路を設けた基板を被歪測定物に貼り付け、光導波路に歪を生じさせ、この歪により光弾性効果によって生じる屈折率の変化を、光導波路を通る光の変化により検知して被歪測定物の歪を検出する歪検出方法が知られている(例えば、特許文献1参照)。
【0006】
【特許文献1】特開平8−114424号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
上記した特許文献1に開示された技術を含む従来技術によれば、光導波路、計測装置、および表示装置等の大掛かりな設備、あるいは作業を必要とし、かつ、歪量測定時にのみその設備、もしくは作業による対応が可能であって、日常的な管理は不可能であった。
このため、例えば、温度計測を色の変化で認知可能なサーモラベルのように簡易に歪量の測定を行ない、かつ、日常的にその歪量を管理することのできる電子回路基板の簡易歪測定ツールおよび検査装置の出現が望まれていた。
【0008】
この発明は上記した課題を解決するためになされたものであり、温度を簡易的に計測可能なサーモラベルのように、電子回路基板の歪量を簡易に測定でき、かつ日常的に管理可能な、簡易歪測定ツールおよび検査装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記した課題を解決するためにこの発明の簡易歪測定ツールは、被検査基板上に実装され、当該被検査基板に所定量を超える圧力が印加された場合に破損し、当該破損したことを人間の五感に認識させる構造体を有するものである。
【0010】
また、この発明の検査装置は、被検査基板と、前記被検査基板上の任意の検査ポイントに実装され、当該被検査基板に所定量を超える圧力が印加された場合に破損し、当該破損したことを人間の五感に認識させる構造体を有する簡易歪測定ツールと、制御装置により制御され、前記被検査基板の検査ポンイトに測定ピンを立てて製作された検査治具に前記被検査基板をセットして圧接するプレスユニットと、を有するものである。
【発明の効果】
【0011】
この発明によれば、電子回路基板の歪量を簡易に測定でき、かつ日常的に管理可能な、簡易歪測定ツールおよび検査装置を提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
実施の形態1.
図1は、この発明の実施の形態1に係る簡易歪測定ツールを示すもので、(a)は一部の断面図、(b)はA−A線に沿う断面図である。
【0013】
ここでは、簡易歪測定ツール5として、一定歪量以上の圧力が印加された場合に破損する、例えば、1cm×1cm程度のサイズで、電子回路基板に実装されるチップ部品と同じ形状を有する検査部品5(構造体)を想定する。そして、当該検査部品5の材料や厚み等を変化させることで、上記した簡易歪測定ツールとしての機能を実現させるものとしている。更に、作業者に、当該検査部品5が破損したことが簡単にわかるように、検査部品5の破損直後に色の変化を発生させる構造とした。
【0014】
図1に示されるように、被検査基板1上の検査ポイントに実装される簡易歪測定ツールとしての検査部品5は、内容液51が封入された第1の袋体(以下、コーティング層)52と、この第一の袋体が一定歪量以上の圧力が印加されたことにより破損し、内溶液51がコーティング層52から溢れ出た場合に色が変化する外溶液53が封入された第2の袋体(保護層)54とにより構成される。
【0015】
具体的に、検査部品5が一定歪量以上の圧力の印加により破損した場合、化学変化を起こして検査部品5の色が変化するように、例えば、セラミックやガラス等により形成される保護層54の内部には外溶液53としてのリトマス溶液が配合されており、また、内部には、プラスチック等によりコーティングされたコーティング層52が含まれ、当該コーティング層52の内部にはアルカリ性(もしくは酸性)の内溶液51が封入されている。
【0016】
ここで、検査部品5が一定歪量以上の圧力が印加されることにより破損し、内溶液51が破損したコーティング層52を通過して外溶液53に達した場合に、作業者は、外溶液53の色が変化することによって、被検査基板1に一定歪量以上の圧力が印加されたことを知ることができる。
なお、外溶液53の色変化を知るために、部品の外側を覆う保護層54は、透明ガラスにより形成されることが好ましいが、ここでは、コーティング層52、保護層54ともに破損し、内溶液51、外溶液53ともに外部に溢れ出るため、透明ガラス以外に、セラミックや木等一定の圧力により破損する材料であればいずれでもかまわない。
【0017】
ここで、一定歪量以上の圧力とは、例えば、検査部品5の厚みを1mm、コーティング層52の厚みを0.2mmとした場合、500μs(マイクロストレイン)とし、部品5の厚みを2mm、コーティング層52の厚みを0.2mmとした場合、1000μsとする。ここでは、コーティング層52の厚みを変化させることなく検査部品5の厚みの変化で対応することとした。勿論、コーティング層52の厚みを代えることで代替してもよい。
【0018】
上記したようにこの発明の実施の形態1に係る簡易歪測定ツールによれば、被検査基板1上に実装され、当該被検査基板1に一定歪量を超える圧力が印加された場合に破損し、当該破損したことを人間(作業者)の五感に認識させる、ここでは色変化により検査部品5が破損したことを通知することで、例えば、温度計測を色の変化で認知可能なサーモラベルのように簡易に歪量の測定を行なうことができる。
【0019】
製造現場における生産工程内では、歪量500μs以下等のある基準値を設けて歪量を管理している場合が多く、歪量の具体的数値というよりは、基準値以下になっていることを把握することが重要である。ここでは、被検査基板1に、500μs以上の歪量にかかる圧力が印加されると、簡易歪測定ツールとしての検査部品5が破損し、色が変化するため、作業者は、圧力が基準値以上となっていることを把握することができる。
したがって、作業者は、被検査基板1に規定値以上のストレスが印加されないように日常的な調整が可能であり、調整後は、被検査基板1を、実際に電子回路素子を実装した電気回路基板と交換してICTによる導通テストを行うことが可能になる。
【0020】
なお、上記した実施の形態1では、検査部品5が破損すると、コーティング層52、保護層54ともに破損し、化学変化により外溶液53の色が変化するものとして説明したが、コーティング層52の外側を空洞にし、保護層54との仕切りをメッシュ上に形成することで、検査部品5が破損した際に、色付きの内溶液51が空洞に染み出るように形成してもよい。このとき、保護層54についてもその内溶液51が外部に染み出るようにメッシュ上に仕上げてもよい。
【0021】
実施の形態2.
図2は、この発明の実施の形態2に係る簡易歪測定ツールの断面構造を示す図である。図2に示す実施の形態2において、図1に示す実施の形態1との差異は、内側と外側とを分離する第1の袋体(例えば、プラスチックにより形成されるコーティング層52)には、内溶液51が封入される代わりに、例えば、アンモニアガス等の刺激臭を発する香りの素55が封入されたことにある。
【0022】
上記した実施の形態2によれば、コーティング層52が一定の歪量を超える圧力が印加され破損した場合に、アンモニアガスによる刺激臭が例えばメッシュ状の材料で形成された保護部材56を通して外部へ染み出て、作業者はこの匂いにより被検査基板1に一定歪量以上の圧力が印加されたことを知ることができる。
このため、実施の形態2に係る簡易歪測定ツールによれば、被検査基板1上に実装され、当該被検査基板1に所定量を超える圧力が印加された場合に破損し、当該破損したことを人間(作業者)の五感に認識させる、ここでは、匂いにより検査部品5が破損したことを通知することで、温度計測を色の変化で認知可能なサーモラベルのように簡易に歪量の測定を行なうことができる。
【0023】
なお、上記した実施の形態1、2ともに、簡易歪測定ツールとしての検査部品5を被検査基板1に実装するにあたり、半田付け固定することとする。
すなわち、図3にその実装構造が示されるように、外枠である保護層54を直接半田付けできない場合に限り両端に半田メッキ処理57を施し、被検査基板1に半田付け可能にすることで、より実装状態に近い歪量を把握することが可能になる。但し、半田付け実装に制限されるものではなく、ボンド、粘着テープ等による貼付で代替してもよい。
【0024】
図4は、上記した実施の形態1、実施の形態2の簡易歪測定ツールを用いて電子回路基板の検査を行なう検査装置(ICT)の構成例を示す図である。
ここでは検査装置としてプレス型のICTを使用するものとする。プレス型のICTは、図4に示されるように、例えば、検査治具2と、制御PC3と、プレスユニット4とにより構成される。
【0025】
上記した被検査基板1の歪量測定にあたり、はじめに歪量測定用に使用される被検査基板1の検査ポイントの全てに計測ピンを立てた検査治具2を製作する必要がある。そして製作された検査治具2に、簡易歪測定ツールとしての検査部品5が複数半田付け実装された被検査基板1をセットし、制御PC3による制御の下でプレスユニット4を用いて圧接することによって被検査基板1の歪量検査を行なう。
【0026】
具体的に、抵抗やコンデンサ、あるいは表面実装部品等の電子回路素子を実装する電子回路基板と同等の被検査基板1を用いて歪量検査を行なうが、当該非検査基板1には、検査治具2の計測ピンP1〜Pnが当接する位置(被検査基板1の歪量検査ポイント)に簡易歪測定ツールとしての検査部品5が半田付け実装されている。
この状態で、制御PC3による制御の下、プレスユニット4を用いて検査治具2を圧接し、その押圧力による被検査基板1の歪曲によっては簡易歪測定ツールとしての検査部品5が破損する。作業者はそのことを五感(視覚、臭覚等)により認識し、制御PC3を操作することにより非検査基板1に規定値以上のストレスが印加されないようにプレスユニット4の押圧力を適正に調整する。調整後は、被検査基板1を実際の電子回路素子を実装した電子回路基板と交換して通常のICT検査を行なう。
【0027】
すなわち、電子回路基板(被検査基板1)上に実装される各チップ部品等の電子回路素子が所望の電気的特性を発揮するか否かの検査を上記したプレス型のICTにより行なう。具体的には、検査治具2の計測ピンP1〜Pnを介して電子回路基板の配線パターン間に電圧あるいは電流を加え、制御PC3によって制御されるプレスユニット4を介して被検査基板1上に実装された各素子の両極に押し当て導通させ、その結果生じる電圧、電流を制御PC3が測定して計算し、各素子の特性値を求めて検査を行なう。
【0028】
上記した検査装置によれば、検査装置は、被検査基板1上の任意の検査ポイントに実装され、当該被検査基板1に所定量を超える圧力が印加された場合に破損し、当該破損したことを人間の五感に認識させる構造体を有する簡易歪測定ツール(検査部品5)と、制御PC4等の制御装置により押圧力を調整でき、被検査基板1の検査ポンイトに測定ピンP1〜Pnを立てて製作された検査治具2に被検査基板1をセットして圧接するプレスユニット4とにより構成することで、作業者は、簡易歪測定ツールとしての検査部品5の破損を五感(視覚、臭覚等)で認識し、制御PC3を操作することで被検査基板1に規定値以上のストレスが印加されないようにプレスユニット4の押圧力を適正に調整することができる。調整後は、被検査基板1を実際の電子素子が実装された電子回路基板と交換してICT検査を行なうことができる。
【0029】
上記のように、歪量を測定する方法は多数あるが、いずれも歪ゲージや計測器等の周辺装置(周辺装置を起動するためには電源も必要)が必要であるため、生産ラインで日常的に歪量を測定することは不可能であったが、この発明の実施の形態1、2に係る簡易歪測定ツール、および検査装置によれば、温度変化を目視できるサーモラベルのように、歪量が基準値以上になっているか否かを視覚あるいは臭覚により簡易に測定できることから何ら周辺装置を容易することなく、日常的に歪量を管理することを可能にする。このように日常的に歪量を把握することで歪に起因するチップ部品の破損を防ぐことが可能となり、製品の品質向上につながる。
【図面の簡単な説明】
【0030】
【図1】この発明の実施の形態1に係る簡易歪測定ツールの断面構造を示す図である。
【図2】この発明の実施の形態2に係る簡易歪測定ツールの断面構造を示す図である。
【図3】この発明の実施の形態1、2に係る簡易歪測定ツールの被検査基板への実装構造の一例を示す図である。
【図4】この発明の実施の形態1、2に係る簡易歪測定ツールが実装された被検査基板の検査を行なう検査装置の構成例を示す図である。
【符号の説明】
【0031】
1 被検査基板、2 検査治具、3 制御PC、4 プレスユニット、5 簡易歪測定ツール(検査部品)、51 内溶液、52 第1の袋体(コーティング層)、53 外溶液、54 第2の袋体(保護装置)、55 香りの素、56 保護部材、57 半田メッキ。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
被検査基板上に実装され、
当該被検査基板に所定量を超える圧力が印加された場合に破損し、当該破損したことを人間の五感に認識させる構造体を有することを特徴とする簡易歪測定ツール。
【請求項2】
前記構造体は、
前記破損が始まる圧力に応じて決定される厚みを有することを特徴とする請求項1記載の簡易歪測定ツール。
【請求項3】
前記構造体は、
内容液が封入された第1の袋体と、
前記第1の袋体が前記圧力により破損し、前記内溶液が前記第1の袋体から溢れ出た場合に色が変化する外溶液が封入された第2の袋体と、
を有することを特徴とする請求項1または請求項2記載の簡易歪測定ツール。
【請求項4】
前記構造体は、
香りが封入された第1の袋体と、
前記第1の袋体を覆い、当該第1の袋体が前記圧力により破損した場合に、前記香りを外部に流出させるメッシュ状の材料で形成された保護部材と、
を有することを特徴とする請求項1または請求項2記載の簡易歪測定ツール。
【請求項5】
前記第1の袋体は、
前記破損が始まる圧力に応じて決定される厚みを有することを特徴とする請求項3または請求項4記載の簡易歪測定ツール。
【請求項6】
前記構造体は、
前記被検査基板上に半田実装により固定されることを特徴とする請求項1から請求項5のうちのいずれか1項記載の簡易歪測定ツール。
【請求項7】
前記構造体は、
前記被検査基板上に粘着剤により固定されることを特徴とする請求項1から請求項5のうちのいずれか1項記載の簡易歪測定ツール。
【請求項8】
前記構造体は、
前記被検査基板上に実装される電子部品と同じサイズを有することを特徴とする請求項1から請求項7のうちのいずれか1項記載の簡易歪測定ツール。
【請求項9】
被検査基板と、
前記被検査基板上の任意の検査ポイントに実装され、当該被検査基板に所定量を超える圧力が印加された場合に破損し、当該破損したことを人間の五感に認識させる構造体を有する簡易歪測定ツールと、
制御装置により押圧力が調整され、前記被検査基板の検査ポンイトに測定ピンを立てて製作された検査治具に前記被検査基板をセットして圧接するプレスユニットと、
を有することを特徴とする検査装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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