説明

簡易自動消火装置

【課題】装置の配管を不要として、装置の構造を簡単にするとともに、装置全体の小型化および低コスト化を実現したメンテナンスフリーの簡易自動消火装置を提供する。
【解決手段】エアゾール式簡易消火具1の三本を、消火対象物に噴出口1cを向けて配設するとともに、火炎検知手段4からの火炎検知信号に基いて作動されて、芯金3aで簡易消火具の上部ボタンを押圧するソレノイドロック3を設けてなる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、とくに、消火剤の移送配管を不要として装置構造を簡単にするとともに、低コストで、消火対象物それ自体もしくは、その近傍にコンパクトに配設できる、メンテナンスフリーの簡易自動消火装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
エアゾール式簡易消火具を用いた従来の消火装置としては、特許文献1に開示されたものがある。
これは、消火剤としての強化液を蓄圧貯蔵するボンベに接続される配管内の圧力を表示する圧力計を不要として、ボンベと配管との接続構造の複雑化を防止するとともに、部品点数の低減を図り、装置全体の簡略化に伴うコストダウンを実現するべく、「消火剤貯蔵用エアゾール缶に、内部圧力の確認ができる機能を有する接続管の一方口を差込式などの結合手段により接続すると共にこの接続管の他方口に自作動式閉鎖型ヘッドを有する配管をねじ込み式などの結合手段により接続して閉鎖システムを構成するようにしたことを特徴とする」ものである。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2004−248718号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかるに、特許文献1に記載されたこの従来技術は、配管を不可避とするものであることから、装置全体の大型化、ひいては、設備コストの増加が否めず、しかも、エアゾール缶内の消火剤が、その配管内に常時充満されていることから、噴霧不良を防止するために、定期的な内部洗浄や、配管の緩みなどによる漏れの有無のチェックが必要になる等の問題がある。
【0005】
この発明は、従来技術が抱えるこのような問題点を解決することを課題とするものであり、それの目的とするところは、装置の配管を不要として、装置の構造を簡単にするとともに、装置全体の小型化および低コスト化を実現したメンテナンスフリーの簡易自動消火装置を提供するにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
この発明の簡易自動消火装置は、エアゾール式簡易消火器の一本以上を、消火対象物に噴出口を向けて配設するとともに、火炎検知手段からの火炎検知信号に基いて作動されて、押圧部材で簡易消火具の上部ボタンを、たとえば、下方、上方、横方向、または斜め方向等に向けて押圧するアクチュエータを設けてなるものである。
なお、ここでいう「押圧部材」は、アクチュエータに組み込まれて、それの一部をなすものとすることができる他、アクチュエータから独立した部材とすることもできる。
【0007】
ところで、このような押圧部材は、加圧流体、ばね部材もしくは磁力を駆動力とするアクチュエータによって押圧変位される板状、棒状もしくは球状等の適宜の部材にて構成することができる。
【0008】
ここで好ましくは、アクチュエータを、ソレノイドへの通電中もしくは、通電停止中だけ押圧部材を、たとえば、内蔵ばねのばね力に抗して、もしくは、そのばね力によって押圧変位させるソレノイドロックとする。
この場合、押圧部材は、ソレノイドロックの構成部材の一部とすることも可能である。
【0009】
また、アクチュエータは、シリンダロッドの伸長作動によって押圧部材を押圧変位させる、油圧シリンダ、エアシリンダ等の流体圧シリンダとすることもでき、この場合も、押圧部材をアクチュエータの一部とすることができる。
【0010】
そしてまた好ましくは、火炎検知信号の入力によって作動されて、アクチュエータへの通電を開始する、たとえばバッテリとすることもできる無停電電源装置(UPS)を設ける。
【0011】
以上に述べたところにおいて、アクチュエータを、火炎検知手段からの火炎検知信号に基いて作動される流体圧シリンダとしたときは、その流体圧シリンダを、通電によって、シリンダチューブへの加圧流体の供給を開始するバルブを有するものとすることが好ましい。
【0012】
ところで、火炎検知手段は、熱検知手段とすることも可能であるが、検知範囲が広く、反応速度が速い赤外線検知手段とすることが好ましい。
【発明の効果】
【0013】
この発明の簡易自動消火装置では、熱検知手段、赤外線検知手段等とすることができる火炎検知手段からの火炎検知信号の入力に基いて作動されるアクチュエータによって、アクチュエータの一部とすることもできる押圧部材を、所要の方向へ押圧変位させ、これによって、簡易消火具の上部ボタンを十分に押し込んで、簡易消火具の消火剤の全てを、十分近接して位置する消火対象物に向けて噴出させることで、コンパクトにして、簡単な構造の装置をもって、自動的に消火を行うことができる。
なおここで、簡易消火具の一本だけでは消火剤が不足する場合は、複数本の消火具を用いることもできる。そして、複数本の消火具を用いるときは、それらの各個を同時に作用させるのみならず、時間間隔をおいて作用させることもできる。
【0014】
かくして、この装置では、消火剤の移送配管が不要となって、装置構造が簡単になる他、装置を、コンパクトにして低コストのものとすることができ、また、メンテナンスを不要とすることができる。
しかも、配管に消火剤を常時充満させておくことが不要になるので、長期間放置等することに起因する、消火剤の固着、詰まり等による作動不良の発生のおそれを除去し、配管内の固着物の清掃を不要とし、清掃後の配管の組付け不要による、消火剤の漏れのおそれを除去することができる。
【0015】
ここで、押圧部材を、加圧流体、ばね部材もしくは磁力を駆動力とするアクチュエータによって押圧変位される、単純な形状の、板状、棒状もしくは球状部材にて構成したときは、装置の構造をより簡単なものとし、装置コストをより安価なものとすることができる。
【0016】
また、アクチュエータは、ソレノイドへの通電中だけ押圧部材を押圧変位させる、または、ソレノイドへの通電停止中だけ押圧部材を押圧変位させるソレノイドロックとすることができ、前者によれば、火炎の発生時の、ソレノイドへの通電によって消火剤を噴出させることができ、後者によれば、火災、災害等の発生に伴う停電その他による、ソレノイドへの通電の停止に伴って消火剤を噴出させて、不測の事態に備えることができる。
【0017】
この一方で、アクチュエータは、シリンダロッドの伸長作動によって押圧部材を押圧変位させる流体圧シリンダとすることもでき、これによっても、簡単な構造の下で、押圧部材を所期した通りに押圧変位させ得ることはもちろん、電気が不要であるので、可燃危険物が存在する防爆エリア等で、消火装置を防爆構造とする必要がなく、装置構造のシンプル化および、装置の小型化が可能となる。
【0018】
ところで、火炎検知信号の入力によって作動されて、アクチュエータへの通電を開始する、バッテリ等の無停電電源装置(UPS)を設けたときは、通電によって押圧部材を押圧変位させるタイプのアクチュエータにおいて、停電時等においても、無停電電源装置の作用の下で、所期した通りの自動消火を常に確実に行わせることができる。
【0019】
なお、アクチュエータを流体圧シリンダとするときは、その流体圧シリンダが、通電によって、シリンダチューブへの加圧流体の供給を開始する、電磁弁その他のバルブを有するものとすることが、バルブを別途配設する場合に比し、装置構造を一層簡易なものとすることができる。
【0020】
ところで、火炎検知手段を、赤外線検知手段としたときは、熱検知手段を用いる場合に比し、わずかな炎の発生を検知できるので、火災の発生をより早期に検知すことができるので、火炎が大きくなる前の初期段階で消火を行って被害を小さく抑えることができる利点がある。
【図面の簡単な説明】
【0021】
【図1】この発明の実施形態を示す装置全体の略線正面図である。
【図2】エアゾール式簡易消火具およびソレノイドロックの配設態様を例示する正面図および側面図である。
【発明を実施するための形態】
【0022】
簡易自動消火装置の全体の概略を示す図1において、図中1は、所定の位置に位置決め配置したエアゾール式簡易消火具を示し、少なくとも一本、図では三本としたこの簡易消火具1は、各噴出口を消火対象物の所要の個所に向けた姿勢で、ベースフレーム2に固定配置される。
【0023】
また図中3は、アクチュエータの一例としてのソレノイドロックを示す。
なお、図に示すところでは、各簡易消火具1の図示しない上部ボタンに対向させて、都合三本のソレノイドロック3を、ベースフレーム2に位置決め固定することとしているも、一本のソレノイドロック3が、全ての簡易消火具1を同時作動させることができる出力を有する場合は、複数本の簡易消火具1に対し、一本のソレノイドロック3だけを配設することも可能である。
【0024】
ところで、図示のように、各個の簡易消火具1に対応する各個のソレノイドロック3を配設するときは、ソレノイドロック3に固有の芯金3aそれ自体を、エアゾール式簡易消火具1の上部ボタンを押圧する、図では圧下する押圧部材として機能させることができるも、一のソレノイドロック3をもって、複数の上部ボタンを押圧する場合は、芯金3aと一体もしくは別体になる押圧部材を設けることが必要になる。
【0025】
またここでは、電源に接続した、熱検知手段、赤外線検知手段等とすることができる火炎検知手段4を設けるとともに、この火炎検知手段4からの火炎検知信号の入力に基いて、各個のソレノイドロック3へ同時に、または、それぞれのソレノイドロック3へ、所定の時間間隔をおいて通電を開始する、バッテリその他の無停電電源装置(UPS)5を、たとえば、消火設備制御盤6内に収納配置する。
【0026】
これがため、この図に示すところでは、無停電電源装置5と火炎検知手段4とを、好ましくは、耐熱性の、電力線7aおよび通信線7bのそれぞれにて接続し、また、無停電電源装置5と各個のソレノイドロック3とを、これも好ましくは、耐熱性の電力線8a,8b,8cによって接続する。
なおここで、無停電電源装置5をバッテリとするときは、その無停電電源装置5に、バッテリ充電用の一次電源電力線9を接続することが必要になる。
【0027】
そしてまた、消火設備制御盤6には、起動および停止ボタン10,11のそれぞれの手動操作によって作動され、また停止される警告灯12を設けることもできる。
【0028】
ところで、ベースフレーム2に対する、簡易消火具1およびソレノイドロック3の配設態様は、図2に示すように、エアゾール式簡易消火具1の胴部1aの中間域を、バンド21を介してベースフレーム2の背面板2aにボルト止め固定するとともに、ソレノイドロック3を、スペーサ22の介在下で、簡易消火具1に対して芯合わせしてフレーム背面板2aにボルト止め固定し、この結果として、ソレノイドロック3の、押圧部材としての芯金3aの中心を、簡易消火具1の上部押ボタン1bの中心に対応させて位置させて、芯金3aの作動による、上部押ボタン1bの常に確実な圧下を可能ならしめる。
【0029】
なお、図2に示すところでは、簡易消火具1を起立姿勢で位置決め固定することとしているも、その消火具1は、倒立姿勢、横向き姿勢、傾斜姿勢等の所要の姿勢で固定することができ、これらのいずれにあっても、中心軸線をソレノイドロック3の中心軸線と整列させて配設することで、ソレノイド3、ひいては、芯金3a作動に基き、簡易消火具1の消火剤を、所要の個所に向けて確実に噴出させることができる。
【0030】
ここにおいて、図示のソレノイドロック3は、そこへの通電中だけ、芯金3aを、内蔵ばね部材のばね力に抗して、上部押ボタン1b側へ突出変位させ、通電の停止中は、ばね部材のばね力によって後退変位するよう構成しているが、このソレノイドロック3を、通電の停止中だけ、芯金を内蔵ばね部材のばね力によって上部押ボタン1b側へ突出変位させ、通電中は、ばね部材のばね力に抗して芯金を後退変位させるよう構成することもできる。
【0031】
また、ソレノイドロックでは、押圧部材としての芯金を、磁力を主たる動力として作動されることとしているも、押圧部材は、加圧流体の圧力、または、ばね部材のばね力を主たる動力とするアクチュエータによって作動させることも可能であり、加圧流体の圧力を用いるアクチュエータは、シリンダロッドの伸長作動によって押圧部材を直接的もしくは間接的に押圧変位させる流体圧シリンダとすることができ、この場合は、火炎検知手段4からの火炎検知信号に基いて作動されるその流体圧シリンダが、通電によって、シリンダチューブへの加圧流体の供給を開始する、いずれかの種類のバルブを有するものとすることが好ましい。
【0032】
図示のように構成してなる装置では、たとえば、ベースフレーム2の高さ寸法を300mm、奥行き寸法90mm、幅寸法を、120mm×消火具本数とした、小型の消火手段を消火対象それ自体もしくは、その近傍に配設することで、火炎の発生に対処することができ、消火設備制御盤6内に収納配置したバッテリを無停電電源装置5とした、図示のこの装置では、通常時は、一次電源電力線9を経てその無停電電源装置5を充電する一方で、無停電電源装置5から火炎検知手段4へ、電力線7aを介して、常時検知電流を供給する。
【0033】
ここで、火炎検知手段4が、消火対象物から発生した火炎を検知したときは、その火炎検知信号を、無停電電源装置5へ入力し、この無停電電源装置5に内蔵した判定回路の作動に基いて、各個のソレノイドロック3に起動電流を供給する。
【0034】
この場合、ソレノイドロック3が、図1に示すように複数存在するときは、各個のソレノイドロック3を、たとえば、0.1秒づつの時間間隔をおいて起動させることが、十分な起動電流を確保して、各ソレノイドロック3の、確実にして安定な起動を実現する上で好ましい。
【0035】
ところで、無停電電源装置5から起動電流を供給されるそれぞれのソレノイドロック3は、ともに同時に、または所定の時間間隔をおいて作動されて、押圧部材としての芯金3aを、エアゾール式簡易消火具1に向けて突出変位させて、各芯金3aで、上部押ボタン1bの中心を、たとえば30N以上の大きさの圧下力で押圧する。
【0036】
この結果として、各簡易消火具1の噴出口1cから、消火対象物に向けて消火剤が噴出され、この噴出は、消火具1内の消火剤が用尽されるまで、または、無停電電源装置5からソレノイドロック3への通電が停止されるまで継続されることになって、所期した通りの自動消火が行われることになる。
【0037】
かくして、この簡易自動消火装置では、消火剤の移送配管等の敷設が全く不要となることから、従来技術に比し、装置全体の小型化、構造の簡素化、低コスト化を有効に実現することができるとともに、消火剤との接触部分のない、メンテナンスフリーの装置を、消火対象物それ自体もしくは、その近傍に、所期した通りにコンパクトに配設することができる。
【0038】
しかも、図示の消火装置では、火炎検知手段4、ソレノイドロック3等は、バッテリとすることができる無停電電源装置5からの供給電流によって作動されるので、たとえば、停電、災害等によって、一次電源電力線9からの電流の供給が停止されてなお、自動消火機能を十分に発揮させることができる。
【0039】
以上この発明を図面に示すところに基いて説明したが、所定の姿勢で位置決め固定されるエアゾール式簡易消火具の本数は、所要に応じて適宜に増減させることができ、また、簡易消火具の配設姿勢は、起立姿勢のみならず、倒立姿勢、横向き姿勢、傾斜姿勢等を適宜に選択することができる。
なお、アクチュエータは、電磁力を主たる動力とするソレノイドロックのみならず、加圧流体もしくはばね部材を主たる動力とするものとすることもできる。
【符号の説明】
【0040】
1 エアゾール式簡易消火器
1a 胴部
1b 上部押ボタン
1c 噴出口
2 ベースフレーム
2a フレーム背面板
3 ソレノイドロック
3a 芯金
4 火炎検知手段
5 無停電電源装置
6 消火設備制御盤
7a 電力線
7b 通信線
8a,8b,8c 電力線
9 一次電源電力線
10 起動ボタン
11 停止ボタン
12 警告灯
21 バンド
22 スペーサ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
エアゾール式簡易消火具の一本以上を、消火対象物に噴出口を向けて配設するとともに、火炎検知手段からの火炎検知信号に基いて作動されて、押圧部材で簡易消火具の上部ボタンを押圧するアクチュエータを設けてなる簡易自動消火装置。
【請求項2】
押圧部材を、加圧流体、ばね部材もしくは磁力を駆動力とするアクチュエータによって押圧変位される板状、棒状もしくは球状部材にて構成してなる請求項1に記載の簡易自動消火装置。
【請求項3】
アクチュエータを、ソレノイドへの通電中もしくは、通電停止中だけ押圧部材を押圧変位させるソレノイドロックとしてなる請求項1もしくは2に記載の簡易自動消火装置。
【請求項4】
アクチュエータを、シリンダロッドの伸長作動によって押圧部材を押圧変位させる流体圧シリンダとしてなる請求項1もしくは2に記載の簡易自動消火装置。
【請求項5】
火炎検知信号の入力によって作動されて、アクチュエータへの通電を開始する無停電電源装置(UPS)を設けてなる請求項1〜4のいずれかに記載の簡易自動消火装置。
【請求項6】
火炎検知手段からの火炎検知信号に基いて作動される流体圧シリンダが、通電によって、シリンダチューブへの加圧流体の供給を開始するバルブを有してなる請求項1,2,4もしくは5に記載の簡易自動消火装置。
【請求項7】
火炎検知手段を赤外線検知手段としてなる請求項1〜6のいずれかに記載の簡易自動消火装置。

【図1】
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【図2】
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