説明

米飯の製造法

【課題】長期保存に適し、風味・食感に優れる無洗米を提供すること。
【解決手段】炊飯の際に、平均分子量10,000以下のコラーゲンペプチドを、精白米100質量部に対して、0.005〜0.2質量部の量で添加して炊飯する。前記精白米として、古米を精米したものを使用することができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、澱粉が老化しにくく長期保存に適した、風味・食感に優れた米飯の製造法に関する。
【背景技術】
【0002】
米は我々日本人の主食である。家庭での内食のみならず、中食、外食の、食のあらゆる場面で米飯は我々の食卓に登場する。内食で自分たちの食べる分量をその都度炊飯できれば常に炊き立てのおいしい米飯を食すことができるが、中食、外食となると、常に炊き立ての米飯を提供し続けることは困難である。とくに菌の繁殖の面から、低温のチルド流通をせざるを得ない中食産業においては、その食味はすぐに損なわれてしまうため、消費期限がとても短く設定され、毎日大量の廃棄品が出てしまっている。
【0003】
米のおいしさの認識に関して、どの程度物理的な要素が重要であるかについては、例えば、米の食味総合評価の約70%が、硬さや粘り等の物理的測定値で説明できることや、物理的味(食感)の占める割合が、白飯では約60%超であることが報告されている。
【0004】
このように米の物理的特性(硬さや粘り)は、おいしさの認識で非常に重要な役割を示しているため、それを長時間保持することは、米のおいしさを長持ちさせることとなり、それによって調理済み米飯の消費期限が延長されることになる。世界的な食糧難が懸念されている中、日本は他に類を見ない程高い食糧廃棄率となっているが、米のおいしさを長持ちさせることにより、その廃棄率低減に寄与できる可能性も秘めている。
【0005】
また、一般に、外食や中食で利用される米には古米が多いが、古米は、保管中に米粒中の水分が蒸発して、通常の米粒に比べて水分が欠如しており、また、澱粉が変質しやすいので、炊飯後の米飯を、常温ないし冷蔵庫などで保管することにより、澱粉中の水が澱粉外に排出されたり、水分が蒸発して、米飯の食感や風味の経時劣化が大きかった。
【0006】
一方、無洗米の保存性を高め、炊飯後の米飯の風味・食感を長持ちさせるため、下記特許文献1には、精白した米を更に研磨して糠を完全に除去した米の表面にゼラチン溶液の被膜を形成してなるゼラチン被膜精白米が開示されている。
【特許文献1】特開平5−137521号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、米の表面をゼラチンで被覆すると、米が吸水しにくくなるので、炊飯に時間を多大に要したり、炊き上げた状態でも粘り気が十分得られず、パサ付きのある硬い食感になりやすかった。
【0008】
したがって、本発明の目的は、炊飯後の長期保存に適し、風味・食感に優れる米飯が得られる米飯の製造法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記目的を達成するため、本発明の米飯の製造法は、炊飯の際に、平均分子量10,000以下のコラーゲンペプチドを、精白米100質量部に対して、0.005〜0.2質量部の量で添加することを特徴とする。
【0010】
本発明の米飯の製造法によれば、精白米に、平均分子量10,000以下のコラーゲンペプチドを、前記精白米100質量部に対して、0.005〜0.2質量部の量で添加することにより、炊飯中に米の表面がコラーゲンペプチドでコーティングされ、米の持つ風味や香などが損なわれにくくなる。また、コラーゲンペプチドによるコーティング層は、米の吸水性を損なうことが無いので、従来の米と同様の粘り気のあるふっくらとした食感を有する米飯が得られる。更に、コラーゲンペプチドによるコーティング層は、澱粉の老化に対する抑止効果に優れるので、米飯の食感がパサつきにくくなり、更には、米飯の食感や風味が経時的に劣化しにくく、炊飯後の米飯の風味や食感を長持ちできる。
【0011】
なお、本発明において、炊飯の際に添加するとは、精白米を洗米した後、炊飯前又は炊飯中に添加することを意味する。洗米前にコラーゲンペプチドを添加した場合には、洗米の際に水に溶解して流出してしまうため、無洗米しか適用できなくなる。しかし、無洗米のように最初から米の表面にコーティングした場合には、米が吸水しにくくなるので、炊飯に時間を多大に要したり、炊き上げた状態でも粘り気が十分得られず、パサ付きのある硬い食感になってしまうという問題がある。
【0012】
本発明の米飯の製造法においては、前記精白米として、古米を精米したものを利用することが好ましい。古米は、保管中に米粒に含まれる水分が蒸発して、本来の米粒より水分が欠如した状態になっているが、炊飯中に上記コーティング層を精白米の表層に形成させることで、古米であっても、従来の米と同様の粘り気のあるふっくらとした食感を有する米飯が得られる。
【発明の効果】
【0013】
本発明の米飯の製造法によれば、米の持つ風味や香などが損なわれにくく、また、米の吸水性を損なうことが無いので、従来の米と同様の粘り気のあるふっくらとした食感を有し、風味のよい米飯が得られる。そして、澱粉の老化に対する抑止効果に優れるので、米飯の食感や風味が経時的に劣化しにくく、炊飯後の米飯の風味や食感を長持ちできる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0014】
本発明に用いることができる米としては、特に限定はなく、例えばジャポニカ米、インディカ米、ジャバニカ米などが挙げられる。そして、これらは新米であっても古米であってもよいが、原料コストを低減できるという理由から、古米が好ましい。なお、本発明において古米とは、玄米の状態で1年以上保管されている米を意味する。
【0015】
本発明に用いることのできるコラーゲンペプチドとしては、その起源、抽出方法、分子量等において特に制限されるものではない。例えば、豚、牛、鶏等の骨や、皮、または魚の骨、皮、ウロコに含まれるコラーゲンを熱水抽出、加圧抽出等の抽出方法によって得られたコラーゲンを使用することができる。
【0016】
そして、本発明において、コラーゲンペプチドの平均分子量は、10,000以下であることが必要であり、1,000〜4,000が好ましい。コラーゲンペプチドの平均分子量が10,000以下であれば、炊飯中に米の表面に付着しても吸水性が損なわれにくいので、粘り気のある食感が得られ、更には、澱粉の老化や油脂の酸化を効果的に抑制できるので、風味が劣化しにくくなる。
【0017】
また、本発明において、コラーゲンペプチドは、固形分中の遊離アミノ酸含量が1.0質量%以下、ヒ素含量が2ppm以下であることが好ましい。このようなコラーゲンペプチドは、既に外用剤やサプリメントとして使用実績が豊富であるため、安全性等の問題がなく、安心して使用することが可能である。そして、原料の特有の味や臭いがなく、更には、ヒ素含量2ppm以下と非常に低いので安全性が高く、幅広い分野に使用することができる。
【0018】
更に、コラーゲンペプチドとしては、魚由来のコラーゲンペプチドが好ましく使用される。魚由来のコラーゲンペプチドは、例えば、特開2003−238597号公報に記載されている方法に従って得ることができる。
【0019】
すなわち、カツオ、マグロ、カジキ、タラ、アジ、サバ、サケ、マス、サンマ、ウナギ、ティラピア、カワハギ、ハタ、オヒョウ、カレイ、ヒラメ、ニシン、イワシ、ティラピア、サメ、エイ、フグ、ブリ、カサゴ、メバル等から得られる魚皮及び/又は魚骨に、水を加えて加熱抽出又は加圧加熱抽出することにより、魚類由来のコラーゲンを得ることができる。上記魚類の中でも、大量かつ安定的に入手できることから、カツオ、マグロ、タラ、ティラピア、オヒョウ、サケ等を用いることが好ましい。
【0020】
そして、上記コラーゲンを含む抽出物を、タンパク加水分解酵素で処理してコラーゲンをペプチド化し、逆浸透膜処理して濃縮液を回収することで、コラーゲンペプチドを得ることができる。この場合、濃縮の際に、適宜加水しながら、元液量の1〜10倍量、好ましくは3〜5倍量の水を加えて液を透過させることが好ましい。加水操作を繰り返すことにより、不純物をより効率よく除去することができ、更には、魚特有の風味を軽減できるので、より安全性の高いコラーゲンペプチドを得ることができる。このようなコラーゲンペプチドとしては、商品名「マリンマトリックス」(焼津水産化学工業株式会社製)などが挙げられる。
【0021】
コラーゲンのペプチド化に用いる上記タンパク加水分解酵素としては、特に制限されず、中性プロテアーゼ、アルカリ性プロテアーゼ、酸性プロテアーゼ、あるいはそれらを含有する酵素製剤などを用いることができる。また、酵素製剤は各社から市販されており、例えば、商品名「プロテアーゼN」(天野エンザイム製、中性プロテアーゼ)、商品名「プロテアーゼP−3」(天野エンザイム製、アルカリ性プロテアーゼ)、商品名「スミチームAP」(新日本化学工業製、酸性プロテアーゼ)などを用いることができる。また、上記逆浸透膜としては、食塩阻止率が10〜50%のものが好ましく用いられる。このような逆浸透膜としては、例えば、商品名「NTR−7410」、商品名「NTR−7430」、商品名「NTR−7450」(いずれも日東電工製)等が挙げられる。
【0022】
また、所望の平均分子量のコラーゲンペプチドを製造する場合には、例えば、蒸気圧浸透法、光散乱法、電気泳動法、GPC‐HPLC法等の方法により平均分子量を測定することで、所望の平均分子量のコラーゲンペプチドを得ることができる。
【0023】
具体的な測定方法としては、例えば、GPC‐HPLC法でコラーゲンペプチドの平均分子量を測定する場合は、GPC‐HPLC装置(カラム:「TSK‐gel guardcolumnPWXL」(東ソー株式会社製)、「TSK‐gel G3000PWXL」(東ソー株式会社製)、「TSK‐gel G2500PWXL」(東ソー株式会社製)、移動相:0.5% 塩化ナトリウム水溶液、流速:0.8mL/min、カラム温度:30℃、検出:RI、HPLCポンプ:「HITACHI L−7100型」(日立製作所製)を使用し、標準物質として、ラミナリテトラオース(分子量660)、ラミナリヘキサオース(分子量990)、プルラン5量体(分子量5,900)、プルラン10量体(分子量11,800)、プルラン20量体(分子量22,800)を用いて、これら標準物質との相対分子量から求めることができる。
【0024】
本発明において、炊飯の際に添加するコラーゲンペプチドの量は、精白米100質量部に対し、0.005〜0.2質量部であり、好ましくは0.01〜0.1質量部である。コラーゲンペプチドの含有量が0.005質量部未満であると、澱粉の老化に対する抑止効果が十分得られず、米飯の食感や風味が経時劣化し易い。また、0.2質量部を越えると、米の吸水性を損なうおそれがあり、吸水時に時間を要する、パサ付きがある硬い食感の米飯になる、炊きムラが生じるなどの不具合が生じ易くなり、更には、米飯の食感や風味が経時劣化し易くなる。
【0025】
本発明において、炊飯方法は、特に限定されるものではなく、例えば電気、ガスを熱源とする炊飯器を用いて、常法に従って炊飯すればよい。また、野菜類、肉類、調味料などを添加して、炊き込みご飯としてもよい。更に、水を多目にして、お粥としてもよい。
【実施例】
【0026】
以下実施例を挙げて本発明を具体的に説明するが、これらの実施例は本発明の範囲を限定するものではない。なお、以下の実施例において、精米としては、コシヒカリ(1年古米)を搗精して精白米とし、表層に付着した糠を完全に除去したものを用いた。コラーゲンペプチドとしては、焼津水産化学工業株式会社製の商品名「マリンマトリックス」(平均分子量3,000のコラーゲンペプチド)を用いた。
【0027】
(試験例1)
精米150gを洗米した後、水を加えて合計405gの水浸漬米とし、これに表1に示す割合でコラーゲンペプチドを添加して、20℃で30分放置した。次いで、一合炊きの電気炊飯器を用いて、常法により20分間炊飯した後、20℃で1.5時間蒸らして、対照、比較例1、実施例1の米飯を得た。

【0028】
【表1】

【0029】
このようにして炊飯した米飯を、テクスチュロメーターを用いて、粘り、硬さを測定した。また、蒸らし処理後の米飯を、10℃で20時間貯蔵し、その後20℃で2時間貯蔵した後(冷蔵処理後)の粘り及び硬さを同様にして測定した。
【0030】
なお、米飯の粘り、硬さ、バランスの測定は、米飯3粒を皿の上に置き、プランジャーが米飯を1回押しつぶす時の負荷から硬さを測定し、そこから一回持ち上げる(プランジャーが元の位置に戻る)時に発生するマイナスの負荷から粘りを測定した。また、硬さの上昇率及び粘りの低下率は、それぞれ(冷蔵処理後の測定値)/(蒸らし処理後の測定値)で算出した。
【0031】
こうして得られた硬さの測定結果を図1に、粘りの測定結果を図2に示す。
【0032】
図1〜2の結果より、蒸らし工程を終えた直後の米飯は、硬さにおいては、対照、比較例1、実施例1のいずれにおいても、硬さ、粘りに大きな差異は認められなかった。しかし、比較例1においては、炊きムラが生じており、粘りに低下は見られなかったものの、これは表面的な粘りが生じた為である。
【0033】
次に、冷蔵処理を行なった場合、対照、実施例1、比較例1の米飯の硬さがいずれも増加したが、実施例1では、対照と比較して増加が抑制されており、一方、比較例1では、著しい増加が見られた。粘りについては、対照、実施例1、比較例1のすべてにおいて低下したが、実施例1では、対照と比較して低下が抑制されており、一方、比較例1では、著しい低下が見られた。
【図面の簡単な説明】
【0034】
【図1】蒸らし工程後及び冷蔵工程後の各米飯の硬さを表す図表である。
【図2】同米飯の粘りを表す図表である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
炊飯の際に、平均分子量10,000以下のコラーゲンペプチドを、精白米100質量部に対して、0.005〜0.2質量部の量で添加することを特徴とする米飯の製造法。
【請求項2】
前記精白米が、古米を精米したものである請求項1に記載の米飯の製造法。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate