説明

米麺及びその製造方法

【課題】100%米由来品で製出すると共に、麺全体が均質に形成されると共に、麺製品として充分に市場に提供できる米麺を製出する。
【解決手段】飯米としては美味しくない高アミロース米(アミロース含量25〜35%)を原材料とし、精米後、澱粉損傷度が1〜10%となるように粉砕して米粉とし、加水混練した後加熱処理し、適宜な手段で麺線に形成して、水分35〜45%で且つ酸溶解度45〜55%となる半生麺に製出してなる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、特に生麺状の米麺及びその製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
米粉を使用した所謂米麺の製造に関しては、米粉は小麦粉のようにグルテンを含有していないので、そのままでは麺線に形成することが出来ない。このため従前より種々の麺形成手段が提案されている。
【0003】
最も簡易な例としては、小麦粉の一部を米粉に置き換え、小麦粉含有のグルテンを利用する手段(特開昭53−130448号)、つなぎとして澱粉を使用して生麺とする手段(特公昭60−41579号)が知られている。更に澱粉を添加すると共に、澱粉を加熱して一部α化(糊化)してつなぎの機能を高めるようにする手法も提案されている(特開2000−83611号、特開2002−315526号)。
【0004】
更につなぎ物質としてグルコマンナンの水和糊を混練したり(特開2006−2179127号)、増粘多糖類を添加する(特開2006−166724号)等、つなぎ物質を添加して麺線に形成する手段も提案されている。
【0005】
然し添加物によって米独自の風味が損なわれるので、従前より100%米由来品を使用することで、米独自の風味を備えた麺の製造手段(麺線形成手段)も提案されている。
【0006】
例えば特公平5−8657号公報(特許文献1)には、米粉を加水蒸練したものに更に生の米粉を混入して練出圧延し麺線とする手段が開示されている。
【0007】
また特開2006−304674号公報(特許文献2)には、乾燥状態の米を粉砕または磨砕して得られる米由来原料に、精米歩合90%の白米をさらに精米したときに生成する米糠を加えて適量の水または湯を加えて密閉容器内の減圧下でよく捏ね、混練した米粉粘稠物を圧延して米生地とし製麺する手法が開示されている。即ち減圧下での混練によって澱粉粒間の相互の結着を強くして相応のコシを得るようにしているものである。
【0008】
【特許文献1】特公平5−8657号公報。
【特許文献2】特開2006−304674号公報。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
前記した澱粉や増粘多糖類等のつなぎを使用した米麺においても、また100%米由来品で製造した米麺においても、生麺状態(加熱処理されている半生状態も含む)においては麺線を維持するものであるが、可食状態とするために茹で上げると、麺線が互いに付着して塊状態となり、一般的な麺食品のようなツルツル感が全く無く、麺食品の嗜好性を満足させない。
【0010】
また風味においても、つなぎ物質の影響を免れることが出来ないし、100%米由来品を使用した麺であっても、特許文献1記載の手法を採用した場合には、加熱処理部分と生米粉との分離感があり、特許文献2記載の手法を採用した場合には、米糠風味が邪魔になり、特に減圧下での混練という煩雑な手段が必要となってくる。
【0011】
そこで本発明は、飯米として劣るとされている高アミロース米が通常の飯米に比較して麺線を形成しやすいことに着目し、100%米粉で製造され、茹で上げ後も麺線同士が付着せずに塊にならず、食感の優れた米麺の製造手段を提案したものである。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明に係る米麺及びその製造方法は、アミロース含量25〜35%の米を、澱粉損傷度が1〜10%となるように粉砕して米粉とし、加水混練加熱し、適宜な手段で麺線に形成して、水分35〜45%で且つ酸溶解度45〜55%に製出してなることを特徴とするものである。
【0013】
製出された米麺は、半糊化状態であり、高アミロース米100%を原材料として、つなぎを使用しなくとも麺線を維持するもので、そのまま茹で調理(茹で時間2〜3分)を行うことで、可食状態となり、茹で上げ後も塊状とならずに麺線状態を維持する。
【発明の効果】
【0014】
本発明の構成は上記の通りで、米粉のみで製出され、米風味を備えると共に、茹で上がりにも充分に麺線形状を維持する米麺を提供できたものであり、特に製粉過程、加熱処理過程で、麺生地となる米粉生地を所定の物性とするものであるから、製造工程途中に物性の異なる材料を添加しないので、麺自体の均一性が保たれ、その品質も充分に満足できる生麺状の米麺とすることができたものである。
【発明を実施するための最良の形態】
【0015】
次に本発明の最適実施形態を示すと共に、数値限定の根拠を見極めるための比較例を実施した。
【0016】
本発明の最適の実施形態としては、高アミロース米(品種:新潟79号、アミロース含量32.3%)を精米後にピンミルで粉砕して、澱粉損傷度1.3%の米粉とした。
【0017】
尚前記の澱粉損傷度は、粉砕米粉500mg(乾物)を0.25N塩酸50mlを加えたフラスコに秤り取って分散させ、温度55℃の恒温水槽中で2時間振とうした後、分散液を遠沈管に移して遠心分離し、上澄み液の全糖量をフェノール・硫酸法により測定し、[澱粉損傷度(%)=(上澄み液中のグルコース量/500)×100]の式で求めたものである。以下の数値も同様にして求めたものである。
【0018】
次に全体の水分が35%となるように加水して混練して生地とし、これを5分間の蒸し処理し、押し出し式製麺機によって直径2.5mm程度の米麺としたものである。
【0019】
前記米麺を、放冷後3分間茹で、可食状態としたところ、茹で直後の麺の硬度は、856gwで、麺線が互いに付着することなく、だし汁内において麺のさばけが良いし、食した際においても、コシが強く歯切れが良好で、米の風味が充分に生かされた米麺となったものである。
【0020】
次にアミロース含量、澱粉損傷度、水分量などの検証を行なうために、次の比較実施を行なった。
【0021】
第一に澱粉損傷度のために、アミロース含量32.3%の精米を使用し、澱粉損傷度が1.3%、7.1%、13.4%となる異なる米粉に製粉し、これらを各々水分35%となるように加水して混練し、5分間の蒸し加熱を行ない製麺し、3分間の茹で処理で可食状態としたところ、図1で示したとおりの結果となったものである。
【0022】
即ち製粉に際して澱粉損傷度が大きくなるほど、茹で麺の硬さが低下し、10%を超えると表面のべたつき(表面の溶解)が生じやすいことが確認できた。
【0023】
次にアミロース含量32.3%の精米を使用し、澱粉損傷度が1.7%の米粉を使用し、加水量を調整して前記した実施形態同様の製麺処理(加水加熱処理、麺線形成処理)を行なった。その結果、各々の麺の性状、水分含有量、酸溶解度は図2の表のとおりである。
【0024】
尚酸溶解度は、米粉に加水して蒸し加熱を行なった米麺の澱粉の糊化程度を測定し、アミロース含量・加水率・加熱条件・麺線化の難易・可食状態とした米麺のべたつきや食感等、米麺製造の最終条件(最適範囲)を判別するための指標とするものである。具体的には、米麺を乾燥後粉砕して100メッシュの篩を通過したもの250mgを、0.25N塩酸50mlを加えたフラスコに秤り取って分散させ、温度55℃の恒温水槽中で2時間振とうした後、分散液を遠沈管に移して遠心分離し、上澄み液の全糖量をフェノール・硫酸法により測定し、[酸溶解度(%)=(上澄み液中のグルコース量/250)×100]の式で求めたものである。
【0025】
前記の結果から加熱後の水分(生地製出時の水分と対応する)が高くなるほど酸溶解度は高くなり、また水分量が高くなりすぎると麺線同士の付着が生じ、従前の米麺同様の不都合が生ずる。更に水分が低くなるほど酸溶解度が低く、麺線形成に不都合が生ずる。
【0026】
従って製麺時の状態(可食処理前の生麺状態)において、水分35〜45%で且つ酸溶解度45〜55%の範囲で製出する必要であることが確認できた。
【0027】
また使用する精米のアミロース含量について確認するために、アミロース含量17.1%、27.4%、32.3%の精米を使用し、水洗後に、ピンミルで、澱粉損傷度が3〜10%の範囲となるように製粉し、水分35%となるように加水し、混練加熱処理(5分間の蒸し)し、製麺後に可食処理(3分間の茹で処理)した各々の麺の硬さ並びに性状・食味は図3の表のとおりであった。
【0028】
従って一般的に飯米として美味とされているアミロース含量17.1%の精米を使用した米麺は、麺食品としては満足がいくものではなく、所謂高アミロース米と称されるアミロース含量25%以上の米を使用した米麺が、麺食品として適することが認められた。
【0029】
尚本発明の実施に際して、米の粉砕手段(製粉手段)は、ピンミルに限定されるものではなく、ブレーキロールや気流粉砕機でも良く、粉砕時の発熱によって損傷される澱粉が所定の範囲に納まるようにすれば良いものである。
【0030】
また加水、混練、加熱の各手段も所望の手段を採用できるものであり、麺線形成手段も他の製麺機でも手切りによるものでも良い。勿論麺線の太さも任意である。
【図面の簡単な説明】
【0031】
【図1】本発明方法を実証するための比較実施例との対比表(澱粉損傷度の検証)。
【図2】同表(水分及び酸溶解度の検証)。
【図3】同表(原料米のアミロース含量の検証)。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
アミロース含量25〜35%の米を、澱粉損傷度が1〜10%となるように粉砕して米粉とし、加水混練して加熱し、適宜手段で麺線に形成し、水分35〜45%で且つ酸溶解度45〜55%としたことを特徴とする米麺の製造方法。
【請求項2】
アミロース含量25〜35%の米を、澱粉損傷度が1〜10%となるように粉砕して米粉とし、加水混練して加熱すると共に、適宜手段で麺線として、水分35〜45%で且つ酸溶解度45〜55%に製出してなることを特徴とする米麺。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2008−301769(P2008−301769A)
【公開日】平成20年12月18日(2008.12.18)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−152578(P2007−152578)
【出願日】平成19年6月8日(2007.6.8)
【出願人】(592102940)新潟県 (41)
【出願人】(501230742)まつや株式会社 (1)
【Fターム(参考)】