説明

粉体の評価方法

【課題】粉体の滑らかさやのびの軽さ感等の感触を客観的に評価することができる粉体の評価方法を提供すること。
【解決手段】一対の治具3、3の間に粉体10を挟持した状態で、これら一対の治具を突き合わせて、治具3、3の少なくとも一方を一方向に回転させるか又は一方向に回転させた後逆方向に回転させたときの治具3、3の挟持力及びトルク値に基づいて粉体10の感触を評価する。前記挟持力及び前記トルク値に基づいて求められる治具3と粉体10との間の摩擦係数の変動幅が小さい程粉体10の感触に優れると評価する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、粉体ののびの軽さや滑らかさ等の感触の評価に好適な粉体の評価方法、それに用いるための治具及び装置に関する。
【背景技術】
【0002】
ファンデーション等の固形粉末化粧料は、その成分となる粉末や液状物が特定の配合組成で調製され、充填ケースに充填されて提供されている。このような固形粉末化粧料の成分の配合組成は、使用感や充填ケースに充填された後の割れの生じ難さ等の種々の評価項目に基づいて決定されるが、膨大な種類の配合組成物を試作し、その評価が繰り返されているのが現状である。
【0003】
その一方で、例えば、下記特許文献1や特許文献2に記載の技術のように、特定の配合組成の化粧料の使用感を、アスカー硬度等の特定の物性の測定値と関連づけることによって、該化粧料の評価を客観的に行う方法が提案されているが、アスカー硬度は、粉末の特定の物性を評価するための客観的な指標になるとは思われない。そこで、原料粉体自体ののびの軽さや滑らかさ等の感触を、粉体の特定の物性によって客観的に評価できれば、当該粉体を化粧料として使用する場合の参考にすることができ、目的とする物性を有する配合組成物を得るための原料の選定作業を低減することができると考えられる。
【0004】
【特許文献1】特開2000−80235号公報
【特許文献2】特開2001−354519号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は、上述の課題に鑑みてなされたものであり、粉体の感触を客観的に評価することができる粉体の評価方法、それに用いるための治具及び装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は、一対の治具の間に粉体を挟持した状態でこれら一対の治具を突き合わせ、前記一対の治具の少なくとも一方を一方向に回転させるか又は一方向に回転させた後逆方向に回転させたときの該治具の挟持力及びトルク値に基づいて前記粉体の感触を評価する粉体の評価方法を提供することにより、前記目的を達成したものである。
【0007】
また、本発明は、前記本発明の粉体の評価方法に用いるための治具であって、互いに突き合わされたときに前記粉体を挟持する挟持面を有し、該挟持面に滑り止めを備えている粉体評価用治具を提供するものである。
【0008】
また、本発明は、前記本発明の粉体の評価方法に用いるための装置であって、装置本体と、該装置本体に取り付けられる一対の治具とを備えており、前記装置本体は、前記治具を互いに突き合わせるように動作させる第1の作動手段と、該治具を突き合わせた状態で該治具の少なくとも一方を一方向又は一方向に回転させた後逆方向に回転させる第2の作動手段と、前記治具による前記粉体の挟持力を検出する挟持力検出手段と、前記治具のトルクを検出するトルク検出手段とを具備し、前記治具は、前記粉体の挟持面に滑り止めを具備している粉体の評価装置を提供するものである。
【発明の効果】
【0009】
本発明の粉体の評価方法及び装置によれば、粉体ののびの軽さや滑らかさ等の感触を客観的に評価することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0010】
以下本発明を、その好ましい実施形態に基づいて図面を参照しながら説明する。
【0011】
図1は、本発明の粉体の評価方法に用いられる粉体の評価装置(以下、単に、評価装置ともいう。)の一実施形態を模式的に示すものである。図1において符号1は評価装置、10は粉体を示している。
【0012】
評価装置1は、装置本体2と、装置本体2に取り付けられる一対の治具3、3とを備えている。
【0013】
装置本体2は、治具どうしを互いに突き合わせるために治具3、3の一方(上治具)を移動させる治具移動手段21と、互いに突き合わされた治具3、3の上治具を一方向に回転させ又は一方向に回転させた後逆方向に回転させる治具回転手段22と、前記治具3、3による前記粉体の挟持力を検出する挟持力検出手段23と、前記治具3のトルクを検出するトルク検出手段24とを備えている。また、装置本体1は、これら各手段を制御するとともに、各検出手段で検出された出力に基づいて、摩擦力(摩擦係数)を算出する演算処理手段25と、算出された摩擦力(摩擦係数)を出力する出力手段26とを備えている。なお、下治具は固定されている。
【0014】
治具移動手段21は、鉛直に配されたガイドレール210に沿ってモーターによって上下動するキャリッジ211で構成されている。挟持力検出手段23はロードセルで構成される。トルク検出手段24は前述のモーターに付設されたトルクセンサーで構成される。装置本体2には、例えば、市販の回転式のレオメーターが用いられる。
【0015】
治具3、3は、互いに対向して略水平に配される円盤状の挟持板31を有している。上治具3は挟持版31の中心と治具移動手段22の出力軸220の中心軸とを一致させて出力軸220の先端に取り付けられている。上治具3の挟持板31は、モーターの駆動に伴って回転する。
【0016】
挟持板31における粉体10との挟持面310の面積は、トルク検出等ができる必要最小のサンプル量を考慮すると、2×10-5m2〜3×10-3m2、特に2×10-4m2〜9×10-4m2とすることが好ましい。
【0017】
前記治具3の粉体10の挟持面310、即ち、挟持板31の粉体10の挟持面310には、治具3を回転させた際に、該治具3と粉体10間の滑りを防ぐ滑り止め32が配されている。滑り止め32の固定方法に特に制限はないが、挟持板31の繰り返し使用、固定方法の簡便性等を考慮すると、両面テープのような両面粘着材料により固定することが好ましい。
【0018】
滑り止め32の硬度は、測定後に滑り止め32を挟持板31からはがす際の操作容易性や測定中の滑り止め32の摩滅防止を考慮すると、30〜80ゴム硬度、特に40〜60ゴム硬度とすることが好ましい。
【0019】
滑り止め32の材質としては、天然ゴム、ニトリルゴム、クロロプレンゴム、ブチルゴム、ウレタンゴム、シリコーンゴム、フッ素ゴム等のゴムが挙げられる。なお、これら滑り止めを使用するに先立ち、ゴム加工時に使用される離型剤やスキン層は、溶剤を含ませた無塵紙により、滑り止めの表面からふき取るのが好ましい。
【0020】
次に、本発明の粉体の評価方法を、前記実施形態の評価装置1を使用した第1実施形態に基づいて説明する。
【0021】
まず、下治具3の挟持板31上に粉体を略均一の厚さとなるように広げる。次いで、治具移動手段21のキャリッジ211を駆動させて上治具3の挟持板31を下降させて、これらの挟持板31、31を突き合わせ、それらの間に粉体10が挟持された状態にする。挟持板31に配する粉体10の厚みは、1〜30μm、特に3〜10μmとすることが好ましい。
【0022】
粉体10を挟持したときの挟持力(押圧力)は、再現性のよい測定値を得ること、滑り止めの摩滅防止等を考慮すると、1〜10KPa、特に2〜5KPaとすることが好ましい。
【0023】
次に、前記治具回転手段22で上治具3を一方向に回転させる。すなわち下治具3の挟持板31は固定しておき、治具回転手段22のモーターを駆動させて出力軸220をその中心軸周りに回転させ、上治具3の挟持板31をその中心周りに一方向に回転させる。
【0024】
治具3の回転速度は、より信頼性の高い測定値を得ること、短時間での測定等を考慮すると、1〜10rpm、特に5〜7rpmとすることが好ましい。
【0025】
次に、上述のようにして前記治具を一方向に回転させたときの治具の挟持力及びトルク値に基づいて、治具と粉体との間の摩擦力(摩擦係数)を求め、図2に示すような、摩擦係数の時間軸に対するプロットから摩擦係数の変動幅Wを求める。ここで、摩擦係数は、次に示す式(1)により求められる。ここで、Tはトルク(測定値)、rは上治具3の挟持面310(円形のニトリルゴム製)の半径、Nは挟持力である。
【数1】

【0026】
そして、上述のようにして求めた摩擦係数値やその変動幅に基づいて粉体ののびの軽さや滑らかさ等の感触の優劣を評価する。具体的には、例えば、測定対象粉体及び標準粉体についてそれぞれ摩擦係数の値とその変動幅を求め、その大小を比較することによって粉体の感触の良不良を評価することができる。
【0027】
次に、本発明の粉体の評価方法を、前記実施形態の評価装置1を使用した第2実施形態に基づいて説明する。
【0028】
本実施形態の粉体の評価方法では、粉体10を治具3、3で挟持した後の治具の回転のさせ方が異なる以外は、前記第1実施形態と同様であるので、前記第1実施形態と共通する部分については説明を省略する。従って、特に説明のない部分については前記第1実施形態における説明が適宜適用される。
【0029】
本実施形態の粉体の評価方法では、前記治具回転手段22のモーターで治具3、3の挟持板31を回転させる。具体的には下側の治具3の挟持板31は固定しておき、上側の治具3の挟持板31をその中心周りに一方向に回転させた後逆方向に回転させる。
【0030】
前述の、一方向への回転と反転は一定周期で行うことが好ましく、例えば、一定周波数の正弦振動で行うことが好ましい。該周波数は、測定データの信頼性と、なるべく短時間で測定することを考慮すると、0.03〜5Hz、特に0.08〜2Hzとすることが好ましい。治具3の回転角度は、感触の評価に使うことを考慮すると、0.005〜300°、特に0.01〜100°とすることが好ましい。反転の回数は、測定データの信頼性を考慮すると、測定に使用した周波数の1〜10倍回(たとえば2Hzであれば、3〜30回)特に2〜5倍回とすることが好ましい。
【0031】
次に、上述のようにして前記治具3、3を順逆回転させたときの挟持力及びトルクに基づいて、治具と粉体との間の摩擦係数を求め、図3に示すような、摩擦係数の回転角度(対数)に対するプロットから粉体どうしが滑り始めるときの回転角度(前記治具の一方を一方向に回転させたときの角度)を求める。粉体どうしが滑り始めるときの回転角度は、粉体毎の前記プロットから求めることができ、低回転角度からの摩擦係数の増大割合が低下、又は摩擦係数が極大を示す点として求めることができる。具体的には、例えば、後述の実施例における図5に示すマイカの例のように、摩擦係数が右肩上がりに上がっている領域では、マイカのすべりはなく、摩擦係数がピーク値(極大点)を超えて勾配が平坦になっている領域ではマイカが滑っていると認められ、このピーク値における回転角度を滑り始めとする。また、ウレタンの例では、摩擦係数が一様に右肩上がりに増大し、その勾配が変化する点(摩擦係数の増大割合が低下する点)以降でウレタンが滑っていると認められ、この点における回転角度を滑り始めとする。なお、摩擦係数は、前記の式(1)によって求められる。
【0032】
本実施形態においては、上述のようにして求めた粉体どうしが滑り始めるときの回転角度が小さい程前記粉体の感触に優れると評価する。具体的には、例えば、測定対象粉体及び標準粉体についてそれぞれ粉体どうしが滑り始めるときの回転角度を求め、その大小を比較することによって粉体ののびの軽さ等の感触の良不良を評価することができる。
【0033】
本発明は、前記実施形態に制限されるものではなく、本発明の趣旨を逸脱しない範囲において、適宜変更することができる。
【実施例】
【0034】
以下、実施例により、本発明をさらに具体的に説明する。
下記実施例1、2のようにして摩擦係数を求め、粉体の感触を評価した。なお、参考例として、下記のように官能試験によって粉体の感触を評価した。
【0035】
〔実施例1〕
ファンデーションに用いられる下記4種類の粉体を用い、下記条件で治具を一方向に回転させて摩擦係数と時間との関係を求めた。図4にその結果を示す。
【0036】
<粉体>
粉体A:酸化チタン(テイカ株式会社製、品番MT−600B)
粉体B:ウレタン(東色ピグメント株式会社製、品番D−800)
粉体C:マイカ(山口雲母工業所製、品番Y−2300)
粉体D:LT−CA(花王株式会社製のカルシウム塩の一種)
【0037】
<評価装置>
装置本体:Paar physica社製、型式MCR300の回転式レオメーター
挟持板の挟持面の面積:4.9×10−4/m
滑り止め:ニトリルゴム(硬度50)のシート、
【0038】
<摩擦係数の測定条件>
挟持力(押圧力):4KPa
回転数:6rpm
【0039】
〔実施例2〕
摩擦係数の測定条件を下記のようにした以外は、実施例1と同様にして測定を行った。得られた結果を図5に示す。
【0040】
<摩擦係数の測定条件>
挟持力(押圧力):2KPa
回転角度:0.01〜100°
使用周波数:0.1Hz
繰り返し回数(反転回数):3回
【0041】
〔参考例〕
実施例1及び実施例2で用いたと同様の粉体について、下記のような官能試験により粉体の感触を評価した。
それぞれの粉体をファンデーション用のスポンジを使用して人の腕に塗布した際の、のびの軽さと滑らかさについて、専門の評価者3人が協議し、満点を100点とした評価(0点〜100点)を行った。
【0042】
〔実施例による評価と参考例による評価との対比〕
実施例1及び参考例より求めた、粉体ののびの軽さと摩擦係数との関係を図6に、粉黛の滑らかさと摩擦係数の変動幅との関係を図7にそれぞれ示す。図6に示したように、摩擦係数の値が小さい程、前記粉体の感触に優れることが確認できた。図7に示したように、摩擦係数の変動幅が小さい程、粉体の感触に優れていることが確認できた。
また、実施例2と参考例より求めたのびの軽さと粉体どうしが滑り始めるときの回転角度との関係を図8に示す。図8に示したように、粉体どうしの滑りが生じ易い程、粉体の感触に優れることが確認できた。
これら、図6〜図8の結果から明らかなように、本発明の方法により粉体の感触と良い相関性を示すパラメーターを得ることができ、粉体の感触の定量化が可能となった。
【産業上の利用可能性】
【0043】
本発明の粉体の評価方法及び装置は、その評価対象となる粉体の用途に特に制限はないが、前記実施例におけるファンデーションの他、アイシャドウ、チークなどの固形粉末化粧料、皮脂や汗などのふき取り用シートなどに用いられる各種粉体の感触の評価に特に好適である。
【図面の簡単な説明】
【0044】
【図1】本発明の粉体の評価装置の一実施形態を模式的に示す図である。
【図2】本発明の粉体の評価方法の第1実施形態により得られる摩擦係数と時間軸との関係を模式的に示す図である。
【図3】本発明の粉体の評価方法の第2実施形態により得られる摩擦係数と回転角度との関係を模式的に示す図である。
【図4】本発明の粉体の評価方法の実施例における摩擦係数と時間軸との関係を示す図である。
【図5】本発明の粉体の評価方法の実施例における摩擦係数と回転角度との関係を示す図である。
【図6】実施例1及び参考例の結果から得られた、粉体のびの軽さと摩擦係数との関係を示す図である。
【図7】実施例1及び参考例の結果から得られた、粉体の滑らかさと摩擦係数との関係を示す図である。
【図8】実施例2及び参考例の結果から得られた、粉体のびの軽さと粉体どうしが滑り始めるときの回転角度との関係を示す図である。
【符号の説明】
【0045】
1 粉体の評価装置
2 装置本体
21 治具移動手段
22 治具回転手段
23 圧力検出手段
24 トルク検出手段
25 演算処理手段
26 出力手段
3 治具
31 挟持板
32 滑り止め
10 粉体

【特許請求の範囲】
【請求項1】
一対の治具の間に粉体を挟持した状態でこれら一対の治具を突き合わせ、前記一対の治具の少なくとも一方を一方向に回転させるか又は一方向に回転させた後逆方向に回転させたときの該治具の挟持力及びトルク値に基づいて前記粉体の感触を評価する粉体の評価方法。
【請求項2】
前記一対の治具の少なくとも一方を一方向に回転させたときの前記挟持力及び前記トルク値に基づいて求められる前記治具と前記粉体との間の摩擦係数の値又はその変動幅が小さい程前記粉体の感触に優れると評価する請求項1記載の粉体の評価方法。
【請求項3】
前記一対の治具の少なくとも一方を一方向に回転させた後逆方向に回転させたときの前記挟持力及び前記トルク値に基づいて得られる摩擦係数から求められる粉体どうしが滑り始めるときの前記一方向に回転させたときの角度が小さい程、前記粉体の感触に優れると評価する請求項1記載の粉体の評価方法。
【請求項4】
前記粉体と前記治具の挟持面との間に滑り止めを介在させる請求項1〜3の何れかに記載の粉体の評価方法。
【請求項5】
請求項1記載の粉体の評価方法に用いるための治具であって、互いに突き合わされたときに前記粉体を挟持する挟持面を有し、該挟持面に滑り止めを備えている粉体評価用治具。
【請求項6】
請求項1記載の粉体の評価方法に用いるための装置であって、
装置本体と、該装置本体に取り付けられる一対の治具とを備えており、
前記装置本体は、前記治具を互いに突き合わせるように動作させる第1の作動手段と、該治具を突き合わせた状態で該治具の少なくとも一方を一方向又は一方向に回転させた後逆方向に回転させる第2の作動手段と、前記治具による前記粉体の挟持力を検出する挟持力検出手段と、前記治具のトルクを検出するトルク検出手段とを具備し、
前記治具は、前記粉体の挟持面に滑り止めを具備している粉体の評価装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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