説明

粉体塗装用ブース

【課題】
噴霧粉体される粉体の回収を目的とする粉体塗装室の壁面に粉体が付着することを防止し、塗装室内の清掃を容易に短時間で可能にする。

【解決手段】
塗装室を形成する壁面と天井面の内側を平滑性の良い多孔質のシート板で形成し、該シート板の背面に空層を形成する二重壁とする。前記空気層には圧縮エアを供給してシート板の全面よりエアを噴出させ、塗装室の下部床面には吸引手段を設ける。これによって塗装室内に噴霧された粉体は内壁面に付着することなく底面より吸引排出される。供給されるエアの供給経路には制御手段と除電手段を設けることによって付着防止効果を高めることができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、粉体塗料を噴霧して被塗装物に塗装する際に噴霧を行う塗装室に関し、特に噴霧した粉体塗料が塗装室壁面に付着することを回避し、付着した場合においても簡単に清掃可能な塗装室に関する。

【背景技術】
【0002】
粉体塗装は溶剤を使用せず、粉体の溶融固着で塗膜を形成するため、粉体塗料の持つ性能が十分に発揮される他、揮発性有機溶剤の蒸散による環境影響の社会的問題の改善と資源活用が図れ、噴霧された塗料の余剰粉体は回収して再利用されるためにムダがない等、液体塗料の塗装に比較して多くの利点があることが知られている。
【0003】
反面、上記の利点を生かすために、粉体塗装の多くは被塗装物への塗着のために静電気を使用する等の特別の装置が必要であったり、噴霧された余剰粉体を分離回収し、再利用に供給するための設備が必要である等の理由から、同一の塗料を使用し、多量に塗装を行う量産品での利用に限定されてしまうのが現状である。
【0004】
すなわち色替えに代表される粉体塗料の変更は、次に使用する粉体に対して色が混入しないように、噴霧側のスプレー装置と、粉体供給装置を始め、塗装室内とこれと一連の粉体回収装置を構成するフィルタや遠心分離等を用いた粉体分離装置など、粉体通路の完全な清掃処理が必要とされている。この清掃作業は極めて手間のかかる作業であるために、頻繁な交換は作業の効率から敬遠され、多くの粉体塗装が一定色の塗料を使い続ける場合に制約されているのが実態である。
【0005】
多くの場合塗装室は、仕上げラインの一部として設けられ、設備的にも大きくなるため、塗装室自体を塗料ごとに準備することは不可能で、塗料替えの場合には清掃することが避けられない状況にある。したがって塗装室の清掃を容易化することは、生産性の向上に欠かせない事項となっている。そのためこれまでも幾つかの技術的な改善が提案されている。
【0006】
塗装室内に噴霧され、被塗装物に付着せず飛散した粉体塗料は、塗装室の壁面等に付着するため、この壁面への付着を防止する技術として、特開2001-54751号公報では、平滑なスキン層を有する非導電性の発泡樹脂パネルで壁面を構成することで、付着しても清掃が容易に行えるようにしている。また特開平11-207849号公報には、電気抵抗値が高い発泡成形樹脂の上に平滑な表面の薄膜フィルムを張り合わせた粉体付着防止用表面材を用いることが示されている。
【0007】
更に別の手段として、特開平11-33442号公報には、塗装室内壁面と被塗装物の間にエアカーテンを形成することによって噴霧された粉体塗料が塗装室の壁面に到達しないようにする方法が開示されている。
【0008】
しかし、エアカーテンは気流の流れによって被塗装物と内壁面との間に仕切りを設けるもので、気流は粉体の流れ方向を変える程度に強くする必要があり、その気流の強さは位置によって異なることから、静電塗装による塗着効率に少なからず影響し、噴霧の乱れが塗装品質の低下をもたらすおそれがある。
【0009】
以上のような現状から、メリットの高い粉体塗装を特定の被塗装物に対する部分的な利用にとどまらず、広く種々の被塗装物に対し利用拡大を図る上での条件として、塗装室の清掃の容易化をはかり、生産性の向上を図ることが強く望まれる。

【特許文献1】特開2001-054751号公報
【特許文献2】特開平11-207849号公報
【特許文献3】特開平11-033442号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
本発明は、環境への影響が少なくできる塗装として、粉体塗装における工業的な利用の拡大を図るため、改善すべき一つとして噴霧される粉体の飛散防止と回収を目的とする粉体塗装室の壁面に粉体が付着することを防止し、付着した場合であっても塗装室内の清掃を容易に短時間で可能にすることを課題とする。

【課題を解決するための手段】
【0011】
塗装室を形成する壁面と天井面の内側を平滑性の良い多孔質のシート板で形成し、該シート板の背面に空気室を形成する二重壁とする。前記空気室には圧縮エアを供給して前記シート板の全面より微量のエアを噴出させ、塗装室の下部床面には吸引手段を設ける。これによって塗装室内に噴霧された粉体は内壁面に付着することなく底面に設けた吸引手段により吸引排出される。
【0012】
前記エアの供給経路には制御手段と除電手段を設けることによって、多孔質のシート板表面より粉体が帯電する電子と逆の陽イオン化した除電エアを、前記シート板の全表面から適度の勢いで噴出させることができる。前記エアの供給は圧力の制御と共に、連続若しくは間欠の供給制御を選択できるようにする。

【発明の効果】
【0013】
前記の構成によって二重壁で構成された空気室に圧縮エアを送り込むと、内面に用いた多孔質のシート板の全表面より微少のエアが噴出する。多孔質を形成する孔の大きさは粉体塗料の平均的な粒径とほぼ同じか小さい大きさで、噴出するエアは粉体粒子をシート板表面に付着させることなく、ほとんどの付着を防止する。
【0014】
わずかに気流の乱れに乗じて、粉体粒子中の極く細かい粒子が孔に付着する可能性が生ずるが、帯電を防止するイオン化されたエアによってシート板への付着を防止することができる。また圧縮エアは常時供給していれば前記のとおり付着そのものを防止し得るが、付着の可能性が少ない場合など必要に応じて間欠的に供給することで、その間に一時的に表面に付着した粉体は、噴射力を加味した圧縮エアによって取り除くことも可能となる。
【0015】
前記何れの場合においても塗装室内に噴霧され余剰分として浮遊する粉体は、下方に落下すると共に下部に設けた吸い込み口より吸引、塗装室外に排出されることになる。したがって塗装室内は特別な清掃をすることなく、噴霧による粉体の流入を停止した状態で、塗装室の壁面全体からの空気供給と下部吸引手段からの吸引をすることによって室内の粉体をきれいに排除し清掃することができる。

【発明を実施するための最良の形態】
【0016】
以下に本発明の実施例を図により説明する。装置の概要を示す図1のように、塗装室1が内面側に多孔質板2で形成され、外側壁3との間に空気室4を有する二重壁で構成されている。多孔質板2は高分子量ポリエチレン等を主成分とした多孔質のシート成形品で、表面が平滑で平均的な孔径は数十マイクロメータのものが使用されている。
【0017】
孔径は粉体塗料の平均的な粒子径を30マイクロメータとした場合、これより小さい10乃至20マイクロメータであると良い。これらは主として使用される粉体塗料の材料によって選択されることが可能である。したがって粉体塗料の粒子径が多孔質の孔径より十分に大きければ表面が平滑な多孔質板2によって粉体が表面に付着することはほとんど無い。
【0018】
塗装室1の床面5は前記二重壁が望ましいが通常の床面でも可能である。床面5の一部には吸込み口6を形成し、吸引ダクト7等に接続された吸引装置8等で構成される吸引手段を設け、前記供給された圧縮エアを浮遊する粉体と共に吸引する。このときの吸引量は塗装室1内が負圧になるように十分吸引されることが必要である。そのため粉体の噴霧による噴出空気と前記空気室4からの供給量を上回る吸引量が吸引手段により吸引される。
【0019】
図の例では床面5が壁面と同様多孔質板で形成されているが、床面5に落下した粉体は空気室4からの噴出しエアによって流動化した状態を維持し前記吸込み口6から吸引されることになる。またこの床面は前記のとおり単に平板でも、平滑な面で形成することにより簡単に寄せ集めて、前記吸込み口6に送り込むことが可能であり、容易に清掃することが可能である。したがって必ずしも床面は多孔質板による二重壁であることに限定されない。
【0020】
吸引手段の吸引力は特に限定されることではなく、その吸引装置8は、吸い込みポンプや送風機の吸い込み力を利用することができる。吸引手段により吸い込まれた粉体と空気の混合気流は一般にサイクロン9に送られ、粉体を分離した後、粉体は粉体供給装置10によって必要な量が塗装ガン11に供給されてサイクルを構成する。
【0021】
空気室4に供給される空気は空気源12より制御装置13を介し、除電装置14を経て供給される。空気室4に供給された空気は多孔質板2を通り、塗装室1内に供給されるが、供給圧力は多孔質板2の仕様や塗装室内の圧力に応じて若干の変動がある。多孔質板の通気抵抗は、1平方メートル当たり1立方メートルの空気を通過させた時の圧力降下が1kPa以下であり、無視できる程度に小さく、数キロパスカル程度の低圧でもよく、送風機を使用して表面より緩やかな空気が流出することでよい。
【0022】
可能であれば吸引手段の吸引圧力によって大気状態のエアを、前記調整弁等の制御装置13を介して塗装室1内に供給することでも良い。制御装置13は流量の調整が可能のほか、手動若しくは自動によって供給若しくは停止が制御できるようにすることによって、多孔質の孔から噴出する空気の強さや時期を選択することができる。
【0023】
本発明では噴霧状態によっては必ずしも、常時空気を噴出する必要が無く、もしわずかな粉体の付着があった場合や多孔質の孔により細かい粉体粒子が入り込んだ場合でも、空気室側からエアを供給することによって容易に塗装室1内に吹き出すことが可能である。
【0024】
吹き出された粉体は、下方に落下し床面の多孔質板からの吹きだしによって流動化状態を形成し、床面に設けた吸込み口6からの吸引力によって吸引される。もし二重壁とせず床面を平滑な板で形成した場合に、一部吸引力の及ばない箇所に溜まる粉体は、吸引する箇所に掃き出すことで簡単に処理することが可能である。したがって塗装室全体は特別に手間をかけて清掃するまでも無く、色替えにあたっても容易に変更することができる。
【0025】
何れの場合においても圧縮空気供給の経路に除電装置を設置し、二重壁の空気室から噴出する空気を除電エアとすることによって、内面への静電気による付着を防止することが可能であり、付着防止と清掃の容易化の効果を一層高めることができる。このような除電装置としては一般的に塵埃等の付着除去装置として使用されている装置を利用することができる。

【図面の簡単な説明】
【0026】
【図1】本発明の実施例を説明する粉体塗装システムの概要図を示す。
【符号の説明】
【0027】
1 塗装室
2 多孔質板
3 外側壁
4 空気室
5 床面
6 吸込み口
7 吸引ダクト
8 吸引装置
9 サイクロン
10 粉体供給装置
11 塗装ガン
12 空気源
13 制御装置
14 除電装置





【特許請求の範囲】
【請求項1】
塗装室を形成する壁面と天井面の内側を平滑性の良い多孔質のシート板で形成し、該シート板の背面に空気室を形成する二重壁とし、前記空気室には圧縮エアを供給してシート板の全面よりエアを噴出させ、塗装室の下部床面に吸引手段を設けてなる粉体塗装用ブース。
【請求項2】
前記空気室と接続する圧縮エア供給経路に供給圧力制御手段と除電手段を設けてなる請求項1の粉体塗装用ブース。
【請求項3】
床面の吸引手段は、床面に設けた開口と連通し、粉体吸引ポンプを接続した粉体回収装置の吸引部である請求項1の粉体塗装用ブース。


【図1】
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【公開番号】特開2007−313455(P2007−313455A)
【公開日】平成19年12月6日(2007.12.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−147251(P2006−147251)
【出願日】平成18年5月26日(2006.5.26)
【出願人】(390028495)アネスト岩田株式会社 (224)
【Fターム(参考)】