説明

粉体塗装装置

【課題】被塗物の大きさに応じて、塗装ブース1の容積を最適な容積に適応させ、粉体塗料の被塗物への付着効率を向上させ、オーバースプレー粉を低減させること。
【解決手段】塗装ブース1の側面壁2、3又は天井壁12、13を可動壁にすることにより、通過する被塗物Aに応じて、室内の内幅又は天井高を変更し、塗装ブース1の容積を最適な容積に適応させるようにした。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、粉体塗装を行う際に、粉体塗料の飛散を防止し、オーバースプレー粉を回収するための粉体塗装ブースを備える粉体塗装装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
粉体塗装は有機溶剤を含まず環境にやさしい塗装として注目されている。近年は公共機材のひとつであるガードレールや、家庭の照明器具にいたるまで採用されている。特に海外では、車の下塗りや、トップコート(クリアー)にも採用されており、地球に優しい塗装と言われている。
粉体塗装は、粉体塗料の飛散を防止し、オーバースプレー粉を回収するために、塗装ブース内で行われる。
このため、粉体塗料は、溶剤塗料と違い、オーバースプレー粉の回収再利用が可能であるから、無駄が少ない地球に優しい塗料である。
【0003】
粉体塗料は、上記のように、回収再利用はできるが、再利用の際に、ゴミの混入による塗装不良が生じることもあり、できる限り1コートでの塗着効率を上げることが望ましい。
従来、この1コートでの塗着効率を上げるために、塗装ブースにおける塗装ガンの配置やセッティング、塗装ガンからの吐出をON−OFFするなど、オーバースプレー粉をできるだけ少なくする工夫がなされている。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、粉体塗装は、通常、塗装ブース内を通過する被塗物に対し、塗装ガンから粉体塗料を吐出して行われている。
【0005】
塗装ブースの大きさは、基本的に被塗物の大きさ、形状に応じて最適な大きさが決められるが、大きさの異なる複数種類の被塗物を塗装する場合には、大きさの異なる被塗物毎に、室内容積が適合する塗装ブースを設置することはスペース等の関係で現実問題としてできない。
【0006】
このため、大きさや形状の異なる複数種類の被塗物を一つの塗装ラインで塗装する場合には、最も大きな被塗物に合わせて塗装ブースの容積を決めざるを得ず、例えば小さい被塗物の場合には、被塗物の大きさに対して塗装ブースの容積が大きすぎて、被塗物に対する粉体塗料の付着効率が悪く、吐出された粉体塗料の多くがオーバースプレー粉として集塵機に回収されるなど、被塗物の大きさと塗装ブースの容積とが適応しない状態で塗装作業が行われていることが多い。
【0007】
そこで、この発明は、大きさや形状の異なる複数種類の被塗物を一つの塗装ラインで塗装する場合において、被塗物に応じて、塗装ブースの容積を最適な容積に適応させ、粉体塗料の被塗物への付着効率を向上させ、オーバースプレー粉を低減させることを課題とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記の課題を解決するために、この発明は、被塗物が塗装ブース内をコンベアーによって移動し、この移動する被塗物に対して粉体塗料を吐出する塗装ガンを備えた粉体塗装装置において、塗装ブースの側面壁又は天井壁の少なくとも一方を可動壁により形成し、通過する被塗物に応じて、室内の内幅又は天井高の少なくとも一方を変更可能にしたものである。
【0009】
上記塗装ブースに接続した集塵機の吸引量を、塗装ブースの室内容積に応じて調整可能にすることが好ましい。
【0010】
また、塗装ブースの側面壁を前後に分割し、分割された一部分の側面壁を可動壁により形成するようにしてもよい。
【発明の効果】
【0011】
この発明によれば、以上のように、塗装ブースの側面壁又は天井壁の少なくとも一方が可動壁により形成されているため、塗装ブースを通過する被塗物に応じて、塗装ブースの室内の内幅又は天井高を変更し、室内容積を最適な大きさにすることができるので、粉体塗料の被塗物への付着効率が向上し、オーバースプレー粉が低減する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
以下、この発明の実施形態について説明する。
図1〜図4は、塗装ブース1の左右の側面壁2、3を左右方向に移動する可動壁によって形成し、塗装ブース1を通過する被塗物Aの大きさに応じて室内の内幅を変更し、室内容積を被塗物Aの大きさに応じて適応させる第1の実施形態を示している。
この塗装ブース1の左右の側面壁2、3は、建屋の天井4に設置されたコンベアー5のハンガー6に吊り下げられて移動する被塗物Aを挟むように設けられている。左右の側面壁2、3の前後には、入口板と出口板が一体に取り付けられている。
【0013】
左右の側面壁2、3は、床7に設置されたレール8に沿って被塗物Aに対して接近、又は離反するように移動可能に設けられている。
【0014】
この左右の側面壁2、3は、図1に示すように、被塗物Aの左右幅が大きい場合には、左右の側面壁2、3を外側方向に移動させて塗装ブース1の室内の内幅を広げ、反対に、図3の(b)、(c)に示すように、被塗物Aの左右幅が小さい場合には、左右の側面壁2、3を内側方向に移動させて塗装ブース1の室内の内幅を狭めて、室内容積を被塗物Aに適応させることができる。
【0015】
左右の側面壁2、3の移動は、側面壁2、3の外側に設置したピストン9、10のロッドの伸縮によって行うようにしている。
塗装ガン11は、この実施形態の場合、左右の側面壁2、3にそれぞれ3基ずつ設置され、左右の側面壁2、3と共に、左右に移動し、被塗物Aと塗装ガン11との距離を調整できるようにしている。
【0016】
左右の側面壁2、3の上方には、それぞれ天井壁12、13が左右の側面壁2、3の上面を閉塞するように設置されている。この天井壁12、13は、建屋の天井4にピストン14、15を介して吊り下げられ、ピストン14、15のロッドを縮めることにより、図3の(a)、(b)に示すように、左右の側面壁2、3の上端から天井壁12、13が離れ、ピストン14、15のロッドを伸ばすことにより、左右の側面壁2、3の上端に天井壁12、13が当接して、左右の側面壁2、3と天井壁12、13との間に隙間ができないようにしている。
【0017】
この第1の実施形態において、上記のように、天井壁12、13を昇降式にしているのは、左右の側面壁2、3を左右に移動させる際に、左右の側面壁2、3と天井壁12、13とが当接していると、左右の側面壁2、3が天井壁12、13に当たって移動が妨げられるからである。したがって、左右の側面壁2、3を左右に移動させる際には、ピストン14、15のロッドを縮めて、図3の(a)、(b)に示すように、左右の側面壁2、3の上端から天井壁12、13を離すようにしている。そして、移動が終了した後に、図3の(c)に示すように、ピストン14、15のロッドを伸ばして、左右の側面壁2、3の上端に天井壁12、13を当てて、左右の側面壁2、3と天井壁12、13との間の隙間を塞ぐようにしている。
【0018】
塗装ブース1の床面には、被塗物Aの移動方向に沿って、オーバースプレー粉を回収する吸引ホッパー16が設置されている。この吸引ホッパー16の集塵機による吸引量は、塗装ブース1の容積に応じて調整することが好ましい。即ち、左右の側面壁2、3を広げて、室内空間の容積を大きくした場合には、吸引量を多く、室内空間の容積を小さくした場合には、それに応じて吸引量を少なくするというように制御することが好ましい。
【0019】
吸引ホッパー16の上端の左右幅は、左右の側面壁2、3を外方に最大限広げた幅に合わせている。このため、左右の側面壁2、3を内側に移動させると、吸引ホッパー16の上端両側部分と左右の側面壁2、3の下端部分との間に空間ができるため、この空間を塞ぐように、図4(a)、(b)に示すように、吸引ホッパー16の上端両側部分と左右の側面壁2、3の下端部分との間に、左右の側面壁2、3の移動に応じて、伸び縮みする巻き取り式のカバー17を設置している。
【0020】
上記のように、図1〜図4に示す塗装ブース1は、室内高さは一定であるが、左右の側面壁2、3を移動させることにより、室内幅を調整することができる。
【0021】
この室内幅の調整は、被塗物Aが塗装ブース1に到達する手前で、センサーによって被塗物Aの左右幅を検出し、この検出結果に基づき、天井壁12、13のピストン14、15のロッドと、左右の側面壁2、3のピストン9、10のロッドを動かし、左右の側面壁2、3の幅を予め被塗物Aの幅に合わせて自動的に適応させるようにしてもよい。
【0022】
上記の実施例では、左右の側面壁2、3を移動させる駆動手段として、ピストン機構を用いているが、駆動手段はこれに限られず、ボールネジ機構やチェーン機構等を用いてもよい。
【0023】
上記左右の側面壁2、3、天井壁12、13は、ポリプロピレン(PP)等の非導電性樹脂パネルによって形成することができる。
【0024】
次に、図5及び図6は、塗装ブース1の室内幅と室内高さの両方を変更して室内容積を被塗物Aの大きさに応じて適応させる第2の実施形態を示している。
この第2の実施形態の説明において、図1〜図4に示した第1の実施形態と共通する部分は、同じ符号を用いて説明する。
【0025】
この第2の実施形態において、左右の側面壁2、3の左右方向の移動機構、天井壁12、13の昇降機構は、第1の実施形態と同じである。第1の実施形態と相違する点は、天井壁12、13をピストン14、15によって昇降させて、室内高さを変更できるようにするために、天井壁12、13の昇降に応じて、左右の側面壁2、3の高さも変更可能にしている点である。左右の側面壁2、3の高さ調整は、左右の側面壁2、3を下部壁2A、3Aと、上部壁2B、3Bの分割壁とし、上部壁2B、3Bを、下部壁2A、3Aに設置したピストン20、21によって、下部壁2A、3Aに対して昇降させることにより行うようにしている。
【0026】
また、この第2の実施形態では、塗装ガン11を上下動するレシプロケーター22に設置し、このレシプロケーター22も台座23に車輪を設置して左右方向に移動可能にしている。
【0027】
この第2の実施形態における左右の側面壁2、3の移動と、天井壁12、13の昇降は、次のようにして行う。
【0028】
図5は、最も大きい被塗物Aの塗装を行う際に、左右の側面壁2、3を最も外側に広げ、天井壁12、13も上昇させて、室内容積を最も大きくした状態を示している。そして、この最も大きい状態から、図6に示すように、小さい被塗物Aを塗装する際には、左右の側面壁2、3、天井壁12、13を次のようにして移動させる。
【0029】
まず、図6(a)に示すように、天井壁12、13を少し上方に上げて、左右の側面壁2、3の左右方向の移動が、天井壁12、13によって妨げられないようにする。この後、図6(b)に示すように、ピストン9、10のロッドを伸ばして、左右の側面壁2、3を小さい被塗物Aに合わせて内側に移動させる。そして、天井壁12、13の高さを、小さい被塗物Aに合わせるために、まず、図6(c)に示すように、上部壁2B、3Bを下部壁2A、3Aに対してピストン20、21によって下降させ、左右の側面壁2、3の高さを低くし、この後、天井壁12、13を、図6(d)に示すように、下降させて、上部壁2B、3Bの上端と天井壁12、13との間の隙間を塞ぐようにしている。
【0030】
この後、図6(d)に示すように、レシプロケーター22も、小さい被塗物Aに合わせるために、内側に移動させて、塗装ガン11と被塗物Aとの距離を調整する。
【0031】
次に、図7、図8及び図9は、第1の実施形態と同様に、塗装ブース1の左右の側面壁2、3を左右方向に移動する可動壁によって形成し、塗装ブース1を通過する被塗物Aの大きさに応じて室内の内幅を変更し、室内容積を被塗物Aの大きさに応じて適応させる第3の実施形態を示している。
【0032】
この第3の実施形態は、第1の実施形態が被塗物Aをハンガー6に吊るして移動させているのに対し、被塗物Aを移動させるコンベアー24を床面に設置し、塗装ブース1の床面25の中央部を、被塗物Aの支持サポート26が移動するようにし、側面壁27、28の下端縁に沿って、排気ダクト29、30を一体に設置している。
【0033】
そして、側面壁27、28は、車輪付きのフレーム32、33に支持され、排気ダクト29、30と一体で、ピストン34、35によって左右方向に移動可能に設置されている。図7は、大きい被塗物Aに合わせて、側面壁27、28を広げた状態であり、図8は、小さい被塗物Aに合わせて、側面壁27、28を狭めた状態をそれぞれ示している。
【0034】
この第3の実施形態においても、天井壁31は、ピストン36、37によって昇降可能に吊り下げ支持されている。
【0035】
次に、図10は、塗装ブース1の側面壁38、39を、被塗物Aの移動方向に沿って前後に2分割し、前半部分の側面壁38A、39Aを、後半部分の側面壁38B、39Bに対して内側に、ピストン41によって移動可能にした第4の実施形態を示している。
【0036】
この第4の実施形態は、被塗物Aを移動途中で90度回転させ、前半部分で被塗物Aの両側面を塗装し、後半部分で被塗物Aの両端面を塗装する例を示している。塗装ブース1の前半部分での被塗物Aは、その幅が狭いため、前半部分の側面壁38A、39Aを被塗物Aの幅に合わせて、内側に移動させて、側面壁38A、39A間の距離を縮めている。
第4の実施形態において、塗装ガン11は、塗装ブース1の前半部分と後半部分にそれぞれ対向するように設置している。
【図面の簡単な説明】
【0037】
【図1】この発明に係る粉体塗装装置の第1の実施形態を示す正面図である。
【図2】図1の側面図である。
【図3】(a)、(b)、(c)は、第1の実施形態において側面壁を移動させる手順を示す正面図である。
【図4】(a)、(b)は、第1の実施形態において側面壁を移動させた際の吸引ホッパーと側面壁の下端との関係を示す部分断面図である。
【図5】この発明に係る粉体塗装装置の第2の実施形態を示す正面図である。
【図6】(a)、(b)、(c)、(d)は、第2の実施形態において側面壁及び天井壁を移動させる手順を示す正面図である。
【図7】この発明に係る粉体塗装装置の第3の実施形態で側面壁を広げた状態を示す正面図である。
【図8】この発明に係る粉体塗装装置の第3の実施形態で側面壁を狭めた状態を示す正面図である。
【図9】この発明に係る粉体塗装装置の第3の実施形態の底面部分を示す斜視図である。
【図10】この発明に係る粉体塗装装置の第4の実施形態を示す平面図である。
【符号の説明】
【0038】
1 塗装ブース
2、3 側面壁
4 天井
5 コンベアー
6 ハンガー
7 床
8 レール
9、10 ピストン
11 塗装ガン
12、13 天井壁
14、15 ピストン
16 吸引ホッパー
17 カバー
2A、3A 下部壁
2B、3B 上部壁
20、21 ピストン
22 レシプロケーター
23 台座
24 コンベアー
25 床面
26 支持サポート
27、28 側面壁
29、30 排気ダクト
31 天井壁
32、33 車輪付きのフレーム
34、35、36、37 ピストン
38A、39A、38B,39B 側面壁

【特許請求の範囲】
【請求項1】
被塗物が塗装ブース内をコンベアーによって移動し、この移動する被塗物に対して粉体塗料を吐出する塗装ガンを備えた粉体塗装装置において、塗装ブースの側面壁又は天井壁の少なくとも一方を可動壁により形成し、通過する被塗物に応じて、室内の内幅又は天井高の少なくとも一方を変更可能にしたことを特徴とする粉体塗装装置。
【請求項2】
上記塗装ブースに接続した集塵機の吸引量を、塗装ブースの室内容積に応じて調整可能にしたことを特徴とする粉体塗装装置。
【請求項3】
塗装ブースの側面壁を前後に分割し、分割された一部分の側面壁を可動壁により形成したことを特徴とする請求項1又は2記載の粉体塗装装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【公開番号】特開2009−106892(P2009−106892A)
【公開日】平成21年5月21日(2009.5.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−283692(P2007−283692)
【出願日】平成19年10月31日(2007.10.31)
【出願人】(000117009)旭サナック株式会社 (194)
【出願人】(000005326)本田技研工業株式会社 (23,863)
【Fターム(参考)】