説明

粉体挙動解析装置及び粉体挙動解析方法、並びにコンピュータ・プログラム

【課題】 境界面で仕切られた空間内における粉体の挙動を、境界の壁面から粒子が受ける影響を考慮しながら、個別要素法などで高精度に解析する。
【解決手段】 解析対象粒子の挙動シミュレーションを行なう前に、境界上に、運動自由度を拘束し固定された複数の仮想粒子を配置する。その際、仮想粒子の物性値を境界の壁面が持つ物性値に一致させることにより壁面の表面粗さを表現する。したがって、個別要素解析に基づいて粒子間の機械的相互作用を求めることにより、境界に衝突する粒子がその壁面が持つ表面粗さから受ける効果を再現しながら、解析対象粒子の挙動を高精度に解析することができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、所定の空間内で運動する多数の粉体の挙動をシミュレーションにより解析する粉体挙動解析装置及び粉体挙動解析方法、並びにコンピュータ・プログラムに係り、特に、境界で仕切られた空間内における粉体の挙動を解析する粉体挙動解析装置及び粉体挙動解析方法、並びにコンピュータ・プログラムに関する。
【0002】
さらに詳しくは、本発明は、境界の壁面からの影響を考慮しながら粉体の挙動を解析する粉体挙動解析装置及び粉体挙動解析方法、並びにコンピュータ・プログラムに係り、特に、境界の壁面が持つ表面粗さの効果を考慮しながら粉体の挙動を解析する粉体挙動解析装置及び粉体挙動解析方法、並びにコンピュータ・プログラムに関する。
【背景技術】
【0003】
粉体や粒体などの粒子を取り扱う分野では、粒子の挙動を把握することか重要な課題である。従来は、このような粒子の挙動を試行錯誤の実験により把握することが多かった。このような場合、現実に用いる粒子の組成や、実機に近い実験装置や実験環境を用意しなければ、所望する粒子の挙動解析を行なうことはできない。また、これらの仕様を変更する度に改めて実験しなければならず、時間やコストの面で問題があった。
【0004】
そこで、最近では、粉体や粒体などの粒子の挙動を数式化若しくはモデル化し、ほぼ同じ法則に支配されるシステムの挙動をコンピュータ上で模擬すること、すなわちシミュレーションが広く利用されている。シミュレーション技術を利用することにより、粒子の挙動を現実に体験する前に予測することができる。また、投入する条件やパラメータを変えて、同じシミュレーション計算を繰り返し行なうことにより、さまざまな粒子組成や装置設計・制御体系の性能を評価することができる。シミュレーションによれば、実験を行なう場合に比較して、より最適な解を低コストで得ることができる。さらに、シミュレーションにより得られたパラメータに基づいてシステムを制御し、システムのエラーを回避することができる。
【0005】
粉体を取り扱う装置の代表例として、電子写真技術を利用した複写機やプリンタなどの画像形成装置を挙げることができる。この場合、画像構成剤としてのトナー及びトナーを搬送するための磁性体からなるキャリアという2成分からなる粉体を取り扱う。電子写真プロセスは、電子写真感光体に対する帯電、スキャンした原稿イメージの露光、現像すなわち感光体へのトナー重畳、用紙へのトナー転写及びトナー定着、感光体のクリーニングという複数の工程からなる。このような電子写真プロセスでは、例えば攪拌、現像、転写などの各プロセスにおいて粉体挙動解析シミュレーションを適用することで、現実に画像形成実験を行なうことなく、形成される画像を予測し評価することができる。
【0006】
粉体挙動解析の主な手法として、粉体毎の挙動を解析する個別要素法(例えば、非特許文献1を参照のこと)と、複数の粉体を等価な物性値を持つ流体モデルに置き換えて解析する方法などが挙げられる。
【0007】
前者の個別要素法によれば、すべての粒子に作用するさまざまな力(例えば、弾性力や粘性力などの接触による作用力、ファンデルワース力や鏡像力、液架橋力などの外力)を基に運動方程式を立てて、粒子毎の挙動を解析するので、より現実に近い評価を行なうことができる。反面、取り扱う粒子数が膨大になると計算量が増大するという問題がある。計算コストが見合わない場合には、後者の隆替モデルを用いた解析方法が適宜採り入れられる。
【0008】
個別要素法では、各粒子に作用する力を考慮して挙動を解析するが、この作用力は解析対象となる粒子の間での機械的相互作用だけでなく、粒子の運動する領域すなわち解析領域の境界となる壁面から受ける機械的作用もある。上述した画像形成装置においては、例えば感光体ドラムや、中間体(但し、カラー画像形成の場合)、並びに印刷用紙の表面が壁面となる。これらの壁面が持つ表面粗さは同じではなく、境界と衝突若しくは接触する粒子に作用する機械的作用は一律ではない。勿論、感光体の表面粗さは一様ではなく、製品仕様に応じて異なることもある。
【0009】
従来の個別要素法などによる粉体シミュレーションでは、境界を直線若しくは平面で表現しており、壁面が持つ表面粗さの効果を直接再現することができない。このため、粉体の挙動解析結果は、表面粗さの影響の分だけ精度が低下する。
【0010】
例えば、境界の壁面に与える摩擦特性で表面粗さを代用する、あるいは壁面を多角形で表現するという代替的な手法も考えられる。しかしながら、摩擦特性で代用すると、凹凸のある壁面への粒子の接触状態がきちんと再現されない、すなわち付着力などの効果を再現することができないため、精度に問題がある。また、境界の壁面を多角形で表現すると、粒子と壁面間の接触の判定が煩雑となり、計算負荷が増大する。
【0011】
例えば、容器内で粉粒体を混合攪拌する過程における粒子の帯電量や壁面への作用力、付着力などを固体要素法シミュレーションにより算出する挙動シミュレーション方法について提案がなされている(例えば、特許文献1を参照のこと)。しかしながら、同挙動シミュレーション方法では、粒子の運動する領域の境界となる壁面における表面粗さに関する取り扱いはない。
【0012】
また、粒子と壁との接触を判定しながら2次元粒子挙動シミュレーションを行なう方法について提案がなされているが(例えば、特許文献2を参照のこと)、接触判定の対象となる粒子を限定することにより計算負荷を低減する点について開示されているものの、壁面の表面粗さに関しては言及されていない。
【0013】
また、容器に内包された弾性構造物と粒子の挙動を解析する挙動解析装置について提案がなされているが(例えば、特許文献3を参照のこと)、同解析装置では粒子とその粒子に接触する弾性部材の変形を求めてはいるものの、壁面の表面粗さに関しては言及されていない。
【0014】
【特許文献1】特開平10−260159号公報
【特許文献2】特開平11−120165号公報
【特許文献3】特開2004−199271号公報
【非特許文献1】粉体工学会「粉体シミュレーション入門―コンピュータで粉体技術を創造する―」(産業図書株式会社、1998年3月30日)、第3章「粒子要素法シミュレーション」
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0015】
本発明の目的は、境界面で仕切られた空間内における粉体の挙動を個別要素法などで高精度に解析することができる、優れた粉体挙動解析装置及び粉体挙動解析方法、並びにコンピュータ・プログラムを提供することにある。
【0016】
本発明のさらなる目的は、境界の壁面から粒子が受ける影響を考慮しながら粉体の挙動をより高精度に解析することができる、優れた粉体挙動解析装置及び粉体挙動解析方法、並びにコンピュータ・プログラムを提供することにある。
【0017】
本発明のさらなる目的は、境界に接触する粒子がその壁面が持つ表面粗さから受ける効果を考慮しながら粉体の挙動をより高精度に解析することができる、優れた粉体挙動解析装置及び粉体挙動解析方法、並びにコンピュータ・プログラムを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0018】
本発明は、上記課題を参酌してなされたものであり、その第1の側面は、所定の解析領域内で運動する多数の解析対象粒子の挙動を解析する粉体挙動解析装置であって、前記解析領域内に解析対象粒子を初期配置する初期配置手段と、前記解析領域の境界上に運動を拘束した固定された仮想粒子を配置する仮想粒子配置手段と、初期配置された解析対象粒子の前記解析領域内における挙動をシミュレーションする挙動シミュレーション手段とを具備することを特徴とする粉体挙動解析装置である。
【0019】
本発明に係る粉体挙動解析装置は、例えば、電子写真技術を利用した複写機やプリンタなどの画像形成装置における攪拌工程、現像工程、転写工程などの粉体挙動解析シミュレーションに適用することができる。そして、前記挙動シミュレーション手段は、例えば、個別要素法を適用し初期配置した各解析対象粒子について作用する相互作用を基に立てた運動方程式を解いて個々の挙動を求めることができる。
【0020】
ここで、個別要素法では、各粒子に作用する力を考慮して挙動を解析するが、この作用力は解析対象となる粒子の間での機械的相互作用だけでなく、粒子の運動する領域の境界となる壁面から受ける機械的作用も考慮しなければ、粉体の挙動解析結果は、表面粗さの影響の分だけ精度が低下すると思料される。
【0021】
本発明に係る粉体挙動解析装置によれば、境界で仕切られた空間に内包された多数の粉体を解析の対象として粉体挙動解析を行なう際に、前記仮想粒子配置手段が境界の壁面にその表面粗さを表現する仮想粒子を配置するようにしている。したがって、前記挙動シミュレーション手段は、境界に接触する解析対象粒子がその壁面の表面粗さから受ける効果を取り入れて、より高精度の粉体挙動解析を実現することができる。
【0022】
前記仮想粒子配置手段は、境界上に、運動自由度を拘束し固定された複数の仮想粒子を配置する。そして、解析対象粒子に現実の諸物理特性値を与えるとともに、仮想粒子には壁面の表面粗さを表現するような諸物理特性値を与える。そして、前記挙動シミュレーション手段は、個別要素解析などに基づいて粒子間の機械的相互作用を求めることにより、境界に接触する粒子がその壁面が持つ表面粗さから受ける効果を再現しながら、解析対象粒子の挙動を高精度に解析する。例えば、所定の表面粗さを持つ感光体のせん断作用による転写率の変化を再現する。
【0023】
本発明に係る粉体挙動解析装置によれば、前記仮想粒子配置手段は、解析対象粒子の運動する解析領域の境界上に、運動を拘束した仮想粒子を配置することにより、壁面が持つ表面粗さを再現する。その際、仮想粒子の物性値を境界の壁面が持つ物性値に一致させる。具体的には、壁面が持つヤング率、付着特性(接触角)、摩擦係数を仮想粒子に与えるようにする。
【0024】
また、前記仮想粒子配置手段は、仮想粒子を配置したときの摩擦特性(若しくは表面粗さ)が境界の壁面が持つ摩擦特性(若しくは表面粗さ)が一致するような物性値を仮想粒子に与えるようにしてもよい。
【0025】
また、前記仮想粒子配置手段は、仮想粒子の粒子径と粒子配置間隔を境界の表面粗さから決定するようにしてもよい。具体的には、境界の壁面が持つRa又はRzに基づいて仮想粒子の粒子径を決定し、境界の壁面が持つSmに基づいて仮想粒子の粒子配置間隔を決定する。
【0026】
また、本発明の第2の側面は、所定の解析領域内で運動する多数の解析対象粒子の挙動を解析するための処理をコンピュータ・システム上で実行するようにコンピュータ可読形式で記述されたコンピュータ・プログラムであって、前記コンピュータ・システムに対し、前記解析領域内に解析対象粒子を初期配置する初期配置手順と、前記解析領域の境界上に運動を拘束した固定された仮想粒子を配置する仮想粒子配置手順と、初期配置された解析対象粒子の前記解析領域内における挙動をシミュレーションする挙動シミュレーション手順を実行させることを特徴とするコンピュータ・プログラムである。
【0027】
本発明の第2の側面に係るコンピュータ・プログラムは、コンピュータ・システム上で所定の処理を実現するようにコンピュータ可読形式で記述されたコンピュータ・プログラムを定義したものである。換言すれば、本発明の第3の側面に係るコンピュータ・プログラムをコンピュータ・システムにインストールすることによって、コンピュータ・システム上では協働的作用が発揮され、本発明の第1の側面に係る粉体挙動解析装置と同様の作用効果を得ることができる。
【発明の効果】
【0028】
本発明によれば、境界面で仕切られた空間内における粉体の挙動を個別要素法などで高精度に解析することができる、優れた粉体挙動解析装置及び粉体挙動解析方法、並びにコンピュータ・プログラムを提供することができる。
【0029】
また、本発明によれば、境界の壁面から粒子が受ける影響を考慮しながら粉体の挙動をより高精度に解析することができる、優れた粉体挙動解析装置及び粉体挙動解析方法、並びにコンピュータ・プログラムを提供することができる。
【0030】
また、本発明によれば、境界に接触する粒子がその壁面が持つ表面粗さから受ける効果を考慮しながら粉体の挙動をより高精度に解析することができる、優れた粉体挙動解析装置及び粉体挙動解析方法、並びにコンピュータ・プログラムを提供することができる。
【0031】
本発明に係る粉体挙動解析装置は、解析対象粒子の挙動シミュレーションを行なう前に、境界上に、運動自由度を拘束し固定された複数の仮想粒子を配置する。そして、解析対象粒子に現実の諸物理特性値を与えるとともに、仮想粒子には壁面の表面粗さを表現するような諸物理特性値を与える。したがって、個別要素解析などに基づいて粒子間の機械的相互作用を求めることにより、境界に衝突する粒子がその壁面が持つ表面粗さから受ける効果を再現しながら、解析対象粒子の挙動を高精度に解析することができる。例えば、所定の表面粗さを持つ感光体のせん断作用による転写率の変化を再現することができるようになる。
【0032】
本発明に係る粉体挙動解析シミュレーションを、例えば電子写真プロセス方式の画像形成装置の転写プロセスに適用することで、転写時の感光体表面粗さによる転写率の変化をより高精度に再現することが可能となる。したがって、感光体表面粗さや、感光体・中間体・転写体間の速度差、転写体の接触幅などの転写プロセスにおける条件パラメータを変更しながら、本発明に係る粉体挙動解析シミュレーションを繰り返し行なっていくことで、転写プロセスを再現性よく評価することができ、最適値を得ることができる。
【0033】
本発明のさらに他の目的、特徴や利点は、後述する本発明の実施形態や添付する図面に基づくより詳細な説明によって明らかになるであろう。
【発明を実施するための最良の形態】
【0034】
以下、図面を参照しながら本発明の実施形態について詳解する。
【0035】
本発明は、所定の空間内で運動する多数の粉体の挙動をシミュレーションにより解析する粉体挙動解析装置に関する。より具体的には、電子写真技術を利用した複写機やプリンタなどの画像形成装置において、画像構成剤としてのトナー及びトナーを搬送するための磁性体からなるキャリアという2成分からなる粉体を解析対象粒子として取り扱うことができる。
【0036】
図6には、電子写真方式の画像形成装置の構成を示している。図示の通り、画像形成装置は、帯電器と、露光器と、攪拌器と、現像器と、定着器と、転写器を備えている。
【0037】
感光体の表面を帯電器によって一様な表面電位に帯電させた後、原稿をスキャンして得た画像データに従って感光体表面にレーザ・ビームをスキャンすることによって露光して所望の潜像電位からなる静電潜像を形成する。続いて、攪拌器においてトナー集中度を整えながら、現像器はトナーを静電潜像に重畳してトナー像を形成し、転写器は外部から搬送されてきた印刷用紙上にトナー像を転写する。そして、定着器により加熱溶融・圧着作用によりトナー像を転写体としての印刷用紙上に定着してから、画像形成装置の外に排紙する。転写後の感光体表面は、残留トナーをクリーナによって除去する。清掃後の感光面には残留電位が残っているが、初期電位を印加してから次の電子写真プロセスに利用される。
【0038】
このような電子写真プロセスでは、例えば攪拌、現像、転写などの各プロセスにおいて粉体挙動解析シミュレーションを適用することで、現実に画像形成実験を行なうことなく、形成される画像を予測し評価することができる。例えば転写プロセスでは、感光体表面粗さや、感光体・中間体・転写体間の速度差、転写体の接触幅などの転写プロセスにおける条件パラメータを変更しながら、本発明に係る粉体挙動解析シミュレーションを繰り返し行なっていくことで、転写プロセスを再現しながら形成される画質の評価を行なうことができる。
【0039】
図1には、本発明の一実施形態に係る粉体挙動解析装置の機能的構成を模式的に示している。図示の粉体挙動解析装置10は、粒子初期配置部11と、現像像形成部12と、転写工程計算部13と、転写品質評価部14を備えている。
【0040】
粒子初期配置部11は、粉体が運動する空間内に各粒子の初期配置を行なう。本実施形態では、粉体が運動する空間として、感光体表面に現像されたトナー像を、転写体又は中間体(但し、カラー画像の場合)に転写する転写プロセスが行なわれる領域を取り扱う。本実施形態では、粒子初期配置部11は、例えば感光体表面など、運動自由度を拘束し固定された複数の仮想粒子を配置することにより、感光体表面が持つ表面粗さを表現するようにしているが、この点の詳細については後述に譲る。
【0041】
現像像形成部12は、感光体表面に現像されたトナー像を形成する。例えば、別途処理が実行される攪拌プロセスや現像プロセスのシミュレーション結果に基づいて現像像の形成処理が行なわれる。
【0042】
転写工程計算部13は、感光体表面に現像されたトナー像を、転写体又は中間体(但し、カラー画像の場合)に転写するプロセスにおける、解析対象粒子としてのトナーの挙動解析を、例えば個別要素法に基づいて行なう。
【0043】
転写が行なわれる空間内では、解析対象粒子としてのトナーには、他の解析対象粒子や仮想粒子との機械的接触力、転写電界による静電力、付着力、重力、空気抵抗力などが作用する。転写工程計算部13では、初期配置した個々のトナーの運動方程式を解いて、トナー群の運動を求める。ここで、境界の壁面に配置された仮想粒子は、トナーと接触し相互に接触力を及ぼし合うが、運動方程式を解く際にはその変位は強制的にゼロに設定され、常に境界上に固定しておく。
【0044】
そして、転写品質評価部14は、転写工程計算部13によるトナー群の運動の計算結果に基づいて、転写体に形成される画像の品質を予測し評価する。
【0045】
粉体挙動装置10は、各部を実装したハードウェア装置の組み合わせで構成することもできるが、各部11〜14の機能を実現するソフトウェア・モジュールを実行する一般的なコンピュータ・システムとして実現することも可能である。勿論、粉体挙動シミュレーションは、パラメータを逐次変更しながら同様の厖大な計算を繰り返し行なうことから、グリッド・コンピュータを用いて挙動解析処理を行なうようにしてもよい。
【0046】
トナーの挙動を解析する際、解析対象となるトナー間での機械的相互作用だけでなく、粒子の運動する領域の境界となる壁面から受ける機械的作用もある。例えば感光体ドラムや、中間体(但し、カラー画像形成の場合)、並びに転写体の表面が壁面となる(図7を参照のこと)。これらの壁面が持つ表面粗さは同じではなく、飛散するトナーに作用する機械的作用は一律ではない。境界を直線若しくは平面で表現しており、壁面が持つ表面粗さの効果を直接再現することができず、その分、挙動解析結果の精度が低下する。
【0047】
これに対し、粒子初期配置部11は、例えば感光体表面など、運動自由度を拘束し固定された複数の仮想粒子を配置することにより、感光体表面が持つ表面粗さを表現するようにしている。図2には、解析領域に解析対象粒子としてのトナーを配置するとともに、境界上に運動自由度を拘束し固定された仮想粒子を配置した様子を示している。
【0048】
解析対象粒子に現実の諸物理特性値を与えるとともに、仮想粒子には壁面の表面粗さを表現するような諸物理特性値を与えることにより、転写工程計算部13では、個別要素解析などに基づいて粒子間の機械的相互作用を求める際に、境界に衝突する粒子がその壁面が持つ表面粗さから受ける効果を再現しながら、解析対象粒子の挙動を高精度にシミュレーションすることができる。例えば、所定の表面粗さを持つ感光体のせん断作用による転写率の変化を再現することができるようになる。
【0049】
粒子初期配置部11は、仮想粒子の物性値を境界の壁面が持つ物性値に一致させる。具体的には、感光体ドラムなどの壁面が持つヤング率、付着特性(接触角)、摩擦係数を仮想粒子に与えるようにする。
【0050】
また、仮想粒子を配置したときの摩擦特性(若しくは表面粗さ)が境界の壁面が持つ摩擦特性(若しくは表面粗さ)が一致するような物性値を仮想粒子に与えるようにする。
【0051】
また、仮想粒子の粒子径と粒子配置間隔を境界の表面粗さから決定するようにする。具体的には、境界の壁面が持つRa又はRzに基づいて仮想粒子の粒子径を決定し、境界の壁面が持つSmに基づいて仮想粒子の粒子配置間隔を決定する。ここで、Ra、Rz、Smは表面粗さを表示する評価変数であり、Raは算術平均粗さ、Rzは十点平均粗さ(基準長さの粗さ曲線において、その平均線から高い方の5個の山及び低い方の5個の谷間での距離をそれぞれ平均した値の差)、Smは凸凹の平均間隔である。
【0052】
図3には、仮想粒子を生成するための処理手順をフローチャートの形式で示している。
【0053】
まず、解析対象となる感光体ドラムが持つRa又はRz、Smなどの表面粗さデータや、境界位置、仮想粒子を配置する範囲などを入力する(ステップS1)。
【0054】
次いで、Raを仮想粒子平均径に換算するとともに、Smを仮想粒子平均間隔に換算するというデータ変換処理を行なう(ステップS2)。そして、仮想粒子平均径や仮想粒子平均間隔には標準偏差などによりバラツキを与える。
【0055】
次いで、仮想粒子を配置する配置範囲と平均間隔から、配置した仮想流指数を算出する(ステップS3)。
【0056】
次いで、各仮想粒子の直径を計算する(ステップS4)。
【0057】
次いで、各仮想粒子を配置する座標位置を計算する(ステップS5)。
【0058】
最後に、各仮想粒子の直系及び座標位置を出力し、本処理ルーチン全体を終了する(ステップS6)。
【0059】
図4には、仮想粒子の配置例を紹介している。例1では、均一に所定径を持つ仮想粒子を感光体面上に所定間隔で一様に配置している様子を示している。また、例2では、仮想粒子を感光体面上に所定間隔で一様に配置しているが、仮想粒子の直径を所定の分布になるようにバラツキを持たせている。また、例3では、さらに仮想粒子の間隔が所定の分布になるようにバラツキを持たせている。また、例4では、現実の感光体面が持つ表面粗さRa並びにRzに一致するように仮想粒子の粒子径を与えるとともに、Smに一致するように仮想粒子間の間隔を与えている。
【0060】
各仮想粒子は、転写工程計算部13による挙動解析時において、運動自由度を拘束し、壁面上に固定される。すなわち、仮想粒子は、トナーと接触し相互に接触力を及ぼし合うが、個々のトナーの運動方程式を解く際にはその変位は強制的にゼロに設定され、常に境界上に固定しておく。
【0061】
このように、本実施形態に係る粉体挙動解析装置10によれば、境界で仕切られた空間に内包された多数の粉体を解析の対象として粉体挙動解析を行なう際に、境界の壁面にその表面粗さを表現する仮想粒子を配置する。したがって、転写工程計算部14では、所定の表面粗さを持つ感光体のせん断作用による転写率の変化など、境界に接触する解析対象粒子がその壁面の表面粗さから受ける効果を取り入れて、より高精度の粉体挙動解析を実現することができる。
【0062】
図5には、転写工程計算部13による粒子挙動解析の処理手順をフローチャートの形式で示している。
【0063】
まず、解析対象となる各トナーに初期条件を与えて、初期化する(ステップS11)。
【0064】
次いで、粒子の接触を判定する(ステップS12)。ここで言う粒子には、解析対象粒子であるトナーと、境界の表面粗さを表す仮想粒子の双方を含む。
【0065】
ここで、接触が検出された場合には、その粒子間の距離を計算し(ステップS13)、接触による弾性力や粘性力などの作用力を計算する(ステップS14)。そして、接触粒子における計算が終了するまで(ステップS15)、これらの計算処理を繰り返し行なう。
【0066】
次いで、粒子に作用する外力の計算を行なう(ステップS16)。ここで言う外力には、ファンデルワース力や鏡像力、液架橋力などが挙げられる。
【0067】
そして、すべての粒子について、ステップS12〜S16の処理を繰り返し実行する(ステップS17)。
【0068】
次いで、解析対象である各トナーについての運動方程式を立てて、それぞれの加速度、速度、並びに変位の計算を行なう(ステップS18)。
【0069】
そして、時間ステップが終了するまで、ステップS12〜S18の処理を繰り返し実行する(ステップS19)。
【0070】
本実施形態によれば、境界上に、運動自由度を拘束し固定された複数の仮想粒子を配置し、解析対象粒子に現実の諸物理特性値を与えるとともに、仮想粒子には壁面の表面粗さを表現するような諸物理特性値を与えているので、ステップS8において運動方程式を計算して粒子間の機械的相互作用を求める際には、境界に接触する粒子がその壁面が持つ表面粗さから受ける効果を再現することができる。例えば、所定の表面粗さを持つ感光体のせん断作用による転写率の変化を再現して、解析対象粒子の挙動を高精度に解析することができる。
【0071】
転写工程計算部13では、感光体表面粗さや、感光体・中間体・転写体間の速度差、転写体の接触幅などの転写プロセスにおける条件パラメータを変更しながら、上述した粉体挙動解析シミュレーションを繰り返し行なっていくことで、各条件下での転写プロセスを高精度に再現することができる。したがって、転写品質評価部14では再現性のよい転写品質を評価し、転写プロセスの各パラメータについての最適値を得ることができる。
【産業上の利用可能性】
【0072】
以上、特定の実施形態を参照しながら、本発明について詳解してきた。しかしながら、本発明の要旨を逸脱しない範囲で当業者が該実施形態の修正や代用を成し得ることは自明である。
【0073】
本明細書では、電子写真プロセス方式の画像形成装置における転写プロセスのトナーの挙動解析に本発明に係る粉体挙動解析を適用した場合を例にとって説明してきたが、それ以外のプロセス(トナーとキャリアの攪拌プロセスや、感光体表面に形成された静電潜像へトナーを重畳する現像プロセスなど)における粉体挙動シミュレーションにも本発明を適用することができる。勿論、この種の画像形成装置の他に、粉体を取り扱うシステムのシミュレーションに本発明を適用することも可能である。
【0074】
要するに、例示という形態で本発明を開示してきたのであり、本明細書の記載内容を限定的に解釈するべきではない。本発明の要旨を判断するためには、特許請求の範囲の記載を参酌すべきである。
【図面の簡単な説明】
【0075】
【図1】図1は、本発明の一実施形態に係る粉体挙動解析装置の機能的構成を模式的に示した図である。
【図2】図2は、解析領域に解析対象粒子としてのトナーを配置するとともに、境界上に運動自由度を拘束し固定された仮想粒子を配置した様子を示した図である。
【図3】図3は、仮想粒子を生成するための処理手順を示したフローチャートである。
【図4】図4は、仮想粒子の配置例を示した図である。
【図5】図5は、転写工程計算部13による粒子挙動解析の処理手順を示したフローチャートである。
【図6】図6は、電子写真方式の画像形成装置の構成を示した図である。
【図7】図7は、転写工程のシミュレーション例を示した図である。
【符号の説明】
【0076】
10…粉体挙動解析装置
11…粒子初期配置部
12…現像像形成部
13…転写工程計算部
14…転写品質評価部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
所定の解析領域内で運動する多数の解析対象粒子の挙動を解析する粉体挙動解析装置であって、
前記解析領域内に解析対象粒子を初期配置する初期配置手段と、
前記解析領域の境界上に運動を拘束した固定された仮想粒子を配置する仮想粒子配置手段と、
初期配置された解析対象粒子の前記解析領域内における挙動をシミュレーションする挙動シミュレーション手段と、
を具備することを特徴とする粉体挙動解析装置。
【請求項2】
前記挙動シミュレーション手段は、初期配置した各解析対象粒子について作用する相互作用を基に立てた運動方程式を解いて個々の挙動を求める、
ことを特徴とする請求項1に記載の粉体挙動解析装置。
【請求項3】
前記仮想粒子配置手段は、前記解析領域の境界の壁面が持つ表面粗さを再現するように仮想粒子を配置する、
ことを特徴とする請求項1に記載の粉体挙動解析装置。
【請求項4】
前記仮想粒子配置手段は、前記壁面が持つ物性値に基づいて仮想粒子に物性値を与える、
ことを特徴とする請求項3に記載の粉体挙動解析装置。
【請求項5】
前記仮想粒子配置手段は、前記壁面が持つヤング率、付着特性(接触角)、摩擦係数のうち少なくとも1つを仮想粒子に与える、
ことを特徴とする請求項3に記載の粉体挙動解析装置。
【請求項6】
前記仮想粒子配置手段は、仮想粒子を配置したときの摩擦特性若しくは表面粗さが前記壁面が持つ摩擦特性若しくは表面粗さと一致するような物性値を仮想粒子に与える、
ことを特徴とする請求項3に記載の粉体挙動解析装置。
【請求項7】
前記仮想粒子配置手段は、前記壁面が持つ表面粗さに基づいて仮想粒子の粒子径又は粒子配置間隔のうち少なくとも1つを決定する、
ことを特徴とする請求項3に記載の粉体挙動解析装置。
【請求項8】
前記仮想粒子配置手段は、前記壁面が持つRa又はRzに基づいて仮想粒子の粒子径を決定し、前記壁面が持つSmに基づいて仮想粒子の粒子配置間隔を決定する、
ことを特徴とする請求項3に記載の粉体挙動解析装置。
【請求項9】
前記解析対象粒子は、電子写真プロセス方式の画像形成に用いられるトナーである、
ことを特徴とする請求項1に記載の粉体挙動解析装置。
【請求項10】
前記初期配置手段は、解析対象粒子としてのトナーを感光体から転写体へ転写する転写プロセスが行なわれる解析領域に初期配置し、
前記挙動シミュレーション手段は、転写プロセスにおけるトナーの挙動をシミュレーションする、
ことを特徴とする請求項9に記載の粉体挙動解析装置。
【請求項11】
前記仮想粒子配置手段は、感光体の物性値及び表面粗さに基づいて物性値が与えられた仮想粒子を配置する、
ことを特徴とする請求項10に記載の粉体挙動解析装置。
【請求項12】
前記挙動シミュレーション手段は、感光体、中間体、転写体間の速度差、転写体の接触幅を変更しながら挙動シミュレーションを繰り返し行なう、
ことを特徴とする請求項10に記載の粉体挙動解析装置。
【請求項13】
シミュレーション結果に基づいてトナーの転写体への転写品質を予測する予測手段をさらに備える、
ことを特徴とする請求項10に記載の粉体挙動解析装置。
【請求項14】
所定の解析領域内で運動する多数の解析対象粒子の挙動を解析する粉体挙動解析方法であって、
前記解析領域内に解析対象粒子を初期配置する初期配置ステップと、
前記解析領域の境界上に運動を拘束した固定された仮想粒子を配置する仮想粒子配置ステップと、
初期配置された解析対象粒子の前記解析領域内における挙動をシミュレーションする挙動シミュレーション・ステップと、
を具備することを特徴とする粉体挙動解析方法。
【請求項15】
前記挙動シミュレーション・ステップでは、初期配置した各解析対象粒子について作用する相互作用を基に立てた運動方程式を解いて個々の挙動を求める、
ことを特徴とする請求項14に記載の粉体挙動解析方法。
【請求項16】
前記仮想粒子配置ステップでは、前記解析領域の境界の壁面が持つ表面粗さを再現するように仮想粒子を配置する、
ことを特徴とする請求項14に記載の粉体挙動解析方法。
【請求項17】
前記仮想粒子配置ステップでは、前記壁面が持つ物性値に基づいて仮想粒子に物性値を与える、
ことを特徴とする請求項16に記載の粉体挙動解析方法。
【請求項18】
前記仮想粒子配置ステップでは、前記壁面が持つヤング率、付着特性(接触角)、摩擦係数のうち少なくとも1つを仮想粒子に与える、
ことを特徴とする請求項16に記載の粉体挙動解析方法。
【請求項19】
前記仮想粒子配置ステップでは、仮想粒子を配置したときの摩擦特性若しくは表面粗さが前記壁面が持つ摩擦特性若しくは表面粗さと一致するような物性値を仮想粒子に与える、
ことを特徴とする請求項16に記載の粉体挙動解析方法。
【請求項20】
前記仮想粒子配置ステップでは、前記壁面が持つ表面粗さに基づいて仮想粒子の粒子径又は粒子配置間隔のうち少なくとも1つを決定する、
ことを特徴とする請求項16に記載の粉体挙動解析方法。
【請求項21】
前記仮想粒子配置ステップでは、前記壁面が持つRa又はRzに基づいて仮想粒子の粒子径を決定し、前記壁面が持つSmに基づいて仮想粒子の粒子配置間隔を決定する、
ことを特徴とする請求項16に記載の粉体挙動解析方法。
【請求項22】
前記解析対象粒子は、電子写真プロセス方式の画像形成に用いられるトナーである、
ことを特徴とする請求項14に記載の粉体挙動解析方法。
【請求項23】
前記初期配置ステップでは、解析対象粒子としてのトナーを感光体から転写体へ転写する転写プロセスが行なわれる解析領域に初期配置し、
前記挙動シミュレーション・ステップでは、転写プロセスにおけるトナーの挙動をシミュレーションする、
ことを特徴とする請求項22に記載の粉体挙動解析方法。
【請求項24】
前記仮想粒子配置ステップでは、感光体の物性値及び表面粗さに基づいて物性値が与えられた仮想粒子を配置する、
ことを特徴とする請求項23に記載の粉体挙動解析方法。
【請求項25】
前記挙動シミュレーション・ステップでは、感光体、中間体、転写体間の速度差、転写体の接触幅を変更しながら挙動シミュレーションを繰り返し行なう、
ことを特徴とする請求項23に記載の粉体挙動解析方法。
【請求項26】
シミュレーション結果に基づいてトナーの転写体への転写品質を予測する予測ステップをさらに備える、
ことを特徴とする請求項23に記載の粉体挙動解析方法。
【請求項27】
所定の解析領域内で運動する多数の解析対象粒子の挙動を解析するための処理をコンピュータ・システム上で実行するようにコンピュータ可読形式で記述されたコンピュータ・プログラムであって、前記コンピュータ・システムに対し、
前記解析領域内に解析対象粒子を初期配置する初期配置手順と、
前記解析領域の境界上に運動を拘束した固定された仮想粒子を配置する仮想粒子配置手順と、
初期配置された解析対象粒子の前記解析領域内における挙動をシミュレーションする挙動シミュレーション手順と、
を実行させることを特徴とするコンピュータ・プログラム。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate

【図7】
image rotate