説明

粉末しょうゆの製造法

【課題】本発明は、加熱によって容易に固結することのない粉末しょうゆであって、かつ、減塩、あるいは塩分の吸収が抑えられるような機能性を有する粉末しょうゆを提供することを課題とする。
【解決手段】分子量5,000〜35,000の範囲である低分子化アルギン酸カリウムを賦形剤として用い、常法に従い粉末化し、粉末しょうゆを得る。
【効果】容易に粉末化が可能で、加熱や酸化によって容易に固結しない粉末しょうゆを得ることができる。さらに、高濃度に低分子化アルギン酸カリウムを添加することにより、アルギン酸カリウムの持つ高いナトリウム吸収阻害効果を十分に発揮することができ、高濃度に含まれる粉末しょうゆの塩分の吸収を抑えることが期待できる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、アルギン酸カリウムを含有する、固結が起こりにくい粉末しょうゆの製造法に関する。
【背景技術】
【0002】
食品需要の多様化に伴い、様々な加工食品、あるいは半加工食品が商品化されている。これらの食品に用いる調味料としては、加工がしやすいといった利便性から、粉末しょうゆ、あるいは粉末味噌等、粉末の形態で使用されることが多い。通常、粉末調味料は、例えば液体調味料に賦形剤を添加し加熱溶解した後、スプレードライ法、ドラムドライ法、フリーズドライ法などの乾燥粉末化を行うことで製造され、多種多様な加工食品に利用されている。しかしながら、粉末調味料、特に粉末しょうゆは、吸湿性が高く、固結しやすいため、長期保存が困難であるという欠点を有する。これは、粉末しょうゆの持つ吸湿性の高さに加え、粉末しょうゆが空気に触れると酸化により水分が生じること、又は、例え密閉状態下においたとしても加熱によりメイラード反応が進行することにより水分が生じることが原因である。この欠点を補うために、しょうゆにゼラチン、デキストリン、あるいはコーンスターチなどの吸湿、固結防止剤を添加し粉末化する方法が知られている(例えば、特許文献1〜3参照)。また、デキストリン等の賦形剤を、得られる粉末に対し20〜40%(w/w)の高濃度となるよう添加し、粉末化する方法も同様に知られている(例えば、特許文献4参照)。これらの方法により、密閉状態下等の良好な保存状態において、ある程度の固結を防止することが可能である。しかしながら、十分な固結防止効果を有しているとはいえず、固結防止剤の添加あるいは高濃度の賦形剤を添加することにより、相対的にしょうゆ本来の有する旨味成分等が希釈され、風味が損なわれてしまう欠点がある。
【0003】
さらに、通常の液体状のしょうゆ中に含まれる塩分濃度が約16%(w/v)であるのに対し、粉末しょうゆは、しょうゆの成分が濃縮されることにより、塩分濃度が約30%(w/w)と高濃度になってしまうため、単にしょうゆを粉末化するだけでは、近年の健康志向から受け入れられ難いものとなってしまうのが現状である。
【0004】
そのため、加熱や酸化によって容易に固結することのない粉末しょうゆで、かつ、減塩、あるいは塩分の吸収が抑えられるような機能性を有する粉末しょうゆの製造方法の開発が求められている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特公昭46−28839号公報
【特許文献2】特許第2767679号公報
【特許文献3】特許第3441219号公報
【特許文献4】特開2001−037440号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、加熱や酸化によって容易に固結することのない粉末しょうゆを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは、前記の課題を解決すべく、鋭意研究を重ねた結果、アルギン酸カリウムの持つ高い増粘安定性及びナトリウム吸収阻害効果に着目し、これを賦形剤として用いることで従来の欠点を解消する粉末しょうゆを提供できることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0008】
すなわち、本発明は以下に関する。
1)低分子化アルギン酸カリウムを含有する粉末しょうゆ。
2)低分子化アルギン酸カリウムをしょうゆに混和後に粘度が20cP以下となるまで水を添加し、粉末化してなる粉末しょうゆ。
3)前記1)〜2)記載の低分子化アルギン酸カリウムが、平均分子量5,000〜35,000の範囲の低分子化アルギン酸カリウムである粉末しょうゆ。
4)平均分子量5,000〜20,000の範囲の低分子化アルギン酸カリウムをしょうゆに混和後に粘度が20cP以下となるまで水を添加し、スプレードライ法により粉末化してなる粉末しょうゆ。
5)平均分子量20,000〜35,000の範囲の低分子化アルギン酸カリウムをしょうゆに混和後に粘度が20cP以下となるまで水を添加し、フリーズドライ法により粉末化してなる粉末しょうゆ。
【発明の効果】
【0009】
本発明により、加熱や酸化によって容易に固結しない粉末しょうゆを、常法に従い、容易に提供することができる。また、ナトリウム吸収作用を有するアルギン酸カリウムを高濃度に含有してなるものであるから、塩分の吸収が抑えられるという効果が期待される。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【図1】異なる平均分子量の低分子化アルギン酸カリウム(K−3,K−15,K−300)を溶解したしょうゆの粘度及び加水量との相関を示す図である。
【図2】低分子化アルギン酸カリウムを賦形剤としてスプレードライ法によって乾燥粉末化して得られる粉末しょうゆとデキストリンを賦形剤として用いて得られる粉末しょうゆの風味を比較した図である。
【図3】低分子化アルギン酸カリウムを賦形剤としてフリーズドライ法によって乾燥粉末化して得られる粉末しょうゆとデキストリンを賦形剤として用いて得られる粉末しょうゆの風味を比較した図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、本発明を具体的に説明する。
(低分子化アルギン酸カリウム)
アルギン酸は、褐藻などの海藻類に豊富に含まれている酸性多糖類の一種である。水に不溶性であるが、可溶性塩とすることで容易に抽出が可能である。本発明に用いるアルギン酸カリウムは、平均分子量が5,000〜35,000の範囲であるアルギン酸カリウム(以下、「低分子化アルギン酸カリウム」という。)である。賦形剤として用いるアルギン酸カリウムの平均分子量が35,000を上回る場合、しょうゆにアルギン酸カリウムを溶解することが困難で、かつ、アルギン酸カリウムの有する粘性により常法で粉末化することが困難となる。一方、平均分子量が5,000を下回る場合、粉末化後の固結安定性が著しく低下してしまう。すなわち、本発明に用いるアルギン酸カリウムは、上記範囲内の平均分子量であることが、極めて重要である。
なお、後述する粉末化の方法によって、得られる粉末しょうゆの性状が異なるため、スプレードライ法により粉末化する場合は、平均分子量5,000〜20,000の低分子化アルギン酸カリウムを用いることが、フリーズドライ法により粉末化する場合は、平均分子量20,000〜35,000の低分子化アルギン酸カリウムを用いることが好ましい。
海藻からアルギン酸を抽出する場合は、原料となる海藻を、例えば、希硫酸で洗浄後、炭酸ナトリウム溶液で抽出し、硫酸で沈殿させるなど、常法に従い調製することができる。低分子化アルギン酸カリウムは、海藻から抽出した高分子のアルギン酸又はその塩を、酸性条件下で加熱して低分子化するか、あるいは酵素処理により低分子後に、炭酸カリウムと反応させるなど、常法に従い調製することができる。市販品(例えば、K−3、又はK−15;フードケミファ社製)を用いてもよい。
アルギン酸を賦形剤として用いた場合、アルギン酸自体の持つ高い粘性により常法では粉末化が困難であったのに対し、これを低分子化し、特定の分子量とすることで、高濃度に賦形剤として用いても容易に粉末化が可能となる。また、低分子化アルギン酸カリウムの持つ高い吸湿、固結防止作用により、粉末しょうゆが加熱又は酸化による固結を容易に生じない。
【0012】
(しょうゆ)
本発明のしょうゆは、濃口しょうゆ、淡口しょうゆ、減塩しょうゆ、溜まりしょうゆ、白しょうゆ、酵素分解による化学しょうゆ等、一般的なしょうゆであれば、特に制限されず、用いることができる。
【0013】
(粉末しょうゆ)
しょうゆを粉末化する方法は、常法の乾燥粉末化する方法を採用することができる。例えば、スプレードライ法、又はフリーズドライ法等があげられる。粉末化する方法として、スプレードライ法を用いる場合、装置として、例えば、加圧ノズル式噴霧乾燥機、二流体ノズル式噴霧乾燥機、回転円盤(ディスクアトマイザー)式噴霧乾燥機、噴霧乾燥・造粒兼用乾燥機等、一般的な装置により粉末化が可能である。
スプレードライ法により液体を粉末化する場合、粘度が高すぎると正常に粉末化できない。具体的には、粉末化が可能な粘度は、20cP以下である。しょうゆに低分子化アルギン酸カリウムを添加し、スプレードライ法により粉末化する場合は、添加する低分子化アルギン酸カリウムの量又は平均分子量の違いにより加水の量を調製することで、粘度を20cP以下にする必要がある。
【0014】
上記工程を経た粉末しょうゆは、常温開放化においても容易に固結することのなく、固結安定性が極めて高い。なお、固結安定性とは、保存中に生じる酸化あるいはメイラード反応により水分が生じる事による粉末しょうゆのブロック形成の起こりにくさをいい、例えば、圧縮破壊試験機等を用いて特定条件下で測定した破断強度(g/mm)を指標として評価することができる。
【0015】
以下、実施例に則して本発明を具体的に説明するが、本発明の技術的範囲はこれらの記載によって制限されるものではない。
【実施例1】
【0016】
[低分子化アルギン酸カリウムの平均分子量の検討]
1.低分子化アルギン酸カリウムの調製
低分子化アルギン酸類として、平均分子量5,000、20,000、35,000及び130,0000の低分子化アルギン酸カリウムを用いた。平均分子量5,000の低分子化アルギン酸カリウムは、下記方法で調製した。コンブを希硫酸で洗浄後、炭酸ナトリウム溶液を用い、抽出を行った。前記抽出工程にて得られた抽出後の水溶液に、硫酸を加え、アルギン酸を沈殿させ回収した。前記のアルギン酸を水に溶解後、アルギン酸リアーゼを添加し、平均分子量5,000の低分子化アルギン酸を得た。平均分子量20,000、35,000及び130,0000の低分子化アルギン酸カリウムとしては、以下製品K−3、K−15及びK−300(フードケミファ社製)を用いた。
2.粉末化に最適な低分子化アルギン酸カリウムの分子量の検討
スプレードライ法又はフリーズドライ法による乾燥粉末化方法において、低分子化アルギン酸カリウムの平均分子量がしょうゆの粉末化に与える影響について検討した。平均分子量5,000の低分子化アルギン酸カリウム並びにK−3、K−15及びK−300の各低分子化アルギン酸カリウム10gを、しょうゆ50ml(20%(w/v))に溶解した。次いで、粉末化が可能な粘度20cPとなるまで水を加えた。その加水量と粘度との相関を表1及び図1に示す。
【0017】
【表1】

【0018】
表1及び図1に示すとおり、低分子化アルギン酸カリウムの平均分子量の増加に伴い、溶解後のしょうゆの粘度は増加し、それに比例して粉末化に必要な加水量も増加した。アルギン酸カリウムの平均分子量が35,000を越えると、粘度の増加に伴い必要な加水量が多くなり、しょうゆの持つ風味が損なわれてしまうおそれがある。一方、平均分子量が5,000〜35,000の低分子化アルギン酸カリウムを賦形剤として用いた場合、必要な加水量が低く抑えられ、しょうゆの持つ風味が損なわれることなく粉末しょうゆを得ることが期待できる。
【実施例2】
【0019】
[スプレードライ法による粉末しょうゆの調製]
低分子化アルギン酸カリウムを用いて、スプレードライ法により粉末しょうゆの調製を行い、その性状を観察した。粉末しょうゆの原料として、しょうゆ200ml当たり、デキストリン(三和澱粉工業社製)又は前記工程で調製した各低分子化アルギン酸カリウム40gを混和、溶解し、粘度20cP以下となるまで加水したものを用いた。前記粉末しょうゆの原料を、モービルマイナ型スプレードライヤー(TM−2000Model−A;NIRO JAPAN社製)を用いて、入口温度170〜180℃、出口温度90℃、液供給量15ml/min、アトマイザー回転数20,000〜22,000rpmの条件にて噴霧乾燥し、粉末しょうゆを得た。得られた粉末しょうゆの性状を表2に示す。
【0020】
【表2】

【0021】
表2に示すとおり、平均分子量35,000以上の低分子化アルギン酸カリウムを用いてスプレードライ法により粉末しょうゆを調製すると、乾燥時にべたつき、粉末化が困難であることが確認された。一方、平均分子量5,000及び20,000の低分子化アルギン酸カリウムを用いてスプレードライ法により粉末しょうゆを調製すると、粉末化後の性状が良好な粉末しょうゆを得ることができた。
【実施例3】
【0022】
[フリーズドライ法による粉末しょうゆの調製]
低分子化アルギン酸カリウムを用いて、フリーズドライ法により、粉末しょうゆの調製を行い、その性状を検討した。粉末しょうゆの原料としての液体しょうゆは、しょうゆ200ml当たり、デキストリン(三和澱粉工業社製)又は低分子化アルギン酸カリウム40gを混和、溶解し、粘度20cP以下となるまで加水したものを用いた。その後、共和式真空凍結乾燥機(RLE−214型;日精社製)を用いて、凍結乾燥し、回収した固形物を粉砕して粉末しょうゆを得た。結果を表3に示す。
【0023】
【表3】

【0024】
表3に示すとおり、平均分子量5,000の低分子化アルギン酸カリウムを用いた粉末しょうゆは、粉末化処理後の性状が飴状となり、粉末化が困難であることが確認された。一方、平均分子量20,000及び35,000の低分子化アルギン酸カリウムを用いて粉末しょうゆを調製すると、粉末化後の性状が良好な粉末しょうゆが得られた。
【0025】
実施例1及び2の結果より、乾燥粉末化に最も適した低分子化アルギン酸カリウムの平均分子量は5,000〜35,000であることが明らかとなった。なお、スプレードライ法を用いて粉末化を行う際に適した低分子化アルギン酸カリウムの平均分子量は5,000〜20,000であり、フリーズドライ法を用いて粉末化を行う際に適した低分子化アルギン酸カリウムの平均分子量は20,000〜35,000であることが明らかとなった。
【実施例4】
【0026】
〔低分子化アルギン酸カリウムを含有する粉末しょうゆの風味の検討〕
低分子化アルギン酸カリウムを用いた粉末しょうゆの粉末化後の風味を、味覚センサー分析に供し、測定した。本発明の粉末しょうゆは、実施例1あるいは2に記載の方法と同様に調製し、平均分子量20,000の低分子化アルギン酸カリウムを用いてスプレードライ法により粉末化した粉末しょうゆ(本発明1)及びフリーズドライ法により粉末化した粉末しょうゆ(本発明2)を、比較例として、デキストリンを用いてスプレードライ法により粉末化した粉末しょうゆ(比較例1)及びフリーズドライ法により粉末化した粉末しょうゆ(比較例2)を用いた。各粉末しょうゆを調製後、それらを超純水に4g/100mlの割合で溶解し、サンプル溶液とした。これを70mlずつ20℃にて味覚センサー(SA402;インテリジェントセンサーテクノロジー社製)分析に供し、風味の変化を比較検討した。その結果を図2及び図3に示す。
【0027】
図2、3に示すとおり、低分子化アルギン酸カリウムを用いて粉末しょうゆを調製すると、従来の粉末しょうゆに比べ、酸味が低下し、甘味、旨味、塩味が増強されることが確認された。賦形剤として低分子化アルギン酸カリウムを添加することにより呈味を改善することができ、良好な風味を有する粉末しょうゆを調製することができる。また、スプレードライ法により得られる粉末しょうゆは、加熱に起因するロースト香が付与されており、状況によってスプレードライとフリーズドライを使い分けることができる。
【実施例5】
【0028】
〔低分子化アルギン酸カリウムを含有する粉末しょうゆの固結安定性〕
本発明である低分子化アルギン酸カリウムを賦形剤として用いた粉末しょうゆの固結安定性を測定した。本発明の粉末しょうゆ、及び比較例の粉末しょうゆは、実施例2に記載の方法と同様に調製した。なお、本発明の粉末しょうゆの賦形剤は、平均分子量20,000の低分子化アルギン酸カリウムを用いた。固結安定性は、加熱処理後の固結強度の測定によって確認した。具体的には、得られた各粉末しょうゆを80℃、3時間加熱処理した後、圧縮破壊試験機(レオナーRE3305;山電社製)を用いた破断強度解析に供した。測定値が低いほど、固結し難く、固結安定性が高いことを示している。結果を表3に示す。
【0029】
【表3】

【0030】
表3に示すとおり、デキストリンを賦形剤として用いた粉末しょうゆに比べ、低分子化アルギン酸カリウムを用いて調製した粉末しょうゆは、加熱後の固結強度が非常に低い値を示し、極めて高い固結安定性を有することが確認された。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
低分子化アルギン酸カリウムを含有する粉末しょうゆ。
【請求項2】
低分子化アルギン酸カリウムをしょうゆに混和後に粘度が20cP以下となるまで水を添加し、粉末化してなる粉末しょうゆ。
【請求項3】
請求項1〜2記載の低分子化アルギン酸カリウムが、平均分子量5,000〜35,000の範囲の低分子化アルギン酸カリウムである粉末しょうゆ。
【請求項4】
平均分子量5,000〜20,000の範囲の低分子化アルギン酸カリウムをしょうゆに混和後に粘度が20cP以下となるまで水を添加し、スプレードライ法により粉末化してなる粉末しょうゆ。
【請求項5】
平均分子量20,000〜35,000の範囲の低分子化アルギン酸カリウムをしょうゆに混和後に粘度が20cP以下となるまで水を添加し、フリーズドライ法により粉末化してなる粉末しょうゆ。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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