説明

粉末スープの製造方法

【課題】過熱蒸気を付与することで調理感がある粉末スープを提供する
【解決手段】
複数種類のスープ原料を混合してこれに過熱蒸気を付与する。これによって調理感のある粉末スープとすることができる。また、本製法によると低水分状態(例えば、粉末状態)のスープ原料を混合して過熱蒸気を付与するだけで調理感にすぐれた粉末スープを製造することができる。尚、過熱蒸気付与に際しては過熱蒸気付与後の水分含量が過熱蒸気付与前の水分含量よりも低下しない範囲で行うのが好ましい。さらに、過熱蒸気付与後に乾燥工程を加えてもよい。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は粉末スープの製造方法に関するものである。さらに詳細には、熱湯を注加して溶解後に喫食するいわゆる即席用の粉末スープの製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
粉末スープは低水分であるため、保存性が優れ、量産化に適する等の特徴がある。このため、即席カップ麺や即席カップスープ等の即席食品に広く使用されている。粉末スープは、通常、肉や野菜のエキスの水分を蒸発させて粉化等して、これらを混合する等して製造する。
【0003】
また、当該粉末スープ(粉末調味料)の調理感・風味を向上させるために、粉末調味料に過熱蒸気処理する方法が開示されている(例えば、特許文献1)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2000−228963 特許文献1には、過熱蒸気を用いて粉末スープ(調味料)の調理感をアップする方法が開示されているが、一種類の粉末調味料を処理する方法しか開示していない(実施例1〜3)。また、過熱蒸気処理する装置に関する点がメインであり、過熱蒸気を用いた複数種類のスープ原料から粉末スープの製造方法について詳細に検討したものではない。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
そこで、本発明者らは過熱蒸気を用いた粉末スープの製造方法について詳細に研究し、より優れた調理感を得ることができる過熱蒸気を用いた処理方法を開発することを目的とした。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者らは、鋭意研究した結果、従来まで粉末等のスープ原料を単品で処理するのが通常であった過熱蒸気処理について複数種類のスープ原料を混合してから過熱蒸気処理した方が、単独で過熱蒸気処理したものを後に混合するより調理感に優れていることを見出した。このようにして、本発明を完成するに至ったのである。
すなわち、本願第一の発明は、
「複数種類のスープ原料を混合し、該混合物に対して過熱蒸気を付与する粉末スープの製造方法。」、
である。
【0007】
また、本発明者らの研究の結果、上述のスープ原料については、他の製造メーカ等から輸送されてくることも多いため水分含量が少ない粉末タイプの場合が保存性・取り扱いともに便利であるところ、このような低水分含量のスープ原料を複数混合した場合においても、風味の改良が著しいことを見出した。
すなわち、本願第二の発明は、
「複数種類のスープ原料を混合し、低水分状態であるスープ原料の混合物に対して過熱蒸気を付与する粉末スープの製造方法」、
である。
【0008】
また、過熱蒸気処理後においては、処理後において水分含量が高い場合には乾燥により水分含量を低減する方法が有効であることを見出した。
すなわち、本願第三の発明は、
「前記過熱蒸気の付与後に、さらに乾燥する請求項1又は2に記載の粉末スープの製造方法。」、
である。
【0009】
また、過熱蒸気の付与の程度については、付与する前の水分含量が過熱蒸気付与後の水分含量よりも低下しない範囲で行うのが風味的に好ましいことを見出した。
次に、本願第四の発明は、
「前記製造方法において、過熱蒸気付与後の水分含量が過熱蒸気を付与する前の水分含量よりも低下しない範囲で行う請求項1〜3のいずれかに記載の粉末スープの製造方法。」、
である。
【0010】
さらに、本発明においては過熱蒸気の付与の方法として一定時間連続的に付与する方法や過熱蒸気を複数回、間欠的に付与する方法のいずれも可能である。但し、スープ原料の混合物に対する過熱蒸気の付与を均一にするためには、過熱蒸気の付与を複数回、間欠的に行う方法が好ましいことを見出した。
次に、本願第五の発明は、
「前記過熱蒸気の付与が複数回、間欠的に行われることを特徴とする、請求項1〜4のいずれかに記載の粉末スープの製造方法。」、
である。
【発明の効果】
【0011】
本発明により製造される粉末スープは風味に優れ、また優れた調理感を有する。さらに、低水分状態であるスープ原料であっても風味に優れた粉末スープとすることができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【図1】試験例1における各香調別のチャームバリューを示した図である。
【図2】過熱蒸気処理時間ごとのスープ原料の混合物の水分含量を示した図である。
【図3】実施例7と比較例9の製造スキームを示した図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下に本発明の実施の形態について説明するが、本発明はこれらの実施形態に限定されるものではない。
【0014】
─スープ原料─
本発明にいうスープ原料とは、以下のものが例として挙げられる。
1. エキス系のスープ原料として、
1)畜肉エキス(ポーク、チキン、ミート等)、魚介エキス(アサリ、ホタテ、白身魚、等)、又は野菜エキス(キャベツ、トマト、オニオン、モヤシ、ハクサイ等)等
2)天然調味料(酵母エキス、蛋白加水分解物等)
3)卵粉(全卵粉、卵白粉、卵黄粉)
4)粉末醤油、粉末味噌、粉末ソース
5)乳原料(粉乳、チーズ等)

2. 炭水化物系のスープ原料として、
1)小麦粉、澱粉、デキストリン
2)糖類
3)増粘剤
4)カラメル

3. 香辛料系のスープ原料として、
1)ホワイトペッパー、ブラックペッパー、ジンジャー、ガーリック、唐辛子、クミン等
2)コリアンダー、レモングラス、月桂樹等のハーブ類等
がある。
【0015】
上記のスープ原料に、4.油脂類(動植物油脂、香料等)、あるいは5.調味料類として、食塩、グルタミン酸ナトリウム(MSG)、核酸(IMP、GMP)、コハク酸ナトリウム、有機酸(酢酸、クエン酸、リンゴ酸、酒石酸等)を補足的に添加してもよい。これらのスープ原料については、加熱されているか生かを問わない。
【0016】
また、後述するようにこれらのスープ原料は、粉末等の低水分含量であることが好ましい。低水分状態のスープ原料を使用するのであれば、スープ原料の提供元からスープ原料の提供を受ける場合、輸送時の微生物等の問題も生じないし、スープ原料の長期間の保存ができるためこれらを混合等して製造する粉末スープの製造上有利である。
【0017】
さらに、本発明にいうスープ原料のうち、エキス系のスープ原料には、例えば、畜肉又は野菜エキス等(油脂分を含む)が小麦粉やデキストリン等の賦形剤と一体となっており既に粉末化されたスープ形態となっているもの(例えば、ポークパウダーやオニオンパウダー等のエキスパウダー)を含むものとする。
【0018】
─複数種類のスープ原料─
本発明にいう複数種類とは、上記の1〜3のスープ原料のうち、少なくとも2種以上を混合することをいう。但し、一般的には、1のエキス系のスープ原料と、2の炭水化物系のスープ原料の2つの混合物であることが好ましい。
また、いわゆるカレーやシチュータイプである場合、通常のカレーやシチューの製造の場合と同様に、1のエキス系のスープ原料として畜肉エキスとともに、同じくエキス系のスープ原料の野菜エキスが混合されることが好ましい。
さらに、1及び2の混合に、さらに3の香辛料系のスープ原料を混合することがより好ましい。尚、これらに調味料を適宜、補足的に添加することができる。
【0019】
─混合─
混合とは、混合の方法は種々の方法が考えられるが、ミキサーで混合する方法がある。また、本発明では複数のスープ原料が用いられるが、このような場合、各スープ原料によって水分含量が大幅に異なる場合がある(例えば、液体系のスープ原料と粉末系のスープ原料)。
このように水分を多く含むスープ原料と低い水分のスープ原料がある場合には、これらをよく混合して水分の分布を概ね均一化しておくことが好ましい。
【0020】
─低水分状態であるスープ原料の混合物─
本発明では、前記スープ原料の混合物が低水分である状態に対して過熱蒸気を付与することができる。ここで、「前記スープ原料の混合物が低水分である状態」とは、混合後のスープ原料全体の水分含量が概ね15%以下の状態をいう。また、好ましくは10%以下であり、さらに好ましくは8%以下の状態をいう。
このような低水分状態であるために、本発明では基本的には上記の各種スープ原料が乾燥等された低水分含量である粉末タイプのものを使用することが好ましい。
【0021】
但し、これらの粉末のスープ原料に付加して、その重量比において粉末スープよりも遥かに少ない量であれば、一部液体スープを混合して使用してもよい。
例えば、水分4%の畜肉エキス系の粉末スープが100gあった場合に、これに水分含量75%の液体スープ2gを加えて混合した場合、混合後、水分含量は5.4%程度に過ぎず、全体としては低水分である状態を維持できる。尚、スープ原料の混合物の水分含量については、過熱処理の付与工程の前後において水シャワーにより調整してもよいことはもちろんである。
【0022】
─過熱蒸気の付与─
過熱蒸気の条件については、種々の条件を選択できる。具体的には、流量については特に限定されないが、概ね5〜100kg/hが好適である。また、温度については特に限定されないが、概ね100〜500℃が好適である。さらに、時間については特に限定されないが、概ね5秒〜60分程度が好適である。
【0023】
また、過熱蒸気の付与の方法としては、連続式、バッチ式のいずれのでもよい。但し、過熱蒸気を混合物に均等に付与するという観点から、撹拌を伴う方法が好ましい。
特に、本発明において、内部を撹拌しながら過熱蒸気を付与するタイプの処理を行う場合には、過熱蒸気を付与する工程においてスープ全体の水分含量が10%を超えない状態を維持することが好ましい。
【0024】
すなわち、撹拌しながら過熱蒸気を付与する方法は、撹拌するので対象物に過熱蒸気を均一に付与できるという点で有利であるが、撹拌の際に水分含量が高いと混合物が粘度を生じ、いわゆる“練られた状態”になるため、撹拌が困難になる場合がある。
例えば、バッチ方式で撹拌を伴うタイプの場合には粉末状態を維持しながら撹拌を行うことが必要となるため、水分含量が10%以下であることが好ましい。
【0025】
─過熱蒸気付与後の水分含量が過熱蒸気を付与する前の水分含量よりも低下しない範囲─
本発明においては、水分含量が15%以下、好ましくは10%以下、さらに好ましくは8%程度以下の低水分下で過熱蒸気を付与することができるが、このような低水分化で行う場合、過熱蒸気付与後の水分含量が過熱蒸気を付与する前の水分含量よりも低下しない範囲で行うのが好ましい。
【0026】
本発明者らは種々の条件を検討したが、過熱蒸気を付与した当初において対象物の表面が過熱蒸気より低温であるため、表面に水分が凝縮する。このため一旦は水分含量が上昇する。その後、当該凝縮した対象物の表面の水分も過熱蒸気によって加熱されて気化され始め、対象物からの蒸発が始まる。ここで過熱蒸気処理前の対象物の水分と過熱処理後の水分を比較して過熱蒸気処理前の対象物の水分含量を下回らない程度まで過熱蒸気処理することが好ましいことが判明した。
【0027】
また、後述する複数回の過熱蒸気処理を行う場合においても、それぞれの過熱蒸気処理工程において過熱蒸気付与後の水分含量が過熱蒸気を付与する前の水分含量よりも低下しない範囲で行うことが好ましい。
具体的には、スープ原料の混合物の水分含量は、1.0〜15.0%程度まで幅広いが、例えば、当初水分6%程度の場合には、一旦水分が凝縮して水分含量が増えた後に水分が減少し始め、減少し始めてから水分含量が6.0%前後にまで減少するまでの間に過熱蒸気の付与を停止することが好ましい。
【0028】
─過熱蒸気付与を複数回、間欠的に行う─
前記過熱蒸気の付与工程については、連続的な長時間の一回の過熱蒸気付与を行う方法もあるが、短時間の過熱蒸気付与を間欠的に行う方法も好ましい。すなわち、スープ原料の混合物に対する過熱蒸気の付与を均一にするためには、過熱蒸気の付与を複数回、間欠的に行い、過熱蒸気の付与の間に撹拌等することで過熱蒸気処理を均一にすることができる。
【0029】
また、前述のように、バッチ方式による過熱蒸気の付与の場合、過熱蒸気を付与した直後におけるスープ混合物の表面付近における水分の凝縮によって水分含量が増加する。また、このように水分が偏在している状態で撹拌しようとすると、いわゆる“練られた状態”になって撹拌が困難になる場合がある。
そこで、短時間の過熱蒸気付与を行った後に、付与を止めて撹拌し、さらに過熱蒸気の付与を再開するという繰り返し操作をすることが好ましい。尚、過熱蒸気の付与を止めている間に水シャワーを施してもよい。
【0030】
─過熱蒸気の付与後に乾燥する工程─
過熱蒸気の付与工程の後においては、乾燥する工程を設けることが好ましい。通常、過熱蒸気を付与することによって所定の調理感を得ることができるが、付与後の水分含量が高い場合もある。このような場合には、水分を調整する必要があるため乾燥工程を行う。乾燥は通常、熱風による乾燥を行うのが一般的であるが、その他の乾燥方法でも可能であることはいうまでもない。
【0031】
また、乾燥後において破砕する工程を必要とする場合もある。これは、水分含量が高い状態のまま過熱蒸気処理をした場合や、過熱蒸気を付与した時点での水分含量が高い場合、粉末スープが塊状となる場合があるからである。
破砕工程については、特に限定されないが、物理的な破砕や超音波による破砕等種々の方法を用いることができる。
【0032】
また、破砕後の粉末スープは通常の使用をすることができるが、塊状態が残っている場合においては、ベーキングパウダー等の発泡剤を混合してもよい。喫食事に注湯した際に、ベーキングパウダー等の発泡剤を同時に発泡させ、粉末スープの溶解を促進することができる。
【0033】
また、粉末スープを造粒等する場合には、この際にベーキングパウダー等の発泡剤を添加してもよいことはもちろんである。
尚、本発明による粉末スープの製造方法は、あるスープ製品に使用するスープ原料を必ずしもすべて過熱蒸気処理するということを意図していない。すなわち、スープ原料によっては過熱蒸気処理すると却って風味が劣化し、風味が弱くなる場合もある。
したがって、これらのスープ原料については過熱蒸気処理を施すことなく、本発明による過熱蒸気処理した粉末スープと、後に混合して、スープ製品の粉末スープを完成させるという方法でも良いことはもちろんである。
【0034】
─カレータイプの粉末スープ─
本発明においては、水分含量が僅かしかない状態であるにも関わらず、過熱蒸気という手法を用いることにより、短時間で個々のスープ原料の有する成分を他のスープ原料の相互に作用させることが出来る。これによって、いわゆる時間を掛けて煮込んだ状態と類似の状態を作りだすことができる。
【0035】
従って、本発明はこのような煮込んで調理感を徐々に高めていくいわゆるカレーやシチュータイプのスープの製造に適している。
通常、カレーやシチューは小麦粉を油脂(植物油脂、動物油脂)で焦げないようにして水分を飛ばしつつ炒め、フレーク状にし、ここに肉や野菜と水を入れて煮込んでいくが、本発明はこのようなカレーやシチューの粉末スープをより調理感を高める方法として利用できる。
【0036】
─本発明の粉末スープの利用方法─
本発明の粉末スープは即席食品用の粉末スープとして利用することができる。すなわち、お湯を注ぐだけで喫食できる即席スープには好適に使用することができる。また、即席めんで使用も可能である。すなわち、即席カップ麺や袋麺での利用が可能である。また、特にカレータイプの即席食品に好適に利用できる。
特に即席麺に利用する場合、本粉末スープを利用すると全体の油脂含量の低減に寄与できるので低カロリー商品に好適に利用できる。
【実施例】
【0037】
以下に本発明の実施例について記載するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
【0038】
[試験例1] 各種のスープ原料を単独で過熱蒸気処理した後混合した場合と混合した状態で過熱蒸気処理する場合の違いについて
カレー系粉末スープの調製のため、カレー系粉末スープを製造するために通常使用する40種のスープ原料についてそれぞれ過熱蒸気を付与して、風味の改善が見られたと思われる15種を選択した。
【0039】
これら15種のスープ原料についてそれぞれ過熱蒸気を付与した場合と、15種のスープ原料を混合してから過熱蒸気を付与した場合とで調理感等の官能評価上の差異について試験した。
<実施例1>(全部をミックスして過熱蒸気処理した場合)
上述のエキス系、炭水化物系、香辛料系のスープ原料(いずれも粉末状)の15種を充分に混合して全体として以下の表1に示すような含量比率となる複数のスープ原料の混合物を調製した。
【0040】
【表1】

上記の成分を有する混合物150g(粉末状態、水分5.0%)に対して、コンベアタイプの過熱蒸気処理装置を用いて過熱蒸気を(温度:180℃、蒸気流量:10kg/h、時間:60秒)で過熱蒸気処理を行った。
【0041】
当該過熱蒸気処理後の粉末スープについて、コンベアタイプの過熱蒸気処理装置を用いて過熱蒸気を(温度:180℃、蒸気流量:10kg/h、時間:60秒)で過熱蒸気処理を行った。その後、乾燥してからカレースープとなる実施例1の粉末スープを完成させた。
【0042】
<比較例1>(それぞれ原料単独で過熱蒸気処理した後に混合した場合)
上記15種のスープ原料(いずれも粉末状)をそれぞれ150g、個別にコンベアタイプの過熱蒸気処理装置を用いて過熱蒸気を(温度:180℃、蒸気流量:10kg/h、時間:60秒)で過熱蒸気処理を行った。
その後、15種の過熱蒸気処理したスープ原料を混合して比較例1の粉末スープを完成させた。
【0043】
<比較例2>
比較例1で過熱蒸気処理する前のスープ原料の混合品
【0044】
実施例1、比較例1及び比較例2について官能評価を行った。官能評価は実施例1、比較例1及び2のそれぞれについて2g採取し、熱湯を100g注加し、撹拌後に喫食して評価した。評価は熟練のパネラー5人によって行った。また、それぞれの項目については、5段階の評価で行った。評価項目について以下の表2に示す。また、官能評価結果を以下の表3に示す。
【0045】
【表2】

【0046】
【表3】

【0047】
次に、今回のサンプルは、カレー系の粉末スープであったため、特にカレー、玉ねぎ、肉、甘さ、スパイス感が大きな官能上の指標になる。これを各香調別のチャームバリュー(それぞれの香りの強さ)を図1に示す。
図1に示すが、比較例1と実施例1を対比すると明らかなように、各種スープ原料を混合してから過熱蒸気処理することで優れた調理感を得ることができることを見出した。
【0048】
[試験例2] 過熱蒸気の付与後における水分含量との関係
過熱蒸気についてどの程度を当該付与すればよいかを検討した。試験例1とは別の31種のスープ原料についてこれらを混合して、以下の含量比率となる複数のスープ原料の混
合物を調製した。以下の表4に配合比率を示す。
【0049】
【表4】

【0050】
上記のスープ原料の混合物に過熱蒸気処理を施した場合の水分含量の変化とそれぞれの水分含量における官能評価を行った。具体的には、上記31種の混合物150g(粉末状態、水分6.0%)に対して、コンベアタイプの過熱蒸気処理装置を用いて厚さを5mmとして過熱蒸気(温度:180℃、蒸気流量:10kg/h、時間:30秒)で過熱蒸気処理を行った。
【0051】
過熱蒸気付与の開始から0秒、15秒、30秒、1分、1分30秒、2分、2分30秒、3分のそれぞれの段階で水分含量と官能評価を行った。その他の条件については試験例1の場合と同様である。水分含量の変化を図2に示す。
図2に示すように水分含量は、15秒程度で最も上昇することが判明した。また、その後、過熱蒸気の付与を続けることで水分含量が低下していくことが判明した。
また、それぞれの過熱蒸気処理時間後の官能評価について以下の表5に示す。尚、官能評価の方法は試験例1に示した方法と同じである。
【0052】
【表5】

【0053】
過熱蒸気処理の進行とともに一旦上昇した水分が減少していくが、水分含量が過熱蒸気処理する前の6.0%を下回り、5.0%以下程度にまで乾燥すると、苦味が生じることが判明した。
【0054】
[試験例3] 撹拌タイプのバッチ方式による過熱蒸気付加方法において過熱蒸気の付与を数回に分けた方が良い点について
過熱蒸気の付与方法としては、コンベアタイプやバッチタイプ等があるが、これらのいずれも使用可能である。また、特に撹拌を伴うバッチタイプの場合については、撹拌できるかどうかが重要なファクターになる。この点について蒸煮時間と撹拌との関係を調べた。
【0055】
内部に撹拌羽根を備えたバッチ式の過熱蒸気処理装置を用いて、スープ原料の混合物に過熱蒸気を付与する工程における水分含量による撹拌の状態について試験した。
具体的には、以下の手順による。試験例1で記載した実施例1のスープ混合物についてこれを3kg用いて、上述のバッチ式の過熱蒸気処理装置(シェル構造の缶体に、水平回転する撹拌羽根を有し、過熱水蒸気を噴射できる装備を有するタイプ)に収納し、過熱蒸気(温度:300℃、流量:3kg/h)を付与して撹拌羽根を150rpmで回転させつつ、過熱蒸気を付与する時間を90秒に設定して、この過熱蒸気の付与時間を一回で行った場合と、複数回に分けて行った場合とで混合状態を比較した。
以下の表6に結果を示す。
【0056】
【表6】


過熱蒸気を90秒連続で一回のみの付与にしようとした場合、試験例2の水分含量の変化図で示したように一旦、スープ原料の混合物の表面付近に過熱蒸気の凝集が偏在して起こり、撹拌時にスープ原料の混合物が練られた状態になり撹拌時の負荷が大きくなり、撹拌が困難になる。
【0057】
一方、90秒を間に15秒の間隔(撹拌あり)を設けることで水分の分布が偏在している状態を緩和できるため、撹拌時の負荷を軽減することができた。また、90秒を30秒×3回とすることで撹拌時の負荷はより一層軽減されることが判明した。
【0058】
[試験例4] カレータイプの粉末スープについて従来までの製法と、今回の製法とで油脂含量を低減させつつ類似の調理感を実現できたことの試験
従来までの方法により製造したカレータイプの粉末スープと本発明により製造した粉末スープの比較を官能評価するとともに、油脂含量がどの程度低減できるかどうかを調べた。
【0059】
<実施例7>
試験例2で記載したように31種のスープ原料の混合物に対して過熱蒸気を付与し、次に乾燥することでカレー系粉末スープのスープの一部を完成させた。本処理後のスープ90gにカレータイプの粉末スープを完成させるために、その他の過熱蒸気を付与しない下記のスープ原料(17種)40gを加えて混合することでカレー系粉末スープを完成させた。以下の表7に配合比率を示す。
【0060】
【表7】

【0061】
<比較例9>
実施例7で最終的に混合して使用したスープ原料(48種)と類似のスープ原料(41種)を用い、油脂を使用して加熱・撹拌するという従来までの製造方法によりカレータイプの粉末スープを完成させた。
すなわち、カレー系のスープの基本製法に準じて、油脂55gを110〜130℃程度まで加熱して、炭水化物系の小麦粉30gを投入し撹拌しつつ加熱を20分間行った。連続してここに畜肉エキス8g、野菜エキス(オニオン等)30g、澱粉13g、香辛料30gを順次添加してカレー系粉末スープの製造に必要なすべてのスープ原料(41種)を加え、加熱をしつつ撹拌を続けてカレー系粉末スープを完成させた。
実施例7によるカレー系粉末スープの製造スキームと比較例9のカレー系粉末スープの製造スキームを図3示す。
【0062】
図3の方法によって製造した実施例7と比較例9の完成されたカレー系粉末スープについて官能試験を行った。結果を以下の表8に示す。尚、官能評価の方法は試験例1に示した方法と同じである。
【0063】
【表8】

【0064】
比較例9に示した小麦粉を油中で加熱するという、いわゆる通常の製造方法に準じた従来までの製造方法によるカレー系粉末スープは28%程度の油脂含量を有していた。一方、本発明の製造方法によるカレー系粉末スープは5%の油脂含量となった。
従来までの製法と本発明の方法で製造されたカレー系粉末スープを比較すると、本発明の方法により製造されたカレー系粉末スープは風味的には炊き込み感、熟成感、ロースト感においては従来までの製造方法と遜色のないレベルにあることが分かった。
このように同じ風味を維持しつつ、スープ中の油脂含量を大幅に減らすことができた。本発明を利用することでカレータイプの商品でカロリー低減の商品の開発に寄与することができる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数種類のスープ原料を混合し、該混合物に対して過熱蒸気を付与する粉末スープの製造方法。
【請求項2】
複数種類のスープ原料を混合し、低水分状態であるスープ原料の混合物に対して過熱蒸気を付与する粉末スープの製造方法。
【請求項3】
前記過熱蒸気の付与後に、さらに乾燥する請求項1又は2に記載の粉末スープの製造方法。
【請求項4】
前記製造方法において、過熱蒸気付与後の水分含量が過熱蒸気を付与する前の水分含量よりも低下しない範囲で行う請求項1〜3のいずれかに記載の粉末スープの製造方法。
【請求項5】
前記過熱蒸気の付与が複数回、間欠的に行われることを特徴とする、請求項1〜4のいずれかに記載の粉末スープの製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2012−65593(P2012−65593A)
【公開日】平成24年4月5日(2012.4.5)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−213398(P2010−213398)
【出願日】平成22年9月24日(2010.9.24)
【特許番号】特許第4733777号(P4733777)
【特許公報発行日】平成23年7月27日(2011.7.27)
【出願人】(000226976)日清食品ホールディングス株式会社 (127)
【Fターム(参考)】