説明

粉末圧延装置

【課題】予備圧下ロールを有する粉末圧延装置において、圧延ロール同士の間に供給される粉末材の供給量をより高精度に調節する。
【解決手段】圧延ロール2によって粉末材料Yを基材Xに圧着していない状態(粉末圧延の実行前の状態)にて、圧延ロール2同士を離間する方向に付勢する付勢手段12を備える。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、粉末圧延装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年、基材の表面に対してクラッド層が付着形成されたクラッドシートを製造する過程で用いられる装置として、基材に対して粉末を圧着する粉末圧延装置が提案されている。例えば、特許文献1には、このような粉末圧延装置が開示されている。
【0003】
より詳細に説明すると、粉末圧延装置は、対向配置される一対の圧延ロールを備えており、圧延ロール間に圧延荷重をかけることで、圧延ロール間に供給される基材の表面に対して、圧延ロールにて粉末を圧着させることによって、基材表面に粉末層を形成する。
そして、このような圧延ロールは、例えば特許文献2に示すように、軸受及び軸箱で支持されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特許第4211576号公報
【特許文献2】特開2009−270169号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところで、粉末圧延装置では、圧延ロール同士の間へ粉末材料を安定的に供給するために、基材に圧着される前に粉末材料を圧延ロールの周面に対して押し付ける予備圧下ロールを用いる場合がある。
圧延ロールの周面と予備圧下ロールの周面との間隔は、圧延ロール同士の間への粉末材料の供給量を規定する。このため、圧延ロールの周面と予備圧下ロールの周面との間隔は、クラッドシートの製造前に、粉末材料の供給量に応じた距離に設定される。
【0006】
しかしながら、圧延ロールを支持する軸受や軸箱は、機械的な誤差を有していたり、稼動を可能とするための僅かな隙間を有している。このため、圧延ロール同士の間に基材や粉末材料が存在し、圧延ロール間に圧延荷重が掛けられた状態で圧延ロールが粉末材料を圧延している場合には、圧延の際の反力が圧延ロールに対して作用して、圧延ロール同士が互いに離間する方向に移動するので、圧延ロールが上記隙間を埋めることとなる。
つまり、圧延ロールの位置が圧延時と非圧延時とで僅かに異なり、この結果、圧延時と非圧延時とで圧延ロールと予備圧下ロールとの相対位置が変化する。
【0007】
したがって、従来の粉末圧延装置では、圧延前に圧延ロールの周面と予備圧下ロールの周面との間隔を調節したとしても、圧延時に圧延ロールの周面と予備圧下ロールの周面との間隔が僅かに変化する。そして、この僅かな変化によって、圧延ロール同士の間に供給される粉末材料の供給量が、許容範囲を超えてしまうことが生じうる。
【0008】
本発明は、予備圧下ロールを有する粉末圧延装置において、圧延ロール同士の間に供給される粉末材料の供給量をより高精度に調節することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明は、上記課題を解決するための手段として、粉末圧延装置において、シート状の基材に対して粉末材料を圧着しつつ上記基材の圧延を行う一対の圧延ロールと、上記圧延ロールの周面に供給された上記粉末材料が上記基材に圧着される前に、上記粉末材料を上記圧延ロールの周面に対して押し付けることで予備圧下粉末層を形成する予備圧下ロールと、上記圧延ロールによって上記粉末材料を上記基材に圧着していない状態にて上記圧延ロール同士を互いに離間する方向に付勢する付勢手段とを備えるという構成を採用する。
【0010】
本発明によれば、圧延ロールによって粉末材料を基材に圧着していない状態(粉末圧延の実行前の状態)において、付勢手段によって圧延ロール同士を互いに離間する方向に付勢している。このため、粉末圧延の実行前における圧延ロールの位置を、粉末圧延の実行中における圧延ロールの位置とほとんど同じ位置に合わせることができる。
したがって、圧延ロールの周面と予備圧下ロールの周面との間隔を、粉末圧延の実行前の状態における圧延ロールの位置を模擬して調節することができ、当該間隔をより正確に調節することができる。ここで、圧延ロールの周面と予備圧下ロールの周面との間隔に応じて粉末材料の供給量が決定されることから、圧延ロールの周面と予備圧下ロールの周面との間隔を正確に調節できる結果、圧延ロール同士の間に供給される粉末材料の供給量をより高精度に調節することができる。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、予備圧下ロールを有する粉末圧延装置において、圧延ロール同士の間に供給される粉末材料の供給量をより高精度に調節することができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【図1】本発明の一実施形態における粉末圧延装置の要部を示す概略構成図であり、(a)が圧延ロールの回転軸方向から見た模式図であり、(b)が(a)のA−A線断面を矢印方向に見た図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、図面を参照して、本発明に係る粉末圧延装置の一実施形態について説明する。なお、以下の図面において、各部材を認識可能な大きさとするために、各部材の縮尺を適宜変更している。
【0014】
本実施形態の粉末圧延装置1は、金属のシート状の基材Xの両面対して、例えばロウ材層として機能するクラッド層が付着形成されたクラッドシートを製造する過程で用いられるものであり、基材の両面に対してクラッド層の形成材料となる粉末材料Yを圧着させるものである。
【0015】
図1に示すように、本実施形態の粉末圧延装置1は、圧延ロール2と、圧延ロール軸箱3と、リニアガイド4と、圧延ロール用油圧シリンダ5と、油圧装置6と、ハウジングフレーム7(支持フレーム)と、予備圧下ロール8と、予備圧下ロール軸箱9と、予備圧下ロール昇降機構10と、回転駆動部11と、付勢機構12とを備えている。
なお、図1に示されていないが、本実施形態の粉末圧延装置1は、基材Xが巻回されたコイルを支持すると共に当該基材Xを送り出す送出装置、基材Xを搬送する搬送装置、粉末材料Yを圧延ロール2の周面に供給するための粉末材料供給装置、及び粉末圧延装置1の全体を制御する制御装置等を備えている。
【0016】
圧延ロール2は、粉末材料Yを圧延して基材に対して圧着するものである。
本実施形態の粉末圧延装置1においては、図1に示すように、2本の圧延ロール2A,2Bが一対とされており、これら2本の圧延ロール2A,2Bが周面を向かい合わせて対向配置されている。また、図1に示すように、2本の圧延ロール2A,2Bは、回転軸が平行となり、かつ同じ高さとなるように配置されている。
そして、本実施形態の粉末圧延装置1においては、2本の圧延ロール2A,2B間に上方から下方に向けて基材Xが通過され、これらの2本の圧延ロール2A,2BのギャップGにて粉末材料Yを基材Xの表面に圧着する。
【0017】
圧延ロール軸箱3は、圧延ロール2の両端の軸部2aに対して各々設けられており、軸部2aを回転可能に支持することによって圧延ロール2を支持するためのものである。
この圧延ロール軸箱3は、軸部2aに対して直接取り付けられる軸受を支持している。
【0018】
リニアガイド4は、圧延ロール軸箱3を圧延ロール2A,2Bの配列方向に移動可能に支持するものである。
具体的には、リニアガイド4は、圧延ロール軸箱3の下方に配置され、当該軸箱を圧延ロール2A,2Bの配列方向に移動可能に支持している。
【0019】
圧延ロール用油圧シリンダ5は、圧延ロール軸箱3を圧延ロール2A,2Bの配列方向の外側から支えると共に、圧延ロール2A,2Bに対して互いに近づく方向に荷重を掛けるためのものである。
【0020】
油圧装置6は、圧延ロール2A側に取り付けられた圧延ロール用油圧シリンダ5を駆動するためのものであり、圧延ロール2A,2Bに対して掛けられる荷重を調節するものである。
【0021】
ハウジングフレーム7は、圧延ロール2、圧延ロール軸箱3、リニアガイド4、圧延ロール用油圧シリンダ5、油圧装置6、予備圧下ロール8、予備圧下ロール軸箱9、及び予備圧下ロール昇降機構10を支持する支持構造体である。
そして、図1に示すように、ハウジングフレーム7は、リニアガイド4を介して圧延ロール軸箱3を支持している。つまり、本実施形態においてハウジングフレーム7は、リニアガイド4を介することにより、圧延ロール軸箱3をスライド可能に支持している。
また、圧延ロール用油圧シリンダ5は、ハウジングフレーム7に設置され、当該ハウジングフレーム7と圧延ロール軸箱3との間に配置されている。
【0022】
予備圧下ロール8は、圧延ロール2の上方に配置されており、粉末材料供給装置から供給された粉末材料Yを、ギャップGに到達する前に圧延ロール2の周面に対して押し付けて予備的に圧下する。この予備圧下ロール8による粉末材料Yの予備的な圧下により、粉末材料Yが圧延ロール2の周面にて均一な厚さの粉末層となると共に、当該粉末層が圧延ロール2の周面から滑り落ちることが抑制される。
また、予備圧下ロール8は、回転数によって、ギャップGに送り出す粉末材料Yの供給量を調節する。
【0023】
予備圧下ロール軸箱9は、予備圧下ロール8の両端の軸部8aに対して各々設けられており、軸部8aを回転可能に支持することによって予備圧下ロール8を支持するためのものである。
この予備圧下ロール軸箱9は、軸部8aに対して直接取り付けられる軸受を備えている。
【0024】
予備圧下ロール昇降機構10は、予備圧下ロール軸箱9を上方から支えると共に予備圧下ロール8の周面と圧延ロール2の周面の間隔を一定に保つものであり、ハウジングフレーム7に固定されている。
また、予備圧下ロール昇降機構10は、粉末材料Yが供給されていない状態において、予備圧下ロール8の上下方向の位置を調節可能とされている。つまり、この予備圧下ロール昇降機構10によって、圧延ロール2の周面と予備圧下ロール8の周面との間隔が調節可能とされている。
【0025】
回転駆動部11は、圧延ロール2及び予備圧下ロール8を回転駆動するものであり、圧延ロール2と予備圧下ロール8とに接続されている。
【0026】
付勢機構12は、圧延ロール2間に粉末材料が供給されていない状態にて圧延ロール2同士を離間する方向に付勢するものである。
この付勢機構12は、補助軸箱12aと、離間用油圧シリンダ12b(第1押圧手段)と、上昇用油圧シリンダ12c(第2押圧手段)とを備えている。
【0027】
補助軸箱12aは、圧延ロール2の重量を支える圧延ロール軸箱3とは別体で圧延ロール2の軸部2aに設置されており、圧延ロール2の軸部2aに直接取り付けられる軸受を備えている。
これらの補助軸箱12aは、図1に示すように、圧延ロール2Aと圧延ロール2Bとの各々に設けられており、1つの圧延ロール2に対して2つ設けられている。
【0028】
離間用油圧シリンダ12bは、圧延ロール2を圧延ロール2同士が離間する方向に押圧するものである。
この離間用油圧シリンダ12bは、一方の圧延ロール2Aに設けられた補助軸箱12aと他方の圧延ロール2Bに設けられた補助軸箱12aとの間に配置されており、補助軸箱12aを介して圧延ロール2を押圧する。
なお、離間用油圧シリンダ12bは、対向する2つの補助軸箱12aの一方(本実施形態においては圧延ロール2Aに設けられた補助軸箱12a)に固定され、他方の補助軸箱12a(本実施形態において圧延ロール2Bに設けられた補助軸箱12a)を押圧する。この結果、圧延ロール2Aと圧延ロール2Bとは、離間用油圧シリンダ12bの押圧力及びその反力によって離間する方向に付勢される。
【0029】
上昇用油圧シリンダ12cは、圧延ロール2を上方に向けて押圧するものである。
この上昇用油圧シリンダ12cは、補助軸箱12aとハウジングフレーム7との間に配置されており、補助軸箱12aを介して圧延ロール2を押圧する。
なお、上昇用油圧シリンダ12cは、ハウジングフレーム7に固定されて、補助軸箱12aを上方に押圧する。この結果、圧延ロール2は、上昇用油圧シリンダ12cの押圧力によって上方に持上げられる。
【0030】
このように構成された本実施形態の粉末圧延装置1では、まず粉末材料Yを圧延する前(圧延ロール2によって粉末材料Yを基材Xに圧着していない状態)で圧延ロール2の周面と予備圧下ロール8の周面との間隔を調節する。
【0031】
具体的には、付勢機構12にて圧延ロール2を離間する方向に付勢する。この際、付勢機構12では、上昇用油圧シリンダ12cによって圧延ロール2を持上げながら、離間用油圧シリンダ12bによって圧延ロール2同士を離間する方向に押圧する。
そして、このように付勢機構12にて圧延ロール2が付勢された状態で、予備圧下ロール昇降機構10によって予備圧下ロール8の位置を調節して、圧延ロール2の周面と予備圧下ロール8の周面との間隔を調節する。
【0032】
このように圧延ロール2の周面と予備圧下ロール8の周面との間隔が調節された後、圧延ロール2のギャップGに基材Xが上方から供給され、圧延ロール2の周面に不図示の粉末材料供給装置から粉末材料Yが供給される。
そして、圧延ロール2の周面に供給された粉末材料Yは、予備圧下ロール8によって圧延ロール2の周面に押し付けられて圧下され、その後圧延ロール2によって基材Xの表面に圧着される。
【0033】
以上のような本実施形態の粉末圧延装置1によれば、圧延ロール2によって粉末材料Yを基材Xに圧着していない状態(粉末圧延の実行前の状態)において、付勢機構12によって、圧延ロール2同士を互いに離間する方向に付勢している。このため、粉末圧延の実行前における圧延ロール2の位置を、粉末圧延の実行中における圧延ロール2の位置とほとんど同じ位置に合わせることができる。
したがって、圧延ロール2の周面と予備圧下ロール8の周面との間隔を、粉末圧延の実行前の状態における圧延ロール2の位置を模擬して調節することができ、当該間隔をより正確に調節することができる。ここで、圧延ロール2の周面と予備圧下ロール8の周面との間隔に応じて粉末材料Yの供給量が決定されることから、圧延ロール2の周面と予備圧下ロー8ルの周面との間隔を正確に調節できる結果、圧延ロール2同士の間に供給される粉末材料の供給量をより高精度に調節することができる。
【0034】
また、本実施形態の粉末圧延装置1においては、付勢機構12が、圧延ロール2同士が互いに離間する方向に圧延ロール2を押圧する離間用油圧シリンダ12bと、圧延ロール2を上方に向けて押圧する上昇用油圧シリンダ12cとを備えている。
圧延ロール2が重量物であるため、離間用油圧シリンダ12bのみで圧延ロール2を押圧しようとすると大きな押圧力を要することがある。これに対し、本実施形態のように上昇用油圧シリンダ12cで圧延ロール2を持上げることによって、小さな押圧力で、圧延ロール2を粉末圧延の実行前の位置に移動させることができる。
【0035】
また、本実施形態においては、補助軸箱12aを介して圧延ロール2を押圧する構成とした。
このような構成を採用することによって、回転体である圧延ロール2を直接押圧するよりも、安定して圧延ロール2を押圧することができる。
【0036】
以上、添付図面を参照しながら本発明の好適な実施形態について説明したが、本発明は、上記実施形態に限定されないことは言うまでもない。上述した実施形態において示した各構成部材の諸形状や組み合わせ等は一例であって、本発明の趣旨から逸脱しない範囲において設計要求等に基づき種々変更可能である。
【0037】
例えば、上記実施形態においては、補助軸箱12aが軸受を有していると説明した。
しかしながら、本発明はこれに限定されるものではなく、補助軸箱12aとしてリング状あるいは円弧状の支持パッド等を用いることも可能である。
また、補助軸箱12aの設置箇所は、圧延ロール2に取り付けられる範囲で任意であり、例えば、圧延ロール用軸箱3よりも外側に設置しても良い。
【符号の説明】
【0038】
1……粉末圧延装置、2,2A,2B……圧延ロール、3……圧延ロール軸箱、4……リニアガイド、7……ハウジングフレーム、8……予備圧下ロール、9……予備圧下ロール軸箱、10……予備圧下ロール昇降機構、12……付勢機構(付勢手段)、12a……補助軸箱、12b……離間用油圧シリンダ(第1押圧手段)、12c……上昇用油圧シリンダ(第2押圧手段)、G……ギャップ、X……基材、Y……粉末材料

【特許請求の範囲】
【請求項1】
シート状の基材に対して粉末材料を圧着しつつ前記基材の圧延を行う一対の圧延ロールと、
前記圧延ロールの周面に供給された前記粉末材料が前記基材に圧着される前に、前記粉末材料を前記圧延ロールの周面に対して押し付けることで予備圧下粉末層を形成する予備圧下ロールと、
前記圧延ロールによって前記粉末材料を前記基材に圧着していない状態にて前記圧延ロール同士を互いに離間する方向に付勢する付勢手段と
を備えることを特徴とする粉末圧延装置。
【請求項2】
前記付勢手段は、
前記圧延ロールを前記圧延ロール同士が離間する方向に押圧する第1押圧手段と、
前記圧延ロールを上方に向けて押圧する第2押圧手段と
を備えることを特徴とする請求項1記載の粉末圧延装置。
【請求項3】
前記付勢手段は、前記圧延ロールの重量を支える圧延ロール軸箱とは別体として各前記圧延ロールに設置される補助軸箱を備え、
前記第1押圧手段及び前記第2押圧手段が前記補助軸箱を介して前記圧延ロールを押圧することを特徴とする請求項2記載の粉末圧延装置。

【図1】
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