説明

粉末状樹脂の精製方法

本発明の目的は、析出重合により得られた粉末樹脂から、重合溶媒として用いた有機溶剤の残存物を効率よく除去することにより、粉末状樹脂を精製する方法を提供することにある。本発明の粉末状樹脂の精製方法は、親水性単量体に対して可溶性であり、且つ、この親水性単量体からなる重合体に対しては不溶性である有機溶剤(シクロヘキサン等)中で、上記親水性単量体(アクリル酸等)を析出重合することにより得られた粉末状樹脂に、極性溶剤の蒸気(水蒸気、エタノール蒸気、1−プロパノール蒸気等)を含む気体を接触させる工程(A)と、粉末状樹脂を加熱する工程(B)とを備える。この方法により、粉末形状を維持したまま、残存する有機溶剤を効率よく抽出、除去することができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
本発明は、析出重合により得られた粉末状樹脂から、重合溶媒として用いた有機溶剤の残存物を効率よく除去することにより、粉末状樹脂を精製する方法に関する。
【背景技術】
従来、各種重合法により製造された樹脂を重合溶液から単離するために、残存する未反応の単量体や、重合溶媒である有機溶剤等を除去する作業が行われている。
固体の樹脂を、不純物を含まない状態で単離することは非常に困難であり、未反応の単量体や、重合溶媒である有機溶剤等の残存量を極力減らすべく、各方面で検討がなされ、以下の方法が開示されている。
重合溶媒である有機溶剤の除去法としては、一般には、真空乾燥等の方法があるが、十分ではなく、例えば、常法により得られたポリビニルアルコールに、加熱した不活性気体を接触させた後、水蒸気を含有する加熱ガスを流動させながら接触させる方法(特開昭48−52,890号公報参照)等がある。また、未反応の単量体、重合溶媒である有機溶剤等の揮発性物質の除去法としては、熱可塑性重合体(オレフィン系重合体)のペレットに、その粘着温度以下の温度の水蒸気、不活性気体及び任意に水を含有する混合流体とを流動させながら接触させる方法(特開平1−22,930号公報参照)等がある。
一方、未反応の単量体の除去法としては、水溶液重合により得られた含水ゲル状重合体に、水蒸気を含有する気体を流動させながら80〜250℃で接触させ乾燥する方法(特開昭64−26,614号公報参照)、乳化重合又は懸濁重合により得られたアクリル酸エステル及び/又はメタクリル酸エステルの重合体に、絶対湿度が0.05〜2.0kg−水蒸気/kg−乾き気体の空気又は不活性気体を接触させる方法(特開平6−157,641号公報参照)等がある。
【発明の開示】
しかし、粉末状樹脂から残存する有機溶剤を除去するためには、従来技術による方法では十分ではなく、簡便で効率よく精製する方法が求められている。
かかる現状より、本発明は、析出重合により得られた粉末状樹脂から、重合溶媒として用いた有機溶剤の残存物を効率よく除去することにより、粉末状樹脂を精製する方法を提供することを目的とする。
本発明は、以下の通りである。
1.親水性単量体に対して可溶性であり、且つ、この親水性単量体からなる重合体に対しては不溶性である有機溶剤中で、上記親水性単量体を析出重合することにより得られた粉末状樹脂に、極性溶剤の蒸気を含む気体を接触させる工程(A)と、粉末状樹脂を加熱する工程(B)とを備えることを特徴とする粉末状樹脂の精製方法。
2.上記粉末状樹脂の中に残存する有機溶剤を抽出し、この有機溶剤を上記気体とともに除去する上記1に記載の粉末状樹脂の精製方法。
3.上記極性溶剤の蒸気は、上記粉末状樹脂1gの処理において、極性溶剤の0.1〜600mgを気化させたものである上記1に記載の粉末状樹脂の精製方法。
4.上記極性溶剤は、溶解度パラメーターδ値が15MPa1/2以上の溶剤である上記1に記載の粉末状樹脂の精製方法。
5.上記工程(A)において、上記粉末状樹脂に対する上記気体の接触時間は、0.1時間以上である上記1に記載の粉末状樹脂の精製方法。
6.上記工程(B)において、加熱温度は、50〜200℃である上記1に記載の粉末状樹脂の精製方法。
7.上記工程(B)において、加熱温度は、上記粉末状樹脂に固有な温度TG〜TGの範囲である上記6に記載の粉末状樹脂の精製方法。
但し、TGは50℃以上であり、且つ、上記気体と接触させた粉末状樹脂が示差走査熱量分析において示す吸熱ピークの変極点に相当する温度であり、TGは200℃以下であり、粉末状樹脂のガラス転移温度である。
8.上記工程(B)において、加熱温度は、極性溶剤の沸点以上の温度である上記1に記載の粉末状樹脂の精製方法。
9.上記工程(A)及び/又は上記工程(B)を10MPa以下の圧力下で行う上記1に記載の粉末状樹脂の精製方法。
10.上記気体は、不活性気体を含み、この不活性気体は、二酸化炭素、窒素、空気、ヘリウム、ネオン及びアルゴンから選ばれる上記1に記載の粉末状樹脂の精製方法。
11.上記粉末状樹脂は、アクリル酸を構成単量体とする(共)重合体である上記1に記載の粉末状樹脂の精製方法。
【発明を実施するための最良の形態】
以下、本発明を、粉末状樹脂を得るために用いる親水性単量体及び有機溶剤、粉末状樹脂の製造方法及びその精製方法の順に更に詳しく説明する。
1.親水性単量体
本発明に適用可能な親水性単量体は、析出重合により粉末状樹脂が得られるものであれば、その種類に限定はない。
上記親水性単量体としては、例えば、オレフィン系不飽和カルボン酸及びその塩、オレフィン系不飽和リン酸及びその塩、オレフィン系不飽和カルボン酸エステル、オレフィン系不飽和スルホン酸及びその塩、オレフィン系不飽和アミン、オレフィン系不飽和アンモニウム塩、並びにオレフィン系アミド等の重合性不飽和基を有するビニル単量体等が挙げられる。
上記オレフィン系不飽和カルボン酸及びその塩としては、(メタ)アクリル酸、マレイン酸、フマル酸、及びこれらのアルカリ塩等が挙げられる。
上記オレフィン系不飽和リン酸及びその塩としては、(メタ)アクリロイル(ポリ)オキシエチレンリン酸エステル及びこれらのアルカリ塩等が挙げられる。
上記オレフィン系不飽和カルボン酸エステルとしては、メチル、エチル、ブチル、イソブチル、オクチル等の(メタ)アクリル酸アルキルエステル類、2−メトキシエチル(メタ)アクリレート、2−エトキシエチル(メタ)アクリレート等のエーテル結合を有する(メタ)アクリル酸エステル類、2−ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート、2−ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート、グリシジル(メタ)アクリレート等が挙げられる。
上記オレフィン系不飽和スルホン酸及びその塩としては、(メタ)アクリルアミドメチルプロパンスルホン酸、アリルスルホン酸、及びこれらのアルカリ塩が挙げられる。
上記オレフィン系不飽和アミンとしては、ジメチルアミノエチル(メタ)アクリレート、ジエチルアミノエチル(メタ)アクリレート等が挙げられる。
上記オレフィン系不飽和アンモニウム塩としては、(メタ)アクリロイルオキシエチレントリメチルアンモニウムハロゲン塩等が挙げられる。
上記オレフィン系不飽和アミドとしては、(メタ)アクリルアミド、メチル(メタ)アクリルアミド、エチル(メタ)アクリルアミド、プロピル(メタ)アクリルアミド、ビニルメチルアセトアミド等が挙げられる。
上記例示した単量体は、1種単独であるいは2種以上を組み合わせて用いることができる。また、上記アルカリ塩としては、アルカリ金属塩、アルカリ土類金属塩、及びアンモニウム塩等が挙げられる。
尚、上記例示した単量体と共重合が可能であれば、他の単量体を用いてもよい。その例としては、酢酸ビニル、テトラアリルオキシエタン、アリルペンタエリスリトール、アリルサッカロース、(メタ)アクリル酸アリル、トリメチロールプロパンジアリルエーテル、ジアリルフタレート、エチレングリコールジ(メタ)アクリレート、ポリエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、メトキシポリエチレングリコール(メタ)アクリレート、フェノキシポリエチレングリコール(メタ)アクリレート等が挙げられる。これらは、1種単独であるいは2種以上を組み合わせて用いることができる。
本発明における好ましい親水性単量体は、アクリル酸である。アクリル酸を構成単量体とする(共)重合体において、アクリル酸の構成割合は、単量体全量に対して、好ましくは70〜100質量%、より好ましくは80〜100質量%、更に好ましくは90〜100質量%である。
2.有機溶剤
析出重合に用いる有機溶剤は、親水性単量体に対して可溶性であり、この親水性単量体からなる重合体に対しては不溶性である
上記有機溶剤の具体例としては、シクロヘキサン、シクロオクタン等の脂環式炭化水素、ベンゼン、トルエン等の芳香族炭化水素、ペンタン、n−ヘキサン、イソヘキサン、3−メチルペンタン、2,3−ジメチルブタン、n−ヘプタン、3−メチルヘキサン、3−エチルペンタン、2,2−ジメチルペンタン、2,3−ジメチルペンタン、2,4−ジメチルペンタン、3,3−ジメチルペンタン、2,2,3−トリメチルブタン等の鎖状の飽和炭化水素、トリクロロエタン、四塩化炭素等の疎水性有機溶剤、アセトン、メチルエチルケトン等の沸点が100℃以下のケトン類等が挙げられる。これらのうち、シクロヘキサンが好ましい。
3.粉末状樹脂の製造方法
上記親水性単量体は、界面活性剤の存在下、重合溶媒中で重合(析出重合)され、粉末状樹脂を含むサスペンションが製造される。その後、粉末性樹脂を単離するために、サスペンションの濾過、有機溶剤の留去等が行われる。
上記粉末状樹脂は、通常、嵩密度が0.05〜0.5g/cmである。このように、粉末状樹脂の嵩密度が小さいのは、析出重合により析出する際、微粒子が集合して粉末状に形成されるためである。従って、本発明において精製の対象となる粉末状樹脂は、微粒子の析出時あるいは微粒子の集合時に重合溶媒として使用された有機溶剤が粉末状樹脂中に混入したものである。
上記のように、析出重合することにより粉末状樹脂中に残留した前記有機溶剤は、従来の精製方法では除去することができず、本発明の精製方法により初めて除去することができるものである。
粉末状樹脂の形状は特に限定されず、球状、角状、針状、長尺状、凹凸状等いずれでもよい。また、大きさも特に限定されないが、1次粒子の平均径(あるいは最大長さ)は、通常、50〜200nmである。
4.粉末状樹脂の精製方法
本発明の精製方法は、粉末状樹脂に、極性溶剤の蒸気を含む気体を接触させる工程(A)と、粉末状樹脂を加熱する工程(B)とを備えるものである。
4−1.工程(A)[粉末状樹脂と気体との接触]
上記粉末状樹脂に接触させる気体は、極性溶剤の蒸気を含むものであり、本発明においては、粉末状樹脂に対する反応性を有さないものを用いる。
上記極性溶剤としては、溶解度パラメーターδ値が15MPa1/2以上、更には20MPa1/2以上の溶剤が好ましく、水(47.9)、アルコール、ケトン、エステル等がある。尚、括弧内数値は、「新版溶剤ポケットブック」(有機合成化学協会編、1994年刊、オーム社)による溶解度パラメーターδ値(単位はMPa1/2である)を示す。以下も同様である。
上記アルコールとしては、メタノール(29.7)、エタノール(26.0)、1−プロパノール(24.3)、2−プロパノール(23.6)、1−ブタノール(23.3)、t−ブタノール(21.5)等の1価の低級アルコール;エチレングリコール(29.9)、ジエチレングリコール(24.8)、プロピレングリコール(25.8)等の2価のアルコール;グリセリン(33.8)、トリメチロールプロパン等の3価のアルコール、ジグリセリン、トリグリセリン、ポリグリセリン等の4価のアルコール等が挙げられる。
上記ケトンとしては、アセトン(19.9)、メチルエチルケトン(18.5)、メチルブチルケトン(20.3)等が挙げられる。
また、エステルとしては、酢酸エチル(18.5)、酢酸プロピル(17.8)、酢酸ブチル(17.0)等が挙げられる。
上記極性溶剤のうち、エタノール、1−プロパノールが好ましい。また、上記極性溶剤は、1種単独であるいは2種以上を組み合わせて用いることができる。
上記極性溶剤は、精製の対象である有機溶剤との共沸効果が期待される。
上記気体として、水蒸気のみを用いてもよいし、極性有機溶剤の蒸気のみを用いてもよい。更に、水蒸気及び極性有機溶剤の蒸気を併用してもよい。この場合、水蒸気及び極性有機溶剤の蒸気の混合割合は特に限定されない。また、別々に導入してもよいし、水蒸気及び極性有機溶剤の蒸気を予め混合した後に導入してもよい。
上記粉末状樹脂に上記気体を接触させる際には、上記気体中の極性溶剤の蒸気の濃度を調節するために、極性溶剤の蒸気と、不活性気体とを組み合わせて用いることができる。
上記不活性気体としては、二酸化炭素、窒素、空気、ヘリウム、ネオン、アルゴン等が挙げられる。これらのうち、二酸化炭素、窒素及び空気が好ましい。また、これらは、1種単独であるいは2種以上を組み合わせて用いることができる。
このように、極性溶剤の蒸気と、不活性気体とを組み合わせて用いる場合、粉末状樹脂を載置した容器内に、各気体を別々に導入してもよいし、各気体を予め混合した後に導入してもよい。
上記気体と上記粉末状樹脂との接触に際しては、上記気体を流動あるいは循環させる等動的に行ってもよいし、密閉環境下で静的に行ってもよい。また、バッチ式でも連続式でもよい。
上記粉末状樹脂に上記気体を接触させる方法としては、(1)粉末状樹脂を静止させた状態で、上記気体を接触させる方法、(2)粉末状樹脂を動かしながら、上記気体を接触させる方法等が挙げられる。
特に、上記(2)の態様としては、(i)上記気体が充填されている容器内に、粉末状樹脂を導入する方法、(ii)容器内に載置した粉末状樹脂を動かしながら、上記気体を導入する方法、(iii)空の容器内に上記粉末状樹脂及び上記気体を同時にあるいは交互に導入する方法等が挙げられる。また、各方法の途中で、上記(i)、(ii)、(iii)等異なる方法に変更する等してもよい。
上記方法(i)の具体例としては、上記気体が所定濃度で充填されている容器内に、粉末状樹脂を噴霧等により導入する方法(例えば、一定の濃度で上記気体が充填された、垂直方向に長い容器内に、粉末状樹脂を上方から、必要に応じて不活性気体等と共に噴霧して導入する方法)、上記気体が所定濃度で充填されている容器内に、粉末状樹脂を容器内で移動するベルトコンベア等に載せて処理する方法(例えば、一定の濃度で上記気体が充填された、水平方向に長い容器内に、薄く載置された粉末状樹脂をベルトコンベア上に載せて導入する方法)等が挙げられる。
また、上記方法(ii)の具体例としては、容器内に載置した粉末状樹脂に、上記気体あるいは上記気体を構成する不活性気体のみを吹きつけて、粉末状樹脂を容器内で流動状態とし、更に上記気体を導入する方法等が挙げられる。
尚、上記方法(i)、(ii)、(iii)等において、上記気体と上記粉末状樹脂と接触時には、粉末状樹脂を攪拌したり、上記気体を規則的な流動状態としたりする等の方法を組み合わせてもよい。
上記極性溶剤の蒸気の使用方法としては、予め極性溶剤の蒸気としてなるものを用いてもよいが、霧状の極性溶剤を加熱された容器内に導入し、導入と同時に気化させることによって極性溶剤の蒸気とし、これを用いてもよい。更には、極性溶剤の蒸気とするための極性溶剤を加熱前の容器内に添加しておき、加熱によって極性溶剤の蒸気を発生させて用いてもよい。これらいずれの場合においても、気化の前に、液体の極性溶剤と粉末状樹脂とを接触させないことが必要である。
また、上記極性溶剤の蒸気について、水蒸気のみを用いる場合、極性有機溶剤の蒸気のみを用いる場合、並びに、水蒸気及び極性有機溶剤の蒸気の両方を用いる場合、のいずれにおいても、上記粉末状樹脂1gの処理において、0.1〜600mgを気化させてなるものであることが好ましい。より好ましくは、0.5〜500mgを気化させたもの、更に好ましくは1〜300mgを気化させたものである。上記粉末状樹脂との接触において、極性溶剤の蒸気の使用量が多すぎると、良好な粉末状態を維持できなることがある。また、樹脂がアクリル酸を構成単量体とする(共)重合体である場合、ゲル化する場合がある。
上記工程(A)における接触時間は、有機溶剤及び粉末状樹脂の種類等によって選択されるが、通常、0.1時間以上であり、好ましくは0.1〜20時間、より好ましくは0.5〜15時間、更に好ましくは0.5〜10時間、特に好ましくは0.5〜5時間である。接触時間が短すぎると、精製が不十分となることがある。一方、接触時間が長すぎると、粉末状樹脂の良好な粉末特性が損なわれる場合がある。
また、上記工程(A)は、10MPa以下の圧力下で行うことが好ましく、大気圧下でもよいし、加圧下でもよいし、更には真空下でもよい。より好ましくは大気圧〜1MPa、更に好ましくは大気圧〜0.5MPaの圧力下である。
上記工程(A)における接触を行う時期は、析出重合により得られたサスペンションから重合溶媒を分離して重合物を粉末状にした後であれば、いつでもよい。スラリー状態で接触を行うと凝集が起こる。
4−2.工程(B)[粉末状樹脂の加熱]
重合溶媒として使用される上記有機溶剤は、室温でも固有の蒸気圧を有しているので、室温で大気圧下の開放系に置かれれば、蒸散する性質を有している。しかしながら、本発明において精製の対象となる上記有機溶剤は、粉末状樹脂中に存在するために、未精製の粉末状樹脂を室温で放置しただけでは有機溶剤の蒸散が殆どないか、その速度は極めて低いものに留まる。本発明では、上記工程(A)において、粉末状樹脂と気体とを接触させ、粉末状樹脂中の有機溶剤を蒸散しやすくした後、粉末状樹脂を加熱する。
上記工程(B)は、通常、耐熱性を有する容器等の内部で行われる。
上記粉末状樹脂の加熱温度は、粉末状樹脂のガラス転移点、融点、分解温度等を考慮して適宜選択されるが、好ましくは50〜200℃であり、より好ましくは60〜180℃、更に好ましくは70〜170℃、特に好ましくは70〜150℃である。加熱温度が高すぎると、処理後に粉末状樹脂が凝集することがある。
また、上記粉末状樹脂の加熱温度は、上記粉末状樹脂に固有な温度TG及びTGを考慮し、これらを各々下限及び上限とする温度範囲の中から加熱温度を選択することが好ましい。
上記温度TGは50℃以上であり、且つ、上記気体と接触させた粉末状樹脂が示差走査熱量分析において示す吸熱ピークの変極点に相当する温度である。また、上記温度TGは200℃以下であり、粉末状樹脂のガラス転移温度である。
上記TGは、粉末状樹脂と接触させる極性溶剤の蒸気を含む気体の使用量を多くするほど低温になる傾向があり、概略値(単位K)は、下記FOXの式により算出される。但し、下記式における可塑剤は、粉末状樹脂に対して可塑化作用を有するものであれば、制限はないので、本発明の場合、例えば、粉末状樹脂中に残留する未反応の単量体も可塑剤とみなし得る。
(FOXの式) 1/TG=WTG+W/TG
:ポリマーの質量割合
:可塑剤の質量割合
TG:粉末状樹脂のガラス転移温度
TG:可塑剤のガラス転移温度。
表1に、可塑剤(残留する未反応の単量体及び残留する1−プロパノール)の含有量が異なる4種類の粉末状樹脂について行った示差走査熱量分析によるガラス転移温度TGを示す。分析条件は、以下のとおりである。
測定試料の質量:10mg
測定温度域:30〜160℃
昇温速度:10℃/分

表1の結果をもとに、残留する未反応の単量体(アクリル酸)及び残留する1−プロパノールの合計濃度(可塑剤濃度)と、示差走査熱量分析により得られたTGとの関係を図1に示した。図1において、「No.1」は、試料番号1のTGを示す。他も同様である。図1から、TGは、可塑剤の濃度が大きくなるほど低温側にシフトする傾向が明らかである。
更に、上記粉末状樹脂の加熱温度を、極性溶剤の沸点以上の温度とすることも好ましい態様である。
上記粉末状樹脂の加熱温度は、精製の度合や処理対象となる粉末状樹脂の量に応じて適宜選択されるが、通常、0.5〜10時間である。
尚、上記粉末状樹脂を加熱する方法は特に限定されず、容器の内部に加熱源を配設してもよいし、容器の外部から加熱してもよい。
また、上記工程(B)は、10MPa以下の圧力下で行うことが好ましく、大気圧下でもよいし、加圧下でもよいし、更には真空下でもよい。より好ましくは大気圧〜1MPa、更に好ましくは大気圧〜0.5MPaの圧力下である。
上記のように、加圧あるいは加熱を行う場合、上記粉末状樹脂及び上記気体の接触は、密閉環境の中で行うことが好ましい。
上記工程(B)の雰囲気は、特に限定されないが、上記工程(A)の終了後、そのままの雰囲気で続けて加熱してもよいし、新たに、極性溶剤の蒸気を導入した後に加熱してもよい。
上記好ましい温度等で、上記粉末状樹脂を加熱することで、粉末状樹脂に残存する有機溶剤が抽出される。
有機溶剤が抽出されると、有機溶剤の気化物及び上記気体を排気し、精製された粉末状樹脂が容器内に残る。
尚、上記工程(A)及び(B)を実施する容器は、同一であっても異なっていてもよい。上記工程(A)及び(B)を同一の容器内で実施する場合、先ず工程(A)を実施した後、工程(B)を実施する方法、これらの工程を同時に実施する方法のいずれでもよい。 上記工程(A)及び(B)を同時に実施するには、加熱下で工程(A)を実施すればよい。
また、上記工程(A)及び(B)を異なる容器内で実施する場合、工程(B)の容器は、工程(A)の容器の後に設置される。例えば、ベルトコンベアにより、粉末状樹脂を工程(A)の容器から工程(B)の容器に移動させることができる。
特に、粉末状樹脂を動かしながら、上記気体を接触させる方法とした工程(A)と、工程(B)とを同時に実施する方法は、効率的な精製方法であり、この方法を以下に説明する。
4−3.工程(A)及び(B)の同時進行による方法
上記のように、上記工程(A)及び(B)を同時に実施する方法としては、レーディゲミキサー、リボコーンミキサー等のリボン翼型回転乾燥機、ロータリーエバポレーター等を用いる方法が挙げられる。これらの装置は、いずれも各容器内の粉末状樹脂を、攪拌という形で動かしながら、極性溶剤の蒸気を含む気体と加熱下で接触させることができる。この場合、上記気体は、容器内に充満した状態であってもよいし、外部から連続的又は断続的に導入されてもよい。この気体を外部から導入する場合には、容器内を上記気体で満たすための導入というよりも、上記気体を、容器内を動く粉末状樹脂に対して吹き付けるように導入することが好ましい。
導入する上記気体のうち、極性溶剤の蒸気の導入量は、上記粉末状樹脂1gの処理において、好ましくは毎分0.001〜30mg、より好ましくは毎分0.005〜20mg、更に好ましくは毎分0.01〜10mgである。この範囲にあれば、有機溶剤の除去率が増大する傾向にある。
また、この場合の加熱温度は特に限定されないが、好ましくは50〜200℃であり、より好ましくは60〜180℃、更に好ましくは70〜170℃、特に好ましくは70〜150℃である。加熱温度が高すぎると、処理後に粉末状樹脂が凝集することがある。
また、上記粉末状樹脂の加熱温度を、極性溶剤の沸点以上の温度とすることも好ましい態様である。
上記粉末状樹脂を加熱する方法は特に限定されず、容器の内部に加熱源を配設してもよいし、容器の外部から加熱してもよい。
上記粉末状樹脂からの有機溶剤の抽出条件としては、容器内の圧力を変化させてもよい。即ち、大気圧でもよいし、加圧下でもよいし、更には真空下でもよい。好ましくは10MPa以下、より好ましくは大気圧〜1MPa、更に好ましくは大気圧〜0.5MPaの圧力下とするものである。
有機溶剤の抽出時間は、有機溶剤及び粉末状樹脂の種類、加熱温度等によって選択されるが、通常、0.1〜20時間、好ましくは0.5〜15時間、より好ましくは0.5〜10時間、特に好ましくは0.5〜5時間である。抽出時間が長すぎると、粉末状樹脂の良好な粉末特性が損なわれる場合がある。
上記のような装置を用いて、上記工程(A)及び(B)を同時に行い、有機溶剤が抽出されると、有機溶剤の気化物及び上記気体を排気し、精製された粉末状樹脂が容器内に残る。
5.後工程
上記のように工程(A)及び工程(B)により処理された粉末状樹脂は、必要に応じて、更に変質しない条件による加熱処理を真空下で行ってもよい。この場合の加熱温度及び加熱時間は、上記工程(B)における条件に基づいて適宜選択される。この真空加熱による方法は、アルコール等の極性有機溶剤の蒸気を用いた場合に好適であり、粉末状樹脂中に残存する有機溶剤を更に低減できるばかりでなく、極性有機溶剤の残存量も顕著に低減できる。
本発明における精製の機構については、以下のように推定している。即ち、粉末微粒子内部又は粉末微粒子どうしの間に存在する有機溶剤が、極性溶剤の蒸気による粉末表面の局部的軟化、局部的溶解又はそれによる変形によって有機溶剤が開放され易くなる機構である。
以上の方法によって最終的に精製された粉末状樹脂は、帯電しにくいため、容器の内壁に張り付くことがなく、取り扱いが容易である。更に、有機溶剤の残存量がより少ないため、粉末表面における、水に対するはじきが低減され、即ち、親水性が改善される。
【図面の簡単な説明】
図1は、可塑剤の含有量が異なる4種類の粉末状樹脂の示差走査熱量分析結果(TG)と可塑剤濃度との関係を示すグラフである。
図2は、実験例6で用いたドラム型ミキサーの外観図であり、(a)は正面図、(b)は側面図である。
図3は、実験例6で用いたドラム型ミキサーを構成するドラムの外観図である。
図4は、実験例6で用いたドラム型ミキサーを構成するドラムの内部を示す説明図である。
図5は、実験例7で精製した粉末状樹脂のDSC曲線を示すグラフである。
【符号の説明】
1;ドラム、2;ドラムの蓋、3;攪拌羽根、4;ねじ込み式ドラムの蓋、5;羽根押さえ。
【発明を実施するための最良の形態】
以下に、例を挙げて本発明を更に具体的に説明する。
本例においては、粉末状樹脂として、以下の方法により得られたアクリル酸系樹脂を用いた。この樹脂は、汎用の試薬瓶に入れると、一部が静電気で瓶の内壁に張り付く。
1.アクリル酸系樹脂の製造及び精製(1)
1−1.アクリル酸系樹脂の製造方法
反応容器に、アクリル酸550質量部、シクロヘキサン2,680質量部、ノニオン性界面活性剤0.83質量部、及び架橋剤3.4質量部を仕込み、重合開始剤を添加して重合を行い、粉末状樹脂を含むサスペンションを得た。これを濾別し、100〜120℃で10時間、真空加熱を行った。
1−2.粉末状樹脂の精製(I)
まず、試料である上記アクリル酸系樹脂に取り込まれているシクロヘキサン量を、ガスクロマトグラフィー(GC)により測定し、3,870ppmを得た。この試料を用いて以下の実験を行った。
実験例1−1
内容積50mlのステンレス製容器を備える超臨界流体抽出装置と、シクロヘキサン抽出量を分析するためのGCとを備える装置を用いた。1gの試料を容器内に載置し、蒸留水50μl(水50mg/試料1gに相当)を容器の内壁に付着させた。その後、容器の内部を二酸化炭素ガスで置換し、容器を密閉した。次いで、容器内を98kg/cm(9.6MPa)で加圧した後、70℃に加熱し、3時間保持した。
終了後、容器内に残った粉末状樹脂を測定試料として、GCによりシクロヘキサンを定量分析した。また、容器より試料を取り出し、粉末の外観を目視により観察した。更に、試薬瓶に収容した際に瓶の内壁への張り付きの有無を観察し、帯電の程度を調べた。
これらの結果を表2に示す。
実験例1−2
蒸留水の代わりにイソプロピルアルコールを用いた以外は、上記実験例1−1と同様にして精製を行った。
実験例1−3
蒸留水の代わりに酢酸エチルを用いた以外は、上記実験例1−1と同様にして精製を行った。
以上の結果を表2に併記する。

表2より、実験例1−2及び実験例1−3は、極性有機溶剤を用いた例であるが、除去率は、それぞれ、32.8%及び19.9%の減少に留まった。一方、実験例1−1は、283ppmと90%以上(92.7%)を除去することができ、粉末外観もほとんど変化がなかった。この処理後の樹脂粉末を電子顕微鏡で観察したところ、処理前には1次粒子としてその粒径が約100nmと確認されたが、処理後には数個単位で凝集あるいは水蒸気によって膨潤しているようであった。また、試薬瓶への張り付きは全くなかった。
1−3.粉末状樹脂の精製(II)
次に、上記サスペンションから濾別した粉末状樹脂を、相対湿度50%の大気中、室温(25℃)で24時間、風乾した。この風乾試料のシクロヘキサン量は、GCによる測定で10,600ppmであった。
実験例1−4
上記風乾試料を用い、容器内を60kg/cm(5.9MPa)で加圧した以外は、上記実験例1−1と同様にして精製を行った。
実験例1−5
容器内を40kg/cm(3.9MPa)で加圧した以外は、上記実験例1−4と同様にして精製を行った。
実験例1−6
容器内を20kg/cm(1.9MPa)で加圧した以外は、上記実験例1−4と同様にして精製を行った。
実験例1−7
容器内を5kg/cm(0.5MPa)で加圧した以外は、上記実験例1−4と同様にして精製を行った。
以上の結果を表3に示す。

表3より、実験例1−4乃至実験例1−7は、いずれもシクロヘキサンの残存量が170、260、650、720ppmと、すべて1,000ppm未満であり、粉末外観もほとんど変化がなかった。
2.アクリル酸系樹脂の精製(2)
2−1.粉末状樹脂の精製(III)
次に、上記1−1と同様にして得たアクリル酸系樹脂を含むサスペンションから濾別した粉末状樹脂を、大気中、室温で24時間、風乾した。この風乾試料のシクロヘキサン量は、GCによる測定で8,228ppmであった。この試料を用いて以下の実験例2−1を行った。
実験例2−1
蒸留水から発生する水蒸気量による影響を調べるため、実験例1−1で用いた装置を用い、容器内に載置した2gの試料に対し、容器内壁への蒸留水の付着量を150、250、300、及び600mgとした。その後、容器の内部を二酸化炭素ガスで置換し、容器を密閉した。次いで容器内を0.4MPaで加圧した後、加熱して70℃、1時間保持した。
終了後、容器内に残った粉末状樹脂を測定試料として、シクロヘキサンを定量分析した。
以上の結果を表4に示す。

表4より、水蒸気量が多くなるほどシクロヘキサンの除去率が高くなることが分かる。
実験例2−2
加圧下における加熱温度の影響を調べるため、2gの試料に対し、蒸留水の付着量を250mgとし、容器内を0.4MPaで加圧した後、加熱温度を70及び80℃として、1時間保持した。終了後、上記実験例2−1と同様にしてシクロヘキサンを定量分析した。
以上の結果を表5に示す。

表5より、加熱温度が70℃及び80℃の処理では、シクロヘキサンの除去率は70%を超えた。
次に、上記2−1で得られたサスペンションから濾別した粉末状樹脂を風乾し、この風乾試料のシクロヘキサン量を測定したところ、8,558ppmであった。この試料を用いて以下の実験例2−3を行った。
実験例2−3
容器内の圧力による影響を調べるため、2gの試料に対し、蒸留水250mgを容器の内壁に付着させ、容器内を0、0.2、0.4及び0.8MPaでそれぞれ加圧した後、加熱して70℃、1時間保持した。終了後、上記実験例2−1と同様にしてシクロヘキサンを定量分析した。
以上の結果を表6に示す。

表6より、容器内が大気圧下である場合に比較して、加圧下である場合のほうがシクロヘキサンの除去率は大きい傾向にあることが分かる。
実験例2−4
加圧下における加熱時間の影響を調べるため、2gの試料に対し、蒸留水の付着量を300mgとし、容器内を0.4MPaで加圧した後、加熱温度を70℃として、30、60及び90分保持した。終了後、上記実験例2−1と同様にしてシクロヘキサンを定量分析した。
以上の結果を表7に示す。

表7より、加熱時間が30分であっても、シクロヘキサンの除去率は70%を超え、時間が長くなるほど更に除去率が高くなることが分かる。
3.アクリル酸系樹脂の精製(3)
シクロヘキサン量が8,228ppmである粉末状樹脂を用いて以下の実験を行った。
3−1.粉末状樹脂の精製(IV)
実験例3−1
実験例1−1と同じ装置を用い、10gの試料を内容積2,840mlの容器内に載置し、0.0278molのメタノールを容器の内壁に付着させた。その後、容器の内部を窒素ガスで置換し、容器を密閉した。次いで、容器内を加圧せず、大気圧のまま加熱して80℃、1時間保持した。
終了後、上記と同様にしてシクロヘキサンを定量分析した。その結果を表8に示す。また、容器より試料を取り出し、粉末状態を観察したところ、しっとり感があり良好であった。
実験例3−2
上記実験例3−1におけるメタノールをエタノールとした以外は、実験例3−1と同様にして精製を行った。終了後、粉末状態を観察したところ、しっとり感があり良好であった。
実験例3−3
上記実験例3−1におけるメタノールを1−プロパノールとした以外は、実験例3−1と同様にして精製を行った。終了後、粉末状態を観察したところ、しっとり感があり良好であった。
実験例3−4
上記実験例3−1におけるメタノールを2−プロパノールとした以外は、実験例3−1と同様にして精製を行った。終了後、粉末状態を観察したところ、しっとり感があり良好であった。
実験例3−5
上記実験例3−1におけるメタノールを酢酸エチルとした以外は、実験例3−1と同様にして精製を行った。終了後、粉末状態を観察したところ、しっとり感があり良好であった。
実験例3−6
上記実験例3−1におけるメタノールをアセトンとした以外は、実験例3−1と同様にして精製を行った。終了後、粉末状態を観察したところ、しっとり感があり良好であった。
実験例3−7
上記実験例3−1におけるメタノールをメチルエチルケトンとした以外は、実験例3−1と同様にして精製を行った。終了後、粉末状態を観察したところ、しっとり感があり良好であった。
これらの結果を表8に示す。

表8より明らかなように、極性溶剤の中で、特に1−プロパノールは、91.3%という高い除去率を示した。
3−2.粉末状樹脂の精製(V)
上記実験例3−2では、エタノールの蒸気を用い、加熱温度80℃、加熱時間1時間にて試料の精製を行ったが、これらの条件を変化させて以下の実験例3−8を行った。
実験例3−8
加熱時間を5時間とした以外は、実験例3−2と同様にして精製を行った。終了後、粉末状態を観察したところ、しっとり感があり良好であった。
実験例3−9
加熱時間を8時間とした以外は、実験例3−2と同様にして精製を行った。終了後、粉末状態を観察したところ、しっとり感があり良好であった。
実験例3−10
加熱温度を90℃とした以外は、実験例3−2と同様にして精製を行った。終了後、粉末状態を観察したところ、しっとり感があり良好であった。
実験例3−11
実験例3−10において、更に減圧(真空度:10kPa.abs)し、1時間乾燥させた。終了後、粉末状態を観察したところ、しっとり感があり良好であった。
実験例3−12
加熱時間を5時間とした以外は、実験例3−10と同様にして精製を行った。終了後、粉末状態を観察したところ、しっとり感があり良好であった。
実験例3−13
エタノールに対して、水を20モル%添加した以外は、実験例3−10と同様にして精製を行った。終了後、粉末状態を観察したところ、しっとり感があり良好であった。
これらの結果を表9に示す。

表9より、加熱温度が80℃である場合、実験例3−8及び3−9は、加熱時間が長くなるほどシクロヘキサンの除去率は著しく高くなり、加熱時間を8時間とした実験例3−9では、除去率が97.2%であった。
また、加熱温度が90℃である場合、1時間の加熱で除去率が91%(実験例3−10)と優れている。5時間の加熱で約97%(実験例3−12)にまで上がるが、1時間の加熱の後、更に真空加熱を1時間するだけでも91%から96%(実験例3−11)にまで向上した。尚、エタノールと水を併用した実験例3−13では、90℃、1時間の加熱で97.4%という非常に高い除去率を示した。
実験例3−14
加熱温度を90℃とした以外は、実験例3−3と同様にして精製を行った。終了後、粉末状態を観察したところ、しっとり感があり良好であった。
この結果を表10に示す。

表10より、加熱温度が90℃と高い実験例3−14は、80℃である実験例3−3よりも更に高いシクロヘキサン除去率を示した。アルコールの中でも特に1−プロパノールが有効であることが分かる。
4.アクリル酸系樹脂の精製(4)
4−1.粉末状樹脂の精製(VI)
上記1−1と同様にして得たアクリル酸系樹脂を含むサスペンションから濾別した粉末状樹脂を、大気中、室温で24時間、風乾した。この風乾試料のシクロヘキサン量は、GCによる測定で8,228ppmであった。
実験例4−1
内容積1リットルのフラスコを備えるロータリーエバポレーター(EYELA社製、NE−1001VG型)を用い、フラスコに20gの試料を入れ、フラスコ内温度が100℃となるように油浴の温度を105℃程度に調整し、回転するフラスコ内に水蒸気を導入して粉末状樹脂の精製を行った。水蒸気の導入量は毎分5.0mg、処理時間は2.5時間とした。尚、真空引きせずに行った。その結果を表11に示す。
実験例4−2
水蒸気の導入量を毎分2.0mg及び処理時間を6時間とした以外は、上記実験例4−1と同様にして精製を行った。その結果を表11に併記する。

表11より、実験例4−1のように、水蒸気量を増やすと処理時間を短くすることができるとともに、シクロヘキサンの除去率も向上させることができた。粉末状態も良好であった。
実験例4−3
水蒸気に代えてエタノール蒸気を毎分6.5μl(5.1mg)導入し、処理時間を8時間とした以外は、上記実験例4−1と同様にして精製を行った。その結果を表12に示す。尚、表12におけるシクロヘキサン量は、処理の前後における値を掲載した。以下も同じである。
実験例4−4
試料重量を100gとし、水蒸気に代えて1−プロパノール蒸気を毎分10μl(8.0mg)、更に窒素ガスを毎分20mlの流速で導入し、処理時間を7時間とした以外は、上記実験例4−1と同様にして精製を行った。その結果を表12に併記する。
表12より、エタノールの蒸気を用いた実験例4−3は、他の気体成分として窒素ガスを導入していないが、シクロヘキサン量が262ppmであり、粉末は少々柔らかい塊状であったが、優れている。
また、1−プロパノールの蒸気を用いた実験例4−4では、シクロヘキサン量が100ppm未満であり、シクロヘキサンの除去率が高いことが分かる。粉末はさらさらしており、柔らかい塊状物も見られたが非常に良好であった。

4−2.粉末状樹脂の精製(VII)
実験例5−1
内容積5リットルのドラム容器を備えるレーディゲミキサーに500gの試料を入れ、容器内温度が100℃となるようにジャケットの温度を105℃程度に調整し、回転する容器内に水蒸気及び窒素ガスを導入して粉末状樹脂の精製を行った。水蒸気の導入量は毎分50mg、窒素ガスの導入量は毎分110ml、処理時間は7時間とした。尚、真空引きせずに行った。その結果を表13に示す。
実験例5−2
窒素ガスの導入量を毎分140mlとした以外は、上記実験例5−1と同様にして精製を行った。その結果を表13に併記する。
実験例5−3
窒素ガスの導入量を毎分200mlとした以外は、上記実験例5−1と同様にして精製を行った。その結果を表13に併記する。
実験例5−4
水蒸気の導入量を毎分90mg及び処理時間を5時間とした以外は、上記実験例5−3と同様にして精製を行った。その結果を表13に併記する。
表13より、実験例5−1乃至実験例5−3において、粉末は比較的良好であった。

実験例5−5
試料重量を500g、水蒸気に代えて1−プロパノール蒸気の導入量を毎分104μl(83mg)、及び、窒素ガスの導入量を毎分100mlとした以外は、上記実験例5−1と同様にして精製を行った。その結果を表14に示す。
実験例5−6
1−プロパノール蒸気の導入量を毎分156μl(125mg)、及び、窒素ガスの導入量を毎分150mlとした以外は、上記実験例5−5と同様にして精製を行った。
実験例5−7
1−プロパノール蒸気の導入量を毎分208μl(166mg)、及び、窒素ガスの導入量を毎分200mlとした以外は、上記実験例5−6と同様にして精製を行った。
実験例5−8
試料重量を710g、1−プロパノール蒸気の導入量を毎分148μl(118mg)、及び、窒素ガスの導入量を毎分142mlとした以外は、上記実験例5−5と同様にして精製を行った。その結果を表14に併記する。
表14より、実験例5−5は、1−プロパノールの蒸気を用いた例であり、500gを処理したにも関わらず、シクロヘキサン量を1,000ppm以下にまで低減することができた。実験例5−5乃至実験例5−8により得られた粉末は、塊状ではなく、ふわふわして非常に良好であった。

4−3.粉末状樹脂の精製(VIII)
実験例6
上記1−1と同様にして得たアクリル酸系樹脂を含むサスペンションから濾別した粉末状樹脂を、相対湿度50%の大気中、室温で24時間、風乾した。この風乾試料のシクロヘキサン量は、GCによる測定で6,300ppmであり、吸湿率は3.5質量%であった。
この風乾試料500gを、容量5リットルのドラム型ミキサー(図2)のドラム(図3及び図4)内に充填し、密封した後、ドラムを回転させながら、ドラム外部よりヒーターで加熱し、4時間、ドラム内部を100℃に維持した。
終了後、ドラムより試料を取り出したところ、粉末は加熱前と全く同じ状態であった。シクロヘキサン量をGCにより測定したところ、3,000ppmであった。
4−4.粉末状樹脂の精製(IX)
実験例7
加熱温度を105〜120℃の間で変化させた以外は、実験例6と同様にして粉末を加熱した。終了後、ドラムより試料を取り出したところ、粉末は加熱前と全く同じ状態であった。シクロヘキサン量をGCにより測定したところ、以下の通りであった。
加熱温度105℃:3,300ppm
加熱温度110℃:860ppm
加熱温度120℃:750ppm
上記の通り、加熱温度110℃以上の温度で加熱した場合に、顕著にシクロヘキサン量が減少した。一方、加熱前の粉末を密封容器に充填した試料について示差走査熱量分析を行った結果、TGは107℃であった(図5参照)。
5.アクリル酸系樹脂の製造及びその精製
5−1.アクリル酸系樹脂の製造方法
上記1−1に記載されたアクリル酸系樹脂の製造方法において、シクロヘキサン2,680質量部に代えてベンゼン2,200質量部を用いた以外は、上記1−1と同様にして、粉末状のアクリル酸系樹脂を得た。
5−2.粉末状樹脂の精製(X)
上記方法で得た粉末状のアクリル酸系樹脂に取り込まれているベンゼン量を、GCにより測定し、4,370ppmを得た。この試料を用いて以下の実験を行った。
実験例8
内容積20Lの横型乾燥機の内部に、3kgの試料を入れ、加熱用ジャケットの内部が105℃となるように、加熱用蒸気の圧力を調整し、回転する乾燥機内部に1−プロパノール蒸気と窒素ガスとを導入し、真空引きせずに4時間処理することにより、粉末状樹脂の精製を行った。1−プロパノール蒸気の導入量は毎分938μl(750mg)、窒素の導入量は毎分900mlとした。
終了後、乾燥機より試料を取り出したところ、粉末はしっとり感があり良好であった。ベンゼン量をGCにより測定したところ、430ppmであり、除去率は90.2%であった。
【発明の効果】
本発明の粉末状樹脂の精製方法によれば、良好な粉末状態を維持したまま精製することができる。粉末状樹脂に、極性溶剤の蒸気を含む気体を接触させる工程(A)と、粉末状樹脂を加熱する工程(B)とを備えることで、残存する有機溶剤を効率よく抽出、除去することができる。上記樹脂がアクリル酸を構成単量体とする(共)重合体である場合には、残存する有機溶剤を1,000ppm以下とすることができる。
上記極性溶剤の溶解度パラメーターδ値が15MPa1/2以上である場合には、残存する有機溶剤を3,000ppm以下、好ましくは1,000ppm以下、特に好ましくは500ppm以下とすることができる。
精製された粉末状樹脂は、帯電しにくいため、容器の内壁に張り付くことがなく、取り扱いが容易である。
【産業上の利用可能性】
本発明の精製方法を用いて精製された粉末状樹脂は、その重合に用いた有機溶剤の残存量が少ないため、純度が高く、化粧品、医薬品、トイレタリー用品等に好適である。
【図1】

【図2】

【図3】

【図4】

【図5】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
親水性単量体に対して可溶性であり、且つ、該親水性単量体からなる重合体に対しては不溶性である有機溶剤中で、該親水性単量体を析出重合することにより得られた粉末状樹脂に、極性溶剤の蒸気を含む気体を接触させる工程(A)と、粉末状樹脂を加熱する工程(B)とを備えることを特徴とする粉末状樹脂の精製方法。
【請求項2】
上記粉末状樹脂の中に残存する有機溶剤を抽出し、該有機溶剤を上記気体とともに除去する請求項1に記載の粉末状樹脂の精製方法。
【請求項3】
上記極性溶剤の蒸気は、上記粉末状樹脂1gの処理において、極性溶剤の0.1〜600mgを気化させたものである請求項1に記載の粉末状樹脂の精製方法。
【請求項4】
上記極性溶剤は、溶解度パラメーターδ値が15MPa1/2以上の溶剤である請求項1に記載の粉末状樹脂の精製方法。
【請求項5】
上記工程(A)において、上記粉末状樹脂に対する上記気体の接触時間は、0.1時間以上である請求項1に記載の粉末状樹脂の精製方法。
【請求項6】
上記工程(B)において、加熱温度は、50〜200℃である請求項1に記載の粉末状樹脂の精製方法。
【請求項7】
上記工程(B)において、加熱温度は、上記粉末状樹脂に固有な温度TG〜TGの範囲である請求項6に記載の粉末状樹脂の精製方法。
但し、TGは50℃以上であり、且つ、上記気体と接触させた粉末状樹脂が示差走査熱量分析において示す吸熱ピークの変極点に相当する温度であり、TGは200℃以下であり、粉末状樹脂のガラス転移温度である。
【請求項8】
上記工程(B)において、加熱温度は、極性溶剤の沸点以上の温度である請求項1に記載の粉末状樹脂の精製方法。
【請求項9】
上記工程(A)及び/又は上記工程(B)を10MPa以下の圧力下で行う請求項1に記載の粉末状樹脂の精製方法。
【請求項10】
上記気体は、不活性気体を含み、該不活性気体は、二酸化炭素、窒素、空気、ヘリウム、ネオン及びアルゴンから選ばれる請求項1に記載の粉末状樹脂の精製方法。
【請求項11】
上記粉末状樹脂は、アクリル酸を構成単量体とする(共)重合体である請求項1に記載の粉末状樹脂の精製方法。

【国際公開番号】WO2004/083262
【国際公開日】平成16年9月30日(2004.9.30)
【発行日】平成18年6月22日(2006.6.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−503642(P2005−503642)
【国際出願番号】PCT/JP2004/002240
【国際出願日】平成16年2月25日(2004.2.25)
【出願人】(000003034)東亞合成株式会社 (548)
【Fターム(参考)】