説明

粉末組成物

【課題】
薬剤等の服用剤の嚥下を容易にするための粉末組成物であって、該粉末組成物を使用する際に加水してゲル状食品とする粉末組成物を提供する。
【解決手段】
加水してゲル状食品とする粉末組成物であって、アルギン酸ナトリウム、カルシウム塩、アスコルビン酸及びカルシウムイオン封鎖剤を含有し、該アルギン酸ナトリウムを粉末組成物全体重量中0.5重量%以上10重量%未満含有する粉末組成物によって達成される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、薬剤等の服用剤の嚥下を容易にするための粉末組成物であって、該粉末組成物を使用する際に加水してゲル状食品とする粉末組成物に関する。更に詳しくは、使用する際に加水して攪拌するのみで、短時間で均一なゲル状となり、ゲル表面がつるっとして艶があり、滑らかで、離水のないゲル状食品となり、服用剤を該ゲル状食品上に載置してスプーン等でくるむようにして服用するための粉末組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、薬剤の苦味をマスキングしたり、服用を容易にする目的で、アルギン酸ナトリウムを用いて、ゲル状或いはゾル状の形態を持つ補助食品としては、例えば、医薬組成物(特許文献1)、嚥下補助飲料(特許文献2)、服薬補助食品(特許文献3)が提案されている。
【0003】
まず、特許文献1の医薬組成物は、薬物含有物と共に、アルギン酸ナトリウム、硫酸カルシウム等のカルシウム塩、カルシウム塩を溶解させるための有機酸、カルシウムイオンに対してキレート作用を持つクエン酸ナトリウム等で構成されるゲル化剤を含有することで、薬物の不快な味覚をマスキングするものである。
しかしながら、該医薬組成物のゲル化剤に注目すると、服用時に加水して攪拌すると、ゲル化過程におけるカルシウムイオンの解離が速く、得られるゼリー状製剤は、ざらつきのある不均一で滑らかさの欠けるゲル状であるため、服用する際食感の点で不快感があり、嚥下し難かった。
また、まずマスキングされてなる薬物含有物である微小球形粒子を生成し、次に該微小球形粒子とゲル化剤の造粒粉末に加水して攪拌する方法は、該微小球形粒子を薬物服用者が生成することは困難で簡便性の点で問題があった。
【0004】
また、特許文献2の嚥下補助飲料は、水分と糊料とを含有し、粘性液体状又はゲル状をなすものである。
しかしながら、糊料としてアルギン酸ナトリウムを用いる場合、カルシウムイオンが不在ではゲル状とならず、ゾル状の粘性液体状となる。粘性液体状では、離水は生じないが、薬剤と混合状態となるため、薬剤を完全に包み込むことができなかった。
【0005】
次に、特許文献3の服薬補助食品は、アルギン酸ナトリウム等のアニオン性高分子物質と、炭酸水素ナトリウム及びアスコルビン酸等の有機酸を含有し、使用する直前に加水し、攪拌するのみで粘稠性の液体となる粉末状物である。
しかしながら、該服薬補助食品はアルギン酸ナトリウムが10重量%以上の場合、加水すると継粉が形成され易いので、炭酸水素ナトリウムとの併用による発泡作用を利用した継粉防止剤として有機酸を添加するに過ぎなかった。また、カルシウム塩が不在のままアルギン酸ナトリウムと水を攪拌すると、アルギン酸ナトリウムは溶解されずコロイド溶液状の粘稠性の液体、すなわちゾル状の液体となるため離水は生じないが、薬剤と混合状態となるため、薬剤を完全に包み込むことができなかった。
【0006】
一方、アルギン酸ナトリウム、無水第二リン酸カルシウム、カルシウム封鎖剤及び有機酸を含有してなるゲル化粉末が知られている(特許文献4参照。)。該ゲル化粉末は飲料などの液状食品に、粉末のまま添加して短時間攪拌するだけでゲル化させるものであるが、カルシウムイオンの解離制御に課題が残っており、得られるゲル化食品は、均一性及び離水の点で更に改良の余地があった。
【0007】
他方、アルギン酸ナトリウムのゲル化システムについて記載された技術文献では、アルギン酸ナトリウムと、カルシウム塩、促進剤としての有機酸、遅延剤としてのカルシウムイオン封鎖剤の関係について開示され、更にカルシウムイオン封鎖剤によるゲル化反応速度の制御についても開示されている。
しかし、有機酸にアスコルビン酸を用いること、アスコルビン酸によるカルシウムイオンの解離制御については言及されていない。(非特許文献1参照。)
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開2000−103730号公報
【特許文献2】特開平11−124342号公報
【特許文献3】特開2003−104912号公報
【特許文献4】特開2003−79325号公報
【非特許文献】
【0009】
【非特許文献1】「別冊フードケミカル−8」平成8年3月20日発行、(株)食品化学新聞社発行、82〜91頁
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
本発明は、以上のような事情に鑑みなされたものであって、その目的とするところは、薬剤等の服用剤の嚥下を容易にするための粉末組成物であって、該粉末組成物を使用する際に加水してゲル状食品とする粉末組成物を提供することにあり、更に詳細には、使用する際に加水して攪拌するのみで、短時間で均一なゲル状となり、ゲル表面がつるっとして艶があり、滑らかで、離水のないゲル状食品となり、服用剤を該ゲル状食品上に載置してスプーン等でくるむようにして服用するための粉末組成物を提供するにある。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明における上記目的は、加水してゲル状食品とする粉末組成物であって、アルギン酸ナトリウム、カルシウム塩、アスコルビン酸及びカルシウムイオン封鎖剤を含有し、該アルギン酸ナトリウムを粉末組成物全体重量中0.5重量%以上10重量%未満含有する粉末組成物によって達成される。
【0012】
すなわち、本発明者らは、保存性の点から、使用する際に加水して調製できる粉末形態のもので、また、薬剤等の服用剤への熱等の影響が除外され、調製後直ぐに服用できるように、加水して攪拌後、短時間で容易にゲル状食品とすることが可能な粉末組成物を検討した。
【0013】
そして、調製されたゲル状食品は、特に年少者の服用を容易にすることを念頭におき、ゾル状ではなく、薬剤等の服用剤を丸ごと包み込むことのできるゲル状となるよう鋭意研究したところ、ゲル化剤としてアルギン酸ナトリウムを選択し、粉末組成物中0.5重量%以上10重量%未満とすることが水に溶解してゲル状となり、適度な強度をもち、離水のないゲル状食品が得られることを見出した。
【0014】
更に該アルギン酸ナトリウムにカルシウム塩、アスコルビン酸及びカルシウムイオン封鎖剤を組合せると、ゲル化過程において、カルシウム塩からカルシウムイオンが徐々に解離し、アルギン酸ナトリウムと順次規則的に反応することから、均一で、表面がつるっとして艶のあるゲル状食品が得られることを見出した。
【0015】
特にアスコルビン酸を用いると、カルシウムイオンの解離制御能力が他の有機酸よりも
更に向上するため、攪拌後短時間で、服用剤の嚥下を容易にするのに最適な、均一で、ゲル表面がつるっとして艶があり、滑らかなゲル状食品となることを見出し本発明に到達した。
【発明の効果】
【0016】
本発明の粉末組成物は、アルギン酸ナトリウムと、カルシウム塩、アスコルビン酸及びカルシウムイオン封鎖剤を用いるので、加水してゲル化する過程中、カルシウム塩からカルシウムイオンを徐々に解離し、アルギン酸ナトリウムとカルシウムイオンが順次規則的に反応することから、短時間のうちに均一で離水のないゲル状食品とすることができる。
【0017】
本発明の粉末組成物から得られるゲル状食品は、適度な強度と均一なゲル状であるため、嚥下を容易にする。そして、ゲル表面がつるっとして艶があり、滑らかさがあるため、特に、年少者の薬剤等の服用剤の嚥下を容易にする点で、効果を発揮する。
【0018】
また他に、本発明の粉末組成物から得られるゲル状食品は、離水のないゲル状食品であるため、薬剤等の服用剤を溶解や混合することなく、丸ごと包み込むことができる。特に粉末状や顆粒状の薬剤の苦味等の不快な味覚や嗅覚成分を含む服用剤であっても、不快味を感じることなく服用できる。
【発明を実施するための形態】
【0019】
本発明を詳しく説明する。
本発明に係る「ゲル状」とは、アルギン酸ナトリウムがカルシウムイオンと反応することで、凝集して全体にわたって網目構造をつくり、水を保持したまま流動性を失った状態を指し、外観的には、流動性はないが弾力性を有し、つるっとして滑らかな状態である。すなわち、流動性を持つ粘性液体状や粘稠性の液体状である「ゾル状」とは区別される。
【0020】
本発明の粉末組成物は、加水して攪拌すると、つるっとして滑らかなゲル状食品となるため、薬剤等の服用剤の嚥下を容易にする。また、服用剤を、溶解することなく丸ごと包み込むことができるため、服用剤が直接舌に触れることなく嚥下可能であり、苦味等の不快味を感じることがなく、特に年少者の薬剤等の服用剤の嚥下には有効である。
【0021】
本発明に用いるアルギン酸ナトリウムは、海藻から抽出して得られる親水コロイド性多糖類の水酸基をナトリウムイオンで置換したものである。
製品例としては、例えば、株式会社キミカ製の「キミカアルギンI−1」、「キミカアルギンI−2G」、「キミカアルギンI−5G」等が挙げられる。これらは、単独でも複数組合せて用いてもよい。この中でも、L−グルロン酸が多く固くてもろいゲルとなる「キミカアルギンI−2G」と、D−マンヌロン酸が多く弾力性の強いゲルとなる「キミカアルギンI−5G」を適宜併用すると、ゲル表面に艶を与え滑らかとなる点で好適である。
【0022】
アルギン酸ナトリウムの含有量は、粉末組成物中0.5重量%以上10重量%未満とすることが、離水のないゲル状食品となる点で重要である。離水は、ゾル状の場合攪拌すると水がゾル状食品に取り込まれるが、ゲル状の場合にはゲル状食品と水が分離したままとなり、薬剤等の服用剤の不快味成分が溶解し嚥下する時に不快感を与えるため、ゲル状食品は離水しないことが重要となる。
また、アルギン酸ナトリウムの含有量が0.5重量%未満或いは10重量%以上では、ゲル状ではなくゾル状になる傾向がある。具体的には、0.5重量%未満の場合、非常に弱いゲル状から粘稠性のゾル状となる傾向があり、10重量%以上の場合、加水して攪拌すると増粘し水に溶解しにくいためゾル状となる傾向があり、更にダマが発生することもある。
【0023】
本発明に用いるカルシウム塩は、中性溶液に難溶或いは不溶のカルシウム塩が挙げられ、例えば硫酸カルシウム、クエン酸カルシウム、炭酸カルシウム、リン酸一水素カルシウム、リン酸三カルシウム等が、カルシウムイオンを徐々に解離しアルギン酸ナトリウムと順次反応して均一で、艶があり滑らかな表面状態のゲル状食品となる点で重要である。これらは、単独でも複数組合せて用いてもよい。
この中でも硫酸カルシウムは、粉末組成物が吸湿しない、粉末組成物を水で攪拌した時のゲル化過程のアスコルビン酸溶解との調和性の点で好適に用いられる。
【0024】
本発明に用いるアスコルビン酸は、γ−ラクトン環をもつ水溶性の糖誘導体である。他の有機酸とは異なり、アスコルビン酸の水への溶解性が、カルシウム塩からカルシウムイオンの解離を微調整し、均一で適度な強度をもつ、滑らかなゲル状食品を得る点で重要である。製品例としては、例えば、BASF社製の「アスコルビン酸」等が挙げられる。
また、アスコルビン酸の粒度は、好ましくは16〜200メッシュ、更に好ましくは、60〜100メッシュであることが、適度な強度をもち、均一で滑らかなゲル状食品を得る、ゲル化時間の点で望ましい。
【0025】
本発明に用いるカルシウムイオン封鎖剤は、カルシウム塩から解離されたカルシウムイオンをキレート作用によって、ゲル化速度を制御するもので、例えば、リン酸水素二カリウム、ピロリン酸4ナトリウム、メタリン酸ナトリウム、クエン酸三ナトリウム、ポリリン酸ナトリウム等が挙げられる。これらは、単独でも複数組合せて用いてもよい。
この中でも、リン酸水素二カリウム、ピロリン酸四ナトリウム、メタリン酸ナトリウムは、アスコルビン酸と併用しゲル化速度を制御することで、均一なゲル状となり、ゲル表面がつるっとして艶があり、滑らかで、離水のないゲル状食品を得る点で好適である。更にまた、リン酸水素二カリウム、メタリン酸ナトリウムは、適度な強度を持つ点でも好適である。
【0026】
なお、本発明の粉末組成物には、その他の副原料として、多糖類(澱粉、デキストリン、食物繊維等)、甘味料(ブドウ糖等の単糖類、砂糖、オリゴ糖等の少糖類、糖アルコール、高甘味度甘味料等)、α化穀類粉末、酸味料、色素、香料、蛋白質、乳製品、油脂、アミノ酸、ミネラル、ビタミン、エキス、果汁粉末、乳化剤等食品原料として一般的に用いられる粉末原料を、ゲル化作用に影響しない範囲で、適宜使用してもよい。
【0027】
次に、本発明の粉末組成物は、例えば、以下のようにして製造される。
すなわち、まずアルギン酸ナトリウム、カルシウム塩、アスコルビン酸、カルシウムイオン封鎖剤の粉末原料、及び必要に応じて、糖類やデキストリン等の副原料を準備し、これらを粉体混合することによって本発明の粉末組成物が得られる。
好ましくは、本発明の粉末組成物に加水して攪拌する時の溶解性を良くする点で、得られた粉末組成物、或いはアルギン酸ナトリウムと副原料を予め、造粒することが望ましい。例えば、得られた粉末組成物或いはアルギン酸ナトリウムと副原料の混合物に、デキストリン(結着剤)をスプレーしながら流動層造粒する方法などが挙げられる。
【0028】
本発明の粉末組成物は、例えば次のようにして、使用される。
まず、粉末組成物1重量部に対し、常温(18〜25℃)の水4〜10重量部を加え、数秒間攪拌後、放置することでゲル状食品を得る。そして任意の薬剤等の服用剤を該ゲル状食品で丸ごと包み込むようにして、服用する。
具体的には、粉末組成物2.4gを容器に入れ、次に15gの常温の水を加え、スプーン等で約15秒間かき混ぜ、約1分程度そのまま放置しゲル状食品を得る。または、約15秒間かき混ぜた後、平らな皿等に移し約1分程度そのまま放置してシート状のゲル状食品を得る。そして、薬剤等の服用剤をそのゲル状食品上に載せ、スプーン等を使って薬剤
等の服用剤の周りのゲル状食品で包み込むようにしてくるんだものをスプーンにのせてそのまま服用すれば、容易に嚥下できる。
【実施例】
【0029】
次に、実施例を挙げて具体的に説明する。
【0030】
≪粉体組成物の調製≫
<実施例1〜11、比較例1〜7>
表1、2に示す組成で、まずアルギン酸ナトリウムとデキストリンを除く副原料を混合した後、デキストリンをスプレーしながら流動層造粒を行った。得られた造粒物と残りの成分を粉体混合することにより、粉体組成物を得た。
【0031】
【表1】

【0032】
【表2】

【0033】
≪ゲル状食品及びゾル状食品の調製≫
実施例1〜11及び比較例1〜7の粉末組成物を容器に入れ、次に常温(20℃)の水を加え、スプーンで約15秒間攪拌した後そのまま放置した。なお、粉末組成物と水は表3に示した割合で混合した。
【0034】
【表3】

【0035】
上記のようにして調製されたゲル状食品及びゾル状食品について、得られた形態、攪拌後からゲル化するまでの時間(ゾル化の場合は、−で示す)、均一性、表面状態、強度、離水の有無を、専門パネラー10名にて評価した。その結果を表1、2に合せて示す。
【0036】
評価の結果、実施例は全て、粉末状や顆粒状の薬剤等の服用剤を丸ごと包むのに有効なゲル状形態を成し、得られたゲル状食品は、適度な強度をもつ均一なゲル状で、更にゲル表面がつるっとして艶や滑らかさがあり、離水も殆どなかった。特に、実施例1、5、8
、11は、全ての項目で最良の結果を得ることができ大変良好であった。
【0037】
これに対し、比較例1は、加水して攪拌すると増粘し、粉末組成物が水に溶解しないためゲル状とはならずゾル状のままで、更にダマが発生した。比較例2は、溶解はしたが、ゲル状とはならず緩いゾル状のままであった。
次に比較例3は、瞬時にゲル化が始まって複数の粒状のゲルが沈殿し、一体のゲル状食品として固まらず、ゲル形態ではあったが、均一性や表面状態が不良であった。比較例4、5もまた、ともにゲル状となったが、均一性、表面状態、強度の点で好ましくなく、アスコルビン酸以外の有機酸の場合、粉末状や顆粒状の薬剤等の服用剤を嚥下するためのゲル状食品としては、不適であった。
比較例6と7は、カルシウムイオンが存在しないため、ゲル状とはならずゾル状のままであった。
【産業上の利用可能性】
【0038】
本発明の粉末組成物から得られるゲル状食品は、適度な強度と均一なゲル状であるため、嚥下を容易にする。そして、ゲル表面がつるっとして艶があり、滑らかさがあるため、特に、年少者が薬剤等の服用剤の嚥下を容易にする点で、効果を発揮する。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
加水してゲル状食品とする粉末組成物であって、アルギン酸ナトリウム、カルシウム塩、アスコルビン酸及びカルシウムイオン封鎖剤を含有し、該アルギン酸ナトリウムを粉末組成物全体重量中0.5重量%以上10重量%未満含有する粉末組成物。


【公開番号】特開2012−105574(P2012−105574A)
【公開日】平成24年6月7日(2012.6.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−256377(P2010−256377)
【出願日】平成22年11月17日(2010.11.17)
【出願人】(393029974)クラシエフーズ株式会社 (64)
【Fターム(参考)】