説明

粉液型歯科用接着材料

【課題】 筆積み法にて使用される粉液型の接着性レジンセメントにおいて、充分かつ適当な大きさで粉吹きのないレジン泥の玉を作製することができ、硬化時間が早いものを開発すること。
【解決手段】 (A)(メタ)アクリレート系重合性単量体を含有してなる液材、並びに
(B)下記
b1)ポリメチルメタクリレート粒子の20〜90質量%、及び
b2)平均粒径が55〜100μmであり、球形状であるメチルメタクリレートとエチルメタクリレートとの共重合体粒子の10〜80質量%
を含有してなる粉材
とからなり、該(A)液材と(B)粉材の少なくとも一方には重合開始剤が含有されてなることを特徴とする、筆積み法で使用される粉液型歯科用接着性材料とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、筆積み法で使用する粉液型歯科用接着材料に関する。
【背景技術】
【0002】
歯科治療の分野では、様々な組成の歯科用接着材料が提案されており、これら歯科用接着材料の中でも接着性レジンセメントは、歯牙のみならず種々の被着体(金属やセラミックス等)を強固に接着できる材料として広く使われている。
【0003】
接着性レジンセメントは基本的にモノマー(単量体)成分、フィラー(充填材)成分、及び重合開始剤からなる。接着性レジンセメントの内、フィラー成分として樹脂粉末を用いたものは、無機フィラーを用いたものと比較し硬化体の靭性が高いことから、応力に抵抗する作用があるといわれており、特に高い接着性を要求される症例に好適に使用されている。このような症例としては、歯周病等で動揺した歯牙を隣接歯と固定する方法(このような術式を動揺歯固定法という)、或いは矯正用ブラケットを未切削の歯牙に接着する方法等が例示される。
【0004】
上記の樹脂粉末を含む接着性レジンセメントは、一般的に、樹脂粉末を主成分とする(B)粉材とラジカル重合性単量体を主成分とする(A)液材とからなり(粉液型という)、使用時に両材を混合することにより、混合物中で硬化反応が開始、進行して硬化する。この時、(B)粉材の樹脂粉末の少なくとも一部は、(A)液材のラジカル重合性単量体に溶解し、これにより液の粘度が上昇して(A)液材のラジカル重合性単量体の重合反応が進行しやすくなり(かご効果による)、硬化が進行することで硬化体の強度が上昇するように調整されているのが一般的である。
【0005】
該(A)液材に配合されるラジカル重合性単量体としては、重合性や生体への為害性、操作性、硬化後の物性などの点からメチルメタクリレート等の(メタ)アクリレート系重合性単量体を使用するのが一般的であり、これらは通常、常温で液状を呈している。また、粉材に配合される樹脂粉末としては、この(メタ)アクリレート系重合性単量体との親和性や操作性などの観点から、ポリメチルメタクリレート等の(メタ)アクリレート系単量体の単独重合体又は非共重合体を使用するのが一般的である。
【0006】
上記の樹脂粉末を含む接着性レジンセメントは、使用時に両材をヘラ等で混和してペースト状としてから用いる方法(混和法という)でも使用されるが、特に、粉液型である特長を利用して下記の筆積み法で汎用されている(例えば、特許文献1及び非特許文献1参照)。即ち、筆積み法は、粉材と液材を別々に取り分けて用意し、小筆に液材を含ませ、次いで筆先を粉材に接触させることにより筆先に玉状のレジン泥を作製し、このレジン泥を被着面やレジン泥を築盛したい箇所に盛り付けて接着材として使用する方法であり、簡便に且つ短時間に接着操作を終了できる利点を有する。
【0007】
しかしながら、上記したような筆積み法にて使用される粉液型の接着性レジンセメントには以下のような点で未だ改良の余地があった。
【0008】
すなわち、合着用途から動揺歯固定用途など様々な症例に用いることを想定している接着性レジンセメントでは、硬化体層の厚さの観点から用いるフィラーの粒径は限られ、50μm以下であること、特には30μm以下であることが好ましかった(特許文献2、[0086]欄参照)。そのため、筆積み法により筆先に作製されるレジン泥の玉は小さく、具体的には、この用途に通常使用される筆穂部の根元径が0.5〜2.5mmで吸液量が3〜50mgである筆を使用して形成させた玉は直径2.0mmに満たない大きさであり、動揺歯固定用や矯正用接着材料として使用する際に必要な大きさのレジン泥の玉(好適には、直径2.0〜4.0mm)を作製するのに困難性があった。また、合着用途として使用するには充分に長い操作時間(可使時間)を確保する必要があったため、粉材と液材を混合した後に短時間で粘度が上昇し過ぎないよう比較的溶解性の低い粉材が主成分となるように調整をしていたが(特許文献3)、そのために硬化時間を短くすることが困難であり、合着用途として使用しない場合の症例(動揺歯固定や矯正等)においては今一つ満足できるものではなかった。
【0009】
【特許文献1】特開2002−161013号公報
【特許文献2】特開2009−1536号公報
【特許文献3】特開2009−221171号公報
【非特許文献1】歯科展望,Vol.96,No.2,286〜314,2000
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
以上から、筆積み法にて使用される粉液型の接着性レジンセメントにおいて、充分な大きさのレジン泥の玉を作製することができ、硬化時間が早いものを開発することが大きな課題であった。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明者らは、上記目的を達成すべく鋭意検討を行った。その結果、筆積み法にて使用される粉液型の接着性レジンセメントの粉材として、特定2種類の樹脂粉末を組合わせて使用することにより、上記の課題が解決できることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0012】
即ち、本発明は、(A)(メタ)アクリレート系重合性単量体を含有してなる液材、並びに
(B)下記
b1)ポリメチルメタクリレート粒子の20〜90質量%、及び
b2)平均粒径が55〜100μmであり、球形状であるメチルメタクリレートとエチルメタクリレートとの共重合体粒子の10〜80質量%
を含有してなる粉材
とからなり、該(A)液材と(B)粉材の少なくとも一方には重合開始剤が含有されてなることを特徴とする、筆積み法で使用される粉液型歯科用接着性材料である。
【発明の効果】
【0013】
本発明の筆積み法にて使用される粉液型歯科用接着性材料によれば、筆先に簡易に実臨床上十分な大きさのレジン泥の玉を作製できる。具体的には、筆積み法に通常使用される筆穂部の根元径が0.5〜2.5mmで吸液量が3〜50mgである筆を使用して、通常、直径が2.0〜4.0mmのレジン泥の玉を形成させることが可能である。また、硬化時間も短い。このため、動揺歯固定や矯正用ブラケットの歯牙への接着等の歯科治療において極めて有意に使用できる。
【発明を実施するための形態】
【0014】
本発明の歯科用接着性材料において、(A)(メタ)アクリレート系重合性単量体を含有してなる液材の(メタ)アクリレート系重合性単量体は、毒性がなく、優れた理工学物性が得られることから粉液型歯科用接着性材料の重合性単量体として汎用されている。こうした(メタ)アクリレート系重合性単量体としては、23℃以上で液状のもの、または(A)液材に溶解可能なものであれば、歯科治療用材料の分野で公知のものを何ら制限なく用いることができる。具体的には、メチル(メタ)アクリレート、エチル(メタ)アクリレート、イソプロピル(メタ)アクリレート、ブチル(メタ)アクリレート、2−エチルヘキシル(メタ)アクリレート、グリシジル(メタ)アクリレート、ベンジル(メタ)アクリレート、アリル(メタ)アクリレート、テトラヒドロフルフリル(メタ)アクリレート、2−(メタ)アクリロキシエチルプロピオネート、2−メタクリロキシエチルアセトアセテート、2−ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート、3−ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート、グリセリルモノ(メタ)アクリレート、ポリエチレングリコールモノ(メタ)アクリレート等の単官能性のもの、エチレングリコールジ(メタ)アクリレート、ジエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、トリエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、ブチレングリコールジ(メタ)アクリレート、ノナエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、プロピレングリコールジ(メタ)アクリレート、ジプロピレングリコールジ(メタ)アクリレート、ネオペンチルグリコールジ(メタ)アクリレート、1,3−ブタンジオールジ(メタ)アクリレート、1,4−ブタンジオールジ(メタ)アクリレート、1,6−ヘキサンジオールジ(メタ)アクリレート、1,9−ノナンジオールジ(メタ)アクリレート、トリメチロールプロパントリ(メタ)アクリレート、ネオペンチルグリコールジ(メタ)アクリレート、ペンタエリスリトールトリ(メタ)アクリレート、トリメチロールメタントリ(メタ)アクリレート、ペンタエリスリトールテトラ(メタ)アクリレート、ウレタン(メタ)アクリレート等の多官能性で脂肪族系のもの;2,2−ビス((メタ)アクリロキシフェニル)プロパン、2,2−ビス[4−(2−ヒドロキシ−3−(メタ)アクリロキシフェニル)]プロパン、2,2−ビス(4−(メタ)アクリロキシエトキシフェニル)プロパン、2,2−ビス(4−(メタ)アクリロキシジエトキシフェニル)プロパン、2,2−ビス(4−(メタ)アクリロキシプロポキシフェニル)プロパン等の多官能性で芳香族系のもの;11−(メタ)アクリロイルオキシ−1,1−ウンデカンジカルボン酸、4−(メタ)アクリロイルオキシエチルトリメリット酸及びその無水物、2−メタクリイルオキシエチルジハイドロジェンホスフェート、ビス(2−メタクリロイルオキシエチル)ハイドロジェンホスフェート、10−メタクリロイルオキシデシルジハイドロジェンホスフェート等の酸性基を含有しているもの;等が挙げられる。これらの重合性単量体は単独または二種類以上を混合して用いることができる。
【0015】
また、上記(メタ)アクリレート系重合性単量体としては、用途に応じて、特開平10−1409号公報、特開平10−1473号公報、特開平8−113763号公報に記載の貴金属接着性単量体として知られる非酸性の(メタ)アクリレート系単量体等も、良好に使用可能である。
【0016】
これらの中でも得られる硬化体の靭性が高いことからアルキルメタアクリレート系単量体、具体的にはメチル(メタ)アクリレート、エチル(メタ)アクリレート、ブチル(メタ)アクリレート等を用いることが好ましい。特に高い靭性が得られることから、メチル(メタ)アクリレートを用いることが最適である。このようなアルキルメタアクリレートの液材への配合量は特に限定されないが、高い靭性が得られる観点から液材100質量%に対して30質量%以上が好ましく、特に50質量%以上が好ましい。
【0017】
本発明の歯科用接着性材料には、上記(メタ)アクリレート系重合性単量体以外の重合性単量体を混合することも可能である。これら他の重合性単量体を例示すると、フマル酸ジメチル、フマル酸ジエチル、フマル酸ジフェニル等のフマル酸エステル化合物;スチレン、ジビニルベンゼン、α−メチルスチレン、α−メチルスチレンダイマー等のスチレン、α−メチルスチレン誘導体;ジアリルフタレート、ジアリルテレフタレート、ジアリルカーボネート、アリルジグリコールカーボネート等のアリル化合物等を挙げることができる。これらの単量体は単独で又は二種以上を混合して用いることができる。
【0018】
その他、液材中には、良好な筆積み性を損なわない範囲で、必要に応じて様々な任意成分を含有させることができる。このような任意成分としては、重合開始剤成分、pH調整剤等の重合開始剤等の安定化剤、無機粒子または有機粒子等の強度調節剤、粘度調節剤、各種塩類、エタノール、イソプロパノール、エチレングリコール、プロパンジオール、アセトン等の有機溶剤等が挙げられる。特に、保存安定性や環境光安定性を向上させるため、ハイドロキノン、ハイドロキノンモノメチルエーテル、2,6−ジターシャリーブチルフェノール等の重合禁止剤を少量加えるのが好ましい。
【0019】
本発明の歯科用接着性材料において、上記(B)粉材は、該粉材の合計を100質量%とした場合に、
b1)ポリメチルメタクリレート粒子の20〜90質量%、及び
b2)平均粒径が55〜100μmであり、球形状であるメチルメタクリレートとエチルメタクリレートとの共重合体粒子の10〜80質量%
を含有してなる。
【0020】
上記b1)ポリメチルメタクリレート粒子は、(A)液材である(メタ)アクリレート系重合性単量体に対する溶解性は比較的不良であるが、硬化体の強度を向上させるための必須成分である。かかるポリメチルメタクリレート粒子の形状、平均粒子径および比表面積は、特に制限されるものではないが、(A)液材への溶解性を高める観点から、平均粒子径が1〜50μmであり、比表面積が0.5〜5.0m/gの範囲である不定形粒子であるのが好ましく、特には平均粒子径10〜30μmであり、比表面積が1.0〜4.0m/gの範囲であるのが好ましい。また、斯様な粒子の配合割合は硬化時間の観点から、粉材の合計を100質量%とした場合に20〜90質量%であるのが好ましく、25〜75質量%であるのが特に好ましい。
【0021】
なお、斯様な不定形粒子は、板状または顆粒状の粒子、もしくは懸濁重合または乳化重合により得られた球状粒子または略球状粒子を所望の平均粒子径と比表面積を有するようになるまで機械的に粉砕または異形化するなどして得ることができる。
【0022】
上記b2)は平均粒径が55〜100μmであり、球形状であるメチルメタクリレートとエチルメタクリレートとの共重合体粒子である。斯様な平均粒子径を持つ粒子は、被膜厚さ50μm以下であることが好ましいとされる合着用途としては通常使用されない。さらに、球形状である該共重合体粒子は比表面積が小さく、かつ(A)液材である(メタ)アクリレート系重合性単量体に対する溶解性が非常に高い。そのため、(A)液材と(B)粉材を混合した際の粘度上昇が早く、可使時間が短いため、ある程度の可使時間を必要とする合着用途としては不向きである。しかしながら、可使時間を必要としない合着用途以外において、筆積み法によりレジン泥の玉を作製して使用する際には、比表面積が小さいためにレジン泥を調製するために要する液材が少なくすむため、充分な大きさの玉を作製することが可能であり好適に使用することができる。更には、溶解性が高くレジン泥の粘度上昇が速いことから、硬化時間を短くすることが可能である。斯様な粒子は平均粒径が100μmを超えると、作製されるレジン泥の玉が大きくなりすぎ、粉ぶきを生じる場合があり、接着性も不十分であるため、平均粒径55〜100μmであることが好ましく、特に60〜85μmが好ましい。また、配合割合としては硬化時間の観点から、粉材の合計を100質量%とした場合に10〜80質量%であるのが好ましく、25〜75質量%であるのが特に好ましい。
【0023】
硬化時間をさらに早くする観点から、さらにb3)平均粒径が1〜50μmであり、球形状であるメチルメタクリレートとエチルメタクリレートとの共重合体粒子を加えることが好ましく、玉の大きさを大きくする観点から、粉材の合計を100質量%とした場合に50質量%以下、特に20〜40質量%の範囲で加えることがより好ましい。
【0024】
上記b3)メチルメタクリレートとエチルメタクリレートとの共重合体粒子の平均粒径は、レジン玉の大きさを保つ理由から、上記1〜50μmであり、30〜45μmであるのがより好ましい。
【0025】
また、本発明にて使用するメチルメタクリレートとエチルメタクリレートとの共重合体粒子が球形状であるとは、該粒子が全体的に丸みを帯びていることを意味し、必ずしも真球状である必要はなく、略球状であってもよい。具体的には、走査型や透過型の電子顕微鏡で該共重合体粒子の写真をとり、その単位視野内に観察される粒子を無作為に100個選択し、各々について粒子の最大径に直交する方向の粒子径をその最大径で除した平均均斉度が0.6以上であるのが好ましく、0.8以上であるのが特に好ましい。
【0026】
本発明にて使用するメチルメタクリレートとエチルメタクリレートとの共重合体粒子におけるメチルメタクリレートとエチルメタクリレートの共重合比はポリメチルメタクリレートやポリエチルメタクリレートと区別できないほどに一方の共重合単位が多くならない限り特に限定されないが、溶解性を高める観点からエチルメタクリレートが10質量%以上、強度を高める観点から90質量%以下が好ましく、特に30〜70質量%が良い。
【0027】
本発明のポリメチルメタクリレート粒子は必ずしもメチルメタクリレートの単独重合体である必要はない。同様に、メチルメタクリレートとエチルメタクリレートとの共重合体粒子も、必ずしもメチルメタクリレートとエチルメタクリレートのみの共重合体である必要はない。これらの粒子は、本発明の効果に悪影響を与えない少量の範囲(モノマー基準で通常5質量%以下、好ましくは3質量%以下)であれば他の単官能のラジカル重合性単量体との共重合体であってもよい。共重合可能なモノマーとしては、エチル(メタ)アクリレート、プロピル(メタ)アクリレート、ブチルメタクリレート、2−ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート、2−ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート、3−ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート等のアルキル(メタ)アクリレート、スチレン、α−メチルスチレン、パラ−メチルスチレン等のスチレン類モノマー等が挙げられる。
【0028】
本発明の歯科用接着性材料において、上記b1)〜b3)成分からなる(B)粉材では、初期の粘度上昇が十分ではなく、歯科矯正用器具を使用した際に歯牙表面に圧接した歯科矯正用器具が固定されずに漂動する所謂、ブラケットドリフトが生じる場合がある。この現象は特に、矯正用器具が臼歯部に用いるチューブ状である際において顕著に生じる。こうした場合、ブラケットドリフトを改善するために、さらにb4)平均粒径が1〜30μmであるポリエチルメタクリレート粒子を加えることが好ましい。ポリエチルメタクリレート粒子は、ポリメチルメタクリレート粒子やメチルメタクリレートとエチルメタクリレートとの共重合体粒子よりも、さらに、液材への溶解性が高いため、該b4)粒子を配合することにより、(A)液材と(B)粉材を混合した際の特に直後の初期粘度を瞬時に高めることができ、これにより上記ブラケットドリフトを防止できるものになる。
【0029】
この(A)液材との混合時の迅速な溶解を達成するためには、b4)ポリエチルメタクリレート粒子の平均粒径は1〜30μmであることが必要であるが、5〜15μmが特に好ましい。平均粒径が30μmを超えると比表面積が小さくなりすぎ、ポリエチルメタクリレート粒子の粉材への溶解速度が不十分となり、初期粘度上昇効果が得難くなる。なお、粒子の形状は特に限定されず、球状、略球状、または不定形の粒子が使用できる。
【0030】
こうしたb4)平均粒径が1〜30μmであるポリエチルメタクリレート粒子の配合割合は、筆積みにて作製されるレジン玉の大きさを保つ観点から、粉材の合計を100質量%とした場合に10質量%以下、特に4〜8質量%の範囲で加えることがより好ましい。
【0031】
本発明にて使用するポリエチルメタクリレート粒子は、必ずしもエチルメタクリレートの単独重合体である必要はなく、本発明の効果に悪影響を与えない範囲(モノマー基準で通常、5質量%以下、より好ましくは3質量%以下)であれば他の単官能のラジカル重合性単量体との共重合体であってもよい。共重合可能のモノマーとしては、メチル(メタ)アクリレート、プロピル(メタ)アクリレート、ブチルメタクリレート、2−ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート、2−ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート、3−ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート等のアルキル(メタ)アクリレート、スチレン、α−メチルスチレン、パラ−メチルスチレン等のスチレン類モノマー等が挙げられる。
【0032】
なお、本発明において、粒子の平均粒径はレーザー回折・散乱法により測定したメジアン径である。具体的には、エタノールや水とエタノールの混合溶媒等の、前記b1)〜b4)成分の各粒子が良好に分散し、且つ該粒子が溶解または膨潤しない分散媒を使用し、フランホーファー回折法により平均粒径を測定する。
【0033】
尚、本発明において比表面積は、窒素吸着法によるBET比表面積値(m/g)のことである。具体的には、25℃にて4時間真空乾燥した、前記b1)〜b4)成分の各粒子のBET比表面積値を測定する。
【0034】
また、本発明において、前記b1)〜b4)成分の各粒子の重量平均分子量は特に限定されないが、高い靭性が得られる観点から5万以上であることが好ましく、溶解性を高める目的で200万以下が好ましい。特に好ましくは10万以上、120万以下である。このような重量平均分子量は、ゲルパーミエーションクロマトグラフィーを使用しポリスチレン換算の分子量として測定できる。
【0035】
本発明に使用する、前記b1)〜b4)成分の各粒子としては、それぞれの原料メタクリレート系モノマーを架橋剤を実質的に用いずに懸濁重合或いは乳化重合させて得られる粒子が例示できる。このような粒子は市販されており、工業的に入手することも可能である。
【0036】
その他、粉材中には、良好な筆積み性を損なわない範囲で、必要に応じて様々な任意成分を含有させることができる。このような任意成分としては、一般に用いられる無機フィラーや架橋性フィラーが挙げられる。無機フィラーとしては、石英、シリカ、シリカ−アルミナ、シリカ−チタニア、シリカ−ジルコニア、チタニア、アルミナ、ジルコニア、フルオロアルミノシリケートガラス、バリウムガラス、ストロンチウムガラス等が挙げられ、これらは(B)粉材とのなじみをよくするために、その表面をポリメチルメタクリレート、ポリエチルメタクリレート等の(メタ)アクリレート系重合体等のポリマーやシランカップリング剤等で被覆することができる。架橋フィラーとしては、架橋型ポリメチルメタクリレート等の架橋性フィラーを使用することができる。また、無機酸化物とポリマーの複合体を粉砕したような無機有機複合フィラーも使用可能である。
【0037】
これらフィラーの形状は特に限定されず、通常の粉砕により得られるような粉砕型粒子、あるいは球状粒子でもよい。また、粒子径は特に限定されるものではないが、液材とのなじみの点から、85μm以下のものが好ましく、特に50μm以下のものが好ましい。
【0038】
上記したように(A)液材および(B)粉材の少なくともいずれか一方には、(メタ)アクリレート系重合性単量体の重合開始剤が配合される。重合開始剤が複数成分で構成される場合には、保存中に液材中で(メタ)アクリレート系重合性単量体の重合反応が開始されないように、これらはそれぞれの部材に分けて配合される。なお、場合によっては、該重合開始剤は(A)液材と(B)粉材とは別に分包することもできる。
【0039】
上記(メタ)アクリレート系重合性単量体の重合開始剤としては、化学重合開始剤および光重合開始剤のいずれも制限なく使用できる。例えば、化学重合開始剤としては、有機過酸化物/アミン化合物、又は有機過酸化物/アミン化合物/スルフィン酸塩からなるレドックス型の重合開始剤;酸と反応して重合を開始する有機金属型の重合開始剤;及び(チオ)バルビツール酸誘導体/第二銅イオン/ハロゲン化合物からなる重合開始剤等が使用できる。このような重合開始剤の具体例としては、例えば特願2000−361150号公報に例示されているものを使用できる。特に有機金属型の重合開始剤としては後述する一般式(1)で例示されるアリールボレート塩を用いるのが審美性等の観点から好適である。この時、アリールボレート塩と組む酸としては従来公知の有機酸および無機酸が使用できる。反応性が高いことから強酸が好ましく、特にスルホン酸基含有化合物が扱いやすく、好ましいと言える。こうした酸は、酸性基を含有する重合性単量体として、上記(A)液材の一部として兼用してもよく、また、2−メタクリルアミド−2−メチルプロパンスルホン酸等の場合、常温で固体であり、前記した(A)液材の保存安定性を考慮すると(B)粉材の一部として含有させても良い。
【0040】
上記のアリールボレート塩としては、分子中に少なくとも1個のホウ素−アリール結合を有する4配位のホウ素化合物であれば特に限定されず公知の化合物が使用できる。ホウ素−アリール結合を全く有しないボレート化合物は安定性が極めて悪く、空気中の酸素と容易に反応して分解するため、事実上使用が不可能である。
【0041】
本発明で使用されるアリールボレート塩としては、保存安定性及び重合活性の点から、下記一般式(1)
【0042】
【化1】

(1)

(上式中、R、R及びRは、それぞれ独立に、アルキル基、アリール基又はアルケニル基であり、これらの基はいずれも置換基を有していてもよく;R及びRは、それぞれ独立に、水素原子、ハロゲン原子、ニトロ基、置換基を有してもよいアルキル基又はアルコキシ基、または置換基を有してもよいフェニル基であり;Lは金属陽イオン、第3級または第4級アンモニウムイオン、第4級ピリジニウムイオン、第4級キノリニウムイオンまたは第4級ホスホニウムイオンを示す。)で示されるボレート化合物が好ましい。
【0043】
これらの中でも、保存安定性や入手の容易さから、ホウ素原子が4つのアリール基で置換されたアリールボレート塩が特に好ましい。
【0044】
他方、光重合開始剤としては、光増感剤のみからなるもの;光増感剤/光重合促進剤からなるもの;色素/光酸発生剤/スルフィン酸塩;色素/光酸発生剤/アリールボレート塩からなるもの等が挙げられる。
【0045】
これら重合開始剤類を必要に応じ各々単独で、あるいは複数を組み合わせて添加することが可能である。
【0046】
また、本発明の歯科用接着性材料をデュアルキュア型にする場合には、上記化学重合開始剤とカンファーキノン等のα−ジケトン類及びジメチルアミノ安息香酸エチルエステル等のアミンの組み合わせからなる、又はビス(2,4,6−トリメチルベンゾイル)フェニルフォスフィンオキサイド等のアシルフォスフィンオキサイド誘導体からなる光重合開始剤の併用が、接着強度、及び重合性の観点から好適である。
【0047】
本発明の歯科用接着性材料における上記重合開始剤の配合量は、(A)液材に含まれる重合性単量体が重合するのに充分な量であれば特に限定されないが、硬化体の耐候性等の諸物性の観点から、(A)液材に含まれる重合性単量体の100質量部に対して、0.01〜20質量部の範囲であるのが好ましい。
【0048】
本発明の粉液型歯科用接着性材料は、歯科治療における筆積み法で使用される材料である。筆積み法での使用において、(A)液材および(B)粉材より作製されるレジン泥は、(B)粉材としてb2)平均粒径55〜100μmの粒子を用いているため、硬化体層の厚みが50μm以下であること、特には30μm以下であることが好ましいとされる合着用途としては不向きである。よって、本発明の歯科用接着性材料は、硬化体層が40μm以上、より好ましくは55μm以上の厚みとなる用途用である。
【0049】
こうした硬化体層の厚みでの使用が好適となる歯科治療の用途としては、歯科動揺歯固定用、矯正用ブラケット接着用、または矯正治療後の保定用等が挙げられる。
【0050】
ここで、硬化体層の厚みは、粉液型歯科用接着性材料を用いて筆積み法により形成した該接着性材料の硬化体層において、実質的全域、具体的には80%以上、より好適には90%以上の部分が上記厚み以上であることを意味する。すなわち、例えば端縁部や、矯正用ブラケット接着用に用いた際の該ブラケットの裏面に特異的に設けられた突出部に押される等して、僅かな範囲で上記厚みより薄い部分があったとしても、本発明では、前記厚みの要件は満足されたものとする。
【0051】
本発明の歯科用接着性材料は、その液材または粉材に酸性基を含有する(メタ)アクリレート系重合性単量体を配合し、粉材と液材を混合して得られるレジン泥に歯質接着性を付与することで、該レジン泥をそのまま歯牙に塗布して使用する歯科用接着キットとして使用することも可能であるが、従来公知の歯科用前処理剤と併用することで、被着体への更に高い接着性を達成可能な歯科用接着キットとして使用できる。前処理剤としては、酸性溶液を用いたエッチング処理剤、エッチングおよび改質処理能を有するプライマーなどが挙げられる。
【0052】
エッチング処理剤としては、酸濃度が5〜50質量%のリン酸、カルボン酸あるいはクエン酸等の水溶液(酸水溶液)を使用することができ、プライマーとしては、(メタ)アクリレート系重合性単量体および水を含んでなる組成物を使用することができる。斯様な歯科用前処理材としては、特開2008−222642号公報、特開平07−118116号公報、特開平08−310912号公報、特開平08−319209号公報、特開平09−025208号公報、特開平09−227325号公報、特開平10−251115号公報、特開2002−265312号公報、特開2003−096122号公報、特開2004−043427号公報、特開2004−026838号公報等に記載の、従来公知の歯科用前処理剤を適宜選択して使用することができる。
【実施例】
【0053】
以下に実施例を挙げて本発明を具体的に説明するが、本発明はこれら実施例に限定されるものではない。
【0054】
尚、実施例および比較例で使用した化合物とその略称を(1)に、液材および歯科用プライマー組成を(2)に、粉材組成を(3)に、エナメル質接着強さの測定法を(4)に、硬化時間の測定法を(5)に、レジン泥の玉の評価方法を(6)に、ブラケットドリフトの評価方法を(7)に示した。
【0055】
(1)使用した化合物とその略称
PM;2−メタクリロイルオキシエチルジハイドロジェンホスフェートとビス(2−メタクリロイルオキシエチル)ハイドロジェンホスフェートの混合物
MMA;メチルメタクリレート
HEMA;2−ヒドロキシエチルメタクリレート
UDMA;1,6−ビス(メタクリルエチルオキシカルボニルアミノ)2,2,4−トリメチルヘキサンと1,6−ビス(メタクリルエチルオキシカルボニルアミノ)2,4,4−トリメチルヘキサンの混合物
MMPS;2−メタクリルアミド−2−メチルプロパンスルホン酸(微粉末状)
MTU−6;6−メタクリロイルオキシヘキシル 2−チオウラシル−5−カルボキシレート
PhBTEOA;テトラフェニルホウ素トリエタノールアミン塩
BMOV;ビス(マルトラート)オキソバナジウム(IV)
DMEM;N,N−ジメチルアミノエチルメタクリレート
BHT;ジブチルヒドロキシトルエン
(2)歯科用プライマー組成
20質量%のPMと30質量%の水と41質量%のアセトンと7質量%のUDMAと2質量%のDMEMと0.2質量%のBMOVと0.3質量%のBHTからなる組成とした。
【0056】
(3)ポリメチルメタクリレート粒子(P1〜P4)、メチルメタクリレートとエチルメタクリレートとの共重合体粒子(P5〜P10)およびポリエチルメタクリレート粒子(P11,P12)
それぞれ表1に示したものを用いた。なお、粒子の平均粒径は、レーザー回折・散乱法により測定したメジアン径であり、比表面積は、窒素吸着法によるBET比表面積値(m/g)であり、重量平均分子量は、ゲルパーミエーションクロマトグラフィーを使用しポリスチレン換算の分子量として測定した値である。
【0057】
【表1】

【0058】
尚、不定形粒子は懸濁重合法で合成した球状粒子を90〜120℃で解砕が可能な程度に過熱融着し、ボールミル等を使用して融着粒子100gとφ10mmのアルミナボール100gを混合して所望の比表面積を有するようになるまで解砕し処理した。
【0059】
(4)エナメル質接着強さの測定法
屠殺後24時間以内に牛前歯を抜去し、注水下、#600の耐水研磨紙で唇面に平行になるようにエナメル質平面を削り出した。次にこれらの面に圧縮空気を約10秒間吹き付けて乾燥した後、この面に直径3mmの孔の開いた両面テープを固定して被着面の面積を規定した。この孔に、上記歯科用プライマーを塗布し、20秒間放置した後圧縮空気を約10秒間吹き付けた。厚さ0.6mm直径8mmの孔の開いたワックスシートを上記円孔上に同一中心となるように固定した。その後、実施例または比較例の歯科用接着性材料の粉材と液材を、トクヤマ筆積み用ディスポ筆N(株式会社トクヤマデンタル製)を使用して筆積み法にてレジン泥を作製し、該レジン泥を上述したワックスシート孔内に移し、孔内を過不足なくレジン泥で満たした。次いで直ちに、ワックスシートの孔の開口部にPP製シートを乗せて蓋をし(この際にPP製シートを押し付けないことで、圧接を行わない非圧接法とした)、そのまま直ちに37℃、湿度100%の恒温恒湿箱に移して1時間反応、硬化させた。
【0060】
1時間後にPP製シートおよびワックスシートを除去した。レジン泥が硬化して得られた硬化体には、ワックスシートの開口部平面(レジン泥とPP製シートの接触平面)に相当する直径8mmの円形の平面が被着面と水平に形成されており、硬化体の該平面に歯科用接着用レジンセメントであるトクヤママルチボンドII(株式会社トクヤマデンタル製)を使用し、直径8mmφのステンレス製のアタッチメントを接着して、接着試験片を作製した。
【0061】
上記接着試験片を37℃の水中に24時間浸漬した後、引っ張り試験機(オートグラフ、島津製作所製)を用いてクロスヘッドスピード1mm/minにて歯牙との引っ張り接着強さを測定した。1試験当たり、5本の引っ張り接着強さを上記方法で測定し、その平均値を接着強さとした。
【0062】
(5)硬化時間の測定法
まず筆積み法を実施した際における、筆先に調製したレジン泥中の粉材と液材の混合比(P/L)の評価を行った。
【0063】
すなわち、筆積みしたレジン泥の硬化時間とP/L既知のレジン泥の硬化時間を比較し、筆積み時と同一の硬化時間が得られるP/L値を調べた。この際、硬化時間の測定は、熱電対を使用した発熱法によって行った。筆積みしたレジン泥の硬化時間は、23℃において、先端にアルミ箔を巻いた熱電対を差し込んだ6mmφ×2mm厚の孔の開いたワックスシート製モールドを用意し、筆積みにて得られたレジン泥を孔の中に流し込み、ワックスシートの孔の開口部をPP製シートで蓋をし、筆積み開始から最大発熱点までの時間を測定し硬化時間とした。P/L既知のレジン泥の硬化時間は、所定の粉材と一定量の液材を10秒間混合し、得られたレジン泥を孔の中に流し込み、上記筆積み時と同様に測定した。尚、測定はそれぞれ10回行い平均値を求めた。
【0064】
この測定方法に従って測定した結果、本発明ならびに比較例の歯科用接着性材料の筆積み法におけるP/Lを測定した結果、硬化時間はいずれもP/L:1.9の場合の硬化時間よりも短く、P/L:2.1の場合の硬化時間よりも長く、P/L:2の場合の硬化時間と同等であった。つまり、本発明ならびに比較例の歯科用接着性材料の筆積み法におけるP/Lは、全て約2のものであった。よって、硬化時間の測定はP/L:2にて行うこととした。
【0065】
すなわち、硬化時間の測定は、先端にアルミ箔を巻いた熱電対を差し込んだ6mmφ×2mm厚の孔の開いたワックスシート製モールドを用意し、本発明ならびに比較例の歯科用接着性材料の粉材と液材のP/Lを2として10秒間混合し、得られたレジン泥を孔の中に流し込み、ワックスシートの孔の開口部をPP製シートで蓋をした。混合開始から1分後、30℃の恒温水槽にレジン泥の入ったモールドを浸水し、混合開始から最大発熱点までの時間を測定し、硬化時間とした。
【0066】
(6)レジン泥の玉の評価方法
レジン泥の玉の評価は、以下のように行った。すなわち、まず、23℃において、ダッペンディッシュに粉材と液材を別々に採取し、筆穂部の根元径が約2mmで吸液量が約10〜15mgである筆(トクヤマ筆積み用ディスポ筆N、株式会社トクヤマデンタル製)を使用して筆積み法にて、筆先にレジン泥の玉を作製し、玉の大きさを目視評価した。評価は以下の3段階とした。
【0067】
○:液材と粉材の馴染みがよく、直径2.0〜4.0mmの適度な大きさの玉ができる
△:直径1.0〜2.0mm未満の小さな玉ができる
×:直径1.0mm未満の小さすぎる玉もしくは直径4.0mm以上の大きすぎる玉ができる、または粉吹きする
【0068】
(7)ブラケットドリフトの評価方法
ブラケットドリフトの評価は、以下のように行った。すなわち、まず、23℃において、ダッペンディッシュに粉材と液材を別々に採取し、筆穂部の根元径が約2mmで吸液量が約10〜15mgである筆(トクヤマ筆積み用ディスポ筆N、株式会社トクヤマデンタル製)を使用して筆積み法にて、筆先にレジン泥の玉を作製し、それをブラケット(マイクロアーチ・フォーミュラーR、921−101R、トミー株式会社製)またはブラケットよりも重く臼歯部に用いるチューブ(シングルチューブボンダブル、902−701L、トミー株式会社製)に盛りつけて、スライドガラスに圧接した。スライドガラスを垂直に立てたときのブラケットまたはチューブのずれた距離を評価した。
【0069】
◎:全くずれない
○:ずれた距離が3mm未満
△:ずれた距離が3mm以上5mm以下
×:5mm以上ずれる
【0070】
実施例1〜9、比較例1〜4
粉液型歯科用接着性材料として、以下の液材と粉材からなるものを製造した。
〔液材〕
78質量%のMMAと15質量%のUDMAと4質量%のHEMAと3質量%のPhBTEOAと0.1質量%のMTU−6と0.1質量%のBHTの混合物からなる組成とした。歯科用プライマーは、20質量%のPMと30質量%の水と41質量%のアセトンと7質量%のUDMAと2質量%のDMEMと0.2質量%のBMOVと0.3質量%のBHTとを配合した。
〔粉材〕
表2および表3に示した配合組成のものを用いた。
【0071】
上述した歯科用接着性材料における粉材と液材とを、比率が2.0:1.0となるように混合し、エナメル質接着強さ、硬化時間を測定した、また(6)に従い筆積み法で筆積み時のレジン泥の玉の大きさを評価した。評価結果を表2および表3に示した。
【0072】
【表2】

【0073】
【表3】

【0074】
表2の実施例1〜12のように、本発明の歯科用接着性材料は、充分に高い(15MPa以上の)エナメル質接着強さを示した。また、短い(3分30秒〜4分30秒)硬化時間と良好な筆積み性(○)ブラケットドリフト性(◎、○)であった。
【0075】
これに対し、比較例1のように、メチルメタクリレートとエチルメタクリレートとの共重合体粒子を多く含む組成においては、接着強さが不十分(15MPa未満)であり、さらに筆積みした時に作製されるレジン泥が大きすぎであった。また、比較例2のように、ポリメチルメタクリレート粒子を多く含む組成においては、硬化時間が長く(4分30秒より長い)、初期の粘度上昇が遅いためブラケットやチューブを用いた場合にドリフトが起こった(×)。また、筆積みした時に作製されるレジン泥が非常に小さかった。
【0076】
また、比較例3のように、メチルメタクリレートとエチルメタクリレートとの共重合体粒子の粒径が小さすぎる組成においては、作製されるレジン泥が小さかった。 更に、比較例4のように、メチルメタクリレートとエチルメタクリレートとの共重合体粒子の粒径が大きすぎる組成においては、接着強さが不十分(15MPa未満)であり、硬化時間が長く(4分30秒より長い)、チューブを用いた場合にドリフトが起こった。さらに筆積みした時に作製されるレジン泥が大きすぎであった。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
(A)(メタ)アクリレート系重合性単量体を含有してなる液材、並びに
(B)下記
b1)ポリメチルメタクリレート粒子の20〜90質量%、及び
b2)平均粒径が55〜100μmであり、球形状であるメチルメタクリレートとエチルメタクリレートとの共重合体粒子の10〜80質量%
を含有してなる粉材
とからなり、該(A)液材と(B)粉材の少なくとも一方には重合開始剤が含有されてなることを特徴とする、筆積み法で使用される粉液型歯科用接着性材料。
【請求項2】
b1)ポリメチルメタクリレート粒子が、平均粒径が1〜50μmであり、比表面積が0.5〜5.0m/gの不定形粒子である、請求項1に記載の粉液型歯科用接着性材料。
【請求項3】
(B)粉材が、さらに、
b3)平均粒径が1〜50μmであり、球形状である、メチルメタクリレートとエチルメタクリレートとの共重合体粒子の50質量%以下
を含有するものである、請求項1または請求項2に記載の粉液型歯科用接着性材料。
【請求項4】
(B)粉材が、さらに
b4)平均粒径が1〜30μmであるポリエチルメタクリレート粒子の10質量%以下
を含有するものである、請求項1〜3の何れかの一項に記載の粉液型歯科用接着性材料。
【請求項5】
筆積み法で形成した硬化体層が40μm以上の厚みとなる用途用である、請求項1〜4の何れか一項に記載の粉液型歯科用接着性材料。
【請求項6】
歯科動揺歯固定用または矯正用ブラケット接着用である、請求項1〜5に記載の粉液型歯科用接着性材料。
【請求項7】
請求項1〜6の何れか一項に記載の粉液型歯科用接着性材料、および歯科用前処理剤が組合されてなる歯科用接着キット。